注意事項はそれだけです。
では、お楽しみください。
その日は、蝉の声が五月蝿かった。
規則的に耳の中に反響する高音が、鉄の塊が走行していることを知らせる。
私は刹那に手を伸ばそうとしたが、遮断桿が私と彼女を引き裂く。
スカートが、靡いている。
「君は友達────。」
耳鳴りがする。
鉄の塊が止まることを知らずに、血に飢えた獣の様に、彼女を弾く。
真紅の狂気的な螺旋が飛び散る。
世界がコンピューターウイルスに侵食しているかのように、途切れて、再生してを繰り返す。
彼女は死んだ。琴峰レイは、死んだ。
呆気なく、淡い期待を絶望で塗り潰された。
私は、なんて滑稽で、なんて愚鈍なんだろう。
「そう、貴方は私の───。」
蝶が、舞い上がった。
もう一度だけ、やり直せるのならば。
私は、目を閉じた。
私が、初めて琴峰レイと会ったのは高校二年生の春だった。
その日に、私は巻き戻っていた。
彼女は、会った時からいじめられていた。
主犯の石神サクラと、共犯、取り巻きのユヅハ、カナデ、ミユ。
みんな、気持ちが悪かった。
一人ひとりが、主犯の人形。特徴なんてなかった。個性なんて無かった。みんな同じような顔をして、同じような言葉を言う。
私は、レイがカッターナイフでサクラに刺されようとしていたのを助けたのが始まりだった。
「レイ。ねえ、黙って私に従ってよ!」
サクラが誰もいない教室で、隅で泣いているレイに怒鳴った。
レイが何かを言おうとしているが、掠れていて何も聞こえない。
私は廊下を偶然、通っていて見つけた。ドアの横から、漏れた音を聞いていた。
何か、背徳感と、優越感が脳を蝕む。聞いていく程に息が浅く、雑になる。
「何を言っているのか、全然分からないわ!本当に、蛆虫は生き方さえも汚らしいわ。そうやって、また、助けを乞うとしているの?あはは!反吐が出るほど気持ち悪いわね。」
金属音が、一回、二回、三回鳴る。
「ねえ、レイ。死んで!」
殺しちゃいけない。それは私の玩具。
私は教室のドアを開き、ナイフを持っているサクラの右手を掴んだ。
「止めて。私達、クラスメイトでしょう?」
サクラは、一瞬、きょとんとした顔を見せた。
「なんで、貴方がここにいるの……。」
「なんでって、どういうこと。人を助けるのが"友達"じゃないの?」
サクラは舌打ちして、ナイフをしまった。
「まあいいわ。今日はここまで。次は覚悟しなさいよ。レイ。」
彼女はわざと大きな足音を立てて廊下へ出ていった。
サクラが居なくなると、レイが垂直に倒れた。
呼吸が乱れてる。
「大丈夫?琴峰さん。」
「……うん。大丈夫だよ、水瀬さん。」
彼女は深呼吸をした。
「私達って、友達?」
彼女は問う。
「私達は友達だよ。琴峰さん。ほら、これあげるよ。」
「これは?」
「お揃いのキーホルダー、だよ。」
「…ありがとう。」
マリーゴールドが、咲く。