この理不尽な世界に一筋の光を   作:ウサウサギ

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序章 理不尽な運命

「終わりだ。若き《召喚せし者(マホウツカイ)》よ」

 

 くそっ、と悪態を吐きたくなる。

 目の前の男は、理不尽なまでの力を振りかざし、自分を殺しに来る死神だ。

 その名を、オーディン――またの名を、芳乃創世。

 

 半無限の魔力をその身に宿し、その体は文字通り永遠と定義された究極の不老不死。能力によって空間を自在に作り出すことが出来、またあらゆる概念を現存する概念に上塗りすることの出来る非常識な力を持つ男。極めつけは、威力を制限しているとはいえ、本気でやろうと思えば、銀河すらも破壊する一撃を持つ男。

 

 ――それが、芳乃創世。

 

 こちらの攻撃はことごとく避けられる。それは芳乃創世が完成したといってもいい格闘術を使う者だからだ。そして何より、無限に空間を作れるヤツに、攻撃を当てる事など元から不可能だった。ヤツに攻撃を与えるには、光の速度でも、光の九倍の速度でも足りない。空間そのものを切り裂き、ヤツへと攻撃を届かせるしかない。

 

 しかし、その体へと攻撃を届かせたとしても、今度は完全なる不老不死の肉体が待っている。ヤツは、その力のせいで、本来《召喚せし者》の弱点である《戦略破壊魔術兵器(マホウ)》を破壊しても、死に至らない。平然とした顔で、何の事は無いと言った風に、その存在を十六年前の姿に回帰させる。

 

 ヤツを殺すには、無限の空間を切り裂き、さらにその永遠を崩壊、あるいは十六年前の永遠になる前のオーディンに戻し、殺すしか方法は無い。

 

「くっ……『疾風迅雷(タービュランス)!』」

 

 それは、ある《召喚せし者》を見て、独自に解析し、自らの持つ魔法で完全複製してみせた、反則級の能力。これの本来の持ち主の補助兵装グローブ“ミョルニル”に魔力を蓄積し、バンダナ“メギンギョルズ”で雷撃へと変換し、自身へと纏うことで自身を雷とする。それが『疾風迅雷(タービュランス)』という能力。

 これは簡単に言えば、自分が光速と同じ速度で動けるということだ。そしてそれは、陸空を問わない。空中であっても、変幻自在に移動する事が出来る。

 

 雷は、百万分の一秒進み、十万分の一秒静止する。その性質に則り、光速で移動する『疾風迅雷』もまた、実は進行と停止を繰り返している。解析結果のため、本当にそうかは分からない。少なくとも、体感でそれが分かるとは到底思えない。しかし、それだけの能力故に、この能力はもはや反則技だと思っている。

 

 しかし、そんな反則な能力があったとしても、目の前の化け物(イレギュラー)は倒せない。そもそも、触れる事すら出来ない。

 

 突然だが、《戦略破壊魔術兵器(マホウ)》には、以下の五つの大原則が存在する。

 

1.『召喚せし者』は、現在の如何なる科学兵器を用いても殺せない。

2.マホウはマホウでしか破壊できない。

3.マホウはその人物の心象を兵器として具現化した形状となる。

4.具現化したマホウ兵器には、独自の特殊な能力が備わる。

5.ゆえにマホウは、一人につき一種類まで。

 

 自分のマホウは、ただひたすら敵のマホウの完全解析と、それによる完全複製。相手の補助兵装(オプション)まで複製できるのが、このマホウの利点。そして、自分の魔力の有無を問わず、完全自動操作で、それが行われるのもまた利点だ。もっとも、こちらに拒否権は無い。そのため、要らないマホウや能力でも復元してしまうわけだが……今、それは置いておく。

 

 そしてもう一つ、自分のマホウの独自の特殊な能力だが……これは、相手から解析したマホウを、自己解釈の下にその存在を変化させる、というものだ。つまり、相手から完全複製したマホウの改造、というわけだ。ただし、これには制約があり、改造出来るのは『能力変化』、『消費魔力量変化』、『概念付与』、『使用条件破棄』、の四つの項目であり、それも改造出来るのはそのうち一つだけだ。それも、相手から完全複製したマホウ一式全てを纏めて、一つの改造と見なされる。個別に改造することは出来ない。そして後で変更することは出来なければ、一歩間違えれば使えない能力すら出てくる。だから、ここだけは常に慎重に選んできた。

 

 自分の魔力量が乏しいことは分かっている。だからこそ、今まで完全複製してきたほとんどのマホウには、『消費魔力量変化』によって、ほとんど魔力の消費無しで能力を使えるようにしている。『疾風迅雷』もこの『消費魔力量変化』によって使えるようにしている。それが無ければ『疾風迅雷』は使えなかったといっていい。

 

「第三夜『Goetterdammerung(神々の黄昏)』

 

 ――来るッ!

 

 ヤツの最強の攻撃が、今まさに放たれようとしている。

 それはただの右ストレートに見えてその実、そんな可愛いものではない。さっきも言った通り、ヤツのそれは銀河をも破壊せしめる。

 

 ――ならば、今持てる、最高の力を持って、迎え撃つしかない!

 

 自分はヤツのマホウすらも既に復元している。ただし、消費魔力量が馬鹿みたいに多すぎて、たった一度しか発動することは叶わない。何で『消費魔力量変化』をしなかったかと言われれば、ヤツのマホウの発動条件が特殊過ぎて、自分には使えない代物だったのだ。故に、『使用条件破棄』をする以外に方法は無かった。

 

 同様に、この事件に巻き込まれたある男を見て、そいつのマホウも復元することに成功している。

 

 ただし、そのマホウはおまけで、本命は一つの神話魔術を獲得したに過ぎない。

 何せそのマホウは、本人が強大な魔力を持っていないと、ほとんど意味の無いものだった。というか、今ここで出しても、戦力にすらならない。『使用条件破棄』を使おうとも思ったが、そのあまりの燃費の悪さにそれすらも断念した。

 

 そのため、その時は一つの神話魔術を得たに過ぎない結果になってしまった。

 その銘は『神討つ拳狼の蒼槍(フェンリスヴォルフ)』。かつて最高神オーディンを殺した、神狼の名前。

 マホウを補助兵装まで含めて全て一つのまとめたカテゴリーとしてしか改造出来ない代わりに、自分のマホウの独自の特殊能力は、そのマホウで放つ、あるいはそのマホウの持ち主が扱う神話魔術にすらも、その改造の影響を反映するという、大変優れたものになっていた。

 

 故に、その神話魔術を使う為だけに、『消費魔力変化』を選んだ。

 

 あちらが放つのは、銀河すらも破壊し得る最強の拳。

 

 ならばこちらは――

 

 最高神オーディン、雷神トール、知略の神ロキが従えた神狼を以て、対応するまで。

 

「はあああぁぁぁ!」

 

 右手に最高神。左手に雷神。そして額に神狼。

 『天地創造の神槍(グングニル)』と『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』と『神討つ拳狼の蒼槍(フェンリスヴォルフ)』。

 

 その三つが交わったことは、未だかつてない。

 だからこそ、それら全てが協力した時に放たれる威力は、想像を絶するものに違いない。

 

「『天地総てを射抜く神雷の狼槍(アスガルド・ウォーデン)』!」

 

「『天地創造の神槍(グングニル)』!」

 

 蒼、黄、赤の混ざった色はその色を漆黒に変化させ、《究極のマホウツカイ》である芳乃創世へと迫る。

 

 そして迎え撃つは、何よりも力強い赤い魔力の塊。ヤツの能力『天地創造の神槍(グングニル)』の力だ。

 

 お互いの力が拮抗する。究極の存在を掛け合わせた三つの力と、唯一無二の力強さを持つ最高神の一撃。

 

 拮抗は続く。どちらの攻撃も互角――いや、三つの力の方が、少しだけ強い。

 

「何……ッ!?」

 

 よほどその攻撃に自信があったのだろう。少しずつ押されていく自らの攻撃に、驚きを隠せないらしい。

 

「はあああぁぁぁ!」

 

 しかしそれでは満足せず、さらに魔力を絞り出す。今ここでやれなければ、待つのは死だけだ。だからこそ、やらなければならない。成さなければならない。

 

「――『九つの世界(ノートゥング)』!」

 

 これは、疾風迅雷の能力の持ち主から完全複製して、さらに魔力消費を極限にまで抑えた、最強の一手。

 九つの並行世界にアクセスし、敵に触れた瞬間にその平行世界の中から一つの結末を選び取る。当然、一撃必殺という言葉すら生温いこの出力を持った攻撃の中には『芳乃創世が消滅した未来』が存在する。この能力は、その平行世界の結末を、今居る自分の世界に反映させる。如何な鉄壁の魔術障壁が張られたとしても、平行世界の中には必ず防御出来なかった未来が存在する。つまり、この攻撃が当たれば確実に、ヤツは消滅する。

 

 ――しかし、それではまだ、一手足りない。

 

 ヤツは究極の不老不死だ。いくら消滅した未来を選び取れたとしても、その後すぐに存在が回帰し、平然と復活してみせる筈。

 だからこそ、使う。雷神トールも使ったとされる彼の武器、『雷光を打ち砕くもの(イルアン・グライベル)』にストックしていた魔力を、ここで全て使い切る!

 

「第二夜『Siegfried(ジークフリート)』」

 

 それは、ヤツの反則級の能力の一つ。真理(ルール)を創造する――即ち、概念を創造し、それによりあらゆる概念を上乗りできる――概念魔術。限定的ではあるが、マホウのルールにさえ干渉できるほどの力が、この能力には秘められている。

 

 だからこそ、こういう真理(ルール)を創りだした。

 

 ――破壊されたマホウは、過去、未来、並びにあらゆる平行世界から、その存在を消滅させ、如何な能力を使おうともマホウを再生、復活、再現することは出来ない、と。

 

 九つの世界(ノートゥング)と、第二夜『Siegfried(ジークフリート)』、この二つがあるからこそ、掴み取れた勝利の方程式。

 

 如何にヤツが究極の存在であったとしても、真理(ルール)を覆すほどの再生能力は、ヤツは持っていない。故に、この攻撃さえ通れば、勝てる!

 

「……ッ! 私はどうやら、貴様をみくびっていた様だ」

 

 そして勝利の確信をしたと共に、体中に悪寒が走った。

 一体、何が? と思った時には、既に遅かった。

 

「第一夜『Die Walkuere(ワルキューレ)』」

 

「なっ!?」

 

 そして、その言葉が紡がれたと同時に、勝敗は既に決してしまっていた。

 こちらの最強の一撃は、無限に空間を作り出す能力を前に……その空間の中に隔離され、消えていった。

 

「見事だ。先の一撃、まともに受ければ、この私ですら滅び得ただろう」

 

 敵からの称賛の言葉。嬉しい、などと思う暇はない。こちらの魔力は既に空っぽで、この次の一手が、こちらには存在しない。

 

「――しかし、それも当たらなければ、意味が無い」

 

「くそっ!」

 

 そう、ヤツの言うとおり、『九つの世界』は対象に触れなければ、その真価を発揮することが出来ない。概念魔術にて必中の概念を与えればあるいは、ヤツに攻撃を当てる事が出来たかもしれないが……それでは、不老不死への対策を取ることが出来なかった。

 

 故に、今回、自力で攻撃を当てなければならなかったのに……その幻想は、瓦礫と化して崩れ落ちた。今目の前にあるのは、情け容赦のない、非常なる現実だ。

 

「今度こそ、終わりだ」

 

 ヤツは拳を構える。それに対して、自分は何もすることが出来ない。当然だ。魔力が完全に尽きて、後は走って逃げるだけしか出来ない。空間を自在に操るヤツに、必中の概念を生み出すことの出来るヤツに対して、走って逃げることに一体どれだけの意味がある?

 答えは単純。そんなものは無意味だ。たとえ『疾風迅雷』を以て全力で逃げたとしても、そんなものはヤツにとって何もしていないに等しい。

 

 ――詰んだ。

 

 そう直感した。自分の魔力がゼロに対して、ヤツの魔力はまだ90%以上残っている。どう考えても、勝てる筈が無い。そもそも、総合魔力量の桁が、ヤツと自分では文字通り天と地ほどの差があるのだ。ここまでよく戦えたと、褒めてもらいたいくらいである。

 

「『天地創造の神槍(グングニル)』――!」

 

 目の前に、死が迫ってくる。

 もはやどれだけ足掻こうと、それは変わりない運命。

 ヤツと同じ様に存在回帰しようとしても、まず現時点で魔力が足りない。ヤツの能力の全てが全て、馬鹿みたいな魔力を使用するのだ。魔力総量があまりに少ない自分にとって、そんな相手からの死の攻撃に、抗う術もなく。

 

 ――くそ、こんなことなら、『雷光を打ち砕くもの(イルアン・グライベル)』に魔力半無限吸収の改造をしておくべきだった。と、後悔した。

 というか、明らかに対こいつら相手なら、そっちの方が全然使えたじゃないか。最も、そのメカニズムを理解されれば、すぐに概念魔術で覆されてしまうし、攻撃に使う消費魔力も異常なまでに増えていただろうから……結局、詰みだったと思うが。

 

 完全複製した『雷光を打ち砕くもの(イルアン・グライベル)』が破壊されれば、自分は死ぬ。マホウのルールによって。これは自分のマホウの弱点の一つだ。完全複製したマホウも、自分のマホウの核として扱われる。どれかひとつでも破壊されれば、その破壊は複製、及びオリジナルの全てのマホウに連鎖し、そしてマホウのルールによって自分の存在が消滅する。だからこそ、要らないマホウは極力解析しないようにしてきた。便利なだけではないのだ、自分のマホウも。

 

 ヤツのマホウが、一番大切なモノを失わなければ真価を発揮しないように。

 自分のマホウは、的が増えるという最悪のデメリットを背負っている。

 どちらの弱点も、さして今回の戦闘には影響しなかった。だから今回の戦い、一応はフェアだと思っている。それなのに、自分は完膚なきまでに負けた。

 

(終わり、なのか……)

 

 そして、覚悟を決めた。

 目を瞑り、ただ死を受け入れる体制に入る。

 これで、自分の人生は終わる筈だった。誰に覚えられるでもなく、その存在を無残に消滅させる筈だった。

 

 しかし、運命は気まぐれ過ぎた。

 

『チャンスをあげる。ある時代のある人を救ってくれたら、貴方に生き残れるチャンスを。』

 

 不意に、時間が停止した。文字通り、停止だ。目を開ける事は出来ないし、動くことも出来なければ、どこからか聞こえてきた声以外に、何も聞こえない。

 

『どうするの? ここで死ぬか、それとも後に残るわずかな希望に縋りつくか。』

 

 いや、これは聞こえているのではない。頭の中に直接響いているのだ。

 そう気付いた時、自分の中で既に答えは出ていた。

 

 目の前には、もはや抗えない死の体現が迫ってきている。

 それをただ待ち受けるだけなら――死なないために、希望に縋りつきたい。

 

 自分だって、まだ齢十歳なのだ。たった十年しか生きていないのに、人生を終わらせたくはない。

 ならば、答えは始めから決まっている。

 

(……頼む、俺にもう一度、チャンスを……!)

 

 こんな理不尽、耐えきれるわけがない。自分も大概、理不尽な力を手に入れているものだと思っていたが、目の前のそれはもはや次元が違う。こちらが二次元だとすれば、あちらは既に四次元くらいに居るといっていいほどに差がある。

 

 経験の違い。総合的魔力量の違い。素の強さの違い……挙げていけば切りがない程に、負ける要素はあり過ぎた。というか、相手の存在が規格外過ぎた。

 

 こちらは戦闘経験がほとんどなく、総合的魔力量も《召喚せし者》中最弱とまで言われ、素の強さはもはや年齢相応しかないのだ。そんな自分に、目の前の化け物に勝てと言う方が無理難題なのだ。理不尽なのだ。

 

 だからこそ、願った。こんな理不尽はもう二度とないだろうから、だからもう一度、生き残れる希望(チャンス)が欲しいと。

 

『なら、運命を変えてきてよ。悲しい運命を、貴方の思い描くハッピーエンドに。

 これはゲームだよ。

 登場人物は、聖王、覇王、冥王、そして聖王と覇王と武を競う者。魔女。最低限、この五人をハッピーエンドに導くこと。これが君の勝利条件。そうすれば、貴方にはヤツに勝てるだけの魔力と、会得し切れなかった、根源の力を提供してあげる。

 逆に君の敗北条件は、その五人のいずれかが誰かに殺された時。少なくとも君が生きている間に、その時代が不幸な形で崩壊した時。誰もが望まぬ結末を描いてしまった時。この三つだけだね。

 さっ、分かったなら、自分の物語を描いてくるんだね。言っておくけど、君が負けた場合……君には絶対に、不幸が訪れるから。それじゃあ、いってらっしゃい。戦乱の時代へ。』

 

 何者かの話が終わった瞬間に、意識は闇へと引き摺りこまれた。

 

(あぁ、俺ってこれから、どうなるんだろう……?)

 

 言い知れない不安を胸に宿しながら、彼は全滅の世界から旅立った。

 そして、新たに、戦乱の世界へと舞い降りる事になる。

 

 ただ一つの目的、生き残るためだけに、彼は声に提示されたゲームに参加する。

 こうして彼は、元居た世界とは異なる世界へと現れた。

 

「……? どうして、こんな場所に人が……?」

 

 幸か不幸か、彼は気絶したまま異世界に放り出されてしまった。

 そして彼を拾う者が居た。いきなり目の前に現れた不審人物を拾う当たり、その者は無防備な人間なのか、それとも慈愛家なのか。もっと別の何か、なのか。

 

 少なくとも現時点では分からない。

 そして、そこから彼の物語は始まった。

 

 それは、全滅が確定した世界から放り出され、滅び間近の国に召喚された、一人の救世主のそれだ。

 

 彼は後に、その国を救う武将として、その猛威を振るう事になる。

 しかし、それはもう少し後の話。

 

 今はただ、拾われた彼の目覚めを待つだけだった――。

 

 




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