そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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84.見つけました。鎮まって下さい。

無駄に上がったテンションについてエイジャとラピスにいじられて正気を取り戻したアタシは、改めてテンションを下げるべく、昨日眠らせた野営地(キャンプ)の状況を確認しにやって来た。

全滅してたら【アストレア・ファミリア】が石投げられ損だし、あぁいう連中にはせめて手のひらを返して感謝しながら【アストレア・ファミリア】の盾や囮になって死ぬのが美しいと思うんよ。アタシが入れた茶々でイベント強制終了してフラグ折れた可能性もあるが。

まぁ、難民たちはパッと見では大きく数を減らさず無事に生き残ってた……というか、厭世感や退廃的な空気が和らいでるな? 理由はわからんが探る必要性も感じないし、なんか適当にいい感じなイベントが起きたんだろう。それこそ民衆が思い出すというか【アストレア・ファミリア】が見直される系の。そういうことにしておこう。

そう思ってその場を後にした帰り道。思わぬ人物を発見した。

 

「! 誰ニャ!?」

「え、アーニャ!?」

「漫才かよ。まァ無事なようで何より」

 

はい、豊穣の女主人所属、良質街娘シル・フローヴァさんと護衛のアーニャ・フローメルさんです。コンビ名はフローフロー……なんかクロークローみてぇだな。バイドはマズい。クロス・ザ・ルビコンしてはならぬ。えーと、他の候補な。頭文字を取ってえふえふ……いかんいかん、叱られるな、ファイファン派に。よし、素直に止めとこう。

 

「何ニャ、誰かと思えばロリオヤジなのニャ」

「あ、アーニャ……そんな呼び方は……」

「こればっかりはいくらシルが言っても譲れないのニャ! ミャーのハジメテは安くないのニャ!」

 

失礼な呼び名に加えて人聞きの悪い内容を口走るアーニャだが、まぁこれは酒の失敗が絡んでいるので頭ごなしには否定できない内容だったりする。九割九部が向こうの勘違いと構って系ツンデレの合わせ技だが。

故にここは無視一択。

 

「そンで、その荷物は炊き出しの帰りとかか?」

「はい。ミア母さんに無理言ってやらせてもらいました」

「そりゃまた……お疲れさンで」

「ジッとしてるのも気が滅入っちゃって。だから、せめて何かできないかって考えて」

「ミャーを無視するんじゃないニャー!」

 

意外性の欠片もない内容ではあったが、オラリオの現状を考えると正に女神の所業なんだよな。豊穣神の側面も持つフレイヤの面目躍如ってところか。このシルがどっちなのかは鑑定しなきゃアタシにゃ判別できんが。

で、無視された駄猫がシルとの会話に割って入って来るが、小人族(パルゥム)の腰に腕を回してすがりつくみてぇにしがみつく猫人(キャットピープル)という非常にアレな絵面が展開されてしまう。それを困り笑顔で見守っているシルだが、目を細めて責任取れよって視線で脅してくる辺り、今日のシルは女神様のようだ。

 

「まずテメーはそのおっ立ててるもンをどうにかしろ」

「んニャ!? な、なななななんつー事を言いやがるのニャ!?」

 

アタシの台詞を聞くと即座に離れて自分の体を抱き締めながら後退するアーニャ。しかし今なお真っ直ぐ天を衝くがごとき威容を誇るその尻尾は、つい先ほどまでは細かく震えるオマケ(オプション)つきだった。どちらも動物の猫が嬉しい時の反応で、震えてる方は興奮まで入っていると言われている。脳波とかの研究結果が記載された論文を読んだわけじゃないが、前世での地域猫の反応を見るに大きく外れてはいないと思われ。

つまりこの妹系年上猫(アーニャ)、表面上は食ってかかっているものの、内心ではめっちゃ喜んではしゃいでいるわけだ。無視された事すら構ってほしいと突撃する理由になるとか打算的な考えまで巡らせている可能性が……ないな、アホだし。

 

「まァ生理現象だし無理に押さえつけるのも無理か。よしよし」

「ふみゃあぁぁぁ……」

 

おわかりいただけただろうか。ご覧の通り即オチである。地域猫を虜にした前世の経験に加えて『神の恩恵(ファルナ)』で底上げされた器用の基本アビリティが、そして地味に【連鎖地獄(ケッテン・ヘレ)】まで乗ってしまったアタシのナデナデは……最早、凶器。

 

――こ、この泥棒猫に天誅を与えるっす!

――慌てるな……次も敵とは限らんだろう

 

なにやらエイジャが荒ぶっていらっしゃるが、そういえばここ最近モフり倒してねぇな。オッサンと姉御が休暇終わって教会を後にしたら存分に構い倒してやろう。それまでは倉庫内の制圧を頑張ってほしい。

いやね、自分の魔法ではあるんだが【異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】の中と言えばいいのか微妙な感じな空間は不可侵な初期部屋以外には多様な生態系が築かれているらしく、やや危険もあるらしい。

具体的にはまさかのガチャなフォース連中が日夜生存競争を繰り広げているんだとか。無限湧きするデスボーグをみんなで協力して倒しつつ、自分たちでも縄張りというか勢力争いもしているらしい。地獄かな? なおGFコマンダーは不在。良かった、10cm程度から唐突にビルサイズどころか大気圏外に届くサイズまで巨大化するガチャボーグたちはいなかったんだ……ラスボスがいたわ。いやいるか知らんけど。倉庫内に収まるサイズじゃねぇし……GFエナジー抑えればサイズも縮むから可能性自体はあるのか。どうなってんだアタシの魔法。未知過ぎるだろ。

 

とりあえず今は流体になったアーニャの穴埋めをしねぇとだな。こんなところで立ち往生させるのはいくら何でもマズイ。何故か【フレイヤ・ファミリア】の隠れ護衛的なのがいないっぽいし。仮に闇派閥(イヴィルス)の襲撃があっても幹部じゃなきゃ蹴散らせるのはさておき。

つーか美神の魅了って今のアーニャを無差別に量産できるくらいの効果持ってるんでしょ。怖いわー。

 

「あー悪ィ。復帰するまで代わりの護衛と荷運びやるわ」

「そうですか? じゃあお言葉に甘えます」

「あいよー」

 

腰砕けになったアーニャをシルに任せ、巨大な鍋や器が積み込まれた台車を引く。むしろスペースを空けて二人にも乗り込んでもらう。

 

「じゃあ、豊穣の女主人に脱落者はない感じか」

「そうですね。今日の炊き出し中に襲撃はありましたけど、アーニャが頑張ってくれました。それに【アストレア・ファミリア】が駆けつけて下さって」

 

ふむふむ。やはりさっきの野営地(キャンプ)でイベントが起きてたらしい。半分は女神様のフォローなんだろうが、残る半分は背中で語った正義眷族の行動か。

 

「なるほどねェ……この状況じゃ連中も大変だろうなァ。人数的に全部を守れるわけねェし。守ってくれなかったーとか足引っ張られたりもするだろうし」

「そう、ですね……仕方のない事だとは、思いますけど」

「まァ、気持ちはわかるがな。被害者の立場なった時はアタシも自分の無力だけじゃなく周囲へ八つ当たりみてーな恨みを抱いたもンさ」

 

力を求めて身につけようと足掻いてたアタシでも、既に力を持ってる連中を相当に恨んだからなぁ。無力である事を良しとした諦め連中ならさぞ責任転嫁の逃避に走るだろうよ。

 

「被害者……ですか?」

「そーそー。妹を闇派閥(イヴィルス)に拐われて人質に取られたのよ。アタシのミスだったンだが」

「え……」

 

まーリリを人質に取られたのは、結局のところアタシの力不足と油断ではあるんだよな。信用できる相手がいないと諦めて自己強化に走ったけど、例えばソーマに許可採った上でアストレアやゴブニュに預けてたら陰険眼鏡(ザニス)の手は及ばんかっただろうし。

原作情報から三下と侮って放置した結果がアレだもんなー。むしろ原作時間軸まで検挙されずに済んでる以上、小悪党としての才覚は認めてたわけだしもうちょい対策できてたはずなんよね。当時のブリューナクくんいれば平気っしょとか思ってたら破壊できる上級冒険者が派遣されて来たわけだし……結局あれの実行犯が誰か判明してねぇんだよな。被害にあって怖い思いをしたリリに聞くのもためらわれたし、闇派閥(イヴィルス)の酔っ払い連中は不参加だったらしいし。

まぁ自分の立場を守るために本拠を襲撃させるとか大胆な手を打ったやつのが上手だったわけだし、なんだかんだソーマはソーマで眼鏡の思惑を利用してリリに『神の恩恵(ファルナ)』授けて生死の確認だけはしてくれてた。そもそももうちょいはっきり団長を支持する声を上げときゃ違ったかもなぁ。

とはいえ、その場合は人造迷宮(クノッソス)に入る手段はなかっただろうし、エイジャはまだしもラピスにはほぼ確実に会えなかった。オッサンと姉御に絡まれる可能性もぐんと低かっただろうからLv.6には到達してねぇな。そう考えたら正にサイオー・ホースな。

 

「今となっては思い出に過ぎねェさ。悪ィ事ばっかじゃなかった」

「ラジルカさん……」

 

この言い方で闇派閥(イヴィルス)側として襲撃してねぇと、リリを喪って理由がなくなったから抜けたみたいじゃね? そんで自暴自棄になってたところを誰かのおかげで立ち上がったみてぇな? 縁起悪いな、オイ。

発言内容自体は本心で嘘ってわけじゃねぇから、さしものシル(フレイヤ)も勝手に察して勝手に痛ましい視線向けてるけど、違うからな?

つーかこいつから見たアタシの魂の変化が流れ沿ってるよな多分。一時的に闇堕ちして復帰したからリリ喪失と立ち直り扱いされてねぇかこれ。うーん、面倒だし訂正しなくていいか。

 

「そろそろアーニャも回復しただろ。アタシは人混みが嫌いなんでな、代行はここまでだ」

「げっ、バレてたニャ」

「わかりました。ミア母さんには無事を伝えておきますね。ありがとうございました」

「あー、あー。そうだな、ならついでにこれも渡しといてくれ」

「これは……スコップですか? それにこっちは……」

「いわゆる賄賂だ。武器の予備にでもしてもらってくれ。そっちの装飾品(アクセサリー)は敏捷と耐久に小補正のかかる魔道具(マジックアイテム)だ。『神の恩恵(ファルナ)』の有無に関係なく効果あンのは確認してあっから、店員で分けて後は自分で使うなり誰かに託すなり好きにしてくれ」

 

この一大事に顔を出さない事で怒りを買う可能性はあるからな。ワケありとして姉妹揃って雇ってもらうルートをむざむざ潰すのももったいないし、生存率を上げてほしいのもある。

 

「おミャーまさか神秘持ちだったニャ?」

「もう、アーニャったら詮索はいけないよ。ラジルカさん、重ね重ねありがとうございます」

「……死んだら終わりだからな」

 

復活したアーニャがめっちゃ驚いてるけど、別に自作したとは言ってねぇだろ。相変わらず残念な猫である。まぁ流れ的に不自然ではないし、実際自作なんだが。

マナー違反を咎めるシルも装飾品としてのデキに興味津々っぽくて多少意識が逸れた感があるんで、当たり前な内容だから嘘の要素は欠片もないけど流れ的に思わせ振りな台詞を聞いて残してアタシはこの場を去るぜ!

 

 

 

帰ったらただいまとお迎えのハグをしたリリから「また別の牝の臭いが……」と虚ろな目をされたのは、不幸な事故だったと思います。

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