そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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43.やさぐれました。どうにかして下さい。

人造迷宮(クノッソス)の作業場に製作物の保管場所を作り上げる事ができたのは約一週間……ごめんサバ読んだ。九日かかった。材料集めに七日、建築に二日。鉱石を大量に運べた【異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】も精製から製造まで何でもお任せな【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】も偉大に過ぎる。サンキュー異界。どこの異界かは知らんけど。異世界とは何か違うんだろうか。

 

で、そっから爆弾やら回復薬やら武器防具やらを作ったり、材料集めにダンジョン行ったり、カーバンクルに魔石を食わせたりしてる内に気付けば雑に一年近くが経過していた。

イベントらしいイベントがないと時間はあっという間に過ぎる。ダンジョンと人造迷宮(クノッソス)の作業場を行き来するだけの単調な毎日は、淡々とアタシの戦力を整えていった。

 

いやまぁ実際には何度か火炎石他の素材集めに駆り出されたりスキル検証で発見があったりソロダン中に新しい『異端児(ゼノス)』を発見したり【ランクアップ】をしたりもあったのよ。ただまぁ、なんというか、それ以前のとある日に悪夢を見てな。内容的にはリリに見捨てられたと嘆かれ何故助けに来てくれないのかと責められる夢。で、飛び起きて振り返ったらリリに会えない環境に慣れつつある自分に気づいちゃってね。これはヤバい、と。自己同一性崩壊の危機(アイデンティティークライシス)ってやつ? 半ばパニックになったよね。

そこから感情爆発して突発的かつ短絡的な行動に移したはいいけど、あともう少しって感じのところで邪神群の神威に押さえつけられて失敗して、投獄されて、それまでの過程で結構な数の構成員が減ったから穴埋めに駆り出される羽目になって、結果リリとは余計に引き離された。

計画とも言えない行動が失敗に終わって、牢屋の中で一頻り発狂したらふっと正気に返って、そのまま燃え尽きたよね。無力感に苛まされながら怒りや憎しみを燻らせて堕ちて行く様は我が事ながら見るに耐えない醜態なんで省くとして、まぁ気がつかない内に表を歩ける感じじゃーない立派な闇派閥(イヴィルス)風味になってたよね。怨念が視覚化してるとか言って邪神が逃げる程度には。

そんなわけでリリが絡まない案件に関してはものすご~く鈍感になってるんで普段なら驚きや感動を覚える場面も日常の一部としか認識できなかったのよ。リリの奪還を諦めた訳じゃないから一人で闇派閥(イヴィルス)潰す算段立てて戦力増強に努めてたわけだ。こうしてぶん回してる並列思考のいくつかは客観視し続けてるので完全に堕ちきるまではいかない自信はそこそこある。多数決の結果はお察しだがな!

 

そんなわけで今のアタシがどうなってるかと言うとですね。

 

「そんでよ、そのときそいつが……」

「おい、避けろ!」

「あん? 何だよ気をつっぎゃぁぁぁぁぁ!?」

「退け、ゴミが」

「す、すすすみませんでした! おい、先に端へ寄せろ!」

「痛ぇ、痛ぇよぉ……!」

「チッ……」

 

平温な人造迷宮(クノッソス)に突如として響いた悲鳴。皮一枚繋がって手首から先をぶらんぶらんさせながら泣き叫ぶマッシブなスキンヘッド。怒るよりも先に謝り道を空ける事を優先する異常事態。それらに対して苛立たしげにするだけの小人族(パルゥム)

ご理解頂けただろうか。これが今までの半生において最もやさぐれているラジルカ・アーデ満11歳の姿である。

幹部連中(勝てない相手)にも当たり前に噛みついては当たり前に返り討ちにされ他の雑魚に当たり散らす情けなさも搭載した最新のロクデナシ。ぶっちゃけ企み失敗してリリに会えなったけどNDKとかしてきた野良邪神を神威突破して殺しかけたので完全な狂人扱いされてるんだよな、はっはっは。それでも依頼はこなすので処分は免れてる感じ。これには愛しいリリも曇り顔待ったなしなので、結局一度たりとも許可の下りていない面会申請も出さなくなって久しい。

つーかここまで来ると本当に生きてるのか割と心配というか不安というか。辛うじて手紙のやり取りはしてるんだが筆跡マスターして代筆とかしてない? 字の上手さとか語彙から成長がうかがえるから本物だと思いたいが……それこそ写し取った姿や記憶を再現する変身魔法とかあったらお手上げなんだよな。下界の可能性が邪魔をして断定できない感じ、もどかしい。

つーか五歳六歳で丸一年以上会わないって忘れられてる可能性すらあるんだよな。やべーじゃん。爆破するか?

リリルカンとかリリニウムとかそんな感じの成分が完全に枯渇してそこらの闇派閥(イヴィルス)よりもずっと闇派閥(イヴィルス)っぽくなっている自覚を持ちながらも止まれない悪循環。

リリ分不足な現在の生活では、結局名前を決めていないままのカーバンクルが唯一と言っていい癒しになっているが……当のカーバンクルから心配されるのもまた辛くてあんまり倉庫から出さなくなってる。

 

 

そしてまぁダンジョンに潜っていれば冒険者に遭遇することもあるし、それが【アストレア・ファミリア】だったりすることもあるわけだ。

 

「アーデ……なのよね?」

「……誰だ?」

 

やけに緊張の高まった空気の中、恐る恐る声をかけてくるアリーゼ。とりあえずこちらは全力で知らん振りだ。完全に闇堕ちしてる自覚はあるので知人友人に見られるのはさすがに恥ずいねん。どう足掻いても黒歴史だぞ。

 

「おやまぁ、しばらく見ない内にすっかり落ちぶれて」

「下手に刺激すんな輝夜。今ここにいる誰よりも強ぇぞ」

「アタシを知ってるのか。なら聞くがよ」

 

恐らく遠征なんだろう。相手はフルメンバー、完全武装。対してこちらは安定のソロで採集モードだから最低限武装。煙玉や閃光弾はあるから逃げられはするが、稼ぎなしは辛い。こんなときの対応は決まっている。

 

「――アタシの妹を知らねェか?」

 

秘技、記憶喪失の振り! これなら多少の醜態も後々何食わぬ顔で復帰して全く記憶にございませんで押し通れる。なお神の存在(嘘発見器)。つまり万が一にも保護されるわけにはいかないのだ。そのためならリリを忘れるなんて不敬を通り越して破門待ったなしな嘘を吐く事すらしてみせよう。気分は異端審問官。

 

「アーデ、まさか記憶が……」

「質問してるのはこっちなンだが、ん?」

「リオン!」

 

斬りかかって来たのは、見慣れない長髪のエルフ。動き的にLv.2後半か3になったばかりかな? 最近まともに対人してねぇから感覚忘れたわ。特に打ち合わせした気配はないから単に一人で先走ったっぽい。なんにせよ技の足りない力任せな一撃、単体じゃ怖くない。

 

「知りたい事があるなら捕まえてから聞けばいいでしょう。こんな見るからに怪しい雰囲気をまとった輩……貴方もやましい事がないなら武器を捨てて大人しくしなさい」

「何様だよテメー。とりま、正当防衛成立だな」

「待って! リオン! アーデも!」

 

超硬金属(アダマンタイト)主体の合金とはいえ、槍の柄で受けるもんじゃねーな。強度的には大丈夫だって理解してても絵面が怖い。

とりあえずダンジョン内で向こうから襲って来た事実は覆らない。見ろよアリーゼ以外はアタシに正当な理由を与えたから頭押さえたり肩を落としたりしてんじゃん。この新人エルフは後で説教確定だろうし、そう考えたら多少は溜飲が下がるってもんよ。まぁ、最安値で売られた喧嘩だが精々高く買って差し上げるとするか。代わりに高い高~い授業料を払ってもらえば差し引きゼロの等価交換が成立だ。負けたのに命も処女も無事で五体満足なら上等だろ。そう考えると闇派閥(イヴィルス)って割と有情なのでは?(混乱)

37階層での狩りはもう無理そうだし、予定変更だな。適当にやり過ごしたら上に逃げんべ。今でもリヴィラの街では殺しも盗みもしねーで魔石やドロップアイテムを大量に置いてくお得意様だから匿ってくれるっしょ。逆に【アストレア・ファミリア】は煙たがられる筆頭だし、このエルフがいたら敵対してても不思議はないからな。このまま面白おかしく脚色して新人エルフはダンジョン内で会話してる知り合いに嫉妬して斬りかかって来たから同性愛者に違いないって噂広めちゃる。潔癖エルフには耐え難い侮辱だろうな。

つーかリオンってこいつまさかリュー・リオン? あの未来のポンコツエルフ? 嘘だと言ってよアーディ。いやアーディは関係ないな、すまぬ。にしたって、推しの姿か? これが……。

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