そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
てなわけで冒険者登録をするべくギルドへやって来た。受付を見るとちょうど空いていたので、そのまま登録依頼を出す。受付は原作のエイナさんとミーシャちゃんしか記憶にないので、アタシの知らない人だ。渡された書類の項目を埋めて提出する。
「ラジルカ・アーデさんですね。年齢は10歳という事ですが、一緒に来られた【ファミリア】の方などは?」
「先にダンジョンに進んでもらってます。訓練見てもらって強さは問題ないって言われてっし、年齢の割には慎重だってんで信頼してもらってますから。あと、実質サポーターなんで」
指摘されたって事はそれなりに人の情を残してるっぽいな。新人さんかしらん。
なんて事を考えながら、質問にはそれっぽく答えておく。年齢に応じた笑顔を添えてみたが……どうだ?
「……なるほど。ではアドバイザー制度はご利用されますか?」
「いや、実地で先輩方から教わる予定っす。今も待たせてっし」
「そうでしたか、では十分に気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとうございます。それじゃ」
どうにか切り抜けられたようだ。親切なイマジナリー冒険者パイセンズは存在しないが親父の教えは受けて来たし、ダンジョンの怖さは骨身に染みてる。他の冒険者の怖さもな!
そんなわけでやって来ましたダンジョン一層。目の前には早速ゴブリン。幸先の良いスタートです。
おっと、こちらに気付きましたね。何故か地団駄を踏んでから向かってきました。特に身に覚えがないので冤罪でしょう。よって正当防衛です。とぅりゃあ!
『ゴブゥ!?』
はい、一撃です。首に柄を叩き付けて骨を折りました。穂先で斬るつもりだったのですが、思った以上に【ステイタス】更新の影響があったみたいですね。慣らしは済んだので2層まで急ぎたいと思います。
「しかしまずったな」
親父の形見でもあるこの槍は、鍛冶系【ファミリア】に持って行っても買い替えを推奨される程度にはガタが来てる。なもんで、騙し騙し使う必要がある。今回みたいに柄でぶん殴るのは避けたいところだ。
やはり槍の基本、刺突を中心にするべきだろうか。でも初ダンジョンで見たゴブリンのイメージが強くてなぁ。力はほぼ伸びてないから四年前の親父と同じか低いと想定すれば……うーむ悩ましい。
「まぁ、試してみてからか」
そんな独り言を呟いていたら、壁からコボルトが産み出されて来た。即座に顔――目玉――を狙って槍を突き出したところ、まるで吸い込まれるようにすんなり狙い通りの場所へ突き刺さった。モンスターの解体は魔石目的でしかしていないので脳が存在するかは不明だが、コボルトは体を一度大きく震わせると動かなくなった。魔石を回収したら
この分だとその日暮らしは余裕そうだな。バックパックなしのベルが1日に何往復とかして2000ヴァリス前後だったけど、あれはゴブリンとかコボルトみたいな単価安いモンスターも魔石を砕かず慣れない解体まで一人でしてたからなんだろう。効率厨かつ和マンチの気が強い日本人ゲーマーからすれば発狂ものの行動だ。一番の敵は移動時間、二番目は作業時間、三、四がコスパで五に経験値含む戦利品の不味い敵。
そんな感じでテンションが上がったので、今後も役立ってくれそうな形見の槍に名前をプレゼントする事を決めた。
「よーし、今日からお前の名前はブリューナクだ」
ケルト神話に登場するとされる日本オリジナルな謎ウェポンの名前だ。何かこう良い感じに存在しないが存在するみたいな効果付かねーかな。幽霊にも当たる系の。
なんて一幕を挟んでからも二層を中心に狩りを続けた。冒険者は冒険してはならない、という言葉は至言であると思う。というか推奨されるアビリティ的にも四層までで、しかもパーティーを組んでおらず歩幅的なハンデを持つパルゥムである。移動時間の短縮を考えればより浅い層を彷徨く方が良いと判断した。それに、だ。
『ガァーッ!』
『ギャウン!』
『ぐげ』
『ゲゴォ!』
『ゴブブゥ!』
「今モンスターじゃないやつ居なかった?」
どうにも親父の話では、アタシがいるとエンカウント率が妙に高くなるらしい。レアスキルの影響が疑われたが、異なるアプローチがエンカウント率を変動させる様に働き掛けているという説は的外れとも思えない。どうせならドロップアイテムの出現率を上げろと声高に叫びたいところだが。
その後も体の調子を確認しながら戦っては見たのだが、徐々に問題点が見えてきた。
まず武器の扱いに慣れてないから損耗が激しい。そしてエンカウント率の高さから損耗が激しい。それを実感した瞬間が
『ギャグワァーッ!』
「ゲェーッ! ブリューナクがぁ!」
見るが良い、これが武器破壊だ。果たしてこれは名前が負けたのか名前に負けたのか……こっちに実在する神から祟られたとかじゃねぇよな?
とにもかくにも、親父の形見とメインウェポンを兼任している、パパから貰ったクラリネット以上に大事なものがあっさり壊れてしまった。親父に怒られる事はないが、何の慰めにもならないのは言うまでもなく、アタシは即時撤退を決めたのだった。
『ゴブゥ!』
「邪魔だ」
『ぶるぁぁぁぁ!』
「くっそ、ちょくちょく小ネタが挟まりやがる。スキルのせいか? 少しは休めって、んのっ!」
『ごべぇぇぇ……』
壊れた槍とは言っても、突き刺した状態で相手が暴れた時に槍を手放すのが遅れたらテコの原理で負担の掛かった柄が折れた状態なので、短槍としてはまだ使える。一番欲しいリーチを失ったのでさっさと帰る方針はそのままだが。
「だからもういい加減に出て来ンのを止めろってーの!」
『ゴブゥ!』
『ゴボウ!』
『ゴッブリャア!』
こうして二層から一層に上がったのに
「往復なしで800ヴァリス……赤字だわなぁ」
槍の修理、または異なる武器種の新規購入を考えれば、五桁は確実だ。四年間も働き通した槍と考えればタイミングの問題だった気もするが、知らずに買った中古品と置き換えた場合は一日持たずして武器を駄目にしたポンコツって事になる。
そもそも浅い層だけとは言え、四年も変哲の無い鉄製の槍を使い続ける事が出来たのは、アタシの無意識鍛冶スキル乗せメンテ以外にも親父の技術――アビリティの器用とは別の、武術的な――による補正が大きかった様に思う。
今までにも、たまに他の冒険者が戦闘している場面に出会してたんだが、見た限りでは力によるゴリ押しこそ正義って感じだった。初めて薪割りする奴の斧の扱い方みてーな。まぁ、到達階層が6層なので言っちゃ悪いが最底辺の連中だからなのか分からんが。極稀に【ランクアップ】直後の上級冒険者が慣らしをしているのを見る機会もあったが、特に技巧を凝らす事も無くて軽く拳や武器を振るってゴブリンやコボルトを消滅させていたのでやっぱりわからん。魔石狙ってる辺りにはマナーを感じたわ。
で、アタシの技術なんだが、まぁ体を動かすセンスが壊滅的なんだわさ。体幹が弱いどころか死んでる気がする。効果ほとんど出ねーけど筋トレするか……?
てなわけで、親父の槍は形見として保管はするし修理も定期的な手入れもするが、戦法は別のものを考えたい。頼るのは当然スキルだ。
なんの成果も!! 得られませんでした!!
いやマジで。武器は力アビとセンスの問題でパス。素手は論外。魔法無い。辛うじてダートは真っ直ぐ飛ばせたからそこから毒とか塗って……とか考えたけど、どう考えても赤字だ。辛うじて自力採取が出来そうなパープル・モスの毒は遅効性だし効果も弱い。他の候補で原作のリリが使ってたクロスボウを、と思ったけど決定打にならない。
で、リリを寝かし付けた後で気持ちをリセットするために槍の修理でもするかーと考えて槍を手にしたら、何かスキルが発動した。あっという間に力が抜けて、そのまま意識も――
で、気付いたら次の日の朝だったんだけど、目の前には穂先と柄が一体化して穂先に刃を備えた立派な鎌槍の姿が。移動した気配は無いし、設備とかどうしたんですか、ねぇ?(震え声)
しかもこのちょっとふっくら笹の葉を思わせる切断力ゥ……な感じの穂先とお洒落ワンポイントな鎌に走る特徴的な木目状の波打った模様……紋様? とりあえず、なんだ、言わせてくれ。
スキルの奴……傾いてやがる!