そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

72 / 202
72.特訓が決まりました。託さないで下さい。

世の中には親の心子知らずだとかって言葉があるが、赤の他人ならもっと知るわけないよなー、なんて。正義の味方になるって宣言を聞いて安心したじいさん並にこの場でポックリ逝きかねねー表情だと焦ったが、まぁそんな心配は必要なさそうだった。むしろ死に場所(生まれてきた意味)を見つけて眼を爛々と輝かせる武士のが近くて非常に怖い。

 

「喜べ。お前があの忌まわしき竜を討つと吠えるのならば……俺たちが鍛えてやろう」

 

うーん、ありがたくはある。あるんだが……実力が離れすぎてるのはさっきの一幕で確定だからなぁ。どこまで糧にできるのやら。とりま手加減されんと死ねるが。

 

「私にそのつもりはない……そんな事よりも教会について聞かせてもらおう」

 

姐御はツンデレツン増しデレ抜きか。しかし教会となれば闇派閥(イヴィルス)が不法滞在というか不当占拠してたな。何か大事なものが行方不明にでもなったか?

 

「わかる範囲なら答えるが、何を話せばいいンだ?」

「あの教会……正確にはその周りからだが、小癪な罠だらけだったのは貴様のせいか?」

「おう。ギルドに紹介されて内覧に向かったら闇派閥(イヴィルス)のボケ共が不法占拠してたからな。ごたごたした後に改めて土地を買ったが、いつまた来るとも限らねェから対策した」

「そうか……あのふざけた罠の数々は貴様が……ッ!」

「不法侵入して文句垂れるのは幾らなんでもダセェぞ先輩。仮に大切な場所なら万一に備えて他派閥に根回しして土地を確保してもらうくらいはしとかねーと。それこそ馬鹿素直な神に契約持ちかけてたンなら転生した後でも待ってるかもしンねーのに」

 

負けるつもりがなかったにしても保険をかけねーのは慢心なんだわ。あるいは不退転の決意の表れで、だからこそ抱き続けた未練のおかげで今まで生き延び舞い戻ってこれたのかもしんねぇが。

 

「……ならばあの内装もか?」

「修繕したな。あいにくとアタシが知ってるのは廃墟に近ェボロボロの状態だ。元の姿と違うとか言われても困る……つーか、結局不法侵入してきたのかよ。張り直す手間が……」

 

てっきり認めた時点でまた魔法が飛んでくると思ったんだが、堪えたご様子。

内装はまぁ工芸を乗せて教会の荘厳さと神聖さ、そして威圧感を重視したものになっております。侵入者に対する最後の、そしてささやかな抵抗だ。悪意に反応して女神像が変形して襲いかかってくる仕掛け(ギミック)は、残念ながら変形用(ラピス)素材(一部)と女神像の概念とか噛み合わなくて実現しなかった。なので悪意に反応して超硬金属(アダマンタイト)合金製の女神像が首の切断面から大量の合金製触手を繰り出してくる仕様に収まってる。見た目はホラーだが、思考ルーチンは捕縛優先なので安心安全設計だ。精神的な被害? 知るか。つーかするか。侵入者だぞ。

 

「そうか……いや、内装は一応だが感謝しておこう」

 

おや、デレた。施設そのものに何か思い入れがあるタイプか?

 

「その証として貴様の鍛練を少しばかり手伝ってやる」

 

あかん(あかん)。死んでしまう。アタシが。身代わり系や復活系の魔道具(マジックアイテム)は実現できてねーんだぞ。物理ゴリラと魔法ゴリラに囲まれてこの先生きのこれるんだろうか。

つーか魔法なんて【異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】しか発現してない上に詠唱式も短すぎて並行詠唱余裕なんだが。何を学べばいいんだ。対抗策か? でも超短文詠唱(ワンワード)で不可視の攻撃ぶっぱしてくるやつなんて他にいるんだろうか。詠唱破棄とか遅延とか先行とかの技術あるならありうるか。

アタシのは攻撃じゃなく道具の出し入れだからなぁ。倉庫の中身を射出するやつはできるって判明してるが、あくまで物理攻撃だし。魔法や息吹(ブレス)なんかの放出攻撃を収納するのは協力者がいないから確認できてねぇが、使用者の意思が残ってる扱いで抵抗される可能性が高い。自然現象の火事や落雷ならいけるか? 失敗時のリスクが高くて試しとうない。つーか自分で起爆したりエイジャにぶん投げてもらった爆弾の爆風は無理だったから多分無理。

 

「ちなみに場所はどこを考えてるンだ?」

「「ダンジョン」」

「……まァ、妥当か。地上だとすぐバレるし……バレるよな? さすがにそこまで耄碌してねェよなオラリオ?」

 

以前の作業部屋全滅事件に対してもギルドからは原因究明に努めるって発表の後は音沙汰ねぇままだからな。もちろん各派閥も捜査しきれなかっただろうし、続く揺れがないから打ち切ってるはずだ。あれ、今回も人造迷宮(ここ)でやれば陽動的な感じになるんじゃね? まぁ、バルカがキレるだろうから止めといた方がいいか。キレたところで問題ないってのはさておき。

 

「作戦の本格的な開始まで後五日……三日で仕上げるぞ」

「いやいやいや、何もかも間に合わねェだろ三日って」

「間に合わない事などない。間に合わせるのだからな」

「アッ、ハイ」

 

最愛の妹、愛しい愛しいリリへ。お姉ちゃんは今回こそ死ぬかもしれません。オラリオの冒険者じゃメカーバンクルを瞬殺できんから、ちゃんと耐えてる間に人質にされてたって説明するんやで。

 

 

 

で、移動のお時間。ダンジョンはあえての12階層に出てから15階層に進んで、やって来ましたみんな大好き食料庫(パントリー)。束の間の安らぎを得ていたモンスターには永遠の安らぎをくれてやった。ごめん、言いすぎた。精々が来世までだわ多分。

実力を測る意味でアタシに任されたんだが、ダマ鞭でサクッと。どうやら鞭を使うやつは古強者二名にとっても珍しいものだったらしく、感心したような一言を漏らしていた。どこか懐かしそうなのは、アタシの知らない物語ってやつなんだろう。鞭使いがいたんなら、そいつがどんな風に負けたかだけ聞いておきたいところではある。失敗に学べってこった。

 

「さて、さすがに中層の浅い部分では大した測定もできんかったな。よってここからは俺が相手になろう。言うまでもないが全力で来い……でなければ、喰らうのみ」

 

オッサン――【暴喰】のザルドが戦闘態勢に入る。それだけで空気は張り詰め、あるいは物理的な圧すら放つ。Lv.7でこれってマ? 原作の猪(オッタル)これなん? でもってこれでも、これの二つ上とかいても全然足りないのか、黒竜ってやつは。

ダマ鞭は掴まれて引きちぎられる未来が見えるので、手早く形状変化で棒……槍に。闇派閥(イヴィルス)の側とはいえ、足踏み組の踏み台になってやるべく戻って来た疑いの強い――そうでなくとも体が限界を迎えて久しいという意味で近く死ぬであろう相手なら【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】を伏せる意味も薄い。

ザルドは驚いたというか虚を突かれた表情を浮かべるも、すぐさま獰猛な笑顔に変わる。戦闘狂の気があるんかね。殺戮というよりは腕試しの意味が強そうだが。いや、それはアタシの楽観か。

とりあえず知恵も含めた全力を出し尽くしても届かない相手なので、最初から()るつもりで()る。まず最初に懐に飛び込んでみたが、迎撃が来ない……って事は、初手を譲ってくれるか。ってなわけで、現状出せる一番威力の高い捻りながらの突き。あっさりと避けられた。受けないのは多少なりとも警戒したか? あるいは受けるまでもない、あくびが出る遅さとかの評価だろうか。なんとなく後者な気がする。精神的な訓練とかそんな感じで。

突き出した態勢から形状変化させて握り手を中心に肘の側、そして外方向に刃を形成させながら肘を曲げる事で首を狙うも、軽く上半身を反らしながら今度は籠手(ガントレット)に当てて受け流す。火花すら散らない、軽く握られた雪玉を受け止めるような緻密で繊細な合わせ。

すれ違う最中に首の後ろ側にチリチリとした感触を覚え、腕を折りたたんだ勢いを殺さず体を前に倒してそのまま転がり込む。

 

「ほぅ」

 

その場で切り返そうとしていたら頭があったであろう場所を抜けていく蹴りが、目まぐるしく移り変わっていく視界の片隅に映った。直後、蹴りの風圧で体が押される。とんでもパワーやめろ。いやまぁ小人族(アタシ)くらいの質量ならアタシ(Lv.5)でもできる芸当ではあるんだが。

 

「面白い能力(ちから)を持っているな、スキルか、魔法か……」

「通じねェなら手品でしかねーがな!」

「違いない」

 

さて、わかっちゃいたが攻撃が通じないな。単純な【ステイタス】の差が大きいのは確かだけど、受け流しを見るに技量も高い。

基本的に力任せが多いモンスター相手じゃ身につけるのが難しいはずなんだが……ウダイオス部屋でスパルトイ道場でもしたんだろうか。それ以前に他派閥とドンパチしてたから自然と技や駆け引きが身についてったのかね。派閥内でも模擬戦に熱が入りすぎたとかはありそうだしな。

でもそれらの全てが黒竜相手じゃ裏目に出た可能性もあるか。ダンジョンのモンスター相手に通じた駆け引きは黒竜の予想を超える老獪さにより向こう側からの罠と化し、技もまた規格外の身体能力の前では何の意味もなさず……みたいな。

まぁなんでそんな黒竜だけ特別なのかは全くわからんが。読み間違いだったか解釈間違いだったかの産物だろ黒竜(ジズ)。言ってみればオリキャラだぞ。メガテンの真1に出てきた龍神マヤ並にどっから出てきたのかわからんちゃんだろテメー。

つーかあれか、アリア補食疑惑。それだけでも黒竜のリソース爆上がりしてる可能性は高いわな。しかもダンジョン地下深くにいるらしい穢れた精霊みてぇにアリアも黒竜乗っ取りを試したけどリソース足りなくて食い尽くすどころか食いついてぶら下がるのがやっとな感じで、しかもその試みから【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】の主従契約みてぇに魂が半端に混じり合って黒竜が知識や知恵を吸収したとか、そんな感じ?

でねーと地上のモンスターよろしく繁殖してもしなくても魔力の供給先が無くて先細りする一方だしな。どうするよ決戦に挑んだら骨と皮だけのハリボテ黒竜出てきたら。ぽっと出のラスボスが現れるフラグだわな。対策が無駄になるから困る。まぁ地脈から吸い上げるとかしてそうだけど。

 

まぁ、そんな話はさておいて、今はザルドをぶん殴る方法だな。どーしたもんかね。

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