そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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90.介入始めました。読唇術下さい。

やる事は簡単。モンスターの集ってる各拠点から離れたポイントを確保。そしてそこから拠点周辺に向かって爆弾をぶん投げる。以上。

実際は本命である起爆まで回数制の爆弾を、別の爆弾で方向修正しつつ加速させる手法で着弾させる。これって扱い的には多段式ロケットになるんかね?

 

「その前に、遅くなったけど一応警鐘鳴らしておくか……じゃ、よろしく頼む」

 

焼き物(セラミックス)の全身鎧に身を包んだ人型――ぶっちゃけ武人っぽい格好をした埴輪――の人形兵(ゴーレム)に、調教(テイム)能力を底上げする魔道具(マジックアイテム)の存在について可能性を指摘したメモを託して送り出す。フィンならこれだけで最悪の事態を想定し対策を打ち出すだろう。途中で攻撃される可能性を減らすために、白旗上げながら走ってもらう。装備――実際は本体(ボディ)だが――は安っぽいが、能力的にはLv.3相当なのでギルド付近の冒険者じゃ迎撃が間に合わない可能性は高いが。恐らくはモンスターも避けて進めるはず。

お使いが終わったら自由裁量でモンスターを狩っていいと命令してあるので、防衛にもそれなりに貢献してくれると思われ。なお、アタシは正規の神官(ラビ)なわけじゃないので、額には平仮名と片仮名を混ぜて『しンり』って刻んである。エメスがメスになって終了なんてトンチの効いた弱点は存在しないので、倒す場合は一撃で全身丸ごと蒸発させる必要がある中々の強者だ。仮に暴走した場合? 自爆するしかねぇモードに移行する仕組みになってるよ。

 

「そンじゃ一発目、景気良く行くぞー」

 

最初に狙うのは南部。さっきの挟撃で東側に雷が落ちてたから、【フレイヤ・ファミリア】の幹部が分散されてる可能性あるんよね。しかもオッサンの氷を砕いた部分も南。普通に考えれば真っ直ぐ最短を進んできただろうから、つまり初期配置の戦力が蹴散らされてる可能性大。

さすがのフィンもオッサンの位置までは予測してなかったろうから、予備の戦力だっていないだろう。要はここだけ戦力が不足してると見る方が良さげなんだよなぁ。実情は知らんけど。

 

「ポイっとな」

 

爆弾を投げたら次の目的地に向けて即移動。発射地点を割り出されて襲撃されるなんてゴメンだしな。おそらく高い場所に立って街全体を眺めているであろう【殺帝(しきかん)】から隠れてたままいけるのが、単純な狙撃と比較した場合の利点よな。屋根を飛び回るより地面走る方が狙撃される心配も減らせるし。

で、手元を離れた十二個の爆弾はそれぞれの軌道修正用爆弾に導かれ、攻めあぐねいているモンスターの群れに向かって突っ込む。そして上空で起爆した。

これは道に穴開けたらまずいよなって配慮であり、失敗したわけではない。念のため。誰に向かっての言い訳なんだろうな?

 

――ネキ、成果が見たいっす、成果!

――しょうがないにゃあ……

 

エイジャの要求(リクエスト)に応えるため姿隠しを起動して屋根に飛び乗り振り返ると、まぁ人もモンスターも混乱している様子だった。

つーか、すっかり忘れてたけど闇派閥(イヴィルス)って爆弾持ちが混じってるんだったな。しかも大半は火炎石製の。なんかそいつらに誘爆して、しかもそれに【連鎖地獄(ケッテン・ヘレ)】まで乗ったらしくて、しっかり地面に複数のクレーターができていた。もしかしてアタシが拾った火炎石を使った爆弾だったのかもしれんね。ここにきて検証したい事が増えるとは。する余裕ないけど。

 

「【芸術家(ファイアワーカー)】……あの裏切り者があああああ!!」

「おォ? 思わぬ大物が釣れたな」

 

いやいや、Lv.6の聴覚がまさかの声を拾いましたよ、っと。せっかくだから声した付近にプレゼント贈ろうか。地面に降りて走りながらの打ち上げ花火ならぬ手投げ花火。ただし加速用爆弾の後押しを受けて運ばれる先――爆発する予定の高度は上空300M(メドル)。そして投げたら移動(ダッシュ)

 

――どちらさまですか?

――【殺帝(アラクニア)】って呼ばれてる闇派閥(イヴィルス)のお偉いさんだな。

――ネキと僕が出会うきっかけを作ったやつっす

――なるほど、お姉ちゃんの記憶にある恋のキューピッドというやつですか

――んもーリリちゃんはすーぐそういう僕の喜ぶような事さらっと言うー

――やるじゃない

 

ラピスのそれはニコッって付く方が思い浮かぶんだよなぁ。つーかAC縛りはいつまで続けんだこいつ。

そんな戦場の空気に似つかわしくない――倉庫内だから仕方ない部分もあるが――和気あいあいとした会話の最中、オラリオの上空に一瞬で燃え尽きる花が何輪も咲く。

周囲からしたら全くの意味不明だろうが、まぁ陽動だかんね。本命は上空約一万M(メドル)から音速の約30倍でピンポイントに突っ込んでくる自爆系人形兵(ゴーレム)だ。Lv.5に有効打を与えられる範囲は半径30M程度に留めてある(実体験)んで、瓦礫とか含めても被害は建物の一部に留まるだろうね。

自分で作っといてなんだが、生まれてきた意味が特攻ってのは中々に後ろめたさがヤバい。浪漫とか言ってらんない。故に花火は陽動を兼ねつつも鎮魂の意味を持ち、散り行く者への献花を兼ねる。いやまぁ人形兵(ゴーレム)に魂はないんだが。

普通に戦略兵器な気もするが、対黒竜を見据えればこれくらいスピードないと避けられそうだししゃーない。火力に至っては今回使うのじゃ全然足りないはずだし。今も地上まで伝わって地面を揺れてるのってダンジョン18階層で推定Lv.6の黒モンスターとかLv.7の姉御が起こしてるんでしょ。アタシのミノ集団吹き飛ばした12階層の火炎石数個分(アレ)でも地上はそんなに揺れなかった事を考えたらエネルギー量どうなってんだって話だよ。しかもそれが黒竜に通じなかったっぽいとかどんだけなんだ。

 

――綺麗……

――風流っすねぇ

――ミサイルカーニバルです、派手に行きましょう

 

倉庫の面々と同様に周囲の多くが曇り空の下で輝く花火に目を奪われていると思われる中、叫び声を発するというかハッスルしちゃった大ガバ【殺帝(アラクニア)】への罰ゲームが執行され(着弾し)た。

爆発物への恐怖を薄れさせる名目で仕込んであった、爆発音を掻き消すほどの爆音で(クソデカい)、録音しておいた酔っ払ったアーニャの情けない鳴き声がオラリオの街に響き渡る。すげーシュールだわ。シリアス破壊爆弾と名付けよう。多分豊饒の女主人関係者とか兄猫(アレン)辺りはズッコケてるんじゃなかろうか。アタシは夜空に浮かぶ星を繋いで描かれたサムズアップするアーニャのバストアップ絵――多分、幻覚――に向けて敬礼しておいた。次の機会があったら花火の中にそれっぽい絵柄を描く花火を用意しておこう。

まー仮にもLv.5なんだし、恐らく【殺帝(アラクニア)】は効果範囲外に逃げ延びてるだろうな。周囲の上位兵たちは知らんが。

 

「さて、思わず煽っちまった。闇派閥(イヴィルス)側の作戦が前倒しになる可能性が出てきたな」

――声、大っきかったですもんね

「それな」

 

被害が出た場所から近い場所にいる事くらい気づくだろうに、叫んでここにいますよアピールはあまりにも迂闊なんだよなぁ。感情を制御できないとこうなるよって教科書に載せていいくらいの失態だわ。

まぁ爆弾使うって情報はあっても闇派閥(イヴィルス)の前じゃ真っ当に長卷やら槍やらでやってるのしか見せてなかったし、まさか誘導弾(ミサイル)モドキまで持ってるとは気づかんかったろうが。知ってたら大量発注届いてただろうしな。

 

 

その後しばらくは一進一退、ややオラリオの優勢で盤面は進んでいた。頭がお休みしてても手足は頑張っているらしい。南はアタシの介入で割と余裕が出ていた感はあるが、元の作戦通りなのか、それともやはり都外の富豪でもいたのか、別の場所への援軍に向かうような動きはなかった。

そんな中、アタシは建物の屋根に上ってオッサンの敗北を今か今かと待っていた。姉御はちゃんと粘ってるだろうか。地面の振動は大きさが変わらなくなった。おそらくは戦闘が始まっているのだろう。

 

「うーむ、オッサン体ボロボロなはずなんだけどな」

――普通に競り勝つどころか無傷ですね

――伝説、伊達ではなかったか……

――なんか会話してるっすね。めっちゃ余裕に見えるっす

「いやー、持久力はお察しだから立ってるだけでもガリガリ削れてるはずだぞ。何なら座ったり横になったりしても回復するかどうか。悠長に会話するのはいいンだが、咳き込んだり血を吐いたりしそうで怖ェわ」

 

中央広場(セントラルパーク)ではつい先程まで金属同士のぶつかり合う甲高い音が断続的に響いていたが、今は止んでいる。そこには膝を突くボロボロな【猛者(おうじゃ)】の姿が!

はい、珍しく武装らしい武装をしていたオッタルでしたが、打ち負けずに真正面からぶつかり合い、たまに惜しいところまで行ったりもしました。ですが最終的には有効打なしで判定負けです。倒れてはいねぇからこっから覚醒みたいなの起きるんかね。

 

「おっ」

――立った!

――オッタルがおっ立っ……今のなしっす!

――逃がすわけねえだろ! テメエだけは!

――アッーっす!!

 

惜しいやつを亡くした。

さておき、【猛者(おうじゃ)】が立ち上がった。しかも振り抜いた大剣が届いた。兜を弾き飛ばされたオッサンの圧が強まる。柄にもなく吠える二者。どんなやり取りかはわからんが、漢同士の暑苦しいぶつかり合いが再開される。こんな事なら読唇術を習得しておくんだったな。リリは邪神共に仕込まれてできるんだよね。

オッタルの再起を受けて、各地から雄叫びが起こる。そうして形勢がオラリオ側に傾こうとしたタイミングで、今度は闇派閥(イヴィルス)側の動きに変化が起きた。

各地を攻めていたモンスターが一転、中央広場(セントラルパーク)へと殺到し始める。何なら警鐘が鳴らされたと思ったら各地からおかわりがやってきてた。どうやら後続連中(そいつら)が【イケロス・ファミリア】の捕獲して来た新鮮なダンジョン産のモンスターだったらしく、一部の外で戦ってた面子がモンスターの行進に呑まれる。つーか面子が下層とか深層ので、稀少種(レアモン)まで混じってるんだが。

各拠点への攻勢は緩くなったように思えたが、そうは問屋が卸さなかった。

後続は基本的に調教師(テイマー)の制御下にあるっぽいんだが、それも完璧ではないらしく、一部のモンスターが餌のにおいに誘われて拠点側へ流れてきた。そんなわけで守りも割ときつい感じに。代わりに、今までは街への被害を気にしてた防衛側の戦い方もなりふり構わない感じになってた。これはフィンの指示かね? ギリギリだけど警告しといて良かったわ。

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