オタクに優しい真人♀   作:ゾエア

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合歓綢繆

 

「お?」「え?」「は?」

 

 

残っていた人間を三人纏めて串刺しに。先端に反しもついた人間串団子だ。()()()を施し、階段を駆け登る虎杖ヘ向けて大きく振りかぶって──クリーンヒット♡

 

 

「クッソ…!!」

 

 

腕の形を戻せば、人間達がバタバタと投げ出された。受け止めた虎杖はそいつ等を介抱している。

 

 

「大丈夫か!?」「ゔぅ……」

 

 

うん!!

 

 

弾けた三つの肉団子。血の目眩しは効果覿面みたいだ。腕の形をとげ付き棍棒へと変え、視界のきかない虎杖を今のうちに削って──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地で始まる戦闘の合図はトンカチによって打ち鳴らされた。飛ばしてきた釘は三本。まともに当たる軌道じゃなかった。ノーコン気味だ。釘の向かった先は細い路地に軒を連ねる店舗の一つ。入口上に掲げられた看板の支柱を破壊した。

 

落下してきた看板ごと蹴り飛ばされる。看板裏には呪力を感じた。既に釘を打ち込んでいるようだった。女が指を鳴らすと──

 

 

「"簪"」

 

 

──二発の衝撃。看板を貫通したそれは頭部に穴を空けてしまった。気分は悪いが魂には届かない。

 

 

「……効きませんよ。仲間から聞いてないんですか?」

 

 

真人さんと勘違いしてもらえれば都合がいい。似ても似つかない背丈と髪型だが、色味と継ぎ目は共通しているためか。とりあえず両手に呪力を纏えば勝手に距離を取ってくれる。飛んでくる釘も──容易く弾ける。周りは落ちた釘だらけだ。

 

 

改造人間も使えないし、他者の魂には干渉できない僕を相手に、神経をすり減らしてくれるのは助かった。おまけに相手は虎杖君ではない。形を変えて攻め続けられる。

 

 

頭部へ向けて触手を伸ばす。頬に掠らせたその先端から針を発射。飛んできた針を回避する敵は体勢を崩した。伸ばした触手を縮める要領でさらに距離を詰めながら──展開した鎌で首を狙う。

 

 

「ツッ──!!」「惜しい。」

 

 

左肩を裂いただけに終わった。すれ違い様に抉られた僕の頬はすぐに元に戻る。こちらはダメージを気にせず攻め放題だ。早く終わらせて、真人さんの所へ運ばなければ。

 

 

「今反撃した意味ありますか?効かないなら、普通逃げますよね。」

 

 

「分かってても、やんなきゃなんねぇ時があんだよ。」

 

 

一番面倒な手合いだ。術師にもこういうタイプがいるのか…

 

飛ばしてきた釘を軽く躱すと、女は店から飛び出したダクトの上へと登った。

 

 

「やるよ」「?」

 

 

『簪』!!

 

 

手から離れた釘は地面にめり込んだ。その衝撃が散らばった複数の釘を揺らす。続けて降りてきた女は、トンカチを構えて呪力を練り上げる。

 

 

「もういっちょ」『簪』!!

「!!」

 

 

散らばっていた複数の釘から放たれる呪力が僕の足元で炸裂した。なるほど。落ちてる釘を一発目の衝撃で浮かせて、二発目に僕目掛けて攻撃に使ったわけだ。まぁ僕には効かないけど…。

 

体勢を崩した僕の上半身に着地する女。釘の先は僕の眉間へと向けられている。

 

 

「……ずっと考えてたんだ。アンタの術式聞いた時から()()は効くんじゃないかって」

 

「!!」

 

 

まさか…無策ではなかった!!さっきの啖呵もブラフ…!!マズイ。しくじっ──

 

 

『共鳴り』!!

 

 

「!!」「なっ…!!」

 

 

虎杖へ向けて腕を振りかぶっていた真人の魂。さらに直接「共鳴り」を受けた順平の魂。その二つへ同時に呪力が炸裂した。

釘崎は「共鳴り」で真人の肉体を通し魂を打ち抜く算段であった。しかし相手は真人の分け身である順平である。打ち込んだ結果「共鳴り」は順平を通して本体──真人の魂も捉える。そして融合している互いの魂へのダメージを知覚した二人は確信を得た。

 

 

 

まさか…!!まさかだ!!!私達の天敵は 虎杖悠仁だけではなかった!!!

 

 

 

「妙だな 少し離れた所で、私の呪力が爆ぜる感じがした。」

「なんつーか…。呪力の圧も半端だし、あの時もガッツリ私に触れりゃいいのによぉ。」

オマエ分身かなんかで 術式使えねぇんだろ!!

 

 

「…正解。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…釘崎!?」

 

 

────ッ!!術式の余韻が長い!!まだ体が思うように動かない!!柱に押し付けられるように繰り出される連撃!!魂が軋む音がする。虎杖の勢いが戻り始めた!!このままではペースを握られる…!!()()()()()()…!!──

 

 

 

 

路地で睨み合う釘崎と順平。釘を構える釘崎に対して順平の取った行動は──逃亡だった。

 

 

「……はぁ!?待てや!!」

 

 

打ち飛ばされる釘も気にせずに姿を変えた全速力の姿。脚を増やし体を縮めたそのワケは真人の危機を察知したためであった。走り着いた先には地下への階段がある。副都心線へ通じる道だ。順平は入口へ飛び込むように身を翻した。釘崎も後を追って地下へと向かう。

 

 

 

一方地下では虎杖が真人を乱打している。危機の最中彼女の立案した悪辣な策は順平に伝えられ、二つ返事で決断された。作戦開始の合図は打撃を受けている体の──分裂。小型でサッカーボール程のそれらはマスコットキャラじみた一頭身の姿であった。

 

潰せば致命傷となる魂の部位が分裂体に含まれていることを虎杖は見抜く。動き回る複数の真人のうち、一体に狙いを定め蹴り潰した。

 

「ひっかかった。」「!!」

 

虎杖の注意を引いたその分裂体は呪力を多く込めた囮だった。生き残った他の分裂体は一つに合体し始め、体を戻した真人は目的のために走り出す。その先には──順平の姿。

 

 

「──順平……!?」「…虎杖君。」

 

 

別行動していた分身。それは取り込まれた友人の姿を真似ていた。虎杖の受けた衝撃は真人を追う足をほんの少し遅らせることになり、結果としてこの()()を成功させる一因となる。

 

 

順平は魂を弛緩させる。真人に対して全幅の信頼を寄せて、柔らかく肉体を構築した。互いに向かって走る二体の呪霊が衝突し──抵抗もなく真人が分け身を吸収した。その魂は既に一つの体へと戻り、姿は──()()のものに。向かう先は分身を追いかけて地下に来る釘崎のもとへ。

 

 

「逃げろ!!! 釘崎!!!」

 

 

釘崎は吸収に気づかない。髪型も背丈も、先刻と変わらないその姿は分身であると思い込んでいる。

加えて分身との戦闘で ()()()()()を解いている。

 

 

顔面への掌底。

 

 

防ごうと腕を上げたところで、既にすれ違い様の接触は終わっていた。

 

 

 

 

 

さて……七三術師は一度触れただけでは仕留めきれなかったけど…どうなるかな?

心配して駆け寄る虎杖の姿を肴に、目標をおびき寄せた順平を褒めちぎってあげたいところだ。

女の顔に走る筋と模様。手応えは良かったが……

 

 

「虎杖 皆に伝えて」

 

「悪くなかった!!」

 

 

爆ぜる女の顔面。飛び出た左目は後方に転がった。残った右目の瞳孔は拡がりきっている。弾けた左側頭部から流れる血液量から見ても、その女の意識が戻らないことは明らかだった。確実に──()った。

 

 

 

 

「釘崎…だっ…だめだ…釘崎!!くぎっ──」

 

 

呪力を拳に纏わせる。この原型。純粋な呪力強化で。今の私には、順平がいる。順平の魂は私に混ざり合って私のものとなっている…!!死に体の虎杖。その呆然とする胴体へ…!!

ゾクゾクする!!自分の才能に…!!私の順平にちょっかいをかけた女。弾けた左目と力なく倒れた姿が快い。私の順平に違う道を指し示した虎杖。その魂が折れた瞬間…!!私が…!!私こそが!!

 

 

「呪い」だ!!!

 

 

 

 

 

黒 閃

 

 

 

 

 

天井にぶつかりながら吹き飛んだ体を掴み、さらにもう一発。続けて壁にめり込んだ頭へ蹴りを放った。黒閃を決めたことによる新たな感覚の境地。最高の瞬間をまだ終わらせるワケにはいかない。

 

 

「どーせキミは!!」

「害虫駆除とか!!」

「昔話の妖怪退治とか!!」

「その程度の認識で来たんでしょ!?」

「甘いんだよクソガキが!!」

「これはね 戦争なんだよ!!」

「間違いを正す戦いじゃない!!」

「正しさの押し付け合いさ!! ペラッペラの正義のね!!」

 

「キミは私さ 虎杖悠仁!!私が何も考えずに人を殺すように キミも何も考えずに人を助ける!!」

 

呪い(わたしたち)の本能と人間(キミたち)の理性が獲得した尊厳!!」

「100年後に残るのはどっちかって そういう戦い!!」

 

 

「…そんなことにすら気づけない奴がどうして私達に勝てるの。」

「ねぇ虎杖悠仁。殺した呪いを数えたことある?」

「ないよね──私も♡」

 

「殺した人間の数とかマジでどーでもいいから。」

 

「キミの事もそのうち忘れるさ。」

 

 

右腕を鎌の形状へ。首をひと刈りすれば事足りるだろう。これで私達の因果を──

 

 

 

拍手の音。

 

 

振るった鎌は空を切り、見下ろす虎杖の姿が消えていた。

 

 

「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理を表す ただし!!」

 

「俺達を除いてな」

 

 

!!…顔面のキズ!!今のは位置の入れ替えか。花御を追い込んだ術式!!

 

 

虎杖が蹲って何か言っているようだが、そんなものに興味はなかった。右の鎌を展開し、そのままトドメを刺してあげよう。

 

 

「声が小さくて聞こえないなぁっ──」

 

 

拍手の音。

 

 

──左後方!!振り返れば──

 

 

拍手の音とともにこめかみへ突き刺さる蹴り。地面へバウンドしながらまた拍手の音を聞いた。

 

 

「ははっ面白い!!」

 

 

三回の拍手。対象は自分も含めた四人分あったはず。どこを入れ替えされるか読めなければ、全く反応できない!!ここまで混乱するものなのか!!

 

 

チョンマゲ呪術師のご高説を聞き流して順平に体の操作を任せた。上半身は格子網状に変わる。投網で正面の奴を捉えようとすれば──位置が入れ替わった。

 

 

背中合わせになった上体を掴まれる。すぐに網目を切り離して私の体を順平の背から()()()。前を向く順平は、時間差で起動する改造人間を設置している。触りさえすれば──

 

 

「どうした?俺には触ってくれないのか?」

 

 

──またも位置替え。私と奴の位置を交互に入れ替えながらいなしている。しかし正面は既に対応済みだ。順平が仕掛けた改造人間が槍のように変形して奴の背後から突きを放った。

 

 

「!!」

 

 

これも身を逸らして躱すか!!…しかしだいたい分かってきた。順平と私がこのレベルで混ざっていれば、恐らく術式対象としても不可分だ。位置替え相手には私の原型を当てる方が効くだろう。次の位置替えも対応出来る。呪力を込めた打撃。それによって発生したあの黒い火花。アレだ…!

 

黒閃(アレ)をもう一度決めれば分かる…!!もう少しで辿り着ける気がする!!

 

 

私達の魂 その本質へ!!

 

 

拍手の音。

 

そこに立つのは──虎杖。

 

 

構えた右拳に込められた呪力と構えから見える集中力。さっきまでのくたばりぞこないとはわけが違った。私もヤツも狙いは同じ。ぶつかる拳は──

 

 

 

 

黒 閃

 

 

 

 

衝撃が私の腕を貫いた。吹っ飛ばされるもすぐに立て直し敵を見据える。あっちも二人。こっちも二人だ。体の裡で心配そうにする順平を宥めた。負ける気はしない。右腕を呪力で再生しながら吐き捨てる。

 

 

「死に体だね」

 

「おかえり」「応!!」

 

 

 

 






オタクに優しくない釘崎野薔薇
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