一番星と『元極道の娘』   作:ヒリヒリ

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私なりの

「誰だ?」

 

チラリと、胸に抱えたアクアを見ながら桐生はドアの先にいる白い花束を持つ、フードを深めに被った不審者にそう言った。アクアの表情を見れば、誰だコイツはと言わんばかりで、十中八九アイの言っていた佐藤社長ではないことがわかる。

 

一方、不審者は不審者で困惑していた。ここにいるのはアイとその子供の双子だけ。その筈だったのに実際はどうだ、知らない男が恐らく双子の片割れである幼児を抱き抱えているじゃないか。何故、男がいるのか。そもそもコイツは何者なのか。自分が得た情報は嘘だったのか。もしや、部屋を間違えたか等、数々の疑問が不審者の脳裏を巡り、彼は一つの答えに辿り着いた。

 

「そうか、お前が!!」

 

「え?」

 

コイツがアイを毒牙にかけた男だと。そもそもが可笑しかったのだ。自分たちに愛を振り撒いていたアイが、子供を作るなどと言う裏切り行為に走るなどと言う事はあり得ない。だが、この強面の男に脅されて、抵抗もできずに悲しみながら行為をするしかなかったとすればどうだ?そして、天女の如く愛を振り撒く彼女の事だ、運悪く孕んでしまった以上堕すと言う発想に至るわけがない。そうか、全ては自分の勘違いだったのか。危なく勘違いでアイを殺してしまう所だった。言わば、今のアイは囚われの姫で、それを救えるのは自分だけだ。

 

「お前が!俺たちの!!俺の!!」

 

「おい、少し落ち着いたらどうだ。アクア、下がってろ」

 

錯乱に近い言動の不審者を前に、桐生はアクアを下ろしながらそう言う。既に、不審者が花束に隠す様に刃物を持っているのは見破っているが、玄関は狭く射程内にはもう入っている。いつ不審者が攻撃に移ってもいいように、桐生は静かに構えをとった。アクアは言われた通りに少し距離を取るも、リビングに戻るとそれはそれでアイ達に被害が出ると考え、玄関内の隅に移動した。

 

「お前が何を言ってるのかいまいち理解できねぇが、人違いじゃないのか?」

 

「そんなわけないだろ!ここはアイの家で!!お前のような奴はいる資格もない場所なんだ!!」

 

(可笑しい……俺たちは越して来たばかりだぞ?なんでアイの家だって知ってるんだ?)

 

不審者の発言に、アクアはそう疑問に思った。一瞬、桐生がバラしたんじゃないかと思考が巡るが、だとすればこうして言い合ってるのは不自然だし、アイに危害を加えるならば桐生一人で事足りるだろうからわざわざ他人に頼む必要はない。ならアイの気を引くためのマッチポンプかと言えば、それも違うだろう。桐生は元東城会四代目会長、その気になればそういう薬だって手に入る筈だ。だとすればやはり、他人に頼む必要はなく力でアイを制圧して薬を飲ませた方が早い。

 

ならば遥かと言われればそれも違う。遥がバラした場合、桐生という高い壁が立ち塞がる。と言うより桐生に直接頼んだ方がやはり早い。そもそもの話だが、出会ってから数時間ではあるものの桐生や遥がそういう事をする人間ではないとなんとなくアクアは感じ取っていた。だがもし、桐生や遥がアイすら上回る嘘吐きであるならば、それはそれでアクアではお手上げである。

 

「俺がお前からアイを救うんだ!!」

 

「なに?」

 

アクアが色々考えている側で、不審者がついに動き出した。花束を投げつけ、ナイフを構える。投げられた花束は上手い事桐生の視界を覆い、これが一般人相手ならこのままナイフで刺されてお終いだっただろう。だが、桐生は違う。

 

「桐生さん!!」

 

「オラァ!!」

 

アクアの悲痛な叫びを受けながら、桐生はその場で跳躍しつつ蹴りを放つ。ナイフが桐生を捉えるよりも早く、桐生の足が不審者の顔を蹴り抜いた。

 

「ぐぁ!?」

 

通路に蹴り出されながらも、ナイフだけは手放さなかったのは不審者の意地だろうか。心配は無用な様で、このまま行けば不審者を撃退するもの時間の問題だとアクアが思った時であった。

 

「桐生さん、アクア、叫び声みたいなのが聞こえたけど何かあったの?」

 

「来るな!」

 

心配そうな声がリビングから響く。それに対して、アクアはアイ達を玄関に来させない為に叫んだのだが、それがいけなかった。

 

「アクア、どうかしたの!?」

 

アクア(息子)の切羽詰まった声に心配したアイ()が玄関へとやって来てしまう。

 

「え?」

 

ドアを開けたアイの視界に入ったのは、通路に倒れる不審者とその手に握られたナイフ、構えを取る桐生にやってしまったと言わんばかりに顔に手を当てるアクア。アイは玄関に広がるその状況から、何が起こっているのかすぐには理解できなかった。

 

「アイ、固まってどうしたの?」

 

「ママ?」

 

フリーズしたアイを見かねたのか、遥とルビーまで玄関にやって来てしまったが遥は伊達に修羅場を潜っていない。瞬時に何が起きてるか理解し、アイとルビーを守る様に一歩前に出る。

 

「アクアもこっちおいで」

 

そう言って少し離れた位置にいたアクアも自身の後ろに隠して、桐生に目配せを行う。肩越しにそれを見て、桐生は再び不審者へと向き直った。

 

「クソ!クソ!クソ!!俺がアイを救わなきゃいけないのに!!」

 

思いの外桐生の蹴りが効いたのか、ふらふらと時間をかけて立ち上がる不審者。深めに被っていたフードは既に役目を果たしておらず、素顔が白日の元に晒されている。アイは、その顔に覚えがあった。

 

「リョー……スケ君?」

 

「!!!」

 

不審者改めリョースケは歓喜した。アイが自分の名前を知ってくれている。アイが自分の名前を呼んでくれている。やはり、今日この日にここに自分が来たのはアイを助けるためで、そういう運命だったのだろう。ああそうだ、この男を殺したら、アイの代わりに子供も殺そう。俺が、アイをこの男から完全に解放してやるんだ、と当初の目的も忘れてアイを救おうとリョースケは動く。

 

「動くなぁ!!」

 

懐から取り出したそれは、多少の距離を無視して相手に害を与えることのできるもの。当初の予定では、抵抗されナイフでアイを殺せなかった場合に使おうと思っていたもの。

 

「モデルガン?」

 

そう呟いたのは誰だったか。少なくとも、桐生と遥ではない。桐生と遥はそれが改造されたものだと見抜いていた。改造モデルガンは、その為に改造されたのだから、当然殺傷能力を持つ。桐生の目つきが少し、鋭くなった。威嚇のつもりか、リョースケは碌に狙いも定めずに引き金を引き、放たれた弾丸が玄関の壁を穿つ。

 

「ヒッ」

 

「本物かよ!?」

 

アイが怯え、アクアが叫ぶ。ルビーは声こそ出さなかったが、恐怖の余りガタガタと震えていた。当たってしまえば、誰もが一瞬で死んでしまうと言う恐怖が三人を襲う。

 

「おじさんがいるから、大丈夫だよ」

 

そんな三人が落ち着けるように優しく声を掛けながら、出来るだけ三人の視界にリョースケが入らないように遥は体を動かした。遥とて、恐怖が無いわけではない。だが、それを上回る桐生への絶対の信頼が彼女にはあった。

 

「おい」

 

「動くなって言ってるだろ!!」

 

一歩踏み出した桐生に、リョースケが叫びながら狙いを定めたのを見て、それで良いと桐生は思う。自分が狙われている間は、少なくとも遥達に被害が行く事はない。後は、自分にも被害を出さずにリョースケを無力化するだけだ。

 

「お前の狙いは俺だろう」

 

「ああそうさ!お前を殺して、そこのガキも女も、アイ以外を殺してやっとアイは救われるんだ!!」

 

「当の本人は怯えているようだがな」

 

「それはお前がいるからだろ!……待っててねアイ、俺が君を助けるから」

 

そう言って、リョースケはアイを見た。怯えてへたり込むアイが、果たしてリョースケにどう見えたかは定かではない。だが、アイを見ると言う事は桐生から視線を逸らすのと同義であり、桐生にとってその一瞬で距離を詰めるなど造作もない事だ。

 

「な!?」

 

桐生が動いたのを認識し、視線を戻して引き金を引く。そんな行為が出来るほど、リョースケに残された時間は多くなかった。引き金を引くよりも早く、桐生の左手が腕を掴みそのまま腕ごと銃口はあらぬ方向へと向けられ、弾もそれに沿って飛んでいく。そのまま右手で裏拳を一発、怯んだ所を顎に一発。狙い澄ました一撃は的確で、リョースケは脳震盪を起こしその場に倒れ伏した。

 

「無事か?」

 

「うん」

 

ナイフと改造モデルガンを遠くに蹴り飛ばし、桐生は遥達に声をかける。それに反応を返したのは遥のみで、三人からの反応はなかった。無理もない事だと桐生と遥は思う。突然の非日常にすんなり適応できる人間はそういないのだから。

 

「は……はは……これが元東城会四代目会長の実力……」

 

少し時間を置きはしたが、意外な事に一番最初に声を発したのはアクアだった、腰は抜けているようだが信じられないと言わんばかりの表情を浮かべながら、乾いた笑いを上げている。そして、何かに気づいた様にハッとなりアイへと振り向いた。

 

「助かった……俺達助かったんだよ!!」

 

「助かった……の?」

 

アクアの歓喜の言葉を、おうむ返しのように繰り返すアイだったが、次第に状況が飲み込めてくる。自分達はもう、安全だ。その事実を認識できた時、アイの身体は既に動いていた。

 

「良かった……良かったよぉ」

 

ルビーとアクアを引き寄せ、力一杯抱きしめる。誰も死んでいない事を確認するかの如く、涙さえ流しながらアイは双子の体温と鼓動(生きてる証)をその身で感じ取る。そこで漸く、ルビーの震えも収まり彼女は堰を切ったように泣き始めた。

 

「怖かったよね。ごめんね、ママなのに守ってあげられなくて」

 

ルビーに釣られてか、涙目になっているアクアも一緒により強く抱きしめて、謝罪の言葉を述べる。桐生がいなければ、果たして自分達はどうなっていたかなど、考えるまでもない。確実に誰かは死んでいたし、最悪皆殺しにされていただろう。

 

(ああ、そっか)

 

考えて、アイは桐生のあの言葉の意味を理解した。その時の桐生があんな顔をした理由も。言える時に言っておいた方が良いと、そう桐生は言った。恐らく、桐生は言えなかったか、言えたとしても死の間際だったのだろう。死んでしまえば、人はそれまで。それ以上、何かをする事も伝える事もできない。だが、桐生とは違いアクアとルビー(伝えたい相手)は傷一つなく生きている。ならば、やはり声に出して伝えておくべきなのだろう。いつか言っておけば良かったなんて後悔しない為に。

 

(でも、言ってもしそれが嘘だったら……)

 

しかし、それでもやはり本心からの愛を伝えたいアイは、嘘になってしまうならちゃんと愛を知れるまで言わない方が良いんじゃないかと考える。今までそうして来たのだから、これからもそれで良いじゃないかと思わなくもない。

 

(……愛を伝えられずに私が死んだとして、アクアとルビー(この子達)はどうなるだろう?)

 

だが、ふとアイはそう考えた。今回の様な事がもう二度と起きないとは誰にも言えない。リョースケの発言からして、今回の標的は自分以外だった様だが、次は自分が標的になるかもしれない。その時、果たして今回の桐生の様に守ってくれる人が都合良くいるだろうかと言えば、いない可能性の方が高い。だとすれば、自衛の術を持たないアイは死んでしまうだろう。そして、愛を伝えられずに自分が死んでしまったら、アクアとルビーは自分と同じく親から愛されてなかったと思ってしまうかもしれない。アイとしては、子供達まで自分と同じ様になってほしくはない。蛙の子は蛙だと言うけれど、そうならない為のたった一言をアイは知っている。

 

「うぅ……ひっぐ……」

 

「……ねえ、アクア、ルビー」

 

「ぐすっ……なに?ママ」

 

「アイ……?」

 

だから、アイは自分のためではなく子供達のために。自分がお腹を痛めて産んだ子供が、万が一自分が死んだとしても、せめて母から愛されていたと自信を持って言える様に、それを口にする。

 

「愛してる」

 

それは驚く程するりと口から発せられた。今まで、言おうとしても言えなかった言葉。嘘か本心か、それは分からない。だが、この胸に湧き上がる感情には覚えがあった。あれは確か、アクアとルビーがオタ芸を披露した時だ。思えば、あれ以来アクアとルビーの名を間違えた事はない。この感情が愛なのだろうかと聞けば、違うと答える人もいるだろう。答えは人それぞれだと桐生も言っていた。だが、それならば、これこそが私なりの愛だ、と今のアイは胸を張って言える。だって、胸に溢れるこの思いは、こんなにも幸せな気持ちにさせてくれるのだから。

 

「愛してる……うん、この気持ちは嘘なんかじゃない。随分と遅くなっちゃったけど、漸く言えた」

 

噛み締めるようにもう一度、愛を伝えて抱きしめて、それに応える様にアクアとルビーが抱きしめ返す。それはまごう事なき母子(おやこ)のものであり、そんな様子を遥はほんの少しの憧憬の混じった目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




龍が如くとのクロスオーバーなんでね。リョースケ君にはちょっとだけ武装を追加してみた。
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