それと……今回、投稿が予告していた時期より遅れてしまいました。本当に、申し訳ありませんでしたッ!
今回は日常パートになります。しかし、色々とご愛読者様の斜め上をいくことは出来ているはず……!
などと自分は考えながら書き上げました。それでは、本編をどうぞ。
「……ここは?」
目覚めた時、健一が居たのは荒野ではなく室内だった。それも、最初に見えたのが知らない天井だ。
「あ、健一。起きた? 体は大丈夫?」
と、すぐ横で女性の声が聞こえてきた。そちらを向いてみると、そこには銀色の長い髪に、赤紫色の瞳、美しい顔立ちに、闇色の魔術兵装を着ているのが特徴的な、十五、十六ばかりの少女が居た。
「夜桜か」
その姿を見て、健一は最初に安堵の感情を示した。何故なら、彼女が無傷ということは、つまり……今回の戦争、シュトゥラの勝利で間違いないからだ。
――究極の人型神話魔術兵器。その異名は伊達では無く、ほとんど人と変わらない彼女の実力は、もはや個人の所有する武力としてあまりに過激、という表現がしっくりくるような存在だ。彼女が放つ神話魔術は九つある世界の一つを消滅させる力を持っている。もちろん、そんなものを全力で放つと本人がその反動で消滅しかねないため、『解放されし九つの鍵(レーギャルン)』という制御機能がついているのだが……。それがあってさえ、彼女の神話魔術は強力なことに変わりは無い。
「健一、少しお話があるんだよ」
「話?」
起きて早々、一体何だと言うのだろうか。そう思いながら起き上ろうとして……体に激痛が走った。
「ってぇ……」
「少なくとも、あと二日は絶対安静なんだよ。だから、話はそのままで聞いてほしいんだよ」
能天気な声のように聞こえるが、実際に自分の体がどれだけ危ない状況なのかは……『失われた神眼(オーディンのまなこ)』のおかげで分かった。自分が《召喚せし者(マホウツカイ)》でなければ、確実に死んでいただろう。
「……で、話ってのは?」
「うん……単刀直入に言うね。
――どうして、あんな無茶をしたのかな?」
ゾクリ、と背筋に悪寒が走った。何故だろう。夜桜のオリジナルって、確かもっと温厚……悪く言えば、超が付くほどの能天気とお馬鹿っぷりをみせていたと思うのだが。
もしかして、オリジナルと夜桜では思考の仕方が違うとでも言うのだろうか?
――いや、まぁそれはどっちだっていいんだ。
今は、夜桜の質問に嘘偽りなく答える事の方が大切だ。
「あの場では俺しか居なかった。あの闇の書とかいうのが完成、もしくは暴走すれば世界はバットエンドまっしぐらだ。そんなことになれば、俺はおそらく、あの規格外のところに帰されて……死ぬ。何もせずに死ぬくらいなら、俺は自分の全てを賭してハッピーエンドに現実を導く。そっちの方が、生き残れる確率は高いんだ。手を抜けば、その時点で死んでしまう可能性が高い」
そう。単純に、自分にとって生き残れる確率の高い方を選択した。死ぬのを待つくらいなら、自分の命と引き換えにしてでも世界を良い方向に導く。その方が誰の目からも生産性があり、何より利益がある。
そして何より――。
「それに無茶する理由は、目の前に理不尽がある、っていうことだけで十分だ」
――健一の行動理念は全てそこに集約されている。
自分と同じ目に遭う人が一人でも少なくなるように。そして自らの置かれた理不尽な現状を打破するために。
それらの条件がクリアされていれば、健一は行動する。例え自分の命を賭けてしまう場面であっても、絶対に。
「……うん、分かってた。私と健一は思考リンクしているから、嫌でも分かる。これからも、こんな無茶を平然とやってのけるんだよね?」
「それ以外に、道が無い。あの規格外を相手にするよりは、希望は持てるだろ?」
「確かにそうだね」
健一が苦笑しながら言うと、夜桜もそれにつられて笑みを浮かべて頷いた。どうやら、お互いに考えていることは同じ様だ。
芳乃創世の居る絶望の世界に戻らない為にも、この世界にて指定された五人を守り抜き、そして明日へと繋げる。
それが達成されない限り、自分たちに未来は無い。何せ健一と夜桜は、二心同体。どちらか一人が死ねばもう一方が死ぬ、運命共同体なのだ。
――ならば、自分たちに取る行動は自然と決まる。
「俺はただ、この世界の目につく全ての理不尽を駆逐し、そしてあの世界に戻らない為に生きる」
「私はただ、主(マスター)である健一の最強の矛と盾として、健一の行動を最大限サポートする。それが私の生き方」
「なら、改めてこれからよろしくな。夜桜」
「うん。こちらこそよろしくね、健一」
お互いの存在を認め合い、改めてそう言って握手を交わす。傍から見ればおかしなものかもしれないが、しかし、二人にとってはお互いに信頼し合うことを誓う儀式だ。だから、おかしいことは何も無い。
「――で、今度は俺から質問だ。あれからどうなった?」
あれから、とはつまり健一が夜桜を呼び、気絶した後のことを差す。戦争の結果については心配していないのだが、彼の一番の懸念は闇の書だった。
いくら概念魔術を使ったとは言っても、概念魔術はそれ以上の概念魔術さえあれば覆されてしまう。そして闇の書は概念を上書き出来るほどの潜在魔力を保有している。だからこそ、健一はそれの暴走を心配していた。
「……戦争は、シュトゥラの快勝。健一が気絶してからの今までの間に、もう戦争の事後処理まで終わったよ。夜天の書の方も、問題は無いかな。騎士たちとその管理プログラム計五人の待遇も、私が健一との関係を話して、それから説得したら納得してもらえたよ。その五人は今、客室の方に滞在している」
「だが、良いことばかりでもない、か?」
夜桜の表情の陰りから「何かあるな」と思い、健一は聞く。すると、彼女は頷いて言った。
「夜天の書の方は問題ないんだけど……その切り離したモノの方が問題。近い内……今から大体、一ヶ月くらいかな。きっと、暴走する。でも、その暴走のせいで夜天の書に直接的な影響とかはないんだよ」
「もしかして、そっちが真打か?」
「そうだね。無限連環機構……つまり永久機関だったんだよ。切り離したモノが」
「さすがに、永久機関相手には概念魔術は無意味、か……厄介な」
「うん。多分、元の世界の方がまだ勝率が高かったかも」
「本末転倒かよッ!?」
自分が最悪のミスをしたことに気付いた健一が絶叫した。何せ、死にそうな目にあってまで『闇の書』を『夜天の書』に戻したにも関わらず、すぐ後にあの芳乃創世と同じくらいの規格外――いや、それ以上に分が悪い相手が来ると言われたのだ。叫びたくなるのは当然だった。
「でも、それは他の事を度外視した戦力的な問題なんだよ」
「……つまり、打開策はある?」
「うん。ちょっと無理する事になるかもなんだけど……もう一度、今度は『異常』を断てば問題はないんだよ」
「……それって有効なのか?」
「素の状態なら無理なんだけど……第3夜 『Gotterdammerung(神々の黄昏)』を使えば、あるいは出来るかもしれないんだよ」
「かも、ねぇ……その次の手も考えておかないと詰むだろうなぁ、それ」
はぁ、と溜息を吐いて健一は右手で顔を覆う。まさか自分の行動の落とし前を、それほどまで無茶をしなければつけられないとは思わなかった。
「でもまぁ、仕方ないか。これは俺にしか出来ない。やらなければ世界は終わる。なら、俺がやらない道理はない。前を進むよ。何もかも振り切って、まさに『疾風迅雷』の勢いで進み続ける。例えこの身が誰に覚えられることも無く、消え去るとしても、な」
あの世界の彼らがそうだったように、きっと自分も消滅すれば、誰の記憶にも残る事無く死ぬだろう。それはとても悲しいことかもしれないが……しかし、この世界には自分と同じ境遇の者は居ない。ならば、悲しいのは自分だけだ。
「健一……」
「そんな心配するなって。俺は死なない。まだやり残していることは、山ほどあるんだからな」
夜桜の心配そうな表情を見て、健一は子ども特有の元気いっぱいの笑顔でそう言った。まだ体はロクに動かすことは出来ないが、表情を作ることくらいなら出来る。ならば、その技術を使って彼女(パートナー)の不安を取り除くのが、健一の今やるべきことだ。そしてそれこそが、後にある、避けられない闘争への備えだ。
「手段なんて、選んでいられないのかもしれないな……」
「えっ――?」
ポツリ、と健一が不意に呟いた声を、夜桜は聞き逃さない。「手段」とは一体、どういう意味なのか。思考リンクしている彼女でさえ、その真相は分からない。いや、あるいはリンクは完璧だが、一部の情報が他ならない健一によって無意識のうちにブロックされているのかもしれない。
「それって……」
――どういう意味? と、夜桜が健一に聞こうとした瞬間だった。
突然、バンッ! という荒々しく入口の扉が開く音が聞こえたかと思うと、室内に三人ほどの影が飛び込んできた。
「ケンイチ、起きたのか! 傷は大丈夫なのか!?」
「く、クラウス落ち着いて」
「クラウス、病室内で騒いではダメですよ」
その影はクラウス、エレミア、オリヴィエの三名のものだった。状況を見てみると、健一が起きたと聞いたクラウスが二人にそのことを伝えて、暴走するようにここに駆けつけたように見える。エレミアとオリヴィエに注意されるほどの大声を出していたクラウスは、どうやらよほど慌てていた様だ。
「傷は問題ない。てか、病人の前で大声とはどういう料簡(りょうけん)だコラ。まだ体を動かすのも痛いんだぞ。声が体に響くだろうが。二日後は絶対に泣かせてやる」
「……あぁ、どうやら普通に大丈夫そうだね。心配して損した気分だ」
「んだとコラ?」
「それだけ憎まれ口を叩けるなら、いつも通りの君だってことだよ」
「夜桜。クラウスに向けて『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』だ」
「健一、少しは常識を持った命令をしてほしいんだよ」
「夜桜ごときに常識を説かれた……だとッ!?」
「……健一。私をあのオリジナルと一緒にしないでほしいんだよ。むしろ私は、原点よりも高性能なんだよ!」
病室内はあっという間に喧騒に包まれる。主に健一とクラウスと夜桜しか騒いでいないのだが、その三人だけでもかなり五月蠅い。健一がその声の響きで体に痛みを感じる程にはうるさい。
そして夜桜からの酷い謂れぶり。どうやら、オリジナルの方は相当に彼女にとって不名誉なもののようだ。人間でいうところの黒歴史に近いのだろう。
――というか、原点より確かに高性能だなぁ。
『失われた神眼(オーディンのまなこ)』で彼女の能力を解析しながら、健一はそう思う。
今解析出来ている夜桜のオリジナルより優れている点なのだが……。
1つ、燃費がエコカーも真っ青なほどに良くなっている。
2つ、術式展開が恐ろしいほど早く可能。神話魔術ですら、ほぼ予備動作無しに行えるレベルだ。
3つ、とにかく魔力操作性が驚くほど高くなっている。本来はEランク(超ニガテ)なレベルだったそれが、今ではSランク(桁外れ)のレベルにまでなっている。
この三点だ。他にも細かな点を挙げていけば切りがないのだが、とにかくオリジナルより優秀、とだけは言っておく。
つまり、今の状態の夜桜はオリジナルである『サクラ』の上位互換に位置する事になる。これは本当に、頼もしいことこの上ない。健一はそう思い、一人頷いた。
「まぁ、確かにそうだな……。で、三人は俺の見舞いだけか?」
「三日も寝込んでいた人へのお見舞いを、それだけで片付けるのは少し難しいと思うけど……」
エレミアが不意にそう言い、健一は「何?」と顔をしかめる。
「待て。三日? 俺が寝込んでから三日が経っているのか?」
「えっ? う、うん。夜桜から聞いていなかったのかな?」
「……やっぱりバカに変わりはないのか」
「ちょ、それってどういう意味なのかな!?」
健一は呆れながら、何事も無かったかのように起き上がり、そしてベッドの横へと立った。もちろん、傷のせいで全身は痛むのだが、言ってしまえばそれだけだ。動くことには何の支障も感じない。
「……言っておくが、俺は既にここでの目的を達成している。ガレアは俺が居なければ防衛面でまだ不安が大きく残る。言っている意味、全員分かるよな?」
「つまり、すぐにでも帰還しなければ、ガレアが危ないと?」
「そういうことだ。あくまで、俺はイクスの忠臣だ。約束を取り付けた以上、これ以上ここに残る必要は皆無だ」
それが健一の本音だ。一日程度しか経っていないのならば、あと一日くらいはサボっても大丈夫だろうとは考えていたが、既に三日が経っているのであれば話が違ってくる。
決意表明をして、また戦場に赴く。扉の前まで歩き、部屋の外を出た時――
「……あれ?」
「……はっ?」
思わぬ人物と再会した。そして同時に「おかしい」と思った。ここはシュトゥラの筈だ。彼女は今もずっと、あの城に爺さんと残って戦い続けている……と、そう思っていた。だからこそ、戦場になっているのであろうガレアに赴き参戦しようとした自分が今、ここに居るはずなのだが……。
「ケンイチよ。どうして鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしているのだ?」
健一の目の前には、自分の主である少女イクスヴェリアと、その忠臣であり同期でもあるガルシアという厳つい爺さんが居た。まるでそこに居るのが当然という、当たり前なその姿にしばし、健一が目をパチクリさせて思考が停止する。
「……夜桜。君、もしかしてケンイチにイクスとガルシア殿がこちらに来たということすら、言い忘れていたのかい?」
「――あっ!」
目の端に、ポンと手を打って何かを納得している夜桜が映った。その瞬間、健一は猛禽類もビックリなほど好戦的な笑みを浮かべて、しかしその表情には似合わない静か過ぎる声で言霊を紡いだ。
「――『魔術兵装(ゲート・オープン)』――」
そして出てきたのは、馬鹿でかいバトルアックスこと『エッケザックス』だった。しかし、今の状態で持つのは流石に健康上よろしくない。そう考えた健一は、『踊り狂う悪魔(エイレナイオス)』――あらゆる物体を念動力で自由自在に動かす能力――を使用して『エッケザックス』空中に浮かせ……そして容赦なく、それを夜桜の方へと振り下ろす。
「なっ……危ないッ! 危ないんだよ健一ッ!?」
しかし、夜桜は焦っては居るが完璧に『エッケザックス』を止めていた。全くモーション無く目の前に展開した、光の粒子のシールドによって。衝撃も爆風もそこには存在しない。どうやら、その他のエネルギーも含めて、完全に静止させたようだ。
「峰だから当たってもギリギリセーフだろ」
「そういう問題じゃないんだよ!?」
「……病室で暴れるとは、お主は阿呆か?」
「部屋で休んでいるのは俺だけだから別に問題無いだろ」
ガルシアの言葉に対して適当に言い逃れして、健一は再び『エッケザックス』を振り下ろそうとする――
「止まってください!」
――が、それはイクスの声によって遮られた。健一は彼女の声に反射的に動きを止め、そちらを向いた。
「……どうかしましたか? イクスヴェリア陛下」
健一の雰囲気が一変した。先ほどのような好戦的な笑みは嘘のように消え、そこにはただ落ち着いた少年が立っている。先ほどの怒り具合から推測して、彼を止める事は恐らくオリヴィエたち三人やガルシアを以てしても無理だっただろう。
しかし、そんな健一をたった一言で、武力すらも使わずにイクスヴェリアという少女が止めてみせた。そのことでオリヴィエの表情が僅かに動いたのは、イクスヴェリア以外には誰も知らない。
「ここで敬語は不要です。それよりも、何か言いたいことは?」
「ガレアの方はどうだったんだ?」
「壊滅です。ガルシア殿と逃亡中、シュトゥラの兵に偶然出会い、ここまで送ってもらいました」
「……取り返してくるか?」
「無茶はよくありません。最低でもあと二日、安静にしてください」
「へいへい……」
「それで、他に何か私に申し開きはありますか?」
とうとう、言いたいことではなく何かしらの正当性を問うてきた。何かイクスの機嫌を損ねることをしただろうか、と本気で不思議そうに首を傾げる健一。そのあどけない表情は普段の彼からは到底見る事が出来ないものであり、それを見たこの部屋の誰もが思った。「小動物のように可愛らしい」と。
「……怪我のことでしたら、流石にそうするしか手が無かった、と言っておくけど」
「それも確かにありましたが、その答えで不問にします。それで、他には?」
勝手に重症負って心配させた。確かにこれは健一にとっても心に引っ掛かっていることだったので、割とすぐに浮かび上がった。しかし、その次を催促されて健一はまたも首を傾げる。「これ以上、一体何があるのだろうか」と彼は本気でそう思っていた。
「……私はケンイチさんに、どういう命令をしたでしょうか?」
「――? 友好を深め、そしてシュトゥラの戦争の手助けをすることにより聖王連合に入り易くしておいてくれ、ですよね?」
「はい。概ね正解です」
「……?」
ますます訳がわからなくなった。二つの命令は既に完遂している筈だ。何の不備も無い。なのに、まるでそこに問題があるという風に彼女は笑顔で言ってくる。
健一は必死で考えた。自分のどこに不備があったか。重症負った以外に、何か他に不味いことがあっただろうか、と。オリヴィエの欠損を完治させたこと……は、問題は無い。むしろプラス面の筈だ。ならば覇王へ神話魔術をぶっ放したことだろうか? いや、あれは既に笑って許されている。今では良い日常ネタの一つだ。
――結論を言えば、答えが出てこない。
「私は、確かに友好を深めてこいとは言いました」
健一の考える時間が長すぎたために痺れを切らしたのか、イクスは健一から言葉を引き出すのを辞め、自分から話し始めた。
「ですが……誰が、一体誰が――」
プルプルとイクスの両肩が揺れ始める。そして同時に、彼女は健一を目いっぱいに睨み付けながらその目の端に涙を浮かべ、大声で言った。
「――婚約相手を作り、さらにハーレムまで築き上げろと命令したんですか!?」
「……はぁッ!?」
イクスに言われたことを理解して、健一が素っ頓狂な声を上げた。しかし、イクスはそれを演技だと思ったのか、すぐに言葉を畳みかける。
「誤魔化しは通じませんよ! シュトゥラの王から聞きました。聖王オリヴィエとの決闘に負けたために、聖王はその勝利で得た命令権を使って婚約者の間柄になった、と! 加えて、交友関係は全員女の子ですか!?」
「いや、待て! 最初の話を俺は聞いたことが無いぞッ!? それに、交友関係を持っているクラウスは男だ!」
『……えっ?』
健一が反論するも、今度は全員から「何言ってんだコイツ」というような目で見られた。そのせいで、健一は精神的にも肉体的にも限界が近かった。
「……えっと、クラウスは女の子ですよ?」
「はいっ?」
オリヴィエから指摘され、健一はクラウスの方を見る。
「――これが女……? 美少年系の女子だったのか……!」
一人納得して、健一は一人地面に両手両膝を着いて落ち込んだ。まさか今の今まで、クラウスが女だと気づかなかったとは。いくら中性的で分かりにくいからといっても、それはない。自分はどこの鈍感系主人公なんだ、と自己嫌悪に陥りそうになったほどだ。
「えーっと……何だか、凄い勘違いをされていたみたいだね」
「爽やかに言うな! 女だって分かったから余計に腹立つわ!」
クラウスの言葉に怒声を浴びせる健一だったが、既にその声に覇気は籠っていない。今はただ這いずりながら自分の寝床に戻ろうとしていた。
「クラウス、いつもそんな恰好で居るからケンイチさんにも誤解を与えてしまうんです。もっと女の子らしい恰好をしたらどうなんですか?」
「いや、この恰好の方が動きやすいし……」
「言い訳無用です。今度パーティの際にはちゃんと着飾ってもらいますね。あなたのお父様もそれを望んでいます」
「うっ、父さん……」
「決まりですね」
「テメエ等、二日後には覚悟しておきやがれ……ッ!」
どうでも良い話をしている二人とその他イクスを含まない女性陣全員に対して恨みを込めて言いながら、健一は未だに寝床に到達出来ずにいた。
「ケンイチさんは、無茶をし過ぎです」
「はっ……?」
ひょいっ、と体が誰かに持ち上げられた。見てみると、どうやらオリヴィエが健一の体をお姫様抱っこしているようだった。
「男がお姫様抱っこ……鬱だ。――それと、婚約ってどういう事だ?」
イクスに聞こえない様に健一が小声で訊くと、オリヴィエはとてもいい笑顔で言った。
「秘密です。また動けるようになる二日後に、このお話をしましょう」
「…………」
溜息を吐くことも出来ず、健一はその言葉を聞いた後、すぐに気を失った。この場で意識があることに、もはや精神的に、そして全身に走る激痛に肉体的にも、限界が来てしまったのだ。
意識を手放した後に起こった出来事を、健一は知らない。知り得る筈が無い。
しかし、次に彼が目覚める時には、彼の最も危惧していた事態に直面することになる。
これはもう少し後の話で、まだ誰も知りえない未来。
それでも、物語の歯車は着実に、狂い始めてきているのだった――。
少年――――少年(しょうねん)は、年若い人のことを指し、特に男性の未成年者で、おおよそ7歳から18歳頃までの世代を指す。女性の場合は少女とも呼ぶが、「少年法」など司法の世界では、性別を問わないことが通常である。なお、漢文などの古典における「少年」は、現代日本語よりやや対象年齢が高い「若者」「青年」のニュアンスに近く、老人に対して30歳前後ぐらいまでの若年層を含む。(Wikipediaより抜粋)
――ということです。後半には別に性別は気にしないと書いてあるわけで……つまりそういうことです。
屁理屈だ! などと思われるかもしれませんが、むしろ作者はこういうことを平気で文章に仕込む人です。これからは注意しながらよく読んでくださいねッ! 間違い探し感覚でやると面白い……かも?
おふざけはここまでとして……今回は如何でしたでしょうか? 最近どうも地の文にキレが無くなってきていると思う自分が此処に居ます。
今回は多分、イクスヴェリア感情爆発回、といってもいい話ではなかったでしょうか……? 最近どんどんイクスヴェリアがキャラ崩壊してきているな~、と自分でも思っていますが、今更修正不可能なのでむしろこれから悪化させますッ!(宣言)。
さて、次話はいよいよあの子たちの登場です。分かる人も分からない人もいるでしょうが、きっと次話はご満足いただけると思います。
さて、それでは次話も皆様の予想の斜め上を天元突破する勢いで執筆したいと思っておりますので、それまでお楽しみにしていただけたらと思います。
※そろそろ作者が日常生活に戻ってきたので、投稿は三日に一度、最低でも週一のペースになります。楽しみにしていただいている皆様には大変申し訳ありませんが、どうしても自分の執筆スピードが追いつかないので、そこはご容赦いただければと思います。
それでは、今回はここまでとします。
批判、ご指摘、感想、評価、お気に入り登録、などなどは随時募集中です! 皆様からのお声や清き一票(お気に入り登録)を心より、お待ちしております。それでは、また三日後くらいにお会いしましょう。
――追記:夜桜が気絶してからの日数を言っているにも関わらず後に気絶した日数を言っていない、という物語としての矛盾を発見しました。これは本来、夜桜が日数について何も話していなかったことが正解になるため、そちらの台詞を削除させていただきました。本当に、矛盾するミスを申し訳ありませんでした。8/27 21:03