そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

89 / 202
89.始まりました。良い感じに進んで下さい。

「そンじゃ出かけっぞー」

 

――はいです!

――行くっす!

――マッハで蜂の巣にしてやんよ

 

抗争七日目。エレボスの計画では力と力、意地と意地のぶつかり合いになる最終決戦が行われるらしい。競技大会かな?

今日ばかりは遅刻厳禁という事で早めに準備を済ませ、外へ出る。昨日は素体作りで徹夜したし、リリたちは特訓(マラソン)で疲れてたから早寝早起きになっただけって話もあるが、真相は闇の中だ。結局オラリオ出るかの相談できてねぇんだよなぁ。

ちな、隠密行動を心がけるのと行き当たりばったりになる可能性の高さから、リリたちには倉庫に行ってもらってる。つまりその気になればオッサンと姉御を回収したら無許可で出奔も可能ってわけだ。でも仮にやったら信頼関係にひび入って死ぞ。

 

「何あれ……でっか」

――すごく……大きいです……

――あれがかまくらってやつっすか?

――レイヴン、助けてくれ! 化け物だ!

「氷の壁……視界を遮るためなンだろうが、内側にどンだけ詰めてンのかさっぱりだわ。寒くねェのかな」

 

夜明け前に教会を出て、屋根に飛び乗り周囲を見回したら、中央広場(セントラルパーク)を囲むように巨大な氷の壁がそびえ立っていた。抗争の影響で見通しが良くなってる事もあり、ものっそ目立つ。

まぁすぐ近くにバベルとかいうアホ高い塔があるんだが。とはいえバベルは日常風景だから新鮮さで氷に目がいくけどな。

しかし氷がどんだけ厚くても爆弾持ってる勢力の前じゃハリボテに過ぎないだろうから、目的は目隠しなんだろうな。気温低いと分子の運動も大人しいから内側からのにおいも封じられるか。さてはて、何を隠しているのやら。

 

あとリリは後でちょっと話し合おうか。偶然ならいいんだが、狙ってわざとなら……いやまぁほぼアタシの責任ではあるんだが、契約を望んだり台詞を流用したりはリリの意思だしな。

まだ性教育は早いと思ってたが、このまま腐海に呑まれても困るんでちゃんとしねぇとだよなぁ。逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……目標(意味深)をセンター(意味深)に入れて(意味深)スイッチ(意味深)。名言を汚すな定期。

 

――情報が不足していますね

――あ、あァ、そォだな。とりあえず……教会周りの迎撃装置を復帰しておくか

――ワナ……か

――情報集めないっすか?

――今この時間帯に動いてっと、それだけで目立つからなァ

――やりすぎる……隙だらけだ

――それは教会の周りでも一緒なのでは……

――っす

――はっはっは

 

もしかしたらしばらく帰らない可能性もあるし、だからこそしっかり保守しておく必要がある。内部は人形兵(ゴーレム)がいるから安心だけど、外側はなぁ。

仮にも一時期は闇派閥(イヴィルス)が根城にしてたっぽい場所だし、抗争後に残党が来ないとも限らない。あるいはギルドが被害の調査に来るかもしれんからな。割に合わないから放置安定って諦めてくれるように気合入れて罠をしかけるぞい。

 

 

とかなんとか言って罠の設置してる間に夜が明けて開戦してたわ。なんか閧の声上げてるし。

 

「張り切ってるねェ」

――お姉ちゃんは加勢しないのですか?

――基本的にギルドとズブズブな有力【ファミリア】たちへの試練だからなァ。しかも上澄み連中は因縁まみれだ。下手に介入するとお互いの作戦が崩れて読めなくなるし、恨みを買う羽目にもなるンよ

――ほへー

――まァ、力貸すとしたらオラリオ側なのは決まってるがな

――当然の結果だな

 

さて、教会の屋根から見るに、北西(ここ)は放置気味だな? ギルド本部があるんだから中央の次くらいに激戦区でもおかしくはないんだが。

さては【殺帝(アラクニア)】ってばここに来てナメプしてるな? 趣味に走っていいのはLv.談義と一緒で相手より二周は上回ってからだぞ。地頭互角で選べる手段の非道さだけ勝ってるから優位程度の差しかねぇのに馬鹿か? 馬鹿だったわ。今すぐこの戦から……いやまぁ頭が終わってるから勝ち目があるのか。しかもこの頭でも失ったら機能不全に陥るのか。闇派閥(イヴィルス)くんさぁ……。

 

うーむ、しかしこうなると土地の防衛を理由に参戦するのは難しいな。歩き回るのは得策じゃねぇし……バベルの壁にでも張りついて俯瞰してみるか? 市壁の上で十分だな。

 

 

「つーわけだ。情報よこせ」

「は? え……」

 

屋根伝いに最寄りの市壁の上に到着。近くにギルド本部あるのに何でか内側より外側を警戒してたから簡単に近づけたよね。姿隠しと神酒(ソーマ)の香水使ってるから厳重な警戒敷いたところでLv.1や2じゃ無意味なのは言わぬが花ってやつか。

明け方なんで気温は低く、先日同様に靄もかかってる。睡眠ガス入りの煙玉……というより発煙筒に近いタイプをばらまいても、周囲からは局地的に視界が悪いなー程度にしか思われないだろうから実に好都合。

 

「安心しろ、寝てるだけだ……お前以外は。少なくとも今はまだ、なァ?」

「ひ、ひぃ……ッ!」

 

寝落ちした中から一人適当に選んで叩き起こしたら、偶然にもLv.2の現場指揮官やってる上位兵だった。とりあえず尋問を……なんて思ってたら、派手な爆発の音が響き渡る。

 

「あァ? あー、市壁崩して……モンスターで撹乱か。悪役ではあるけど素直すぎンだろ。氷のせいで目も鼻も通らねェから中央隠れたままじゃん。つーか空飛べるモンスターに爆弾持たせて爆撃の一つくらいすりゃ早ェのに。お行儀の良い指揮官様だよ全く……なァ?」

「は、え、その……」

「考えても見ろよ。わざわざ市壁潰したところで最初から誰が逃げれンだ? オラリオから逃げたところでダンジョンもなしに再起なンざできると思うか? あの最強(ゼウスとヘラ)相手にだぞ? まァ寿命近そうだし隠れてりゃ繰り上がりで天辺返り咲けそうだがよ」

「そりゃ……確かに……でっ、でもよぉ」

「まァいいや、背後気にせず砦攻めしてる能天気共の尻蹴り上げとくのも仕事の内だ。じゃーな」

「は? あぁ、え……誰だったんだ?」

 

最後の呟きしっかり聞こえてるんだよなぁ。まぁ、ごもっともすぎて怒る気にならんが。

とりあえず注意はモンスターや自爆組が集めてくれてるし、アタシはアタシで動こう。

 

――ネキの知名度に全僕が泣いたっす

――目立った活躍はしてねェからな、アタシは。リヴィラの街も酒場も大して利用してねぇやつなら外見で判別は無理だろ

――未だに小人族(パルゥム)の評価は低いままですものね

――実際は侮ってくれる方が仕事をしやすいンだがな

――はぁ、誰もがお姉ちゃんくらい強かなら、今頃は違ったんでしょうねぇ

 

強かって意味じゃライラとかフィンとか現状でも多かれ少なかれ知力勝負してるところあるから強かではあるんだけどな小人族(パルゥム)。問題は暴力で潰されるっていう原始的な理屈を跳ね返す手段を持ち合わせてない事であって。『神の恩恵(ファルナ)』でも能力伸びにくくて適性低めってどんだけ不遇にしたいんだ。

でもいつか引き金の軽い高威力な銃が普及したら報復し放題な世界が訪れて、いかに撃たせないかの勝負になるから体の大きさもあんまり関係がなくなるんだが。神を送還して『神の恩恵(ファルナ)』の存在しない世界になったら更にその傾向が強まる。あってもなくてもやり方次第ってわけだな。そこに辿り着いてない時点で負け種族の認識は妥当っちゃ妥当。

まぁ大きいは強いってのも普遍的なんで、唯一人間にあるとすればって消去法的に挙げられる生存本能由来の根幹をなす価値観なら仕方ないんかね。だからって勝手に怖がって、頑張って殺しにかかって、成功したら利用価値を見出だして絶滅するまで狩る事を止められない。いやはや賢いんだが愚かなんだかわからんよな人間。

まぁ種を絶滅させても人間が問題なく生き残ってる以上は何で滅ぼしちゃ駄目なのかって首傾げるだろうけどさ。農耕民族に切り替えても始まりは野生の狩猟民族だから、別の獲物を探して命なり資産なりを奪えばいいって考えは抜けねぇんだわ。

つーかそれを自制できるやつばっかなら法律なんて罰則(デメリット)をちらつかせて諦めさせる方法は取らんでいいはずだし。逆に遵法精神で『バレなきゃいい』とか『他人に迷惑かからない』とか『これくらいなら』ってのすらなしに我慢だらけの生活を送れるってのはすげー素質だと思う。

 

さて、これだけモンスターが好き勝手して混沌としてるなら堂々とギルド本部に救援の名目で向かうのもありか? フィンに捕まると面倒だしやっぱパスで。割と攻勢が緩いし、別区画に応援という名の見物に行くのが吉か。

モンスターの分布は東西南北……西だけ追加で南北に別れてんな。近いのは北か南西……【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)あるじゃん。どっちも戦力的に十分な気がするし、ガネーシャは指名手配されてたりしたらアウトだからパス。南も【フレイヤ・ファミリア】の本拠地あるだろ。そうでなくとも大賭博場(カジノ)とかあるし都外の富豪連中とか詰めてるなら警護は厳重よな。なら残るは東か……遠いな。もう動かなくてもいい気がしてきた。なんならやっぱりバベルの壁に張り付いてようかな。

 

なんて考えてたら中央の氷が一部吹っ飛んで、すぐさま中央広場(セントラルパーク)が丸ごと結界で覆われた。

 

「オッサンが閉じ込められた件」

――中にいるのは……【猛者(おうじゃ)】一人!?

――嘘乙って言いたくなるっす

――じょ、冗談じゃ……

「「「オオオオオオオオオオッッ!!」」」

――今度は何です!?

――多分隠れてた冒険者が挟み撃ちに出たっすね

――なるほど、噂通りか

「ふーむ……なンだ、出遅れた感パネェな?」

 

いやまぁ動いてたら移動中にあの多重結界張られて中央広場(セントラルパーク)に閉じ込められてた可能性あるしな。仮にそうなったら気まずいなんてもんじゃねぇのよ。だから結果的には正解だった。

 

「とりまオッサンの様子は見ておきてェな。簡単に決着がつくとは思わねェが」

――他の区画は大丈夫なんでしょうか

――ネキの良いとこ見てみたいっす!

――ひとつ、派手にやってやろうぜ

 

結局のところ、アタシは市壁から元の北西――正確には西北西に位置する教会の屋根に戻ってきた。襲撃が緩めで中央に向かう場合も障害が少ない利点がある。

まぁ、倉庫内からは人助けに動けとせっつかれてるが。

 

「……向こうもそろそろ始まってンのか?」

 

継続する――徐々に大きくなっている――地面の揺れは、モンスターが階層をぶち抜いてダンジョンを昇っている証明なのだろう。

しかし砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)なら58階層から52階層までを一度にぶち抜くっぽいのを考えれば、呼んだモンスターは火力としては弱いんだろうか。52階層から58階層までが撃ち抜きやすいよう階層間の地層が狭く脆い可能性もあるが。

 

「リクエストもされたし、どこ向かうか意見とりまーす希望どうぞー」

――どこでもいいです!

――どこでもいいっす!

――ただし列車護衛が最優先ということを忘れないように

「よーし、みんなまとめて後で説教だ」

 

君らさぁ……まぁどうせならモンスターの集ってる各方面の隙間に陣取って拠点の周りに狙撃……砲撃? していくか。死地を乗り越えて成長を促す目的からすれば真逆なんだが、まぁ他ならぬリリの頼みだ。多少派手にやるとしますか。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。