第十三話:*^▽^* 【パンティーチーム】 *^▽^*
『さぁ、最終直線。 カペラステークスGⅢ、1200mの電撃戦! 前目が団子で詰まっている! エクセレンシー捕まったか!
一気になだれ込んでくる先行勢、インセクトアロウ、ウルスラナイト、ジャズステップ、パカパカセッション! 大外廻って三バ身後ろからストレートバレット! しかし、その更に後ろからシルクフォーチュンの脚色が良いぞ!ここから先頭を撫で切るか!
残り200を切った、インセクトアロウが抜け出したか! ジャズステップ、すぐ後ろを追走している! シルクフォーチュンが外から来る! インセクトアロウ粘るが大外からシルクフォーチュン強襲! シルクフォーチュンです! とんでもない脚で一気に先行ウマ娘達を撫で切りました! シルクフォーチュンが見事に直線勝負を制してカペラステークスを優勝!! 2着はジャズステップ、3着には際どくストレートバレットか!』
『芝3600m、最長距離を走って来たウマ娘達が、栄光のゴールへと向けてぞくぞくとラストスパート! マンハッタンカフェじわりと進出! その黒い影を追いかけるように、ドカドカ、ブラングリモア、アイボリーシュシュが追いかける! 先行勢は完全に捕まったか。 今年のステイヤーズステークスは、後ろの競バが強いか! 最終直線、マンハッタンカフェが一人突き出ました、その後ろ2バ身差でブラングリモア! そうはさせじと並んでくる! 内外広がってアイボリーシュシュ、ドカドカが二番手争いに加わった。 挑戦権を得るのは誰だ。 マンハッタンカフェ、追随を許さないかこのままゴールまで行けるか! 2番手争いはようやくアイボリーシュシュか、アイボリーシュシュが必死に追うがマンハッタンカフェとは2馬身差から縮まらない! そのまま今、ゴールイン! マンハッタンカフェです! 一着はマンハッタンカフェ! 二着にはアイボリーシュシュ、、三着にはドカドカか、僅かに遅れたか! ブラングリモアは4着だ!』
クラシック期、最後のレースであるストレートバレットはダート転向後、初重賞であるカペラステークスを3着。 これだけの手応えがあるなら、十分に重賞勝ちを狙えるはずだ。
本人も走り切った後はサッパリとしていた。
調整ルームで俺を見つけると、負けたというのにピースサインを贈りながら 「トレーナー! 私ってば、結構やれたかも知んないっ!」 と興奮していた。
彼女はもっとネガティブな順位を想像して走っていたのだろうな。
一方、クラシックの春先にオープンクラスに駆け上がってから、最大の目標をステイヤーズステークスだけに絞って、これだけを勝ちに来ていたスタミナ自慢のアイボリーシュシュは、マンハッタンカフェに2バ身届かず2着だった。
こっちはストレートバレットと違い、この一戦だけに懸けていたせいか、のんびりした口調が珍しく乱れていた。 「マンハッタンカフェさん……覚えた……覚えたわ……ヒヒっ」 などと一人で壁に向かって話して居た。
正直、恐ろしい雰囲気を出しているのに驚いたが、もともと内に秘める闘志を周囲に隠しているタイプ……どちらかと言うと、グラスワンダーに似たタイプなので、まぁ納得ではあった。
そして冬の大一番。 中山競バ場。
有馬記念を、俺の愛バが……ブリュスクマンが走る。
俺達《パンツァー》のメンバーは、ブリュスクマンを応援する為に全員で中山競バ場に来ていた。
出バ表にはやはりというか、錚々たる面子が揃っていた。
白い稲妻・タマモクロス。 超高速ステイヤー・スーパークリーク。 輝く金色の逃げウマ、ゴールドアクター。
そうしたG1バに混じって、ブリュスクマンがこの有馬記念という大舞台に立てたのは、クラシックのオープン戦、若駒ステークスを9バ身差の圧勝で勝ったという、貯金があったからだ。
当時、ブリュスクマンの人気ぶりに俺は驚いた物である。
グラスワンダーも大概に才能と能力に溢れているが、ブリュスクマンも負けていない……と俺は思っている。
世代の中でも突き抜けた、最終直線の脚。 誰もがクラシックを夢見ただろう。 俺も夢を見た。
しかし、脚部不安の生じた、皐月賞前。 俺はブリュスクマンの身体の安全を最優先にして、クラシック全てを基礎作りに当てるように指示を出した。
当時はブリュスクマンも人気であり、三冠路線を狙っていたため、世間ではかなりの者たちが悲しんだ出来事であった。
春の終わりから復帰戦で堂々の一着。
そして最後に選んだG1はこの有馬記念。
きっと誰よりもこの大舞台に戻りたかった彼女が、最後のレースをこの有馬記念にしたのは意味があることだ。
「……トレーナー、緊張しているね」
「お前こそ……頬が引くついてる」
「え、そうかな?」
ぐにっとブリュスクマンは自分の頬を両手でつねった。 赤褐色の髪を揺らして、つねられて頬が伸びたまま、彼女は微笑んだ。
「あは。 そうだね」
「大丈夫だ。 パドックではお前が一番強く見えたぞ」
「……と、トレーナー」
「どうした?」
「怖いかも……」
そう言ったブリュスクマンを安心させるために、俺はぎりぎりの時間まで調整ルームで彼女の身体を撫でた。
ようやく落ち着いたのか、ブリュスクマンは笑顔で俺の視線の前に踊り立った。 軽快な足音が調整ルームに響く。
「期待して待ってて。 ライナーの分も、私が獲り返してくるから」
「……リュス」
「うん」
「怪我するなよ」
「行ってきます」
黒と赤の混じったクロスの勝負服のコートを翻して、ブリュスクマンはターフへと向かった。
『暮れの大一番、最終直線、すさまじい競り合いでした! 制したのは……態勢有利だったのはイナリワンか! 確定しました! イナリワンです! 一着はイナリワン! 2着にブリュスクマン、僅かに届かなかった! 3着はスーパークリーク! 4着はタマモクロスです!』
ああ、今年も重賞は獲れなかったな……俺は心の片隅でそう思いながら、他のウマ娘の子たちが歓喜や健闘を称えて続々と戻ってくる中。
荒い息を吐き出しながら中山競バ場のターフを眺め続けて、ただただ立ち尽くすブリュスクマンの背中を、俺は何時までも。 何時までもじっと見続けた。
ブリュスクマンのトゥインクルシリーズも、ここで終わりを告げたのである。
チーム《パンツァー》 年間総合成績、6勝13敗。 チーム成績、37位。 所属ウマ娘:オープンクラス6人
勝てなかった、という悔しさに関係なく、時間と言うのは平等に進んでいく。
有馬記念は確かに大きな競争だが、それでもURAのトゥインクルシリーズの1レースという事実は変わらない。
俺のようなトレーナーにとって、数多くある番組の一つに過ぎないのだ。
そのトゥインクルシリーズと平行して、今年はアオハル杯が開催される。 学園外にて行われる競バ―――つまりURAとは全く関わりのないレースだ。
まぁ、トレセン学園とURAは密接な関係が築かれているから、無関係という訳ではないけれど。
とにかく、格式、という意味ではアオハル杯というのは勝利したところで、高いとは言えないだろう。
かつて行われていた、というだけで今ではURAの開催するトゥインクルシリーズの方が多くの人たちにとって、力を入れるべきもの、というのは客観的な事実である。
躍起になっているのは、樫本代理が掲げた理念 『徹底的に管理した教育プログラム』 に反対した者たちだけだ。
その筆頭の反対派と言って良いのが、来週の頭には対戦することになる 『チーム:キャロット』 だ。
チームキャロットはテイエムオペラオーがその注目を掻っ攫っているが、タイキシャトルもライスシャワーも恐ろしいほどの実力を持ったG1バである。
その他のチームだって侮れない。 今回当たる相手で注目のウマ娘は、ウイニングチケット、エイシンフラッシュが目に付くだろうか。
グラスワンダーと同期でぶつかるのは、マイルではエルコンドルパサーだ。
どうもグラスワンダーが学園内でエルコンドルパサーから宣戦布告をされたようで、あの怖さのある笑顔で静かに闘志を燃やしていた。
阪神ジュベナイルフィリーズを出さない、と俺が言った時に、アオハル杯は必ず出たい、と言う理由がエルコンドルパサーの件だったらしい。
エルコンドルパサーは本来リギルに所属しているはずだが、わざわざグラスワンダーとの対決の為に、他のチームに入り込んだというのだから、余程グラスワンダーとエルコンドルパサーにとってお互いに大事な一戦なのだろう。
メイショウドトウとテイエムオペラオーも、トゥインクルシリーズから続いている因縁に此処で決着をつけるつもりでもある。
有馬記念に二人とも出走しなかった理由は、アオハル杯での決着をという意気込みしか感じられなかった。
URAの定めたレースの格式などよりも、己の誇りを賭けて戦う事の方が、大事だ、ということだ。
まぁ、青臭い事を言わないのであれば。
URA主催のトゥインクルシリーズに出てもらった方が、トレーナー成績も上がるし、ボーナスもでるし、俺達トレーナーにとっては嬉しい事の方が多い。 チームを持ってる奴は特に、チーム予算にも繋がるしな。
「しかし、アオハル杯は勝たなきゃな。 リギルはメンバーが代わっているとはいえ、当然のごとく勝ち上がってくるだろうし」
「リギルのメンバーは、急遽ということで交換留学生の参加が大半らしいですね。 しかも、噂じゃ化け物揃いです」
「一回、俺はウィンクスって子の走りを見ましたよ。 偶然ですけど。 あれ、多分化け物って言う比喩じゃすまない奴でした」
「私もリギルのダート路線リーダーに登録されていたゼニヤッタさんを見ましたけど……思わず頭を抱えてしまいましたね」
「ウィンクスって子は中距離ですか。 なら俺のドトウが当たることになりますね……欧州と日本では、バ場が違いますから、そこがどうなるか」
アオハル杯に向けての最終調整。 4日間のチーム合同合宿練習の初日。
トゥインクルシリーズも有馬記念が終わった事により、気の抜けた奴もいるだろう……と思っていた俺は、熱意ある新人トレーナーたちの会議にむしろ圧倒されてしまった。
いや、気合入りすぎだろう、お前ら。 俺が来る前から2時間も、ずっと擦り合わせと認識の共有を目的にした会議をしてたってお前。
チーフトレーナーとして、俺がさぼってるみたいじゃないか。
しかも、俺がリギルに喧嘩を売ったのは皆知っていて広まっているらしく―――多分たづなさんが広めた―――リギル打倒をアオハル杯のチーム目標として据えられている。
何度かリギルと敵対した理由について聞かれたが、あまり言いたくなかった。 馬鹿らしい上、俺の勘違いである可能性が高かったからだ。
おハナさんを黒幕パンティーだと決めつけるとか、当時の俺はどうかしていた。
たづなさんにも当たり散らしてしまったし……なんか、たづなさんも楽しんでるみたいなんだよな。 学園で顔を合わせても 「私はとれっ、いや、貴方の敵ですから! うふふっ」 などと踏ん反り返られて、唖然としてしまった。
周囲のウマ娘たちも、おおーなんて歓声を上げていたし……お茶目な人だ、まったく。
「チーフトレーナーの先輩としては、どういう戦略を練っているんですか?」
話を聞きながら、懐のパンティーを弄っていると、いきなり話を振られた。
戦略……という程のものでは無いが、アオハル杯に出場する為に寄り集まった俺達は、一つのチームだ。
トゥインクルシリーズでは敵だが、アオハル杯では味方である。
出来れば……俺のチームに参加している子には、嫌がられるかもしれないがパンティーを履かせたい。
エースとなるだろう、ナリタブライアンとメイショウドトウを筆頭に。
アグネスデジタル、キングヘイローにも。
彼女たちに合いそうなパンティーの目星は、もう付けてあるのだ。
「お前たち、本当に俺達がリギルに勝てると思うのか」
俺の言葉を待っていた、俺のチームに参加してくれたトレーナーたちに、そう問いかけた。
肯定が半分。 その殆どが新人トレーナーだった。 実際にリギルの実力を知っている経験のあるトレーナーは、難しい顔をしている者が多い。
「まぁ確かに。 今のままじゃ、天地が引っ繰り返ったって勝てないだろうな」
悔しいが、これは事実だ。 どうしようもないチーム戦力の格差が、俺達とチーム:リギルには存在している。
「だが……手は、あると言えばある」
言うまでも無くパンティーの事だ。
アオハル杯で出場する―――特に、各路線のリーダーは、基本的にトレセン学園内でも実力が高い事で有名なウマ娘が多い。
うちで言えば三冠バのナリタブライアンと、覇王テイエムオペラオーに匹敵するメイショウドトウだ。
合同練習の時間を多く取り、パンティー因子をツナギ合わせ、パンティー爆発まで行けば、ウマ娘の潜在能力が劇的に伸びる。
それは俺の愛バで実証したことだから、間違いなくアオハル杯でのチーム戦力は上がるだろう。
全員が同意さえしてくれれば、パンティーによる強化は積極的に施したい。
そうすれば、リギルとの大きな格差を、少しは埋めることが出来る筈だ。
俺は、おもむろに弄っていたパンティーを、会議室の長机に置いた。
これはグラスワンダー用に、因子継承の為に用意した。 今日、手渡すためのローライズ型のパンティーだ。
そんな俺へと、全員が不審な目で見つめた。
「君たちの愛バに、俺が選んだパンティーを履かせる。 そうすることで、道は拓けるだろう」
うわっと会議に集まったトレーナー達が騒めいた。 首を傾げている者も居たが、噂くらいは聞いているのだろう。
俺がウマ娘用のパンティーを、トレーニングに用いて、トゥインクルシリーズに参加しているということを。
騒がしくなった会議室の中で、一人のトレーナーが手を挙げた。
アグネスデジタルのトレーナー……女性ということもあって、彼女がいの一番に反発するかもしれないと思っていたが、口から飛び出したのは肯定だった。
「私は構いません。 必要であるならパンティーを、デジたんに渡します。 ですが、先輩。 失礼かもしれませんが、一つ聞かせてください」
「なんだ」
「正直に言うと、私は先輩がパンティーを使ったトレーニングをしている事を知っていました。 デジたんの話から、効果があることも伺い知れています。 ですがそれは―――」
彼女の言いたい事が分かったので、手を挙げて制した。 俺のチームの強さに直結する、手の内を晒しても良いのか、と訊きたいのだろう。
「別に構わない。 確かにアオハル杯では同じチームだが、トゥインクルシリーズでは敵だ。 だが、それには理由があるんだ」
だって。
「ウマ娘用のパンティーにおいて、この学園で俺に並び立てる奴は居ない」
自分で言うのもなんだが、パンティーでウマ娘の能力を開花させるトレーナーは流石に存在しないと思う。
だから、俺がコイツ等の愛バにパンティーを履かせることは、それほど問題ではない。
そりゃ、彼女たちが心の底からパンティーを受け入れれば、パンティー爆発によって潜在能力が目覚めるだろう。
それはトゥインクルシリーズに限って言えば、俺にとってはマイナスになるのはそうだ。
けれど、俺達の目標はあの常勝軍団のリギルなのだ。 パンティー爆発をしなければ、アオハル杯を戦う上で太刀打ちできない相手なのである。
痛し痒しといったところだが、事実としてリギルを打倒するためにはパンティーを履かせるしか今のところ手はない、というのが現状だった。
少なくとも、俺にはそれしか思い浮かばなかった。
「だから、リギルに臆している者は俺のチームに必要ない。 パンティーを恐れるのなら、今すぐチームを脱退しても良い。 手続きはすぐに行う」
挑発とも受け止めれるかもしれない。 俺の物言いはそういう物だった。
ドトウのトレーナーが立ち上がって、意気揚々とパンティーを掴んだ。 待て、それは俺のグラスワンダーの物だ。
慌てて、俺はドトウトレーナーからパンティーをひったくる。
「……メイショウドトウの物は、俺がしっかりと選ぶ。 焦るな……」
「す、すいません、先輩。 気が急いてしまいました」
「リギルを倒す。 その気持ちがある奴だけ、俺のパンティーに着いて来い」
そこで俺は全員を見回した。
誰もが、愛バの為にパンティーを受け入れる覚悟を持ったトレーナー達ばかりの、真剣な表情だった。
「行くぞ! チーム《パンツァー》!!!」
「おう!」
ウマ娘たちに負けず劣らず。
俺達トレーナーも、大概な奴ばっかりなんだよな。
だが、お陰様で俺の踏ん切りもついた。色々と重なってこちらから喧嘩を売った形にはなるが、いずれは大舞台で挑む相手だ。
その練習と思えばアオハル杯でぶつかるのはある種、気楽でもある。リギルに勝つ、これを大目標として頑張っていこう。
おハナさん、首を洗って待っててくれ。
ガチャはわるいぶんか