そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
新人殺しと名高いウォーシャドウが厄介なのは、それまで相手にしていたモンスターとは一線を画す速度と力、そして微妙に長いリーチを持っている事だろう。
そこに5階層より下はモンスターの出現速度や数が増加するダンジョンの
覚悟を決めて踏み込んだ6階層。進んだ先で出くわしたのは、出鼻を挫くような光景。複数の
こちらに気付いた様子は無かったので、腰から鞭を取り外し、先制の一打。
ここまで来る間に鞭一本で戦って来た感想だが、そもそもこれ鞭じゃねぇわ。円が無限の頂点を持つ多角形みたいな理論で、一本の線に見えるけど実際は細かいパーツで構成された連結剣と表現する方が近い。というか何で懐に入られて慌てて引き戻したらガチャンガチャン鳴って真っ直ぐ伸びた棒の形で安定するのこいつ。長さも鞭の全長よりも短くなって背丈よりちょい長めになったし。物理法則も何もあったもんじゃねぇな。
まぁそんな思い出を振り返ってる内に不意討ちを受けた一体のウォーシャドウが頭から真っ二つに裂けて灰になった。うーんオーバーキル。武器適性をものともしない武器攻撃力、誇らしくないの?
続けて手首のスナップを効かせれば、その動きを感じ取り連動した鞭が横に倒した8の字を描き、軌道上にいた左右のウォーシャドウの胴体を半分まで切り裂く。勢い余って倒れてる冒険者に当たらないか冷や冷やしていたのは内緒だ。
この段階になればウォーシャドウ達も倒れてる冒険者よりも新たな脅威に注意を向ける。とはいえ基本的には駆け引きするような知能を持たない猪突猛進AIを積んでいらっしゃるので最短距離を真っ直ぐ突っ込んで来るだけだ。
まぁ、先ほどの焼き直しで手首だけ動かしてやれば鞭が意を汲んだかのように蠢き、ウォーシャドウの群れを掻き回す。体の一部を抉り取られても戦意だけは失わず最後の瞬間まで殺しにかかる連中なので多少念入りに。魔石は欲しいのでやり過ぎないようにも気を付けなきゃないが。
不意討ちが決まったとはいえ、感慨もなくあっさりと最初からいたウォーシャドウが片付いた。新人卒業って事でいいんだろうか。
壁に傷を付けて未経験者お断りな状態にしてから、倒れてる冒険者の様子を確認する。三人中一人は既に事切れてる。残る二人の内、一人は比較的軽傷だが両腕をやられてる。もう一人は腹部からの出血がひどい。こっちはポーションだけで戦線復帰できる感じはしないので、助けるなら地上へ急ぐ必要があるだろう。
うん、階段は近いんだが、ここは6階層。4階層までと違いモンスターの出現率が上がってるわけで、ここにアタシの特性であるモンスターの妙に高い出現率が合わさればどうなるかって話で。
「千客万来、ってやつだァな」
見捨てるのは夢見が悪くなるんで、自作の脱法ハイポーションを敗北者達にぶっかけておく。これでやるべき事はやったと自分に言い訳ができたので後は天に任せておこう。運が良ければ助かるだろうさ。
優先するべきは自分なので、通路からやって来たモンスターに先制攻撃を仕掛けておく。鞭の届かない距離なのでスリンガーの出番だ。
今回使うのは中学理科の実験でお馴染みのマグネシウムを用いた閃光弾モドキ。マグネシウムがどっから来たかって? もったいなかったけどそこらの食べ物にスキル使って抽出したよ。最初から閃光弾の形でできあがったからドン引きしたのはここだけの話だ。なお初期型はスリンガーの打ち出しに耐えきれずその場で起爆した模様。
本格的にファンタジー錬金術が始まってるが、その辺はもう開き直ってる。
しかしこうなるともう少し勉強しておけば今頃は知識チートできてたんじゃなかろうかと後悔しきりである。授業中にテロリストの襲撃があったらとか妄想してる暇じゃなかったんだわ前世。なんとなくで武器とかポーションとか作れちゃってるけどさ。イメージだけじゃ追い付かない領域ってのはやっぱあるんだわ。ジュラルミン作ろうとしてジュラル星人ができるみたいなミスもあったからな。あん時は証拠隠滅サンキューな新生ブリューナクくん。
他にも軌道エレベーター建設して宇宙進出して天界を見下ろしながら膝上に猫を侍らせワイン片手に高笑いしたい。でもイシュタルとかアフロディーテって金星神なんだよな、なんだよ宇宙進出済じゃん。なんて一幕もあった。
閑話休題。ダンジョンのモンスターは『
6層はマップの傾向が変わっており、通路が狭くなっている。これのおかげで大剣や槍は取り回しが難しくなっており、遭遇戦の難易度を上昇させるのに一役買っていたりするが……それは同時に避ける空間がないわけで、威力さえあば一網打尽にできてしまうという事でもある。鞭をどこかの宇宙海賊の駆る機動兵器の改修型よろしく鞭そのものを回転させて真っ直ぐ突き出す――やってみたらブラッディーでスクリューでグラインドなアレだった――技を放てば、通路に並ぶモンスターは容易く体を貫かれ倒れていく。横から見たら不格好な串焼きみたいになってるんじゃなかろうか。知らんけど。
一応、このときも手首は可動域の範囲内で回転させているんだが、鞭の側が勝手に回転してくれる。便利。
通路のモンスターを片付けて部屋に戻ると、どうやら別の通路からも来ていたらしくモンスターの姿が見えた。一体だけしかいないが、そいつは倒れてる冒険者じゃなく、解体してないウォーシャドウの前にいて……ははーん、さてはこれ魔石食ってんな?
「やっべ」
最初の通路からやって来た連中が早すぎて、魔石を回収する時間を取れなかったのが痛かった。ここで強化種の相手はまずい。強化幅なんぞ知らんが、未だ気絶中の冒険者達を巻き込まずに済ませる自信が全く無い。隅っこに蹴り飛ばすのが安定か?
考えながら、スリンガー閃光弾モドキを撃ち込んで視界を、あわよくば動きを封じる。駆けながら射程内に捉えたと手首を捻りつつ鞭を突き出し、周囲への被害が小さい刺突を放つ。
原作ベルはカンスト状態とはいえLv.1で強化ミノタウロスを倒した。しかも強化牛は大量の魔石を食らいオッタルの稽古を受けた特別な強化種だった。なら目の前の一個や二個の魔石を食った程度の強化種なんぞ道半ばのアタシ……というよりこの鞭に殺れない道理は無い――はずだった。
ヂュイン、と金属が擦れるような音を立てて、回転させた鞭がモンスターを逸れて地面を穿つ。
閃光弾の光が収まると、腕をこちらに突き出したまま、やけにゆっくりと立ち上がった。そいつは二本足で直立する人型で、特徴的な十字頭と丸いパーツ、三本の長く鋭い指がウォーシャドウなのだと主張していたが、その体は先ほど見た通常種よりも二回りは大きかった。
「ふざけ、やがって……」
普段は影が実体化した様な黒い体色は、強化種になった証なのか警戒信号なのか、今や赤、緑、青と鮮やかな色合いに変わっている。そして短時間でその色を変化させ続けており、その様はまさにゲーミングウォーシャドウと言うべき姿だった。これどう見ても【
立ち上がったそいつが顔をこちらに向ける。目が合った。そう思ったときには向こうは駆け出しており、こちらはこちらで反射的に鞭を下から切り上げるような軌道で振りながら引き戻していた。
そのままであれば強化種の胴体を切り裂くか打ち据えるかするはずの鞭は、強化種が上体を傾けた事で空を切りつつ戻ってきた。そのまま強化種よりも少しばかり早く戻りきった鞭を棒状に固定、眼前に構える。
強化ウォーシャドウの爪が構えた棒状の元鞭に突き刺さる……事はなかった。ファンタジー金属はファンタジーというよりファンシーなウォーシャドウの強化種ご自慢の爪よりも強度が上らしい。棒を弾き飛ばされるではなく押し込まれた衝撃で胸骨にヒビとか肋骨折れたりとかしたし、勢いのままアタシの体が吹き飛ばされているんだが、些細な問題である。
立ち上がりながらどうしたものかと考え行動に躊躇いが出るアタシの視界では、ゲーミング種が鞭を突き刺し損ねたばかりか反動で欠けたらしい爪を押さえて盛大に悶えていた。こいつ中に誰か入ってない? 主神の命令でちょっかい出しに来た【フレイヤ・ファミリア】の眷族だったりしないよな? 嫌だよこんな遊園地のマスコットみてぇな最強派閥の構成員とか。