それと今回、更新が一週間も遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
言い訳をさせてもらいますと、単純に筆が走らなかった、とだけ明記しておきます。
ただし、それ故に今回は個人として収穫の多いものとなりました。後半、おそらく文体が全くといっていいほど違います。この辺りを自分ではそれなりに描けたのではないか、と思っていたりします。ただ、初めての試みということもあり、若干の違和感を覚えることもあるかもしれません。その場合は遠慮なく、メッセージなどで言っていただければと思います。
それでは、本編をどうぞ。
――ここは、シュトゥラ王宮の会議室。
そこには今、十六人の人物が集まっていた。シュトゥラに集まっている重要人物全員と、ガルシアが拾ってきた二人だ。何故集まっているのかといえば、それは今後の方針がシュトゥラの王から話されるからだ。
「纏めると、だ。アミティエ、レヴィ、ヴィヴィオ、アインハルト。この四名は皆、途方も無く先の未来から、この時代に来てしまったのだな?」
「はい、その通りです」
シュトゥラの王の問いに、翡翠色の瞳、赤髪に長いおさげ、そしてハキハキとした受け答えが特徴的なアミティエが答えた。年の頃は十七から十八あたりだろう。未来から来た組の中で、おそらく彼女が一番年上だ。
――そしてそのアミティエこそが、今回の過去へ転移するという不可解な現象の、原因解明の鍵を握っている重要人物だ。
「そして、此度の事件はそなたが原因だと?」
「はい。私たちはあるものを探しに、この世界へと時間を越えてやってきました。その時間跳躍の際に、装置に負荷がかかり、他の世界まで巻き込んでしまいました。皆様には本当に、申し訳ないと思っています」
「――して、その『あるもの』とは?」
「……無限連環機構、システムU-Dです」
「それは……」
アミティエの答えに、シュトゥラの王が口を開きかけてやめた。顎に手を当て、しばし考え込む。その場に沈黙が流れる。
「俺が尻拭いに行きますよ」
不意に、健一が挙手して名乗りを上げた。シュトゥラの王が健一の顔を見てみると、それは決意の固まった男の顔だった。
「……ケンイチ殿よ。相手がどれだけ危険か、分かっておるのか?」
「重々承知の上で、申し上げています。そして今更そんな死地、俺が恐れるとお思いですか? 心外ですね。あの理不尽に比べれば、この程度はどうという事も無い」
「ならば、儂も微力ながらではあるが、参加させてもらうとしよう」
「……勝算はあるのか?」
「無くて縮こまっていられるほど、状況は良いとは思えませんが?」
「…………すまない」
「これが最善です。この中でもっとも攻撃力のある俺と、総合的に最強のガルシア。二人で行けばまぁ……勝率もかなり上がると思いますし。それに、俺はどれだけ負傷しても、マホウを破壊されない限りは死にません。シュトゥラの王、あなたが気負う事はありません」
そう言って、健一は室内を後にしようと踵を返して歩みを進めるが……突然、彼の目の前にオリヴィエが立ちはだかる。
「私も連れて行ってもらいますよ。健一さん」
「……お前は、相手が誰か分かっているのか?」
「永久機関。その程度で、私が退くと思っていましたか?」
「そもそも地力が違い過ぎる。オリヴィエ、お前じゃ力不足だ」
「いいえ。そんなことはありません。私も日々――ケンイチさんに腕を治していただいてからますます、強くなっています」
「だが、それでも俺の全力には及ばない」
「確かに、ケンイチさんの圧倒的な攻撃力を前に、私は無力な存在かもしれません。でも、それはケンイチさんにも同じことが言えます。そして何より、ケンイチさんが大技を出す暇さえ与えなければ、私にだって勝ち目はあります」
「へぇ……? 光速で移動可能な俺に、追いすがれると……本気で思っているのか?」
「たとえ光速であったとしても、何もケンイチさんの神経伝達速度が向上するわけではありません。実際に、今から試してみますか?」
「……なら、表に出ろ。ガルシア、お前には審判を頼む」
「はぁ……しょうがない、か。相(あい)、わかった」
三人はすぐに部屋から退出した。あまりにも場違いなその空気に、誰もが口を挟むことが出来ず、また止める事が出来なかった。
「……あれ? みんな見に行かないの?」
能天気で元気そうな子どもの声。レヴィのものだ。彼女は三人に付いていこうと部屋から出ようとして、誰も付いてこないことを不思議がって振り向き、首を傾げながらそう聞いてきた。
「……皆は、一度ケンイチ殿の強さを確かめに行くとよい」
「父――陛下は、一体どうするのですか?」
「私は少し、休憩を取ろうと思う。それにまだ、こちらの事件の整理や、軍の派遣が済んでいないのだ」
「なるほど……分かりました。それでは、お言葉に甘えて失礼します」
クラウスは自らの父であるシュトゥラの王にうやうやしく頭を垂れて、その場を後にした。それに続くようにして、その場に居た誰もが部屋から去って行く。
「…………この世は本当に、ままならないものだ」
自分の前に置いてある書類を手に取り、シュトゥラの王は深い溜息と共に大きく肩を落とした。
「ケンイチ殿。あとは全て、そなたに託したぞ……」
書類の下には、一枚の紙が置いてあった。大きさは手紙ほどで、文面は少し長い。そしてそこには、こう書いてあった。
『今はまだ予想も出来ない未来の話。
聖王はゆりかごの王となり、人間を越えし者は一番大切な者を失う。
そいつはそれにより究極の力を手に入れるが、それでも尚、命の創造には届かない。
永遠を創造し、空間を創り出し、概念を生み出し、そして純然なる力を創造する。
神の御業を手に入れても、穢れ切った力では尚、最大の理不尽には届かない。
未来は暗い。先は聖王がゆりかごの王になり、覇王は戦死し、残り二人はただこの世界に取り残される。
――――しかし、それは間違った進化をしてしまったからこそであり、正しい道を歩めば、きっと《誰しもが望む平和》に辿り着ける。彼にはそれだけの能力がある。まだ気づいていないだけなのだ。自分のマホウ《失われた神眼》の深淵に。
だから貴方が、密かに彼を軌道修正してほしい。間違った方向に進まない様に、正しい道に、戻してほしい。
全ては、この世界にハッピーエンドを届けるために。皆が望む平和を勝ち取るために。
だからこそ貴方には、合言葉を教えておこうと思う。
彼を御するための、そして正しい道を選ばせるための合言葉だ。相互利益のために、この言葉を知ってほしい。
名を――――という。そいつは六年後、この世界にやって来る。
一番大切な者を、理不尽に奪われて良いのか?
これは未来の俺からの遺言だ。掴み取れ、その手に、幸せな未来を。剣悟さんも、他の皆も、お前が幸せになることを望んでいる。
思い出せ。お前は一体、本当は何が欲しかったんだ?
俺達に力なんて必要無かったんだ。あるのはただ、目の前に提示された真実だけだ。
――見つけ出せ。お前だけの、真理を。
――掴み取れ。その手に、本当に望む未来を。
――終焉を告げろ。悲しみの連鎖を断ち切り、全てを理不尽から解放するんだ。
だってそれこそが、俺達の在り方なのだろう? ならば、貫いて見せろ……神崎 健一!』
◆
「ここなら、どれだけ暴れても問題ないだろ」
「そうですね」
城の外。荒野の中。健一とオリヴィエは互いに距離を取って対峙する。ガルシアはそれを少し離れた場所から見学し、他の見学者は全員がガルシアの後ろに居た。
「――――『高次領域展開・魔術兵装(セカンドアクセス・ゲート・オープン)』――――」
そして健一は武装を展開する。『疾風迅雷セット』だ。いつも展開している『失われた神眼(オーディンのまなこ)』もある。
「始めよう、オリヴィエ。互いに譲れないモノを賭けて」
そして今回、健一にとって手加減する理由は何一つとして無い。前回の親善試合の時みたいになることも絶対にない。
「はい。絶対に、私が勝ちます」
柔らかい微笑みを浮かべながら、オリヴィエは臨戦態勢を取る。その構えに隙は無く、僅か十歳だというのに実に見事だといえる。これは数年すれば、《召喚せし者(マホウツカイ)》である自分ですら到達出来ない高みに行くかもしれない。そんな予感はしたが、しかしそれは今ではない。
――だからこそ、健一の勝率は十全と言って良いほどにある。もはやこの勝負、端から人間同士の闘争というレベルに納めていいものではないのだから。人間であるオリヴィエに、対抗できるはずもない。
「それでは……双方、準備は良いな?」
「いつでもどうぞ」
「合図は任せる」
ガルシアは確認を取り、腕を組んで仁王立ちになる。そして目一杯、空気を吸い込むと、とても老人から出るとは思えない咆哮を上げた。
「始めッ!!」
後ろに居た者のほとんどがビクッ、と肩を揺らした。原因は言うまでも無く、ガルシアの声のせいだ。しかし、健一とオリヴィエだけは何ともなく、お互いが同時に距離を詰める為に低空タックルを行った。
「『俺の体感時間は加速する』――――」
『曇りなき真実の嘘(アルケイディアジンクス)』の効果が発動する。同時に、健一から見た世界がスローモーション映像のように、オリヴィエの動きがゆっくり、ハッキリと見えるようになる。
まずは右の拳が突き出される。健一がそれを紙一重で躱すと、今度は左の拳が突き出される。しかし、それも健一はスレスレのところで躱す。そこから回し蹴りに即座に繋げて連撃を繰り出すが、それもあっさり、それも全てギリギリで躱される。
オリヴィエはその事に目を見張った。まさか、自分の連撃が全て躱されるとは思っていなかったのだろう。初めから一度は攻撃が当たると見越しての攻撃だった為か、僅かながら隙が生まれている。健一は容赦なく、その隙を突き、彼女の腹に全力の拳を放つ。
「――――『神討つ拳狼の蒼槍(フェンリスヴォルフ)』――――」
それはもはや、一撃必殺といってもお釣りがくるほどの拳だ。一言で表せば、フルスロットル魔力パンチ。ただ魔力の塊を拳という一点に集中して放つパンチ。それが『神討つ拳狼の蒼槍(フェンリスヴォルフ)』だ。オリヴィエは不意を突かれ、それを防御も出来ず、直撃した。
本来の威力は、世界一つを滅ぼす神話魔術と威力は同等。使用魔力量が少なくて弱体化をしているとはいっても、その威力は依然、彼の神狼の名に相応しい威力を持っている。
故に、その拳がオリヴィエを遥か後方に飛ばし、余波で健一の周囲数メートルの大地が抉れるのも、必然だった。
「……オリヴィエ、これが人間のお前と、《召喚せし者(マホウツカイ)》である俺の、決定的な力の差だ」
ポツリ、と健一が言葉を零す。哀愁に満ちた言葉だった。誰もがそんな健一の姿を見て、身震いした。文字通り、実力の桁が違い過ぎる。オリヴィエの刹那の間に繰り出された連撃をいとも簡単に躱し、正確無比に必殺の一撃を入れる今の闘いの流れは、誰が見ても見事の一言に尽きるものだった。
「――まさかこれくらいで、終わりとは思っていませんよね?」
健一のすぐ近くから、声が聞こえてきた。とても澄んだ、女の子の声。それは紛れも無く、オリヴィエのものだった。一体どこに、と思った時には既に遅く、健一の脇腹に鈍い衝撃が走る。
「がぁッ!?」
体感時間を加速した健一ですら追いつけなかった。その事実に驚愕すると同時に、次に何をしなければならないかをすぐに導きだし、オリヴィエの攻撃の衝撃で吹き飛ばされながらも実行する。
「――――『疾風迅雷(タービュランス)』――――ッ!!」
光速を以て後方へと緊急回避。そしてそれは正解だった。紙一重の差で、オリヴィエの踵落しが先ほどまで健一の居た場所を通り過ぎ、大地を深々と抉ったのだ。当たっていれば、間違いなく骨一本で済まされるレベルを超えているその威力に、健一はオリヴィエの異常な強さには何か他の要因が関係しているのだと理解する。
取った距離は十メートル弱。健一はそこで静止すると同時に、自分のマホウを介してオリヴィエを見て、ようやく何があったのか、全てを知る。
「――――『気まぐれな戦女神の祝福(トリックスター・ディプライヴス)』――――」
ポツリ、と健一は言葉をもらす。それがオリヴィエに備わった能力であり、勝機を無限に作り出すことのできる、敵に回せば厄介この上ない才能の名前だ。いや、才能というのはおかしいのかもしれない。何故なら、それは紛れも無く健一が干渉したことにより、オリヴィエに発現してしまったのだから。
原因は至って簡単だ。『黄金色の聖約(ティルヴィング)』によってオリヴィエの『欠損』という概念を断ち切ったことによって、彼女は「やれば何でも出来てしまう」、欠陥の無い完璧超人になってしまったのだ。
だからこそ、オリヴィエはもはや人という枠組みに収まらない。言うなれば、《召喚せし者(マホウツカイ)》を越えた存在、《魔法使い(ユグドラシル)》といったところだろう。
その瞬間に気付いてしまった。人間という枠組みに収まらない規格外な地力の差というアドバンテージを、完全に失ってしまったことに。
ここで初めて、健一は自分が人間を越えて驕っていたことに気が付いた。この世界で、自分を殺せる存在は他に居るとしても、その圧倒的な地力の差を覆す存在など居ない。その常識が目の前で打ち砕かれたことによって、そのことにようやく気が付くことが出来た。
これは健一の考え得る限り、最悪のケースだ。世界一つを滅ぼす神話魔術よりも劣っているとはいえ、それに近しい威力を誇る攻撃が直撃しても無傷のオリヴィエに、もはや健一が勝つ手段は数えるほどしか残されていない。
「最強の防御能力『聖王の鎧』……」
オリヴィエの異常な防御能力の高さはそれが原因だった。先天性――というよりは、遺伝的な能力らしく、効果は至って単純。対象に害を成すあらゆる攻撃を自動的に防御するものだ。その能力自体の防御能力はまさに神聖なる神の盾の如し。神話魔術を以てしても、破ることは叶わない。
だからこそ、健一に求められるモノはたったひとつ。そんな防御能力に関係無く、オリヴィエにダメージを与える攻撃を放つ。ただそれだけだ。
「…………オリヴィエ、ごめんな」
それ故に、もはや健一に妥協は許されない。譲れないモノがあるからこそ、負けられない理由があるからこそ、例え彼女を倒すことになろうとも、健一は揺るがない。
「『俺の攻撃は、オリヴィエ以外には作用しない』」
『曇りなき真実の嘘(アルケイディアジンクス)』を発動する。それは健一の攻撃が強すぎる故の処置だった。クラウスのように手加減していたのであればともかく、今回、健一は全身全霊、本気の神話魔術を放とうとしている。そんな攻撃がもし、この場で放出されたのであれば……本当に、世界が滅んでしまう。
「いきますよ、ケンイチさんっ!」
ダッ、とオリヴィエが間合いを詰めるべく駆け出した。お互いの距離は近すぎず、しかし遠すぎない。しかし、武人であるオリヴィエにとってこの程度の距離は、刹那の時さえあれば零にすることが出来る。
「――――『九つの世界(ノートゥング)――――』
「――ッ!」
神雷の轟きが、地震のようにその場を大きく揺らした。膨大な魔力が、健一の横に雷の槍となって顕現する。その数は九本。その一本一本全てが、世界を滅ぼすほどの威力を秘めている。これは不味い、と顔面蒼白になるオリヴィエはすぐに後退しようとするが……如何せん、慣性の法則を超越してしまうほど人間を辞めている訳では無かった。
「――――『魔術兵装(ゲート・オープン)』――――」
取り出されたのは、七色の魔導砲『グリモワール』だ。それから放たれる神話魔術の名は『極光の断罪者(ジャッジメント)』。対象に『グリモワール』による『罪』を与えれば与える程、威力が増強される神話魔術だ。
七色の魔導砲の砲門は全て、オリヴィエに向いている。
しかし、これだけではまだ、あの防御を撃ち抜くには足りない。
「――――『解放されし九つの鍵(レーギャルン)』、全開錠(コンプリートアクセス)、『九つの世界(ノートゥング)』、アクセス――――」
故に、封印されし最強の聖剣(レーヴァテイン)を取り出す。九つの封印が成されていた聖剣は今、その鞘を脱ぎ捨てて、超高熱の光の剣となって、『グリモワール』の砲門全てに九発ずつ、セットされる。
――――つまりその数、六十三発。
九つの平行世界にリンクして、更には聖剣の戒めを解いたことにより可能にした、本来はあってはならない現象。『グリモワール』の七つの砲門全てに一発ずつ、その聖剣をセットする。これは他の平行世界全てにおいて同じことが起きていた。故に、その現象を『九つの世界(ノートゥング)』によって、攻撃準備の結末を九つの平行世界から一つの世界に集結させることで、砲門七つ×各砲門に九発の聖剣=六十三本の聖剣を顕現させることが出来たのだ。
「オリヴィエ。単刀直入に言ってやる」
そして忘れてはならない。健一は六十三本の聖剣と共に、九本の神雷の槍を取り出している事を――。健一が準備を整えている間に、オリヴィエが五メートルほどの間合いを取ったことを、忘れてはならない。
「俺はお前が、大っ嫌いだ」
「えっ……?」
「真っ直ぐな瞳、明るい笑顔、優しくて気高い心、そして特に、世界の為ならば自分すら犠牲に出来るその強さと、他人に涙を見せない我慢強さが、俺は大っ嫌いだ」
「…………」
オリヴィエは返す言葉を見つけられず、ただ沈黙するしかなかった。唸りを上げる魔力を前に、ただ立ち尽くすしかない。
「これは俺からの手向けだ。大っ嫌いなお前との、別れを告げる一撃だ」
左手の中指、人差し指、親指だけを立てた左手を前に出し、右手を後ろに引く。独特過ぎるその構えは、かつて理不尽を体現したような男が取ったものと全く同じだった。
「負けたら全部、俺に向けて、吐き出してもらうぜ……オリヴィエッ!」
今まで溜めてきた彼女の鬱屈。その総てを蹴散らす一撃を。笑顔の裏に張り付いた、闇を焼き切る一撃を。もう二度と、あのような道程が創造されないための一撃を。健一が求めてやまない、ハッピーエンドに導くための、布石となる一撃を――。
「これが、俺の辿り着いた――――」
――ただその一撃を放つためのトリガーは、健一が拳を突き出すその瞬間だ。
「――――全てを救うための、最初の布石(オーバーチュア)だ」
ドクン、とオリヴィエの心臓が飛び跳ねた。それは目の前にある圧倒的な魔力に当てられたわけでもなければ、敗北という運命が確定したことへの驚きでもない。
「――――『偉大なる開闢の神槍(オーバーロード・グングニル)』――――ッ!!」
健一は拳を力一杯、前方に居るオリヴィエへと振るった。
赤(『天地創造の神槍(グングニル)』)、黄(『総てを超越せし九つの雷光(トールハンマー・フルアクセス)』、桜(『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』✕六十三)、そして虹(『極光の断罪者(ジャッジメント)』)。四種の神話魔術が互いに混ざり合い、それが一つの新しい神話魔術として大成する。
多数の色彩が混ざり合っているにも関わらず、その色は純白だった。どこまでも澄み切った、白。本来なら有り得ないその色は、新たな神話の始まりの象徴といえる。
「あっ――――」
純白の光に飲み込まれたオリヴィエが、小さく声を上げる。攻撃だというのに、とても温かい。体の芯から、自分を安心させ、温めてくれる、優しい光。痛みは感じない。苦しいとも感じない。むしろ、春の陽気に包まれた様な温かさが心地よかった。
パリン、と何かが砕け散る音が聞こえた。続いて、誰かに足をすくい上げられ、そのまま抱えられた。温もりが伝わってくる。いつの間にか、純白の光は消えていて、見上げてみれば、彼の顔があった。
「俺の勝ちだ」
彼の顔は清々しいほどサッパリとした、まるで憑き物が落ちた様な、優しくて明るい、物語の中に出てくる王子様のような笑顔だった。それを今、彼女は独り占めしている。初めて見たその笑顔に、彼女の心が打ち震える。
「……はい。私の負けです」
私闘はここに決着する。本人が互いに、結果に同意しているからこそ、審判であるガルシアは何も言わない。他の見物人は、今目の前で繰り広げられたあまりに神秘的な光景に、ただ魅入るしかなかった。
「……あと、三幕だ」
彼女が目を瞑って一時の休憩に入ったのを確認した彼は呟いた。それは終曲を迎えるまでのカウントダウンだ。今ここに序曲は終わり、次に始まるのは、第一幕。正しき答えを見つけた彼は、幸せという結末に繋がるレールの上を歩き続ける。
「お前を……お前達に、ハッピーエンドを、必ず届けてやる。それが俺の使命であり……願い、だからな」
カチリ、と歯車が鳴る。心地の良い音だ。その音色はきっと、そう遠くない内に……彼女たちにも、届くことだろう。その前に彼は倒れるわけにはいかない。無理を承知で押し通し、たった一本の道を突き進み、理想を内包したお土産を持って帰る。それだけのプロセスを乗り越えてから倒れた方が、気持ちいいに決まっている。
虹――ではなく、純白に輝く左目は衰えを知らない。希望のような輝きを放つ瞳は、ただ悲しい空を見つめていた。
「いつか……この灰色の空にも、蒼穹が広がり渡れば――――。」
言葉を止める。さすがにそれはまだ早い。そんな未来予想図を構想するより、目の前の事から片付ける方が断然良いに決まっている。物語の創造は、また暇が出来た時にしよう。
「……行こうか。お姫様」
眠り姫を抱えて、彼はみんなの所へと戻る。賑やか、というわけではなかったが、その中はとても居心地が良い。まるで昔のようだった。だからこそ、進化は加速する。その結末を、繰り返さない為にも、置いて行かれない様に、追いすがる。
灰色の隙間から、僅かな光が漏れた。しかし、それはほんの一瞬の出来事であり、誰しもが気付くことは無かったのだった―――。
はい、今回もやっぱりオリヴィエ回。健一 VS オリヴィエ でしたね!
そして後半の文体、如何でいたでしょうか? もしよろしければ、そのあたりの感想もいただければと思います。
さてさて、次の回は一体何が待ち受けているのか!?
長々と書く時間が無いので、後書きはここまで。
次回「第十二話 ワルキューレ」にご期待アレッ!
ここまでこの作品をご愛読してくださり、本当にありがとうございます!
そして毎度の事ながら、感想、ご指摘、コメント、批判、評価、お気に入り登録などは随時募集しております! それでは、また一週間後ほどか、感想やメッセージにてお会いしましょう。