今回、オリヴィエ、エレミア、クラウス VS 健一 となります。
物語も順調に進行中。それでは、本編をどうぞ!
「……さて、ガレアの遣いよ。申し開きはあるか?」
「誠に申し訳ありませんでした」
謁見の間。そこには玉座に座る者、王の周りを取り巻く者、その外周を取り巻く者――そして、中央で土下座する者が居た。
状況を簡潔に説明するのであれば、健一がシュトゥラの王の子どもを気絶させた挙句、その城内を一部メチャクチャにした為に、王の下で裁かれることになった。以上である。
「死者が出なかったから良かったものを……あの規模の魔法を城内で発動したのだ。奇襲行為と受け取っても、おかしくないのだぞ?」
「それは重々承知の上です。しかし、クラウス殿のお言葉を守るのであれば、平行世界に干渉することの出来るあの神話魔術を使うのが最も良かったと思いました。責任転嫁をするつもりはありませんが、それが事実です。これも全て、自分の力不足故の結果。誠に申し訳のしようもございません」
健一の口調は本人曰く「外出用」のものに変わっていた。それもかなり堅苦しい。他国の王との謁見というのもあり、これほど堅い口調になってしまったのだ。余談だが、マホウは既に内に納めており、髪も黒色に戻っている。
対する王は、別段怒っている、という様子でもなかった。どちらかと言えば、この問題の落としどころを探しているように見える。城内を荒らされ子どもを気絶させられて、どうしてここまで冷静にしていられるのかと言うと……おそらく、勝負を挑んだ自分の子どもにも責任があると思ったのだろう。その上に、王という立場もある。二つが合わさって、迂闊な行動をすることが出来ないようだ。
「それで、そなたへの罰なのだが……正直、友好を結びに来た相手を罰するのは心苦しい。しかし、何かしらの形で罰を与えねば、我が国の風評にも関わってしまう。それは理解しておるな?」
「はい。全て承知の上です」
「――ならば、クラウス、オリヴィエ、エレミアの三人と同時に、訓練場にて模擬戦を行ってもらおうではないか。名目は親善試合としてな。なに、戦争に参戦しに来たのだろう? ならば、このシュトゥラの全域で実力を誇示する良い機会であると思う。良い闘いを兵士に見せれば、士気向上にも繋がる。どうだね? 見せ物になってしまい、気分が乗らないというのであれば、人払いをさせてはもらうが……」
「いえ、それではお言葉に甘えて、この国の警備がおろそかにならない程度に、観客を集めて勝負をさせていただきましょう。――先にお聞きしておきますが、俺はどこまで力を使っていいのでしょうか?」
「……間違っても、お互いが死なない程度。かつ、観客に被害が出ない程度。といったところであろうな」
「死なない程度、ですか。再起不能になっても、文句は言いませんよね?」
「訂正する。お互いが死なない程度、かつ体に障害が残らない程度、とさせてもらう」
健一の危ない発言に、王が慌てて言い直した。この光景を見て、自分の状況が分かっているのか? などと思った者は少なくない筈だ。
「難しいところですが、妥当ですね。――王よ、ならばここで一つ、賭けをいたしませんか?」
そしてその中で、健一はさらに提案をする。普通であれば度重なる不敬罪にて首刎ねられても文句を言えない状況なのだが、シュトゥラの王は寛大だ。そんなことは当然せず、かといって提案を無下にすることはない。とても大きい器量を持ち合わせている。
「内容による」
「俺がこの戦いにて勝利すれば、シュトゥラからガレア復興に直接支援、並びにガレアの聖王連合への加入をやり易くしていただきたい」
「そちらが負ければ?」
「俺個人の出来る範囲で、何でも一つだけ、例え無理難題であっても承りましょう。お望みであれば、この世界そのものを消滅させてご覧にいれますが?」
「世界消滅云々はともかく、面白そうな内容だ。そなた個人に命令するのであれば、何でもするのだな?」
「はい。ただし、ガレアが直接的に不利になる行為、並びに間接的に長期間不利になる要望は、聞き入れかねますけどね。あと、直接的もしくは間接的に死ね、というのもなしということでお願いします」
「なるほど。了解した。その賭け、受けようではないか」
ざわっ、と周りが少しだけ動いた。しかし、それもすぐに収まり、もとの静かな謁見の間に戻る。
「それでは、決闘日は明日としよう。それまで、この城で英気を養うといい。クラウスも、明日には完全回復しているであろう」
「分かりました。それでは、失礼いたします」
こうして、シュトゥラの王との謁見が終わった。
健一はその後、王の用意した使用人に城を案内されたり、このシュトゥラの歴史を聞いたり、クラウス、オリヴィエ、エレミアの話を聞いたりとした。健一はこの時間を、とても有意義だったと思っている。
そして夜になった時だった。
「……不味いな。使えるマホウと能力がかなり限られてくる上に、どれも決定打に成り得ない」
客室の中で、健一は一人、明日の戦いに勝つために戦略を練っていた。『失われた神眼(オーディンのまなこ)』があれば、あらゆる状況下において可能な限りの打開策が提示される。また、敵の行動を予期する『未来予想』などといったことも出来るため、三人とはいえ負ける事はまず無いと考えたいのだが……例外が在る故に、安心は出来ない。
その例外というのが、ガルシアだ。あの爺さんに対してだけは、『失われた神眼(オーディンのまなこ)』を使っても勝つ手段が見つからなかった。つまり、土台俺には勝てない相手、という事実が証明されていた。もしくは、自分のマホウがガルシアを解析し切れなかった、という可能性も考えられる。そんな例外があったからこそ、このマホウを過信してはならない。いくら神であっても、不可能はあるのだから。
「まずは最初にクラウスを倒す……ことは出来ないよな。かといって三人同時撃破なんて夢のまた夢。『疾風迅雷(タービュランス)』を駆使しながら、どうにかしてカウンターを狙うしかない、よなぁ……」
考えれば考えるだけ不安になってくる。だが、そんな中でも今考え得る効果的な戦略は既に思いついた。ならば、後はこれがどこまで通用するか試すのみ。今回はガレアの支援、そして聖王連合への加入が掛かっている。戦争に参加するとはいえ、やはりその功績はまた別のところで使いたいため、どうにかしてここでその二つを確定させておきたいところなのだが……やはり、勝率は低い。
「当日の運任せ、かなぁ」
それしかない。今はとにかく、疲れを取り除くために、明日を万全で迎えるために休まなければならない。
ならば、後はやることは簡単。そのまま眠ってしまい、明日を迎えれば良い。
上質なベッドの上で目を瞑ると、そのままスッと眠りの世界に落ちた。どうやら、疲れがかなり溜まっていたらしい。
◆
……夢を見た。誰かが、自分を呼ぶ夢を。
――早く、早く。健一、早く、呼び出して。
女性の声だ。とても澄んだ女性の声。しかし、目の前は真っ暗で姿は見えない。いや、そもそも周りにはその女性の姿はないのかもしれない。
――その能力で進化した私を。早く、早く呼び出して。手遅れになる前に。
女性の声は焦っている様に聞こえる。それは一体、何に対する焦りなのか。自分が呼び出されず、忘れ去られてしまうかもしれない焦り? いや、それとも健一自身が後悔してしまう未来を迎えてしまうことへの焦り? ――分からない。
――もう、時間だね。待っているね、健一。
……そして夢は覚めた。
◆
――親善試合当日、正午。
健一は王に呼び出され、その後は侍女に案内されて訓練場まで来ていた。
「それでは、試合のお時間です。御武運を」
「まぁ、期待に添えるくらいには頑張るよ」
侍女の言葉に、健一はそれだけを言って訓練場へと入った。
そして入った瞬間、思った。ここはギリシャのコロシアムなのではないだろうか、と。
訓練場は広い。直径はおそらくだが三百メートルほどある。これならかなり大きく動くことも出来る。ただ、どうしても訓練場というより闘技場に見えてしまうのは……きっと、地球でギリシャのコロシアムを知っているからだ。余談だが、地面の質は土だった。
「カンザキ、昨日は惨敗だったが、今日はそうはいかないよ」
と、闘技場(訓練場)の中心に来た時に最初に挨拶をしたのが、昨日神話魔術をその体に受けたクラウスだった。どうやら、昨日の負傷は既に完治しているようだった。
「ははっ。まぁ、昨日場内を一部メチャクチャにしたことについては謝罪する。スマン」
「君は相変わらずだね。まぁ、今更敬語で話されても微妙だし、それでいいけどさ。それと、アレはこちらにも落ち度があった。気にしなくてもいいよ」
軽口を叩き合い、二人の会話は終了。続いて、健一はその横に居た二人へと顔を向ける。
「初めまして。ガレアからの遣いで、神崎健一と申します。以後、お見知りおきを」
芝居がかった口調と仕草でお辞儀をする健一。それはおどけているのか、あるいは彼の敬意の表れなのか。彼を知るクラウスは直感する。これは前者なのだと。
「はい、初めまして。私は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトと申します! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
元気で明るい声。端正で可愛らしい顔立ちに、右目が翠、左目が紅のオッドアイ。そして金色の美しい髪を後ろで結い上げポニーテールが特徴的な、クラウスと健一と同じ年頃の元気で、笑顔が綺麗な少女。それがオリヴィエだった。また、両腕はどうやら義手のようだ。
「初めまして。僕はエレミアといいます。今日の親善試合、よろしくお願いいたします」
落ち着いた声。中性的で整った顔立ちに、綺麗な碧眼、そしてイクスほどではないが少し長い艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめている。本人の雰囲気もとても落ち着いた様子に見えるが……反面、何かを期待しているようにも見える。年の頃はここにいる他三人とおそらく同じ。それが、エレミアという子だった。
『これより、親善試合を始める。その前に、ガレアの遣いケンイチ殿には準備が必要とのこと。急ぎ準備をするように。』
放送が聞こえてきた。おそらく、闘技場全域に聞こえるように拡声器などが利用されているのだろう。そんなことを考えながら、健一は一つ頷き、いつもの言葉を口にする。
「――『高次領域展開・魔術兵装(セカンドアクセス・ゲート・オープン)』――ッ!」
言い終わり、閃光が溢れる。オリヴィエ、クラウス、エレミアがその光を受けて反射的に瞼を閉じ、そして次に目を開けた時には、既に目の前の人物は見た目が変わっていた。
まず、左目が黒から虹色になっていた。いや、虹色ではない。色がこまかく滲みながら変わっていくのだ。赤から青、青から黄色、黄色から翠、と言った風に。そして一巡すると、またそれの繰り返し。
「申し訳ありませんが、今回はこちらとしても負けるわけにはいきません。だから、今回は躊躇いなく『眼』を使わせてもらいます」
そして変化したのは、何もその瞳だけではない。先ほどまで付けられていなかったバンダナ、グローブ、ガントレット、そして――。
――禍々しき様相の、超重量の魔剣。
「ッ、くそ、流石に重い……」
健一からそんな情けない声が出るのも、無理はなかった。彼の手に持つ魔剣(スウァフルラーメ)は、見た目通りの重量と重圧を誇る。担い手はきっと屈強な男を想定されて作られたのだろう。そんな魔剣を、たった十歳の子どもが握るのは、さすがにマホウの補助があっても少し無理がある。現に、健一は今、その特大の得物を地面に引き摺っている。
「まさか、ここで使う事になるなんて、な……ッ! 『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』――ッ!」
――『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』。それは対象の重力認識を操作する能力だ。それにより、健一は『自分にだけ魔剣が紙のように軽く感じる』ように認識させた。この戦いの後で筋肉痛は免れないだろうが、これもガレアの先が掛かった戦い。負けるわけにはいかない――!
「さぁ、こっちの準備は完了だ」
『…………』
その場に居る健一以外の全員……いや、観客席で映像投影の魔法でその光景を見ていた者たちさえも、息を呑んだ。先ほどまで引きずるようにして持っていた得物を、今は軽々と右手だけで肩に担いで持っている。一体、どんなトリックを使ったのか。あるいは、先ほどのアレは演技だったのか。このシュトゥラの兵士ですら、あの得物を満足に扱う自信は無いというのに。
「『鉄腕』解放――」
そして対抗するように、エレミアが言葉を紡いだ。それがキーワードだったのか、エレミアの両腕の半分ほどまでが黒いガントレットに覆われる。それも薄いものではない。かなりゴツイ。魔剣ほどではないが、それでも重圧を感じさせる。
「先に言っておく。最初から、フルスロットルでいく」
「望むところです!」
「全力でいかせてもらいます」
「お手柔らかに頼むよ」
オリヴィエ、エレミア、クラウスの順で健一に言葉を返す。
健一は、この戦いのプロセスが三手先まで決まっている。まずは、そのプロセスに従い動き、相手の動きを確認。その後、『失われた神眼(オーディンのまなこ)』にて敵の動きを予測して対処する。
『それでは、これより親善試合を開始する――始めっ!』
放送で合図が成された瞬間、健一はすぐさま一歩踏み込み、紙の様に軽くなった(ように思える)魔剣を横一文字に振るう。
『――ッ!』
他三人はそれを受け切れないと判断したのか、すぐさまバックステップ。『疾風迅雷(タービュランス)』を未だに使っていない健一にとって、その間合いは簡単には埋まらない。
――しかし、それは別の技術で補ってしまえば、関係ない。
「『瞬間魔力換装(フリューゲル・ブリッツ)』――ッ!」
――『瞬間魔力換装(フリューゲル・ブリッツ)』。それは一秒に満たない瞬間に限定し、自らの魔力を消費する事によって全ての身体能力を上昇させる特殊能力。その速度は、光速すらも上回る――!
「はぁッ!」
その速度を以て追撃し、もう一度、横一文字に魔剣を振るう。その計算され切った華麗な動きは、健一の考え出した戦略を、自身のマホウの『失われた神眼(オーディンのまなこ)』によって相手の動きまで演算して叩きだした、初手として最も有効な方程式だ。
「――ッ!?」
「くっ……!」
「前より速い!?」
しかし、この奇襲にも近い二撃目ですらも、誰一人戦闘不能にせしめることは出来なかった。
オリヴィエは流麗な動きで体を逸らして避け、そのままバク転をする。スカートでそれをするのはどうだろうか、などと一瞬思ったが、健一はすぐさまその雑念を捨て、他二人を見る。
エレミアは『鉄腕』というガントレットで斬撃を受け止め、そのままさらに後ろへと跳ぶ。それにより、衝撃を受け流したようだ。
クラウスはやはりと言うべきか、『疾風迅雷(タービュランス)』の速度を参考にしていた為に、どこか心の隙が出来ていたのだろう。反応が他の二人よりほんの一瞬だけ遅れ、辛うじて防具を付けた両腕で斬撃を防ぎ、わざと自分から後ろへと吹っ飛ばされた。
――ならば、と健一は魔剣を振り上げ、そして誰もが予想しない行動……魔剣そのものをクラウスに向けて思いっきり、それも回転を加えて投擲した。
「な――ぐぅッ!」
魔剣がクラウスに激突した。そのせいもあって、クラウスは速度を更に増して吹き飛ばされた。重量とダメージから考えて、もう戦闘不能一歩手前にはなっているだろう。
「『魔術兵装(ゲート・オープン)』――ッ!」
「えっ!?」
「ッ、大きすぎる!?」
クラウスが吹き飛んだのを見た後は、投げた魔剣に見向きもせずに新しい武器を取り出した。それにオリヴィエとエレミアの二人が驚くのも無理はなかった。何故なら、その武器の名前は『エッケザックス』。とにかくデカいバトルアックスは、見た目からしても持てる者がいること自体が異常。その大きさは、所有者の健一の優に三倍は越えている。
「『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』――ッ!」
――しかし。
そんな規格外なバトルアックスすらも、健一は両手でありながらも持っていた。それでも、驚くのはまだこの先だった。そんなバトルアックスを持ちながら、健一は一流の武芸者から見ても「速い」と思える速度で肉薄してくるのだ。これには、誰もが驚きを隠せない。一体、どんなメカニズムなのか。
それは種が分かってしまえばあまりにも簡単。『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』で、自分だけに『自分自身とエッケザックスをとにかく軽く』感じるようにしたのだ。肉体の方が壊れてしまうかもしれないが、そこは《召喚せし者(マホウツカイ)》としての自己修復能力がある。魔力を常時少しずつ消費するが、それでもこの状況ではその魔力消費量に見合った効果が望める。
「どりゃぁぁぁあああ!」
「ぐっ……!」
咆哮一閃。次にターゲットにされたのはエレミアだった。あまりにも予想外の動きの連発に驚きを隠せない。しかし、対処はしっかりとしていた。まるで暴風のようなバトルアックスの攻撃を、エレミアは両腕を固めて防いで見せたのだ。それでもダメージは殺せない。腕が痺れたのは言うまでもないが、その衝撃で体が吹き飛ばされた。
「『瞬間魔力換装(フリューゲル・ブリッツ)』――ッ!」
「まずっ!?」
このままでは早々に脱落するどころか、今後の生活に多少影響が出るような怪我を負ってしまいかねない。苦し紛れではあるが、エレミアは健一の攻撃に対して勘を頼りにして、攻撃が来るのであろう方向に空中でありながらも、力一杯の拳を突き出した。
「ぐぁッ!?」
結果、その拳は的確に『エッケザックス』に命中し、それを認識した瞬間に衝撃を逸らす。ただし、あのような暴力の塊の衝撃を完全に逸らすことは出来ない。大怪我は負わなかったものの、エレミアは闘技場の端っこの方まで吹き飛ばされてしまった。
――轟音。行き場を失った『エッケザックス』は地面に叩きつけられ、その威力を知らしめた。当たった大地は砕け、抉れ、そこに直径五メートルほどの大きなクレーターを創り出した。これには、誰もが言葉を失う――
「すごい!」
――と思ったのだが、一人だけ嬉しそうに称賛する声が聞こえてきた。
健一は一呼吸吐いて、そちらを見てみると……。
「あんなにも大きな武器を持っているのに、あれだけ速く動けるなんて! 並みの人でも、一流の武芸者であっても、そんなに大きい武器を扱うことは出来ない筈です!」
同じ闘技場内に居た最後の一人、オリヴィエだった。彼女は色素の違うその瞳を見開いて、心底楽しそうにはしゃいでいた。
確かに、何の補助も無しにこんな馬鹿な得物を扱えるのなら凄いものだが、生憎健一は能力で足りない分を補っている身だ。その賛辞を嬉しく思っても、やはりどこか後ろめたい気持ちになってしまう。
「確かに、これは並大抵の人では扱えませんね。俺のような《召喚せし者(マホウツカイ)》でない限りは、ね」
攻防は一瞬だったが、『エッケザックス』をいつまでもっていると筋肉が断裂しかねない。健一は至って冷静に自分の得物をその内に納めた。
「あっ、もしかして今の得物は魔力で作った武器ですか?」
「半分正解、半分間違いです。マホウではありますが、完全に魔力というわけではありません。……説明が難しいので、そこは省かせてもらいます」
話しながらも、健一は『失われた神眼(オーディンのまなこ)』によってオリヴィエ相手に対策を立てていた。そして既に答えは導き出されていた。その答えとは、『回避不能の攻撃で義手を破壊する』というものだった。
「『魔術兵装(ゲート・オープン)』――ッ!」
そして顕現させるのは、白黒のレガース『スコール&ハティ』に、白黒の二挺拳銃『うたまる&アルキメデス』だ。
「今度は銃とレガースですね! でも、弾丸なら私には当たりませんよ?」
「ははっ。その余裕はきっとなくなりますよ?」
健一とオリヴィエの距離は五メートルほど。距離が近すぎると考えた健一はすぐさまある場所に向けて後退していく。オリヴィエは逃がすまいと、健一へとその小柄な体からは予想も出来ない力強い踏込みによって加速して肉薄する。
オリヴィエの間合いに入ってしまうのは、きっと三秒も無い。しかし、それだけあれば健一にとっては十分だった。
二挺拳銃に魔力を込められるだけ込める。そして狙うものを決める。白の拳銃で右の義手を、黒の拳銃で左の義手を。それぞれに狙いを定めて、両腕をクロスさせて、そのトリガーを引く。
「――『福音の魔弾(ヴァイス・シュヴァルツ)』――ッ!」
――『福音の魔弾(ヴァイス・シュヴァルツ)』。それは標的の音を認識して追跡する能力を秘めた魔弾だ。どんな物質でも微量の音波を発している。この魔弾はそれを追跡する。つまり、この魔弾を無効化したければ、魔弾以上の攻撃力を以て相殺、または打ち消すか、あの規格外のように無限の空間を創り出して隔離する、あるいは時間を停止させるほかに方法はない。それは、両腕に付けられたオリヴィエの義手も例外ではない。
そして魔弾の速度は――音速。
「今までより、ずっと遅いですよ!」
しかし、音速とはいっても先ほどの光速を越えた移動よりも遅い。音速であれば、オリヴィエにとっては対応可能な速度だ。彼女は近づいてきた魔弾を避けようと体を横に逸らし、紙一重で躱した――と思った刹那、その魔弾はまるで引かれ合う磁石のN極とS極のように、その弾道を急激に変えて、白と黒の軌跡を描きながら、オリヴィエの義手を正確無比に撃ち抜いた。
「きゃっ!?」
紙一重で躱したと思い込んでいたオリヴィエは驚き、可愛らしい悲鳴を上げる。そして驚いてしまったせいか、はたまた義手を粉々に破壊された衝撃からか、先ほどまでの加速の勢いが完全に死んでいた。これは健一にとってこの上ないチャンスだ。
健一はすぐさま二挺拳銃をその内に納めた。
「……その情報、本当なんだろうな。『相棒』」
独り言。それは、オリヴィエという少女を『失われた神眼(オーディンのまなこ)』で解析した結果に対しての聞き返しだった。頭の中には、彼の言葉に応えるように「はい」という言葉が浮かんでくる。
……ならば、使うのを惜しむまい。目的の場所まで後退した。そして、そこに落ちていた禍々しい魔剣(スウァフルラーメ)を拾う。
――曰く、オリヴィエこそが聖王と称される者だということ。彼女は幼い頃、両腕や主要臓器を欠損するような負傷を負ったらしい。健常者とも変わらない、あるいはそれ以上の健康さで生きている様に見えるのは、血筋と聖王核と呼ばれるものの恩恵なのだとか。そして、その恩恵が無くなってしまえば死ぬ可能性が高い。
「スウァフルラーメ、なぁ、テメエはそれを理不尽だと思わねぇか?」
近しい者からはともかく、彼女は心無い人からは「母の命と魂を奪い取って産まれた鬼子」などと、言われているらしい。
……そんな謂れのない風評被害、侮辱が、あっていいのか?
そして一番いけないのは、彼女自身がそういったことを少なからず気にしているということだ。
「俺はクソくらえと思うね。これまで必死に生きてきたヤツが、ある日突然に何の前触れも無く死んだり、殺されそうになったり、風評被害で疎まれたりするのは、な」
彼は魔剣に語りかけていた。それは、彼が魔剣の性質を解析し、知っているからの行動だった。『スウァフルラーメ』には意思が存在する。この魔剣を十全に扱うには、お互いが揺るがない鋼鉄の意志が必要なのだ。更に、その真の姿まで追求するのであれば……そこには純然なる誓いが必要になる。
「スウァフルラーメ、俺達は何のためにこの世界へとやってきた? 不幸を幸福に変えるためだろうが。理不尽を駆逐するためだろうが。俺はどうでも良い事にお前を振るう事はしねぇ。俺は誓う。お前の真の姿を、今回を入れてあと三度までしか振るわねえことを。代わりにテメエも誓え。俺がその力を必要とした時、必ず俺に、その真の姿で、余すことなく力を貸しやがれッ!!」
言葉を言い切った刹那、『スウァフルラーメ』が健一に応えた。その禍々しい漆黒の外装にヒビを入れ、今まさに、その真の姿を顕現させようとする。
「この一撃で断ち切るのは、聖王の『欠損』ッ!」
剣を振り上げる。その刹那、漆黒の外装が跡形も無く砕け散り、後に残ったのは――黄金色に輝く銀白の聖剣。
まるで先ほどまでの黒は、その真なる姿を隠す鞘であったかのようだった。
それほどに、聖剣は力強く、美しい。
「過去なんてものは関係ない! 今ここで断ち切り、後に繋げる。なぜ俺はテメエを改造しなかったと思う? それはその純粋こそが最強だと、初めから分かっていたからだ。だから終わらせるぞ。この理不尽な現実を、『欠損』を断ち切ることによってなァ!!」
そして今までの言霊こそが、その聖剣との聖約。それはどのような事があっても破ることは許されず、何よりも尊ばれる。美しき、黄金色の聖約。
「今回の代償は、今ある俺の全魔力ッ! たらふく食って、力を貸しやがれぇぇぇ!!」
そして言葉通り、健一は自分の余っていた全魔力を譲渡し、聖剣に集約する。いくら魔力量が少ないとはいえ、これまで節約して使ってきていた魔力だ。余っている分は、ほぼ全快の状態の全魔力量に近い。
だからこそ、きっと聖剣も答えてくれる。自分の戦う術全てを投げ渡して、ただ一振りの聖剣に全てを預け、信頼したのだから。
健一は聖王を見る。こちらを見て、何やらその瞳を大きく見開いているようだが……大方、この聖剣の輝きに目でも奪われているのだろうと考えた。
この状況は、二度と来ない。聖王が目の前数メートル先で静止して、『スウァフルラーメ』が自分に応えてくれた今の状況は、絶対に二度と来ない。
だからこそ、この一刀で、全てを決めてみせる。
「――――『黄金色の誓約(ティルヴィング)』――――ッ!!」
聖剣の本来の銘を力一杯呼び、そして振り下ろす。その瞬間に、何かが砕け割れる音が聞こえ、そして目の前が黄金色の輝きに染められた。オリヴィエも、きっとこの黄金色の中に居る。しかし、それで良い。
――『黄金色の誓約(ティルヴィング)』。その聖剣の一撃は、『決して斬れぬものはなく狙ったものは外さない』という概念魔術兵装を持つため、自らの一撃に劣る魔力で作られた世界の理を覆す、恐ろしい能力を秘めている。原点が所有者の願いを三度まで叶える、というものだけに、強く願いその聖剣を振るうと死者蘇生以外のあらゆる願いが叶うといっても過言ではない。
今回、健一はオリヴィエの『欠損』という概念のみを断ち切った。そうするとどうなるか? 結果だけを言えば、彼女から欠損部位が消え、あるべき形に戻る。つまり、彼女の両腕は再生し、かつ重要な臓器なども全てが復活するのだ。攻撃の余波も問題ない。聖剣は持ち主の思いをどこまでも汲み取ってくれる。彼女を傷つけるつもりは無かったため、怪我は無い筈だ。
「お疲れさん。次の出番まで休め」
確固たる手応えを得て、健一は真の姿を見せた純然なる聖剣を労ってから自分の内に納めた。これでもう、あちら(聖王)の方は心配ない筈だ。
今心配するべき問題は――
「はぁぁッ!」
「ぐっ!」
――後ろから迫ってきて、奇襲を仕掛けてきた、覇王クラウスだ。
こうなることは『失われた神眼(オーディンのまなこ)』の情報から事前に分かっていた。だからこそ、『雷光を打ち砕くもの(イルアン・グライベル)』を装着した方の腕で何とか防御出来たのだが……やはり、衝撃波殺し切れず痛い思いをする。
「ぐぅ、うぅぅ……! やっぱクラウス、お前絶対に泣かすッ!」
「ははっ、昨日のリベンジだよッ!」
そして今日も健一が激怒して、クラウスが怒りの対象になるのだが……今までマホウや能力に頼ってきた戦い方をしていたのもあり、健一はずば抜けた反射神経と動体視力以外には、自身のマホウと元から展開していたマホウ以外に武器が無い。
「てやぁッ!」
クラウスの追撃だ。その拳は鋭く、速く、そして重い。拳が狙うのは健一の腹部だ。この速度とタイミングなら、命中すると確信したクラウスの攻撃なのだが、しかし――。
「調子に――」
健一はまるでそれが分かり切っていたかのように……いや、実際に分かり切っていたがために、軽々とクラウスの渾身の一撃を避けてみせた。驚いたクラウスは隙だらけ。その顎目掛けて、健一は今、そのただの拳を力の限り突き上げる――!
「――乗ってんじゃねぇぇぇェェェ!」
それはつまり、健一の全身全霊のアッパーだった。踏込みの力はしっかりと拳に伝わっている。それ故に速く、鋭く、重い。クラウスは予想外故にまともに避ける事が出来ず、そのアッパーをものの見事に直撃してしまった。
「~~~ッ!?」
声にならない悲鳴を上げて、クラウスは宙を舞って地面に落ち、そして伏した。どうやら戦闘不能になったようだが、無理もない。クラウスは最初の攻撃で既に満身創痍だったのだから。
勝因は、自分の一番信頼しているマホウ……『失われた神眼(オーディンのまなこ)』にある。
敵の攻撃を事前に読み切り、次の一手、二手先、三手先までも読んだうえで、随時その読みを自らの主に伝える。魔力消費をしないこのマホウは、それ故に自分をどんな場合でも裏切らない。魔力が切れた時の、最終手段。それが健一の誇る最強の武器(マホウ)だ。
「はぁ……終わった」
やはり、三人ともとんでもない実力者だと改めて思う。あの奇襲にも近い形の『スウァフルラーメ』の斬撃を二度も、直感的に避けた、または防御したこと。『エッケザックス』での怒涛の攻撃を受けて力尽きたものの、重傷を全く負わなかったこと。そしてどの攻撃にも最も上手く対応していたオリヴィエは、もはや凄いとしか言えない。
「まだ終わっていませんよッ!」
――えっ? 聞こえる筈の無い声が聞こえ、その刹那に納得した。「あぁ、そういえば概念断ち切っただけで、肉体的ダメージ皆無だったな」と。
だからこそ理解した。もう自分の敗北は確定したなぁ、と。
しかし、悔いは無い。
――概念はより強い概念によって上書きされる。そんな世界の理があるように、おそらくあの時残っていた自分の全魔力を使わなければ、オリヴィエの『欠損』の概念を断ち切れなかっただろう。
だからこそ、全ての魔力を使った事を悔やんだりはしない。
まぁ、敗北が確定した、魔力が無いからといって――
「――負けるつもりは毛頭ないッ!」
健一の諦めの悪さは良い意味で異常だった。
『失われた神眼(オーディンのまなこ)』より受け取った情報を全て読み取り、そこからは反射神経だけで体を動かす。目の前に拳を突き出し、右に重心を傾けて相手の拳を避け、左の拳をまた突出し、されど避けられるから今度はバックステップで相手の拳を避ける。
ここで一度一呼吸置こうと思ったが、相手はそれを許してくれるほど甘くない。すぐに加速、追撃され、その綺麗な金色の髪を靡かせながら、拳を一発、健一の胸へと叩き込む。
――俺の反応速度も、まだまだなのかなぁ……。
『失われた神眼(オーディンのまなこ)』の読みは完璧だった。しかし、それを生かすだけの技量が自分には無く、結局予想出来ていた攻撃を避け着る事が出来ず――というか直撃して――健一は宙を舞い……ドサリッ、と地面に叩きつけられ、最後には地面に伏した。
しかし、それでも……。
「ングッ! ガハッ! はぁ、はぁ……息が詰まりかけたぞ。……オリヴィエ、とりあえず痛かったから、覚悟は出来ているんだろうなぁ!?」
怒りのボルテージを力に変えて、立ち上がる。健一も途中で寄り道はしてしまったが、負けられない理由があるのだ。だからこそ、何度だって立ち上がる。
「はい! 両腕のリハビリ、責任を持って付き合ってくださいね!」
しかし、怒りを向けられたオリヴィエは、むしろ嬉しそうに太陽のような笑顔を浮かべて構えを取る。その体に傷などはなく、おそらくダメージは負っていない。
「上等だ……どこまでも付き合ってやるよ。俺は負けず嫌いだからなぁぁぁ!」
咆哮で自分を鼓舞し、気合でオリヴィエへと立ち向かう。オリヴィエはその闘いを終始、心底楽しそうに笑顔で健一をいなしていた。その余裕をどうにか崩そうと躍起になる健一だが、魔力が無くなった健一が彼女に対して勝てるものは『読み』だけで、それも反射神経がついていかないものだから……。
しかし、それでも彼と彼女の一対一の闘いは壮絶なものだった。健一は拳とレガースを纏った脚での攻撃を鋭く、速く、的確に繰り出していた。隙を的確に突いて攻撃もした。普通の武芸者なら、健一も負ける事は無かったのだろうが……オリヴィエはその普通の位置には立っていなかった、とだけ記述しておこう。
――今日の試合時間、三時間五十四分二十二秒。
よくもまぁ、健一は読みと気力のみでここまでやったものだと、誰もが思った。
結果なのだが……それは火を見るよりも明らかで。
――この親善試合は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの勝利となった。
追記しておくと、彼女が勝利した時に浮かべた、今までで一番明るい笑顔を、きっと誰もが忘れることはないだろう。
『黄金色の誓約(ティルヴィング)』もう一回目使っちゃいました! 不味い、実質あと一回しか使えないではないか……。
などと焦りを感じたが、後悔も反省も全くしていない作者です、はい!
今回は結構本気の三対一の戦いでした。描写不足などを補っていたら結構遅くなり、更に文字数も13000越え……。更新少し遅れてしまい申し訳ない。
さてさて、やっぱり今回もキレちゃった健一君でした。痛み感じるとキレちゃうのは子ども故の感情ということです。歳を重ねれば、これも改善されていきます(最後オリヴィエにキレたのは自分を奮い立たせるためです)。
ちなみに健一はオリヴィエが聖王だから、理不尽な目にあっているからの二つがあったからこそ『黄金色の誓約(ティルヴィング)』まで使いました。聖王、という条件付きがなければ何もしませんでした。さすがにたった二度、三度目は死んじゃう能力ですからね……。バンバン使えないんです。
さてさて、次はどんな展開になっていくのか。それはまた次話お会いしてからということで。
それでは、批判、ご指摘、感想、評価、お気に入り登録など、大量に募集しています! 批判であってもご指摘であっても(節度ある)辛口でかまいません(特に文章力、文章表現力の批判募集です。またそれ以外でも募集中)。作者のレベルアップのため、是非お付き合いお願い出来ればなと思います。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございます! 次話にもご期待していただけるとありがたいです。それでは、また次話でッ!