そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

75 / 202
75.特訓終わりました。達者でいて下さい。

「さて、明後日の夕方からオラリオは闇派閥(イヴィルス)の拠点に一斉攻撃を仕掛けるらしい」

「明後日……あァ、前に言ってた五日後ってやつか?」

 

唐突にオッサンが情報を寄越してくる。拠点の数をどこまで把握してるかにもよるが、一斉となれば実質総力戦なんだろうか。足並みの揃わなさに定評のある各派閥にできるのか気になったが、問題はそこじゃない。

アタシが人造迷宮(クノッソス)に繋がる情報(ヒント)を【アストレア・ファミリア】に流している以上、連中はとっくに存在を把握し所在も割り出しているだろう。規模的にはそんじょそこらの拠点とはわけが違う巨大な――もう一つの迷宮。当然そこに投入する戦力もそれなり以上だろうし、複数の派閥を投入するには仲がイマイチな連中なんで、強力な単一派閥を送ると考えられる。

つまり【フレイヤ・ファミリア(会話できない系)】の可能性が高い。戦力で見れば筆頭の(オッタル)がLv.6だろ。他はLv.5が黒猫(アーニャ兄)白黒エルフ(名前忘れた)で三人。後はLv.4の四人兄弟(首飾り)だったっけかな。

そう考えるとアーニャLv.4なの十分すごくね? 豊饒の女主人(ミアさん)に引き取られてからは恩恵の更新とかしてないだろうし、現時点どころか原作時間軸まで女性団員の中じゃミアさんの次――早い話No.2っぽいな。これはもう休暇もらって食料庫(パントリー)荒らしを伝授するしかねぇわ。そんでご本人様(シル)経由でフレイヤに依頼して恩恵の更新させよう。こっそりLv.6……は難しいだろうから、とりまLv.5まで持ってって、後は開錠薬(シーフ)更新薬(スニッチ)使って口の堅い善意の第三神にやらせてもいい。都合のいい事に近くドンパチやるっぽいんだから、そこら中の神から手当たり次第に採血してもよかろ? いやまぁ兄に追いつけそうって希望持った状態なら割と魂も輝いてそうだしフレイヤが担当継続するか? まぁどうでもいいや機会があればの話だし。治療師(ヒーラー)のお姉さん忘れてたけどそれも別にいいわな。面識ねーし。

話を戻そう、美神眷族幹部勢の戦力な。メカーバンクルの守りを抜けるとしたら猪野郎(オッタル)だけだが、アイツは見た目がムサいし威圧的だし色々とアウト。他の連中は女神至上主義の脳死喪男共で、短絡的な上に口が悪い……おそらくリリを闇派閥(イヴィルス)認定して暴言を吐くに違いない。つまりどうあがいてもリリの精神に多大な負荷を与える害悪連中って事だ。会わせてはならぬ……が、闇派閥(イヴィルス)の排除自体は邪魔をするとそれはそれで問題。となればちょっとリリを奪い返しに行くか。

 

いや待て。ギルド主催の会議で音頭取るなら必然的に二大派閥だが、【フレイヤ・ファミリア】には作戦考えるとか無理だろ。団長筋肉猪(オッタル)で副は兄失格猫(アレン)だぞ。そうなると作戦立案は【ロキ・ファミリア】だろうし、ショタオジ(フィン)だ。

腹黒くて知恵者なフィンなら人造迷宮(クノッソス)みたいな大御所は後回しにして、先に手足をもぐんじゃなかろうか。ただでさえ戦力を分散させてるわけだし。あるいは非常時でもまだ余裕のある段階だからって名声のために自分達で攻略しようとか考えたりもするか? 原作や外伝だと威力偵察気味に突っ込んで返り討ちにされてたりするからなぁ。

今は……えーと、七年前か。とりあえず間違いなく原作時点より弱い連中が攻略できる感じではないけど、闇派閥(イヴィルス)側の戦力も分けられてトントンか? 

 

「あぁ、なんでもギルドに忍ばせていた信者(スパイ)が掴んだ情報だとか」

「嘘くせェ……どこのアホが準備に五日もかけンだよ、相手にバレバレじゃねェか。大方スパイ(そいつ)の知らねェ符丁で通知されてて前倒しの奇襲でもするんじゃねェか?」

 

ギルドってオラリオ内の派閥争いだのに対しては中立だし、職員は『神の恩恵(ファルナ)』を持ってねぇのは確かだけど、情報抜き取るのなんて盗聴機みたいな小細工一つ仕込めればそれで済むからな。探知は……アスフィ辺りが対抗策作ってるか。

それにアタシの担当してた受付のお姉さんみたいな疑惑持ちがいるような組織でもあるし。そうでなくとも家族を人質にすれば一発だろ、ただでさえ身体能力は一般人なんだから。

そんなわけで敵を欺くために味方も欺くのが普通だ。アタシなら会議そのものは団長のみ、会議室の周りに副団長置いて警護させた上で口頭でそれらしく話し合いしつつ本命は筆談かな。あぁ、トリュフ探しの上手そうなギルド長もいたか。あいつはあいつで座にしがみつくために必死だから裏切りなんて考えねぇだろうな。

 

「ふむ、確かに何年も足踏みするような連中なら、臆病さからくる周到さを持っていても不思議はないか」

「普通なら通達して準備してで一日、休息と微調整に一日、そンで三日目に仕掛けるがな」

「と、なると今頃地上では囮の拠点が襲撃されている可能性もあるな」

「……大丈夫なのか?」

 

奇襲されている可能性に辿り着いても冷静にしてるって事は、更に別の大本命があるって事か。どっか満足気なのはアタシの疑問を予め想定してた? さすがに突っ込んだところで出てくるのは蛇くらいだろうし、軽く一当てして解散かね。手伝えとか言われても困る。

 

「さて、な……少々喋りすぎた。忘れろ」

「あい、あい。アタシはアタシで計画を知らされてねェ事になってンだ。下手な動きして連中を刺激する気はねェよ」

「ではこのままここで解散して構わんな?」

「了解。改めて特訓してもらって感謝するわ。お代にしちゃ粗末だがこれ、簡単な魔道具(マジックアイテム)だ。ナリは小せぇが効果は保証するぞ」

「ほぅ、なるほどな」

「ふん、無礼(なめ)るなと言いたいところだが……現に後れを取ったしな。もらってやる」

 

そんなわけで地獄のような三日間は終わりを告げた。一応、二人が奇襲の有無を確認するって体で現地解散になったが、アタシとしてはまずリリの確保か。ドンパチが起きてる最中だろうと前日やら前々日やらだろうと、ドタバタしてるのは一緒だろうし多少はやりやすいはず。骨伝導タイプの通話用品もあるから訪問予定の連絡だけ入れておくか? リリの演技力は疑ってねェが、にじみ出る空気ってのはあるからなぁ。浮き足立ってても邪神連中は鋭いから止めとくか。こっちも奇襲と行こう。

しかし、なんだ。こうなると報連相のなってねぇ邪神連中には意趣返しの一つ二つやりたいよなぁ。とはいえ踏み台希望者(ザルドとアルフィア)の最期の願いは叶えてやりたくもあるし送還祭はまずいか。巨大注射で視覚的に威圧しながら実際に死なせない程度の量を採血しつつ、時限式か遠隔起爆式の爆弾首輪着けて回るのがいいかね。せっかくの二つ名だ、らしく行こうじゃねェの。

 

そんなこんなで人造迷宮(クノッソス)へ戻ったアタシは作業部屋の中身を丸々倉庫に突っ込み、リリの行方を捜すべく探索を始めた。

今回は姿隠しと隠形のみ。嗅覚対策の神酒使った魔道具(マジックアイテム)は邪神共に通じないどころか逆に居場所を教えるっぽいんで、今回はお留守番。

代わりの獣人対策は……麻酔針(ちからわざ)で物理的に黙らせていくぞ。ちょっと致死量超えてる気もするけどかまへんかまへん!

 

 

はい、思った以上にサクサク進めて現在はリリの背後に立っています。私ラジルカさん、今あなたの後ろにもいるの。全部で三人いるから頑張って見つけてね。どんとうぉーりー。

しかし大きな作戦の前だろうと予定通りにレッスンしてるのは予想外だったわ。邪神達の肝太いな? 今ちょうど夕飯休憩に入ったけど。

 

「愛しいリリ、そのまま聞いててくれ」

「!?」

 

おぉう、喉に詰まらせていらっしゃる。タイミング間違えちゃったぜ。周囲の注目も集まってるぅ。リリに集中する分だけアタシは目立たなくなるんだが。

 

「あー、すまん。後からお詫びはたくさんするから許してくれ。それでな? ちょっくら脱走の目処が立ったから逃げようぜ」

「……(もっきゅもっきゅ)」

「賛成するなら机を二回叩いて、反対なら五回叩いてくれ」

「……(トン、トン)」

 

ちょうどさっきので食べ終わったリリは、いかにも考え事をしている風を装って机を指先で叩く。微妙に頬が赤いので照れ隠しに誤魔化してるようにも映ったんでねーかな。うちの妹可愛い。

 

「よし、今からちょっとした魔法使うから抵抗しないで受け入れてな」

「(トントン)」

「良い子だ……【呑め】」

――無事に一名様ご案内っす!

――アビスへようこそ

――え、リリ意識あんの?

――ないっす!

――データ照合を開始……旧式のACのようです

――ラピス後で説教な

 

異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】にリリの収納完了。一瞬肉親なら意識保ってるのかとビビったが、ちゃんと……ってのもおかしいが、気絶してるんだな。うーむ、空腹を考えると時流を遅くしたいが、年齢差が広がるのは地味にまずい気もするし、まぁ今回限りにしたいもんだ。

仮に契約するとしても、せめてアタシの口から直接秘密を打ち明けてからにせんと。繋がった魂から一部だけ情報が流れ込んだせいで原作の登場人物だから大切にしてたとか誤解されたらアタシは全身から幻光虫が抜けて死体も残さず消えるぞ。

 

さて、とりまリリの奪還に成功したのでそのまま脱走。こんなにもすんなり進むならもっと早くにやれば良かったな。普段はもっと警戒が厳重なのかもしらんけど。

つーか騒ぎ立てる邪神の嘆きというか命の心配はなんなんだ。虚空に向かって命乞いすんなや。誰が火薬を司る職人の守り神だ。笑える光景ではあるが笑えねぇなぁ……。

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