そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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92.峠は越えました。声をかけてあげて下さい。

「つーわけなのよ」

「なるほどのぅ……」

 

アタシが訪ねてきた経緯を聞いて、目の前の老人……老神(ろうじん)はアゴヒゲをさすりながら感慨深げに長い息を吐く。

 

「恩恵が消えた時にはついに逝ったかと、そりゃあもうしみじみとした気持ちになったもんよ。秘蔵の酒まで開けてな、月夜に献杯したわ……それが」

 

一旦言葉を切った老神は、ニヤリと表情を歪めて、アタシの背後に視線を向ける。

 

「まさかこんなチビっこくなって帰って来るとはなーー! プークスクス!」

「うるせぇクソジジイ! 好きで小さくなったと思ってんのか!?」

 

本邦初公開。これが現在肉体年齢約七歳の元オッサン、現ザルドくんの姿だ!

顔の傷痕はないし、全体的に細っこくてチマい。元よりオッサンの髪の毛から遺伝情報をごにょごにょしてデザインされた素体なんでほぼ本体と言って問題なく、これがあれになるのかと思うと人体の神秘を感じずにはいられない。まぁ人間そんなもんだ。声も見た目相応に高くて、叫ばれると耳がキンキンするから要教育だな。

総合するとクソ生意気そうな子供であり、現にガキ大将系のクソガキムーブをキメまくっている。この辺はどうにも精神年齢が設定された肉体年齢に若干引きずられているらしい。貴重なデータなんで忘れないようにしたい。

 

「おぉ?、 なんじゃやるか? 恩恵もなく、そんな矮躯で、老いたりと言えどもこの筋骨隆々な儂に勝てるとでも?」

「上等だクソジジ「黙れ」グエッ!?」

「ブゲッ!?」

 

椅子を倒しながら立ち上がり身を乗り出したザルドを、そして迎え撃とうと立ち上がり構えた老神を、革製の鞭が打ちすえる。

 

「全く……()()でじゃれ合うのは一通り話が終わってからにしろ」

「……ウッス」

「痛たた……お主は変わらんのぅ」

「ふん……」

 

こちらは元姉御の現アルフィアちゃん。こっちはザルドよりも更に若い約五歳ボディで、精神年齢も引っ張られているはずなのに、何故か性格は大して変わらない。静寂を好み喧騒を厭うクールビューティ暴君のままだ。

こっちは遺伝子使えんなーと思ったんで【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】にいい感じの調整を頼んで作ってもらった素体を使ったんだが、困った事に生まれつき抱えていた不治の病は魂由来だったのか残ってしまった。一応、症状がめっちゃ軽くなって直接的に命を脅かす心配はなくなった。非常に言いにくい事だが、いざというときのギャグ要因になったとも言える。アタシのスキルが本当に済まない。ソシャゲのイベントみてぇなお祭り騒ぎがある度にキャラ崩壊してそこら中に血を撒き散らすんだろうなぁ。あるいは自分以外の血かもしれんが。

ちなみに鞭は村に来るまでの道中で襲ってきた暴れ牛の革から作った。あっさり使いこなす辺りやっぱり天才っているんだなーと思わせてくれる。鞭の先端が音速超えするのは『神の恩恵(ファルナ)』とは無関係だかんね。現時点で多分だけどLv.2までなら普通に手のひらの上で転がせる――少なくとも地上のブラッド・サウルスをしばき倒せる――くらい強い。五歳とはいったい……。

 

「まァ、話を戻すとこの村でしばらく暮らしたいんだが、ここって排他的?」

「まークソ田舎じゃからの。そういう部分があるのは否定できん」

「あンたの知り合いってのを加味してもか?」

「儂、お前さんとは初対面なんじゃが」

 

ここまで来ればお分かりいただけるだろうが、回収したオッサンと姉御に【終憶(ビス・モーゲン)】使って転生させるのは無事に成功したし、オラリオも比較的穏便に脱出してきたよね。

あの抗争は明らかにメインストーリーっぽい流れではあったんだが、異物(アタシ)にとっては隠しキャラを仲間にするためのサブイベントのようなものだったらしい。傍観者気取りだったせいが大半なんだろうが、今更の話だわな。難易度下げて将来苦労するのは戦乙女の横顔で学んだ。Aエンド狙いなんだよこっちは。

まぁ言ってしまえばお膳立てされなきゃろくに【経験値(エクセリア)】稼げない()()()()だらけな連中に対する強化イベントだったからね。犠牲者は数万人単位で有能だったり有望だったりな冒険者も多数散ったからトータル赤字の可能性あるけど。

つーかエレボスは別に神話で特別有名な邪悪をなした逸話とか残ってねぇし、暗黒――暗闇は確かに恐怖や死の象徴だっただろうが同時に休息や安らぎの要素も感じていたはずで。それに古代ギリシャの死生観からすると魂が無事に冥界に旅立ち受け入れられるのは弔いが成功した証ですらあるんじゃなかったか。この辺は割と日本と近いよな。現世にいて悪霊やって迷惑かけとらんでさっさと死後の世界まで裁判受けに行けって感じ。日本の場合はそこで幽霊でもいいからってファイト一発して子供残したりする変態っぷり見せるが。

そもそも原初の幽冥とか言われても「あらお洒落」「なんかよくわかんないけどかっこいい」「中二乙」くらいしか感想出て来ねぇだろ。日本語で言ってって返されるぞ最悪。まぁね、ミリしらで考えたら幽→幽霊→悪霊→悪。冥→冥界→地獄→悪人→悪。つまりめっちゃ悪い系って意味なんだなとか解釈できるかもしんねぇが……うーむ。まぁ配置に関してはメガテンとかで慣れてはいるんだけどさ。

それにこの世界だと死んだら魂が天界に行くし、神も天界にいるんだよな。地下世界とかどこにあるんだ。浮島の地下って感じか? なんだよその引きこもり御用達な環境。自力にしろ案内があるにしろそこまで魂を移動するコストが無駄……ってそこは天界だから『神の力(アルカナム)』で瞬間移動できるのか。いやリソースの無駄には違いねぇだろ無から有を生み出しでもしてんのか。

配偶神のニュクスが単独で生んだ神々は負の面を司る者も多いが、エレボスとの間に生まれた神は天と昼と渡し守やぞ。そんな前世知識持ってたら絶対悪(笑)って思うやん?

要は今回の件、神としての賢さだけを頼りにして、焦りから今までやった事ない分野に手を出した可能性が高い。そら大ゴケするだろ。オラリオ勝って終わったけど満足して逝けたんだろうか。一応【アストレア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア(アイズとリヴェリアとガレス)】が犠牲者なしで姉御と黒ドラゴン倒した場面を見届けただろうから、そこに次世代の英雄を見たか? アタシならこんなはずじゃなかったって指揮官として最低最悪な感想漏らしつつぬね顔(しゅうたい)も晒して失意の内に処刑される自信がある。

もっとも、ダンまち世界は神々の関係性が違うし権能も違う部分はありそうなんで、たらればに過ぎないんだが。

 

いやね、個人的にはボス戦的な山場があるかなーとか思ったりしてたんよ。それこそ転生なんて神の領分に踏み入る魔法だし、使うと『神の力(アルカナム)』に近い気配が出てダンジョン内だと誤検知されて黒いモンスターを差し向けられるなんてのもあるかなーとか考えてた。なかったけどな。

実はちょうど魔法を使ったタイミングで派手に揺れたからワンチャンあるかなって思ったりもしたんだが、それはどうやら二つ上の階層でのボス戦が終わった事を意味していたらしい。全部済ませた帰り道ではまだまだ破壊跡が生々しかったが、誰もいなくなってたし。

少し前後するけど姉御回収してブルードラゴンの『異端児(ゼノス)』を人魚(マリィ)に預けようと思ったけど地形適性噛み合わないからリドたちと合流するまでその場で護衛して、引き渡しと同時にお礼と情報交換したら用事あるからって別れて、いざ転生実験だと意気込むも18階層でドンパチしてるんだからダンジョンから出られないし、かといって『異端児(ゼノス)』はフェルズに話が漏れるから隠れ里にもお邪魔できないし、仕方ないってんでダメ元で20階層の隠れ里付近と思しき食料庫(パントリー)に向かったら休憩所がまだ残ってたから、そこで【終憶(まほう)】試したからね。人工物なのに残ってるのは謎蜜からカリカリ製造するからダンジョンの一部判定でもされてんだろうか。謎だ。

そんなわけで割とすんなり魔法は行使され、つつがなく効果を発揮した。【ステイタス】の低下というデメリットを踏まえて使用不可になりかねない倉庫から出てもらった上で護衛を頼んでいた面々からは幻想的な光景だったと感想をもらったけど、アタシ自身は半分夢現(トランス)状態だったから実感がなかった。ダンまち世界とはまた別の異世界に属する存在の神降ろしか何かなんじゃねーのかあの魔法。

で、割と重要な【ステイタス】の低下なんだが、都合二人分の転生を執り行った事で下がった数値は合計で5。ただし項目は階位(レベル)。要はLv.1のオールI0に戻された。因果魔法と銘打つだけあって、報いはしっかり受けたって事でいいんだろうか?

でもLv.7に到達した実力者二人にやり直しの機会を与える奇跡の代償がLv.6がLv.1に戻るだけってのは割と破格だと思うんよ。所詮『神の恩恵(ファルナ)』って可能性の実現であって、真の意味での限界突破は不可能っぽいし。つまり人間はいつか自力で他者を転生させる能力を獲得するに至るってわけだ。マジかよ。

手探りでも一度到達できたなら、道を覚えて再走すれば早く辿り着けるのが道理だしな。多少の運は絡むかもしれんが。限界突破は強いて言うなら理論上辿り着けるが寿命の都合で辿り着けない境地ってのはあるか。それも主従契約と【異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】を使ってメンタルとタイム……だと妖精が出てくるな。スピリットでもいいがダンまち的に考えたらマインドか? うーん、どうでもいいか。要は時流を変えて精神と時の部屋を再現して特訓させれば実現できそうだって話。

ちなみに、最初は忘れない内に転生用の素体を更に若返らせておこうと思って姉御を転生させたんだが、その段階ではLv.5に下がるだけだった。『神の恩恵(ファルナ)』の表記が変わってたのは大事というか異常事態な気もしたが、軽い疲労を覚えたくらいで済んでたからデメリットってほどじゃないやん余裕余裕とか言ってオッサンを転生させたんだよね。したらなんか表記がLv.1になってた。多分これは対象の持つ因果の違いで、姉御は生き残るルートがたくさんあってコストが安かったのかも知れん。逆に言えばオッサンの生存ルートは恐ろしくか細い可能性だったって事になるが。これはこれでベヒーモスの面目は保たれた感じだな。

しかしおそらくは下界初の現象であろうレベルダウン、あれは虚脱感がヤバかった。【異界(ヴェルト・グラオブ)】以外にも『神の恩恵(ファルナ)』はちゃんと機能してたんだなって実感した瞬間だったわ。サンキューソーマ。

恩恵を剥奪されるときもあんな感じなんだろうか。それはそれで得難い経験を積んだ事になって、再度恩恵刻んだらちょっと強くてニューゲームで始められそうな気もする。扱い的には改宗(コンバージョン)で【ステイタス】は据え置きなはずだし……神が改造してたら話は変わるだろうが。

 

でもそんなレベルダウンを経験したおかげでダンジョンの帰り道は割と怖かったんだよな。エイジャとラピスを表に出すわけにもいかんし、オッサン(ザルド)・リリィも姉御(アルフィア)・リリィも恩恵なし。リリだってLv.1で【ステイタス】未更新だし。

まぁ魔法やスキルは据え置きだったんで使用不能になってなかった【異界倉庫(ドラッヒェン・マーゲン)】にみんな詰め込んで、リリからメカーバンクルとブリューナクを借りた上で爆弾を大活躍させたわけだが。この帰り道だけで【ランクアップ】できる【経験値(エクセリア)】を稼いだ気がする。

 

そして地上に出て教会で一息吐き、抗争はオラリオが勝ったが闇派閥(イヴィルス)を根絶やしにしたわけじゃなく、人造迷宮(クノッソス)はアタシがLv.1にまで弱ったせいで残党の掃討ができなくなって危険地帯と化したから放棄するしかなくなっちまった。総合的に考えて混乱の収まらない内にオラリオ出る方がいいってなったんで、オラリオの外を知る二人に意見を求めた結果がこの村だ。地図に乗ってないってのが決め手になった。

二人の記憶を便りに山を越え、森を抜け、山を越え、やっぱり山を越えを繰り返して辿り着いた村が現在地。そして今は大神ゼウスと御対面ってわけだ。

なお、ベルを見た瞬間にガチの瞬間移動かと見間違える速さで姉御が抱き着いて押し倒してた。混乱するベルにアタシがした説明は……生き別れの妹。祖父がいるといっても家族の愛を求めていたベルにとっては正しく福音に等しく、すっかり信じてしまったベルの期待を裏切る事ができなかった姉御はその設定を受け入れた。アタシはしばかれた。

そんなベルは現在ゼウスに言いつけられて川へ水汲みに行っている。そこに念のためリリに護衛と時間稼ぎの任務を与えて同行してもらっている形だ。いやまぁリリから申し出てきたんだけどな。リリisマジ女神。リリを崇めよ。

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