職場のデスクの上にウマ娘用のパンティーが   作:ジャミゴンズ

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第八話:*^▽^* 【ノーパン宣言】 *^▽^*

         第八話:*^▽^* 【ノーパン宣言】 *^▽^*

 

 

 

 9月の中ごろが過ぎた。 まだまだ残暑が残っていたが、だいぶ過ごしやすくなってきた頃である。

 

 樫本代理が主催した、アオハル杯についての改めての説明と、参加する全トレーナーの大規模ミーティングが行われた。

 

アオハル杯レース出走バ、その登録リーダーだけはウマ娘の参加が認められており、中々気合の入った催しである。

そこで殆ど初めて、俺は樫本代理の姿を見たが、冷たさを感じさせるキツイ視線が印象に残った、というくらいだった。

一応代理とも話をする機会があったが、俺は彼女の提案する『徹底した管理主義プログラム』の導入推進派だったので、特に何かがある訳でも無く普通に面談も終わった。

資料を持って入室してきた時点で、かなり疲労していそうだったが、代理は無理をしていないだろうか。お忙しいだろうから、身体を大事にしてほしい。少しだけそれが気になったくらいである。

 

 

来週はアイビーS。 グラスの大事な2戦目だ。 ここで勝てれば人気もついてくるだろうし、ジュニア級では重賞の挑戦権が貰える。

なんだかんだ、人気を稼ぐ上で一番大事なのはウマ娘のレースでの成績が直結するのだ。

GⅠか……俺にとってもGⅠ挑戦が叶うかもしれないのか……アイツの勝負服は、結局日の目を見ることはなかったしな……

だけど不安もある。まだグラスの身体は出来上がっていない。どこまで身体を作りこめば安定するのだろうか。

 

アイビーSに勝利したとして、すぐに出走登録するかどうかは微妙なところだろう。

 

と、ぼんやり考え事をしていると、反対派筆頭のチームに絡まれた。

 

チーム《キャロット》 樫本代理のチームであるチーム《ファースト》に真っ向から噛みついた、かなりロック味溢れているチームである。

んで、絡まれたのはチーフトレーナーである俺―――ではなく、俺にくっついて来てたグラスワンダーだった。

絡んだのは同じくウマ娘の、テイエムオペラオー。 やたら大仰な芝居かかった動きで、宣戦布告をしてきた。

 

 

「ハーッハッハッハッハ、君たち肯定派はボクの敵ということだね。 あぁ、なんて悲劇的なんだ。 本来ボクたちは敵も味方もない。 ただトゥインクルシリーズで栄光を競い合う、尊い仲間だというのにっ! んんん? おやおや? あぁ、君は。 確かパンツのトレーナーの人か。 ボクも二枚ほど盗まれてしまったけれど、あれはどうやったんだい? 是非、僕にも教えてくれたまえ!」

 

俺達のチームが組しやすいと感じたのか、それとも他の思惑があるのか。これだけの大人数が集まった中で堂々と宣戦布告されたら、退くことは難しい。 

バッチシ注目も集めているし、樫本代理の熱視線も感じる。管理体制の反対派……代理には因縁のあるであろうチーム《キャロット》だし、気になるのは当然か。

《キャロット》のチーフトレーナーは何とも言えない顔で頬を掻いていた。 まぁ……そうなるよね。

 

代理の周りに居るのはビターグラッセとリトルココンか。あの二人のウマ娘も調べたが、彼女たちもジュニア期だ。

トゥインクルシリーズで、グラスワンダーのライバルになるかもしれない。

走ったところはまだ見ていないが、対抗できそうなのは会場を見回してみても、そう多くなさそうというのが初見の感想である。

キングヘイローに負けず劣らず、この時期から仕上がりの良い、立派な身体を持っていた。

 

「ふぅん、そうだなぁ。 パンティーの借りもあるし、ふふ、まずは君たちのところから食らうとしようか」

 

 内心で全然別の事を考えていると、テイエムオペラオーは俺にも飛び火させてきた。

 

あ、なんかグラスが怒ってる。 

こわ、笑いながら怒るのって器用だけど、高等技術ですよね。 いやぁ、意外とチームに愛着持ってくれて嬉しいのもあるけど。 

 

グラスワンダーは夏、パンティーをひたすら履き替えて走ってくれた頃、そこを越えた辺りから、俺への態度も見るからに軟化してくれた。

やっぱりデビュー戦で勝てて、俺のパンティーを受け入れてくれたのがデカイってことかも知れない。考えて見れば、俺とグラスは始まりもパンティーだった。

これに関してはキングヘイローとのやり取りが大きかったのもあるだろう。

ロイヤルビタージュースは突き返されたから、今度はカップケーキを彼女には贈ってあげようと思う。

 

で……普段おっとりしてるグラスがこれだけ怒るって……いやまぁそりゃそうか。真正面から、自分の所属するチームを前菜扱い。 

俺のチームを 『まず』 食らうって。 そりゃ幾らなんでも舐めすぎだよな。

シニア級でとんでもない成績を残しているし、今のグラスワンダーじゃ歯が経たないのはそうだが、アオハルはチーム戦。 

幾らでもやりようはある。ラビット戦法も必要あれば俺は使うしな。

 

と考えていたとこで自分のチームのメンバーを思い出してハッとする。

 

俺のチームにはメイショウドトウがいる。彼女が中距離リーダーだ。 

先ごろの宝塚記念、ついにメイショウドトウがテイエムオペラオーを破りG1の制覇をしたとあって世間では大いに盛り上がったばかり。

俺もアオハル杯でチームメイトだから、お祝いには訪れたし、メイショウドトウがウーロン茶でベロンベロンになって、猫に逃げられてたのは面白い場面として印象に残っていた。

そうか、アオハル杯でテイエムオペラオーは、メイショウドトウと正々堂々と一緒に走りたかったのかもしれない。

 

そこに気付くとなんとも、テイエムオペラオーの挑発行為が可愛らしいというか、いじらしいというか、年相応に見えて微笑ましいな。

 

「ハーーーハッハッハッハ、楽しみだよ! アオハル杯も全勝して、ボクの覇道にふさわしい、プレリュードと行こうじゃないかっ!」

「あーーーっとすみません! オペラオー、もう行こう! な! 言いたい事言えたし、な! 頼む、このチームのトレーナーは大先輩なんだ、その辺にしとこ、ね、ね?」

「ま、宣戦布告は受け取った。 もちろん、俺のチーム《パンツァー》も異存はない。 せいぜい足下に気を配る事だ、覇王さん」

「ふふ、それは怖い。 あっと、パンティーの事は後で個人的に聞きに行ってもいいかな? 本当にどういう絡繰りなのか気になるんだ。 アハハハハっ、それじゃ、息災でいたまえっ!」

「それについては俺が知りたい」

 

 素直にキャロットのトレーナーに引きずられていく辺り、テイエムオペラオーも切っ掛けを作りに来ただけっぽいな。 あ、俺に手を振ってる。 

いやぁ、余裕があるな……さすがにテイエムオペラオーか。風格がある。無視するのも悪いので、テイエムオペラオーには手を振り返しておいた。

 

そうして振り向くと、グラスから変なオーラ出始めていた。いや、見えないから雰囲気なんだけど……やっぱ怖いその笑顔。 

 

「悔しいです、トレーナー。 私、飲みこまれてしまって」

「って怒ってるんじゃないのか……意外だな、萎縮していたなんて」

「……怒っているというなら、それは自分自身にですね……私、まだまだ未熟です。 トレーナーさんからパンティーを戴いて、強くなっていると錯覚しているだけなのかも……知れません」

「あー……それについて言うかどうか、迷ってたんだがな……」

「わっ、あ、あの、トレーナー?」

 

 グラスワンダーの肩をちょいと引っ張り、俺は彼女の手を引いて人の少ない場所まで連れてきた。

 

「グラス、安心して良い。 お前は確実に基礎も伸びているし、成長している。 ただな……」

「ただ?」

「俺の見立てだと、お前が本格化後に全力で走る身体が出来上がるのは冬頃には終わると思っていた。 けど、もしかしたら来年に……いや、もっと伸びて春になるかもしれない」

「え……で、でも、トレーナーさん。 本格化はもう終わっています。 私、走れますよ」

「走れるのは走れる。 でも、お前の場合、本格化したパワーだと身体が振り回されちまうのは前から説明していた通りだ。 どでかいエンジンを空ぶかし、している状態に近いんだろう。 併走トレーニングでキングに遅れを取っているのも、土台の身体がふらっふらに弱いせいだ。 だから……」

「勝てない……ですか?」

「いや、勝つことは出来る。 生来から持っている出力でお前に叶うウマ娘なんか居るもんか。 テイエムオペラオーだって越えられるさ。 だけど、勝つためにありったけを出せば、お前の身体が壊れる方が早いだろうって話だよ。 俺の噂位は聞いたことあるだろうが、こう見えても俺はトレーナーとしてウマ娘の健康管理だけは周囲の評価が高いんだ。 その点に関してだけは、俺も見る目はあると自負もしているぞ」

「……」

 

 ついに俯いてしまったグラスワンダーに、俺は視線を外して空を見上げた。

 

実際に怪我の不安なく全力を出せる身体を作るのにどれだけの時間が掛かるのか、予測ははずれ、俺にも見通しがまったく立って居ないのだ。

 

夕方に近く、中途半端な時間。ここからトレーナールームに戻ったところで、トレーニングに割く時間は知れている。

俺はすこしばかり頭を掻いて、気落ちしているグラスワンダーへと声をかけた。

 

「なぁ、少し俺に付き合ってくれるか?」

 

 

 

 

 俺は懐かしい場所を歩いていた。 グラスワンダーを横に歩調を合わせて、少しだけ薄暗くなった林道をゆっくりと歩いていた。

少しだけ人気のないこの場所で、グラスワンダーは訝し気な顔をチラチラと自分に向けてくる。 

もうそろそろ、開けてくると記憶していたんだが、と思っていると、やはり林道を抜けて川っぺりと民宿。

その前に昔ながらの屋台が営業中の看板を掲げて存在していた。

 

良かった、もう10年は来ていなかったから、営業してなかったらグラスワンダーに何しに来たんだ、と怒られるところだ。

 

店内に入るとこじんまりとした椅子とテーブルが狭っからしく並んでいる。俺は後ろから着いてきているグラスワンダーを促して、対面の椅子にどかりと座り込んだ。

大した距離を歩いた訳でもないのに汗が出るし、腰が痛い。昔では考えられない疲労感だ。年は取りたくない物だ。

 

窓からは民宿横の赤い鳥居が、ひっそりと佇んでいる。 これも10年前から変わらない光景だった。

 

民宿の庭から時折、鹿威しの音がカッコンと響く。

川っぺりのため、時折流れる風が店内の空気を循環させていた。

 

「いらっしゃい。 ここは初めてかな?」

「いや、何度か利用したことがありますよ。 メニューが代わってないなら、塩鳥串20本。 それと俺はビールを」

「毎度有難うございます」

 

 さっと注文を済ませると、困惑を貼り付かせた顔でグラスワンダーが俺の顔を窺うように見ていた。

いきなりこんな見知らぬ場所の飯屋に連れられて食事を頼んだら、そりゃ困惑もするか。 

 

まぁ、なんだ。 理由は特にない。

同期との間に差が出てきて、焦りを見せるグラスに、俺が夕食を兼ねながら昔話をしたくなっただけである。 

グラスワンダーには悪いが若者は時折、大人の昔話に付き合う義務があるってことを、知って貰おうじゃ無いか。まぁこれも勉強だ、勉強。多分ね。

 

「なぁグラス。 ここ知っていたか? トレセン学園から歩いてくると一時間以上もかかっちまう。 今日は会場が外で助かったな、少し歩くだけで着けた」

「いえ、知りませんでした。 トレーナー、ここは一体?」

「なに、たまにはゆっくりお前と話そうって思っただけだ。 お前をスカウトした日、覚えてるか?」

「忘れられませんよ、あんなもの。 私のトレセン学園の生活は、こんなところで終わりなんだって、お母様とお父様に、泣いて謝ったんですから」

「あぁ……そりゃ悪い。 色々と切羽詰まっててな」

「トレーナーさんがパンティーを沢山持って居たり、拘っていたり……今でこそ先輩たちから聞かされていて理解ができますけど……パンティー、ですもんね」

「ああ、まったく原因不明のパンティー地獄さ。 あの時には考えられなかったけど、今はそのパンティーをお前が履いたりするってのは、考えられない事だよなぁ」

「トレーナーさんは私の事をなんだと思っているんですか」

「俺の愛バ」

「むぅ……」

 

 少しずつ慣れないこの場所での緊張がほぐれてきたのだろう。軽い口を叩けば、シャンとマジレスが返ってきてらしさが戻って来た事に安堵する。

経験上だがウマ娘は本能が刺激されやすい場所に居ると、直情的な判断を下すことが多くなるし、その感情に素直に従うことが多い。 

 

本能を刺激する場所は、トレセン学園そのものだ。

 

ウマ娘を最優先で考えて作られているから、どうしたってトレーニングは効率的になるよう組まれているし、なまじ目の前にやれる事があるから、忙しない日常を過ごしてしまいがちだ。

先ほどのグラスワンダーもそうだった。

目標レースであるアイビーSがもう目前。 

アオハル杯でぶつかる事になった、シニア級の覇王テイエムオペラオーの覇気に当てられる。

同期はみな順調にデビュー後のレースにも勝利して、オープンクラスへ続々と仲間入り。

グラスワンダーと比べて身体作りも順調だし仕上がり始め、ウイニングライブをセンターで踊る、その記事も光景もバンバンとグラスワンダーは目にしてしまうんだろう。 

 

そりゃ焦るかもしれない。 

落ち着いた物腰の裏に、グラスワンダーは鉄すらも溶かしそうなほどの情熱の火種が燻っている子だ。 

俺がスカウトをした時がまさにそうだ。俺がグラスワンダーの立場だったら負けん気すら出せずに、心がへし折れていると思う。

 

「余裕がなくなる時、俺はここを思い出すんだ」

「……」

「俺が初めてトレーナーとなって、初めて担当バを持った時、お世辞にもうまい関係を作れたとは言えなくてな。 とにかく俺は何とか結果を出そうと焦っていた。 新人だから、なんて言葉に甘えたくなかったし見返したかったからな。 そうして躍起になって、結果はから回って。 レースから戻って来た愛バに謝る事しかできなかったのは、苦い思い出だ」

「トレーナーさんが初めて、担当したウマ娘ですか?」

「ああ、此処にはその子に連れてきてもらったのさ。 変な奴だった。 俺よりどっしりと構えてて、お前みたいにやったら落ち着いてる子だった。 俺が一人で勝手に焦ってミスをして、その子に慰められるってのを続けていたら、トゥインクルシリーズはたった二年間で終わってしまったんだ」

 

 今でも俺は鮮明に彼女の事を思い出せる。 

初めての担当だから思い入れが強かったのはそうだが、この隠れるように立っている食事処。 

 

この場所に連れて来てくれた時の印象がとにかく強い。

 

あの時の俺は、此処に連れて来られて、きっと。 初めて 『自分の愛バ』 と向き合ったのである。

 

「ソイツは結局、未勝利だ。 未勝利でトゥインクルシリーズが終わってしまった。 1回も勝てなかった。 それで、夢破れてその子とトレーナーとしての関係はお終いさ。 それでな、最後の未勝利戦が終わった後、ウイニングライブを端っこの方で踊って、歌って……そして、俺は彼女に此処へ連れて来られた」

 

 俺は、何を言われても受け入れるつもりだった。 罵詈雑言でも、物理的に殴られても、全て俺のせいだと思っていたから。

 

注文していた塩鳥串が運ばれてくる。 店員が器用に身体を滑らせて焼き始め、狭い中で火鉢に火が淹れられ、鳥が焼かれる臭いが一気に店内に広がった。

 

「彼女になんて、言われたと思う?」

「……それは……」

 

 グラスは言い淀んでいた。 そう、想像できないよな。

 

「トレーナーさん、お疲れ様でした。 ほんにありがとうございます。 一杯に中央でレースを走れて、楽しかったですぅ」

「え?」

「俺は、その言葉をこんな感じで、丁度焼き鳥を焼いている時に言われてな。 俺の人生であれほど涙が溢れ出てきた日っていうのは、そう記憶にねぇ」

「すごい……人だったんですね。 私だったら、って考えましたけど、悔しくて、トレーナーに優しくできる自信がありません」

「はは、それが普通さ。 そして、こう続けた」

 

 

 きっとあたしら、焦ってたねぇ。 こうやって周りを見る余裕を持たないと、結果もついてこおへんね。

 

 それだけ言って、どのくらい俺は泣いていて、外の鳥居を彼女は見やっていたのだろう。

 

 今、グラスと一緒に聞いている、こんな感じの鹿威しの音がカッコンと鳴り響いて、俺が情けない顔を上げた時。

 

 そこで初めて、彼女の瞳から大粒の涙が流れ落ちて、頬を伝うそれを指で拭いながら、彼女は一言だけ、寂しそうな消え入る声で言ったんだ。

 

 

 えへ、負けっちゃったぁなぁ

 

 

「それから10年以上。 俺はトレーナーを続けている。 続けることが出来ている。 それは俺がウマ娘ではなくトレーナーだからだ。 トゥインクルシリーズは3年間しかなかった。 当時はドリームトロフィーリーグも無かったから、実質、彼女は二年間で夢を追う事ができなくなって、トレセン学園から去っていった」

「……」

「俺は彼女の為に出来ることを尽くしたつもりだった。 だがそんなものは、俺一人の考えだった。 ずっと俺の失敗を支えてくれた彼女は、俺のトレーナーとしての先生だった。 未勝利ウマ娘だったが、彼女と駆け抜けたトゥインクルシリーズこそが俺のトレーナーとしての根幹であり、礎になった。 最後の言葉は、もっと俺と一緒に居たかったと言われて、やっぱり俺は泣く事しか出来なかった」

 

 そこで息を切って、俺は運ばれてきたビールにようやく手をつけた。

のど越しに、冷えた麦の刺激が流れていく。 グラスワンダーの方へと見やると、なんだか神妙な顔をしていた。俺は笑った。

 

「ただの昔話さ、大したものじゃない。 何処にでも溢れている、新人トレーナーとその担当バの話だ。 ただ俺は彼女が去った後に分かったことがある。

データを照らし合わせて、何がダメだったのかの原因を探ったんだよ。 

結果、身体が出来上がらないまま走らせていた事に、俺は気づいてしまったんだ……そう、本当に焦らない事がもっとも大事なんだと、教えてもらった」

「はい、私は……もっとゆっくりでも良いんですね」

「そうさ。 ゆっくり行こう。 最初に逢った時から、俺はお前に約束を誓ったろう」

「俺を信じてくれ、ですね」

「そうだ。 『健全』に導いてやるって言ったんだ。 信じてくれるか?」

「はい……今日のトレーナーさんには、信じて行きたいと思います」

 

 

 こうして俺はちょっとした昔話を通じて、グラスワンダーと少しばかり近づけた気がした。

夜の食事を楽しむことしばし。

結局40本も塩焼串を追加で頼んで、グラスワンダーと一緒にそれをゆっくりと食べて。 

 

ちょっと食いすぎじゃねぇかとも思ったが、焦った気持ちが落ち着いてくれたなら来た意味はあっただろう。

 

グラスの出走するアイビーS。 

もうあと2週間もすれば出走となる。トレーニングの計画も身体の成長を見ながら慎重に練らなくては。

すっかり暗くなってしまった林道を、灯台の淡い光が照らし、俺は時折夜空を見上げながら歩く。

そこでふと、思いついてしまった。

 

「なぁ、グラス」

「なんですか? トレーナーさん」

「パンティーやめるか」

 

「……え?」

 

 焦る理由は、自分の地力を知らないからかもしれない。 

 

俺はグラスワンダーならばアイビーS出走登録バ達を見て、ノーパンだろうとまず勝てるだろうと思っている。

その提案を受けた返事を待っていたが、一向に返ってこないので振り向くと、頬を目一杯に膨らませて、饅頭みたいな顔をしたグラスワンダーがこっちもガン見していた。

 

「なんだよ?」

「トレーナーさん! 言った傍から契約解除ですか!」

「え? いや違う違う、勘違いだ。 馬鹿言うな、お前に抜けられたら困るって!」

「ぷっ、あはは、冗談です。 いつもトレーナーさんには驚かされてばっかりだから、仕返ししちゃいました」

「そういう心臓に悪いのは辞めてくれ、な。 ふはは……はぁ」

 

 胸を撫で下ろして、俺は日本語むずいな、と思っていると、グラスワンダーからの声が耳朶をうった。

 

「私、ノーパンで走ります」

「……勝てるさ、お前の力に叶う奴なんて、居やしないんだ」

「はい、見ていてください、トレーナーさん」

 

 

 秋空の夜に、虫のなく声を聴きやりながら、俺とグラスワンダーはそれはもうゆっくりと、トレセン学園へと戻った。

 

 

 ウマ娘寮の門限過ぎてた。

 

 ゆっくりしすぎた、やっべぇ。

 

 

 







Q.ノーパン……?
A.ノーマルパンティー

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