この理不尽な世界に一筋の光を   作:ウサウサギ

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 まずはこの小説の評価をしてくださった方々へ。本当にありがとうございます! その期待値以上に応えられるように、これからも頑張っていきたいと思います!

 そして、UA数3600突破。お気に入り数37件。新たな感想2件。本当に、皆様のご愛読を嬉しく思います!

 さて、今回なのですが……前回の宣言通りとはいかず、ここで一度タイトル通り幕間を挟もうと思いました。具体的には過去編、ですね。健一がfortissimoの世界で一体どのような人間関係を描いていたのか。そしてどのような生活をしていたのか。ちょっとした内面に触れる回です。というか、色々と理由づけをする回ですね。

 あと、前書きで書かせてもらいますが、前回には夜桜の会話に「五日経った」というものがありましたが、もともと夜桜にその会話文を入れるつもりがなかったので、それがミスとなっております。既に八話の後書きにも書いてあるので、詳しくはそちらを見ていただければと思います。本当に、申し訳ありませんでした!

 それでは、言いたいことは終わったので本文をどうぞ。


幕間 追憶・そして始めよう

 突然だが、神崎健一は複数の人物の『知識(記憶)』を保有している。

 それはどうしてか。簡単だ。彼の『失われた神眼(オーディンのまなこ)』の能力が、展開して見た者すべての本質を暴き出してしまうからだ。

 

 本質とはその人物の知であり、力であり、そして人物を形成する軸――人格――でもある。齢十歳にして精神年齢が高く見えるのは、その他人の人格を成すもの全てが、能力によって彼に定着してしまっているせいである。

 

 故に彼は知っている。過去、十三人の『召喚せし者(マホウツカイ)』が、ある小さな島の中、特別な空間を用いて戦争をしていたことを。そしてその戦争が、たった三人の、彼の親しい人を奪って行ったことを。彼は知っている。

 

 一人目は、自分と同じ病院に入院していた、純粋無垢な少女だった。――とはいっても、年齢的には健一よりその少女の方が上だった。それでも彼女と仲良くなったのは、同じ病院仲間だったからだろう。

 

 過去、健一はマホウと出逢うまで、難病を患い病院暮らしを余儀なくされていた。それは先天性の病気であり、現代科学で治すことは不可能とされているものだった。それ故に、彼は病院からほとんど出たことが無く、同じ境遇である少女と仲良くなった。傷の舐めあい、といったら言葉は悪いが、境遇が同じ者同士だと会話は特に成立し易い。「病気がよくなったら――するんだ」などといった夢物語を、よく二人で話し合ったものだ。

 

 ――しかし、その少女は突然にして、健一の記憶に残る事無く、日常から文字通り消滅した。彼女は確かにこの世界に存在した筈なのに、誰も覚えていないその矛盾。健一は日常の中で僅かな違和感を覚えてはいたが、それだけだ。この違和感が確信に変わるのは、もう少し後の話になる。

 

 

 二人目は、その少女のお付きのボディーガード兼親代わり(?)のお兄さんだった。基本的に彼女以外とは無口な人だったが、健一が本当に応答を欲した時にはいつも相槌や言葉を返してくれる。言葉は少なくても分かる。本質的には優しい人だ。だからこそ、健一はその人の事を本当の兄の様に慕っていた。呼び方はいつも「お兄さん」だった。本人から「呼び方を考え直してほしい」と言われたが、健一が子ども独自の理論を展開した前には彼も敵わず、根負けしてしまった。そんな彼の中に潜む欠片ほどの優しさに、健一は密かな憧れを抱いていた。

 

 ――しかし、彼もまた少女と同時期に、誰に覚えられることも無くその存在を消滅させた。いや、ほとんど同時の消滅だったのだろう。彼女が消えた後の違和感とそれは、まったく同じものだった。

 

 

 そして三人目は……似非関西弁が特徴の、よく健一を悪の道(?)に誘い込もうとする男子学生だった。歳は健一と少女より上、しかしお兄さんよりは下、といった感じだった。そんな男子学生との出会いは……健一が六歳の時、病気のことについて思い詰めて、病院の周りを散歩していた時のことだった。

 

 その時の健一は、よほど暗い顔をしていたのだろう。男子学生の方から、散歩の途中に呼び止められたのだ。『何辛気臭い顔しとんねん』と。どうしてあの男子学生が健一に話し掛けてきたのか分からないが、その出会いが健一の人生に大きな光を与える事になった。

 健一はその男子学生に最初は警戒したものの、どのみち……と思い、自分の心の中をそこで全部吐き出した。『せんてんせーのびょーきとかで、ぜったいなおらない。ずっと病院暮らしなんだ』と。そう言うと、男子学生は何かを考えるような間を開けて、言った。

『ほんなら、ワイがえぇところに連れてったる。ついてきィや』と。病院から出る事を基本的に禁止されていた健一だったが、この時は後の事を考えずに、ただその男子学生の言うことに従ってついていった。

 

 ……そして銭湯に連れていかれ、混浴に入るための出汁に使われたのは、今になっては良い思い出である。その時の銭湯代が男子学生のおごりだったのは、感謝の証なのか、はたまた気前がいい人だったのか。

 男子学生曰く、『この世には、日常的にこんなにも奥深い神秘があるんや。病院の中も同じやで。小さなことでも、そこにはおっきな秘密が隠れとるかもしれへん。そんな顔しとったら、面白いことは見つからん。つまり、何でも前向きに考えて、自分なりにどんな小さなことでもえぇんや。見つけてみィや。日常の中の面白さを』と真剣に語られた。その言葉は本当にその時の健一にとっては衝撃的な言葉で、灰色に見えた世界に色が戻ってきたほどの衝撃を受けた。

 ――つまり、その男子学生の言葉のおかげで、健一の世界の見方は根本的に変わったのだ。日常の些事に面白さを見つける。ただそれだけのことなのに、それからの毎日は今までとは比べ物にならないほど面白くなっていった。

 

 それからは、よく男子学生は病院に見舞いに来てくれたものだ。きっかけは、一緒に銭湯に行ったこと、ではなく『病院を抜け出した、連れ出したことで二人一緒に医師から三時間ほど説教された』ことが原因だった。説教が終わった二人は健一の病室に入り、そこで医師の愚痴を言い合った結果仲良くなり、健一は「また来てくれるか?」と訊いたところ、「気が向いたら」と返される。

 

 それから男子学生は、週に一度くらいのペースで健一に会いに来た。そして三ヵ月に一度は病院を抜け出した。そして銭湯にて混浴に入った。男子学生はお兄さんとはまったく馬が合わなかったが、少女の方とはとてもよく話してくれた。こんな日常が、いつまでも続いてくれれば、それだけで――。

 

 ――しかし、彼は健一が十になった誕生日に、その存在を消滅させた。誰の記憶に覚えられることも無く、その命の灯をこの世から消したのだ。健一と親しかった三人の中で、最初に消滅したのが、この男子学生だった。この事実を、この時の健一はまだ知らなかった。

 

 

 三人の家族とも呼べるような人たちと触れ合い、知らない間にその存在が一人も残らず消えて……。

 ――そして事実を知った時には、もう全てが遅かった。

 

 ある日、いつも通り病院内を散歩している時に、健一は宝石のような石を拾い、それが偶然にもマホウだったために、『召喚せし者(マホウツカイ)』となってしまった。

 そしてマホウは、健一が潜在的に秘めていた願い――真実を知りたい――というそれを、完全な形で叶えることとなった。

 

 それこそが、『失われた神眼(オーディンのまなこ)』。全てを見据え、見通し、解析し、解明する、北欧神話の最高神オーディンが知識を得るために代償にした、左目の力だった。

 それは自分の記憶にあったはずのもの、そして今まで積んできた経験、人物など全てを解析することが出来る万能のマホウだった。

 

 だからこそ、真実を知ることが出来た。彼は過去に、確かに会ったことのある筈の少女、高嶺 陽菜子(たかみね ひなこ)、お兄さん、真田 卿介(さなだ けいすけ)、男子学生、霧崎 剣悟(きりさき けんご)。また、その三人を解析し、その記憶を介して別の『召喚せし者(マホウツカイ)』も知り尽くして、熟知し、彼は一つ、こう思った。

 

 ――こんな理不尽が、あって堪るかッ!

 

 叫び散らしたい気分だった。いや、実際に大声で恥も外聞も無く泣き続けた。怒りと絶望、その二つを混同させて、一日中涙を流し続けた。

 

 そして健一はまず、自分のマホウを使う事によって、自分の難病を治してしまった。情報解析能力と実行能力、両方に優れたこのマホウはまさに万能で、死角はない。マホウ自体が病気を完治させるための『魔術(ルーン)』を組み立てて、自己治療してしまう。健一が何でも理解している様に見えるのは、偏にこのマホウのおかげである。

 

 ――話が脱線したので、元に戻そう。

 

 病気を完治させた健一は三人を殺した人物、それに加担した人物、最後に諸悪の根源を恨みに恨んだ。そして次に会った時は、絶対に殺してやると、心に決めた。

 

 復讐相手は、芳乃 零二(よしの れいじ)、皇樹 龍一(すめらぎ りゅういち)、黒羽 紗雪(くろばね さゆき)、梶浦 海美(かじうら うみ)、そしてこの戦争の主犯であるオーディン、芳乃 創世(よしの そうせい)だ。特に、最初の二人と最後の一人だけは、絶対に許さない。

 

 だからこそ、健一はある禁忌(タブー)にまで足を踏み込み、それを習得した。復讐相手に、手段など選んでやる義理は無い。どれだけ汚い手だろうが、別に構わない。他人からの紛い物でも、過去の災厄を呼び起こした最凶の力であっても、使う事は厭わない。

 

 しかし、現実はそう上手くはいかない。

 そもそも、健一は『召喚せし者(マホウツカイ)』になった時から、戦争をするための空間に取り込まれはしたのだが、如何せん運が悪すぎた。いや、通常なら良すぎると言うのかもしれない。健一はその空間に取り込まれて、最後のたった一度を除いて、敵に遭遇することが一度として無かったのだ。

 町で復讐相手を見かけることはあったが、さすがに街中で人外の戦いをおっぱじめるわけにもいかず、そこで断念。その人物をより一層解析し、次へと備えた。

 

 ――それから月日が経ち。

 健一が初めて特別な空間の中で遭遇したのが、他の全員を殺しほとんど完成してしまった『オーディン』こと芳乃創世だった。最初の頃は復讐心に燃えていた健一だが、しかし、最後の最後に出遭うというのは運が悪すぎた。この時には既に、健一の中の復讐心はほとんど消えていたのだ。

 

 それは時間が経ち過ぎたための弊害と呼べるものだった。『失われた神眼(オーディンのまなこ)』は、他人の経験を自分に蓄積する、ということが強制的に行われる。もっとも、これは相手を直接見た時のみに起こる作用だ。他人の記憶を介しては発動しない。だが、それが行われて三日も経ってしまえば、健一自身の人格に大きな変化が起こる。

 ――具体的には、まず倫理観や道徳意識が別人のように変わる。これは他人の経験を無理矢理自分に蓄積してしまったのが問題だ。一種の刷り込みと考えてもらっても問題は無い。要約すれば、人格に大きな変化が訪れてしまうのだ。

 

 これが復讐相手全員分も繰り返されれば……それはもう、別人だ。確かに根幹には健一が居るのは確かなのだが、それでも刷り込まれた別人格の影響は強い。そのせいで、復讐の炎は日を経るごとにその灯を小さくしていった。

 そして最後には、もう復讐をやろうとすら思わなくなっていた。

 

 何故なら、結局のところ……全員が全員、今目の前にある理不尽に抗い続けた結果だったのだ。親しい三人が死んでしまったのも、他の全員が目の前の理不尽に殺されてしまったのも、誰が悪い、というわけではなかった。強いて言えば、最初の火種を用意したヤツが悪い、としか言えない。だが、そいつは既に圧倒的な理不尽が覚醒することにより殺されており、今はもう居ない。

 

 誰もが理不尽を背負ったこの戦争は、ある意味ではフェアな闘争だった。共通して倒す敵はお互いに居らず、ただ己の存在を賭けて戦う。芳乃創世ですら、ただ一人の愛した人を生き返らせる、というのが行動理念だった。一体、その美しい理想を現実に出来る可能性があったとして、それを実行に移すことを誰が咎める事を出来ようか?

 究極的に言ってしまえば、世界が悪かった。噛み合わなかった、この世界がいけなかったのだ。だから新たな理不尽が生まれ、闘争が繰り広げられた。

 

 だからこそ、健一は最後の最後、己の全てを賭けて芳乃創世と闘った。復讐のためじゃない。ただ、自分の存在を勝ち取るために。目の前の理不尽に打ち勝つためだけに。その全力を振り絞り、必死に抗い続けた。

 しかし、結果は知っての通り、それでも尚、思いは届かなかった。打ち勝つことが出来なかった。

 

 しかし、健一は気まぐれな運命に拾われて、理不尽に打ち勝つチャンスを貰う事が出来た。

 健一はその時に決意する。二度と、自分のような目に遭う人が居ない様に、せめて目の前の理不尽だけは、自分のこの『力』で駆逐しよう、と。

 

 例えそれが、『フィンブルの冬』の再来を起こすとしても。

 ただ目の前の理不尽を駆逐できるのであれば……健一はそれで構わない。

 

 マホウによって、健一は一つの真理を学んだ。

 ――理不尽は、同じ理不尽を以てしてしか退けられない、と。

 

 だからこそ、もう二度とあの時のようなミスを犯さないために……健一は鬼になる。

 

 その結果、他者の存在全てを自分の餌にしてしまう事態に発展したとしても……もはや、躊躇うことは微塵も無い。

 

 

 ――さぁ、躊躇を捨てた者よ。

 ――今この時代に、あの戦いの再現をしようではないか。

 ――理不尽と理不尽がぶつかり合う、あの美しい凌ぎ合いを、みんなに見せつけてやろう。

 ――『賢者の叡智』を持った君ならば。全てを知っている君ならば。きっと、その理不尽も退けることが出来るだろう。

 

 穢れ無きその想いは、きっと新たな神話を創り出すことができるだろう。

 ――さぁ、進め。ただ理不尽を駆逐するために。

 

 理不尽との鬼ごっこを、開始しようではないか――!

 

 『To be continued』〆

 

 




 はい。今回地の文しかねぇじゃねえか! とかいうのは大目に見てください。これでもいつもより大幅に少ない5000文字なんです。というか過去編を具体的に描こうとしたら、おそらく15000文字を越えると思いますし、ここで事細かに書くのは時期尚早かなと思うので自重しました。

 さてさて、ここからもう分かる人には次に起こるのが分かってしまったのでしょうが、まさかこの私がそんなストレートにヒントを出しておいて、それを愚直に猿真似するだけだとお思いでしょうか……? ははっ、むしろ逆です。ストレートにヒント出したら、ねじれるだけ捻じって、ひねくれさせてやります。私が捻くれている? そう言われても結構! むしろ、最高の褒め言葉です(ゲス顔)。

 あと、fortissimoの方が分からない方は、ウィキペディアでも流し読みしていただければ、大体の登場人物は分かると思います。全体を掴みたい方は、動画サイトに投稿されているものを見るなり、製品版を買うなりしていただければと思います。

 ――とはいっても、この二次創作そのものを把握するだけであれば、実はfortissimoの知識は必要ありません。説明するところは説明しますし、説明不足であれば遠慮なく感想のついでに書いたり、メッセージなどを入れていただければと思います。必ず返答いたします。

 あと、いつもと少し書き方が違うような、と思った方は「これは幕間だからしょうがない」と思ってください。私自身、これは一応狙って書いているので、根本的なミス(誤字脱字など)以外は直す気はありません。

 このことから、第○話などの本編は会話文を多く織り交ぜますが、幕間は地の文だらけの短めの文章、とこれからは認識していただければ幸いです。

 さてさて、それでは今回のあとがきはここまでにしようと思います。

 感想、批判、評価、コメント、ご指摘、お気に入り登録などは随時募集していますので、よろしければそちらの方もよろしくお願いいたします。
 それでは、また三日後から一週間後くらい、もしくは感想やメッセージにてお会いしましょう。ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
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