この理不尽な世界に一筋の光を   作:ウサウサギ

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 UA数400! それとお気に入り6と感想1をもらいました。本当にありがとうございます! たった三話でこの功績に感謝感激雨あられですッ!


 今回、イクスと健一との距離が一気に縮まる回となります、はい。
 それでは、本編をどうぞ。




第三話 心からの笑顔

「なぁ、ガルシアさんや」

 

「何だ、ケンイチ」

 

「この滅亡寸前の国、どうやったら持ち直せるんだ?」

 

「……儂でも分からんわい。そんなこと」

 

 執務室。ガレアの王宮にある一室で、少年と爺さんが深い溜息を吐いていた。

 目の前には、あまりに数の少ない書類が寂しく置かれている。

 一枚一枚を丁寧に読んでいっても、まだ太陽が天辺には到達していない。彼らにとっては、書類を読む事よりむしろこの現状をどうすれば打開できるか、の方が難題だった。それも、答えが見出す隙を与えないほどに、それは難しい。

 

「食料は自国民分をギリギリ補える程度。切り詰める余裕は無い。マリアージュは食料要らずだからと言ったってなぁ……。それも、総人口がたった六百人? 戦力は俺とガルシアとマリアージュ十万体(先日の戦後、マリアージュにした敵兵を含む)。ただしマリアージュは自爆特攻ぐらいしか出来ない。外から人を雇う余裕はとてもじゃないが無い。新しく開墾しようにも、そもそも食料の種が無い上に土地が死んでいる。そして国庫はスッカラカン。――詰みだろこれ」

 

「そうは言っても……ケンイチ、貴様の力さえあれば防衛くらいは出来るであろうに」

 

「波状攻撃を繰り返されれば流石に突破される。あと、全方面から同時侵攻された日には終わりだ」

 

「むぅ……現実とは、ままならぬものであるな」

 

「全くだ。イクスヴェリア様はどうやって、この状況を切り盛りしていたんだ? 自然消滅しなかっただけ凄いと素直に思うんだけど」

 

「きっと、マリアージュのおかげであろうな。まぁ、それも限界が近づいておるようであるがな」

 

 ……はぁ。二人は今日何度目になるか分からない溜息を吐いた。食料的な問題のせいで軍備を整えることが出来ない。かといって食料の生産量を増やすことは土地柄から不可能。他国と取引しようと思っても国庫は空。人はこれを、詰んでいるという。

 

「他国から奪取、するしかないよなぁ……足りないもの全て」

 

「そうなると、ケンイチよ。貴様が単騎で行くことになるのだぞ?」

 

 そう。物資を他国から奪取しようと思えば、四方八方から攻める機会をうかがわれている今のこの状況では、光速で移動できる健一以外に適任者が居なかった。今このガレアにて、誰か一人でも欠けるのは防衛力を考えると致命傷なのだ。マリアージュを出動させればいいと考えるかもしれないが、生憎作戦行動能力皆無の兵器に物資略奪が出来ると期待する方が無駄である。そのため、誰かがマリアージュを率いるというのは論外。ガルシアは一度ガレアを離れてしまえば戻るのに時間が掛かるため、この作戦では行きも帰りも早い健一に白羽の矢が立つのだが……。

 

「……たった一人で運べる物資なんて、高が知れているよな」

 

「焼け石に水、とはまさにこのことであろう」

 

 どう考えても、非効率に過ぎる。一人が運べる物資の量と、労働力とリスクを振り返って見れば、どう考えても愚劣極まる一手なのは明白だった。

 

「国交を深めるには遅すぎる。周りから既に完全な悪として認識されているのに、今更どうやって取り持てと……」

 

 そしてトドメには、国交を深めようにも、どの国も取りつく島も無いということだ。きっと、ガレアからの親善大使を受け入れる国は居ないどころか、その場で斬り捨てる者すら居るほどだろう。それくらいに、ガレアの風聞は悪い。

 

「……どうして儂は、こんな所に居るのだ?」

 

「言うな。むなしくなるだけだぞ」

 

 と、無駄話をしながら執務室にこもり着々とガレア復興の策を練っている健一とガルシアは、実はイクスヴェリアの配下となってまだ二日になる。

 そしてどうしてこの二人が同じ仕事を請け負っているかというと……それは二日前、二人が戦い終わりイクスヴェリアの下に赴いた時の事だった――。

 

 

 ◆

 

 

「……いつの世も、風聞とは当てにならぬものだな」

 

 イクスヴェリアに会って、ガルシアの最初の一言がそれだった。呆れたような態度は、きっと世間に向けられたものだろう。

 

「えっと……どちら様でしょうか?」

 

「おぉ、すまぬな。少し、周りの国のやり口に呆れておっただけよ。紹介が遅れた。儂はガルシア・グリムズと申す。そなたが、冥府の炎王イクスヴェリア殿であるな?」

 

「はい。……それにしても、戦神とまで謳われたガルシア殿が、このような国に一体何の御用でしょうか?」

 

「なに、少しケンイチ殿と手合せをして、その武の才能を開花させてやりたいと思うたまで……だったのだが、気が変わった。儂もこの国で武官として骨を埋めようと思う」

 

 この時、健一はやっぱり突拍子もない爺さんだ、などと思いながらその様子を見ていた。

 ――話は変わるが、現在三人は玉座の間に居る。無駄に広いその部屋の中に三人だけというのは、何とも寂しいものがあった。イクスヴェリアはその玉座に座り、健一とガルシアはそれより少し引いた位置に跪いている。

 

「……? あなたほどの武勇があれば、他に行くあては幾らでもある筈。どうして、このガレアなのでしょうか?」

 

「端的に申すのであれば、ケンイチ殿と全く同じ理由だ」

 

「……そう言えば、ケンイチさんはどちらに? いえ、その前に……お目覚めになったんですね。貴方の名前は?」

 

 イクスヴェリアに名前を聞かれ、健一は首を傾げる。どうして、初対面のような対応をされているのだろう、と。それに、お目覚めになった、とは一体……?

 

「バンダナと髪の色の違いで、気づいておらぬとみる」

 

 ガルシアに横から小声で言われて気付く。今はマホウを全て納めた状態だが、マホウを展開した時、バンダナとグローブとパイルバンカーガントレットが武装として自動的に装備される。そして『疾風迅雷(タービュランス)』を使用した時には髪の色が黒から金色に変わる。いくら体格が似ているとはいえ、見た目はまったくの別人だ。今までまったく気にしていなかったのだが、まさかこういった場面で支障が出てくるとは思わなかった。

 

「もしかして、俺を拾ってくれたのは……?」

 

「あ、それは私です。遠征に行く前、貴方が城門前で倒れている所を発見したので、空いている部屋に運ばせていただきました」

 

 なるほど。見ず知らずの者を城の一室に運ぶというのは、一国の王として少し無防備が過ぎるかもしれないが、それを帳消しに出来るほどの優しさを持った女の子だ。

 

 ならばやはり、自分はイクスヴェリアのために自分の全力を振るいたい。思いながら、ガルシアに目配せをすると……頷かれた。どうやら、この爺さんも本気で仕えるつもりのようだ。

 

「――『魔術兵装(ゲート・オープン)』――」

 

 論より証拠。そう思い、健一は自分の能力を彼女の前で発動する。

 

「『疾風迅雷(タービュランス)』――ッ!」

 

 そして玉座の間にて、雷鳴が響き渡る。その音にイクスヴェリアが目を丸くする。いや、健一の姿が急変したことに目を丸くしたのかもしれない。

 

「神崎健一。これでも一応、一端の《召喚せし者(マホウツカイ)》をしている者です」

 

 そして冗談を言う風に、健一はイクスヴェリアにそう言ってみせた。

 

「…………」

 

 そして沈黙。いや、フリーズといった方が良いのかもしれない。健一の身体から迸る雷の音以外に誰も音を発さない。

 

 いつまでそんな時間が続いたのか。

 不意に、イクスヴェリアが玉座から立ち上がり、健一の方へと歩き始めた。健一は黙って跪いている。

 

「……先の戦い、貴方が居なければこのガレアは確実に滅んでいたでしょう」

 

 イクスヴェリアが口を開く。二人の士官希望者は、ただ黙って彼女の言葉を聞く。

 

「まずはお礼を。私を、そしてこの国を救ってくださって、本当にありがとうございます。そしてこれからも、私と国の支えとなっていただけないでしょうか?」

 

「その命、謹んでお受けいたします」

 

「ありがとうございます。――ガルシアさん、貴方にもお願いいたします。外敵からこの国とその民を守るため、そしてこの国の発展のために、その武勇を振るってはいただけないでしょうか?」

 

「例えこの命に代える事になろうとも、必ずや。そして儂は、国ではなく御身に仕える者として、この武勇を振るいましょう。全てを破る矛としても、外敵より御身を守る盾としても、この武勇を発揮することを、この誇りにかけて誓いましょう」

 

 これが、二人が正式にガレアの将官となった時の風景だった。

 そしてこの後、二人は初の任務として書類整理の一端を担う事になるのだった――。

 

 

 ◆

 

 

 ――こうして日が経ち、現状に至るわけだ。

 尚、健一とガルシアがお互いのことを呼び捨てにしているのは、お互いに同じ王の下に仕え、尚且つ位が同じだからだ。

 

「まさか、儂が書類仕事をさせられるとは夢にも思わんかったわい」

 

「まぁ、それはもういいだろ。現状打破の策、いくつか浮かんできたぞ」

 

 手元の書類を机に置いて、健一は伸びをしながら言った。ガルシアは「真か?」と少し驚いたように聞いてくるので、それに頷いて説明に入る。

 

「まず、俺が取られた領土の奪還するために攻めるから、ガルシアはこの国の防衛をしてほしい。もちろん、俺一人で取り返してくる。この二日で、壊された『ストリームフィールド』は全部修復したからな。ガルシア並みの化け物が出てこない限り、まぁ何とかなるだろう」

 

「ふむ……しかし、流石に儂でもあの規模で攻められれば、もって二日、といったところであろうな。一対一は手慣れておるが、貴様のように一人で殲滅など儂には出来ぬぞ?」

 

「大丈夫。そんなことは最初から期待していない。二日もあれば、まぁ大本叩いて戻って殲滅くらいは出来る。何せ、俺は光速で移動出来るし。問題は――」

 

「最初に何処を攻めるか、であるな」

 

「――その通りだ」

 

 執務室の書類を一度脇に寄せて、王都から一帯の地図を取り出して机の上に広げる。

 

 ガレアは比較的に気候が穏やかな平地だ。南には敵方を挟む様に竜王の住む山脈が存在する為、南方から攻められることはまず無いと言える。そうなると、問題は北、東、西なのだが、北は現在シュトゥラと戦争をしているらしく、こちらに向かう余力はないとのこと。つまり、今問題になるのは東西だ。このどちらを落とす方が旨味になるかなのだが……これがまた、塩梅が難しい。

 

「東は豊作の都市と呼ばれるほどに食料生産率が良い。こちらの食糧問題を一気に解決出来るほどのメリットはあるのだが……その後方が『魔都フォールヴァング』というのが不味い。神話魔術とやらにどれだけ影響があるのかは知らぬが、あの場所には高度なAMF(アンチマギリンクフィールド)が大量にあると聞く。攻め返されれば最後、魔法以外で対処する他に手立ては無いぞ」

 

 そう。食料問題を解決するのであれば、東に攻めるのが一番だ。しかし、その後方には虎が潜んでおり、奪い返してもすぐにまた奪われるのは目に見えている。

 

 またAMFとは、魔力結合・魔力効果発生を無効にするという一種のジャミングを一定範囲に形成するフィールド系の上位魔法のことだ。これは機械兵器として用いられているのが普通であり、人が使う事はまず有り得ない。つまり、魔法の妨害に特化した兵器だ。

 

「……反撃されるタイミングとその時の敵の規模はどれくらいと予想する?」

 

「ケンイチが単騎で乗り込み、尚且つ敵の情報網を隅々まで潰してしまうのであれば……三日。規模は五万といったところだろう」

 

「……厳しいな。神話魔術は光速かつ燃費のいい『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』しか使えず、それを除けば『ストリングフィールド』や『エッケザックス』(馬鹿でかいバトルアックス)、そして『疾風迅雷(タービュランス)』や『スコール&ハティ』と『グリモワール』(遠隔操作式小型魔導砲)で対処するしかなくなるが……それも時間との勝負。俺がAMFの効果範囲内に入った瞬間、詰む」

 

 そしてその中で、どうして魔力を使う『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』や『疾風迅雷(タービュランス)』、そして『グリモワール』が戦闘の中に採用できるのかといえば、単純に相手のAMFの効果範囲に入っていなければ問題が無いからだ。また、『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』と『グリモワール』の場合はその攻撃速度が光速なのだ。AMFに無効化される前に確実に着弾させることが出来る。そのため、どれも効果範囲内に入っていなければ、大した問題にはならない。だからこそ、敵が進軍し切る前に決着をつける必要がある。

 

「東はケンイチの頑張り次第、ということか」

 

「そういうことだ。正直、そんな不確定な一手を打ちたくはない」

 

 そして本音がそれだった。不確定過ぎる一手を打って、ガレアを危険な状態にしたくはない。少なくとも、何らかの大きな功績を挙げでもしなければ、今回の遠征に行く旨味が無い。だからこそ、確実な一手で最高の利益を望むのだが……世の中、そんな美味い話はそうそう無いものだ。

 

「……マリアージュをフォールヴァングに向けて出兵させ、時間差で東を落とす、というのはどうだ?」

 

「それは考えた。二日前に三十万も倒したおかげで、マリアージュが十万くらいには増えたから、戦力余剰が出来た。その余剰をその一点につぎ込むのはどうか……そう考えた時、俺は多少の足止めにしかならないと踏んだ。マリアージュは所詮使い捨ての駒と同義。だが、数は限られているからな。敵方への被害を大きく出せても、それが持続出来ないんじゃ意味が無い。敵の全戦力は、総勢三百万だぞ? あまりに現実的じゃあない」

 

「そこはイクスヴェリア殿を連れて行けば、マリアージュは補充し放題であるぞ?」

 

「そしたら、此処の守りをどうするんだよ。マリアージュは、イクスヴェリア様の命令しか聞かない。ガルシア、お前じゃ精々、城の中に仕掛けた時限爆弾くらいの用途にしか使えねえよ」

 

「そうなれば、民も無事ではすまぬ……か。民草が魂を込めて耕した畑が無いのであれば、とっとと民を別の場所に移して、攻撃に移るのだがな」

 

「いや、前提問題として食料とか以前に移住場所が無いだろ」

 

「そうでもないぞ。南方には、竜王の住む山脈がある。さすがにここまで行けば、敵もおめおめと手出しはしないであろう」

 

「……竜王はどうするんだよ」

 

「当然、儂が倒す」

 

「とうとう狂ったか? ここに病院は無いんだが」

 

「儂は正気だ。大体、ケンイチが竜王を倒せば粗方問題は片付くであろうに」

 

「……俺に化け物の相手をしろというのか?」

 

「この儂と凌ぎ合ったのだ。そのくらいは出来る」

 

「言ってくれるねぇ……」

 

 大分話から脱線した。そのことに溜息を吐いて、健一は地図上の西側の方を指す。

 

「んで、こっちを攻めるに際してだが……」

 

「作戦を実行するための兵力補充程度にしか旨味が無い、といいたいのだろう?」

 

「正解。それも数がたった五百程度といったら、笑うしかねえ」

 

 西を攻める旨味。それは人材補充の一点に尽きる。ただし、おおもとの食糧問題は解決出来ない為、それ以上の人員補充が出来ないのが難点ではある。補充した五百の食料は、もちろんのことながら西の食料で補うつもりだ。元からその五百とはそこの自警団(つまり農民)なのだから、食糧問題は結果的に±ゼロである。これなら、民草を飢え死にさせずに済む。――だが、それでは根本的な問題の解決には至らない。

 

「――とはいっても、今は猫の手でも借りたい。たった五百でも、作戦行動に回せる人材が居るならこちらの行動の選択肢は大幅に増える。まずはこの西の村を落とすのが、妥当なところだろうな。そして五百の兵をここで補給し、訓練を行う。使い物になるまで、な」

 

「……しかし、小規模精鋭部隊を創るのであれば馬が欲しい。重装歩兵なぞ、マリアージュにでもやらせておけば良いのだからな」

 

「そう、問題はそこだ。どこから馬を調達するか、ってな。最悪、どっかに喧嘩売って騎馬隊が来たところを、馬に被害を与えずに全滅させればいいんだが……」

 

「騎馬が出張るまで耐えきれるか否か」

 

「その通りだ」

 

 後あとのことまで考えると、結局のところどちらも不確定要素が多い。全面戦争を考えるのであれば、西側を攻める方がまだ勝率は高いのだが、その旨味があまりに少ない。逆に東を攻めるのであれば、最悪三百万の大軍勢を相手にとる覚悟を決めなければならない。しかし、その旨味はダントツに大きい。

 

「ふむ……では少し、シミュレーションをしてみよう」

 

 ガルシアがそう言うと、どこからか手のひらサイズの馬の像を取り出し、西側の国家の中央付近にそれを置く。ガレアには悪魔――俗に言うガーゴイル――を二つと王の像を一つ置き、東には魔法使いの像を一つ置き、東側の中央には「総勢三百万」と書かれた紙を置く。北には二つの剣士の像を置き、それが鍔迫り合いをしている。

 

「東側を攻めた時、必ず西側が何らかのアクションを起こすだろう。ケンイチは当然東に、儂とイクスヴェリア殿は西に対応する。この時、西の兵力は……そうさな、先の戦で三十万を失っておる。こちらの兵が出兵していることを考慮に入れて、十五万としよう」

 

 ガレアに一番近い位置にまた何処からか取り出した手の平サイズの歩兵の像を取出し、紙には「総勢十五万」と書いて歩兵の像の前に置く。

 

「対して、こちらの戦力はマリアージュ十万。儂はイクスヴェリア殿の護衛のため、前線に出るのは厳しいだろう。そのため、この荒野で総力戦が行われる。こちらの出せる戦力は……予期せぬ攻撃を受けた時の防衛のため、七万、といったところであろうな」

 

 ガレア側にも歩兵の像が置かれる。西側に向いたそれの前に、ガルシアはまたも「総勢七万」と書いた紙を置いた。

 

「一方、貴様は単騎で既に東を落としておる。これに、フォールヴァングは反応。総勢五万の魔導師と機械兵器が出動するだろう」

 

「待て。どうしてAMFを搭載した兵器を持っていながら、魔導師を現場に出兵させるんだ? AMFは自分の魔法すら打ち消すんだろ?」

 

「いや、フォールヴァングの兵は近衛以外、全てが魔導師という妙な所でな。きっと攻撃する時だけ、AMFを同時に切って魔法を発動するのであろう。……もしくは、AMFを物ともしない魔導師が五万で攻めてくる、と考えても良い。後の可能性は、全員が質量兵器を携帯している、といったところであろうな」

 

「随分とお粗末な……。だが、問題はそのAMFの質なんだよ。もし俺の『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』の威力を軽減、あるいは激減させるほどの強いやつなら、流石に分が悪い。その場合は『グリモワール』も使えないからな」

 

「最悪を想定したほうが良いだろうな。何せ、貴様のあの神話魔術とやらは、改造したが故に神話魔術として体を成していながらも、オリジナルから威力が激減したのであろう? 込める魔力が、あまりにも少ないからな」

 

「……その通りだ。本物なら、こんな状況はその一撃で終わらせられるんだけどな」

 

 『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』の弱体化。それは少し前、ガルシアと戦い終わった後に気付いたことだ。何故こんなことがと思い、ガルシアに相談したところ、どうやら本来より込める魔力が少なすぎる、とのこと。このことから分かったことが、『魔力消費量変化』の改造は、神話魔術の威力を激減させるというデメリットが存在するということ。つまり、まともに神話魔術として機能するものは『天地創造の神槍(グングニル)』などの『魔力消費量変化』の改造を施さなかったものだけになる。

 

 それでも、『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』は三十万の下級兵の命を刈り取るほどの威力はあるのだが……本来なら、死体すら残さず消滅させていた。先の戦いでは全員が心臓麻痺などで死んでいたことから、物理的な威力は自然現象の雷ほどしか期待できない。

 

「――ケンイチよ。突然この話の腰を折るようで悪いのだが……これはもう、シュトゥラに亡命した方が良いような気がするのだが? あそこの王は名君だ。悪いようにはされまい」

 

「いや、流石にそれは不味い。イクスヴェリア様が国を捨てるとは思えない。――だが、俺の考えもガルシアに似たり寄ったりだな」

 

「ほう? 聞かせてはもらえぬか?」

 

「聖王連合に入れば、とりあえずはそれが抑止力になり、更には他国から支援を受けやすくなると思う」

 

 聖王連合とは、この時代で最も勢力の強い『聖王家』と『覇王家』などを代表とする、各地の有力勢が組んだ連合のことだ。詳しい目的などは不明だが、その抑止力は凄まじいと聞く。普通であれば、もっとも弱小勢力の今のガレアの加入などお断りと言われるのがオチなのだが――。

 

「――なるほど。その手があったか。しかし、相手方が快く受け入れてくれるとは思えんのだが……」

 

「なに、俺が一発、北にデカいのぶっ放せばいいだろ。一撃で三十万……いや、星すら破壊する一撃。こんな実力者が居れば……相手方はどうするだろうな?」

 

 そう。今シュトゥラには、聖王と覇王の二人が集い、北の方で戦っている。その戦争に介入し、そこで二人の手助けをして大きい貢献をすれば……このガレアという勢力も、相手は無視することは出来なくなる。例え最弱勢力であったとしても、その中に有り得ないほどの強者が居るのであれば、誰だって他の勢力と徒党を組まれ、自分たちの脅威となり得る可能性を認識する。そこで、平和的解決方法が連合への加盟だ。これにより、向こうは強者を保持でき、こちらは支援物資を確保できる。

 

「脅迫まがいなことを……と、言いたいところではあるが、手段を選んでいる場合ではないのも事実。最悪の可能性も残るであろうが……今はそれが一番であろうな」

 

 ガルシアの最悪の可能性とは、全勢力がガレアに敵意を向けることだが……それは少し考えにくい。というか、そんなことになったら健一は徹底抗戦をするつもりだった。一度だけであれば、たとえ一千万を連れられようが滅ぼすことは出来る奥の手があるから。使えば間違いなく自分は破滅するが、その時はしょうがないと諦める他にない。

 

「じゃあ、それで決まりってことで――」

 

 そう決定を下そうとした時、不意に執務室の扉が音を立てて開いた。誰かと思い言葉を止めて、其方を見てみると……そこに居たのはイクスヴェリアだった。

 

「あの、少し良いでしょうか? ケンイチさんに、お話したいことがあるのですが……」

 

 はて、何かあったのだろうか、と首を傾げる健一。彼女の態度が少したどたどしいというのはいつもの事だが、それが表情にまで現れるのは今までに無かったことだ(とはいってもまだ二日なのだが)。

 

「ふむ……では、儂は気分転換に、小一時間ほど席を外させてもらおう」

 

 そう言って、ガルシアは部屋から退出していった。それは気づかいなのか、それとも本当に気分転換にいったのか。恐らく前者なのだろうから、健一はますます訳がわからなくなってしまう。

 

「……えっと、お話と言うのは一体?」

 

 その後の数十秒の沈黙に耐えかねて、健一は彼女が言うより先に聞いてしまう。

 

「えっと、その……どうしてあの時、助けてくれたのかと思って……」

 

 ……なるほど。そう言えばあの時、自分の事をほとんど何も話していなかった。確かに、そんな人物が自分の傍にいるのは不安で仕方がないだろう。ならば、自分にはその質問に答える義務がある。臣下として、王を安心させるために。

 

「貴方のその目から、闇を払うためです」

 

 だから、少し恰好をつけてもいいだろう。真実に変わりなければ、あの時感じたままを、伝えているのだから。

 

「えっ……? 闇、ですか?」

 

 彼女は戸惑いながら復唱するのに、健一は「はい」と頷いて続きを話す。

 

「最初に見た時、俺に似ていると思いました。圧倒的なまでの力に、理不尽に蹂躙される者として。

 ――民から聞きました。貴方は平和のために戦っていると。だから俺は思いました。それだけを願って戦っているのに、どうしてこのような理不尽があるのか、と。どうしてそんな辛い表情をしなければならないのか、と。瞳の奥に、暗い色を宿さなければならないのか、と。

 ――そう思った時に、決めました。俺は二度と同じ理不尽を誰かに味わってほしくないから……だから、その理不尽の被害を受けようとしている貴方を放っておけませんでした。これが単なるエゴで、それによって新しい理不尽が生み出されるかもしれないとも分かっていますが、俺はその時に決めました。貴方にふりかかる全ての理不尽を、俺が払い除けると。それ以外は、何も顧みないと」

 

 それは健一自身の覚悟の表れだった。

 つまり、イクスヴェリアの為ならばどんな事でもやってのけて見せる。それがどんな理不尽な命令であっても、それが彼女の為であるならば、自分はそれを遂行してみせると言っているのだ。

 それは矛盾と狂気の塊だ。しかし、彼はそれに気付いていながら直す気は無い。何故なら、それが彼の力となりただ一つの行動理念として彼を動かしてくれるから。だからこそ、そんな些細なことは気にしなかった。

 

 生き延びたい。そう願う彼がどうしてそのような答えに辿り着いたかと言えば、それは自分と同じ境遇に立たされた同情によるところがある。しかし、それが一番ではない。それはただ答えを出す後押しになったに過ぎない。

 最も大きな要因は、自分の命が無いのも同然だと考えたことにある。あの運命の日、自分は芳乃創世によって殺される筈だった。それを何者かが、無理矢理に改変した。本来尽きる筈だったその命を救って、その何者かは言った。五人を悲しい運命から救ってほしいと。それが自分の命を救った理由だった。

 だからこそ、健一は思った。命を救われた対価として、その願いを聞き入れようと。願いが達成されるまで、自分の命は無いものとして思おうと。つまり、一番の理由は命を救われた対価を払うためなのだ。

 

 だからこそ、イクスヴェリアの為なら自分の命を擲っても構わないと思った。その代わり、残り四人が関わってくるのであれば、その限りではない。

 

「……ですが、俺にも譲れないモノがあります。目的の人物を後四人、その人たちを導かなければならない。だから、その人たちが関わる時は……考慮させていただきたく思います」

 

 つまり、最優先事項はその五人ではない。その上に居る、依頼主の言葉こそが最優先事項なのだ。だからこそ、彼は付け加えてそう言った。他四人に悪影響を与えることが、必ずしも無いとは限らないから。

 

「……分かりました。ですが、もう一つお聞きします。譲れないモノとは、何ですか?」

 

「――俺の命の恩人が残した言葉です」

 

「遺言、ですか」

 

 少し違うのだが、解釈としてあまり大きな間違いでもないので訂正はしない。健一は彼女の言葉に小さく頷いて見せた。

 

「分かりました」

 

「王の心中が晴れたのであれば、何よりです」

 

 そう言って、健一はうやうやしく頭を垂れる。しかし、何故か微妙な視線を浴びせられている様な気がした。

 

「頭を上げてください」

 

 一体どうしたのだろう。そう思いながら頭を上げた時、彼女は何故か頬をプクーッと可愛らしく膨らませて、どこか拗ねた様に言った。

 

「そんなに他人行儀にしないでください。それと、私を呼ぶときはこれから絶対に、イクス、と呼び捨ててください」

 

「えっ? いや、それはちょっと……」

 

「もちろん、公私は分けてもらいますが、基本は呼び捨てにしてください。二人きりの時はもちろん、身内だけであれば、絶対に呼び捨て。分かりましたか?」

 

「……分かりました」

 

 有無を言わせない迫力に、健一は首肯するしかなかった。また、何でもする、などと言ったような手前、彼女の命令を断る訳にはいかなかった。

 

「はい、その敬語もやめてください。すっごく無理をしているのが丸わかりです」

 

「……分かった」

 

 ――おかしい。どうして親しげに接してください、と暗に言われているのに、こんなにも理不尽に感じてしまうのだろうか。

 

「あと、私が呼んだら絶対に三十秒以内に駆けつけること!」

 

「いや、三十秒ってそれは……」

 

「光速で移動できるんですから、出来ない、とは言わせませんよ?」

 

「…………」

 

 ――どうしてこうなった? そう思わずにはいられない。イクスの有無を言わせないその絶対命令に、健一が逆らうことは出来ない。

 

「それと、私と二人きりの時は、常に隣か対面にいること。いいですね?」

 

「……はい」

 

 もはや抵抗は無意味だった。――というより、彼女の満足そうな表情に毒気を抜かれて、反抗する力が無くなってしまっていた。

 

「なら、もう一つ。何があっても、私を残して無断で居なくなってしまわないって、約束してくれますか?」

 

「――まぁ、それは当然ですよ」

 

「敬語は禁止ッ!」

 

 その瞬間、彼女は鼻が当たりそうなくらいに顔を近づけて、人差し指を健一の口元まで持ってきて注意する。その仕草が子どもっぽく妙に可愛らしくて、彼の口端が少しだけ吊り上る。

 

「……分かった、約束するよ。絶対に、イクスに無断で居なくなったりしない」

 

「はい、よろしい」

 

 満足そうに頷いた後、イクスは健一から離れる。そしてクルッとその場でターンすると、彼女は健一に背を向ける。後ろで手を組んで、そして彼女は振り向く。その勢いで、彼女の紅色の綺麗な髪が大きく靡いた。

 

「これからも、よろしくお願いしますね。ケンイチさん」

 

 イクスの言葉に、健一は返事をすることが出来なかった。何故なら、彼は彼女に見惚れてしまっていたから。

 

 イクスが初めて見せた笑顔。それはヒマワリのように元気な姿でありながら、太陽のように輝いていて、それでもどこか子どもっぽい。だけど、その子どもっぽさが妙に他の二つとマッチしていて、とても絵になっていた。

 

 もし自分が画家で、彼女のそれを絵にして題名を付けるなら――。

 

 ――『心からの笑顔』。

 

 それだけ魅力的な笑顔だったのだから、今しばらく見惚れていても罰は当たらないだろう。

 

 この笑顔の為なら、きっと自分はどんな苦難にも立ち向かえる。

 だからもう少し、もう少しだけ見惚れる事にしよう。

 

 この光景(笑顔)を、絶対に忘れる事が無いように――。

 

 




 ただのイクス回でした! 自分の文章力が足りていないせいで、イクスの可愛らしさを十全に表現できないのが悔しいッ! もっと、もっと可愛らしく描ける筈なんだッ!

 などと自分の文章力の不足に嘆きながら、今回はこの題名で書かせていただきました。

 ――前半は要らない? いえいえ、後になるのも面倒なので必要事項です。現状がどれだけ絶望的かが分かってもらえれば、それで良かったんです!

 さて、これでようやくひと段落。この二次創作は意外と話数続かずに完結すると思います(予定では70前後)。戦争ドンパチがメイン、というわけではないので。

 さて、それではまた書き上がった時にお会いしましょう。

 感想、コメント、ご指摘、批判は随時募集中です! 辛口であってもウサウサギのメンタルは意外と硬いので大丈夫です!(ただし節度ある言動でお願いいたします)。
 最後になりましたが、ご愛読いただき誠にありがとうございます!

PS.「どうしてGさん回が二話をぶっちぎり、さらに一話と同じかそれの上をいくUA数なのだろう……解せぬ」
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