この理不尽な世界に一筋の光を   作:ウサウサギ

8 / 19
 UA数1900突破! お気に入り19件、感想3件、本当にありがとうございます!

 さてさて、今回なのですが……ごめんなさい。二次創作者の頭が執筆中にショートしました。もしかしたら所々、意味不明な部分や文章としておかしい部分、誤字脱字があるかもしれません。その時は、普通にメッセージや感想ついでにご指摘を頂ければとおもいます。

 何せ今回、18000文字越えという異例の長さ。長すぎて頭の中ショートしてしまいました。

 では、前置きはここまで。本編をどうぞ。


第七話 断ち切られた運命 そして覚醒

 ――とうとう、この日が来た。

 ガレアからシュトゥラへと赴いた本来の目的を達成する時が来たのだ。

 

 それは、ガレアとシュトゥラの間にある国との戦争に参戦し、その国に勝つこと。

 作戦は至ってシンプル。物量作戦だった。ただし、ただぶつけるだけではない。波状攻撃を行う様だ。これにより、自軍の疲弊と指揮を落とさない様にするのだとか。

 

 シュトゥラの王によれば、この戦争は最高でも一月、最低で二週間は続くだろうということらしい。

 

 ちなみに、この作戦で健一は『シュトゥラの作戦を邪魔しない範囲』で自由行動を許されている。また、この作戦期間中のみに限定して、健一はシュトゥラの騎兵を二百ほど預かっていた。正直なところ、指揮をしたことがない健一にとってそれは不安極まりないことだったのだが……どうやら、指揮はその隊の副隊長がしてくれるとのこと。そして、個人ではなく部隊単位で動く場合は、一度王の下へ赴き行動内容を伝え、許可を取らなければならない。いろいろと制限は多いが、国と国との集団戦ならば、これくらいが普通なのだろう。むしろ、他国からの援軍(たった一人)にしては破格の対応に思える。健一はこれといってシュトゥラの王の出した条件に不満は無かった。

 

 ――そして今、健一はその二百の騎兵の前で挨拶をしているところだった。

 

「あ~、今回の戦だけに限りこの部隊の隊長をすることになった神崎健一だ。俺は指揮をしたことがないから、そのあたりは全て副隊長に任せている。指示はこちらで副隊長を介して伝えるだろう。だから、お前達はただ副隊長の命令に従って動けばいい。短い間だが、これも何かの縁だ。よろしく頼む」

 

 とりあえず、隊長らしい挨拶をした。すると、やはりというべきか騎兵たちがざわついた。

 

「流石、オリヴィエ様の婿候補……!」

 

「王にも平気で無礼を働く恐れ知らずのガレアの魔獣!」

 

「そして失ったオリヴィエ様の両腕と臓器全てを普通の人間と変わりない状態にまで治した、奇跡の担い手!」

 

「わずか十歳とは思えない戦闘能力に、その奇抜な戦い方!」

 

「そして勝ち目がないと分かっていながらも四時間近く耐えた親善試合での諦めの悪さ!」

 

『そこに痺れる憧れるぅッ~!』

 

 とりあえず、シュトゥラの王が不良品を寄越したのではないだろうかと一番に疑った。統率力は確かに高いかもしれないが……どうしてこうなった? テンションがもはや崩壊している。こんな部隊を寄越して、一体あの王様は何がしたいのか理解に苦しんだ。

 

「――『高次領域展開・魔術兵装(セカンドアクセス・ゲート・オープン)』――ッ!」

 

 しかし、そんなことに構っている暇など今は無い。『失われた神眼(オーディンのまなこ)』とバンダナ、グローブ、ガントレットの三点セット(以後『疾風迅雷(タービュランス)セット』と明記)を展開し、部隊の指示へと移る。

 

「全員、お喋りはいいから今すぐ出撃の準備をしろ! 俺は王に出撃許可を取ってくる。俺が帰還するまでには、出撃準備を整えておけ!」

 

『えぇッ!?』

 

「……文句あるのか?」

 

「いえ、その……やっぱり何でもありません」

 

 二百人の中の一人がみんなの意見を代弁しようとしたが、健一に睨まれてそれも失敗に終わる。騎兵一同が揃えて不満の声を上げていたが、別に騎兵たちは職務に不真面目なわけではない。原因は、実は全て健一にある。具体的に言えば、健一が光速で移動できる(周知の事実)というところ。そして、王との話を一番手っ取り早く終わらせられるところだ。

 

 ――つまり、行って帰ってくるまでの時間が恐ろしく短いのだ。普通の将ならば三十分から一時間はあるその時間が、健一の場合はわずか三分から五分そこらで帰ってくる。その間に、騎兵たちは武器の用意と馬の用意、そして防具一式を着用し、隊列を組まなければならない。それを全てで三分から五分以内にやれとは……一体、何の罰なのかと聞きたくなる。

 

「なら、頼んだぞ。――『疾風迅雷(タービュランス)』――ッ!」

 

 いつも通り髪の色が黒から金色へと変質し、そして雷鳴を轟かせながら健一は王の方へと真っ直ぐに向かって行ってしまった。

 

「……全員、急げッ! あの人がやれって言って出来なかったら冗談じゃ済まねえ! 俺は昨日見たんだ。命令を完遂出来なかったヤツが、あの巨大なバトルアックスで沈められるところを!」

 

「げっ!? マジかよ。とにかくA班からC班は馬の用意をしろ! それ以外は全員、武器と防具をありったけ外に出しておけ! 出来なかったヤツには隊長からの『ミンチの刑』が待っているぞ!」

 

 余談だが、この時から健一の命令を完遂出来なかった隊員への罰――『エッケザックス』の使用による一方的な嬲り――のことは、『ミンチの刑』と呼ばれることになった。これは後に、もはや常用語と大差ないほどよく出てくる単語になるのだが、今はまだ関係の無い話。

 

 そしてその騎兵の駐屯所は、戦場に出ていないにも関わらず阿鼻叫喚に包まれることになったのだった――。

 

 

 ◆

 

 

 ――森の中に潜む影があった。数は二百ばかり。全てが騎兵だ。

 戦場からさほど離れていないそこでは、森の音を聞いて癒される、などといったことが出来ない。しかし、敵方を奇襲するために隠れる場所としては最も適した場所であることに変わりは無い。影たちは、今か今かと攻め入る好機を狙っている。

 

「いいか? さっきも説明した通り、俺が最初に一発デカイのを叩き込むから、全員その攻撃をなぞる様にして敵を適当に蹂躙していけ。ただし、深追いはせずに、ただ敵軍を突っ切るだけでいい。俺達は練度だけは高いかもしれないが、数が圧倒的に少ない。だからこその奇襲と錯乱だ。俺に追いつけとは言わないが、他の奴に遅れるな。遅れたら死ぬと思え。――というか、遅れて死んでしまっても、遅れて生きていても後で『エッケザックス』を叩き込むから覚悟しておけ。つまり、お前達が生き残るには遅れることなくあの大群の中を突っ切るだけだ。実にシンプルで簡単だろう?」

 

 横暴だ! などとは言わない。そんなことを言えば、今この場で『ミンチの刑』に処されるからだ。誰だって、死にたくないのは一緒なのだ。そして人としてミンチにもなりたくない。

 

「さて、下準備をしておくか」

 

 そう言って、隊長らしき人物の小さい影が闇の中で動く。

 その手に二丁拳銃を持ち、引き金を引きまくる。それも銃口は戦場となっている場所の真上に向けて、だ。

 発砲音はほとんど気にならない。何故なら、すぐ目の前――五十メートル先――で行われている戦の音に掻き消されているからだ。

 

「……よし、これで良い」

 

 意外と魔力を消費したな、とは思ってもそれも想定の範囲内。彼は次の武器をその内から取り出す。今度は自分の周囲で宙に浮いて待機する六百六十六のナイフだ。それが一体どこから取り出されているのか、本人以外は誰も知らない。

 

 実は彼の周囲に浮いているのは、なにも六百六十六のナイフだけではない。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、の七色の人の頭ほどの鋭角なクリスタル。それは『グリモワール』と呼ばれる小型魔導砲だった。これの特殊能力は、各魔導砲によって傷をつけられると、一つ感覚を失う、というものだった。

 赤の光線を放つ魔導砲は名を『superbia(ルシファー)』、奪う感覚は嗅覚。橙の名は『invidia(レヴィアタン)』、奪う感覚は固有感覚。黄の名は『ira(サタン)』、その攻撃は視覚を奪う。緑の名は『acedia(ベルフェゴール)』、それは聴覚を奪う。青の名は『avaritia(マモン)』、触覚を奪う。藍の名は『gula(ベルゼブブ)』、味覚を奪う。紫の名は『luxuria(アスモデウス)』、痛覚を奪う。

 

 また、その魔導砲の一発はどれもが強力。ただの人であれば、一発受けただけでも致命傷。速度は光速。よくその攻撃の初動と狙う位置を見ていなければ、避けられる訳の無い光線は、戦場においてこれ以上にないほどの武器になる。

 

「さて、と」

 

 そろそろ頃合いか。そう思い、彼は二丁拳銃を腰のベルトに引っ掛けて、両手を自由に使えるようにする。

 

「全員、今より出撃する! 敵の横っ腹を盛大に穿て!」

 

 そして聞こえたのは、やっと戦場に出る事が出来る喜びの雄叫びと、先行した隊長の体から発せられる雷鳴だ。

 騎兵隊は森から一斉にその姿を現した。そしてその時には、既に隊長の姿は敵軍の横っ腹すぐ目の前に居た。

 

「『総てを射抜く雷光(トールハンマー)』――――ッ!」

 

 そしてその隊長から容赦なく、シュトゥラを相手に戦っていた兵士に向けて、全力の神話魔術を放たれた。

 

 ――雷神の咆哮は一瞬だけ戦場から音を消した。それはあまりの轟音から音が消えたと人が錯覚してしまったに過ぎない。

 ――目の前に見えるのは、ただただ光の渦。あの大群の半分以上を丸呑みし、それでも尚唸りを上げる雷神の一撃。

 ――それでも騎兵は止まらない。何故か。止まったらあの雷神から『ミンチの刑』を処されるからだ。どんなことがあっても、馬を止める事は許されない。馬は人間が思っている以上に頭が良い生き物だ。逆らっちゃいけない相手ぐらい、判別はつく。そしてこの馬たちも例外なく『ミンチの刑』に処される可能性がある。だからこそ、馬は錯乱もしなければ止まりもしない。今目の前にある恐怖より、ここで醜態を晒した後にくる処刑の方が怖いから。馬は何があろうとも、絶対に止まらない――!

 

『うぉぉぉおおおオオオ!』

 

 騎兵全員が雄叫びを上げた。彼らは思ったのだ。やはり、この人に付いてきて正解だったと。その雷神の一撃を見ただけでそう確信した。

 騎兵たちの思わぬ士気向上に、隊長――神崎健一――の口元が吊り上る。そしてその笑みを見た騎兵たちは、またしても雄叫びを上げた。

 

 ――この二百の騎兵について、一つ話しておかなければならないことがある。

 これらは実は全員、シュトゥラの王から命令されて健一に配属させられた部隊ではない。彼らはあの親善試合を見て、そして健一が戦争に出ると知った上で、王に申し入れたのだ。神崎健一と共に戦場を駆けさせてほしい、と。申し出てきたのはシュトゥラの中でもより選りの騎兵たちだった。元々仁義に厚く、情に深い彼らだ。健一の親善試合に惹かれるのも、無理はない。シュトゥラの王はこれを許可した。それは健一の指揮能力を見たいという思いが半分、そして彼らが健一の下でどれだけの能力を発揮できるか見たい、というのが半分の思いから出たものだった。

 

 これは健一のあずかり知らぬことだが、シュトゥラにおいて健一の名前は良い意味でも悪い意味でも広がっていた。

 

 ――曰く、聖王様を完治させた奇跡の担い手として。

 ――曰く、王にすら不遜な態度をとる恐れ知らずとして。

 ――曰く、どんな得物をも扱い、最後まで諦めることを知らない気高き武人として。

 

 噂はすぐに拡散していく。そしてそれは収まるところ知らない故に、健一の名前を知らない者は、今のシュトゥラの中央部には居ないだろう。それくらいに、あの親善試合のアピールは効果があったのだ。

 そんな彼と共に、一度は戦場を共にしてみたいと言うのは、むしろ兵士としては当然の反応だったのかもしれない。彼らは皆、健一の人柄に惹かれたのだ。そしてこの戦場を共にした騎兵たちは、それが自分たちの勘違いではないと確信した。

 

 死ぬ、もしくは他の騎兵から遅れたら『ミンチの刑』を処す、などと言っているが、それは裏を返せば『死人を出すな』という優しさの表れだ。それの後押しとして、健一は『死の上をいく恐怖』を提示したに過ぎない。そして騎兵たちも、それが跨る馬にすらも、その効果はてきめん。だからこそ、彼らは勘違いでないと確信したのだ。

 

 ――もはや彼らに、恐れるものは『ミンチの刑』以外に何も無い。

 

 騎兵たちは思う。あの身の丈の三倍は優に超えているバトルアックスで潰されれば、全治一ヵ月は免れないだろうと。最悪、本当にミンチになって死ぬだろうと。人間として、そんな死に方は絶対に嫌だ。死んでも『ミンチの刑』は処されるのだから、絶対に死ぬわけにはいかない。誰が家族にミンチになった自分の姿をみせられようか。

 

「全員、ミンチになりたくなきゃぁ死ぬ気で突っ切れぇぇぇえええッ!!」

 

 接敵残り二十メートルといったところで、副隊長から必死の形相で号令が掛かった。兵(ツワモノ)たちの答えは決まっている。戦場で咆哮を上げて、ただ突撃するのみ。それらはたった二百しか居ないにも関わらず、戦場を震撼させた。その気迫に敵兵の腰が引け、自軍は呼応するようにして咆哮し士気が向上する。

 

 ――戦場において、もっとも大切なものは士気だ。やる気がなければ、どれだけ兵を集めようが、やる気のある相手に勝利を掴むことは出来ない。死人のような兵を扱って勝てる戦など存在しない。だからこそ、将は兵の士気に気を遣わなければならない。

 

 今回の戦の場合、その士気はシュトゥラの方に圧倒的な軍配が上がる――!

 

「走れ騎兵! ぶち抜いた横っ腹を抉りながら駆け抜けろ!」

 

 隊長からの号令が、騎兵に掛かる。それは更なる士気の向上をもたらし、戦場の音が全て、たった二百の騎兵の雄叫びに包まれた。

 隊長である健一は常に先駆者でなければならない。騎兵にとって、勢いこそが命。だからこそ、先頭に立ち、最も速く駆け抜ける義務がそこにはある!

 

「無駄無駄無駄ァァァ!」

 

 奇声にも近い声を上げながら、健一は雷光をぶち込んだラインをなぞる様に光速で駆け抜け、置き土産とばかりに周囲の敵兵を屠っていく。ナイフを敵の頭めがけて飛ばし、時に二丁の拳銃を使って頭を吹き飛ばし、胴体に風穴をあけ、更には七色の光線が戦場を閃く。これを光速で移動している中でやっているのだから性質が悪い。相手は自分を殺した者を視認できないまま死んでいく。後ろについてくる騎兵も、馬を走らせながらついでと言わんばかりに正面、横に居る敵兵に槍を突き出して屠っていく。その間も、馬の速度は決して落したりはしない。速度を落とせばミンチになるからだ。

 

「よっし! 騎兵ども、今から地獄を駆け抜けろッ!」

 

 そして自分たちの隊長のこの声が聞こえた瞬間、突撃した騎兵の誰もが馬の腹を蹴り全速力で駆け抜けさせた。彼らは声を認識するという刹那の時で分かったのだ。このままの速度だと、絶対に地獄を見ると。

 自分の部隊の全員が速度を上げたのを見て、健一は満足そうに頷き、その顔に獰猛な笑みを浮かべた。

 

 その瞬間、健一の体から白銀と漆黒の魔力が渦を巻くように奔流する。それを見た騎兵たちは確信した。絶対によからぬことが起こる、と。そして誰もが思った。これだけハッキリと渦巻く魔力を操る彼一体、どれだけ優秀な魔導師なのかと。

 

「上を向け、シュトゥラに仇なす兵(ツワモノ)共よ!」

 

 健一の言葉に、反射的に敵兵が上を向いて……その顔が強張った。

 その様子を見て、シュトゥラの兵や騎兵たちすらも上を見て――騎兵たちは絶望の表情を作り出した。

 

 上空には、白黒まばらに、そして空を埋め尽くすほどの弾丸の数々。しかし、それは静止しているから脅威には足り得ないのだが……ここに居る誰もが分かっていた。この次に、どんなことが起こるのかと。つまり――。

 

「精々生き延びてみせろやァ! ――『正邪必滅の流星群(シュトゥルム・クロイツ)』――!」

 

 ――白黒空中で静止した無数の弾丸が、まるで流星群のように地上へと降り注いだ。

 

「隊長ぉぉぉッ!」

 

「この仕打ちはな――うわァッ!? 爆風が、爆風がヤバい!」

 

「全軍駆け抜けろ! 速度を落とせば肉片になった後ミンチになるぞ! とにかく走れぇぇぇッ!」

 

 その様子はまさに地獄絵図。味方すらも巻き込んで、白黒の流星群は敵軍へと真っ直ぐに向かって行く。騎兵には弾丸命中時の爆風の被害があったものの、誤射によって直撃を受けた者は居ない。逆に、敵兵は必ず直撃を受けて死の洗礼を受けている。

 

 ――『正邪必滅の流星群(シュトゥルム・クロイツ)』。魔導銃から生み出した『音』を追跡する魔弾を空中に『固定』する『術式固定(アインハルト)』にその『固定』を解除する『術式固定解除(ラーゼン)』を使用することによって発動する、二丁拳銃の最大火力攻撃。

 健一は森を出る前に二丁拳銃を闇雲に空中に撃っていたように見えたが、実を言えばそれは全て空中に弾丸を『固定』させ、その後に『術式固定解除(ラーゼン)』を使用し、この『正邪必滅の流星群(シュトゥルム・クロイツ)』を発動するための布石だったのだ。誤射が無いのは、対象とした『音』を追跡するという能力のおかげだ。そのため、このような乱戦時であっても、この攻撃は何も気を遣うことなく十全な威力を発揮してくれる。

 

「はーい、お疲れ。とりあえず、王のところに戻って俺か王の指示待ちな」

 

 最初に必死の形相で駆け抜ける副隊長。彼が横切る直前で言葉を掛けた。それに副隊長は「了解」と短く答えて、走り抜ける。

 それからもずっと、健一は騎兵たちに「お疲れ」などと労いの言葉を掛けてその場にとどまった。その位置は敵軍の横っ腹を抜けてたった三メートルしか離れていない地点だ。敵兵が健一に突っ込んでくるのではないか、と思うかもしれないが、そんなことをしようとしている者は必然と騎兵に背中を向けることになり……決まって、駆け抜ける騎兵に槍で穿たれる。

 

 そのため、実を言えば健一が居る場所こそある意味で最も安全地帯だったといえる。

 

 そして残り騎兵が十となったところで、健一――というより『失われた神眼(オーディンのまなこ)』――が予想していたことが起こる。

 騎兵の後ろから、尋常ではない速度で彼らを追撃する影が居たのだ。影は三人。それは屈強な男と女性、そして小さな女の子のものだった。三人が狙っているのは明白。自分の受け持つ騎兵たちだ。きっとあと五秒もあれば、騎兵の命は刈り取られてしまう。

 

「――いけ」

 

 だからこそ、彼はそこに立って初めて動いた。本来であれば、騎兵二百全員の生存を確認してから自軍に戻るつもりだったのだが――まぁ、それはもう仕方がない。

 

 六百六十六のナイフ全てを射出する。戦場において情けは無用。ましてや自分の部下を殺そうとしている者に対して、そんなものを抱いてはならない。しかし、健一は迫りくる三人の命を狙わなかった。六百六十六のナイフで穴だらけのバリケードを作り、三人の動きを阻害した。一度、その壁を崩そうとしたのか攻撃を加えた様な音が聞こえてきたが、一本で神話魔術に相当するバリケードを崩すことはある意味で無謀な挑戦だ。当然壁は崩れず、三人は止むを得ず静止した。

 

「全員、先に行け。後始末は俺がつける」

 

 横切る部下にそれだけを言って、健一はその三人の下へと向かった。そして距離をある程度詰めたところで、バリケードをもとの六百六十六のナイフとして、自分の周囲に待機させた。

 

 目の前に居るのは、銀色の短い髪に顔の横に青い犬耳のようなものを生やした、筋骨隆々とした体つきの拳を構えた二十代後半ほどの男。桃色の長い髪を後ろでポニーテールにした、剣を構えている二十歳くらいの女性。そして、赤と紅の中間色の髪を二つのおさげにしている、健一と同じ……あるいは、それより幼いかもしれない鉄槌を構えた女の子だ。その全員がそこらの兵士たちと同じ様な鎧をつけている。しかし、実力が違う。

 

「……貴様、何者だ?」

 

「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るっていう常識を知らないのか?」

 

 剣の女性が聞いてきたので、健一はそう訊かれた時の常套文句を言ってみる。挑発のつもりだったのだが、別に相手は気分を害したわけでもなく口を開く。

 

「……失礼した。私はヴォルケンリッターが将、シグナムだ」

 

「……同じく、盾の守護獣、ザフィーラだ」

 

「…………」

 

 剣の女性がシグナム。筋骨隆々とした男がザフィーラというらしい。鉄槌少女の方は名乗ることすらなかった。

 

「そっちのチビは……まぁ、どうでもいいや」

 

「んだとコラ!?」

 

 憤慨した鉄槌少女だが、健一にとっては本当にどうでも良い存在だったため、無視を決め込んで話を進める。

 

「俺はガレアの将、神崎健一。一端の《召喚せし者(マホウツカイ)》だ。今回はシュトゥラとの友好を示してこの戦争に参戦している」

 

「では、敵同士というわけだ」

 

「そうなるのかぁ……。エスケープしても良いんだが、お前等俺を取り逃したら別の兵を襲うだろ?」

 

「そうだな」

 

「なら、戦うしか選択肢はないわけだ。出来れば生かして連れて帰りたいが……難しそうだな」

 

「もとより、そう簡単にやられるつもりはない」

 

「いやいや、そうじゃない。お前等を生かして勝つのが難しいっていうこと。殺すだけなら、この問答している間に既に死んでいる。さすがに、光速に対応するなんて離れ業は出来ないだろ?」

 

「さて、それはどうかな?」

 

「……あの爺と同類か。面倒な」

 

 健一はシグナムと会話して、これは面倒な相手に出遭ったな、と思った。敵は確実にガルシアと同じ戦闘狂だ。この手の類は、根性があるから本当に厄介なのだ。特に、殺さずにガレアの将として働いてもらおうと思う分、下手に大きな攻撃をして障害を残すわけにも、うっかり殺してしまうわけにもいかない。つまり、加減がとにかく難しい。

 

 二丁拳銃と七色の魔導砲を自分の内に納め、拳を構える。ここはとにかく、『疾風迅雷(タービュランス)』と『ストリームフィールド』で乗り切るのが一番だろう。健一はそう考えていた。

 

「三人同時に掛かって来い。他の兵に向かわれるのは嫌だからな」

 

「なるほど。部下思いなのだな」

 

「うるせぇ。――まぁ、お前達に拒否権は無い。絶対に、俺の相手をしてもらうぞ」

 

 油断も隙も無く、健一は三人を見る。どんな思惑があったとしても、健一には『眼』がある。そして光速の機動力がある。取り逃がすことは、絶対にありえない。

 

「――シグナム。コイツどうすんだよ?」

 

「やるしかないだろう。蒐集しようにも、おそらくカンザキを倒さねば、その暇も無い」

 

「なら、ブッ飛ばすだけだ」

 

「……そうだな。ザフィーラ、後方支援は任せた」

 

「心得た」

 

 シグナムと鉄槌少女が前に出る。どうやら、体格の一番いいあの男が後方支援のようだ。見た目とは全く違う立ち位置なんだな、と思いつつ健一は両手に二百本ずつ集束した『ストリームフィールド』の剣を手に持ち、残り二百六十六本は全て周囲に浮遊させる。

 

「ならまぁ……派手に一戦、交えましょうかねぇッ!」

 

「ッ!?」

 

 健一の突然のトップアクセル、つまり光速の移動でシグナムとの間合いを詰め、『ストリームフィールド』を集束した剣を逆刃にして振り下ろす。ガルシアでもない限り、この奇襲に近い攻撃で決まるだろうと、そう思っての不意打ちだった。

 

 しかし、手応えがあり過ぎた。金属音が鳴り響き、衝撃が戦場を走った。シグナムは健一の攻撃を受け切ってみせたのだ。それも、武器はヒビ一つない。神話魔術の二百倍の攻撃を受けて壊れない武器とは、随分な力量と名刀だ。

 

「なるほど……確かに、私たちに拒否権はないわけだ」

 

「攻撃と振り下ろすまでの時間があったとしても、それも結構自負があったんだがな――ッ!」

 

「でりゃぁぁぁ!」

 

 鉄槌少女が横からその鉄槌を振るってきたので、健一はすぐに距離を取るべく自身を雷と同質にして上空に逃げた。

 

「どりゃぁぁぁッ!」

 

「ッ!? こっちもか!」

 

 しかし、どうやら誘い込まれたようだ。ザフィーラからの踵落しがタイミングよく健一の真上から繰り出され、彼はそれを両手に持った『ストリームフィールド』で何とか防ぐが、あまりの勢いに地面へと落とされ、激突した。

 

「がぁッ!?」

 

 地面が砕け、土煙が舞う中考える。流石に三人相手は不味かったか、と。しかし、今更言っても既に遅い。それに、ここは敵の軍の中間地点の右端だ。増援は望めない。

 

「くそっ……」

 

 三人も相手にしている状況では、『ストリームフィールド』をコントロールしきれない。だからこそ、健一は六百六十六のナイフを内に納め、新しい武器を取り出す。

 

「『魔術兵装(ゲート・オープン)』――ッ!」

 

 取り出したのは『エッケザックス』だ。これを使用する際、『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』をずっと使用しなくてはならないので魔力効率は良くないのだが、相手を殺さない、という条件を貫くにはこの武器が一番いい。相手も素人ではないのだ。この物量であっても、死なずに何とか受け止めてくれるに違いない。

 

「『すんげぇ強えぇ重力(グラビトンプレス)』――ッ!」

 

 自分に対して『エッケザックス』を軽いと認識させ、そして両手でそれを持つ。身長の三倍を超えているにも関わらず、それは紙の様に軽かった。

 

「で、デケエ……」

 

 鉄槌少女が驚いてこちらを見ているが、関係無い。そっちは後回し。先にシグナムを潰し、あとの二人を片付ける――ッ!

 

「これで潰れろやぁぁぁッ!」

 

「ッ!」

 

 シグナムは不味い、と思った。あのような馬鹿な質量の武器とまともに打ち合えば、自分の武器が折れてしまう。打ち合えない以上避けるしかないのだが……相手の機動力がその得物を持っても落ちないのが問題だ。これでは、回避で手いっぱいになってしまう。

 

「くっ……」

 

 避けた瞬間、地面が砕け、抉れ、そして弾け飛んだ。二次災害として、その無数の土塊がさながら散弾のようにしてシグナムに襲い掛かるが、それを辛くも剣と鞘で防ぎ切る。

 

(反撃のタイミングが無い……ッ!)

 

 大振りの武器にも関わらず、反撃の機会が見いだせない。単純な威力故に、威力の裏にある隙を無くした武器の完成形。それに気付いたシグナムは、もし一人で戦う事になっていたならば、という想像をして冷や汗を流す。無理だ。空中にでも相手を引き込まない限り、勝負にすらならない。かといって、空で待っていてもおそらく何らかの手段で地上から攻撃される気がする。ただの勘だが、その勘が戦闘時には侮れない。おそらく本当に、地上から空中に攻撃する術があるに違いない。

 

「オラァッ!

 

 今度は力任せの横薙ぎだ。それはシグナムにとって最もやられたくない攻撃だった。タダでさえリーチのあるバトルアックスなのに、それをこれだけ高速で振るわれれば、横薙ぎの場合は跳ぶか、伏せるか、受け止めるしかない。だが、受け止めるのはあまりに愚か。あの暴虐の塊のような一撃を受けて、自分の武器が、そして自分自身が無事な筈が無い。つまり、跳ぶか伏せるかの二択になるわけだが……。

 

「――ちっ」

 

 シグナムは跳ぶことを選択した。そしてバトルアックスで追撃されない為にも、文字通り空中を飛んだ。それを見た健一は舌打ちをして、どうするかと考える。

 

(オリヴィエ、クラウス、エレミアは純粋な徒手格闘だったが……こっちは勝手が違う、ってわけか)

 

 実戦と模擬戦の大きな差を見せつけられ、ますますこの状況が好ましくないものだと思う健一は、どうすれば敵に一撃を入れられるかを考えるのだが――。

 

「吹っ飛べぇぇぇッ!」

 

「お前がなぁッ!」

 

 そこで鉄槌少女が真上から奇襲してきたので、一度思考を中断、そして『エッケザックス』で切り上げる。

 

「のわっ!?」

 

 あまりの武器の迫力に、鉄槌少女はそれを避けて距離を取る。それを見て、健一はもうこの武器は当たらないだろうと溜息を吐いた。いくら何でも、警戒され過ぎた。

 

「…………」

 

 きっと、二丁拳銃では威力不足だろう。いや、確実に火力不足だ。『スコール&ハティ』もダメだ。相手は絶対に対応してくる。『失われた神眼(オーディンのまなこ)』の演算からそう叩きだされている。ならば『グリモワール』か? それもダメだ。防御魔法を張られれば意味が無い。相手に命中しなければ追加効果は発揮できないのだ。『スウァフルラーメ』は剣の実力が相手より劣っている以上、自分の首を絞めるだけだ。

 

「やるしかない、か」

 

 方法は二つ。負傷を覚悟の上で神話魔術を相手に直撃させるか、もう一つの切り札を死ぬ覚悟で使う。

 

 勝率は後者の方が圧倒的に高い。しかし、前者は勝率に劣るものの安全性は高い。いや、敗北=死と考えれば、危険性は同じといったところだろう。

 『失われた神眼(オーディンのまなこ)』からの分析結果なのだが、どうやらこの世界の魔法ならばマホウを破壊出来るようなのだ。魔力を絡めた物理攻撃すらこちらには有効。だからこそ、敗北が死に繋がる。

 

 チープな発想かもしれないが、健一はこう考えている。もし今の力で届かないのであれば、別のところから引き出して戦うしかない、と。

 

「なぁ、シグナム」

 

「何だ?」

 

「ここで一つ、降伏してくんねぇか? というか、降伏じゃなくてもいいから、ガレアに士官してほしいんだけど。ダメか?」

 

「何が目的だ?」

 

 健一が声を掛けて提案するも、案の定裏があるのではと疑われる。しかし、それは戦争の世の中なら仕方ないと割り切り、話を進める。

 

「優秀な将が欲しい。それだけだ。ただ、俺も死ぬ覚悟までしてお前達を捕まえたくねぇんだわ。だから話し合いで平和的解決をしようと思った。別に、今の主にそこまで執着しているわけじゃないだろ?」

 

「……確かに、な」

 

 少し間を置いて、シグナムは健一の問いに肯定した。その刹那、健一に『失われた神眼(オーディンのまなこ)』から更なる情報がもたらされる。

 

 ――曰く、その三人は『闇の書』と呼ばれる超危険物のプログラムだということ。

 ――曰く、それは完成してしまえば世界一つなど容易く消滅させるほどの大災害を起こすとのこと。

 ――曰く、『闇の書』は本来の形を失い、更には無限転生機能があり、消滅させてもまたこの世に復活してしまうとのこと。

 

 そして極めつけは……その主が、現在戦っている敵国の王だということ。そしてそいつは、プログラムといっても人と変わらない騎士総勢四人と管理人格を、人として扱っていないとのこと。

 

「……はぁ。何でこんなにも、理不尽っていうのはこの世に蔓延っているんだろうな?」

 

「――? 何を言っている?」

 

「理不尽だろうに。主を選べず、人と大して変わらないのに人として扱われない。どれだけ頑張っても、認められることは絶対に無い」

 

「……それでも、私たちの主だ」

 

 反論はされなかった。つまり、分析は正しいということだ。

 

「お前達を放置しておくには、少々危険すぎる。理解は……していないか。なら、理解しろ。闇の書を完成させれば、世界は滅ぶ。だから野放しには出来ない」

 

「世界が滅ぶ……? 何を言っている?」

 

「分析結果を述べただけだ。理解してほしいんだが……その様子だと、無自覚だな。無知は罪、ってのはこういう事を言うんだろうな」

 

「だから、貴様は何を言っている!?」

 

 ハッキリとした答えが欲しいのか、シグナムが声を荒げた。それを健一は見て……そして目を閉じた。同時に、彼は展開していたマホウを全て内に戻した。

 

「理不尽は辛い。俺は二度と俺のような目に遭う奴が居ない事を願うが……それは幻想だ。この世から無くなることは、絶対にない。ならばその理不尽を見つけ次第、この力で駆逐する。それが俺の信念。手の届く範囲で、自分のエゴでこの世から理不尽を掬い取る。俺にはそれを実行するだけの力がある。だからこそ、成さなければならない」

 

 もはや切り札を使うのに、例え死んでしまうかもしれないリスクがあったとしても、躊躇いはなかった。

 

「カンザキ、貴様はつまり、何が言いたいのだと言っている!」

 

「簡単だ」

 

 目を瞑っていた健一が、ゆっくりとその瞼を開ける。その目をみた瞬間、三人の誰もが息を呑んだ。目の色が片方、変わっているのだ。もともと左目は虹色のような色合いをしていたが、右目はただの黒だった。しかし、今は変わって怪しい紅色に光っている。その眼光に、三人の誰しもが背筋に寒いものを感じた。

 

「俺は俺の目的のために、テメエ等をまとめて救済する。だから一つ、許せ。

 

 ――第3夜 『Gotterdammerung(神々の黄昏)』。」

 

『ッ?!』

 

 それは一体、何の冗談なのだろうか。

 三人は誰かに聞きたい気持ちになっていた。

 

「俺は俺の私利私欲のために、お前達から主を奪う」

 

 目の前の存在は一体、何者なのだろうか。

 『有り得ない』。三人の思いはそこに集約されていた。

 

「そして俺は自分の主のために、お前達の新たな主となる」

 

 少なくとも、目の前の存在は人間ではない。

 人間という枠組みに、収めていい筈が無い――!

 

「これ、は……」

 

「貴様は……」

 

「テメ……エ。何なんだよ。何だよ! 何なんだよそれはッ!?」

 

 ザフィーラとシグナムが絶句し、鉄槌少女が半狂乱となって叫び散らす。仮にも、彼ら彼女らは歴戦の武人たちだ。大抵、いや異常な事態であったとしても、これほどまでに取り乱すことは有り得ない。

 しかし、目の前の存在は規格外に過ぎた。自分の実力が恨めしいとさえ思った。自分がもし無知のままであれば、この真の恐ろしさに、気づくことは無かった筈なのに。なのに、自分の実力故に、気づいてしまった。

 

「――理不尽だ」

 

 目の前の化け物は、静かにそう答えた。

 そして三人は、その言葉に納得した。確かに、これは理不尽な存在だ、と。

 

「俺がちょっと前に体験した、圧倒的なまでの理不尽。それがこの能力だ」

 

 ――第3夜 『Gotterdammerung(神々の黄昏)』。それは単純に『力』を創り出す能力だ。そして、芳乃創世の『力』の正体。純然なる力のみを創造するそれに、際限は無い。力という概念に当てはまるものであれば、何であっても創造する。それがこの能力。これさえあれば、魔力が尽きる事は絶対に有り得ない。そしてこれは、やろうとすれば『宇宙すらも消滅させ得る』最強の攻撃手段ともなる。

 

 故に、誰もが思う。何の冗談なのか、と。

 

 三人はそこまで認識していなくても、これだけは分かる。化け物――健一――から溢れ出る何かは、集約すれば自分たちはおろか、この世界すら消滅させることが可能な最強の力となってしまう、と。

 そして自分たちでは、例え命を賭してもこの化け物には敵わない、と。

 ――理解したからこそ、恐ろしい。理解せずに漂々としていられれば、一体どれだけ幸せだったのだろうか。

 

「……近くに居る様だな。お前達の主は」

 

「ッ!?」

 

 ビクッ、とどこかで大気が不自然に揺れた。目の端にそれが映った。だから健一は、そいつを逃がさないために、刹那の時で間合いを詰める。

 

「――第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』」

 

 ――第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』。それは無限の空間を創り出す能力だ。この能力は、ある場所に直接繋ぐ空間を創ることが出来れば、相手を無限の空間の中に閉じ込めることも出来る。簡潔に言ってしまえば、これは世界を創造する能力なのだ。

 

 故に、健一とそのほかの距離は、零にして無限。

 

「お前が、闇の書の……元来の名を夜天の書、それの主だな」

 

「ひっ……」

 

 それは敵軍の王だった。何やら高そうな分厚い本を持って、さらに王冠をつけている中年のおっさん。それが敵軍の王の容姿だ。

 そして、いきなり登場した不審人物に周りの者が捕らえようとするも――。

 

「――第1夜 『Die Walkure(ワルキューレ)』」

 

 自分と敵軍の王、その二人の空間の外に無限に空間を創ってしまえば、決して邪魔をされることは無くなる。

 

「ばけ、もの……ッ!」

 

「あぁ、そうだ。俺は化け物だ。――『魔術兵装(ゲート・オープン)』――」

 

 健一が取り出したのは、黒い魔剣だった。まさかそれで首を刎ねられるのでは、と思った王が、後退する。しかし、健一から言わしてみれば、それは無意味な行動だ。

 

「『スウァフルラーメ』、やっぱりお前を三度までっていうの、アレはなしだ。お前を必要とした時、俺は代償を用意する。今回の代償は、この溢れ出る無限の魔力。だから約束しろ。理不尽を駆逐するために、テメエは俺にいつ如何なるときも力を貸せ。俺はテメエを、理不尽の駆逐以外には使わねえよ。だから、いつ如何なるときでも使えるように……お前は永遠の存在になれ」

 

 健一にしては、静かな語調だった。いつもなら叫ぶように誓うその言葉も、今はただ弱々しく聞こえてくる。

 しかし、『スウァフルラーメ』はその声に呼応した。その黒い鞘を脱ぎ捨てて、本来の姿を彼の目の前に表した。

 

「――序夜『Das Rheingold(ラインの黄金)』」

 

 それを見て、彼もまた言葉を紡いだ。

 

 ――序夜『Das Rheingold(ラインの黄金)。それは『永遠』を創り出す能力。『永遠』と定義された存在は概念付与されたのと同義。たとえ消滅しても、一瞬で『完全な状態』として復活する。つまり、無敵になるといっても過言ではない能力だ。

 しかし、健一のこの能力は不完全だった。どうしてかと問われれば、それはマホウによる本人の傷害を戻すことが出来ず、また自身の魔力総量から第3夜 『Gotterdammerung(神々の黄昏)』を使った状態、あるいはほぼ全快の状態でなければ発動出来ないのだ。

 

 ハッキリ言おう。健一は自分にこの能力を使えない。

 

 しかし、もし魔剣の真の姿にこれを使えばどうなるか?

 答えは簡単。魔力を蓄えている限り、魔剣は三度目に使用されてその出力に耐えかねて壊れた時に、また元の形に戻る。つまり、今から『永遠』を付与すれば、壊れた時にその存在が回帰し、『一度使った状態に戻る』のだ。

 そもそもその魔剣を三度真の姿で振るった時に自分が死んでしまうのは、剣の自壊効果とマホウが破壊されたことによる《召喚せし者(マホウツカイ)》の存在消滅が原因だった。しかし、マホウである剣が破壊されたと同時に、マホウがその壊れる前の状態に戻れば……《召喚せし者(マホウツカイ)》は死なない。

 

 つまり、三度目の自壊効果時に大量の魔力さえ消費すれば、何度だって使える最強の剣となるのだ。

 故に、健一はその真の姿に『永遠』を施した。

 

「俺達は、ただ理不尽を駆逐するためにここに居る。だから此処にある理不尽を、俺とお前で駆逐しよう。そのためにお前には『永遠』を背負ってもらったが……別に良いだろう? 何せこの世界の理不尽は数え切れない。たった三度なんて、すぐに使い切っちまう。だから、お前には『永遠』を背負ってもらう」

 

 黄金色に輝く銀白の聖剣を振り上げる。その聖剣は何故だかとても軽く感じられた。

 

「俺達が今回断つのは、あの闇の書の『異物』と『契約』だ。今回の無限の魔力、しっかり喰らって、力を貸してくれ」

 

 そして健一は両手に力を込めて、そして力一杯、その聖剣を振るった。

 

「――――『永劫なる黄金色の聖約(オーバーロード・ティルヴィング)』――――」

 

 静かに紡がれた言葉は、確かに聖剣に届いた。

 目の前の全てが綺麗な黄金の光に包まれて、空間を砕き、そして裂く音が聞こえてきた。これでもう、絶対に大丈夫。『異物』も『契約』も、概念としてそこから断ち切ることが出来ただろう。

 

「――第2夜『Siegfried(ジークフリート)』」

 

 後はこれに、真理(ルール)を付け加えるだけ。

 ――この聖剣に断たれたもの全ては浄化され、安らかなる時を過ごす。

 

 これによって、断たれたものが暴走する心配は無くなった。世界を滅ぼす心配すらなくなった。

 

「……お疲れ。こらから思う存分扱き使って……はできないな。いちいち、こんなに死にそうな目に遭うんじゃ、やっていけねぇっての」

 

 健一は膝をつく。怪しく紅く光っていた目が、元の黒色に戻る。しかし、体から溢れ出る真紅は止まらない。

 

 ――第3夜 『Gotterdammerung(神々の黄昏)』。これには一つ、重大な欠点がある。この力を創造する能力は、力を創造することに再現が無さすぎることが問題なのだ。健一の魔力許容量は、決して高くない。そんな彼の内で、無理矢理膨大過ぎる魔力を創り出せばどうなるか? 結果は簡単。使い切れず、かといって内に収まらない魔力は外に出ようとして、肉体を食い破る。

 

 この能力を使った瞬間から、健一の体には傷が刻まれていった。それも時間を経るごとにそれは広がっていった。右腕はすでに骨が見えるほどに裂けている。左腕も右腕と同様。右肩から左腰にかけて、左肩から右腰にかけては深い裂傷が見える。両脚はそれぞれ浅い裂傷だが、出血量が侮れない。《召喚せし者(マホウツカイ)》としての自己回復能力は確かに働いているが、傷が深すぎるせいで回復速度が遅い。

 ――しかしそれでも、裂傷が左目にまで届いていないのは幸運だった。もし届いていれば、これもマホウによる傷なのだから、確実に死んでいた。

 

 健一は『失われた神眼(オーディンのまなこ)』以外の全ての能力、マホウを解除した。そうすると、先ほどまであった空間は消え、溢れ出る魔力も無くなり、そこにはただ血塗れの少年と、何百、何千という敵兵、そして敵国の王だけが残った。元に戻った夜天の書は、能力を解除する前に王から掠め取った。

 

 ――しかし、困った。魔力がほとんど残っていない。それも『疾風迅雷(タービュランス)』を維持するだけの魔力すらない。どうやら、全ての魔力が自己回復能力に回されている様だ。これでは、帰る手段が無いじゃないか。

 

「そ、そこのガキを殺せぇッ!」

 

 腰の抜けた王が命令を下した。どうやら、目の前の圧倒的な力が消えたことで、正常な状況判断が出来るまでには回復したらしい。

 

 王の命令を受けた兵(ツワモノ)共が剣を振り下ろす。どうやら、どの剣にも魔力が絡められているらしい。

 

 ――不味い。もう、動く体力も、魔力も無い……。

 

 剣の軌道から考えて、このままでは確実に左目を潰されて死ぬ。どうして『失われた神眼(オーディンのまなこ)』を展開しているかと言えば、それを展開していなければ《召喚せし者(マホウツカイ)》の半不死性――つまりマホウ破壊以外での死は有り得ないという概念――が無くなってしまうのだ。それを発揮するには原点であるこのマホウを展開しなければならない。つまり、『失われた神眼(オーディンのまなこ)』を展開していなければ、出血多量で健一が死んでしまう。

 

 ――だけど、目を潰されたら終わりって、何だかなぁ……。

 

 剣が迫る速度がやけにスローモーションに感じられる。どうやら、極限状態に入っているようだ。これは本当に、死んだかもしれない。いくら諦めが悪いといっても、この現実を覆す手が無い今を目の前にして、それでも尚諦めない、とは言えない。

 

 しかし、諦めようとも思えない。否、諦めたくない自分がそこには居る。

 それはそうだ。自分の命を自ら好き好んで諦めるなんて、そんなことは有り得ない。

 

 でも、この状況を一体どうやって――。

 

 思考がグルグル回って、ついには一体どうやって、から諦めるなんて有り得ない、という最初と最後で思考のループが起こり始めた。

 

 しかし、ループはすぐに終わる。考え方を変えたのだ。

 思えば、あの規格外の理不尽に出逢ったときだって、最後は諦めて……結局、運命の気まぐれによって生き残った。チャンスを願って、生き残ることが出来た。

 

 なら――やることは決まっている。

 

 ――俺は生きたい。もう二度と、理不尽なんかには屈しない。だからあと一度、あと一度だけ俺にチャンスをくれッ!

 

 天に祈る。もはやこれしか、健一のやることは残されていない。あの時の様に、もしかしたら運命が気まぐれに微笑んで、自分を助けてくれるかもしれない。脆弱な考えに思えるかもしれないが、しかし、健一にとっては死活問題だった。

 

 ――俺は決断したんだ。この世界で可能な限り、目につく理不尽を駆逐すると。だから、答えてくれ。俺にもう一度、生き残るためのチャンスを与えてくれッ!

 

 その天への祈りは……。

 

 ――なら、私を呼んで。私の名前を呼んで、健一。

 

 ……届いた。

 何者かが、自分の頭に語りかけてきた。

 

 ――私が健一の生き残る術を創り出してみせる。だから!――

 

 力強い。不意にそう思った。この声の主が味方になってくれるなら、これほど心強い事は他にないだろう。

 何故そう思ってしまったかは分からない。強いて言えば、勘だ。

 

 いや、彼女が何なのか、今ならば理解出来る。

 ――覚醒したのだ。彼女は今まで、脆弱な魔力の自分が主だったせいで、その能力が著しく劣化していた。

 しかし、無限に力を創り出す能力を発動したことにより、彼女は完全形態となったのだ。今ならば、それが分かる。

 

 ならば、目の前の雑兵如き、何を怯える必要があるというのか。

 ただ一言、言霊を紡ぐだけで、こちらの勝利は確定する。

 

 紡げ。あの言葉を。自分の口から、彼女をこの戦場に呼び出すんだ――!

 

「――――『魔術兵装(ゲート・オープン)』――――ッ!」

 

 最後の力を振り絞り、健一はその言霊を叫んだ。

 その瞬間、だった。

 

 時の流れが元に戻った。続いて、自分に迫りくる刃が全て消滅し、圧倒的なまでの力が周囲に居る全てを吹き飛ばした。

 敵兵は数メートル吹き飛ばされ、健一と呼び出された彼女の周りにだけ広い空間が出来た。

 

「……ありがとう、な。夜桜(よざくら)」

 

「うん。後は私に任せて欲しいんだよ」

 

「そうさせて、もらうよ」

 

 短く言葉を交えて、健一はその場に伏して眠った。彼女が居るのなら、何の心配も要らない。例えガルシアが敵になろうとも、彼女ならばきっと、全てを薙ぎ払ってくれる。

 

 何故なら彼女は――

 

 ――究極の人型神話魔術兵器……夜桜なのだから。

 九つの世界うち一つを完全消滅させられる彼女にならば、全てを任せられるのは……当然だろう?

 

 その時の健一は、夜天の書を抱いたまま、安心しきった表情で、子どもの様に無邪気な寝顔をしていたそうだ――。

 

 

 




 はははっ! 読者の想像の斜め上を行く! それこそ我が作者冥利なりッ!

 つまり、色々と反省も後悔もしていません。

 はい、こんな長い文章最後まで読んでいただきありがとうございます。

 さてさて、今回はまさか「そっち!?」とか「そこで登場!?」とか思う人が多々居たかもしれません。だが、その反応こそが作者の狙っていた反応だったりして(笑)。

 ちなみに何でそっちの人にしたかというと、使い捨てとかあまりに不憫だったからです。はい。容姿や能力はともかく、性格は全く同じと思っていただいてかまいません。あと、スタンダートの方はレイジ専用(勝手にそう思っています)ですから。

 あと、オーディンの能力に制限つけたのは、それあったらもう負ける事がなくなってしまうからです。そんなの、流石に面白くないでしょう? だからこそ、原作にはない厳しい制約を施しました。オーディンの能力のデメリットは仕様ですので、原作と違う、とかいう問題はスルーでお願いします。あと、「未だ果てぬ」ではなく「永劫なる」なのは「ラインの黄金」で永遠を付与したからです。

 さてさて、ちょっともう頭がショートしちゃっているので、後書きは中断。

 批判、ご指摘(ここ重要)、感想、コメント、評価、お気に入り登録、その他諸々なども随時募集中ですので、よろしくお願いいたします。

 重要な連絡↓

 あと、事務連絡として、この小説の更新を8月の18日~24日ごろにかけておやすみさせていただこうと思います。理由は「夏合宿」ですね。流石にPC持って行けないし、それに執筆する時間もありませんから。作者の都合で申し訳ありませんが、ご了承の方をよろしくお願いいたします。

 それでは、今回はこれで。また出来れば早いうちにお会いしましょう。これからも、この二次創作のご愛読の方をよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。