この理不尽な世界に一筋の光を   作:ウサウサギ

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 UA数1400突破! お気に入り数15件。感想など新しく3件。皆様のご愛読、お声、その他諸々を本当にありがとうございます! これでまだまだ書いていく気力が尽きませぬ!(ここまで執筆出来ているのは本当にご愛読者様方のおかげです)。

 さてさて、今回はシリアス(?)な甘い空気があります(ツッコミは無しで)。

 それでは、本編の方をどうぞ!


第六話 試合後の休息

 ――親善試合の次の日。

 健一はシュトゥラの王に呼ばれて、朝早くから謁見の間に居た。

 

「ケンイチ殿、先の戦い、大変見事であったぞ! 正直、これを敗北にするのは惜しい、と思うくらいに。兵たちの士気も軒並みに高上した。そしてオリヴィエ嬢の欠損も完治させたとな!」

 

「いえ、そうは言っても敗北は事実です。どれだけ素晴らしい理由や思想があっても、戦場では負ければ全てが終了します。勝てば官軍、負ければ賊軍。俺はその賊軍です。賭けに負けたとして一つ、何なりとご命令をしてください」

 

 今日の健一は妙に潔い。彼の人格を一番よく知っている、謁見の間の玉座の隣の席に座っているクラウスにとって、それは何とも気持ちの悪い光景だったといえる。

 

 一方、健一の内心はと言えば、「早くこの場から解放されて二度寝したい」の一言に尽きる。外面ではとても礼儀正しいが、内心は無礼千万といっても過言ではない。

 ――ちなみに、先ほどの言葉を健一の本来の言葉に要約するのであれば、「称賛とかどうでもいいから、早く命令して二度寝させろや」となる。やはり無礼極まりないが、ある意味それこそが健一らしさといえる。

 

「いや、それは私からはしないことにした。その権利を、ある人物に譲渡したのだ。だから、その人物から――つまりオリヴィエ嬢から命令を受けると良い。それと、私は今回の敗北は敗北ではないと本当に思っている。だからこそ、ガレアには支援物資を送り、また聖王連合への加入を手助けしようと思う。どうだね?」

 

「お心遣いと配慮の方、痛み入ります」

 

 謁見の間で先ほどから跪いていた健一が頭を垂れる。とはいっても、それもやはり形式だけ。そして頭を垂れて王から顔が見えなくなった瞬間に、健一が欠伸を噛み殺していたのをクラウスは見逃さない。

 

 シュトゥラの王の方はというと……どうやら、気づいていない様だ。健一の答えに満足そうに頷いていることから、それが分かる。

 

「……ちなみに、ケンイチ殿よ。貴殿には婚約者などは居たりするのか?」

 

「……? 居るわけがないでしょう。大体、こんな平々凡々、自己中心的な男に誰が好き好んで嫁ぐというのやら……」

 

「自覚はあったんだな」

 

「クラウス、お前今度は『エッケザックス』に叩き潰されてみるか? アァ?」

 

「事実だろう?」

 

「――ちッ」

 

 適当に卑下して――というか自分で思っていることを率直に言って――みせた健一にクラウスが茶々を入れて、健一が若干怒りを露わにする。きっと王が目の前に居なければ、どことも構わず『エッケザックス』を取り出して感情のままに一度は振るっていただろう。しかし、事実だと突き付けられてしまえば、健一も自分で言った手前、返す言葉が無い。正当性が失われる。そのため、ここは大人しく引き下がることにした。

 

「はははっ。仲が良くて何よりだ」

 

 そんな剣呑な雰囲気を見せても、王は特に気にした風も無く笑っている。鈍感なのか、それとも寛大で器が大きいのか……クラウスと健一は思う。シュトゥラの王はその後者だと。

 

「しかし、貴殿ほどの者にまだ誰も手を着けていないとは……ふむ」

 

 シュトゥラの王が何やら考え始めた。それを見て、いっそのこともうこのまま居眠りしてしまってもいいのではないだろうか、と考え始める健一。しかし、やはり王との謁見中にそれは不味いと思い、考えを改める。

 

「――ならば、我が娘と婚約してみる気はないか?」

 

「なっ――!?」

 

「お断りします。何が悲しくてそんな面倒なことを……」

 

 クラウスが何やら驚いていたようだが、大方妹が勝手に婚約されそうになっているので、シスコン魂に火がついたとかその辺りなのだろう。今はどうでも良い。妹居るかは知らないけど。

 それよりも問題なのは、何やら政略結婚臭いことをさせられそうになっていることだ。そんなことをされれば、主に自分が困る。自分のための時間が取れないとか、自由に動けないとかいう点に関して。

 

「あと、俺はあくまでイクスヴェリアの家臣です。それ以上でもなければそれ以下でもない。自分の主に命令されれば確かに考えないでもないですけど、それまでは考えるつもりはありません。――というか、ふざけた冗談はやめてください。それともう一つ。……アンタ十歳のガキに何を求めているんですか?」

 

 健一の言葉が最後の最後に少しだけ綻びを見せた。それは呆れからくるものなのか、あるいは疲れからなのか……。

 

「……はっはっは! 確かに、そうであったな。いやはや、忘れておった。そなた、まだ十歳であったのだな。妙に大人びておるから、忘れていた」

 

「これはマホウの後遺症のようなものですから、気にしないでください。あと、もう部屋に戻って良いですか? そろそろ二度寝したいんですけど……」

 

 そしてとうとう、隠すつもりが無いのか本音を吐いた。それも理由が最低すぎる。一体この男、どこまで無礼を働く気なのか……と思ったのは、何も謁見の間に集まっている中の数人だけではないはずだ。

 

「部屋に戻りたい理由が二度寝、ときたか」

 

「事実ですから」

 

「よし、ならば今日の謁見はここまでにしよう。今は英気を養う時期であるからな。しっかりと、二日後の作戦開始までには、体調を万全にしておくのだぞ」

 

「はい。それでは、失礼します。――ふぁ……」

 

 ――この時、全員が思った。退出する直前なのに、その欠伸は退出するまで我慢出来なかったのか、と。

 

 微妙な視線が刺さるも、健一は気にした様子もなくそのまま退出した。どうやら、彼の中では王からの話が終わった時点で謁見が終了しているようだ。相変わらず、掴みどころの分からない少年だ。

 

 一方、問題の健一は……本当に、客室で二度寝をしてしまったのだった――。

 

 

 ◆

 

 

 ――健一、危険だよ。早く逃げて。

 

 ……また、この夢だ。あの女性の声だ。

 目の前には何も無い。ただ闇ばかりが広がっている。

 

 ――早く目覚めて。危険人物が迫ってる!

 

 危険人物? 有り得ない。あのぶっ壊れた爺さんならともかく、《召喚せし者(マホウツカイ)》は同じ《召喚せし者(マホウツカイ)》にしか殺せない。ならば、何も危険な事は無い筈なのだが……。

 

 ――早く! もう部屋に……あぁッ!? 膝枕! 健一に膝枕したんだよ!?

 

 ……お前本当に何なんだよ。意味が分からん。夢の中の架空の存在なのか? それとも、実在する存在なのか?

 

 ――そんなことより、早く目覚めてッ! あぁッ! 今度は健一の髪を梳ってる!?

 

 とりあえず、マジで睡眠妨害止めろ。肉体的に休まっても、精神的な疲れが取れないだろうが。問答する気が無いなら、本当に黙っておけ。

 

 ――え、ちょ、健一ッ!?

 

 それ以後、健一は女性の声に一切耳を傾けることなく静かに眠りを堪能した。――雑音が何度も聞こえたので、決して快眠とはいえないが。

 

 ――うぅ……放置なんて、酷いんだよ。

 

 最後の最後、目が覚める瞬間に何か恨めしそうな声が聞こえてきたが、健一はそれすらも無視して、夢の世界から出ていくのだった。

 

 

 ◆

 

 

 目が覚めてから最初に目に入ったのは、少女の顔だった。年齢相応の幼さに、子どもとは思えない可憐さ、そして眩しいくらいの笑顔、翠と紅の瞳が特徴的な彼女は今、造形美すら卓越してしまい、人間にしかない美しさ、可愛らしさをみせていた。

 

 しかしそのアングルがおかしい。どうして少女の顔が真上にあるのだろうか。加えて、どうして彼女の体がこんなにも近いのか。とりあえず、聞いてみるのが一番だろう。

 

「……オリヴィエ、何をしているんだ?」

 

「膝枕です」

 

 即答された。悪びれる様子さえもない。どうやら、膝枕をすることが「善行」だと思っているらしい。実際に寝心地は上質な枕よりも良いので、健一にとってとても気分の良い目醒めとなったのだが……問題は別の所にある

 

「こういうのは、俺みたいな平々凡々の教養のなっていないクソガキにするんじゃなくて、将来夫となるヤツにするもんだろ」

 

 我ながらものすごく冷静な言葉が出てきたものだが、これも『失われた神眼(オーディンのまなこ)』の後遺症のようなものだ。とても十歳とは思えないとか、今更無しにしてもらいたい。

 

「私達三人を相手に、互角に戦った方が平々凡々なんて……他の方が聞いたら、嫌味に聞こえますよ?」

 

「ほっとけ。大体、俺の力はある一つを核にして、それ以外全ては紛い物だ。俺本来の力は、反射神経と動体視力、未来予想くらいだよ」

 

「使える力は、全て自分の力ですよ。戦場において、それこそが絶対の真実です。使えない力であればともかく、あなたは十全にその力を振るっています。だから自分の力と言って問題ありません」

 

「……そうかよ」

 

 少し前のことを思い出した。そう言えば、ガルシアもそんなことを言っていたな、と。

 

「それと、最後のことも問題ありません。私はあなたのことが好きですから」

 

「……自分で言うのも悲しくなるけど、どこが良いんだ?」

 

 オリヴィエからの真っ直ぐな好意。それは友達としての好意なのか、それとも異性としての好意なのか……。今はまだお互いに十歳ということを考慮して、それは友達としての好意なのだろうと予想する。しかしそれにしたって、普通このような男と友達になりたいだろうか? と健一は思う。つまり、好意の理由が全く分からなかった。

 

「俺は言葉遣いが汚い。子どものようにすぐに激怒する。感情のままに武器を振るう。そして自己中心的でかつ不真面目。武術だってそれほど得意じゃない。甲斐性だってありゃしない。――俺が女だったら、こんなダメ人間はまず願い下げだね」

 

「ふふっ、確かにそうかもしれませんね」

 

「……ますます意味が分からん」

 

 違います、とか否定されるのかと思ってみれば、肯定されてしまった。それを肯定しているにも関わらず、どうして自分という存在がいいのか。ますます訳がわからなくなった健一は、お手上げだと言わんばかりに溜息を吐いた。

 

「でも、私は知っていますよ。その中にある欠片ほどの優しさを。その証拠に、負けられない筈の親善試合に負けるリスクを背負ってまで、私の欠損を完治してくれました」

 

「それは違うな。それはお前が『聖王』だからに他ならない。他の誰かだったら、誰が実質二回しか使えず、三度目に使えば自分が死ぬ切り札を使うものか」

 

「でも、他に助ける手段があれば……『聖王』でなくても、助けましたよね?」

 

「……買い被りだな」

 

 真実をいってもオリヴィエは引き下がらない。それどころか、語調がどうしてか強くなった気がした。一体何が彼女をそこまで動かすのか。

 そして健一は、『聖王』でなくても他の手段があれば助けたか、という質問に明確に応える事が出来なかった。それは、理不尽を許せない自分が強く心の中にあるせいだった。

 

「あと、あなたが負けず嫌いなのを知っています」

 

「――それは美徳か?」

 

 本来すぐにでも終わる試合を、四時間近くにまで延長させた諦めの悪さは、正直なところ「しつこい」という言葉がしっくりくると思う。健一にとって、それは女性にとってマイナスポイントではないかと考える。

 

「はい。戦場ではその胆力が何よりの武器になります」

 

「蛮勇になるための材料でもあるけどな」

 

「そうとも言いますね」

 

 ――クスッ、とオリヴィエは小さく微笑んだ。その笑顔は相変わらず健一には眩し過ぎた。どうしてこの太陽が、自分みたいな闇を照らそうとするのか、理解に苦しんだ。

 

「でも、あなたのそれは、むしろ英雄になるための材料になっています。大切なものを守るために、絶対に退かない。私は素敵だと思います」

 

「だったら、嘘でも負けてくれていいだろうに……」

 

「それは武人としてダメです。それに、あなたは本当のところそれを望んでいませんよね?」

 

「…………」

 

 まるで心の中を見透かされている様だ。居心地が悪い。素直にそう感じる。どうして、彼女は自分にここまで執着するのか。そんなことを思っているのに、どこか「それも良い」と思っている自分が居る。もう訳がわからない。

 

「あとは……あなたの熱意に、とても惹かれました」

 

「……熱意? 悪いが、そんなものを持ったことは――」

 

「剣に熱く語りかけていましたよね。それも必死に、まるで全てを擲つ覚悟を誓うように。自分を言葉で奮い立たせ、力を振り絞っていました。これは、私に向かってきた時もそうでした」

 

「…………降参だ。今の今まですっ呆けてこれ以上話されたくない、と暗に言っている相手に対して、よくもまぁ、そこまで土足で踏み込んでくるよな」

 

 これ以上会話しても自分が不利になる。直感でそれが分かった健一は、自らの負けを認めながらもオリヴィエに対して皮肉を言う。それは恥ずかしい気持ちを隠すための蓑なのか、それとも単純な拒絶の言葉なのか……オリヴィエには分かっていた。

 

「ふふっ、本当に負けず嫌いですね。それと今の言葉、ただの照れ隠しだと丸分かりです」

 

 そして健一は悟った。オリヴィエに対して、今の自分が何を言おうとも通じないと。今の自分がどんな言葉で取繕おうとも、彼女は絶対に突放せないだろうと。

 

「はぁ……お前、俺を弄ってそんなに楽しいか?」

 

「どうでしょう?」

 

 質問に質問で返された。それも、天然というわけではなく、絶対に狙ってやっている。本当に、口でも武術でも勝てないなんて情けないなと、健一が男としてそう思ってしまうのは仕方のないことだった。

 

「もういい。とりあえずもう一眠りするから、昼飯時にでも起こしてくれ」

 

「はい。でも、ご飯を食べた後はまた両手のリハビリに付き合ってくださいね!」

 

「うげ……」

 

 しまった、と健一が初めて表情を歪めた。親善試合の時に、「どこまでも付き合ってやるよ」と言ってしまっていた。そんなことを言ってしまったために、断ることが出来なくなってしまった。

 

「はぁ……お前、良い性格しているよ」

 

「お褒めに預かり光栄です!」

 

 本当に、口だと絶対に勝てない。だけど、その太陽のような笑顔を見る事が出来るのならこんな関係もいいかな、などと半ば現実逃避しながら……健一はそれから昼食の時までずっと、彼女に膝枕をしてもらって仮眠をとるのだった。

 

 ――余談だが、彼がオリヴィエと話している間、ずっと膝枕をしてもらっていたのは、覗き見していた侍女の口から一気にシュトゥラの城の中全域に広がったのだった。

 

 

 




 今回はほとんどオリヴィエ回でした! はい、少し短いですが大体こんな感じだと思います。

 さてさて、次回はいよいよガレアとシュトゥラの間にある国との戦争です。これをしっかりと描写するのは大変ではありますが、ここが自分の腕の見せ所。しっかりと描写し、皆様の満足のいく話にしてみせます!

 今までの傾向から分かると思いますが、大抵戦闘描写が入ると話が長くなり、日常オンリーになると話が短くなります。というわけで、今回は少し短かったわけです(日常をダラダラと続けるのは決まりが悪いですし)。
 こんな感じで、これからも話を書き続けていこうと思います。

 それでは、今回はこれで。批判、ご指摘、感想、コメント、ご意見、評価、お気に入り登録など随時募集しています! 批判とご指摘は節度ある(つまり暴言にならない程度)でお願いいたします。
 では、次話か感想の場所でお会いしましょう。ここまで読んでいただき、読者の皆様には最大限の感謝を。そしてこれからも、ご愛読の方をよろしくお願いできたらと思います。
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