一番星と『元極道の娘』 作:ヒリヒリ
──完璧なはずなのに何か違和感を感じる
それが、今回東京ドームにやってきたファンがアイを見て抱いた感想だった。その違和感は、古参になればなるほど強く、そして明確に感じ取れるものであったが、最古参のファンですら違和感の正体にまでは辿り着くことはなかった。だが実際、今日のアイは普段とは違う。現在、アイはアイドルとしてのパフォーマンスはしているが、
事の発端は、演出の為に使われるキャノン砲。キャノン砲とは、紙吹雪などの
アイは、息を吐くように嘘を吐ける嘘吐きである。だから、並大抵のことは嘘で包んでしまえば誰にもバレないし、余程のことじゃない限りは疑われる事もない。しかし、嘘も万能ではなく、当然彼女にもどうしようもないことは存在する。例えば、今は克服しているが、自然な笑顔の浮かべ方とか。そして、今回フラッシュバックによりぶり返した『死』への恐怖は、そのどうしようもない部類のものだった。
(大丈夫……桐生さん達が守ってくれてる……大丈夫)
恐怖に飲まれかけてる自分自身にそう言い聞かせて、無理やりパフォーマンスを続行するのはアイドルとしての意地か。恐怖を感じている事自体は嘘でどうこうは出来ないが、『恐怖に飲まれかけてる自分』を嘘で覆い隠して、『アイドルとしての自分』を観客に見せることはできる。レッスンは充分やって来た。だから、パフォーマンス以外に多少意識を他に割いたとて、身体は勝手に動いてくれる。
『アイドルとしての自分』が本来しないであろう忙しなく瞳を動かす行為が、僅かにファンに違和感を与えるものになっているのは彼女自身分かっている。だが、アイはそれを承知の上で何かを探すように目を動かす。それは果たして、自分を狙う狙撃手か、それとも自分を守ってくれているであろう人達か。見える範囲ではあるがドーム内を見渡して、最後に盗み聞きしていた際に桐生が言っていたバックスタンド横を見る。
(よく見えないけど、遥に……桐生さんかな?人影が2つある)
バックスタンド横にいる人影は、アイを見てはいるもののそれだけだった。光源がステージの光しかない為、ぼんやりと人影がある程度にしか見えないが、恐らく桐生と遥だろうと考えたアイは無事阻止できたか、あるいは何もなかったのだろうと考えてパフォーマンスに集中する。それにより違和感が消え、より一層ファンが盛り上がった。
*
「誰もいなかったね。おじさん」
「ああ」
アイが最後に視線を送った場所であるバックスタンド横、桐生と遥はそこに居た。念の為、再度品田に電話して狙えなくもないポイントも聞きだしそこも調べたが、怪しい人物はいなかった。居たのは大勢のファンくらいのものだ。ここが最も可能性が高いが故に、調べるのは最後にしていたのだが他のポイントと変わらず人の姿はない。
アクアとルビーも本来は危険が及ばないように守らなければならないのだが、ライブ開始直前に斉藤社長から
「桐生さん達はアイを守ることに専念してくれ。こいつらは俺らが」
と言われたので、彼とその妻らしいミヤコに双子の事は任せてある。2人で何ともならない場合は連絡が来る手筈になっている為、任せた以上連絡が来ない限り桐生達はアイを守るのが最優先、なのだが先述の通り怪しい場所にはここ含めて誰もおらず、大丈夫だろうと考えた桐生達はそこで腰を下ろしてアイ達のライブを見ていた。
「凄い人気みたいだけど、ちょっと人気が偏りすぎな気が……」
眼前に広がる殆ど一色のサイリウムの波を見ながら、遥はそう呟く。アイドルグループのライブとしては中々に異質なものではあるが、ステージを見ればアイが中心となるようにパフォーマンスが構築されいるようで、こうなるのも仕方のないことだろう。恐らく、この殆どを占める一色がアイを表す色で、アイが控室で言っていた一時期はギスギスしていた原因は多分コレだと遥は当たりをつけていた。
「アイ達、全然見えないなぁ。それに、掌に収まっちゃうくらい小さい。品田さんも、あの時の私を見てこう思ってたのかな」
アイ達を隠すように手を伸ばして、遥はそう言った。場所は違えど、遙も立った場所。夢の舞台。でも、ここから見るそれは小さく、客席から見える夢を叶えた人達はこう映っているんだと実感する。ステージ上部に設置されているモニターを見ればアイ達が良く見えるが、それに頼らなければ表情すらよく見えない程に、ここから見えるアイ達は小さかった。
「……」
懐かしむような顔で、アイ達を隠した手の甲を見つめる遥が今何を思うのかは本人にしか分からない。長年共に生活してきた桐生ですら、完全には推し量ることは出来ないだろう。だが、成否の程は分からないがある程度想像は出来る。
「遥、お前──」
「──おじさん」
後悔してるのかと口に出す前に、遥はそれを遮るようにして桐生に顔を向けた。アイ達を隠した手は相変わらずそのままだ。
「私は、今が一番幸せだよ。おじさんを家族って呼べて、アサガオのみんなとおじさんと一緒に生きて行ける。アイドルになって、おじさんと離れたからこそ自覚出来た、私の『夢』。それが叶ってるんだから、これで幸せじゃないなんて言ったらお母さんに怒られちゃうよ」
「……そうか」
全ての言葉を呑み込んで、桐生はそう返した。遥には、『夢』が2つある事を桐生は知っている。だが、その『夢』は到底両立できるものではなく、だからこそ一つを諦めて、もう一つを掴み取った事も。だから、遥自身がそう言っているのならば自分から何か言うのは野暮というものだろう。もし、何か言ってしまえば、それは遥の選んだ道の否定になりかねない。
「……」
アイ達を隠していた手を下ろし、何を言うでもなく遥はステージに視線を戻す。何かを焼き付けるかの如く真剣に、されど優しげな目をしながら遥はステージ上でパフォーマンスを魅せるアイ達を見つめていた。
*
所変わって、ステージ袖。斉藤社長とその妻であるミヤコに抱かれながら、アクアとルビーはテンションが振り切れていた……訳でもなかった。ルビーは襲われた際に泣いてしまった故の疲れから、襲い来る睡魔と格闘しているし、アクアはアクアであの時リョースケが何故ピンポイントにアイの住む場所を特定出来たのかが気になって、ライブに集中しきれていない。ちなみに、アイに恐怖心をぶり返させたキャノン砲の音だが、斉藤夫婦が気を利かせて双子の耳を塞いだ事でこちらは事なきを得ている。
(一軒家ならともかく、マンションの一室を当てられるとは思えない。探偵でも雇ったのか?もしくはあの伊達って刑事の言ってた通り共犯者、あるいは情報提供者がいて、そいつが知ってたのか。それで、俺らや桐生さんの存在を知って殺しに来た?いや、仮にそうだったとしても、インターホンを鳴らして誰が出るかなんて分からないだろう。今回はアイの提案で桐生さんと俺だったが、もしアイが出たらどうするつもりだったんだ?)
そこまで考えて、アクアはあることに気づいた。
(待てよ?そもそも桐生さん達はアイに呼ばれて偶々いただけだ。しかも家に来たのは今日、前々からいた訳じゃない。電話をしたのは数日前だろうが、わざわざ桐生さん達を呼んだことを誰かに言う必要はない。なら、桐生さん達の存在を知らない可能性の高い彼奴の想定だと、インターホンの応対に出るのはアイだったんじゃないか?もしそうならアイツは俺らや桐生さん達じゃなく──)
──アイを殺しに来た?
そう考えて、それはないだろうとアクアは頭を振った。もしそうなら、あの時に全員皆殺しと言うはずだ。だが、リョースケはアイ以外を殺すと言っていた。本当に当初の目的がアイだったなら、わざわざアイだけを生かすと言う思考には恐らくならないだろう。それに、アイを救う発言も気になる所。アイ以外のあの場の人間を殺して、一体何から救うと言うのか。
(……もしかして、当初の標的は俺らか?スキャンダルになる前に殺しておこうと?)
それならば、リョースケの発言には納得は行く。共犯者がどう考えていたのかは分からないが、少なくともリョースケの狙いが自分たちだったのなら、自分たちと、アイの相手だと勘違いした桐生を殺そうとしてもおかしくは無いだろう。そうなると遥は巻き込まれたと言ったところか。だが、それならそれで、外れるかもしれないのに碌に狙いもせず拳銃を撃ったりするだろうか?と言う疑問が出てくる。あの時は偶々壁に当たっただけだったが、アイに当たるかもとは思わなかったんだろうか。
(ダメだな、救う発言と行動が一致していない。威嚇射撃にしたって上に撃つとか普通はするだろ。いっそ皆殺しが目的だったなら納得出来るんだが……あの伊達って刑事に聞いた方が色々早そうだな。リョースケがちゃんと喋ってればの話だが)
結論が出なさそうなので、アクアは一旦思考をストップし意識をステージ上で踊るアイに向ける。何はともあれこうしてアイのライブを見れているのだから、今はこっちに集中しようと考えて、とりあえずアクアは一旦リョースケ関係の事を頭の隅に追いやる。横で頑張って睡魔に抗っている妹が寝落ちしないようにちょっかいを掛けつつ、アクアは完全に頭の隅に追いやる前に判明してる事の整理を行った。
(分かってる事は2つ。1つ目は、少なくともリョースケにアイの住所をバラした奴がいる事。2つ目は、リョースケが
これだけだなと思考を切り上げ、アクアは完全にライブへと意識を向けた。
【お知らせ】
見逃し、或いは調査不足等々あるかもですが、実の所筆者は推しの子が厳密に何年の話か知りません。ただ、最近ゴローが殺された時に持ってたスマホが初代アイフォン、しかも海外の奴らしいとの情報を得たので調べてみた所、発売されたのは2007年くらいだとわかりました。何でゴローが日本未発売らしい海外版初代アイフォンを持ってたのかは謎ですが、2007年を龍が如く側に当てはめると、2の後くらい。日本で最初に発売されたアイフォンは、iPhone 3Gらしいですが、これでも発売は2008年頃で龍が如くだと3の3章辺り。遥がアイドルやって引退したのが2012年なんで、初代アイフォン発売から5年、3Gから考えても4年。そんなに時間が経ってしまうと、基本的にはスマホを買い換えるでしょう。
つまり、ゴローが初代アイフォン使ってる状態で死んでる都合、どうやってもアクアが前世で遥を知れるわけがないので、いくらか話を書き換えます。
その上で、龍が如く側とのすり合わせを考えて、この作品でゴローが死んだのは2010年とします。
もし推しの子側の時代背景を知ってる人がいたらコメント下さい。ちゃんと擦り合わせられた方が良い作品が作れると思うので。
もっと簡潔に書ける語彙と文章力が欲しいね。