一番星と『元極道の娘』 作:ヒリヒリ
某日某所、星を宿した瞳を持つ女性が一つの映像を見ていた。
──プリンセスリーグ、と言うのものがある。トーナメント形式で競い合い、優勝すればアイドルとしてメジャーデビューが約束されているアイドルを目指す子達にとっては、まさに夢を掴めるか否かの戦いの場。
女性が見ているのは、そのプリンセスリーグ優勝者と準優勝のユニットが新たに組んだユニットが行った日本ドームでのライブ映像の録画。
「……」
しかし、あろう事か女性は録画の大半を早送りし、プリンセスリーグの優勝者こと澤村遥がマイクスタンドからマイクを外した辺りで再び映像を再開した。そこから始まるのは、当時日本中を騒がせたスキャンダル発言。澤村遥が、元東城会四代目会長である桐生一馬に育てられたと言う事実。
『ファンの皆や、何より自分自身に嘘をついて生きていく事は、私には出来ません』
嘘が得意な女性からして、その発言から嘘は感じなかった。自分の様に、嘘を纏ってアイドルを続けることも出来ただろうに。
『私の夢は、アイドルになる事』
それはそうだろう。そうでなければ、わざわざプリンセスリーグに出場するわけがない。
『でも、もう一つあったんです』
自分と同じ施設育ちなのに、アイドルになったという所も同じなのに、自分とは違う道を行くと決めた彼女。そんな映像の中の彼女の口が、ゆっくりと開かれる。
『大好きな人たちと、一緒に幸せに暮らすこと』
彼女は知っているのだろう。自分が嘘を吐いてまで求める『愛』を。
『今日この舞台に立って、私にとって何が一番大事なのかやっと分かりました』
気付いたのはこの時だったかもしれないけど、それでも自分より遥かに短い期間で『愛』を知ったのだ。
『だからもう、これ以上歌うことは出来ません』
『私は、桐生一馬の家族です』
そこまで聞いて、女性──星野アイは映像を消した。そして、近くに置いてあったスマホに手を伸ばす。
「もうそろそろ良いよねぇ〜」
澤村遥については、とうの昔に調べてある。彼女と会う為には、養護施設であるアサガオに電話をかける事が最も近道になるであろう事も。しかし、自身もスキャンダルに間違いなくなってしまう事情持ちである事から、何が起きるか分からないからと、彼女の所属する事務所の社長によってアイは澤村遥との接触を固く禁止されていた。それなりの期間その言いつけは守っていたが、もうそろそろ限界だった。というか、自分にしてはよく我慢した方じゃないかとまで思ってしまう。
「えーと、番号は確か──」
いつか調べたアサガオの番号を思い出しながら、彼女はスマホを操作していく。そして、通話ボタンを押した。
*
沖縄、養護施設「アサガオ」
男、桐生一馬は縁側に座り物思いに耽りながら、警察に捕まり過去の清算として大人しく収監されようとした日を思い出す。思えば、遥があそこまで泣いたのはいつ以来だったか。おじさんがいなければきっと心無い誹謗中傷の言葉に耐えられないと、おじさんと一緒に幸せに暮らす為にアイドルを辞めたのに、おじさんはまた自分から離れていくのかと、そう涙ながらに言う遥を前に桐生は弁護士を立ててムショ入りを避ける事を決断した。ただ、それを最も喜んだのは桐生が兄さんと呼ぶ真島吾朗であり、彼から紹介された弁護士の腕前によって執行猶予どころか無罪判決になったのは驚きだったが。
「俺と一緒に幸せに……か」
今でも偶に、自分がここにいても良いのか迷う時があるが、アサガオに自分がここを離れる事を望む者は1人もいなかった。ならばアサガオの院長として、アサガオの皆の父親代わりを務める者として、自分勝手にここから去る訳にはいかない。それは、桐生が遥と共にこの場所に帰って来た時にアサガオの面々に迎えられ、ようやく分かった事だ。
「さてと、やるか」
ゆっくりと立ち上がり、彼は洗濯機の方へと向かう。今日はいい天気だ。洗濯物を干さない訳にはいかない。慣れた手つきで洗濯物を干していくが、最近雨続きだったこともありやはり量が多い。
「これで、良しっと」
最後の一着を干し終え、桐生は少し伸びをする。陽光と海風が気持ちよく、このまま縁側で寝転びたい気持ちが少し湧くが、今日の昼飯は自分が作ることになっている為それをグッと我慢する。
「おじさん……」
「遥か、どうした?」
少し早いが昼食の準備をしようと動き出した時、話しかけてきたのは遥であった。その顔を見れば、明らかに困っているような表情を浮かべているのがわかる。しかし、少しだけ下を向いた後遥は顔を上げ口を開いた。
「……私に会いたいって電話が来たの」
「お前に?」
「うん」
「知り合いか?」
「ううん、全然知らない人。でも、『アイドル』として聞きたい事があるんだって。1人で不安なら、おじさんも一緒にどうかって」
『アイドル』澤村遥はもうすでに引退している。と言っても、引退してまだ5年も経ってないが。
例の暴露以降誹謗中傷は絶えなかったが、それでも時間が経てば興味の対象は他のものへと移るもの。基本的に桐生が対応していたのもあるが、最近はその手の電話も来る事が少なくなっていたし、もっと深掘りしたかったのであろうメディアの電話も断り続けているうちに自然と来なくなった。ネットを見れば未だ叩いてる人間がいないわけでもないが、それも当時と比べれば数は少ない。そんな中で、遥に会いたいと言う電話主の考えが桐生にはよくわからなかった。メディア関連の可能性もあるが、ならわざわざ桐生も一緒になどとは言わないだろう。
「……」
「おじさん」
「ん?」
悩む桐生に遥は声を掛けた。
「おじさんが一緒に行ってくれるなら、私は一度会ってみたいと思う」
「それは構わないが、良いのか?」
「うん。なんとなくだけど、悪い人じゃないと思うし」
「そうか。遥がそうしたいのなら、俺からは何も言わない」
「ありがとう。おじさん」
そう言って、受話器が外しっぱなしだった電話機の方へと駆けていく遥。それを見送ってから、桐生は再び昼食を作る為に台所へと向かった。
*
「ここか」
とあるマンションの一室。桐生達が会うと決めた電話相手の住所は間違いなくここであった。
「でもまさか、こんなに朝早くになんてね」
「ああ、聞きたい事がその後の予定に関連してると言っていたが……」
電話相手が指定した時間は午前六時。頼み込まれた結果了承したのは桐生達だが、電話相手は本州住み。その為、流石に沖縄からだと早朝便ですら間に合わない時間なので前日に本州へとやって来ていた彼らは余裕を持って目的地に辿り着いていた。
「はーい」
ドアをノックすれば、中から女性の声が聞こえて数秒。鍵を開ける音が響き、ドアが開かれる。
「えーと?本日はお越し頂き有り難う御座います……だっけ?まあいいや!私は星野アイ、よろしくね!」
開かれた扉の向こう、星を宿した瞳が二人を見つめていた。
ちなみに、これ以外にもそもそもアイがアサガオに入る話とか、アイの死後アクア君が詳しく調べる為に探偵雇って、その探偵が八神だったりする話とかも浮かびましたが、前者はともかく後者はジャッジアイズやったこと無いんで諦めました。前者は……うん、誰か代わりに書いてくれ(懇願)