この理不尽な世界に一筋の光を   作:ウサウサギ

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 UA数8800突破! お気に入り件数72件! 感想、評価を新たに1件、本当にありがとうございます!

 自分のこの二次創作の方向性などを再び吟味し、自分の拙い部分を克服しながら頑張っていきますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします!

 また、更新が遅くなってしまい、誠に申し訳ありませんでした。今回、実は重要な分岐点で、話の流れをどっちに持っていくかと、とてつもなく悩んだ結果、遅れてしまいました。

 これだけ時間が掛かり、未だ拙さが改善できていない文章ではありますが、今自分の出せる全力で執筆いたしました。皆様の満足出来る話になっているのではないか、と思っております。

 それでは、本編をどうぞ。


第十二話 堕ちた王子と天使

 オリヴィエとケンイチ、二人の闘いが終わりもうすぐ三時間が経過する。しかし、それだけ時間が経ったというのに、未来から来た二人の少女の熱は冷めない。

 

 その二人にとって、先の闘いは目で追うのがやっとだった。それも、全て見切れたわけではない。ケンイチの髪の色が変色したところからは、もはや彼の動きが全く追えなかった。気づいたときには、既にその地点へと到着している。

 

 異常な移動速度。それならばまだ、短距離転移の魔法ということで説明はつくが、問題はそのあとだ。『九つの世界(ノートゥング)』という能力が開放された時、二人の少女の全身に寒気が走り、鳥肌が浮かんだ。いや、何も二人だけではないはずだ。きっとオリヴィエとガルシア以外の誰もが、その魔力に当てられただろう。

 

 ――それだけならばまだ、格上の存在ということで話を付けることが出来た。

 

「あの時の、特大の砲撃魔法……」

 

 名称を確か、『偉大なる開闢の神槍(オーバーロード・グングニル)』といったか。あれはもはや、自分たちの元いた世界では顕現させるだけで、管理局(つまり治安部隊)のエースストライカーが総出撃する光景は想像に難くない。

 

「ママの全力全開の魔法でも……多分、相手にならないと思います」

 

 二人の考えは同じだ。ケンイチという男の子。あの子には、絶対に勝てない。あれに追いすがったオリヴィエも大概なのだが、ケンイチはまさに桁が違う。自分たちとは別格の存在なのだと、思い知らされた。

 

 それだけの規格外な力を持っている故に、彼女たちには分からないことがある。

 

「どうして、私たちの記憶には……」

 

「あの人の記憶が、抜けているのか」

 

 二人は断片的にだが、覇王、聖王の記憶を保持している。あれだけの力を保有している彼ならば、間違いなく記憶に残っているはずだ。なのに、彼女たちの記憶には残っていない。

 

 明らかに異常な事態に、考えられる要因は二つある。

 

「あの子も、私たちのように未来の世界から来たのか……」

 

「あるいは、ここが私たちの知りえない、平行世界なのか……」

 

 ――――しかし、その二つの予想は初めから外れていた。なぜなら健一は、全く違う世界からこの世界へと送り込まれた、異分子なのだから。

 

 この日、結局二人から答えが出ることは無かった。ただ太陽が水平線に消えてゆくのを、ただ見守ることしか出来なかった。

 

 

 ◆

 

 

 一方、健一は魔力を大幅に使ったにも関わらず、その日の内にお尋ね者のところに赴いていた。

 

「どうも、神崎健一です。よろしければ、そんな膨大な魔力をこのシュトゥラ内部で放出している理由と、お名前と、ご要件をお聞かせしてもらえないでしょうか?」

 

 おどけて質問しながらも、彼の髪の色は金色に変わっており、若干の魔力を放出している。

 

 目の前には、絹のような金色の髪に若干のウェーブがかかっている、まだ十歳ばかりであろう少女が居る。本来なら笑顔が似合うであろう彼女の顔は憂いに満ちている。天使のような顔立ちなのだが、その背中には禍々しい赤色の魔力の腕のようなものが生えている。

 

「あなたは……どうして、ここに?」その声はやはり憂いに満ちていた。

 

「質問しているのはこっちなんだがなぁ……まぁ、いいか。

 ――――お前を本当の意味で、救いに来た」決意を固めて、彼は言う。

 

 両者の間に、若干の沈黙が流れる。

 

「俺は昔、他人に色を与えられたんだ」沈黙を破ったのは彼だった。

 

「……色?」

 

 小首をかしげて、少女は問う。それを見て微笑ましく感じたのか、彼は微笑を浮かべて「あぁ」と首肯する。

 

「自分の見ていた世界に、あの人は喋りかけ、そして連れ出してくれることで色を塗ってくれた。今まで灰色だった世界が、その時にはもう素晴らしい光景に見えたよ。物の見方が変わって、毎日が楽しくなったんだ」

 

 ――――お前は、今が楽しいか? 彼は訊いた。少女は質問の意図が理解できずに不思議そうな顔を一瞬だけみせ、また元の憂鬱な表情へと戻る。

 

「楽しいわけ……ありません」

 

「それは自分の意思に関係なく、そのプログラムとやらのせいで、人を傷つけてしまうからか?」

 

「…………」

 

 沈黙は是なり、とはよくいったものだ。表情に全てが出ている。そうなってほしくない、と。だから、彼も今すぐにこの場から離れてほしいと。誰も、自分に近づいて欲しくないと。

 

「なら、変えてやる。この俺が、テメエの運命を、テメエの望むハッピーエンドに」

 

 彼は手を差し伸べた。その提案は彼女にとってとても魅力的で、一瞬輝かしくも見えたのだが……絶対に叶わないものだという観念からは抜け出せなかった。

 

「ダメなんです。どのような偉人であっても、私には敵わなかった。そして、破滅の道を辿った」悲しそうな顔で、少女はいう。

 

「上等」しかし、彼はただ好戦的な笑みを浮かべて、こういった。

 

「――――そんな理不尽な運命、俺が、全て……ねじ伏せてやるよ」

 

 目を閉じた。同時に、彼のうちから膨大な魔力が溢れ出る。一体何が、と少女が驚愕した束の間、言霊が漏れる。

 

「――――『姿を変えるもの(スヴィパル)』――――」

 

 刹那、彼の姿はもうそこには無かった。あったのは、最悪の理不尽……芳乃創世その人の姿だった。

 

 ――――姿を変えるもの(スヴィパル)。

 その能力は自分の見たことのある人物に100%の完成度でなりきる能力だ。それは姿も然り、能力も然り、戦闘技術も然り、そして……その人物の秘める魔力量も、然り。

 

 つまり。

 

「舞台を変えよう。神々の戦における終着点――――『終わりの世界(ヴァルハラ)』に」

 

 彼は今この時だけは、芳乃創世と全く同じ力を保有している――――!

 

 だからこそ、世界は一変した。先ほどまでいた荒野は消える。そして現れたのは、まるで銀河の中心に立っているかのように、空は闇夜に覆われて、周りは星の光が支配している空間だ。

 ――――その空間の名こそ、『終わりの世界(ヴァルハラ)』だ。

 

 この空間の中であれば、彼は全力を出すことが出来る。例え世界を1つ滅ぼす神話魔術を全力で放っても、ここでならば問題はない。それほどに強固なのだ。この空間は。

 

「システムU-D――――いや、ユーリ・エーベルヴァインよ、始めようか。茶番ともいえる、救済劇を」

 

「っ――――!」

 

 本能的に彼女、ユーリが悟った。彼は触れてはいけない何かだったのだと。先ほどまでとは比べ物にならない爆発的な魔力が、嫌というほどそう感じさせてくれる。

 

 左手を前に出して三本の指をたて、右の拳を後ろに引く。その構えは独特だったが、その姿にしっくりと馴染んでいる気がした。同時に、ユーリは身の毛がよだつ思いに駆られる。

 

「まずは小手調べだ」

 

 ――――小手調べ? 一体、それは何の冗談なのだろうか。

 

 彼の右の拳にまとわれる魔力。その密度はもはや異常の一言に尽きる。目と感覚だけの判断だが、あれはもはや世界一つを滅ぼす威力を内包している。それが小手調べなどと、考えるだけで恐ろしい。

 

 ユーリの体は自然と動いた。それは『砕け得ぬ闇』の恩恵でもあり、この状況になって初めて、彼女はそれが働いた事が幸運だったとさえ思った。

 

「――――『天地創造の神槍(グングニル)』――――ッ!!」

 

 それはまさしく、神の槍に相応しい一撃だ。むせ返りそうなほど濃い魔力が右の拳に凝縮されて、刹那の時で間合いを詰められ、そして放たれる。その余波だけでも、大地は抉れ、世界が震撼する。直撃すれば最後、待っているのは死だけ。

 

 故に、ユーリは能動的にその攻撃を回避する。システム『砕け得ぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)』(つまり永久機関)の補助も受け、無限に等しい魔力の推進力を得て、横に退避するのだが――――。

 

「ぁ……」

 

 背中に生えた赤色の魔力の腕――名称を「魄翼」――の片方が、僅かにその拳に触れてしまった。同時に、それは激しい轟音と共に消し飛び、魔力余波によってユーリは遥か遠くに吹き飛んだ。

 

「けほ、けほ……」

 

 地面に叩きつけられる瞬間、どうにか魔力障壁を展開したユーリはダメージを受けはしなかったものの、軽く咳き込んでしまう。

 

「機体損傷……危険度、未知数」

 

 システムから流れるログを呟いて、すぐに「魄翼」の修復に魔力を当てる。この距離ならば、接近より修復のほうが早いだろう、と思っての行動だった。

 

「――――第一夜『Die Walkuere(ワルキューレ)――――』」

 

 しかし、現実はそうではない。彼は空間を自在に操る術を持っている。故に、彼とユーリとの距離は零にして無限。この能力を使うたびに膨大な魔力を消費するが、今の彼の魔力総量であれば、それは取るに足らないものだ。あってもなくても、別段変わりはない。

 

「その程度か?」

 

「っ……!?」

 

 もはや、異常。彼はあれほどまでの一撃を放ったにも関わらず、それに対してなんの感慨も持っていない。それが表す事実は、彼にとってあの程度の攻撃は無いに等しいものだということだ。つまり、あの威力の攻撃であれば、彼はまだ何度でも撃てる、という事実がそこにはある。

 

「貴様にとっては確かに、その『無限』の魔力は驚異的なものなのだろう。だが、私から言わせれば『その程度』の力に過ぎない。『永遠』、『空間』、『概念』、『力』――――四つの理を生み出す私の前に、『無限』などという言葉に意味はない」

 

 彼の口調は最初の時とはもはや変わってしまっていた。それは姿形と能力などが完全に変わってしまったための副作用だ。

 

 その話を聞いたユーリは、己の知らぬ更なる高みを示されて、絶望ではなく希望をみた。自分を御することの出来る存在が、目の前に居る。もし本当に自分を制御できるのであれば、これ以上、人を傷つけずに済む。それこそが、彼女にとっての希望だ。

 

「……決着だ。この一撃で、その連鎖を断ち切ってくれよう」

 

 ――――第三夜『Goetterdammerung(神々の黄昏)』――――。

 

 その言霊が響いた瞬間、今までに見たことのない、力の絶頂とも言うべきものをみた。赤い魔力は彼から溢れ出し、それは闘気のように彼にまとわりつく。同時に、彼の右拳に先ほどとは比べ物にならない、圧倒的な力が凝縮された。

 

(嗚呼……これでやっと……終わる)

 

 負の連鎖が、ようやく断ち切られる。今から自分の中のシステムがどれだけの防御手段をとっても無駄だろう。どれだけの回避行動に移っても意味はないだろう。どれだけの攻撃を放ってもかき消されるだろう。あの規格外の、拳の前に。

 

 今か、今かと、ユーリはその時を、目を閉じて待つ。時が経つたびに、胸が高鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……我が隠れ家に誰が侵入したのかと思ってきてみれば……やはり、生きていたのだな。若き《召喚せし者(マホウツカイ)》よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、一つの圧倒的な圧力が消えて、代わりにもう一つの、天地を鎮めるほどの物言わせぬ気配が、そこに現れた。

 

「――――ッ!? オーディン……どうして、お前が!?」

 

 どれだけ待っても来ない終わり、そして彼がよわい存在になった気配を察知して、ユーリは思わず目を開ける。

 

「これは貴様が私を100%コピーしたという仮定の話だが……その貴様が移動出来る空間に、まさかオリジナルであるこの私が移動できないとでも思っていたのか?」

 

「……そういう、ことか」

 

 そこには十歳ほどのユーリと同じくらいの年頃の男の子(健一)と、20代前半くらいの、髪の色が前は白と後ろが茶の二色に別れ、上は青いオーバージャケットで下は黒いズボンを纏った男が居た。

 

「どうやら貴様のその完全模倣能力は、模倣した人物と対面することで効力を完全に失うようだな。ならば、貴様に勝ち目はなく、またこの私の空間の中に撤退の余地はない。諦めろ。ここが貴様の墓場となる」

 

 オーディンこと芳乃創世は正確に健一の『姿を変えるもの(スヴィパル)』の能力の弱点を言い当てた。男の言うとおり、『姿を変えるもの(スヴィパル)』はコピーした対象と対面した時に、効果が完全に消えてしまう。そして、二度とその人物を模倣することはできなくなってしまう、という最悪のデメリットを孕んでいた。

 

 ――――そして負の連鎖は、最後の最後、邪魔が入り、終ぞ断ち切られることはなかった。

 

「……交渉の余地は?」

 

「今の貴様に、あると思っているのか?」

 

 万事休す、とはまさにこのことだ。今、彼が確実に生き残る術は真っ向勝負で芳乃創世その人に勝つしかない。延命措置ならばできないことはないが、それも通じるかどうかは相手次第。

 

 ――――しかし、ここでカードの出し惜しみをすることは許されない。

 今ここで、芳乃創世の唯一の綻びを突かなければ、彼は生き残ることはできないのだから。だからこそ、やるしかない。

 最後の最後まで温めておいた、とっておきのカードを、今ここで、切る。

 

「……もし、俺がアンタの想い人を完全蘇生させることの出来る可能性があるとしてもか?」

 

「……何?」

 

 芳乃創世。この男の唯一の綻びとは、その目的である想い人の完全蘇生にある。もしもそれを彼が行うことができるのであれば、男の目的は達成されたことになる。もともと、究極魔法……命の創造を行うために《召喚せし者(マホウツカイ)》を殺し、その魔力を吸収してきたのだから、目的が達成されれば、その必要はなくなる。つまり、彼は殺されずに済む、というわけだ。

 

「たった一度であれば、命の創造をできるかもしれない、といっているんだ。俺のこのマホウは解析に特化したものだ。ハッキリ言って、アンタの知識をも上回る情報を持っている。さっきのように、人のマホウや能力をコピーしたり、合成したりするのも得意だ。少なくとも、独りよがりの究極魔法に頼るアンタよりは、確率は高いと思うけど」

 

「……なるほど。私の目的を知っていることが、その証拠、というわけか」

 

 芳乃創世は納得したのか呟き、瞼を閉じて考える。

 

 この状況に追いついていないのは、ただひとり……ユーリだ。彼と創世は面識があり、またお互いの正体が分かっているからこそ話が成立しているが、ユーリにとっては話の内容を理解できない。分かったことといえば、創世のほうが彼より圧倒的に上の存在であり、その男の目的が死者蘇生であることだけだ。

 故に、これからどう動くべきか、という疑問の答えを、ユーリは持ち合わせていなかった。あまりにイレギュラーな事態故に、迂闊に行動出来ないのだ。

 

「――――愚かだな。私はあと一人、貴様のように脆弱な魔力しか持たぬ者であっても、その一人を吸収すれば、究極魔法へとたどり着く。今更、手を借りる必要もない」

 

 そして創世はゆっくりと目を開いて、彼の提案をあっさりと断った。同時に、その言葉から彼は反撃の糸口を見出した。

 

「なら何で、俺が居なくなった間に、究極魔法が完成していない?」

 

「…………」

 

「《召喚せし者(マホウツカイ)》は、あの時居た俺たち十四人だけじゃないんだろう? それこそ世界的な規模で見ればそれなりに数は居たはずだ。それに数を揃えようと思えば、適合者さえ見つければいくらでも増やすことは出来る。俺もその一例だ。そしてアンタの力なら、どんな相手だろうとも打倒出来る。そして相手の潜在魔力を吸収して、究極魔法に辿り着くはずだ。なのに、アンタは未だに、完成していない。その上、本来なら俺より前の最後の相手を倒した時点で、究極魔法は完成する筈だったのにな。

 ……アンタ結局、どれだけ他の《召喚せし者(マホウツカイ)》を吸収しても、究極魔法を完成させることができなかったんだろう?」

 

「…………」

 

 創世は再び沈黙した。先ほどのような思考するための沈黙ではない。反論ができない故の静寂だ。気配から、第三者であるユーリでさえ分かったことだ。

 

「ならば、貴様には出来るというのか? 今ここで、桜を生き返らせることを」

 

「生憎だが、それは無理だ。アンタの能力が足りないように、俺には経験が足りない。そうだな……」

 

 しばし、彼が考える素振りを見せる。一体そこで何を考えているのか、それは本人にしか分からない。

 

 ――――そして考えが纏まったのか、彼は創世のことを真っ直ぐ見て、答えた。

 

「――――六年だ。それだけの時間があれば、一度だけだが、死者蘇生が可能になる」

 

「……確証はあるのか?」

 

「いや、心当たり程度だ。だが、可能性が限りなくゼロに近いよりは、ずっとマシだと思うけどね」

 

 彼の言うことは正しかった。今までやってきた方法がダメで、しかしそれしかないからがむしゃらにそれを実行し続けるよりは、新しい可能性に賭けた方が良いのは明らかだ。

 

「……良いだろう。六年後、再び相見(あいまみ)えるとしよう。

 ――――ただし、約束を違えたときは……貴様の全てを、貰い受けるぞ」

 

 そう言って、創世はその姿を消した。おそらく、現実世界へと戻っていったのだろう。再び、《召喚せし者(マホウツカイ)》を狩るために。

 

 しかし、そこまでは彼の知ったことではない。何せ彼は先程まで生き残ることに精一杯だったし、また今は、放置しているユーリをどうにかしなければならないのだから。一難去ってまた一難とは、まさにこのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――『高次領域展開・魔術兵装(セカンドアクセス・ゲート・オープン)』――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 もはや彼に、ユーリのことを思い遣る余裕は残っていなかった。それは一つの能力を半ば封じられたことによる、焦りのせいだ。絶対的な理不尽というアドバンテージを失った今、彼に残されているのは今まであった力のみ。

 

「悪いけど、ユーリ。手加減はしないよ。

 ――――『この一撃を以てして、俺の望む結末を導き出す』からね」

 

 彼の手に白銀色の剣が出現した。更には、言霊が発せられた。

 

「これは君の無限に唯一対抗出来る、永劫の焔を纏った聖剣」

 

 そしてなにより、一番恐ろしいのは――――

 

「黒い……翼?」

 

 彼の背中に禍々しく生えている、黒い炎の翼だった。

 それは昔、ある島の半分を壊滅せしめた、煉獄の焔。対象を焼き尽くすまで消えることはなく、『最恐の召喚せし者(マホウツカイ)』とまでいわれたローゲの焔使いが使用した、最悪の能力。

 

「お前の『負の連鎖』を、俺が今、ここで……断ち切ってやる」

 

 煉獄の焔が、輝かしい純白の聖剣を犯していく。それは一つのマホウとして融合しようとしているのだ。相反するその二つの融合は、本来ならばありえない出来事なのだが、事実それは目の前で行われ、成功した。

 

 聖剣は生まれ変わった。いや、煉獄の焔が生まれ変わった、というべきなのか。眩しいくらいの輝きを保ちながら、聖剣は美しいアカ色の焔によって燃え盛る。煉獄の焔は聖剣と合わさったことにより、どうやら聖火へと成ったようだ。

 

「――――『この攻撃から遁れる事はできない』――――」

 

「ッ!? 体が……!?」

 

 そしてユーリに残された選択肢は1つ。その場で、ただ防御するか、迎撃することのみ。『曇りなき真実の嘘(アルケイディアジンクス)』を発動されたユーリは、その場で攻撃を迎えることを強制されてしまった。

 

「危険……対象を速やかに、排除……」

 

 ユーリの意思とは関係なく、彼女の口からログがこぼれる。だが、そんなことはもはや、今の彼にとっては関係のないものだった。

 

「喜べ、ユーリ。助かることに。そして忘れろ。俺なんていう、異分子のことを。お前には待っている人が居る。帰るべき場所がある。それだけあれば十分だ。今、その理不尽から解き放ってやる」

 

 ――――だから。

 

「幸せになれ。その対価は俺の全魔力で肩代わりしてやる。だからこそのお願いだ。俺みたいに、独りぼっちにはならないでくれ」

 

 ――――はみ出しものの孤独は、世界に災いをもたらすから。

 

 それは一体、誰に向けての願いだったのか。

 確かに、この言葉はユーリに向けられているもののようにみえたが、もっと別の誰かに向いているものでもあったようにも思える。

 

 そのことが、ユーリの胸にチクリ、と痛みを走らせた。その感覚を不思議に思いながら、彼女は彼の方を見る。

 

 少年はどこまでも真っ直ぐだった。瞳も、力も、その剣も、一途で、純真で……でも、どこか無理をしているような、綻びが見え隠れして。

 

 聖剣を手に持ち、黒い翼を生やすその姿は、まるで堕天使のようだった。自分と同じ、地に堕ちた戦天使(ワルキューレ)のそれだった。

 

「あぁ……」

 

(――――やっと、見つけた)

 

 その時、ユーリは確信した。同時に、彼女の中にあるプログラムに、異変が起こり始めた。しかし、それはごく小さなプログラムの改変だ。だからこそ、彼は気づくことが出来なかった。

 

「理不尽は、同じ理不尽を以てしか駆逐することはできない。だから今このひと時だけは、甘んじて理不尽を受け入れてくれ」

 

 諦めなのか、謝罪なのかおぼつかない言葉を口にして、彼は焔の聖剣を上段に構える。

 

 対して、ユーリは急に自分の周りに魔力を集め始めた。それは遁れることのできない攻撃に対しての抵抗なのか、はたまた別の意図があるのか。

 

 両者の目線が交差した。その時、彼はユーリとの間合いを一瞬で詰め――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――『永劫なる焔の聖剣(レーヴァテイン)』――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その聖剣を以て容赦なく、全力で斬りつけた。

 

「……っ」しかし、動揺したのはむしろ彼の方だった。

 

 何故なら――――

 

「私と共に歩める同士――――」ユーリが、彼の胸に腕を入れ、そこから魔力を奪い取っていたのだから。

 

「――――これから共に、歩みましょう。私たちの、未来の道を」

 

 

 彼は先ほどの出来事を、ハッキリと見ていた。それ故に、完敗だと自覚したし、もう奥の手を使っても良い効果は望めないと考えた。

 

 ユーリは先ほど、彼の『永劫なる焔の聖剣(レーヴァテイン)』を、なんと無限の赤黒い魔力を凝縮して物質化させることで、彼の視界を封じると同時に、その『無限』を用いて彼の概念魔術を無効化し、そして動けるようになった彼女は単純に攻撃を避けたのだ。

 

 ユーリがその場から動けないと見ていた彼は、それを迷うことなくユーリが先ほどまで居た場所を斬りつけるが、そこにはもうユーリは居らず、攻撃は避けられる。結果、彼はユーリの接近を許してしまい、残り僅かの魔力まで吸い上げられる事態に発展した。

 

 

「だからこれで、お互いに、孤独は終わりです」

 

 慈悲深い声。それには無限のように思える包容力がある。耳に自然と馴染んで、いつの間にか受け入れてしまう。

 

 彼は結局のところ、この世界に来てから……いや、あの時三人が死んでからこれまで、ずっと独りだった。この世界に本当の意味で心を開ける相手は、どこにも居なかった。何故なら、大切に想えば想うほど、その人は死に近づくから。あの三人が、そうだったように。

 

 偽りの仮面は、常にかぶり続けていた。それがこの世界に来てからの普通だったから、誰も気づくことは出来なかった。たまにその仮面が剥がれることもあったが、彼は今の今までずっと、肩肘を張っていた。使命感に、追われすぎていたのかもしれない。

 

 だからこそ、日頃から思っていた。常に自分の隣に付いて来てくれる人は居ないものか、と。

 

 そして今、その答えを、彼は目の前に見つけた。

 彼女もまた、目の前に答えを見つけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――エンシェント・マトリクス――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、彼女は今、力ずくでその答えを手に入れようとする。彼の魔力を使い、彼女はそれを使って赤い槍を作り、彼女はそこで彼から離れ、槍を彼の胸に投擲し、貫いた。ある種の共同作業ともいえる一連の流れは、しかしそんな可愛いものではない。

 

「が、ぁ……」

 

 鮮血が飛び散る。黒い焔の翼が消えてなくなる。《召喚せし者(マホウツカイ)》である彼にとっても、これは決して無視のできない重症だ。保有魔力が空同然になり、胸を貫かれる。これほど悪い状況は、今までの経験を省みても、数えるほどしかない。

 

 全身から力が抜けていく。もはや限界だった。今の彼に、そのまま立っておけというのは無理な相談だった。

 

「……?」

 

 しかしその時、彼は暖かい抱擁を受けた。見てみると、そこには自分を抱きとめる天使が居た。金色の髪に、赤黒い立派な両翼。そして彼女の浮かべる慈悲深い笑みに、彼は魅入ってしまっていた。

 

「今は、休みましょう。時間はまだ、たくさんありますから」

 

「……うん、そう、だね」

 

 彼はそこで意識を手放した。そしてその彼を、彼女は膝枕をしながら、魔力を供給することで治療を始める。今彼に足りていないのは魔力だと判断した結果の行動だ。

 

 たった二人しかいない空間の中、静かで心地よい時間が流れる。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 その一部始終を、見ている者が居た。その者はしばし考えてから、これも自分の起こした災いの結果か、とその背中に更なる罪を背負うのだった――――。

 




 長い時間を待っていただき、そしてそんな期間の開いた二次創作を読んでくださり、誠にありがとうございます!

 今回の話、いかがだったでしょうか? 皆様のご満足いただける出来に仕上がっていれば、幸いだと私は思っております。

 今回は久々にオデン(創世)さんが登場しました。というか、序章だけにしか出ていなかったので、ここで初めての再登場ですね。

 さてさて、もう皆さんお気づきでしょうが、古代ベルカバージョンのGOD編に既に入っちゃってます。
 そして単騎突撃して、普通に敗北する健一はもう……ドンマイ、としか言えませんね。というか、後一歩間違えば普通に死んでましたよ。

 また、次回「第十二話 ワルキューレ」にご期待アレッ! という前回の後書きですけど、残念ながらあれは嘘です。本当は普通にユーリに敗北して帰ってくるパターンにするつもりだったのですが、それでは面白みに欠けると思い、今回はこういう措置をとらせていただきました。

 ははは、私は常にアブノーマルを好みます。もちろん、しっかりと理由付けのあるアブノーマルに限ります。また、王道でありながらアブノーマル、というのも大好きです。そんな二次創作者の思考が、この二次創作にはぶっこまれていますね。

 さてさて、それではあとがきも今回はここまでということで。
 ユーリに起こった変化は、また次の話にでも明かしていこうと思います。

 それでは、次の更新は……正直、いつになるのかがわかりません。ストックとかありませんし、書き上がりしだい、ということにさせていただきたいと思います。
 そのため、タグに不定期更新、というのを入れておきました。

 それでは、また感想欄か次話にてお会いしましょう。

 感想、ご指摘、コメント、批判、評価、お気に入り登録などは随時募集しております。二次創作者である私はどんな評価であってもヘコタレナイ鋼のメンタルの持ち主ですので、しっかりと筋道を立てて評価して頂ければ、酷評であってもしっかりと受け止める備えがあります。皆様の素直な感想を心より、お待ちしております。
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