一番星と『元極道の娘』 作:ヒリヒリ
龍が如く7外伝と8めっちゃおもろいな!
その後、アンコールに応える事こそあったが、特に何も問題はなくライブは終了した。本来ならその後打ち上げなりを行うのだろうが、今回は翌日に事情聴取が控えていることもあり、それは後日に延期される事になった。事情が事情だけにそれに反対する者はおらず、了承の意を伝えた後B小町メンバーはそれぞれが片付けが終わり次第帰宅して行った。そんな彼女らを見送りながら、桐生達は何やら話し合っているアイ、斉藤、ミヤコの3人を眺めていた。
「さて、どうするか」
眺めながら、桐生は少し困ったようにそう呟いた。と言うのも、本州に来るにあたって桐生達が持ってきた荷物はアイの家に置きっぱなしである。それだけなら明日の事情聴取の際にアイに持って来て貰えば済むが、当初泊まる予定だったホテルは事件に巻き込まれた以上チェックインが間に合わないと判断し、キャンセルの連絡をしてしまっている。実際、時刻は0時になろうとしており、その判断は間違っていなかったのだがそれ故に桐生達は今から飛び入りで宿泊できるホテルを探さざるを得なかった。
「なあ、桐生さん」
「なんだ?」
最悪、神室町のセレナのママにでも頼んで夜を過ごすかと考えていた桐生に斉藤が声をかける。
「多分だが、今日泊まる場所ないだろ」
スバリの物言いに、桐生は無言で頷いた。それを見て、だろうなと漏らした斉藤はそこでと言葉を続けた。
「提案なんだが、護衛も兼ねてアイの家に一泊しないか?」
「言ってる意味わかってるのか?」
「ああ、普通ならこんな事言わないが、今回のライブはテレビ局の人間も結構来てるし、その中には生放送するって言ってた局もある。となると、彼奴に仲間がいた場合もう既にアイが無事って事が知れてる可能性もあるわけだ。確かにライブでは何もなかったが、自宅が割れてる以上帰宅した先でって事もあるって話になってな。だから念の為、このまま護衛を続けてもらいたい」
それを聞いて少しばかり悩む桐生であったが、もし断って何かあればそれこそ後味が悪い。それに、まだ事件は終わってないのだとすれば、関わってしまった以上途中で投げ出すのも、桐生にとってはあまり気持ちの良いものではなかった。だが、それはあくまで桐生の考え、当事者であるアイ自身はどう思っているのかと斉藤に聞けば、そもそもの発案者がアイであると返答が返って来た。
「本当なの?アイ」
「うん。社長が言ってたけど、窓割って入って来るかもしれないんでしょ?もしそうなったら私、アクアとルビーと一緒に桐生さん達が到着するまで逃げ回れる気がしないから、それならいっそ桐生さん達が一緒にいてくれた方が安全だよね?なら、桐生さん達がウチに泊るのが一番だと思うんだ」
遥の疑問に対するアイの発言は間違ってはいない。いないのだが、それは彼女がアイドルじゃなければの話である。
「最初は社長も考え直せーとか言ってたけど、結局はそれで私が死んじゃうよりマシって納得してくれたよ?」
「殆んど脅しに近かっただろうが。私が死んだらどうなるかなぁとか言いやがって」
ため息を吐きながら呆れた様に言う斉藤は、だがと言葉を繋ぐ。
「もしアイが殺されたとして、そうなった場合俺自身その後何をしでかすかわからねぇ。あの時引き受けてくれればと逆恨みに近い形で桐生さん達を恨むかもな。なんなら、危害を加える可能性もある。だからできれば受けて欲しい」
「……脅しのつもりか?」
「いや、可能性の話だ。それに、アイが死ぬかすっぱ抜かれてスキャンダルになるかのどっちかなら後者の方がマシだ。だから許可した。流石に『桐生一馬』や『澤村遥』だとバレるのはマズイが、変装が見破られなければ単純に男と女を家に連れ込んだだけだからな。ある程度の言い訳も出来なくはない」
「……まあ、あんたが良いなら俺達は泊まれる場所もできるし文句はないが、本当に良いのか?」
「ああ」
そう言う斉藤の隣に立つミヤコの目は不服そうではあるが、何も言ってこない。彼女とて、余計な事を言ってその結果アイが死んでしまうのは望むところでは無いのだろう。
「……分かった。関わっちまった以上出来ることはやるが、それでスキャンダルになっても文句は言うなよ」
「こっちから頼んでるわけだからな、当然だ。よし、じゃあ送ってくから着いて来てくれ。ほらアイ、行くぞ」
「あ、ちょっと待って。ルビーもアクアも寝ちゃってて、起きてるならともかく寝てる2人を私1人じゃ抱っこ出来ないよ」
「手伝いますよアイさん」
「ありがとうミャーコさん」
「ミヤコです、アイさん」
「あはは〜ちょっと間違えちゃっただけだよ」
アクアをミヤコに預け、ルビーを抱き上げたアイは思い出した様に声を上げる。
「あ、そういえば買いたいものがあるんだよね」
「なんだよ」
「穴を塞げるもの。壁に銃弾の跡ができちゃってて」
「はぁ!?彼奴、すでにぶっ放してたのかよ!」
「そうなんだよねぇ、誰にも当たらなかったから良かったけど、帰るたびに目に入るのは嫌だから塞いじゃおうかなって」
「ってもなぁ、もうすぐ0時だしやってる店なんて……ドンキがあるな。カレンダーでも買って隠すか?」
「それイイね。佐藤社長も偶には良いこと言うじゃん。あ、でも通路の壁の方はどうしよう」
「二発も撃ってるのかよ……通路の方は大家さんに説明するしかないだろうが、最悪もう一回引っ越す覚悟はしておけよ」
「引っ越しかぁ。でも仕方ないよね」
明日にでもアクアとルビーにはまた引っ越す可能性が出てきた事を伝えなきゃねなんて思いながら、アイは桐生達と共に車が止めてある駐車場へと向かうのだった。
*
「桐生さん、アイさんのことお願いします。遥さんもね」
眠ってしまった双子を布団に寝かせた後、ミヤコは帰り際にそう言って頭を下げた。それに桐生と遥が頷いたのを確認した後、彼女は帰って行った。それを確認したアイは、ドンキの買い物袋を漁り出し買ったカレンダーを取り出した。彼女の選んだ、月毎にそれに対応する誕生石がデザインされたカレンダーである。
「早速つけちゃおっと」
「それが良いよ」
リビングから画鋲を持ってきたアイは弾痕を隠す様に手際良くカレンダーを壁に取り付けた。
「これで良しっと」
カレンダーを取り付け、玄関の鍵を閉めてリビングに戻っていくアイを見て、遥が不用心だなと声をかける。
「チェーンは掛けないの?」
「チェーン……?」
「ドアチェーンの事だよ」
そう言って、遥はドアチェーンを掛けたのだが、それを見てアイは何やら納得した様な仕草を見せた。
「それってそう使うものだったんだ!」
「知らなかったの?」
「うん、施設じゃ教わらなかったからね。遥は教わったの?」
「え?」
言われて思い返してみれば、確かに自分もひまわりにいた頃には教わってなかった気がする。ではいつかと言われれば、気付けば使っていたしか言えない。
「……確かに、私も教わってないかも」
遥の返答に、アイはやはりと言いたげに表情を崩した。
「でしょー?施設じゃそう言う事教えないのかもね」
「それは……違うんじゃない……かな?私達がたまたま教わらなかっただけって可能性も……おじさんはどうだった?」
「俺か?どうだったかな、かなり昔だから断言はしないが、教わってなかったかもな」
「え、桐生さんも施設育ちなの?」
遥が施設で育ったことは知っていても、桐生までそうだとは知らなかったアイは、リビングへ移動しながら桐生に顔を向ける。それに対して、否定する理由もない桐生は素直に頷いた。
「ああ、ひまわりという所でな。最初は遥もそこにいたんだが、色々あって今のアサガオにいるんだ」
「じゃあ、みんな施設育ちなんだ。なんだか親近感が湧くね!」
そんな所で親近感を感じる必要はないのではと思う遥を他所に、アイは再びドンキの買い物袋を漁り出す。数秒後、目的のものを取り出したアイはそれをテーブルの上へと置き腰を下ろした。アイが取り出したのは、ミニサイズのビール缶。
「ねえ、本当に飲むの?」
遥が少しばかり心配しながらそう聞く。それに対し、アイは缶を眺めながらコクリと頷いた。
「勿論。打ち上げの時はお酒も出るだろうから、飲めるかどうかは分かってたほうがいいでしょ?私も今日から二十歳だし、折角の打ち上げでお酒飲んで倒れるとか嫌だし」
「なら、先に風呂に入った方がいい。酒を飲んだ後に風呂に入るとアルコールが回りやすくなるからな」
「あ、そうなんだ。ならライブで結構汗かいちゃったし、そうしようかな。あーでも、今からお湯はったんじゃ時間かかっちゃうな……シャワーだけにしよっかな。じゃ、これは一回冷蔵庫にしまってっと」
そう言ってアイは、テーブルに置いたミニサイズのビール缶を冷蔵庫へと移し、浴槽へと向かった。
シャワーの音が辺りに響き始めて少し、本当にシャワーだけで済ませたのであろうアイが浴室からリビングへと戻ってきた。念の為10分ほど身体を冷まし、彼女は冷蔵庫からビール缶を取り出す。
「よーし、飲むぞー!」
意気込む様にそう言ったアイは、ビール缶を開け少しだけ口に含み、飲み込むと共に缶をテーブルに置き一言。
「……苦い」
「まあ、ビールはそう言うものだからな。味どうこうより喉越しを楽しむものだ。それで、体の方は平気か?」
「少なくとも顔が赤くなったりはしてないね」
「フラフラするとかはないかな、眠くもならないし、動悸も……うん、平気。もうちょっと飲んでみようかな」
ビール缶を傾け、少しずつ中身を飲んでいく。チビチビと言う言葉が似合う速度であったが、特に何事もなくアイはビール缶を飲み干した。
「あー苦かった。けど、これで私もお酒飲めるって事でいいんだよね?」
「まあ、下戸ではないんだろうな」
「なら、これで私も打ち上げでお酒飲んでも平気って事だね。さっすが私、お酒にも強いなんて」
ミニサイズのビール缶飲み干せただけだけどね、とは思いはしたものの口にはしない遥は、そう言えばとアイに疑問を投げかける。桐生と遥には割と重要な疑問である。
「私たちどこで寝れば良いの?」
「遥は私と一緒、桐生さんは……」
「俺はここで良い。そもそも護衛だから寝るつもりもないしな」
「そう?じゃあ、後は歯磨きして寝るだけかな」
「なら歯磨き出さないと。ちょっと待ってね」
そう言って、遥は荷物から歯磨きを取り出し、アイに連れられ歯を磨きに行った。2人が戻ってくれば、次は桐生が歯磨きをしに向かう。
その後、思い出したかの様にアイが遥と桐生にシャワーを浴びたほうがいいと言い、一旦は断る2人であったが家主が言ってるんだからとアイに押し切られ、結局シャワーを浴びる事になるのだった。
*
「布団が一つしかないけど、私どこで寝るの?」
寝室に連れられて来た遥は、開口一番そう言った。アクアとルビーが寝ている布団を除けば、そこに敷いてある布団は一つのみ。そこにアイが寝ると考えると、遥が寝るために使う布団はないように思えたが、アイはきょとんとした顔で遥かに顔を向けた。
「どこって一緒に寝るって言ったでしょ?」
「……もしかして、一緒の布団でって事?」
「そうだよ?そもそも、社長達以外に誰かをうちに招く事なんてないし、ましてや泊めるなんて事想定すらしてないからね。だから、お客様用の布団なんてないよ」
言われてみれば当然の事ではある。ここに招く以上、ほぼ間違いなくアクアとルビーと会う事になるのだから、アイが子持ちであると言う事実を知ってる社長夫婦以外が来ない以上布団がないのも納得できる。恐らく、桐生にはソファ辺りで寝てもらおうとでも思っていたのだろう。だが、そこからじゃあ何で自分とは一緒に寝ようとするのかと疑問に思う程、遥は察しの悪い人間ではない。
遥は慣れてしまったが、あんな事があったのだから恐怖を引きずっていても不思議ではない。ましてやここは、アイの自宅。つまり、厳密に言えば玄関と寝室の違いがあるものの、自宅という言葉で一括りにできる以上アイにとっては襲われた場所とも言える。そんな場所で頼れる人もなく眠れるかと言われれば、なかなかに厳しいだろう。
「……じゃあ、一緒に寝ようか、アイ」
「ありがとう、遥!」
一つの布団に2人は寄り添ってなお狭いものだったが、それ故に感じられる体温にアイは少しばかり安心を覚える。こんな事、もしかしたら初めてかもしれないなんて思いながら、思ったよりも遥に気を許している自分に驚いていた。吊り橋効果的なものなのか、或いは守ってもらった事そのものが嬉しかったからか。似ている様で全く違う境遇だから興味が湧いてるだけかもしれないが。
「そう言えば、遥が私に聞きたいことってなんだったの?」
若干ウトウトし始めたあたりで、アイはふとそんなことを質問していた。リョースケが来たことにより中断されてしまった遥の質問、アイはそれが少しばかり気になっていたが故の質問だった。遥は、それに答えるべきか少しばかり考える。
今思えば、あの時は感情が先走って質問してしまったが、アクアやルビーがいる場所でするような質問ではなかった。間違いなく双子に聞かせてはいけない類の質問だろう。なら、本人から聞かれていて、尚且つ2人が寝ている今聞いた方が良いのではないだろうか。そう判断した遥は、気を悪くしないでねと告げた後あの時聞こうとした事を聞く選択を取る。
「アイはさ、自分が妊娠してるって気付いた時、なんで産もうって思ったの?」
「え……」
正直、アイドルである事よりも家族といる事を選んだ遥がその類の質問はしないだろうと思っていたアイは、思わぬ質問に面食らった。しかし、遥はそれに気づかず言葉を続ける。何故、自分がこんな質問をするのか明らかにするために。
「私をアイドルにしてくれた人も、元々はアイドルだったんだ。デビューしたのは18歳の頃、でもその時はもう旦那さんがいる既婚者で、事務所にすらそれを隠してアイドルをしてた。そして、アイと同じように妊娠して、でもアイとは違ってその人は堕ろす事を選んだ。若かったし、アイドルを続ける為には仕方ない犠牲だって考えて」
「でも、その人は……朴社長は、結局それがバレちゃって、その後全てを失った。子供を産むことのできない身体になっちゃったし、私に託してくれたドームに行くって夢も、叶える前に……」
死んでしまったとは言わなかったが、朴が死んだ事は既にニュースになっている為アイも知っている。
「私は一年すらアイドルをやってないし、芸能界にもいなかったから分からないけど、多分社長のやった事は人としては兎も角、夢を見せる『アイドル』としては、間違ってもいなかったのかなって思ってた。でも、アイはそうじゃなかった。ちゃんと出産して、『アイドル』も続けてる。だから気になったの」
朴の事を思い出しながら、そう言う遥。アイはそんな遥を見ながら、朴の事ならニュースで見たことがあると告げる。
「でも、朴さんに関して初めて知ったのはニュースで見たからじゃないんだよ?」
「そうなの?」
「うん。B小町が結成して少し経った頃だったかな?佐藤社長が教えてくれたんだ。世間どころか事務所にすら嘘を吐いていて、ファンも含めて関わる人全員を欺こうとしたアイドルだってね。アイドルを辞めた後はどこで何をしてるのか分からないって言ってたけど、ニュースで名前が出てその時に社長がこの人だって」
「そう……なんだ」
想定はしていたが、やはり朴の評価は余り良いものではなさそうで、遥は少しばかり気が落ち込んだ。アイはそれを分かっていながらも、話を続ける。
「質問の答えになっちゃうけど、朴さんは堕したくらいだから子供を作る気はなかったかもしれないけど、私は子供が欲しかったからね。堕ろすなんて事は考えなかったよ」
「なら、アイドルを辞めようとは……」
「それも思わなかったなぁ。私は目的があってアイドルもお母さんも両方やるつもりだったから」
迷いなくそう言い切るアイを、複雑な思いで遥は見た。既婚者だった事や妊娠した事を知って売り出すのを躊躇する事務所と、妊娠どころか出産しても、それを隠すのまで手伝ってくれる事務所。その時点で雲泥の差があるとは言え、朴がアイのように母もアイドルも両方やると言う選択肢を取れていたなら、死ぬことは無かったかもしれない。
だが、実際問題その選択肢を取れるアイドルは多くはない。バレた時のリスクを考えれば当たり前である。そう言う意味では、アイは幸運だったのかもしれない。母とアイドル、その両方が出来る環境ではあったのだから。
「アイは我儘なんだね」
気付けば口から漏れていたその言葉。それを聞いたアイは体勢を変え、しっかりと遥を見ながらそれは違うかなと否定を返した。
「我儘じゃないよ、星野アイは欲張りなんだ」
遥を見つめるアイの瞳には、相も変わらず眩い星が瞬いていた。
時代背景の決定により、前話までの後書きのいくつかは消します。