第十二話:*^▽^* 【パンティー爆発】 *^▽^*
ジップライナーのGⅠ挑戦、ジャパンカップは6着に敗れて終わった。
通年は良バ場ばかりなのに、今年に限ってジャパンカップ当日は酷い大雨となって開催された。
バ場コンディションの事は対策はしていたが、ジップライナーにとってジャパンカップは、もともとパンティーの因子を使って距離適性を伸ばしてもギリギリだった。
雨が降り、ぬかるんだ芝を蹴り上げるのにスタミナの消耗が激しく、ジップライナーには厳しい状況でレースを迎えることになってしまった。
ライナーと同じくシニア期で、最初で最後のG1挑戦、有馬記念に挑むブリュスクマン。 そしてステイヤーズステークスに挑戦するアイボリーシュシュ。 アオハル杯に登録しているグラスワンダーで応援したが、残念ながら結果を残すことは叶わなかった。
この日、ライナーはウイニングライブが終わると、さっと行方をくらませてしまった。
慌てて探し回って、彼女が見つかったのは、俺のトレーナールーム。 大切に飾ってあるチーム《パンツァー》の重賞カップの前で佇んでいるのを俺が見つけた。
「ったく、誰にも行き先を告げずに消える奴があるか。 ライナー」
「トレーナー……私……ここにカップを増やしたかった。 このチームが好きだから……GⅠのトロフィーを飾りたいって欲張っちゃったのが、きっとダメだったんだね……」
震えた声でジップライナーは悔恨を口に出していた。
俺は苦笑するしかなかった。 期待していなかったと言えば嘘になる。 ライナーの逃げ脚は軽快で、距離適性だけが問題だったからだ。
今年のジャパンカップは、俺達にとっちゃ不運だったんだ。
「震えた声でバ鹿を言うな。 ほら、綺麗な顔が台無しだろう。 俺と一緒にせっかく考えて作った勝負服も、くちゃくちゃじゃないか」
酷い顔だった。 俺はもう何度も同じようにレースに負けて泣いてきたウマ娘を見て来たが……慣れないものだ。
ライナーのトゥインクルシリーズは終わった。
オープンバ。重賞の勝ち鞍はなし。
立派な成績なのだが、きっと彼女にとってはそうじゃないのだろう。
俺は懐からハンカチを取り出して、ライナーのくしゃくしゃになった顔を拭いてやった。
「ライナー。 お前が本気でぶつかって、号泣しているからこそ、俺はお前の事を誇りに思ってる。 最終直線、あれだけ粘ったんだ。 100m、ジャパンカップの直線が短かったら、分からなかったさ……なぁ、ライナー。 難しいかもしれないが、明日からは何時もみたいにうおー!とかもぉー!とか、元気な声をまた俺に聴かせてくれよ。 俺は、お前のあの底抜けに元気な声を聴くのが好きなんだ。 だから、ほら。 今だけは……俺の胸を貸してやるから」
顔を上げたライナーは俺の言葉を聞いて、また泣き出してしまった。 歯を震わせて、身体全体で俺の懐に飛び込んできたのだ。
ああ、まったく。 悔しいよな……俺ももっと良いパンティーを見つけてやれたら良かったんだがな。
「今日はこのまま……このまま、私を抱いていて、トレーナー……」
「……ああ、好きなだけ甘えて良いぞ」
本格的にうわーっっと泣き始めたライナーに俺は優しく彼女を抱いてやり、落ち着くまで背中を擦ってやろうと、塞がった手を器用に動かして電話を入れる。
ライナーが見つかったことだけは、報告しておかないとな。
そんな一幕を終え、しばらくした後のことだった。
愕然。
そう、愕然としか言えない事が起きた。
始まりは俺にうふふ、行ってきますね、トレーナーさんと嫋やかに笑ってトレーニングを始めたグラスワンダーだった。
新しいGストリングが気に入ったのだろうか。 今日はやけに尻尾を振って機嫌が良さそうな上、気合十分である。
今日のトレーニングメニューはパンティー因子の継承に挑む傍らで、トラックの『ラッシー走』をグラスワンダー中心にチームメンバーへと指示していたのだ。
ラッシー走って何? と思ったかもしれない。
フロンターラッシーというウマ娘を昔、俺は担当していたのだが彼女を鍛える為に考案した、短距離走の繰り返しである。
イメージとしては最終コーナーを廻ってから最後の直線を繰り返す形。全力で走る事はしない。
ただし、第三コーナーから最終直線まではチームメンバーと併走し、そこから加速して模擬レースに近い形で流す。
ラッシー走とは、流動的な最終コーナーで自分の走る道……要は理想的に加速できるレーンを見つけて移動する事を目的にしたものだった。
ラッシーは最終直線手前のバ群を捌くのが下手だった。 バ群は苦手なのに、追い脚はズブく。ならば逃がそうと思ったが、後ろから迫るプレッシャーに弱く。
前も後ろもダメならば、じゃあもう、頑張ってバ群を捌くしかないよな、ってことでとにかくラッシーを最終コーナーからバ群に混ぜて走らせた。
そんな過去の練習から、俺のチームでは自然とこの形式の練習を『ラッシー走』と呼ぶことになった経緯がある。
ラッシー同様に、グラスワンダーも脚質は中団後方から脚を溜めて前方を睨む『差し脚質』
コーナーは遠心力が働くため、レース中に事故が起きやすい場所でもある。
さて、そんな訓練をチームで行っていた時だった。
グラスワンダーと、クラースナヤが唐突に、最終直線入口手前で飛び跳ねた。遠目から見ても、勢いよく跳躍しているのが見えたくらいだ。
それを視認した瞬間、俺は双眼鏡を放り出し、すぐにスマホでトレセン学園の保健室に連絡しながら二人の愛バの下へと走った。
倒れ込んでジャージの裾を抑えているグラスワンダー。
対してクラースナヤの方は、既に立ち上がって、ビックリしたぁ……と呟きながら胸を押さえていた。
スナヤも気になるが、グラスが倒れ込んだままなのが不安だった。
バレットやシュシュが心配そうにのぞき込む中、俺は彼女の前に膝立ちして、倒れ込んでいた彼女の手を握った。
「あっ……あ、トレーナーさん……」
「グラス、大丈夫か。 何があった?」
「私~、真横に居たけど何にもなかったわ~。 急にグラスとスナヤが飛び跳ねたのよ~」
シュシュの証言に頷きながら、俺はグラスワンダーの顔を覗いた。 彼女は困惑しきりに、顔を赤くしてジャージのズボンの太腿のあたりに手を置いて握り込んでいた。
まさか―――脚か?
「足首か? ふくらはぎか? 股関節かもしれん。 グラス、横になれ。 すこし足下を脱がすぞ。 スナヤ、お前もだ。 立つのは止めて、念のためにお前も座って安静にしておくんだ」
「う、うん、分かったよ」
「ま、待ってくださいトレーナー、大丈夫と言うか、ち、違うんです、違うんです。 その……」
「どうした? 隠さないでちゃんと言うんだ。 場合によっちゃアオハル杯も辞退するから」
「違いますっ! 股間が痺れてしまっただけなんです!」
「痺れた?」
「うん、ボクもビリって痺れた」
「なんだと? スナヤも……」
股関節の痺れ。
神経の圧迫か。 あるいは骨盤付近の骨の異常かもしれない。
しかし二人も同時に? これは大変な事になった。
「ち、違うんですよ、トレーナー……だから、そのっ……」
グラスワンダーは混乱しているのか、要領を得ない言葉を繰り返しながら、顔を赤らめて叫んだ。
「パンティーを履いていた部分が、ビリビリって痺れたんですっ!」
グラスワンダーとクラースナヤは嘘を言っていなかった。
一応、二人とも保健室までバレットに連れて行かせて心身の検査をさせたが、まったく問題ないとの事だった。
そして、彼女が保健室に運ばれていく間に、俺は愛バの証言からトレーナールームに駆けこむことになった。
ビリっと痺れて、その股間に生じた刺激にグラスワンダー驚いて飛び跳ねた。殆ど間を置かず、スナヤも同様のビリついた感覚を股間に受けているという。
そして倒れ込んだ時には、パンティーを履いていなかったらしい。
パンティーがワープすることは全く驚くべき事ではない。
だが履いているウマ娘の股間に刺激があった、という報告は初めての事だ。
トレーニングルームに着いた俺は、当然の様にデスクの上に鎮座している2枚のパンティー。
Gストリングだ。 それもグラスワンダーに履かせたものと同型の。 こっちはレースをあしらったフルバック。 スナヤに渡したものだ。
念のため、パンティーに触れてみれば、やはり温もりがある。
間違いない。 脱ぎたてだ。
「あいつらの履いていたパンティーなのか? これが痺れを起こさせただと? やはり、パンティーは危険な物なのか……!? そりゃワープするパンティーだ……危険でもおかしくない……くそっ!」
ほどなく、練習は中止となってアイボリーシュシュ、授業で遅れてきたブリュスクマンと合流。
ラッシー走での様子を改めて聞き取っている最中に、保健室からストレートバレット、グラスワンダーとクラースナヤも戻って来た。
それぞれの証言をまとめ、俺は今後のパンティーの運用をどうするべきか、相談……する前に、俺は全員に向かって頭を下げた。
正直言って、ビリビリする、痺れが残る、などと聞かされてはとても良い事などと思えない。
パンティーがウマ娘へどのような作用をしているのか、だけに注視して、体調が崩れる副作用があることを可能性に入れてなかった。
まずは俺の失態を謝るべきだろう。
ところが、当の被害者であるグラスワンダーとクラースナヤは、何とも言えない表情で苦笑していた。
「トーレナー、その事なんだけどさ。 ボク、むしろ調子が上がった気がする。 ね、グラス」
「はい……スナヤ先輩が言った通り、むしろ今の方が、身体が軽く感じているのです」
「軽くなったというか、多分だけど……分からないけど、うん。 速くなってると思う。 力が湧いてきてる」
「感覚的なものですから、何とも言えないのですが」
被害者である彼女たちは、むしろ良い事だと捉えていた。
ウマ娘の身体感覚は人間とは違うところが少しある。 例えば、自分の力が伸びた、と正確に直感が働く事も結構頻繁に見られる報告だ。
本当にそうなのか。
「そこまで言うなら、試走してみるか。 身体は大丈夫なんだな?」
「はい、問題ありません」
「本当だな? 問題ないのか?」
「うん、大丈夫。 ボクも走ってみたい」
―――そうしてノーパン状態で走らせてみれば(ビリビリパンティーを履かせる勇気は出なかった)ノーパン状態の記録をグラスもスナヤも、0.8秒も更新していた。
0.8秒更新だ。
しばらく、俺は空いた口が閉まらない阿呆面をぶら下げていたと思う。
愕然とするだろ?
0.8秒というと大した事の無い様に思えるかもしれないが、自己ベストを0.8秒も更新したということは、それまでの自分のベストから凡その概算で、5バ身先を走っているということになる。
もちろんレースに関わる要素は単純ではなく、様々な状況が起き得るから、練習での記録で単純に5バ身分の力が伸びたと換算できるわけではないが、それでもこれは余りに非常識な記録の伸び具合であった。
今度こそ、俺はトレーナーとしての常識。
それをパンティーに完全にぶっ壊されたと言っても良い。
「グラス、スナヤ……このビリっとしたのに、何か気付いた事はあるか? 何でも良いが……」
半ば投げ槍に、俺は聞いてみた。
パンティーの力はもう、本物だ。
俺が地道に体系立ててきた理論なんて木っ端のごとく根本からぶっ壊されるので、悔しい思いも心の底には沈殿しているが。
それでも愛バの勝利の為にパンティーを使うと決めた以上は、俺の余計なプライドは放り投げておく必要がある。
「あの~~~~、とれーなー……私~もしかしたら~って思う事があるんですけど~……」
「シュシュ、何か思い当たる節があるのか?」
「分かりませんけど~……この前、寮内の~談笑室で、たまたま皆と話したんです~」
ウマ娘の寮内で、本当に偶然に、チーム《パンツァー》のメンバーが集まった時があったらしい。
その時に、話題は俺のこと……恐らく、パンティーの事だと思うが、話題に上がったという。
夏頃から俺は本格的にパンティーを履かせて走らせるトレーニングを導入したが、本音を言うと彼女たちもそれには抵抗があったらしい。
当たり前だと思う。
元はこの学園の誰かの履いていたパンティーである可能性が高いのだから。
しっかりと俺が丁寧に洗濯はしているとはいえ、そりゃ嫌だっただろう。
春先にパンティー事件があった際に、チーム全体でパンティーの問題に立ち向かっていたから、俺達にはある程度の耐性が備わっていた。
それが無ければ、どれだけ俺が懇願したところで愛バが他所のウマ娘のパンティーなど、履いてくれるわけがないと思う。
彼女たちはシニアのライナーを中心に、そんな昔話をしながらも、随分とパンティーに慣れ親しんだし、負い目も無くなったよね、という話をしていたらしいのだ。
特にグラスワンダーは、異性の俺からパンティーを手渡せるほど、こういった事に慣れてしまった自分に気付いて、一人で勝手に悶えていたという。
「うぅ、わざわざトレーナーの前で暴露しないでください……」
「あはは、ごめん。 でも最初の頃のグラスちゃんは滅茶苦茶、ヤバかったからね」
ストレートバレットの言葉に、だって仕方ないじゃないですか、と両手を合わせて顎に乗せ、不貞腐れる。
確かに、最初の頃は俺が何を話しかけても死んだ目をしながら、頷くだけだった。
何時の間にか、グラスの方からも話しかけてくれるようになったし、パンティーもちゃんと履いてくれるように……
どうして改善されたのかと考えて思い出す。 そういえば切っ掛けはキングヘイローのおかげだった。
キングヘイローにはこの前商店街のくじ引きで貰ったパフェ券10枚を、改めて贈呈しておこうと思う。
「それに関してはトレーナーは、私たちに大感謝するべきだなぁ。 グラスちゃんの説得は骨が折れたぞよ」
「バレが一番、張り切ってたね」
「う、それは……後輩が出来て嬉しかったしチームの力になりたかったから~……えへへへ」
「まぁでも~、トレーナーさん~、バレの言う通り、私たちが頑張ったんですよ」
「ええと、その節は、私も色々と先輩方に便宜を図って頂き、感謝しております」
そうだったのか。 ウマ娘の寮での出来事は俺も知らないから、そんな事をコイツ等がわざわざ気に掛けてくれたなんて、有難いとしか言いようが無い。
グラスワンダーが俺に心を開いてくれるようになったのも、チームの愛バたちのおかげなのだろう。
「……ありがとうな、お前ら」
「ふふーん、もっと褒めたまへぇ~」
「ボクも手伝ったよ」
「私も~」
「皆さんに迷惑を掛けてばかりで、恥ずかしいばかりです……」
「あはは、まぁそれで~、トレーナーさんに何が、言いたかったのかと言うとですね」
パンティーについて俺と一緒に考えて、様々な事を受け入れて言った結果、愛バたちはパンティーへの忌避感が無くなったと話し合ったのだと言う。
むしろ、今では俺が差し出すパンティーに楽しみを見出しているくらいなのだと。
そして、自分たちがパンティーと共に成長する事を楽しんでいると結論づけたらしい。
なるほど、と思った。
正直、その考えは分からないでもなかった。
俺もパンティー因子の研究は、ぶっちゃけ言ってしまうと楽しかったのだ。
だって、俺がパンティーの事を深く知る事によって、愛バ達が強くなるんだ。
知れば知るほど。 極めて行けばいくほど。 成果が上がるんだ。 楽しくないわけ無い。
ダイレクトに結果が返ってくるから、俺は相反する感情を持ちつつも、パンティーから離れることが出来なかった。
「俺達は、いつのまにか……あれだけ嫌悪していたパンティーについて悪感が薄れて行ったんだな。 つまり、受け入れたんだ」
「あはは、トレーナーさん。 私もね、そうやってスンってパンティーを受け入れたら、自然と力が湧いたんだ。 パンティーに対して前向きになれたから」
ストレートバレットは俺の肩を叩きながら、笑っていた。 クラースナヤも頷きながら、自分用のパンティーをタンスにしまい込んでいる。
「私も、確かに……皆で談笑したあの日から……トレーナーさんとパンティーを、受け入れた……気がします」
「グラス……」
その結果、パンティーがウマ娘の信頼に応えて弾け飛んだ……まぁマジでワープしたんだが、そういう事なのか……も、しれない。
パンティーの事を考えると、時に俺は自分が何を言っているのか分からなくなり、混乱してしまう。
頭の中がごちゃついていて、整理出来ない。しかし、彼女たちの答えは本人たちが経験したからこそ出せる物の一つであることを、否定はしてはならないだろう。
何より、俺は自分の愛バ達の事は信頼している。
「このビリビリパンティーの件、少し真剣に調べてみるか」
そうして、ストレートバレット、アイボリーシュシュも二日後のトレーニングで、パンティーは股間に痺れを残してワープした。
グラスワンダーと同じように、彼女たちも痺れたパンティー事件が起きた後に、ノーパンで走らせれば0.6秒自己記録を更新することになった。
効果が実証されたことで、俺はこれはパンティーの能力の一つ、と結論付けることになった。
ゴールドシップが言っていたパンティーの力のその先。その一つが今回の件だと言う事なのだろう。
バレットが 「股が爆発したみたいだよっ! こんなの、知ってても飛び跳ねるってば~!」 などと騒いだことで、この効果を仮に 『パンティー爆発』 と名付けることにした。
俺達 《パンツァー》 の最大の武器は、更に進化してしっかりと磨かれ続けたのである。
Q.パンティー爆発……?
A.アオハル魂……