そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「ちょっとちょっと【
ある日の朝、邪神が勝訴と書かれた羊皮紙を手に作業場へ入って来ようとして侵入者撃退トラップに吹き飛ばされた。通算97回目、と。こいつに学習能力はないんだろうか。不変の存在()だからなぁ。
護衛さんは無言で吹き飛ばされた邪神を空中キャッチしていた。プロである……いや、そろそろ罠解除してあげてもいいと思うのよ、うん。仕掛けてる側の言う事じゃねーけど。
「ひ、酷い目に遭った」
トラップを漢解除して乗り越えてきた邪神は、改めて勝訴と書かれた羊皮紙を突き出して見せつけてくる。
「ンで? そいつが何だってンだ」
「ふっふっふ……知りたい?」
「お帰りはあちらだ。じゃーな」
「あーもー冗談だってばごーめーんー悪ふざけが過ぎましたー」
「うっっっっっぜェ」
「ものすごい溜めた!?」
こちらが闇堕ちしようと対応の変わらない唯一の邪神だが、最近になって殴られないギリギリのラインを反復横跳びするようになった。つまり半分くらい殴られてる。初期の頃は三回に一回くらいだった事を考えれば……いや、悪化してんじゃねぇか。ちょっと護衛さん?
「…………(フルフル)」
ダメらしい。人間である護衛さんとは視線で会話できるというのに神ときたら……不変の存在()だから仕方ないか。
「はぁ、それで? 聞いてやるから三行でまとめろ」
「妹ちゃんとの面会申請通ったよ」
「………………は?」
邪神の台詞を聞いて、思考が停止した。シンプルな内容だ。理解できないはずがない。が、理解を拒む自分が前面に立って仁王立ちしている。
「良かったねー。色んな準備でオラリオの外を飛び回ってたエレボスが用件済ませて腰を落ち着けるようになったから重要案件以外にも目が向くようなったんだっ……ミ゜ッ」
「今更許可なンぞもらってもよォ。どの面下げて会えってンですかこのド腐れ野郎共……!」
闇堕ち前なら山ほど貢ぎ物持って土下座しながら弁明もできたが、いや今でもこのままそれはできるんだが、リリの曇り具合に雲泥の差がだな? リハビリ期間が欲しい。とりあえずリリの肖像画を描いて寄越せ。いやダメだ例え高名な天才画家だろうとリリの魅力を再現する事などできようか、いやない。そしてそれはリリに対する冒涜でありアタシの信仰心への侮辱にしかならない。魔石製品の
「いやだってさー。妹ちゃんの淑女教育を済ませてないから下手に会わせたらその場で爆殺されるって他の邪神が怯えまくって」
「あ゛ぁ゛!?」
「それに文化だって天界の地域っていうか下手したら神ごとに違うから淑女の定義が」
「お゛ォ゛ン!?」
「だからエレボスに責任押し付けようぜって結託したんだよね」
「よーし、まずはエレボスをサクッと爆殺して、次のトップが決まったらそいつからはじわじわとなぶり殺しだ。その次も、次の次も、そのまた次も。最後の一柱になるまで順番に少しずつ時間を延ばしながら反省を促しつつ殺してやる」
「まぁまぁ落ち着こう。妹ちゃんも寂しいのを我慢しながら頑張ってきたんだから」
「我慢させたのも頑張らせたのもテメーらの下らねェ保身が原因だろうがァー!?」
「アバーッ!」
邪神連中の言い分も分からなくはないし、半分は自業自得なので草も生えない。かといって狂犬ムーブしないとリリの価値は最高に可愛くて素直で健気で慈悲深くて可愛くて才能に溢れてて将来性も抜群で賢くて可愛いくらいしかねーぞ。
そのままじゃ浄化された邪神が
だからリリにはアタシの抑えとしての役割を追加して、担ぎ過ぎても政治利用を理由に殺される可能性を作り出したんだが。結果的に虐げられることも担がれる事もなく過ごせてたっぽいし。
しかし忍耐と努力を重ねたリリへの仕打ちが闇堕ちした姉とかいくらなんでもあんまりなんだわ。こっから光落ちしたらそれはそれで別種の罰ゲームだし。
いやまぁ羞恥心から目を背ければ並列思考の多少まともな部分をメインにすげ替えるだけで元通りになるんだけどさ。こう、給湯器がエラー吐いてダウンしたから水しか出なくなったシャワーを被る前だとか、銭湯で着替える前だとかの心境に近い。だがリリの曇り顔を回避できるならアタシの羞恥心程度が何だと言うのか。っしゃオイ行くぞコラァ!
ア゛ア゛ア゛ア゛アァァァァァ!? コレハヒドゥイ…。
アタシは正気に戻った! いやこれだと駄目なやつだな。カインの罪は重い。どこぞの聖書でも世界最初の殺人で? しかも相手は弟で? 理由が捧げもの勝負で負けたから? とかいうクズ男の名前だしな。この二名は全国のカインさんに謝るべき。でも一番悪いのはその辺の真理を理解しないで弟殺しさせたド腐れ自称唯一神……を考え出した人間の想像力よな。過去を捏造しても能力値が上がるわけじゃないんだから空しいだけだと思うんよ。騙した相手からの評価が上がって名声値が高まる? それはそう。
「え、ちょ、大丈夫? 急に叫びながらもんどり打ってたけど」
おっと
「えっ、えっ? 何でそんな近年稀に見るいい笑顔で握り締めた拳を掲げるまにぅむっ!?」
「記憶は飛んだか? まだか? まだだよな。山羊が羊になるまで殴り続ける治療方法の応用だ、安心して天へ還れ」
「ギッ、ギブ! じゃないココハドコ? ワタシハダレ? あなたはだぁれ? まっくろく「言わせねェよ」ろーん戦争ッ!?」
よし、これで記憶は封じたはずだ。護衛さんが不動を貫いてるからセーフセーフ……実は護衛さんの動きからするにLv.3だから力関係は逆転してて物理的に止められないんよね。
つーか技量込みの魔法なしなら現状でも幹部とタイマンできるし。何でもありにすると優位に立てる……向こうの隠し札にもよるが。このまま【ランクアップ】したらLv.5で
いやまぁソロの時点でハードモードだしエンカウント率アップでベリハだし
なんてことだ、神じゃなく人間も不変の存在ワンチャンだと? つまりリリもまた永遠だって事か! オーケー、いつだってアタシの心に聖句があるのと同じだな。リリを崇めよ。
「まァいいや。許可はありがたく受け取ってやる。日時指定はあンのか?」
「ワタシ、キオク、ナイナイアルヨー」
「あるのかねェのかはっきりしろや。ンで、質問の答えは?」
「えーとね、直近だと今日の夕方、次が明日の午前中一杯、それと」
「明日の午前で」
「りょーかい。連れて来るからちゃんといてねー」
用件を済ませると邪神は帰って行った。とりあえず今日の予定はキャンセルしてダンジョン土産の確保……でもこういうときに限って遠征帰りの【アストレア・ファミリア】だとか到達階層更新を目指すフレイヤだのロキだのの邪魔が入るんだよな。
つーか闇堕ちから復帰したから魂の輝き戻ってる系? リリに会えたら一層輝く? まぁ最初から姿隠し使って行けば大丈夫か。
はい、特に何事もなく18階層行って戻って来たぞー。カーバンクルも洗ったし準備万端よ。一応、騙して悪いかに備えて侵入者撃退トラップを三倍くらいにしておこう。圧力センサーだからリリなら変に装飾ゴテゴテした服着せられてなきゃスルーされるはず。