さてさて、今回はちょっと本当に予想を斜め上行く展開なのではないだろうか、と個人的に思っております。また、今回オリヴィエの戦闘描写にいつもよりちょっとだけ頑張ってみました!
それでは、長々とまえがきをするのも悪いですし、本編をどうぞ!
「そこの二人。何か困りごとか?」
「――ッ!?」
曇天の空からいきなり現れた少女二人に声を掛けると、その一人……クラウスに似た少女がいきなり構えを取る。オリヴィエ似の少女は「アインハルトさんっ!」と何やら注意している。
「……いきなり拳を向けられるとは思ってなかった。それとも、それは《召喚せし者(マホウツカイ)》である俺に対しての挑戦か?」
『――――ッ!?』
さっ、と少女二人が半歩下がり、先ほど注意をしていた少女さえも構えを取った。どうやら、少し遊び過ぎたようだ、と反省しながら健一は「してやったり」という笑みを浮かべて言う。
「冗談だ。さすがに見ず知らずの少女二人にいきなり戦闘を仕掛けるほど野蛮じゃないっての。――いや、クラウスには出逢って早々特大の神話魔術ぶっ放したから、一概にそうとも言えないか?」
最後の言葉が余計だった。健一のその言葉で少女二人に更なる緊張が走った。明らかに警戒されている。これはどうするべきかなぁ、と考えている時――。
「あ、ケンイチさん。状況の方はどう――あれっ?」
「ん? あぁ、オリヴィエか。状況の方は……うん、見た通り。お前と瓜二つの少女とクラウスに似た少女がいきなり天から降ってきた。そして現状に至る」
「ご先祖……様?」
「オリヴィエ……ッ!」
「ちなみに、どうやら未来から来たそうだけど」
オリヴィエと瓜二つの少女の言葉を補足するように、健一がそう言うと「なるほど」とオリヴィエは手をポンと叩き、納得したのか一つ頷いた。
「ケンイチさん、お二人をお連れしてまずはシュトゥラの王に指示を仰ぎましょう」
「それもそうか……というわけで、そこのお二人はそれで良いか?」
健一が訊くと、二人は少しだけ間を置いてから……頷いた。
「なら、行くか。確か、イクスとガルシアも一緒だったよな?」
「はい。あと、クラウスやエレミアもそっちに居るはずです」
「分かった。とりあえずお二人さんは、自分の身元事情を話せるようにしておけよ」
健一は最低限の注意だけをして、オリヴィエと隣り合って歩き始める。その様子を見ていた二人は、一度アイコンタクトをして、頷き合うと、二人の後についていくのだった。
◆
「さて、私は先日何を言ったでしょう?」
「まてマテ待てッ! 性別が女だからって顔合わせた程度でまさか怒る気か!?」
「私は嫉妬深いんです!」
「胸張って言うなッ!」
――ここは作戦会議室。
どうしてイクスと健一がこのような言い合いになっているのかといえば……健一がそこに少女二人を案内してそれを見た途端、イクスは何を勘違いしたのか「また健一が女を連れてきた」と思ったらしく、現状の言い合いに発展している。
「えっと……いつも、こんな雰囲気なのでしょうか?」
おずおず、といった様子でオリヴィエ似の少女――名をヴィヴィオ・タカマチ――が他の全員に向けて訊くと、オリヴィエが笑顔で「はい」と答える。クラウスとエレミアは、どこか諦めた様子で溜息を吐いていた。
「そんなことよりも、まずは未来から過去にタイムスリップしてきた原因調査と究明するのがセオリーだろうが!」
「あ、確かにそれもそうですね」
「……ガルシアか」
「ご名答です。マホウとは便利な力ですね」
「俺は茶番に付き合うほど暇ではないつもりなんだけどねぇ……」
健一は頭を掻きながら困った様な表情を浮かべて「はぁ」と溜息を吐いた。どうやら、先ほどの言い合いは全てここに来た二人の緊張を解くためのものらしい。効果はあまりなさそうだけど。
それと、ガルシアが出動したということは――。
「――――『高次領域展開・魔術兵装(セカンドアクセス・ゲート・オープン)』――――」
――外の状況が、相当にヤバいということだ。
それを理解した故に、健一はマホウ――『疾風迅雷(タービュランス)セット』と『グリモワール』と『ギャラルホルン』――を展開した。
「……外の御方ですか?」
オリヴィエが聞いてくる。どうやら、彼女も健一と同様に、異変に気づいた様だ。それは武人としての直感か、それとも状況判断によるものなのかは……分からない。
「流石のガルシアでも一人は少しきついだろうからな。さっさと片付けてくるよ」
「……なら、私もお供します」
「断る。オリヴィエ、ここはもう戦場だ。理解しているのか?」
「逆に問います。戦場にて単独行動がどれだけ危険か、分かっているのですか?」
「俺は死なない。《召喚せし者(マホウツカイ)》とは元来、マホウ以外では傷つかない不死の存在だ。たとえ首を切り落とされたとしても、俺が死ぬことはない」
「しかし、それも完全無欠ではありません」
健一の――誰も傷ついてほしくない――という想いと、オリヴィエの――健一にまた瀕死の重傷を負ってほしくない――という想いが衝突した。
お互いに戦場に身を置いているという自覚を持っているせいでピリピリとしているのか、あるいはそんな状況だからこそ引き締まっているのか。
その情景を見て、オリヴィエ似の少女ヴィヴィオと、クラウス似の少女アインハルトは剣呑な雰囲気になってきた、と思い込んであたふたとする。
「……付いてこれるものなら、付いてきてみろ。
――――『疾風迅雷(タービュランス)』――――ッ!!」
突如室内に雷鳴が轟く。それにヴィヴィオとアインハルトが明確にビクッ、と体を揺らしたが、今は関係ない。
自らを雷と化した健一は部屋の開いていた窓から、まさに光速を以て飛び出し、戦場へと出向いた。それに負けるまいと、オリヴィエもまた軽い身のこなしで三階の窓から跳び下りて……微妙な建物の出っ張りなどを利用して軽快にステップを踏み、そのまま地面に到達するまでそれを続けた。そして着地した瞬間、少女とは思えない迅速過ぎるスピードで彼方へと駆け出して行ってしまった。
「…………エレミアさん。ヴォルケンリッターと夜桜さんを招集してもらっていいですか?」
「――分かりました」
そして微妙な空気を何とか打破しようとイクスが絞り出した言葉がそれだった。その気持ちを察してか、エレミアは快く引き受けてその部屋から出て行った。
「今日の空は……いつにもまして、暗いですね」
ふと、イクスが二人の出て行った窓から空を見て呟いた。真っ黒な雲が空を覆う曇天。まるで嵐が来る予兆のようだ。
「……ケンイチさん、御武運を」
イクスは一人、静かに祈りをささげる。自分には、これくらいしか出来ないから。
その健気な想いは果たして、この曇天の空に届くのか――。
……それは蓋を開けてみるまで、分からない。
◆
「……来てやったぞ」
健一はある地点にて地面に着地し、そしてそこに居た存在に話し掛ける。
目の前には黒い外套を着こみ、フードで顔を隠した中肉中背の人がいる。それが誰なのか。健一は分かっているからこそ、警戒を解くなどといった愚かな事はしない。
「運命は……変わらなかった。俺には覚悟が足りなかった。そして最後、全てアイツに、邪魔された」
「……そうか」
目の前の人が虚空を見つめながら喋った。声からして男だということが容易に想像できた。いや、そもそも想像というのがおかしいか。何せ健一は、目の前の者の正体を知っているのだから。他ならぬ、自分のマホウが嫌でも教えてくれる。
「今のテメエに、はたして務まるのか? 『無限』を救うことが」
「やってみなければ分からない。俺は救う為なら、『賢者の叡智』を活用することも躊躇わない」
「……虹色の輝き、か。だが、それではまだ足りない。あと三歩は先に進まなければ、救済することは叶わない」
「だから、俺にお前を喰らえと?」
「……笑えない冗談はやめろ。もう全て分かっているんだろう? その虹色に輝く瞳のおかげで」
「それもそうか。――やるのか?」
「それしかないだろう? テメエには圧倒的に……経験が不足している。
――――『高次領域展開・魔術兵装(セカンドアクセス・ゲート・オープン)』――――」
お互いに全てが分かっている。だからこそ、多くの言葉は必要ない。
そもそもあの時、夢の中で剣悟を救えた時から、この可能性は十分にあった。世界の壁を越える――それは即ち、あらゆる世界を行き来できる可能性を秘めているのと同義だ。
「俺達《召喚せし者(マホウツカイ)》の経験とは即ち、己のマホウを如何に理解しているか、その一点に尽きる」
ゆらり、と黒い鞘を纏った魔剣を手に持って、目の前の外套を被った者の姿がぶれた。
「ちっ――ッ!」
刹那、轟音が荒野に響き渡る。それはまるで化け物の咆哮のように健一の体の芯まで震え上がらせ、そしてその力はまさに怪力。ガントレット――『雷光を打ち砕くもの(イルアン・グライベル)』――で辛うじて受け止めるも、その力は深く足先まで伝わり、健一の足元の地面にヒビが入り、そして浅くではあるが陥没した。
ぶつかり合ったことによる唸りが余波を呼び、健一の相手の顔を隠していたフードがはらり、と脱げた。
目の前の相手は男だった。黒いさんばら髪に、目つきが鋭く、しかしその瞳は半ば死んでおり、顔の彫りはそこまで深くない男。年齢は二十歳手前といったところだろう。そしてその人物の何より特徴的な部分は、左目が黒く怪しい光を放っているところだ。
健一の虹色の光とは似ても似つかないそれはしかし、健一の持っているモノと本質は全く同じだ。ただ、間違えた進化をしてしまったがために、その輝きは黒く穢れ切ってしまった。
「ぐ、ゥ……ッ!?」
あまりに重い魔剣の一撃は、健一の表情を歪ませるには十分すぎた。そしてその感覚こそが、今目の前で起きている出来事が現実だと語ってくれる。
「驚いたか? 自分(テメエ)の瞳が穢れ切ってしまっていたことに」
「あぁ、驚いたよ。まさかこんなふざけた状況が夢じゃないっていう現実に、な」
力では敵わない。そう判断した健一の行動は早かった。バックステップと共に轟く雷鳴。それと同時に『グリモワール』の七つの砲口から全弾発射。光速の後退と光速の攻撃。相手の追撃を許さないとばかりに二つが同時に行われ、更には完全な不意打ちの形だ。これならば、かすり傷程度は与えられるだろうとそう考えていたが――。
「甘いッ!!」
それぞれ違う色の七つの閃光は、黒い鞘を纏う魔剣によって阻まれた。たった一振りしただけで、七つの光線を無力化してしまったのだ。これは反射神経がどうこう、といったレベルの話ではない。それは一つの剣技として、完全な形へと限りなく近づいている――!
「お前は『剣技を使う事が出来なくなる』!」
「――無駄だ。俺には『俺が発動した以外の如何な概念魔術も通用しない』」
「ッ!? お前、マホウを展開せずに能力を――ッ!?」
それは間違いなく、健一も使える能力『曇りなき真実の嘘(アルケイディアジンクス)』の力だ。本来はマホウ『ギャラルホルン』を展開している状態でなければ使えない筈の能力。しかし、目の前の相手は魔剣とその瞳以外にこれといった武器(マホウ)を取り出しているようには見えない。
「そうか。テメエはまだ気づいていなかったな」
「……何のことだ?」
「お前は親善試合の時、『エッケザックス』を展開せずに『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』を使っただろう?」
「どういうことだ?」
「本来、あの能力は『エッケザックス』無しには発動出来ない」
カチリ、と健一の頭の中でピースがはまるような音がした。それはあまりに簡単で、それ故に気づかなかった真実。
健一は確かに親善試合の時、『エッケザックス』を展開せずに、能力の『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』を使った。しかし、それは本来あってはならない現実だ。何故なら、そもそもマホウの追加能力とは、そのマホウ無しには発動出来ないのだから――!
それは、つまり――。
「考えていると、隙が出来るぞ?」
「――ッ!?」
健一が思考している間に、目の前の男は既に魔剣をその内に納め、独特な構えを取っていた。同時に、それが何の合図なのか自分のマホウを介さずとも分かり、さっと血の気が引いていく。
「これで終わりか、それとも生き延びるか……見せて見ろやァッ!!」
その構えとは、間違いなく『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』を発動するためのものだった。世界一つを消滅させるほどの神話魔術の一撃は、とてもではないが受け切れるものではない。直撃を受ければ、間違いなく自分のマホウ諸共、この世界から消滅させられる。
――考えろ。神話魔術を防ぐ手立てを!
今の状況からでは、回避は間違いなく間に合わない。おそらく行動に移そうとして体が動いたその瞬間には、光に飲み込まれてしまう筈だ。
つまり、健一は少しも動くことなく、この場で敵の神話魔術を防がなくてはならない。
防御に特化した能力は現在、健一の中には二種類ある。しかし、その内の一つは多少の行動を必要とし、それでは手遅れ。残りもう一つの能力は、まず耐久力が心もとない。それだけでは、おそらくあの神話魔術を防ぐことは叶わない。
――ならばどうするか?
それは簡単だ。健一が今までやってきたように、足りない分は他から持ってくるしかない。いつもやっている合わせ技にて、相手の攻撃を防ぎ切る。それこそが、健一の取れる唯一の選択。
相手が世界一つを滅ぼすというのなら、こちらは最強の盾で、その攻撃を殺し切ってみせる――!
「――――『穢れ切った漆黒の雷光(トールハンマー・レーヴァテイン)』――――!」
――だからそのためのチカラを貸してくれ。陽菜子さん、お兄さんッ!
「――――『高潔なる忠誠心(アイギス・ブリンガー)』――――ッ!」
健一の目の前にオレンジ色の幾何学文様――魔法陣――が出現し、それが敵の黒く染まり切った神雷の魔導砲を全て受け止める。
――『高潔なる忠誠心(アイギス・ブリンガー)』。それは触れるもの全ての魔力を吸収し、あらゆる物理攻撃を『拒絶』する最強の盾。どのような一撃を以てしても、この盾の前には通用しない。
「……それは無駄だと分かっているだろう?」
「――ッ!」
しかし、相手の男はそれでも尚、防がれたとは思っていないらしい。そしてその自信はブラフではない。健一だからこそ分かり、そして次の一手も瞬時に理解した。
それは発動されれば最後、今の健一には成す術も無く敗北という未来しか訪れない。自分だからこそ、嫌でも分かってしまう。
対処方法は瞬時に浮かび上がる。つまり、あの攻撃を別空間に隔離してしまえばいいのだ。問題は隔離した後、どうやって敵の相手をするか、そこに尽きる。ただ隔離しただけでは、自分の魔力が底を尽き、その後に続かない。そんな状態で今の相手と戦うなど論外だ。逃げに徹するかと言われれば、それも出来ない。相手は絶対に、少なくとも自分と同じ速度で移動できる手段を持っている。ならば、どれだけ逃げたところで所詮は時間稼ぎに過ぎない。
少なくとも、今求められているのは敵をどんな手段でもいいので撤退させることだ。敵を退かせるためならば手段は問わない。しかし、そんなに都合のいい手段なんて、早々見つかる訳がない。
――いや、待て。
魔力が尽きるから後に続かないのであれば、その魔力を相手の攻撃を吸収することで、貯蔵タンクに貯めてしまえばいいのではないだろうか?
しかし『雷光を打ち砕くもの(イルアン・グライベル)』では役不足だ。あれ程までの一撃の魔力を貯蔵するのであれば、もっと大きな倉庫が必要になる。
その倉庫をどこに用意するか? 答えは絞られる。まず最低条件として、自分の手に届く(自由に出し入れの出来る)範囲だ。そして隔離する場所は、空間と定義されるどこか。
――条件は、自分が自由に出し入れ可能で、空間と定義されるどこか。
健一はふと、自分の能力に別空間にアクセスする能力が無いか検索する。
『九つの世界(ノートゥング)』はダメだ。アレは九つの平行世界にアクセスするだけで、空間にアクセスしているわけではない。それにその能力を使わなければ魔力を取り出せないなんて、とんだ欠陥もいいところだ。
そしてふと、敵の攻撃『穢れ切った漆黒の雷光(トールハンマー・レーヴァテイン)』が頭に引っ掛かる。
それは『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』と『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』の合わせ技だ。その合わせ技の原点の、『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』の方が妙に頭に引っ掛かった。
アレを使うのは、夜桜のオリジナルである『サクラ』と呼ばれるものだ。彼女は光を司る精霊。そういえば、空間系の能力を意外と使えるんだったな、と思う。
そして同時に、閃いた。彼女の能力の中に一つだけ、手軽に、別空間へとアクセスできる能力があったのだ。
もしも『高潔なる忠誠心(アイギス・ブリンガー)』に触れた全ての魔力を、第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』にてその空間へと隔離することが出来るのであれば――ッ!?
それはまさしく、究極の盾の完成となる。決して突破することが出来なければ、そもそも防御出来なかった未来、というものが存在しない。何故なら、究極の盾は敵の攻撃を防御するのではなく、攻撃に使われた敵の魔力を吸引し、そのまま自分の魔力タンクへと貯蔵するのだから。『高潔なる忠誠心(アイギス・ブリンガー)』の方は、いわば余波に対する保険のようなものだ。
故に最強。これを応用すれば、もしかすればあの能力すらも自由自在に使う事が出来るかもしれない――!
「『九つの世界(ノートゥング)』」
「第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』」
相手の男の能力と、健一の能力がほぼ同時に発動した。
男は九つの平行世界にアクセスし、健一の『最強の盾では防御出来なかった未来』を選択した。しかし、それでは……それだけでは――
「『そして誰も届かなくなった(ディメンション・アイギス・ブリンガー)』」
――健一の誇る、絶対防御には届かない。
いくら九つの平行世界にアクセスするといっても、空間そのものを消し去ることまでは出来ない。故に、たとえ最強の盾で防御出来ないとしても、防御すら必要としない攻撃隔離には、手も足も出ない。
――故に、男の攻撃は取り込まれ、健一の究極の盾は無傷で健在する。
「なっ……!? まさか、そんな手段で攻撃を無効化するとは――!」
男はそのギミックを理解したのだろう。驚愕を露わにして、しかし嬉しそうに野蛮な笑みを浮かべて頷いた。
「なるほど。確かに、究極の盾の前には……誰もお前には届かない。例えあの聖剣であったとしても、空間に孔を開けられて別次元に吸い込まれれば……お前には絶対に到達出来ない」
――そう。ここが本来の第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』とは違う使い方。別次元へと繋がった「孔の開いた空間そのものを創造」することで、攻撃を別の「元々存在している空間」に吸い込む、無敵の防御方法。繋がっている先が「元々存在している空間」だからこそ、そこに入ってしまえば最後、何人も出る事は出来ない。第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』で作った空間に入った時には既に、その攻撃は「元々あった別空間」に存在しているのだから。そこに出口など、ある筈がないのだ。
いくら聖剣(テュルヴィング)といえど、見えない先にある、別次元に居る存在を斬りつけるなどというそんな真似は出来ない。そしてそれが出来ない限り、この究極の盾を破ることは不可能だ。斬撃は、ただ真っ直ぐにしか飛ばないのだから。
「どうだ? 生き延びて見せてやったぜ」
「……あぁ。〝及第点〟だな」
「――はっ?」
自信満々に笑みを浮かべた健一に対して、攻撃を無力化された男は偉そうに「及第点」と言ってきた。そのことに、健一は表情を固めた。
「防御だけしか取柄が無いのなら、とりあえずは可能性があるだけ、って言っているんだよ。まだ俺は、傷一つ付いていない」
「……上等だ」
つまり防御しか出来ないのなら、救済出来る可能性は限りなく低い、と言いたいらしい。健一はその挑発にわざと乗り、渾身の『魔術(ルーン)』を練り上げる。
「今更後悔するんじゃねぇぞ……」
「しねぇよ。少なくとも今のテメエ如きには、な」
健一の大地を揺るがすほど濃密な『魔術(ルーン)』をみても動じる事はない。むしろこちらを更に煽ってくる始末。だからこそ、健一は全力で攻撃をすることに対して迷いを捨てた。
「はぁぁぁああああああ――――ッ!」
「そうだ。それで良い。この世界には、お前の攻撃は制御しなければ危険すぎる……が、『無限』や俺達のような化け物に対しては、そうでなければならない」
健一の魔力――『魔術(ルーン)』――の色が変色する。純白の輝きから灰色に、灰色から怪しい黒に、そして光も届かないような闇色に。
第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』によって枯渇した魔力を、先ほど敵の攻撃から吸収した魔力で補い、今持っている全ての知識を総動員して集中する。ただ目の前の男を、認めさせるほどの威力を練り上げるために。
「『お前は俺の攻撃から遁(のが)れることは出来ない!』」
『曇りなき真実の嘘(アルケイディアジンクス)』を発動し、敵の退路を先に塞ぎ確実に攻撃を当てるための布石を打った。これにより、相手はその場から移動することは出来ず、ただその場で対処することしか許されない。ただ、相手は概念魔術の無効化をしているので、これはもはや気休め程度ではあるのだが……。
――不意に、何かが燃える音が聞こえてきた。
それは他でもない、健一から発せられている音だった。彼の背中からは黒い焔で形成された二枚の翼が生え、それに触れた地面は溶けるようにして燃やし尽くされていく。
大地をも溶かし、燃やし尽くそうとする獄炎。それは見る人が見れば、まさに悪夢だ。炎が大地を焼き尽くすなど、一体どうすれば、見る事が出来るのだろうか。少なくとも、普通の世界で生きている人間には、そんな光景を見る事は出来ない。
しかし、ここに居るのはそちら側の者でも無ければ、人間ですらない。《召喚せし者(マホウツカイ)》という人類を越えた存在であり、この世界の異端分子だ。――ならばこそ、永劫の焔を操っているということに、一体何の問題があるというのだろうか。
「――――『聖剣ならざぬ焔の翼(フォーヴズ・ブルドガング)』――――ッ!!」
それは深い闇のような、まさに地獄の焔と呼ぶにふさわしいものだった。『永遠』の概念を宿している最強の炎。対象を焼き尽くすまでその灯を消すことはない、まさに永遠不滅の炎。それが直線上に伸び、まるでそれは獄炎の砲撃。それは正確無比に、男の胸を貫くために迫りくる――!
「第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』」
――しかし。
その永遠を宿した黒き焔ですら、男に傷一つ負わせることは出来なかった。あの規格外と同じ能力を使い、永遠の炎を無限の空間の中に隔離してしまった。
そして攻撃が通用しなかったのを見た途端に、健一は背中に生える獄炎の翼を消した。魔力が枯渇して、維持する事が出来なくなってしまったのだ。
「……馬鹿が。テメエは自分に、その技が通用すると本気で思っているのか?」
「だが、お前もこれで魔力はスッカラカン、だろ?」
「それでも、一対一ならテメエより長く生きてきた俺に圧倒的な勝機がある」
「そう。一対一ならな」
「……どういうこと――」
「ケンイチさんっ!!」
「――ッ!?」
不意に声が響いた。その声に目の前の男はビクッ、と体を大きくはねさせた。先ほどまで死んでいた瞳も、なぜかこの時だけは生気が宿ったように見えた。
「悪いが――タイムリミットだ。テメエは未来から、この世界を滅ぼすんじゃなくて、救いに来たんだろう? ならこれ以上戦っても、お互いに無益だろう?」
そんな男に構わず、健一は自分の提案を言った。健一の予想が正しければ、男の目的はつまり、健一の強化に他ならない。お互いに魔力が底を尽きたこの状況は、経験を積むには少し厳しい状況にある。ならば、ここは退いてくれると健一は思っていたのだが……。
「……いいや、無益じゃあない。それに、例えオリヴィエが来たとしても変わらない。俺にとっては、テメエが経験を積む事こそが有益なんだ。だからここでは、チーム戦の基礎ってやつを学んで行けや」
男は譲らなかった。大地にしっかりと足を着き、その手に再び黒い鞘に包まれた魔剣を取出し、そして構えた。
「自分の事ながら、本当に頑固だな」
「テメエも相当だろうが……って、自分相手に言っても悲しくなるだけか」
「そりゃそうだ」
だからこそ、健一も経験値で負けていると分かっていながら、黒い鞘に包まれた魔剣を取り出し、他の二つのマホウをその内に納める。この魔剣は所有者の意思によって、自分の一部の様に思える時もあれば、鉛の塊の様に重く感じる時もある。即ち、魔剣を持つ者は魔剣と共に戦い抜くという鋼鉄の意思が重要になる。
この世に本来ならば二つとない魔剣が、今此処に二本存在する。
「えっ……ケンイチさんが、二人――?」
健一のすぐ横でオリヴィエは停止して、横に居る健一と目の前の男を見比べる。
そこにはとても似ている……二人の顔があった。まるで男の顔は、健一を成長させていき写しにしたような感じだった。決定的な違いがあるとすれば、その左目の輝きだけ、というところだろうか。
それ故に、オリヴィエは戸惑った。一体どうして、その二人が敵対しているのだろうと。理由が分からないからこそ、動きが止まってしまった。
「……オリヴィエ、アイツはどうやら、俺の手助けをするためにわざわざ未来からやって来た俺自身らしい。今回、俺に戦闘経験が足りないってことで問答無用で勝負を仕掛けられた。悪い奴じゃないんだが……油断していたら、マジで殺されかねない。模擬戦ではなく、実戦として対処するんだ。ここからは、俺とお前の二人で、アイツに立ち向かう」
「――なるほど。そういうことですか……。分かりました。全力でいきます」
「合わせられるか?」
「はい。作戦は?」
「とにかく攻撃だ。場合によっては、お互いをフォローする」
「シンプルで分かり易いですね」
「あぁ。純粋な力量差を覆すには、手数で圧倒するのが一番だからな」
そして、二人は構え直す。オリヴィエはいつでも飛び出せるように重心を前に傾けて拳を固め、健一は両手で持った魔剣の切っ先を敵に向けて、その両手の位置を自分の頭と同じ高さに固定する。
「行くぞ、未来の俺――神崎健一ッ!!」
その声と共に、健一は未来の自分へと肉薄する。純粋な身体能力を使っての突撃故に速度はそこまでではないが、それは未来のケンイチにも言えることだ。
魔剣で一閃。首を刈り取る、のではなく胴体を薙ぎ払うように斜め左下に切り払う軌道。その剣はまるで熟練者の如く速く、そして鋭い。健一の感覚だが、魔剣がまるで体の一部のように馴染むのだ。魔剣が、健一に応えてくれている。
「遅い!」
――しかし。
剣技の熟練度でいえば、未来のケンイチに圧倒的なアドバンテージがある。それはもはや覆すことのできない実力差となって明白に表れており、健一の熟練者のような一撃を難無く弾き、そこに追撃を入れようとする――
「はぁッ!」
「――ちィッ!」
――のだが、未来のケンイチにはそれが出来ない。健一の剣がいなされた瞬間に、間髪入れずにオリヴィエが回し蹴りを繰り出したのだ。その威力は決して《召喚せし者(マホウツカイ)》であっても無視できるものではなく、ケンイチは仕方なくオリヴィエの攻撃を防ぎ、そして彼女を力任せに魔剣を以て吹き飛ばす。
「きゃあっ!?」
体の軽い彼女は、その力任せにアッサリと吹き飛ばされてしまう。重量差がありすぎたのだ。
「だらぁッ!」
そしてそこに間髪入れず、今度は健一が魔剣で斬り掛かる。力任せに吹き飛ばしたのであれば、少しでも隙が出来ていると思ったのだ。
――しかし。
「そんながむしゃらな攻撃は、チームプレイとは言わないぞ!」
その連続攻撃ですら、未来のケンイチには届かない。魔剣同士がぶつかり合い、唸りが上がる。超重量という点で全く変わりのない二つの剣だが、如何せんその体格差と技量差に問題があった。連続攻撃というアドバンテージを以てしても、健一では未来のケンイチに届かない。それどころか、鍔迫り合いになったことで健一が圧倒的不利な状況に陥ってしまった。
「健一さん、伏せて!」
オリヴィエの声が聞こえてくる。健一はそれに無条件で従い、咄嗟にその場に屈むと、それとほぼ同時に風を切る音と、爆発音にも似た轟音が響き渡る。みてみると、どうやらオリヴィエが体を捻じり、回転力を増した全力の蹴りを魔剣に叩き込んだようだった。
そしてその一撃は予想以上に重かったのだろう。魔剣を持った手は大きく後ろに弾かれ、未来のケンイチの顔に僅かな苦悶の表情が浮かぶ。オリヴィエは今、空中に居るため追撃が出来ない。ならば、健一自身が追撃を加え――
「健一さん、足場をッ!」
――ようとしたところで、オリヴィエから声が掛かる。自分の足場を作れ、と言いたいようだ。一瞬、どうやって、と思うがすぐにその方法も思いつく。
「逃すなよ!」
同時に、健一は体を右回転させて魔剣を持ち直し、その魔剣の腹を空中に居るオリヴィエに向けて叩きつけるようにしてスイングする。すると、オリヴィエは足の裏をその魔剣の腹に向けて少しだけ関節を曲げ、それが触れたと同時に力一杯足に力を入れて、なんと空中にいるにも関わらず尋常でない加速力を生み出した。そしてその加速力を以て、今度は蹴りではなくその両拳で敵の腹部を強打した。
「シュペーア・ファウスト!」
「がァッ!?」
純粋な加速力と拳を打つ技術の二つが合わさり、強烈な打撃と変わってケンイチを襲い、空中に放り出され……そして重力によって、地面に叩きつけられる。
「……どれくらいだ?」
「おそらく、肋骨三本、といったところです。ですが、もしもケンイチさんと同じく超再生能力があるのであれば……何の問題にもならないと思います」
「そうか」
短く言葉を交えて、互いに今は敵である地面に伏したケンイチの方を見る。すると、数秒もしない内に起き上がり、まるで何事も無かったかのように剣を構えようとして……一瞬、その表情を歪めて、魔剣をその内に納めた。
「……また来るべき時に、今度は味方として会おう。
――――『疾風迅雷(タービュランス)』――――ッ!」
雷鳴が轟き、そしてそれが聞こえた時には、既にそこにケンイチの姿はなかった。そして健一は思う。一体どうして、急に戦いをやめたのだろうか。表情をあそこまで歪めていたのだろうか、と。
「大丈夫か? ケンイチよ」
そしてその答えは、すぐに叩きだされることとなった。何故なら、背後から聞き覚えのある老人の声がしてきたからだ。
「……ガルシアか」
なるほど、と健一は納得する。確かにこの化け物のような爺さんを相手にするのは、未来の自分であっても御免だな、と。表情を歪めたのも戦いをやめたのも、全て合点がいく。
「どうやら、間に合ったようだな」
「ガルシア、お前の方はどうだったんだ?」
「なに、少し厄介な拾いモノをしただけよ。それをあちらに引き渡している間に、どうやらお主らが出動したみたいでの。つまり、入れ違いになったのだ」
何ともタイミングが悪い。しかし、そのタイミングが今回の健一の進化へと繋がった。その運命のイタズラに感謝するべきなのか、あるいは恨むべきなのか……。
「戻ろうぞ。シュトゥラの王から、今後の行動方針が伝えられるのだ」
「……分かった。行こう、オリヴィエ」
「はいっ!」
そんな健一の心情をよそに、ガルシアは提案し、オリヴィエは笑顔で対応する。こんな危険な日常にも関わらず、よくもまぁ平然としていられるものだ、と健一は二人の胆力に感心しながら、帰路につく。
「今度、一緒にチーム形式でガルシア殿と模擬戦をしてみましょう! もちろん、チームは私と健一さんのタッグです!」
「お前、どこからその気力が湧いてくるんだよ……」
その途中、オリヴィエからのそんな提案に健一は頭を抱えたい気持ちになりながらも、「まぁ、いいよ」と返してしまった。
後になって考えてみれば、一体どうして自分がそんな提案を受けてしまったのか訳がわからなかった。もしかしたら、この時には既に、健一は彼女に――。
「……未来は、お前のおかげで変わるかもしれない。感謝するよ、未来の俺」
不意にポツリ、と健一がそう零した言葉を、誰も聞き取ることは出来なかった。
はい、未来からまさかの神崎健一が出現! 時系列的には古代ベルカ平定の時期ですね。変化し過ぎですが、それが救済に失敗した神崎健一です。
ちょっと残酷かもしれませんが、やっぱりこういった部分は最大限、主人公や周りの進化を促すソースとして活用しようと私は思う訳ですよ。
今回は健一&オリヴィエのコンビが結成! それが持続するのかは……ふたを開けてからのお楽しみです。
そして最近思うのですが、オリヴィエってガルシア並みとはいかなくても強すぎますよね。だって、オリヴィエこの時まだ十歳ですよ? 十歳でこの強さで、それが成長したら……空恐ろしいものを感じます。これ、ガルシア越えてしまうんじゃないでしょうか……?
つまりオリヴィエがチートと言いたいわけです。私がそうしているので私から何かいうことはありません。ただ、反省も後悔も一切していません! オリヴィエ最強キャラ、これは古代ベルカで絶対ですね!
そしてエレミアの出番が無いのは……しょうがないのです。クラウスとオリヴィエを立てるとどうしてもエレミアが影に隠れてしまうんや……!
いずれエレミアもキャラを立てれるようにしますので、エレミアファンの方はその時まで待っていただければと思います。
そして最近思う事は、古代ベルカってやっぱり描き辛いですね! ということです。ここまでキャラを集結させちゃうと、もう描写出来ないキャラが出来てしまうとは……少し自分の文章力を反省しつつ、これを生かしてもっとも高みへと上り詰めたいと思います。
あと、『高潔なる忠誠心(アイギス・ブリンガー)』と第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』の合わせ技である『誰も届かなくなった(ディメンション・アイギス・ブリンガー)』でどうしてテュルヴィングすら防げるのかといえば……。
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→ 別│盾
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図解するとこんな感じです。「盾」は『高潔なる忠誠心(アイギス・ブリンガー)』を示しており、「コ」は第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』で作った空間を表現しており、「別」は創り出したのとは別の空間であり、「→」は攻撃方向を意味しています。
この場合、テュルヴィングの一撃は第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』で作った空間に触れることなく、その中に引き摺りこまれてしまいますよね? つまり、そういうことです。テュルヴィングではそもそも、その創り出された空間に触れる以前の問題だったのです。
孔の開いた空間の中は既に無限に広がる宇宙空間と同義の別次元ですから、そこから斬撃が次元の壁まで切り裂いて突破することは出来ません。何故なら、切り裂いた先の世界が分からないからです。
空間の中から脱出する術は後退しかないのですが、そもそも斬撃は真っ直ぐにしか飛ばないため対処不可能。どうあっても、テュルヴィングでは到達しえないのです。
あと、図解からいいますと正式には『高潔なる忠誠心(アイギス・ブリンガー)』の魔力吸収能力を利用して、第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』で創った空間に引き摺りこんでいる、という感じですね。実は未来のケンイチの攻撃は盾にすら触れていなかったという事実がここにはあります。
さてさて、長話してしまいましたが、今回はここまでにしましょう。
最後まで読んでいただき、まことにありがとうございます!
また次話投稿の3日~7日後か、感想やメッセージにてお会いしましょう。
感想、コメント、ご指摘、批判、評価、お気に入り登録、などなど、これらは毎度言っている様に随時募集しております。というか、むしろこれが私の執筆に必要なエネルギーだったりします。
それでは、次回も楽しみにお待ちいただければと思います。