ちなみに、今回はもはやタイトルそのまんまです。
それでは、本編をお楽しみください。
「では、ガレアは聖王連合に加入する、という方針でいいのだな?」
「それしかないだろ。イクス、問題ないよな?」
「はい。現状はそれがベストですから」
作戦会議室。大きな地図や会議用の円卓があるこの場所で、ガレアの今後の方針が決まった。
――聖王連合への加入。
それがガレアの意思だった。イクス、ガルシア、健一の三人全員がこの意見に同意。実際にはガルシアと健一の案であり、それにイクスが賛成するかどうかだったのだが……それは置いておく。
問題は、北で行われている戦争にどこまで介入してしまうか、ということだ。これが実のところ、今回の軍議の主題だったりする。
「やっぱり全滅が良いんじゃないのか? その方がシュトゥラに恩を売ることが出来る点で、かなりのメリットが望めると思うんだが」
「いや、儂はまずシュトゥラの覇王にこちらのことを話し、その上で協力するのが良いだろうと提案する。ちょうど、その覇王もケンイチと同じくらいの歳の筈なのでな。そのことからも、話しやすいであろうな」
「恩着せがましく勝手に助けるより、正式に協力して利益を確実にする、か。悪くない手だな。そっちの方が良いかもしれん」
「……今まで言わぬようにしておったが、ケンイチよ。貴様本当に十歳か?」
「正真正銘の十歳だよ。ただ、最悪の理不尽に巻き込まれた十歳、だがな」
「……まぁ、それは追々話そう。イクス殿、我らの案はざっとこんなものですが、他にご意見や質問などはありますかな?」
「いえ、私はそれで良いと思います。ただ、覇王だけでなく聖王とも友好を深めておいた方が良いとは思いますけど……」
「なるほど。では、それでいきましょう。作戦決行は何時に?」
「今からすぐにしましょう。いけますか?」
「まぁ、こっちの体調は万全。いつでも出撃出来るよ」
「ならば、ケンイチさんに命令します。今からすぐに北に向かい、覇王と聖王に取り次ぎ、ガレアの聖王連合加入を確実にした後、戦争への介入を行ってください。介入できる場合、敵軍は壊滅させても構いません。いえ、力の誇示のために絶対に壊滅させてください。最悪、取り次げなければ手順が逆になっても構いません」
「まぁ、ならば命令通りに、ってね。んじゃ、行ってくるよ。土産は何が良い?」
「儂は上等な酒で頼む」
「私はあちらでのお話を希望します」
「あいよ。いってきます――『魔術兵装(ゲート・オープン)』――ッ!」
そして軍議なのだが、ものの十分で終わるという何とも言えない結果となっていた。それはこの三人が互いの意見を認め合い、すぐに決を出したからこその結果なのだが……イクスはともかく、他の二人は何とも言えない気分になっていた。
――儂の居た場所では、軍議って三日くらい掛けてやるものだったのだがな……。
と、昔を思い出し哀愁を漂わせている老人が一人。
――軍議って、もっと時間が掛かるイメージがあったんだけど……気のせいか。
と、少し期待と違ったものに「まぁそれでもいいか」と開き直る少年が一人。
「『疾風迅雷(タービュランス)』――ッ!」
マホウを展開し、能力を発動させた健一はガレアをすぐに飛び出した。そしてただ北に向かい……実際時間、三秒と掛からずに到着した。ちなみに、二秒くらいは方角を間違えて軌道修正を余儀なくされていた。
光速で移動できる健一にとって、他国との行き来などまさに散歩気分。責任感皆無、と言えばそれまでなのだが……敢えてよく言うのであれば、気負いしない性格、といったところだろう。
健一が降り立った場所は、とりあえずシュトゥラの特徴を捉えた場所にある城だった。なぜそこまで大雑把なのかと言えば、彼がシュトゥラの地理を正確に把握していないことが原因として挙げられる。
そして今回、伝令を出すのは通過点を考えて不可能だった為、何も言わずに城の敷地内に侵入したわけなので……。
「貴様、何者だッ!?」
――当然、不審人物として扱われてしまう。
健一は周りを包囲した兵士に両手を挙げて「敵意は無い」ということを示し、口を開く。
「俺は神崎健一。これでも一端の《召喚せし者(マホウツカイ)》をやっている者だが――いや、それは別にどうでも良い。
――俺はガレアの王、冥王イクスヴェリアからの遣いだ。此度は北の戦の協力を申し出ようとやってきた。聖王様と覇王様、そしてシュトゥラの王に謁見を希望する!」
「ガレアからの遣い……? ガレアは今、三十万の兵に攻め込まれていると聞いている。そのところはどうなのだ?」
普通なら、こんな十歳の子どもは迷子扱いされるのだが、警備兵にはそれが出来なかった。何故なら、その十歳の子ども――健一――から迸る魔力が、異常なものに見え、また彼を一目見た時から、並大抵の者ではないと悟ってしまったから。そしてそれを悟れることから、シュトゥラの警備兵のレベルは相当に高いと考えられる。
「俺が一撃で老骨以外の全員を屠り、勝利を収めた。尚、その際にガレアにはガルシア・グリムズが武官として士官している。嘘だと思うのであれば、先に挙げた三名との謁見の機会の約束、並びに敵殲滅の暁にはその功績を重んじるという契約書を記入した後、俺が一人で敵勢力を壊滅させてこよう!」
少年健一は高らかとそう宣言した。その言葉に嘘偽りなどは無い。しかし、そこに込められた念はただ単に「面倒臭い」の一言に尽きた。嬉々として言っている様に見えるのは実は彼の演技だ。内心では「早く交渉終わらないかな」などと不甲斐ないことを考えているとは、まさか誰も気が付かないだろう。
「どうしたっ!?」
突然に声が聞こえてきた。そちらを見てみると、碧色の短い髪に、左に青、右に紫の瞳を持つのが特徴的な、健一と歳が同じくらいの美形少年が居た。
「ッ!? クラウス様、実は……」
突然出てきた少年クラウスに警備兵が事情を説明する。それが終わると、クラウスは一度頷き、警備兵たちの前へと歩み出る。
「ガレアの遣いカンザキ、話は聞いた。どうだろう? 少し手合せをお願いできないか?」
そう言って、クラウスはやる気満々、嬉々とした表情で構えを取る。それを見た健一は、少し考えるような仕草をしてから言った。
「……それは、一人の武人としての挑戦でしょうか?」
――それとも。
「一端の《召喚せし者(マホウツカイ)》である俺への挑戦、でしょうか?」
「――ッ!」
健一以外の全員が、後ろへと跳んだ。何故、と問われても理由は答えられない。強いて言えば、背筋に悪寒が走ったから、というところだ。
「……君の実力が見たい。お互いに、戦に出られなくならない程度に、ね」
そしてクラウスは構えながら言う。どうやら、退く気は無いようだ。
――それにしても、無茶な注文をしてくれる。健一はそう思いながら、拳を構える。もちろん、マホウを展開したまま、『疾風迅雷(タービュランス)』を維持した状態で。
「分かりました。それと先ほどの非礼のお詫びに、其方から一発どうぞ。その後、仕切り直して勝負をしましょう」
「分かった」
お互いに構える。健一は防御に徹し、クラウスは攻撃に徹するための構えだ。
(……悪いが、最大のチャンスだ。全力で、落とす気でいく)
クラウスに迷いはない。先ほどの悪寒からも、相手が何か得体の知れない物を持っているのは分かっている。ならば、確実に一撃を入れられるこの一回で沈めたい。打ち合いもしてみたくはあるが、まず勝負に負けたくない。
「行くぞ!」
地面を蹴った。瞬間的に健一へと肉薄し、その一歩手前で踏込む。
大地から足先へ。
下半身から上半身へ。
螺旋が描いて、力を伝える――!
「はぁッ!」
渾身の力。自分の技術を最大限に生かし、そして最も重く拳へと力を伝える方法。それを以て、クラウスは健一へと一撃を入れた。
――そして、衝撃音。
まるで大砲のような音だった。衝撃波は健一を通り抜けてその後方にある塔にまで届き、その塔の壁が崩れ落ちた。何故か崩れ落ちる瓦礫が塔の涙であるように見えたのは……きっと気のせいだろう。
「――ッ!!」
結果、健一は立っていた。正確に相手の攻撃を読み切り、『雷光を打ち砕くもの(イルアン・グライベル)』を装着した腕の方を前に出し、両腕をクロスさせて防御したのだ。ただ、それでも衝撃は殺し切れない。その目尻には涙を浮かべて、痛みから出る声を押し殺していた。どうやら、相当に堪えたらしい。彼はプルプルと震えながら、徐々にその顔を俯かせる。
「紙装甲にあの打撃とか、俺を殺す気かッ!?」
小声で何やら呟いているようだが、既に間合いを取ったクラウスとその後ろに居た警備兵には聞こえない。
数十秒、その場に沈黙が流れた。痛みで震える健一が、ずっと固まっていたのだ。だからこそみんな静止していた。戦場ならばともかく、模擬戦で動かない相手に攻撃するなど、クラウス自身がそれを許さなかった。だからこその沈黙。
「……泣かす」
「――えっ?」
そして不意に声が聞こえた。その声はとても小さかった為に、クラウスにも他の者にも聞こえなかった。
しかし、クラウスは感じていた。この感覚、何か絶対にロクな事が起こらない、と。
「テメエ絶対に泣かす! 今更手加減してくれとか言っても遅ぇからなぁ!!」
健一はいきなり顔を上げて涙目で、癇癪を起した子どものように怒鳴った。そんな健一を可愛い、と一瞬思ってしまったクラウスだが、同時にこれは本格的に不味い、とも悟った。どうやら、彼の逆鱗に触れてしまった様だ。
「行くぞクラウスッ! 涙の用意は出来てるか!?」
「え、ちょ、待っ――ッ!?」
問答無用ッ! とばかりに駆け出そうとした健一の姿が、突然にして目の前に現れた。それと同時に、クラウスは本能的に防御の姿勢を取っていた。それは正解で、次の瞬間にはクラウスの両腕には衝撃が走った。それも強い。下手をすれば、あの二人を上回っているかもしれない、とまで思ってしまったほどだ。
「マジで泣かすマジで泣かせるマジで泣けぇ!」
「いや、ちょ、どうしてそんなに怒って――」
「紙装甲に全力の拳叩き込むお前が悪いんだよッ!」
「先に一発どうぞ、って言ったからッ!」
「知ったことかぁぁぁ!」
「理不尽だぁぁぁ!」
攻撃をいなし、衝撃を逸らし、目で追えない攻撃は全て直感に従って対処する。クラウスは己の全てを使い健一からの攻撃を受け続ける。一発食らえば、後は崩れるようにして攻撃を食らってしまいそうだから。本気で泣くまで殴られそうだから。だからこそ、一発も直撃しないように攻撃を受け続ける。この時、クラウスは一種の生存本能のおかげで、光速に対応出来ていたのかもしれない。
「沈めクラウスゥゥゥ!」
一方、健一はもはやクラウスを泣かせることしか頭に無いようで、攻撃を当てられれば何でもいいと言う風に、とにかく速さだけを追求して攻撃をしている。普通なら怒りに囚われて攻撃一辺倒になるなど愚か者のすることなのだが、光速で攻撃を繰り出せる健一にとってそれはむしろアドバンテージになりつつある。現に、クラウスは反撃の糸口を見つけることが出来ず防戦一方だった。
「さっきまでの紳士的な君はどこにいったんだ!?」
「そんなもん外出用の顔に決まってんだろうがぁぁぁ!」
身も蓋も無いことを――。そんな攻防と言葉の遣り取りに、警備兵はもはや呆気にとられて見ていることしか出来なかった。お互いに本気で凌ぎ合う姿は……とても美しいものとは言えない。
だけど――。
「さっきまでの威勢はどうしたクラウスさんよぉ!?」
「君の手数が多すぎて反撃に出られないんだろう!?」
「ならさっさと糸口見つけて反撃してこいやぁぁぁ!」
――二人の凌ぎ合うその姿がとても清々しいものに思えたのは、見学者全員、共通の思いだっただろう。
……しかし、だからといって、だ。
「クラウス! あと三秒後に大技ぶちかますから覚悟してやがれぇぇぇ!」
「ちょ、大技ってな――」
「『九つの世界(ノートゥング)』――ッ!」
「ッ!? ま、待て! そんなものを発動したら、この城が――」
「『総てを超越せし九つの雷光(トールハンマー・フルアクセス)』――――ッ!」
問答無用。そう言わんばかりに、ゼロ距離から放たれた世界を滅ぼす九つの雷光がクラウスを飲み込み……しかもそれだけにとどまらず、そこから直線状にあった全てのものが飲み込まれる。
……神話魔術を問答無用で、友好関係を結ぼうとしている他国の城内でぶっ放してしまうのは、如何なものなのだろうか?
その後、当然のことだが健一は警備兵に取り押さえられ、地面に伏して痙攣していたクラウスは病室へと運ばれた。幸いにして麻痺しているだけとのことだが……当然、それは健一が『クラウスが軽傷で済む未来』を九つの並行世界から選択した結果であって、間違っても偶然なんてものではない。流石の健一も、ただ痛い思いをしただけで人を殺すほど外道ではない。『九つの世界』を使用したのだって、結局のところはクラウスのためだった。
ただ……当然のことながら、城内の一部は綺麗に消滅していたわけで。
力の誇示という目的はこれ以上にないほどの成功を見せた一方。
――ガレアという国の株は、どん底に沈んでいってしまうのだった。
はい、クラウスに神話魔術叩き込んだ健一の回でした(つまりギャグ回です)。作者は反省も後悔もしていないッ!
『九つの世界(ノートゥング)』をどうして使えたのか。それは話しの外で自分で魔力補充をしたり、ガルシアに魔力補充をしてもらったりしていたからです。
あと、『総てを超越せし九つの雷光(トールハンマー・フルアクセス)』で選び取った未来ですけど、そもそも神話魔術に込める魔力がとてつもなく少なくしたことが、クラウスが軽傷で済んだ要因です。あとは当たりどころが良かった、クラウスの回避技術が凄まじかった、なども理由に挙がります。何せ覇王様ですから。九つの並行世界の一つに、あたりどころが良かったクラウス、が居てもおかしくないですよね!(かなり都合いいことは分かっています、はい)。
さてさて、今回こんな大問題を起こした健一は果たしてどうなるのか!? 次回の話にご期待ください。
それでは、いつも通り感想、批判、ご指摘、コメントなどをよろしければお願いいたします。また次話、あるいは感想欄でお会いしましょう。
クラウスの初撃を受けた時の健一に描写不足を感じ、一度修正しました。8/14 16:24