そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

73 / 202
73.特訓始めました。胸を貸して下さい。

よくよく考えたら特訓言うても普通の武器使ってドンパチとか本領とは言えねぇ戦闘スタイルを鍛えてもあんま意味ねぇのよな。練習(ダンジョン)ならまだしも、本番(黒竜)では。

かといって本来のスタイル(アイテムユーザー)は在庫の都合があって多用するもんでもない……つーかさっき受け流された感じだと爆弾もキャッチ&リリースされて自爆しそうなんだよな。射出いっとくか?

 

「ぐえっ」

「すまんな、隙だらけだったから思わず足が出た」

 

考え事してたら蹴りが入った。超硬金属(アダマンタイト)は力自慢のLv.6辺りだと破壊できちゃうが、その辺は手加減してくれたらしくて戦闘衣(バトル・クロス)は無事だ。

アタシ自身もあばらの骨折程度で済んだしな。肝心の体はダンジョンの壁までまっすぐゴールをキメたが。結構深くまで埋まったけど、こういうとき生まれてくる前のモンスターとこんにちはしたりってないんかね?

 

「追撃されねぇだけ訓練でホント良かったと思うわ……」

 

壁の中から姿を現しつつ、武器の形状変化は元の鞭に。なんか姐御(アルフィア)から呆れたような視線が飛んできてる気配あるんだがどうかしたんだろうか。こっちはオッサン(ザルド)から視線外せねぇのよ。周辺視してるからどの道ぼんやりだが。

 

「ふむ、相当に加減はしたが動けるか。先の動きといい、既に第一級(Lv.5)の域に届いているとはな」

 

バレるの早いなー。わかりやすく補正するスキルはねぇし半端な基本アビリティで駆け足してきたから低く見積もられると思ったんだが。

その辺はやっぱ年季の分だけ経験が積み重なってんだろな。でもこれで手加減の(グレード)が下がって一層追い込まれる未来が確定した気がする。

 

「その若さでその研鑽は驚愕に値するが……だからといって同格以上が相手では体格の差が響いてくるぞ」

「まァ、まともな戦い方はしねェで勝ってきた部分はあるさァな。こっから先はそっちでいくから評価頼むわ」

「いいだろう。お前が編み出した格上殺しの真髄を見せてみろ」

「おー、遠慮なく派手にいくから、なっ!」

 

お言葉に甘えてスリンガーからみんな大好き唐辛子(カプサイシン)入りのスパイシー煙玉を放つ。耐異常は持ってるだろうから単純な麻痺毒は効かないだろうし。そして連続する(煙玉の)小さな爆発音にまぎれて横っ飛びしながら、手持ちの爆弾をばら撒きそれぞれを弱爆弾で多角的に打ち出しておく。いくつかは熱で硬化するタイプの粘着物質が詰まった非殺傷タイプ。ついでに【異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】から氷のつぶてを本邦初公開な射出……都市であって国ではないんだっけ? 上の所属あるんだろうか。今はどうでもいいや。ちなみに氷と言いつつ燃える氷(メタンハイドレート)なんですがね。

 

「これは……ちっ! 催涙ガスか……」

 

辛さ(スパイス)は通ったらしい。Lv.7の耐久なら地味に辛さ――痛みを弾く可能性も考えていたので嬉しい誤算だ。アルコールの酔いといい、微妙に食事関連の人間を止めさせないよな『神の恩恵(ファルナ)』って。優しさにしては半端だが、神の理解できる範囲がその辺までなんだろうな。もっとも、催涙効果や化学火傷がどこまで効果を及ぼすか、そして続くかはわからんが。

おそらくオッサンが武器を振るえば煙は晴れるし、流されてきた刺激的な煙で自爆めいた事になる。が、ここで燃える氷(ねんりょう)爆弾(ひだね)が活きてくる。直接オッサンへの攻撃に使うのではなく、取り囲むような位置で爆発するようにしたので妨害されずに無事起爆。連鎖地獄(スキル)の効果で爆弾をばら撒く行為の繰り返しかつ誘爆による連鎖のダブル判定を受けて大爆発を起こしたが、直接的なダメージを期待しての事ではない。狙いは酸欠だ。いやまぁ、ウダイオス確殺する程度の威力はあるんだが。それ以上の強敵とは出会ってないから通じるかは知らん。

着地と同時に這うような格好でオッサンの横へ回り込み、スリンガーには閃光弾をセットしておく。後は煙に紛れて突っ込んでくる可能性を考慮して、地面に粘着罠と電流罠を設置。

電流罠はクリスタルマンティスのドロップアイテムを使った単純な圧電効果によるもの。魔力の影響か、普通のそこらに生えてる水晶や石英よりも生み出す電力が大きいんよね。いやまぁ食料庫(パントリー)荒らして魔石とかの回収中、灰に埋もれてたドロップアイテムを知らずに踏み抜いて感電した経験から開発された微妙に黒歴史を刺激する代物なんだが。

 

「……?」

 

来ねぇな? なんて首を傾げていると、離れた位置から姐御が長剣を振るって煙を吹き飛ばす。その動きは流麗だった……いや、後衛じゃなかったんかい。単純な身体能力(スペック)だけでも可能な範囲かもしれんが、その動かし方には明らかな慣れが見受けられ、ぎこちなさは一切存在しなかった。

そして煙の晴れた爆心地はと言うと……なんという事でしょう。そこには回復体位に近い格好で横たわったまま動かない【暴喰(さいきょう)】の姿が! ヤ◯チャしやがって……姿勢的な意味で。

 

「……回復してやれ」

「うっす」

 

姐御に促されるままオッサン回復に移る。周辺の酸素濃度が不明なため、念のためダマ鞭で引き寄せてからエリクサーを振りかける。

とはいえ、元から毒に侵食された肉体は回復できる部分が少ない。ゲーム的に言えばHPの最大値が減っている状態なんだろう。

その上で毒によるスリップダメージ(DOT)が入り続けている。想像を絶する苦痛に襲われ続けているのか、あるいは痛覚が死んでいるか。いずれにせよ、生きているのが不思議なくらいだ。

改めて視認した現状から【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】が解毒薬のレシピを伝えてくるが、ベヒーモスの肝臓とか言ってる時点で作れないんだよなぁ。つーかドロップすんのか肝臓。角とか牙だろ常識的に考えて。いっそラピスに腐肉を取り込ませて抗体っぽいの作る方が早くて正確なんじゃね?

とりあえず傷は……傷口? 見えてる部分丸ごと消毒してからユニコーンの角を削った粉振りかけて保護用のジェル塗りたくっとこう。ついで栄養剤の注射して、鎧の修復もするか。

 

「……なんだ? それは」

「ちょっとした裏技」

 

姐御も流石に鎧が修復されていく様子には面食らったらしく、訝しげに問いかけてきた。

鎧の材料に最硬金属(オリハルコン)、インナーにユニコーンの角混ぜたけど問題なかっただろうか。気休めにもならんとは思うが、ユニコーンの角が持つ解毒は魔法的かつ上級に分類される効果なので種類を問わないのが良いところだ。前段階で振りかけた粉が秒で黒ずんだのは見なかった事にする。

つーかベヒって最終的に人間の食料になるとかなのに猛毒なのかって思ったけど、一神教信者のための肉なら異教徒には猛毒にもなるかって自己解決したわ。そもそもモンスターの肉全般がとかは言ってはならない。マンモス肉を食ったアタシに効くからな。

 

 

 

「……まさか負けるとはな」

「人体の限界だからな。アタシとしちゃオラリオに現存してねェLv.7だろうがちゃんと人間してンのがわかって良かったわ」

 

治療と修復を終えて小休憩を挟んだところで、オッサンが意識を取り戻した。状況を把握してから大笑いを始めたんで壊れたかと一瞬心配したが、姐御の執り成しによってアタシが用意していた気絶させる手段(スタングレネード)はそっとしまわれて終わった。

 

「あの筋肉達磨(マキシム)が知ったらさぞ盛大に笑うだろうな」

「違いない」

 

また知らん名が出てきたが、ゼウスとヘラって派閥を超えた仲良しだったんだろうか。アタシが前世の記憶を思い出してすぐに黒竜に挑んで流れるように追放されたから情報が入ってこなかったのよな。

しかし実力測定の名目で初手を譲られたり反撃も緩めって条件が重なったからってほぼ勝っちまったのはまずかったかもしれん。なんか過去を懐かしんで思い出話してると引退したみてぇじゃん。託し終えた感あるから戻ってこいって話なんだわ。

 

「まァ、今回のは無酸素状態で活動できねェっつー人間にゃ克服が難しい点を攻めた結果だ。黒竜相手じゃ通じねぇから反則だわな」

「だが、剣や魔法と違って対面していても脅威を感じなかったのは大きい。誰にでも――敵と認識されない者ですら隙を突いて致命の一撃を与えられる可能性(チャンス)があるわけだからな」

「私達の思う英雄とは少々違う姿だが、少数に負担を強いる事なく分かち合うのもまた人の在り方としてはありだろう」

「ふむ……?」

 

とりあえずアタシのやり方は合格っちゃ合格のようだ。雰囲気的には金賞受賞だとかじゃなく予定にない賞を即席で用意した感じだが。

けど、それってつまりアタシの強みは真っ当な冒険者には指導できない部分って話なんだが……二人ともどこかバツの悪そうな顔してるし。

 

「アタシが魔道具作製者(アイテムメイカー)なのが難点っちゃー難点か? 最前線を支えなきゃねェ前衛が不在なわけだし。捨て駒になれってのは英雄からはかけ離れてっしな」

精神面(そこ)は確かに問題か。元より前衛壁役(ウォール)をやるやつは命なんぞ惜しまんさ」

「正確には、冒険者でないからだろう。前衛壁役(ウォール)にとっては背後に立つ者全てがお前にとっての妹と同じだ」

「……なるほど、それはアタシにゃ理解の及ばねェ範囲だし、命の一つ二つ預けるのにも納得いく理由だ」

 

微妙に食い違ったな。しかしそうか、タンク役は人格者が多いか。ダンジョンでサポーターの次くらいに見捨てられる率が高い役だもんなぁ。

そんな立派な志を持ってる冒険者が今のオラリオに何人いるかって問題はあるが。壁役やってるのは道化(ロキ)のガレスと……後は正義(アストレア)んところのアスタくらいか? 交遊範囲が狭すぎるッピ! つーか二人ともドワーフじゃん。力自慢で酒で繋がる種族だから納得できるが。

 

「しかし、そうなるとみすみす死なせるのは惜しいなァ。ま、こういうの用意してあるンだが……【吐け】」

 

倉庫から複数の人形兵(ゴーレム)を取り出して並べる。全身鎧(フルプレート)の人型や、動物、モンスターの見た目をしたものまで。

 

「今のは……マジか」

「なんとも、規格外なやつもいたものだ」

 

人形兵(ゴーレム)に対してか、あるいは【異界倉庫(まほう)】に対してか、二人は驚きを隠さなかった。若干やらかした感があるのは否めないが、まぁテンションの赴くままというか若さ故の過ちというか、大体そんな感じ。

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