オタクに優しい真人♀   作:ゾエア

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形影一如:2

 

 

「そんなに……、使うんですか。」

 

 

いつもの下水道の資材置き場。真人さんの術式によって改造された人間は十数体ほど。それぞれ好き勝手に呻いて騒がしいが、僕が嫌そうな顔をすれば彼女はどう扱うだろうか。これ程の人数を集めた理由は一体何なのだろう。

 

 

「ある程度実験できたからね。この子達にも活躍してもらわないと。あんまり相手が弱いと意味ないからさ。先に試してもらうんだよ。」

 

 

「相手って…。術師と戦うんですよね。この人達。」

 

 

ぞろぞろと動き始める異形の数々。真人さんの指示によってテキパキと各水路に誘導されていく。これだけの人を。性別も歳も関係なく無作為に選んで改造しているようだった。

 

 

「……怖くなった?私の術式。呪霊としての(さが)。無関心じゃいられなくなってるね。可愛い♡」

 

 

近づいて覗き込まれた。高い身長と起伏に富んだ体型は黒いローブに覆われている。顔をさすってくるその手は一瞬で僕の体を捏ねることができるだろう。ニタニタと嗤う顔は呪霊そのものだった。映画館での出来事が頭に浮かぶ。

 

 

「この子達は魂の願いを叶えたんだ。私は自分の目的のために使っているけど、この子達にもそれぞれちゃんとあるんだよ。生き様が。その魂の目的がね。」

 

 

隣に立った真人さんは、僕の肩に腕を回して周囲のヒトガタ達を手で示している。大袈裟なその身振りは彼女の機嫌の良さを表していた。ローブの下にある柔らかい肌の感触。今はそれを恥ずかしがる余裕もなかった。

 

 

「あるがままの魂、その姿がこの…」

 

 

「そう。例えばアレ。彼女は美しくなりたがってた。私相手には誤魔化せない、魂の願いと本質そのものさ。それを体現させてあげたんだ。ちょっと扇情的過ぎるけどねぇ。」

 

 

にこにこと笑みを浮かべる真人さんが指差すそれは、確かに服すら着ていない女性と判別はできるモノ。でもその姿は一般的な美しさとはかけ離れた姿だった。過剰な数と大きさを備えた胸の脂肪塊は六つ。すらっとして長い脚も逆関節になっている。白く輝く揃った歯列は綺麗なものだが、上下に裂けたように開く口には似合わない。これが彼女の──魂の願い?

 

 

「…僕の、僕達の本質は、真人さんにはああ見えてるんですか…?」

 

 

知っていたはずだった。呪霊として躊躇いなく人を弄ぶその仕草を。実際に見たはずだった。でもこんなに、ここまで僕と違うものが──

 

 

「んふふ。順平はアレみたいに弄られるのが怖いんだね。誰かに嫌なことされてばっかりだったから。過去のことをそう簡単に切り離して考えられない。だからやり返したくなった。そして今は、私と一緒にいるための言い訳にしたかったのかな?」

 

 

「…」

 

 

至近距離に、文字通り目と鼻の先に継ぎ接ぎの美しい顔があった。青と灰の目が僕の揺れ動く顔を、魂を捕らえて吸い込んでいくようで。

 

 

「だいじょーぶ。君の願いは私が守ってあげる。過去との決別だよ。まずはムカつくヤツらを呪術で懲らしめちゃおう!君が感じている恐怖は単なる肉体の反応だからね。復讐を遂行すれば自信もついてくるよ。」

 

 

「…でも、自信とか、そういうのじゃなくて。ただ──」

 

 

「私が君の居場所になる。誰に憎まれても、誰に呪われても平気なところに。私はまだまだ強くなるからね。」

 

「そしたらここについてる()()も、つけたヤツのことも、気にしなくなる。そうでしょ?」

 

 

髪の上から優しく触れるその手には、呪霊も人間も関係ない、本当の慈愛が宿っている気がした。

 

 

「よし。そろそろここから離れた方がいい。術師との戦闘は私にとってのお勉強さ。君は君のやるべきことをするんだよ。」

 

 

真人さんとのやり取りではボディタッチが多い。術式のせいか、人に触れることが好きなのかもしれない。人を粘土のように変えてしまうその手で、体を好きにこねくり回すのではなく、僕の魂を労るように優しく扱う。パーソナルスペースにするりと入ってしまうその手腕が、案外嫌いじゃなかった。自分はそこまで人と触れ合うことが好きじゃないけど、いつの間にか慣れていたようだ。

 

最後には親しげな抱擁。そのハグは恐ろしい呪霊のものとは思えない。むしろ学校の、あの醜い人間達よりもよっぽど…──

 

 

 

 

 

 

 

「母ちゃんいい人だな。」「…うん」

 

 

家の前で出会った同い年くらいの学生は、うずまきのボタンをしていた。真人さんの敵である呪術師。映画館で見たことは隠したが、彼とは映画の趣味が合うし、母さんとも楽しく食卓を囲むことが出来た。飲み過ぎてそのまま寝てる母さんにタオルケットをかけて、虎杖君の言葉に返事する。

 

 

学校に行かなくてもいい。そんなの小さな水槽みたいなもの。海でも他の水槽だって好きに選べばいいんだ。母さんはそう教えてくれた。自分の居場所は…、まだここにある。そして次の場所も自分で選んでいけばいい。

 

 

「虎杖君は呪術師なんだよね?」「おう」

 

「人を…殺したことある?」

 

「ない…」

 

 

嫌な質問だっただろうか。自分の決断を勝手に委ねるような。でも虎杖君には聞きたかった。呪術師として、そして友達である彼に。

 

「でもいつか、悪い呪術師と戦ったりした時は?」

 

「…それでも、殺したくないな。一度人を殺したら、『殺す』って選択肢が俺の生活に入り込むと思うんだ。命の価値が曖昧になる。それで大切な人の価値まで分からなくなるのが、俺は怖い。」

 

「そっか。ごめん。急に聞いたりして。」「映画の話?今から見るヤツの?」

 

 

すぐにいつもの調子に戻った虎杖君は、映画を見て帰るようだった。

 

 

──人に心なんてない。その考えに救われた。力を 与えてもらった。でも僕が人を殺すことで、あの魂が穢れてしまうなら 僕に人は殺せない──

 

 

 

 

 

 

 

最初は何の興味も惹かれなかった。たまたま目に入った映画館。そのスケジュールを眺めて、上映室に足を運ぶ。スクリーンに映るシーンを尻目に、座席にいる人間の顔を拝もうとした。

 

 

感じたのは暗い色。

ドロドロに溶け憎悪と葛藤で爛れるその魂の持ち主は、可愛い目をした少年だった。前ではしゃぐ三人組に向けるその視線。目を瞑り感情を押さえ込もうとするその仕草。呪霊としての自分は、私は、この子が()()()()()()。だから声をかけてみた。

 

まずは第一印象が重要だ。分からなくても、すぐに見えるようにいじってあげられる。しかしその心配も杞憂に終わった。彼は私の存在を感じることができた。声に気づいた彼の見上げる顔。視線は私の顔や体つきを吟味すると、すぐに逸らされてしまった。

 

 

根底にあるのは不安と不信みたい。他者からの無償の愛が彼には必要だろう。誠意を見せなければ。隣で話しかけても尚頑なな彼の魂は私の興味を惹きつける。

 

 

早速行動した。おしゃべりな子達への隠しきれない憎悪。溜まったそれが漏出したような程度だったが、マナーを守って欲しい彼の願いを叶えてあげた。映画を静かに鑑賞できるように。彼等も泣いて喜んでいる。

 

 

戻った私を見て怯える小さな声に、私は表情筋を抑える努力をした。魂の揺らぎは呪霊としての本能をかき立てる。触りたい。その魂を。

 

 

首へ触れた瞬間にそこから代謝物が、すなわち恐怖や畏怖の感情が漏れ出るのを感じた。触るのはどこでもよかったが、前の子達と同じ部位に触れてみたのは正解だった。揺れる魂を撫でつける。これはいいものだ。

 

 

しかしこのままではいけない。私の欲望のままにするのもいいが、彼の魂の本質が知りたい。かける声と表情は荒立てずに、静かに待つ。幸いに、私の風貌と声色も相まってすぐに落ち着いていくれた。

 

 

彼の暗い魂の色。その全てが知りたくて、少しくすぐってみる。彼の方から話してくれるはずだ。作った魂の綻びはすぐに憎しみを短絡的に引き出してくれる。表出する感情も代謝物でしかないが、その一端だけでも彼のものなら心地よかった。

 

 

彼はあくまで呪術を、力を欲しがったようだ。私の真似をしてみたいと。人間を容易く弄ぶ力を欲するには私も彼もまだ幼い。故に少しずつ学ばなければいけない。そのために彼とお勉強。手を握る力はそこまで強くなく、まだ遠慮と戸惑いが見える。私よりも幾分か小さなその手が抵抗する感触が()くて、声をうわずらせた。

 

 

真に欲していたもの、それは肯定。自分への否定と蔑みにまみれた過去は、彼の正常な判断を奪ったのだろう。私という存在に対して無関心を語るその口と、人間の醜悪な本性に対する不信感を持つ矛盾。

 

その魂は幼く、純粋で、穢れていて、それでも自分の在り方と居場所を探し求めていた。愚かで可愛い私の順平。自分の術式や呪力の開花に喜ぶその姿に、魂を弄る手が何度震えたことか。

 

 

私を慕うその姿に、彼の願いについてもう一度聞いてみたかった。彼の復讐心。その原動力を維持して、そして呪いに溺れてほしかった。どうしようもない私の本性は、あるがままに振る舞う彼の魂が欲しくなった。それなのに…

 

 

自室のベッドでくつろぐ姿。私の分体の視線に気づくこともない。彼の緩みきった魂を独り占めしながら、私は歯噛みする。初めからあった自分の居場所に気づき、考えを見直した透き通る目になったのは、私が及ぼした影響ではなかった。

 

 

七三術師との戦いは私にとって素晴らしい経験となった。改造人間の扱い方。私の術式の本質。それらを掴んでいくうえで重要な役割を担った。しかし順平にはその間に宿儺の器との友情が芽生えていた。彼の欲していた対等な友人として振る舞うその姿は、それはそれはとても良く写っただろう。母も友人も、自分の大切なものとして認めた、その魂を穢さないため決心するのは素晴らしいことだ。

 

 

欲しいのは彼の魂であり、彼の全て。しかし彼は復讐も憎しみも抑え込んで生きていこうとしていた。いや、呪術師としての道すら開けたのかもしれなかった。彼の魂が私の手からこぼれていく。私から離れていく。

 

 

特級呪物『宿儺の指』。封印を剥がせば破壊不可能な呪霊寄せの完成だ。私の呪力を込めた呪符を仕込んだそれは策に必要だった。どこに置くか、どう使うか。指は高専に回収させなければならない。

 

 

私が彼の居場所に。使い古したものは不必要になるだろう。新しいところは探す必要すらない。それに…取り乱して震える彼の魂を感じてみたい。

 

 

彼との血縁関係にある魂とはどのようなものなのか、呪霊が貪る前に私も知りたかった。封印を剥がしたそれを突っ伏して眠る女の近くへと置く。すぐに寄ってきた呪霊の気配に心踊らせて、私は分体の視界を共有した。

 

 

 




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