そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
時は流れ、苦い教訓を得たあの日から四年の月日が流れた。まぁアレだ。RTA動画のなんで等速に戻す必要があるんですかってやつ。
それまでも山あり谷あり試練の日々が続いて、商売してる【ファミリア】とはそこそこ顔馴染みになった。年齢を誤魔化して成人ムーブかましてるんで向こうもこっちを冒険者と勘違いしてて、軽く話をするとき定番ネタとして
で、死ぬと言えばなんだが、両親が死んだ。
劇的な何かがあったわけじゃない。普段通りの一日に、すっかり珍しさのなくなった
そのテロを起こした集団に、たまたま【
たまには夫婦水入らずで、と送り出したアタシと、留守番していたリリは被害を受けずに済んだが――その結果がこれだ。
両親の買い物自体は当初の予定通りだったのだから、リリは助けられたと前向きに捉えるべきだろう。リリを連れていたら最優先に考えて逃走して皆無事だった可能性に胃酸の海が大時化なんだが、原作みたいに酒溺れエンドではなかったコラテラルダメージってやつだ。最初の二文字のせいで叱られてる気分になるぜコラテラルダメージ。
リリ――妹のリリルカ・アーデは基本的に賢く大人しい子供だった。
赤ん坊時代から空腹、トイレ、眠気に関して泣き声の調子を使い分けており、気のせいでないなら小さな声で予報を出しておき本番時は大声で泣くという、下手をするとそこらの大人よりも賢い行動を取っていた気がする。
アタシ自身が転生者だって自覚を持ってたから、リリも最初から記憶と人格を持ったタイプの転生者なのでは、と思ったほどだ。
まぁ、虫食い知識の中からダンまち世界には最初から輪廻転生のシステムが組み込まれてる事とかリリの前世情報とかを思い出したし、とあるレトロゲーにあった赤子は全てを知って生まれて来るが忘れていくみたいな話もあるし納得したが。
立ち上がるのも歩き回るのも喋り出すのも一般的の範疇だったが、それすらも怪しまれないための演技なんだな、賢いぞ! とか考えてたのは今となっては良い思い出だ。
そんな感じの手間が掛からないリリだが、現在3歳……数えで4歳になる。喋りは舌足らずを脱却しきれていないが安定してるし、暇は一人遊びで潰せるタイプの手間の掛からなさは健在だ。
だが、両親の死に際してはギャン泣きしていた。
死を理解したわけでは無いだろう。それでも、両親に話しかけても返ってこない、揺らしても起きない、触れると冷たい……そういった今この瞬間に対してはこの上なくはっきりと、今まで同じ状況になった時以上の苛烈さで不満を顕にしていた。
できることなら常にリリの側に張り付いて甘やかしたいのだが、残念ながらそうもいかない。稼ぎ頭の親父が死んだ以上はアタシが稼ぐしかないのだ。孤児院は辛うじてあるが常に溢れているので期待できないし、ダイダロス通りにあるとされるスラムの孤児に仲間入りさせるわけにもいかない。
そんな感じで冒険者に転向する意向も含めてソーマに相談したら、リリは子供にしては不衛生な真似もしないし大人しくもあるので側に置いて気に掛けておこうと好意的な対応を頂いた。思わず言葉遣いや態度が丁寧になる程度には感謝した。
ついでに、冒険者になるなら知っておいた方が良いだろうと【ステイタス】を無料で更新し、今まで省いていたスキルの正式な説明を教わった。
ラジルカ・アーデ
Lv.1
力:I0→I44 耐久:I0→H184 器用:I0→H109 敏捷:I0→H101 魔力:I0→H189
《スキル》
【
・異なるアプローチを得る。
・ものづくり時に
・補正効果はLv.に依存する。精神消費量の増加により更なる補正。
「
どうやら解体用ナイフや親父の装備にしていた日々のちょっとしたメンテナンスでは、無意識にスキルを発動させて鍛冶スキルを乗っけていたらしい。そしてそのせいで
「下手に漏らすと飼い殺しされるのは目に見えていたからな。許せ」
「それはそう。ただ、アビリティの伸びがなぁ。力が伸びない攻撃魔法もないじゃ冒険者やってくの無理くね?」
ソーマの言い分はもっともだった。多分四年前に聞かされてたら同じ懸念を抱き挙動不審になりながら過ごしていたと思う。それなのにドロップアイテムで謎武器作って変に目立ったり、魔石の取り扱いをミスって爆死していた可能性が高いし。
しかしこの四年間していたのはサポーターではあるが、ダンジョン内では高確率で
つーかどう考えてもクラフターやれって言われてる。けど等ってなんだ等って。ハッキリしろ。他の三点セットもこの世界向けと言うか、醸造なんてソーマ向けアピールが過ぎるんだよ。おかげで日本酒とか醤油とか作って売るのが良さげなんだが、元手を稼ぐ必要あるから手っ取り早く命を賭け金に冒険者やらざるを得ない。
ソーマから借金するのも手だが、既にリリを頼んでいるからこれ以上の迷惑は掛けられない……『醸造』と現代知識でソーマの酒造りを手伝うのが一番だって脳内の冷静な自分が囁いてくるのは聞かなかった事にすんべ。下手に立場上げると僻みとか焦りで権力争いしてる連中が出張ってくるから結局は腕っぷしが必要だ。
「確かに一般的な冒険者としてやっていくのは難しいだろうな」
「ぐぬぬ」
「だが、そうじゃないだろう?」
「ぬ?」
「スキルの説明をよく見ろ。明かされた部分に目がいくのは仕方ないが、恐らく本領は最初の記述だ」
「ぬ……」
神のお墨付きまで得てしまったのでどうしたもんかと考え始めたが、続くソーマの言葉は否定だった。言われた内容を改めて確認する。
・異なるアプローチを得る。
なるほど、わからん。まだ説明隠れてたりしねぇかな。炙り出しとか試していい? まぁ、冗談はさておきソーマの言いたい事は何となく理解できた。
「思うに、お前は今も他の者とは違う手段が選択肢に浮かんでいたのではないか?」
「……確かに。知らないはずの知識や技術を自然と扱ってた」
「で、あれば、だ。きっとこれからもお前を助けてくれるだろう」
「ありがとうございます、ソーマ様。早速ギルドで冒険者登録して来ますわ」
「あぁ、健闘を祈る」
ソーマの激励も貰ったので、会話を切り上げて意気揚々と酒蔵を後にするアタシに、そうそう、と思い付いた風にソーマが追加で言葉を投げ掛ける。
「知らない知識に畑や酒に関するものがあったら教えてくれ」
「あいあい……あー納豆。ダメ。ゼッタイ。これは……何か酒造の肝になる酵母菌? を他の強い菌に駆逐される場合があるから気を付けろって話みてーっす。目に見えないくらい小さい生き物だけど」
「そうか、細かい部分を気に掛けた事は無かったが、なるほどな」
「曲げたガラス組み合わせれば拡大して見える様になるっぽいンでその内に試作しましょーか? リリにも見せてェし」
「うむ、頼んだ」
どうやら詳細を明かした事でソーマとしても活用するつもりらしい。まぁ異界で信仰とか魂が仕事しすぎだもんな。趣味神じゃなかったら面白い物扱いで玩具確定だし、趣味神だからこそ活かせそうな未知の知識を気にしそうなもんだけど……これ当時はソーマが親父に気を使って別の名前にして見せたわけだろ。借りが……借りがでかい。
実際問題として、一般的な高校生では酒造りの経験なんてのはなかったし、知識も漫画や掲示板から興味持った部分だけなので余り役には立てないとは思う。ハーバー・ボッシュ法は知っててもそれがどう農業を救うのか知らんし。爆薬も作れるって話の方はバッチリなんだが……そうか、頭の中に爆弾(の作り方)が!
いやまぁ実現させるには壁が高いんだが……調合の効果で多少無視していけますぜってスキルが囁いてる気がすんだわ。まぁその辺でポエミーな名前の化学薬品が売ってたし、その内に試してみよう。今は冒険者登録とダンジョンだ。