そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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42.白旗上げました。放っておいて下さい。

さて、酒場を出たんだが、さすがに地下通路は使わせてもらった。フレイヤだって権能に透視は含まれてないだろうし、酒場なら明け方までいてもおかしくないから観察も飽きて止めるべ。アタシの年齢を考えたら酒場にいること自体がアレだが。

 

そんなわけで人造迷宮(クノッソス)の門を顔パスで通り、作業場へ戻る。以前のお使いを頼んだ件で仲良くなれた門番の怯えた様子は中々に笑えたが、変に噂になってリリの耳に入ったらどうしようかと心配にもなる。意外と素直に感心して称賛してくれそうだが。

到着した作業場には火炎石集めの直前に邪神へ言いつけておいた爆弾用の資材が置かれてたが、それ以外は何もないただの部屋だ。とりあえず夜に近いし、色々あって疲れたので適当に侵入者撃退用トラップを設置したら、そのまま床に座り込んでアグラ・メディテーション……ではないんだろうな。単なる瞑想モドキからそのまま睡眠に移行、睡眠を取りましたとさ。どっとおはらい。

 

 

 

んで、新しい朝ってやつだ。罠が起動した形跡はなし。気分がいいねぇ。一応の名目である爆弾を作っても保管場所がないし、セキュリティしっかりしますと宣言した以上はそちらを優先するべきだろう。つまり今のアタシがするべきは中層の低純度な超硬金属(アダマンタイト)の採掘である。

 

「そんなわけでフリーパスを寄越せ」

「えぇ……」

 

人造迷宮(クノッソス)をぶらついて発見した第一迷宮邪神に要求すると、黒髪のそいつは引き攣った笑顔で戸惑った声を返してきた。

 

「えぇ……じゃねーのよ。ホレ、持ってんだろ。いいからちょっとジャンプしてみろ」

「小銭!?」

「ヴァリス持ってる顔じゃねーだろ。ジャンプが嫌なら面倒だがひん剥くしかねェな」

「て、貞操のピンチ!? あ、ちょ、待っ……って力強っ!?」

「たりめェだろ『神の恩恵(ファルナ)』持ってンだから。外にはねェな。なら内ポケット――おっ、これか?」

「お客様! 困ります! お客様、あーっ! 困ります! お客様! お客様ー!!」

 

カメラの視点が上に向いてくイメージを受信する……そんな一幕を経て無事にダイダロスオーブ、ゲットだぜ!

 

「うぅ、もうお嫁に行けない」

「何言ってやがンだ男神がよ。お望みならもいで事実にしてやろうか?」

 

胸元をはだけさせてV系バンドのヴォーカルやってそうな格好になった男神は、横座りになって袖を口元に寄せてよよと嘆いている。明らかにツッコミ待ちな辺り、これダイダロスオーブの所持自体は許可されたと見ていいんだろうか。いいんだよな、ということで確認はしない。

 

「怖っ! というか今更だがお前がアレか。噂の【芸術家(ファイアワーカー)】」

 

服装の乱れを整えながら立ち上がると、今度はこちらを正体を看破してきた。つーか人を指差すんじゃありません。折るぞ。

 

「ご明察。昨日なンでか知ンねーけど【アストレア・ファミリア】だの【猛者(おうじゃ)】だのに追われたからな。オチオチ外歩けねーのよ」

「何それ怖い。というかよく切り抜けられたな」

 

とりあえずダイダロスオーブを必要とする理由を告げると、呆れたような声を返された。まぁ、普通に考えて相手は仮にも都市最強だからな。信じられない気持ちも強いのだろう。

 

「Lv.とは無関係に使()()()道具があるからな。小手先かも知れンが」

「使い方次第だろう。現にお前はLv.6を巻いて見せたんだ」

 

ポケットから煙玉を取り出して弄びながら、逃げられた理由だと告げると、男神は得心いったとばかりに頷きながら感心した様子を見せた。

 

「まァ、そう言ってもらえるなら作った側としても嬉しいもんだァな。お近づきの印ってやつだ。こいつやるよ」

「お、っとっと。これは?」

「ミントの香りが付いた煙玉。狭い部屋なら殺虫、防虫にも使えるぞ」

「何その微妙に便利だけど反応に困る機能」

 

放り投げた煙玉を何度かお手玉しつつも無事キャッチ。その正体を聞いて真顔でツッコミを入れてくる辺り、実は司ってる概念の関係で邪神やってる系の常識(じん)だな?

 

「仕方ねェだろォ、洗ってなさそうなあのクソ猪へのささやかな嫌がらせに作ったンだからよ……!」

「あっ、はい」

「まァそンなわけでアタシはダンジョン行ってくるわ。つーわけでついでにこれ」

 

そう推測できるなら、とお使いも頼んでおく。今度は背負ったリュックを下ろし、手渡しで。

中身はメインとなる雲菓子(ハニークラウド)を始めとしたダンジョン産の食べ物の他、主に中層――『大樹の迷宮』で採集したドロップアイテムを用いて作られた香り付き石鹸にスパイダーシルク製のタオルや肌着等といったアメニティ、そして肝心要の対邪神用悪戯(ジョーク)グッズが詰まっている。

Lv.3になって恐らくは段階がG相当になった各種生産系発展アビリティを乗せて作られた品々が大量に入っているので、多分このリュックと中身を合わせると最低でも数百万、場合によっては一千万ヴァリス以上の値段が付くだろう。もちろんリリの笑顔はプライスレスなので、例え自己満足だろうとこんなもんで満足するわけにはいかないのだが。日々精進アルヨ。

ちな、それぞれ入れるポケットは別々にしてあるし、匂いを遮断する紙で包装を施したり袋に入れたりしてある。リュックを開けたその場に目敏い邪神がいれば製作要求もありそうな自慢の品々だ。まぁ、逆を言えば今までその辺の素材なくてロクな差し入れできてなかったんだけどな! 食べ物はちょくちょく渡すように頼んでたけど。

 

「これは?」

「テメーらが人質に取ってる愛しいリリへのダンジョン土産だ。ちょろまかしたり壊したりしたらその数だけテメーら全員例外なく体中の玉という玉潰すから注意してな」

「ヒェッ」

「頼んだぜ~」

 

こうして内股になって体を震わす男神――闇派閥(イヴィルス)の首魁である邪神エレボスとの初邂逅は終わった。後にこいつがリリへの面会申請を全部止めてた事が判明して一悶着も二悶着もあったわけだが、いつかそれを語る機会もあるだろう。

 

 

 

さて、なし崩しにフリーパスを入手できたので早速ダンジョンに向かう。目的は中層の各採掘ポイント。ついでにカーバンクルの餌やりと運動。その場で精錬したいけど精神疲弊(マインド・ダウン)怖いからなぁ。鉱脈的なのの調査に【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】使うから精神力(マインド)カツカツだろうし。

つーかアレだな。カーバンクルは実質ペットだし名前付けてやらんとないかね。単純に愛称でもいいんだが、少なくとも黄色くてカレーが好きな彼(?)と被らないものを選ぶべきだろう。敬称を『さん』や『ちゃん』にマイナーチェンジしたところで母親みたいな響きになるのが実に手強い。思わぬ強敵にアタシのネーミングセンスは白旗を上げた。いやはえーよ。

 

「そんなわけで希望はあるか?」

「特にないっす!」

 

気に入ったらしい雲菓子(ハニークラウド)にがっつきながらの力強い返答に、アタシは内心で頭を抱えた。そっかー、ないかー。このままだとカーバンクル縮めてカバンちゃんとか候補に上がっちまうんだが。ゲームの主人公とかも大体変な名前で通してきた弊害だよなー。なまことかめんたいことかちりめんじゃことか女性キャラに付けてたからなー。食い物縛りなのか海の幸縛りなのかは自分でも不明。でも多分諸悪の根元はもょもと。

そんな悩み事を抱えながら採掘する事おおよそ半日ちょっと。カーバンクルを収納するスペース以外は粗製超硬金属(アダマンタイト)な【異界倉庫(ドラヒェン・マーゲン)】が完成したので採掘を切り上げ、来たとき同様12階層から人造迷宮(クノッソス)へと帰還する。昨日追われてなきゃリヴィラの街に行ったんだがなー。

そういや帰る途中で思ったんだけど、カーバンクルをリュックに入れて後方の偵察と防御やらせたら深層も探索できねぇかな? いやね、『闘技場(コロシアム)』とかいう『食料庫(パントリー)』よりも効率良い場所の空気を体験しちまった以上はどうにかして活用したいよなって話。ダマスカス鋼みたいな()()()を持った超硬金属(アダマンタイト)の合金作って、鋼線にして束ねて鞭にすればよ? 常に振り回して結界張りながら歩けるし骨羊の奇襲防げると思うんよ。あーでも先に保管場所作って爆弾その他の見せ在庫持っておいた方が良いよなー。宮仕えじゃねーけどめんどいなーつーかリリに会いたーい!

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