一番星と『元極道の娘』   作:ヒリヒリ

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推しの子2期おめでとう(遅い)


事情聴取

「ん……んん?」

 

朝、アクアは窓から差し込む光で目を覚ました。視界に入ってくる見慣れた天井から、どうやら家にいるようだと理解する。どうやって家に戻ってきたのか記憶にないが、アイのライブを見終えたあたりまでの記憶ははっきりとあるので、おそらくその後寝てしまったのだと結論づけ未だ寝てる2人を起こさぬように布団から抜け出し、立ち上がる。

 

「ん?」

 

そのままリビングにでも行こうかと歩を進めようとした時、アクアはとある違和感に気づいた。その違和感の発生源は、アイの布団の膨らみ具合である。

 

(アイ1人にしては妙に膨らみ過ぎているような……?)

 

そう疑問を抱いたアクアは、足音を殺してアイの寝る布団に近づく。それによって、明確に布団の中に2人いる事を確認した彼は中をゆっくり覗き込んだ。最初に目に入るのは当然見知ったアイの顔。今日も最高だななんて思いながら、布団にいるもう1人へと視線を飛ばす。

 

「なんだ、遥さんか」

 

布団の中にいたのは、昨日初めて会った女性である遥であった。何故2人で同じ布団に寝ているのかは兎も角、昨日の一件を考えれば護衛の続きとして家に桐生や遥がいる事自体は不思議ではない。不審者では無い事を確認したアクアは、再び足音を殺してアイたちから離れ、周囲を一度見渡した。

 

(後はルビーだけか。となると、桐生さんはリビングか?)

 

辺りを見渡して寝室には桐生がいない事を確認したアクアは、そう考えた後アイたちを起こさぬように寝室を出た。ソファ辺りで寝ているのだろうかと考えながらリビングの扉を開けると、そこにはやはり桐生がいた。ソファに腰掛けており寝ているわけではなかったが。ついでに言えば、まだ髪をセットしていないのか、最後の記憶にある彼とは違い髪が下ろされ、オールバックだった時とはまた違った印象を受ける。

 

「桐生さん、おはようございます」

 

「アクアか、おはよう」

 

「あの、昨日はありがとうございました。僕達を守ってくれて」

 

挨拶を交わして、その後頭を下げて昨日の礼を言うアクア。それを見て、この年でよく出来た子だなと思いながら桐生は気にするなと返す。桐生としてはまず何故いるかと問われるだろうと思っていたので、アイたちが起きてくるまでの時間潰しも兼ねてそれを聞いてみる事にした。

 

「だが、俺たちがいて驚かないんだな?」

 

「遥さんがア……母と寝てるのは驚きましたけど、まあ昨日の事を考えれば2人がいる事自体はおかしい事じゃないかなと」

 

「そうか」

 

内心、アクアの礼儀正しさに感心しながら返答を返す桐生。子供の面倒を見る大変さというのはアサガオの院長を務める桐生も当然知っている。流石に赤子から育てた事はないが、だからこそ桐生はアイか面倒を見る事の多いらしいミヤコのどちらか、或いは両人とも相当のやり手であると確信を持つ。もっと早く会っていれば、色々とアドバイスを貰いたかったところだ。

 

「ちょっとお兄ちゃん!遥さんがまだウチにいるんだけど!?しかも、ママと一緒に寝てる!!!」

 

アイかミヤコか、或いはその両人がしたであろう苦労を考える桐生の思考を遮る様に、ドタドタと足音を鳴らしながらリビングに飛び込んできたのは、アクアの妹であるルビー。兄であるアクアとは違い、どうやら彼女は遥がいる事に驚いている様である。そんな彼女はアクアを視認し、その後その奥のソファに座る桐生を発見し一言。

 

「桐生さんもいるじゃん!!」

 

朝から元気な叫びを上げるルビーは、しかし直ぐに思い出した様に頭を下げた。

 

「昨日はありがとう!桐生さん!!」

 

「ああ。だがルビー、アクアもだが……大丈夫か?」

 

「?私は大丈夫だよ!怪我もないし!」

 

「俺……僕も大丈夫です」

 

昨日の事が尾を引いてないか、という意味だったのだがアクアは兎も角ルビーにはうまく伝わらなかった様だ。傷一つないよーと腕やら脚やらを見せてくるルビーは一通り見せ終わった後、彼女の中で仮説が出来上がったのかもしかしてと若干不安と恐怖が入り混じった顔を桐生に向ける。

 

「まだママが危ない目にあうかもしれないの……?」

 

「……ああ」

 

ルビーのその問いに対し、桐生が返したのは肯定だった。嘘を吐いても意味がない上、下手すると今後アイが狙われた時に余計にショックを与えてしまうかもしれないと考えた末の返答であったが、それが酷な答えである事も桐生には分かっていた。故に、最悪泣き出しても仕方がないとは思っていたのだが、なんとなく察してはいたのかルビーはそうなんだと呟いたのみで泣き出す雰囲気はなく、桐生をじっと見るのみであった。

 

「でも昨日みたいに桐生さんが━━」

 

「おっはよー!みんな早いね!!」

 

「━━あ、ママ!おはよう!」

 

ルビーが何やら言いかけたが、それは起きてきたアイの声によって遮られ、ルビーの意識もアイに向いてしまった為何を言いたいのかを聞く事はできなかった。

 

今日は事情聴取がある為、とりあえず斉藤が迎えに来るまでに朝食やら準備を済ませ、桐生と遥はタクシーで、星野一家は迎えに来た斉藤の車で事務所へと向かった。

 

     *

 

「お、集まってるな……待たせちまったか」

 

事務所の一室、そこに最後に入ってきた伊達の第一声はそれであった。昨日、住所を聞き忘れた為、桐生経由で教えてもらい最後にやって来る形になってしまった故の発言である。

 

「さて、まず昨日の男の件なんだが、名前は貝原亮介、年齢(トシ)は22で大学生だってのは所持してた身分証から分かったんだが━━」

 

椅子に腰掛けた伊達は、当然の様にこの部屋にいるルビーとアクアに一瞬視線を向ける。これから話す事柄は、到底幼児に聞かせる様な内容ではない。だが、彼らも被害者故聞く権利は当然ながら存在する。別室にいる訳でもなくここにいる時点で聞く意思もあるのだろう。そう考えた伊達は、特に何を言う事もなく、伝えるべき情報を話し始める。

 

「━━今、彼奴は病院に居る。舌を噛みちぎりやがってな。まあ、死のうとでもしたんだろうが」

 

伊達の発言に、桐生と遥を除くこの場の全員が驚きの声をあげる。一般人な彼らにとっては、捕まったら取り調べを受けるなりすると言うのが、普通であり、舌を噛みちぎると言うのは想定の外だったのだ。だが、現警察の伊達にとっては別にそうでもない。桐生と遥は言わずもがなである。

 

「別に珍しい話じゃねえんだ。頭に血が上って衝動的に犯行に及んだ奴が冷静になった後その事実を受け入れられずだったり、捕まった後にどう言う扱いを受けるか考えた末にとかな。まあ、そんなんで怖気付くなら最初からやるなって話なんだが」

 

「え、じゃあ死んじゃったの?」

 

「いや、死んじゃいねえよ。だから病院にいる訳だからな。舌を噛み切った場合の死因は殆どが窒息死、対処法さえ知ってればなんとでもなる」

 

「じゃあ、昨日のことについては?」

 

「悪いが、殆ど何も聴き出せてねえ。ただ、舌噛みちぎる前にブツブツ言ってたのを谷村の奴が聞いてたんだが、共犯者或いは情報提供者がいるのはほぼ確定と言っても良い」

 

「そう……なんですか。まあそうだよなぁ」

 

分かっていた事だが、心の何処かで単独犯であればなんて考えてた斉藤は思い通りには行かない現実に項垂れながら溜め息を吐く。そんな彼の横で、ミヤコがリョースケが持っていた拳銃は何処から得たものだったのかと質問を飛ばした。

 

「アレはその辺で売ってるモデルガンを改造した(イジった)もので、実銃じゃねえんだ。ある程度のモノならモデルガンと多少の知識さえあれば誰でも作れるが、ありゃ結構手が加えられてたから恐らくどっかで購入したか、或いは仲間に貰ったんだろうよ」

 

「購入って1大学生が買える様な値段なんですか?」

 

「ピンキリだろうが2、3万あれば買えるらしい。桐生、昔お前が組にいた時はどうだったんだ?」

 

「俺はそんなモン売り捌いた事はねえが、別の組にいた奴がコレで売ったとか言ってたな」

 

そう言って桐生は人差し指だけを上げ、それを見た伊達が1万かと漏らした。

 

「ただ、あの頃と今じゃ完成度も段違いだろうし、かかるコストも変わってるだろうからな。伊達さんの言う通り2、3万位が妥当じゃないか?」

 

当然の様に答える桐生に、星野一家及び斉藤夫婦はそう言えばこの人極道なんだよなと思い出す。思い出すだけで、何をされた訳でもないので怖がったりはしないが。

 

「闇商もそうだが、彼奴らは売れそうな人間を見る目だけはあるからな。警察にでもなってそれを有効活用して欲しいもんだ。と、そろそろ事情聴取しとくか。まあ、あんまり聞く事はないんだがな」

 

伊達の言う通り、事情聴取はかなり早く終了した。伊達が聞いたのは当日何をしていたのかだけで、斉藤がこれで終わりなのかと聞き返してしまうくらいにあっさりだった。

 

「事情聴取なんてこんなもんだ。特に今回はアリバイを証明できる相手が居る奴しかいないからな。桐生や遥は嘘をつく意味がないし、事務所ぐるみでもない限りあんたらも嘘付かないだろ?」

 

「それはそうだが、もっと拘束されるもんだとばかり」

 

「容疑者や重要参考人ならともかく、普通はこんなもんだよ」

 

「あ、あの!刑事さん!!」

 

「ん?」

 

そろそろ切り上げようと腰を上げかけた伊達に、アクアが待ったをかけた。再び腰を下ろし、伊達はアクアの次の言葉を待つ。

 

「えっと、僕たちが住んでたあのマンションなんですけど、引っ越してきたのはつい先日なんです。自宅の公開もしてないのに、その仲間はなんであのマンションを特定出来たのかなって」

 

「彼奴の仲間に情報を渡した誰かがいるかもしれないって事だな?」

 

「は、はい」

 

「今の話は本当か?」

 

「うん。アクアの言う通りだよ」

 

流石に子供の言う事故、伊達はアイに確認を取ってから少し考える様な仕草を見せる。

 

「もし本当に第三者が彼奴の仲間に場所をバラしたとしても、捕まえるのは難しいだろうな」

 

「え!?ママを襲ったやつの仲間なのに!?」

 

呟いた伊達の言葉に、大声で反応を返したのはルビー。彼女としては、犯罪を犯した人間とその人間に手を貸した誰かは纏めて逮捕されて当然のものだと思っていた。だが、現実はそう上手くは行かないものだ。

 

「実行犯の貝原はともかく、仲間や情報提供者は幇助或いは教唆って扱いになるんだが、これの立証がなかなか難しくてな。自宅の場所バラしただけで、貝原が勝手に殺しに行ったと言われればそれまでだ。当人は病院のベットの上で話を聞く事もできねえ。彼奴の持ってた改造モデルガンが仲間から渡されたものだったら話は早いが、恐らくは違うだろうしな」

 

自宅の場所をバラした事自体の罪には問えるかもしれんがな、と伊達は発言を終えた。それに対して、動揺を示したのは斉藤夫婦である。

 

「あの、驚かないんですか?俺たちの子って事になってるルビーがママって言ってるんですよ?アイの事」

 

「貝原がブツブツ言ってた内容の中には、『彼奴ら親子』だの『アイドルの癖に子供なんか』だのといった発言もあったからな。まあ、察しもする。桐生を父親だと勘違いもしてたみたいだがな」

 

「伊達さん……この事は……」

 

「そもそも俺ら警察には守秘義務がある以上必要に迫られなきゃ誰にも言わねえよ……あールビーだったか、とにかくそう言う事だ。捕まえたくても捕まえられないんだ。せめて貝原が目覚めて色々喋ってくれれば変わってくるかもしれんが」

 

「納得いかない!!」

 

前世があると言っても、ルビーはこの事を飲み込めるほど大人ではないのだ。特に、推しで母なアイが被害に遭っているのだから余計である。同様のアクアも似た様な心境ではあるが、飲み込める位には大人であった。

 

「ねえ、ダンテさん。今回の事って、全部そのまま報道されちゃうの?」

 

湧き上がる感情の処理が上手くいかず、ついには泣き出してしまったルビーをあやしながらアイはそんな事を伊達に聞いた。色々とバラされたくない事が多い彼女にとっては、ありのまま報道されるのは事務所的に避けたいが故の発言であった。

 

「ダンテじゃなくて伊達だ。マスコミには一応発表するつもりではあるが……色々隠したい事もあるよな。なら少し話し合いでもするか、流石に全部嘘っぱちはバレるから勘弁してくれよ?」

 

「え、嘘ついてもいいの?」

 

「良かねぇが、ニュースが全部事実を報じてる訳でもねえしな。それに、今回の件を詳しく知ってるのは俺と谷村だけで、現状は署の連中も何か事件があった程度にしか認知してないから、公にしたくない事を隠す位はできる。ただ、あのマンション近くで銃声聞いたって奴が今朝ニュースで色々話してたから、それに関連付けはするが」

 

そう言うと、伊達は泣いてるルビーに配慮してか別室で話の擦り合わせを行おうと提案し、それを了承した斉藤夫婦と共に部屋から出ていった。ただ、部屋から出て行く際、斉藤から桐生達にまだ話したいことがあるから残っていてくれと言われてしまった為、あとは伊達に任せて帰ると言う選択肢は桐生達の中から消えた。そもそもそんな中途半端で投げ出す様な行為をしようとは思ってなかったが。

 

「あ、そうだ。私もちょっと言いたいことあるから向こう行くね。遥、ルビーお願い」

 

「あ、うん」

 

ある程度ルビーが落ち着いてきた辺りで、アイは遥にルビーを託して部屋を出た。部屋に残された4人は、彼らが戻ってくるまでの数十分を他愛無い話をして潰すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




推しの子本編、なんかちょっと時系列おかしくなってない?気のせい?単行本化したら修正入るんかな?
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