そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

63 / 202
63.素材売りました。これからも頑張って下さい。

ギルドを出てから【ゴブニュ・ファミリア】へ素材の売却に向かう。

今回からは下層の強化種素材が解禁されたってんで、上から下まで大はしゃぎだった。入手の手段を問われたから流れで【ランクアップ】に関しても伝える事になったのだが、それを聞いた団員から余裕があればでいいと前置きした上で、上層の強化種素材に関する調査依頼をされた。

要は強化種の、強化の度合いについて知りたいらしい。単純にどこまで強くなるのか、そこまで強くなるのに必要な魔石の数はどれくらいで、質はどう影響するのか……なんて具合に。

偶然にもアタシはカーバンクルの秘晶で近い実験をしてるので、他の素材に適用できるか不明なものではあるがデータは持っている。まぁサンプル数は多い方がいいに決まってるし、良い機会だと思って受注することにした。

ギルドを通さない依頼ではあるが、元より誠実な仕事振りに定評のある【ゴブニュ・ファミリア】なんで、騙されたり裏切られたりの心配はない。つーか、強化種を育てるって時点でギルドからにらまれる依頼内容の案件だしな。

種類は特に問わないそうなので、数が豊富なキラーアント辺りで試せば比較的早く終わりそうだと考えたアタシは早速7階層の食料庫(パントリー)へと向かった。

 

キラーアントは風来人のダンジョンに出てくる蟻みたいに穴堀り能力を持ってないし、前世の蟻みたいに巣穴も作ってない。当然みんなのトラウマとして名高いほぎーとかサンダーとかもない。見える、聞こえる範囲と顎、爪の届く範囲が連中の全てだ。いやまぁ仲間を呼ぶ範囲がアタシの感知できるよりも広い可能性もあるが。

Lv.5まで来ると視力聴力なんかも相当に強化されている。嗅覚もだから割とそこら中に漂う悪臭を認識してしまうのは中々に辛いが、臭いって割と慣れるんだよな。リセットも簡単に起きるけど。

前世で学校の部活で遠征したときに喫煙者だった顧問の自家用車で移動したんだが、まぁ乗った瞬間は煙草臭いし具合も悪くなったのに、しばらくすると気にならなくなってたんよ。でもトイレ休憩とかの度に車へ戻ってくると煙草臭くてまた具合悪くしてなぁ。終わって家に帰ってきた時も自分では気付かなかったけど家族から煙草臭いって散々に言われたし、即風呂に行って脱いだ服が軒並み煙草臭かったときは驚いたもんだ。髪の毛とかも煙草臭ぇの。そりゃ外飼いしてたイッヌも吠えるわ。

そんな話はさておき、食料庫(パントリー)に集まって養生していたモンスター達を相手に大立ち回りを演じる。

7階層(ここ)稀少種(レアモンスター)のブルーパピリオが出現する階層なので、原作のリリが提案した手法――食料庫(パントリー)での待ち伏せを行う冒険者もいる。

故に手早く済ませておかなければならないが、そもそもLv.1の初心者を抜け出すかどうかな連中にはLv.5の戦闘軌道なんて目に映らない。それはLv.3の戦闘であっても変わりは……多分そんなにない。輝夜に襲撃されたときは手加減されてたからなんとか捌けてたけど、18階層まで案内されたときの中層で戦闘してるときは全く見えんかったからなぁ。

 

そんなわけでほぼ殲滅させたが、わざと生かしたキラーアントにまずは同種の魔石を与えていく。何度か繰り返してみた結果、大体五個くらい食べた時点で明確に強くなった気配を感じた。

とはいえ、それは冒険者で言うLv.の壁を破った訳ではなかった。それでも動きは格段に良くなったし、同種対決とかをしたらまず負けないだけの差は生まれた。貴重な結果(データ)なのでしっかり記録しておく……後で清書する用の走り書きではあるが。

異端児(ゼノス)』でない一般モンスター同士の場合、自分を傷つけるような行動を取った相手に反撃をする事はあるので、同士討ち自体は起きる。とはいえ大抵は一発殴られたから一発殴り返すだとか格付けチェックのようなもので、命の奪い合いに発展するような目撃例はほとんどない。そりゃ種族単位で敵対する不倶戴天の敵が目の前にいたら喧嘩なんて止めて共同戦線張るもんね。誤射や誤チェストが良い場所に入ってトドメさす事も割とあるけど。

そう考えたら、風来人のダンジョンのみてーな強化システムでない事を喜ぶべきなんだな。敵味方関係なく最後の一撃を持っていったモンスターに器の昇華並の現象が起きるなんて事になってたら、冒険者が厳しい審査を受ける資格制度になって狭き門としてそびえ立っていただろう。人間用の形を持たないバベルとかそんな感じで。

続けて同じ個体に食わせ続けたら、変異のような現象が起きた。色が変わって体の各部位にあるトゲや爪が鋭く長くなり、顎も巨大化した。というか全体的に一回り大きくなった。

えーと、食わせた数は……36個。自発的に襲う思考ルーチンを持たない場合は奇跡的な確率でしか誕生しないが、もし思考ルーチンが同族を襲うものに変わった場合はあっという間かもしれない。周りのモンスターは逃げるだろうからそれなりに時間はかかるか? もっとも、帰る間際の消耗した冒険者を襲って勝利した場合はそれだけで達成される可能性もあるが。

とりあえず変異した強化種のキラーアントだが、力が溢れて全能感に酔ったのかこちらへ襲いかかってきた。だから殺す。

まー今度こそLv.2になってすぐくらいの強さになってたね。ドロップアイテムは赤く染まった爪。顎や甲殻じゃないんかい。

とりあえずこれだけでも調査の第一段階としては上出来だろう。後は同じ条件で変異を起こすか、変異の種類はあるのか、変異が解除される事はあるのか――具体的には絶食させた場合に何日生存するのか――等々、調査項目は多岐に渡る。

二体目のキラーアントの魔石を食わせていったら、今度は41個で変異。このばらつきはモンスターの個体差なんだろうが、そうなると規定値を越えた場合に変異って形だろうか。とりあえず用済みなので実力を測ってから倒す。Lv.2相当の潜在能力(ポテンシャル)は感じたが、先の個体との違いはあったような、なかったような……わがんね。これも個体差っぽいな。これもファイアーなエムブレムのモブみたいなランダム性だろうか。しばらく続けるか……。

 

 

 

「とりあえずキラーアントのデータがこれ。こっちは都合があるんで名前は伏せるが中層のモンスター。類似性があるけど幾つかの系統があってたまたま同じ可能性はあるな」

「お、おぅ。俺らとしては数個のドロップアイテムを比較するくらいを考えてたんだが」

 

三日後、キラーアント相手の検証が終わって【ゴブニュ・ファミリア】へドロップアイテムと調査報告書を提出した。表向きの搬送手段として購入した馬車の荷台から強化種、変異種を含めたキラーアントの各種素材を分別して個々に詰めた木箱を下ろして並べていくのを見て、向こうの団員達は軽く引いていたが。やっちゃったぜ。

いや、ホラ、こういうのって徹底的に調べたいじゃん? たまたま当たった例外を普遍的なものと勘違いする事の怖さは知ってるからな。個を見て全体を一括りにラベリングするのは省エネではあるんだが。無駄なリソースを割かない賢さと見るか、割けるリソースを持たない弱小と見るかは場合によるよねっていう。

 

「まァ、買い取りはサンプル含めて数個選べばいいさ。余った分はギルドに押し付けても面白ェし」

「お、おぅ」

 

買取窓口の担当に計算させるだけさせて、安いから売らねぇわって断ったらすげー楽しいと思います。性格が悪いって? それはそう。

でもゲーミングウォーシャドウの腕を1200ヴァリスとか鑑定した奴だからな、きっと今回もお安く見積もってくれるだろうさ。当時は駆け出しで、今は第二級冒険者としてだが、見た目で判断して舐め腐った態度取ってくれると思うんよね。

 

そういや、見た目なんだが……若くして【ランクアップ】を重ねて弊害か、全く成長しないんだ。遺伝子的には原作リリの小さいけど出るところは出てるマニアックな体型になってもおかしくないんだが、清々しいくらいに『無』なんだ。

動きを一切阻害しねーからお得っちゃーお得ではあるんだが。リリと並んだときに姉妹逆転して見られるのかと思うと、こう……いや待てよ。つまりリリにバブみを覚えればいいのか。なんだ解決したな。いやしてねーよ馬鹿か。

でもまぁ体が女として完成しないなら、理論上は性欲に悩まされる心配をせず済むから助かる部分ではある。それに毎月周期で体調不良なんぞ勘弁だからな。深層で血の臭いを撒き散らしたり戦えなくなったりとかソロには深刻すぎるんだわ。エイジャとラピスが居れば大抵の事態は切り抜けられるけど。

 

「そういえばお前に言っていなかったな。例の合金、目処がついたぞ」

「おォ、そりゃすげェな」

「シャームという国から取り寄せた鉱石が良い具合でな、それを多少の手間をかけてやればこの通り、表面に波紋の浮かぶ鋼の出来上がりよ」

 

計算待ちしてると、ゴブニュがダマ鋼の完成に漕ぎ着けたと報告して来た。

手にしていたのは短剣――と言っても中世ヨーロッパ基準なので相応に長い――の区分になるんだろうが、小人族(パルゥム)なら立派に片手剣として使える。その刀身には木目状の波紋が浮き出ており、前世の史実におけるダマスカス鋼としては完全再現の域なんじゃなかろうか。

 

「マジにアレと同じっぽいな。名前とかは?」

「向こうでの呼び方に倣って波紋鋼(ダマスカス)と呼んでおるよ」

「へー、それじゃ向こうでは開発済の合金だったのか?」

「似た物は出回っていたが、かなりの高級品だったな。駆け出しを卒業するかどうか程度の武器にできるのは俺たちの腕よ」

 

名前はまさかの被り。この世界にもあったんだなーと驚きつつ、日本発のファンタジー作品として考えれば不思議でもないかと納得もあった。どちらかと言えばオラリオの外で実用段階な事を驚くべきか。

鍛冶系【ファミリア】の需要はどこにでもあるし、発展アビリティとしての鍛冶がLv.2で発現する事も追い風なんだろうな。

つーか、むしろアタシの使ってるやつがパチモンなんじゃねーかなって気もする。謎のしなり具合を発揮するし。

 

「いいね、下級冒険者でも中層……下手すりゃ『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』まで到達できちまいそうだ。ちぃとばかし見た目の割に重いが」

 

ゴブニュから手渡されたそれを眺め、刀身の腹に指を走らせる。【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】で鑑定しても質はかなりいい。当たり前に第三等級に届いてる。ダンジョン内で産出される素材を使わずにこれは確かに鍛冶の腕がヤバい。是非とも長く下界にいて欲しいもんだ。

一応、大昔に大穴から出たモンスターの死骸なんかが大地に埋もれて……とかで属性引き出せる鉱石とかもありそうだけどさ。その辺はようわからん。

 

「ちなみに、これお幾らで?」

「そうだな……お前から買い取った矢と同じにするか」

「百万か、新人にやるンじゃねェのかよ」

「これは特別だ。売るとしたらそれなりに信を置ける相手になるだろうな」

「あー、これから稼ぐってわかってるやつとか、既に稼げるやつか?」

 

大規模派閥が新人向けに渡す感じか。上層で斬るだけならシルバーバックも余裕だからなぁ。インファント・ドラゴンにも通じはするだろうけど、炎と尻尾で接近するのが難しい問題があるし。集団で挑んでも尻尾がね……。

 

「買い取りの計算終わったよー」

「おっと、そンじゃこれ、ありがとうございましたゴブニュ様」

「あぁ。言うまでも無く下層や深層は危険な場所だ。改めて、無理はするなよ」

「へーい」

 

査定が終わったので武器をゴブニュに返し、受付カウンターで受け取った金額をそのまま使って素材持ち込みの武器製作を依頼する。よく分からないといった顔をした受付嬢だったが、アタシはそのまま回収が面倒って理由で木箱ごと置いて帰った。せっかくのいい気分なんだし、自分から水を差す必要はねーもんな。ギルドなど行かぬぅ。

 

まぁ、店を出たら馬車の周りに縛られた数人のオッサンが転がってる珍事もあったが。どうやら馬車を引いてた馬型と荷車に乗せてた獣人型の人形兵(ゴーレム)はそれぞれ良い仕事をしたようだ。

せっかくだし、事情を聞いて問題なかったらギルドに引き渡さずに【異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】に突っ込んでどうなるかの試験に使おう。一応背中を見るに『神の恩恵(ファルナ)』はないっぽいし、神威を抑えた神って事もないだろう……ないよな?

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