一番星と『元極道の娘』 作:ヒリヒリ
貝原亮介の本名が、菅野良介だと言うことだけは布教してきた友人が教えてくれたので近いうちに修正かけます。
「全く、突然きたと思ったらあんな事言いやがって」
「えーでも社長だって気になってたでしょ?あれだけ色々言ってくれたのに、なんで当日来てくれなかったのか」
「そりゃそうだが」
「でも良い人だよねー糧さん。時間見つけて調査してくれるって言ってくれたし」
「事件に関連してるかもとも言ってただろ。後、そう思うなら名前くらいちゃんと覚えろよ。ダンテでも糧でもなく伊達だろ」
壁の向こうからそんな会話が足音が聞こえ、話し合いは終わった様だなと部屋にいた誰もが思うと同時に扉が開かれ斉藤夫婦とアイが部屋に戻ってきた。
「ママ!おかえり!!」
「お、機嫌治ったみたいだねルビー!」
待ってましたと言わんばかりに抱きつきにかかるルビー。それを受け止めるアイを横目に、斉藤は桐生の正面に腰を下ろした。
「単刀直入に言わせてもらう。桐生さん、恐らく察しは付いてるだろうが……5年、アイのボディガードをやってくれないか」
斉藤の言う通り、こうくるだろうと分かってはいた。それは桐生だけでなく遥もそうだが、しかし思ったよりも短いなと言うのが2人の率直な感想だった。
「お前のアイへの入れ込み様から、もう少し長い期間頼まれると思っていたんだが」
「本音を言えば俺だってアイが少なくともアイドル、できれば芸能界を引退するまで頼みたいが、それは流石に我儘が過ぎるからな。引き受けてくれるか?」
即答は出来なかった。これが数日ならば了承の意を直ぐにでも伝えただろうが、年単位となると話は別。院長として子ども達を見守るものとして、年単位でアサガオを留守にするのはどうかと言う思いがある。だからと言って別のボディガードを雇えともアイに秘密がある以上難しいことは桐生にも分かっている。無責任にそんなことを言って雇ったボディガード経由で秘密がバラされれば、桐生としても良い気分はしない。
「もし俺がそれを受けたとして、遥はアサガオに帰すのか?」
一旦思考を切って、気になっていたことを聞くと斉藤は首を振って否定した。
「いや、そうじゃない。昨日のドンキに行くまでの車内で、アイが仕事中はミヤコが双子の面倒を見てるって話しただろ?」
「ああ」
「今まではそれで良かったんだ。仕事もなんやかんやある程度は回せてたしな。だが、昨日のドームライブ成功を得て間違いなく仕事量は増える。こうなると、ミヤコにもこっちの仕事を手伝って貰わなきゃ手が回らなくなる可能性が高い」
「だから遥にはアクアとルビーの面倒を任せたいってとこか」
「そうなるな。見たところ、アクアもルビーも澤村さんを嫌っては無い様だし、桐生さんにはアイのボディガード、澤村さんには双子の面倒をそれぞれお願いしたい。当たり前だが、ちゃんと給料も出す。だから頼む!」
土下座もかくやの勢いで頭を下げる斉藤を前に、桐生は一瞬遥とアイコンタクトを取った後、ポケットからスマホを取り出した。
「遥も俺も断る気はないが、遥含めてもアサガオには成人済みの人間が俺以外いなくてな。俺がアサガオを離れる時は、知り合いに頼んで面倒を見てもらってる状況なんだ。だから、その知り合いが拒否すれば俺らの意思に関係無く断らざるを得ない」
「そう……か。まあ、未成年だけでの運営は出来ねえからな」
「まあ、あいつらも良い奴らなのは間違いない。杞憂だとは思うが」
そう言って、桐生はスマホでアサガオに電話を掛けた。
『もしもし?』
数コールの後、電話口から聞こえた声は想定とは違っていたが、桐生や遥が知らない人間ではなく寧ろアサガオの現状を考えれば出る可能性は十分にある人物だったといえよう。
「その声、咲か?」
『あ、桐生のおじさん。うんそうだよ。どうしたの、お父さんに連絡?』
「いや、そうじゃない。悪いんだが、みんなを集めてくれないか?名嘉原達も含めて今アサガオにいる全員を」
『お父さん達も?うん、分かった。ちょっと待っててね』
電話越しにパタパタと動き出す音が聞こえてから数分、どうやら揃ったようでアサガオの面々の声が電話を通して聞こえ始める。
『揃ったよ、桐生のおじさん』
そう伝えてきた咲に礼を言った後、桐生は自身及び遥の現状を伝え始めた。勿論、色々と隠すべき事は隠してだが。
「━━そう言う訳だ。これを受けたら5年はそっちに帰れなくなる可能性が高い。だから、話し合って決めてくれ。断る事もできるからな」
『分かった。少し時間がかかると思うけど待っててね』
咲のその声を最後に保留音が流れ出したスマホを、斉藤夫婦と星野母子は固唾を呑んで見つめていた。
『……電話代わったぜ桐生』
斉藤夫婦と星野母子には永遠にも思える数分が過ぎた後、桐生のスマホから聞こえ始める男性の声。恐らくは先程桐生が名を出した名嘉原という人物なのだろうとアイ達は結論付けた。
『話は聞かせて貰ったが、こっちは拒否する気はねぇ。アサガオの子達も、俺らもな。それにお隣の宮良さんも協力してくれてるしな!」
「すまないな、名嘉原」
『良いってことよ!おめえさんには返しても返しきれねえ恩があるからな。だがまあ、成人祝い位は帰って来てやれよ?一生に一度だからな』
その言葉に、チラリと斉藤を見れば仕方なしと言った風に頷きを見せた。
「ああ、それは大丈夫そうだ」
『そうか!なら俺からいう事は……そうだな、たまには電話で良いから子供達に声聞かせてやれよ』
「勿論だ。遥にも偶に連絡させる様にする」
その後、アサガオの子達一人一人と少しだけ言葉を交わし、桐生は通話を終わらせた。その様を多少の罪悪感を胸に抱きながら、斉藤夫婦は桐生へとお礼を述べる。
「ありがとな、桐生さん」
「ああ」
「さて、とりあえずこの話は明日煮詰めるとして……アイ」
「え、なに?」
成り行きを見届けていたアイは、まさか自分に話が振られるとは思っても無く、若干素っ頓狂な声を上げながら斉藤を見た。その瞬間、表情から返答を間違えればこの後怒られる奴だとアイは察する。
「お前、なんでわざわざドームライブ当日の昨日、桐生さんたちを呼んだんだ?」
アイはその質問に沈黙を返した。数秒後、もう実行する気はないし良いかと開き直った彼女は、あの日状況によっては実行する気であった計画を話し始めた。
「社長達は知ってる事だけど、遥の最初で最後のドームライブの映像を何度も見てたでしょ?私」
「ああ、だからあんなに注意してたんだからな」
「実はさ、初めてあの映像を見た時、私は心の底から遥が羨ましかったんだよね。私と同じ施設育ちでアイドルなのに、私が欲しくて欲しくて堪らないものを、あんなにあっさり手に入れてアイドルを辞めて、正直な話ちょっと憎いとも思った」
「それはそもそもの環境が━━」
「まあ、今考えるとそうなんだけど、アクアやルビーに心からの愛を伝えたくて焦ってたのもあって、当時の私はそうは思えなかった。だからなんで遥だけって何度も映像を見て、私は答えを出したんだ。遥と桐生さんを呼んだのは、その答え合わせ。ライブ当日だったのは私が出した答えが合っていたなら、
結果としては間違えてたんだけどねとおちゃらけた様に言うアイは、間違えてて良かったんだけどねと言葉を続けた。
「同じ事ってお前まさか……」
「うん、ドームライブでの告白。遥に倣って、ファンのみんなの前で全部言っちゃおうかなって。そうすれば遥と同じように愛を知れると思ったから。でも結局、遥の持つ愛を教えてもらって真似した所で、それは私オリジナルのものじゃないって言われちゃったし、そもそも遥はもっと前から愛を知ってたみたいだし」
あの時のちょっとした問答が、アイのアイドル生命を左右していたなんて思いもしなかった遥は密かに衝撃を受けていた。
「今にして思えば、かなり自分勝手だったなぁ。子供達のためなんて言いながら、私は結局自分の事しか考えてなかったのかも……アイドル辞めた後、どうするつもりだったんだろうね私」
「知らねえよ。てか、そんな事したらこっちも巻き添えくらうんだが?」
「それは大丈夫、事務所にすら隠してたって事にするつもりだったからね。朴さんとか遥って前例がいる以上、みんな納得してくれるだろうし」
「よしんばそれが上手くいったとしても、お前が抜けたらうちは殆ど終わりなんだよ」
「それは他の子を育てない社長が悪いよ。ちょっと前に他のメンバーの子達が話してるの聞いちゃったけど、私と結構扱い違うらしいじゃん」
「……今それは関係ねえだろ。それより、実行してもお前が欲しいものが得られないとは考えなかったのか?」
思い当たる節でもあったのか、斉藤は露骨に目線を外して話を戻した。今はそこを問い詰めるつもりのないアイは、特に追求せずに質問に答える。
「考えなかったわけじゃないよ。でも、遥に応援もして貰ったから」
「応援?私は何もしてないと思うけど……」
当然ではあるが、昨日初対面の遥にとっては応援なんてした記憶はない。だが、アイは笑顔を浮かべながら遥の言葉を否定する。
「ううん、してくれてたんだよ。遥言ってたでしょ?今日手を抜いたら、憧れは明日も憧れのままだって」
「それは歌詞の話でしょ?アイさん」
「確かに夫人の言う通り、歌詞の話だけどね。でもそれで勇気づけられたのも事実なんだよ」
「勇気づけられただぁ?隠れて身籠るまでしたお前が、何かに怯えてたってのか?」
「そうだよ?私って結構臆病者だからさ、変な事言って嫌われたくないなぁとか思ってるんだよねぇ。ファンにも、B小町のみんなにも、そういう意味では怯えてたと思う。B小町がギスギスしてた時も、原因は私だって分かってたから私から何かしても無駄だって諦めてたし、なんならメンバーの誰かが話しかけてくれるのを待ってた。あーでも、こっちは溝をこれ以上広げたくないって思いの方が強かったかな」
最後のライブの時を除けば、ソロで活動していた遥にグループとしての苦労というのは分からないが、昨日のライブを思い返せばどうやっても亀裂が入るのは明確だと言えた。遥自身、とある理由で友人とダンスバトルをして、その仲に亀裂が入った経験もある。あの時は何とかなったが、恐らくそれと似た事が何度も起きていたであろうB小町内で溝が出来るのは明らかで、昨日あれだけニノと仲良さげに話していたのが奇跡にも思える。
「結果的にはニノが話しかけてくれたからそれに乗っかる形になったけど、それが無かったら私からみんなに声掛けたと思う。なんて言うんだっけ、玉砕覚悟?でさ」
「1つ、質問させて頂戴」
「なに?」
「貴女が変わったと言うのは事実なのでしょう。最近は以前に比べてメンバーに声を掛けてる所をよく見るもの。でも、こう言っては何だけどああいうタイプの歌詞の曲は他にもあるわよね?どうして澤村さんのあの曲にだけそう思えたの?他の曲を全く聴いてないなんて事ないでしょう?」
「遥が歌ってたから」
ミヤコの質問に、アイはキッパリとそう言い切った。アイにとってそれは重要な事で、他の曲と遥が歌っていた曲に明確な差をつける最大の理由だった。
「似たような曲を聴いても、なんならあの時遥と優勝争いしてたTーSETの2人が歌ってたのだって聴いたけど、遥のソレとは違ったんだよね。なんて言うんだろう……胸に響いて来なかったんだ。上手く言えないけど」
「それで澤村さんが歌ってるからだと」
「そう!前に本か何かで見た、『誰でも良い訳じゃない』ってこんな感じなんだろうなぁって」
「それは……ちょっと違うんじゃないかしら?」
何となく、今のアイは本心で喋っているのだろうとミヤコは思った。憎しみを持てる程の
「でも、これも社長があの放送を録画しておいてくれたからだよね。何度も見返せたから、見ながら私も色々考えられたし」
「俺としては、新しく出来たユニットの力量を調べる程度の意図しかなかったんだがなぁ」
溜め息を吐きながら項垂れるように呟くも、それのお陰でアイは殺されずに済んだのも事実なので、結果だけ見ればナイス判断だったと自分を慰める。抱える爆弾が一個増えたし、引っ越さないといけない都合出費も嵩むこと間違いなしだが、それでもアイを失わずに済んだのはやはり大きかった。
「思えば、アクアとルビーも手を抜かずに頑張った結果手に入れた憧れみたいなものだよね!」
気を持ち直して、顔を上げればそんな呑気な事を言って双子に抱きつくアイが視界に入る。その頑張りの被害を受けた身としては、小言の一つや二つ言ってやりたいが、まだ言わなければならないことがあるので文句を飲み込んで桐生の方に視界を逸らす。
「話を少し戻すんだが桐生さん、アイが引っ越すまで悪いがアイと同じ部屋で暮らしてくれ。澤村さんもな」
「なんだと?」
「同階……と言うよりあのマンション自体に空き部屋がなくてな。数日で引越し先は見つけるから、それまではアイと同室で━━」
「ちょっと待て、遥は兎も角俺は男だぞ?」
「━━手を出すのか?」
「出すわけ無いだろ。だが、週刊誌にでも撮られたらスキャンダルだろう?それに本人の同意も無く決めるのは良くないんじゃないか?」
「私は別に桐生さんと一緒でも良いよー安心できるし、遥とお話もできるし」
「私も!てかママを守るんだから、近くにいるのが当然でしょ!」
「間に合わないよりかは、その方がいいかな」
「本人とその子供はこう言ってるが?」
こうなってしまうと桐生に反論の余地は残されていないが、そもそも桐生もこうなる事を想定してなかった訳ではない。斉藤がスキャンダルよりアイの命を優先するのは昨日既に分かっていたし、アイの無事は昨日のライブ中継で共犯者にも伝わっているだろう事から、アイの部屋の近くに住むことになる可能性は高めに見積もっていたが、流石に同居をしろと言われるのは少しばかり想定外だった。星野一家の誰もその提案を拒否しないことも含めて。
「分かった、数日間世話になる」
「そうと決まれば、桐生さん達の寝具とか買いに行かなくちゃね!」
流石にずっとソファで寝てもらう訳にもいかないので、桐生の了承の発言を聞いたアイはそう言って立ち上がった。今日と明日は昨日の事で仕事というか事務所全体がお休みなので、行こうと思えば今からでも買い物に行けるのだ。
「買いに行くのは良いが、気を付けろよ。街中で襲われないとも限らないだろ?」
「桐生さんがいるんだし大丈夫でしょ。社長はこれからどうするの?」
「車出してもらおうとでも考えてるなら、それは無理だからな?俺はこれから弾痕の件で大家さんに話つけに行かなきゃならん」
「じゃあ寝具買っても持って帰れないじゃん」
「……はぁ、こっちの要件が終わったら車出すから、それまで家で待ってろ」
「流石社長〜」
「見え見えの世辞貰っても嬉しかねえよ。そうだ、一応言っとくが事務所自体は明日も休みだがお前と桐生さん達はまたここに集合だからな?」
「えー!ゆっくり出来ないじゃん」
「桐生さんと澤村さんの仕事内容の確認とか書類作ったりとか色々あんだよ。聞きたいこととかもな。お前に関連することもある」
「うーん、それならしょうがないか」
自分にも関わっていると言われれば、流石のアイも納得せざるを得なかった。アイが納得したのを確認してから、斉藤は彼女達を家に帰すために腰を上げ、思い出したようにミヤコに目を向けた。
「ミヤコ、俺はそのまま大家さんと話してくるが、書類制作頼んで良いか?」
「ええ、名義は昨日2人に使ってた『斉藤一』と『斉藤遥』で良いかしら?」
「ああ、それで良い」
じゃあ頼んだと述べて斉藤は部屋を出る。それに続いて、アイ達も退室しミヤコ1人が残される形となった。残されたミヤコは一度大きく伸びをしてから、自分に与えられた仕事をこなす為に部屋を後にした。
名嘉原茂
龍が如く3に登場した沖縄の極道組織『琉道一家』の組長にして、シノギとして運営している不動産会社『名嘉原興業』の社長。ハイビスカスとシーサーの刺青を彫っている。原作においては3以降登場していないのでその後の動向は不明だが、この作品では3以降も桐生及びアサガオの面々と交流を続けており桐生がアサガオを留守にする際は、留守を任されている。桐生がケジメとして逮捕されようとした事を知った際は怒りのままに、思い直して帰ってきた桐生を一発殴ったし、今もその事を許してはいない。
名嘉原咲
茂の養女であり、同じく3に登場し以降未登場の元失声症の少女。卓越した画力を持つ。原作においては茂と同じく以降の動向は不明。この作品では定期的にアサガオに遊びに来ている。
琉道一家
沖縄を愛する人物が運営している為、超地域密着型組織で義理人情に篤い極道組織。故に地元民からも慕われている。例によって3以降は登場していない。この作品では少しばかり勢力が拡大しているが、組員は相変わらず沖縄を愛する者ばかり。