オタクに優しい真人♀   作:ゾエア

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これが私の全力です。
ヤンデレタグを追加しときますね


愛憐蠢愚

 

 

「闇より出でて 闇より黒く その穢れを 禊ぎ祓え」

 

 

里桜高校の屋上から見下ろす校舎は、降ろした帳によって夜に沈んでいく。帳の効果は内からは出られず、外からは入ることができるというもの。順平が宿儺の器と仲良くしてくれたおかげで、いい流れができている。虎杖悠仁に宿儺優位の縛りを科す狙い。私の本命ではないが、いい絵図が描ければ僥倖だ。帳を確認すると夏油はさっさと帰ってしまうようだった。

 

 

「夏油も見てけばいいのに。きっと楽しいよ。」

 

「幼気な魂が 輝く所は。」

 

 

 

 

 

黒い服は持っていなかったから、母のクローゼットを開けてはじめに目についたものを羽織った。嗅ぎ慣れた朝の空気も、見慣れた通学路も、今日は──

 

 

生徒集会が行われている体育館に入ったところで、真人さんの張る結界が空を覆い隠し始めた。術式を行使するために呪力を練る。朝目覚めた時の感覚は()()調()だ。暗い負の感情は呪力を生み、術式の使い方は手に取るように分かった。最後の調整のおかげだろうか。勘のいい生徒は何人か式神の気配に気づいたようだが、はっきり見えている訳じゃない。どうせ見えても──何もしないくせに。

 

 

澱月(おりづき)

 

 

綺麗に並んでいた人間達が順番に倒れていく。軽い毒の触手に触れた程度だ。呪力が弱ければ動くことさえできないだろうが、死にはしない。

視界の端で戸惑う外村は僕とアイツらが友達だとほざいていた教師だ。何も分かってない。何も見えてない。見ようとしていない…!!だけど馬鹿でもすぐに分かるはず。僕が今からやるべきこと。あるがままの魂を。

 

 

「ちゃんと見ててね。」「!!」

 

 

前髪をかき上げた。これならちゃんと目に見える。右額の火傷痕。何度も、何度も押し付けられたその証拠が目に入れば、少しは頭を働かせてくれるだろうか。期待はしていない。それよりも、壇上の素知らぬ顔で見下ろすアイツ。アイツを…。

 

 

「聞きたいことがある。()()(うち)に置いたの──オマエか?」

 

「? なんの話──い゙っ」

 

 

格納していた澱月の針を左腕に打ち込めば、毒は死なない程度に体へ回る。これからまともに動くことはないだろうけど。じくじくと左半身を呪毒が蝕んでいく。

 

 

「な、なんだよ!!何したテメェ!!」「…なってないな」

 

 

ふらつく頭を軽く叩いた。呪力で強化すれば非力な僕でも簡単に殴り飛ばせる。倒れたアイツの腹に蹴りを入れる。何度も、何度も。

 

 

「オマエは死ぬんだよっ。質問の答えがイエスでもノーでも。だって僕にオマエの嘘を見抜く術はないし。そうされるだけのことをっ、オマエはしてきたからね。」

 

 

澱月の触手は死に体を軽く持ち上げた。反抗する僕を囲んで蹴る姿。襟首を掴んで押し当てられる熱。思い出したそれらを真似するように甚振る僕は、僕の魂は、ちゃんと真人さんに見えているだろうか。

 

「最期くらい誠意を見せてくれ。」

 

「…ごめ゙んなっ ざい」

 

「で? だから?」

 

劣るものを見下し、弱いものを苛めることに皆が嵌るわけが分かった気がする。案外気分がいい。そういうことなんだ。心なんてない。腹が減ったら食べるように、憎いから殺す。それでよかったんだ。それなのに──

 

 

体育館の扉が開いた。現状を目撃したその男は僕の犯行だとすぐに察したらしい。虎杖悠仁はうずまきのボタンをつけていた。呪術師は何の為にいるのか。誰を救うためにあるのか。少なくとも──母さんを救うことはしなかった。

 

 

「何してんだよ!! 順平!!!」

 

「引っ込んでろよ。呪術師。」

 

 

トドメを刺すのはあとになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あーん。いいとこだったのに〜。」

 

 

覗き見していた順平の晴れ舞台。呪いを使う姿も濁り澱んだ彼の魂もすべて垂涎物だ。短絡的な思考のもと、憎い人間を呪うことで魂の欲望を解放していた。

 

一人でやらせてあげた甲斐がある。私も一緒に遊びたかったが、個人的な復讐と母親の恨みがぐちゃぐちゃに混ざったその魂は、私の前では恥ずかしがって鳴りを潜めてしまう。彼にもプライバシーがある。それを尊重するために、帳を張った後はこっそりと覗き見に徹した。

 

彼の初めての呪殺が、私の手解きした術式によって行われたと考えれば、私も溜飲が下がる。しかしことはそう上手くいかなかった。

 

 

宿儺の器の登場が彼の救いになってしまうかもしれない。今は式神による戦闘をこなしているが、彼はまだまだ未熟。順平に殺されまいとして、虎杖悠仁は力を求めて宿儺と交渉し、縛りを科すことになるだろうか。そこまで追い詰められるほど順平は──強くない。

 

 

しっかりアレを殺させてあげたら、彼の魂もタガが外れていたのだろう。迷いなく呪うことが可能な、立派で愛らしい呪詛師になれたはずだ。少しタイミングが悪かった。

 

 

「うーん。相性悪そうだねぇ。それに、順平も詰めが甘くて可愛い♡」

 

 

戦う意思はあっても殺す覚悟はないようだ。毒で大人しくさせる狙いも、宿儺の器の耐性によって意味無く終わる。戦闘の合間に行われる問答のせいで、彼の魂は揺れていた。順平が泣き喚く姿を堪能しつつ、私も準備を始めた。魂から窺える虎杖悠仁の善性が、彼の憎悪を解きほぐしてしまう。そのままの順平が一番魅力的だと想うが、呪術師というのも難儀な性分みたいだ。

 

 

過去の惨めに傷つけられた記憶と、母の死で悲痛に呻く思いを吐露する魂の声に、思わず耳が疼く。代謝物である心、その全てが欲しくなった。屋上から階段を下りて、踊り場で話す二人の元へと向かう。きっと順平の魂は歓喜の声をあげるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめましてだね。 宿儺の器。」

 

ボコボコと真人さんの左腕が膨張する。階段を降りるその姿は攻撃の意志を示していた。これは──

 

 

「待って真人さん!!」「がっ!!」

 

 

窓枠に叩きつけられた虎杖君。巨大な左腕が体を固定している。彼は、僕と真人さんの関係を知らなくても逃げるように忠告してくれた。自らが拘束されている状態でも僕の身を案じて。真人さんと呪術師は敵同士!!僕はもう虎杖君を呪わない…呪いたくないから…!!

 

 

「虎杖君落ち着いて!!真人さんは悪い人じゃ──」

 

「悪い……人……」

 

 

改造された人間達の姿。大きく膨れ上がって呻く顔。黒く小さく圧縮された人形(ヒトガタ)を握る手の感触。下水道で犇めく異形の群れ。彼女はいつも好きに人体を弄んでいた。僕がいても、いなくてもお構い無しに──

 

 

「かっこよかったね順平……♡魂の赴くままに振る舞うのが、やっぱり一番気持ちいいはずさ。」

 

 

背後に立つ彼女の右腕は僕の肩に回して、いつも通りのスキンシップ。虎杖君を窓枠に押し留める左腕と、優しく顎下を掻いてくる右手。その相反する動作が僕の思考を乱す。

 

彼女は、呪霊で、人を…傷つけて…それに加担した僕は…

 

 

「でもまだまだ。戦いは魂の削り合いだよ。こんな風に♡」

 

 

そう言って胸元から取り出したのは小さなヒトガタ。術式によってサイズを変え、異形の姿になったのは見覚えのある髪型の──

 

 

「ジゅ…ぺ…」「──ぁ」

 

 

「ジャジャーン!!色々弄ったからちょっと足りないけど、順平ママー!!実は生かして取っておいたよ!!」

 

 

…なんで、だって、(うち)で死んで。声が…目も、あぁ、ああぁ。

 

 

「お家のは私が作った偽物。順平気づかなかったね〜♡泣いてるとこめーっちゃ可愛かったよ!!!もう顔覚えたから再現もし放題。こんな感じ!!」

 

 

真人さんはいつの間にか母さんの顔になっていた。見たことも無い母の表情は、ニタニタと嗤う呪霊そのものだった。

 

 

「さ、ラウンド2だ。行っておいで。」

 

 

拘束が解かれた虎杖君に異形が迫った。その正体に気づいた彼は体を抑え込んで、殴られながらもスクナと交渉し始めた。肩を抱き寄せているその腕を緩めて、母の顔をしたソレに話しかける。

 

 

「ま、真人さん!!か、母さんは、母さんだけは!!元に戻してくれませんか!!真人さん!!」「ムリ。」

 

 

「弄り過ぎちゃった。脳も多分焼けてるね。戻してもパーツが足りないし、上半身だけなら飾れるけど…腐っちゃうよ?急ぎで欲しいなら、形だけ同じ改造人間(おもちゃ)あげるからそれで我慢できる?」

 

 

 

 

 

そうか この人は

 

どこまでいっても

 

"呪い"なんだ

 

 

 

 

 

 

 

「──澱づッ゙

 

「──私が欲しいのは君。君の魂全部が欲しいの。」

 

 

首に触れた手のひらから走る衝撃で舌が痺れた。掌印を結ぶことすらできない。そのまま胸中に引き寄せられる。噎せ返る程の死臭が甘く鼻を犯す。彼女の隠していた本質。魂の形だった。至近距離で見上げたその顔はもう元に戻っていた。ゾッとする程の美貌。オッドアイが爛々と光って僕の顔を、魂を獲物に定めていた。最初から全部僕の魂のため。復讐と呪いを教えたのも、母さんに手をかけたのも、全部…全部…!!

 

 

「どうやったらずっと一緒にいられるか、色々考えた。不安定に揺れる美しく穢れた魂。その全て余すことなく私とともに。」

 

「私と君の、二つの魂を混ぜ合わせるんだ。小さくした肉体は、お母さんから借りたモノで維持しながら少しずつね。急に混ぜると拒否反応で弾けちゃうし。肉体も並行して少しずつ昇華させていく。」

 

「順平は勝手に復讐諦めちゃったよね。全部見てたよ? 君を手伝ってあげたのに。呪い穢れていく君の魂は私だけのものなのに。それでも結局はイタドリクンと一緒に戦いたくなっちゃったかな?移り気だねぇ。可愛い♡」

 

 

「…っ!!……!!」

 

 

地に着いていた足、引き剥がそうともがく腕、それがだんだん短く小さくなっていく。いや、身体中が縮んでいた。穏やかに痛みもなく、しかし確実に異変が進んでいる。足は空を蹴りはじめ、抱きしめるその腕だけで体を支えられていく。体の境界線が曖昧になる。剥き出しの下腹部と触れた部分から徐々に融けて…──

 

 

「んふふ。ふふふふ。ふふふふふ。ふふふふふふ────

 

二体の呪いの笑い声が廊下に響いていた。殴り続けていたモノも、次第に弱って崩れ落ちてしまった。

 

 

「じゅ…ン…い」

 

 

「あっもう死んだ? やっぱりそんなもんかぁ。 …そうだ順平!私がもっかい死化粧してあげよう!コツ掴んだ気が──」

 

 

虎杖の拳が顔面を捉えた。階段の踊り場に転がった呪霊はすぐに起き上がって構える。鼻からは鮮血が滴り始めた。

 

 

ブッ殺してやる」「"祓う"の間違いでしょ 呪術師」

 






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