右腕に形成した槍による刺突。いなされ槍先を折られる。下がる上体に対してチョンマゲゴリラが蹴りを構えているが、左手の茨鞭で対応すると──
拍手の音。
振るった鞭が天井を裂いた。すぐに順平を背中から生やす。位置替えで背後を取られても私には順平がいる。二人の相手をしながら私も正面に意識を戻して策を練る。
チョンマゲの魂をワンタッチで殺せる可能性。死に体で魂は残り一割程の虎杖。そして私は──順平と合流出来たことで魂は万全に比べて六割程度…!あのラッシュと黒閃で削られたのが痛い。それも全てあの女のせい。雑魚のくせに爪痕はしっかり残していったうえ、私の順平の体に跨ったのも腹が立つ…!!
まずは厄介な位置替えから
拍手の音。入れ替わったのは改造人間とチョンマゲだ。
──っ無生物との位置替え!!解放前の改造人間の呪力も拾えるのか……!!背後に回られ──
真人さんは二人で戦うと言ってくれているが、ほとんど一人でやっているようなものだった。七三術師も、茶髪の女術師も彼女の手で殺した。僕が出来たことなんてせいぜい走って逃げ回ったくらいだった。術式も相手に行使できず、改造人間も使えないから手数で劣ってしまう。明確な真人さんの下位互換だ。それでいいと彼女は言ってくれるけれど…
真人さんは黒閃を決めた。彼女が決めたことで僕も調子がいい──なんて都合のいいこともなく、彼女だけが楽しそうに戦っている。改造人間を準備して、言われるがまま対応して。いつも彼女が引っ張っていって、僕はそれに流されるままぷかぷかと。それでいいのだろうか。それでいいのかな。
真人さんは──それで一緒に居てくれるのだろうか。
真人の背中で溜められた呪力。東堂の蹴りに対応して現れたのは、前髪で右目を隠した分け身の姿であった。東堂には魂の輪郭を捉え、真人にダメージを与える術はない。打撃による衝撃や硬直、形を戻す手間を生じさせることは出来るが、言ってしまえば東堂達にとってそこまでメリットではない。真人からしてみればノーダメージの攻撃だ。無理に反撃する意味はなかった。しかし順平は魂の赴くままに触腕を構える。その脇腹に刺さった術師の蹴りは黒く空間を歪ませた。
衝撃は魂には響かずとも肉体を砕いた。魂の形を保って元に戻すよりも、もっと本能的な欲望を優先して白い鞭がうねり振るわれる。その柔らかくしなる白い先端は──黒い火花を散らした。
黒閃を受けた後に振るわれた鞭打の威力では、たとえ2.5乗されたとしても、確実に有効な一撃とはならなかった。しかしこれにより四者其れ其れが
120%の
表出した順平の魂。振るわれたその力。それはまさにあの時と同じ黒く穢れた美しい魂によるものだった。言わずとも通じる。彼には彼なりの悩みや迷いがあり、それがまた魂の魅力を引き立てていたことは確かだ。しかし彼は私と一緒にいたいと願い、その魂に従って動いたのだ。これ程素晴らしいことがあるだろうか。
私達のギアはますます上がる。
「ぅぐ オ゙エ゙エエエッ」
改造人間の大盤振る舞いだ。手のひらに吐き出したそれらを合わせて丁寧に混ぜる。重ねられた順平の手によって圧力と質量を保持し、その反発力と跳ね上がった質量を前方へ解放すれば──
『
『
どす黒く濁った人体による大質量。入れ替えは無意味な全範囲への攻撃!!
「アゲてくよ虎杖!!! 私達とキミ!!最後の呪い合いを!!」
拍手の音。掴み引き倒された私の頭部に向けて放たれた蹴りは──自切で回避。首から下、残った体には順平がいる。問題なく私は術式を行使できる。
すげ替わった新たな首は彼のものだ。振るわれる触手は空気を裂いて高い音を響かせた。二人を同時に相手取る彼の成長を喜びつつ、魂を混ぜ合わせる。
「多重魂」
拒絶反応が強い魂同士なら反発力を利用できる。では拒絶反応が弱ければ?混ざり合った魂は体を成すことが可能だ。複数の魂を燃やして火力を高めたその改造人間は──
『
拍手の音が二連続。私とチョンマゲの位置替え。さらに今まで二人を相手していた順平と私の位置替え。この二回の位置替えによって私の目の前には虎杖の姿がある。先に幾魂異性体を潰して、私と虎杖をぶつけるつもりだろうが──そうはいかない。
「何!?」「東堂!?」
幾魂異性体から殴り飛ばされるチョンマゲを後目に、私と順平は合流する。恐らく攻撃力を見誤ったのだろう。ようやく位置替えと分断できた。幾魂異性体をさらに二体追加することでヤツは帰ってこれないはずだ。今のうちに押し切る!!
撥体の攻撃を向けるが、飛び出す複数の口を避けた虎杖はさらに飛び蹴りを仕掛けてきた。防御したと同時に脚を掴んでぶん投げる!!
「どうやらとことん 俺を仲間外れにしたいらしいな。」
原型の私の膂力だ。まあまあ効くと思ったがしぶとく生き残っている。チョンマゲも幾魂異性体の二体では仕留めきれず、虎杖との合流を許してしまった。
コイツに攻撃を当てるのはかなりハードルが高い…かと言って私の領域を展開すれば、私は宿儺に触れ殺される!!
虎杖のみを領域から除外する手段はもう通じないだろう。里桜高校の一件で既にそれは割れている。ならばどうするか?
それを 与えてくれたのは
「領域展開」
『
一か八か!!
生得領域の融合。混ぜ合わせて一つになったそれを──展開する!!
今は頗る調子がいい。生得領域の具現化と術式の発動。二段階の工程をグダグダとやる必要すらない。私なら、私達ならやれる。領域には既に術式を付与している。対象はあの位置替え術師。左手には──呪毒による痣が走る。
私の術式を付与すれば魂に触れてしまう。ならば順平の術式を使えばいい!!肉体に刻まれたそれはもう融けてしまったが、半ば呪霊と化したその魂には術式が刻まれていた。
チョンマゲの左手にゾワゾワと走る痣の異変に気づいた虎杖は余所見をしていた。すかさず殴り飛ばす。
「東堂──ッ!!」
ヤツは腰だめに手を構えて簡易領域を展開した。必中の呪毒ではこれ以上攻撃できない。しかし展開のために構えをとったその隙は大きい。
「せっかくオシャレにしてあげたのに」
生得領域の融合と彼の術式付与の早業。負担は私の生得術式の出力低下を招いた。ワンタッチで致命傷とはいかないだろう。そのため手のひらではなく呪力強化した拳を叩き込む!!今の私達ならキマるはず!!ガラ空きの胴体へ──
…コイツ!!山勘で腹に呪力を集中させて──ダメージを最小限に抑えた!!
吹っ飛んだ巨体へ再度距離を詰める。左手は毒でまともに動かないはずだ。位置替えは不可能。削ったヤツの魂を──「無為転変」で殺す!出力の落ちた術式でも今なら命に届く!!
ヤツの首につけていたロケットペンダントの紐がちぎれた。落下して開くその中の写真には──
開いた私の手のひらへ打ちつけたヤツの手からは、一際大きな拍手の音が響いた。
現れたのは虎杖。既に拳はこちらへ到達する直前だった。
頭部に走った黒い閃光。後方へ吹っ飛ばされた。無理がたたり、領域は解除される。焼ききれたのは順平の術式だけ。思考を止めずに手中の魂を混ぜ合わせる。まずは時間が欲しい。少しでもいい。時間を稼げ!!
「多重魂」『幾魂異性体』!!!
虎杖と幾魂異性体の攻防が視界に入りつつも、私の胸中は穏やかなものだった。黒閃をモロに喰らうことは計算にはなかったが──ついに摑んだ…!!
私達の魂の本質!! 本当の形を!!
『無為転変』
『
「──ハッピーバースデーってやつさ♡」
順平と混ざり合った魂。黒黒と濁った胴体と肩に備わる赤黒い鞭。左右に各二本計四本のそれらはうねり歓喜の声をあげていた。赤く太い尻尾は高質量を保ち振るうことが可能だ。目も鼻も顔には必要ない。あるがままの私達には仮面のように張り付いた青い外套膜が似合っている。冠のように上へ尖った意匠は、私達が完全に別次元の存在へと成ったことを意味した。
「……黒閃を経て理解したんだ。私達の本当の…あるがままの魂をね。」
「…驚いたよ。オマエが自分探しをするタイプだったとはな。」
今はただ心地よい。ヤツとの戯言もすぐに終わる。
「ふふふ。でも仕上げはここから。」
「キミを殺して──私達は初めてこの世に生まれ堕ちる。」
前方を鞭で薙ぎ払った。姿勢を低くし回避した虎杖はさらに頭部へ向けて蹴りを放った。容易く触手で捉え、足に切れ込みを入れる。振るった尻尾は足に受け止められ、続けた右フックもいなされた。腹部にヤツの拳が入るが──表皮で軽く受け止めた。その程度の攻撃は通らない。
反撃で振るう計四本の荒ぶる黒鞭は虎杖の肉を抉り、刻んでいった。合間に入るヤツの攻撃は全て無為に終わる。
頭部を掴み、そのまま地面へ叩きつける。亀裂はアスファルトの層を超えて、地下水道管を破裂させた。落盤したその場所は窪地となって、剥き出しの水道管から水が流れ落ちている。ここが土壇場だ。
ヤツの右膝がガクガクと震えている。私の右肩に備えた黒鞭一本はボロボロと崩れ落ちてしまった。領域展開直後の黒閃。アレを受けたことが間違いなく響いていた。
「ふふふふ。お互い 元気いっぱいだねぇ。」
水面を叩く。水しぶきが視界を覆った。それを吹き飛ばす左腕は避けられ、続く右拳を手の甲でいなされた。狙いが見え見えの構え。全力の出力で黒閃を決めに来るはずだ。
黒閃を狙って出せる術師はいない。だがヤツは、今の虎杖なら狙って出しているような凄みがある。無策で挑めば祓われる。しかしその対策は既に済ませている。
「偏緤即霊体」の一部解除。サイズが変形すれば打撃の衝突ミートはずらせる。そこを呪力でカバーし、呪力を拳に集中させた虎杖にカウンターを決める!!
少し身じろぐ程度の打撃が左肩を揺らす。既に右肩の黒鞭は振るわれた。虎杖の首元を軽く吹き飛ばせる。これで私の、私達の勝ち──
──時間差で二重の衝撃が体を叩いた。遅れて振るわれた鞭は虎杖の頭を掠っただけ。これは、あの里桜高校での打撃……!!
ッ!!すぐに左の拳をヤツへと──
「呪霊よ オマエが知らんハズもあるまい」
見えたのは腕のない術師。その術式は位置替え!!偏緤即霊体を解いた左肩からは順平の触腕が勢いよく伸び──
「腕なんて飾りさ 拍手とは」
魂の 喝采!!
後方へ振るわれる触腕。
それは──空を切った。
背中は順平に
振るわれた右肩の黒鞭。それが虎杖の首元へ──
「……ここまでとは予想できなかったな。」
死に体の位置替え術師にもトドメを刺した僕達は、未だ偏緤即霊体を解除していない。眼前には夏油さんの姿。獄門彊はもう処理を終えたのだろう。
魂の本質を掴み、さらに
「呪霊である私、いや、その術式が狙いだったかな?虎杖相手に負けちゃったとしても、勝ったとしても、弱った私を目当てに待ってたんだ?」
「まぁね。勝手に祓われる訳にもいかないから、結構ヒヤヒヤしてたんだよ。でも君を正面から相手取るのは面倒だからね。成長し、消耗したところを見計らってたんだけど──」
今の真人さんならもっと自由になれる。それを魂で知覚した。呪力も残り少なく、魂の残量は全快時の一割程度だろうか。しかしそれだけで十分だった。
真人さんは空に向けて術式を行使した。掴み形を捉えたもの。全てが観えていた。有機的な生き物だけではない。無機物にも、周りの全てには魂が存在する。
『
かき混ぜたそれらは大きな空気の渦へと変わる。固い地面に触れれば柔らかく液状の感触へと変わっていった。その全ては──真人さんの手の上にある。
「目的は達しただろう?ここで私達を深追いするかい?」
「いや…よそう。今の君達は、私の手には余りそうだ」
ズブズブとアスファルトへ沈みこんでいく体。その路面すら彼女の前では粘土細工に等しかった。全ての魂に干渉し操る。新たに開花した術式の深奥。真人さんは
「順平──ようやく始まるよ。呪霊の全盛──呪いの時代が…!!」
偏緤即霊体:混ざり合った二人の魂の本質を摑むことで成った200%の原型。固い。黒い鞭は四本肩についており、中距離を薙ぎ払えるうえに腕がフリーに使える。限定的に解除すれば順平も飛び出す仕様。この姿に固定された訳ではなくて、あくまで戦闘においては出力の高い姿をとっていただけで、もちろん二人別々に戻ることも可能。
有為転変:黒閃をキメまくり、因果を断ち切ったことで摑んだ極の番みたいなもの。無機物の魂を観測する目を獲得することと、それに干渉するレベルにまで進化することで使えるようになった。呪力でカバーしなければあらゆる障壁は意味をなさず、地面に柔らかく潜り、空を固く弾くことが可能になる。まだまだ成長の余地アリ。
順平くん:腹を決めて虎杖君を倒すことに。真人さんのことが好き。彼の存在が勝利の決め手になった。
真人さん:順平のことが好き。最凶に成った。夏油に取られる未来を回避。因果を断ち切ってニコニコ。
夏油(偽):タイミングよく収穫しようとしたら手がつけられなくなってた。とりあえず五条悟は封印したため、次の策に向けて動く。