女たらしの武器商人、キヴォトスに立つ   作:聖成 家康

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ツケ

 燦々と地上を照らす太陽。身に染みるような蒸し暑さが、歩く度に体力を奪ってくる。

 

 アビドス高等学校の自治区である此処は、殆どが廃墟街のようになっており、砂漠に埋もれている建物が多々見られる。何にも、アビドス高等学校は現在、廃校寸前なのだとか。

 

 

「…………あぁ、うん聞いてる。…………だから浮気じゃないよ。私あの時心に誓ったじゃんか、信じてよ」

 

 暑さで干からびそうになりながら、線路に沿って砂漠を歩く女が一人。

 

 腰まで伸びている真紅の髪。目には、ワインレッドの深みがある紅の宝玉が埋め込まれている。

 時計の針を模した黄金のイヤリング。赤い半袖シャツに薄手の黒ズボン、腰には纏っていたであろう黒のロングコートが巻かれていた。

 

「…………いや、とにかく暑くて。動いてなくても暑いんだよ。ホント…………あ、飲み物。そうだね、ありがとう」

 

 電話の主に礼を告げて、女――ファウストは辺りをきょろきょろと見渡し始める。

 

 砂に埋もれかかった、赤色の自販機を発見すると、オアシスに縋る気分でそれに駆け寄っていった。

 

「…………お金? 平気だよ足りるって。そろそろ切るね…………だから、浮気なんてしないってば」

 

 通話を切り、高そうな財布から小銭を取り出してから自販機に装填する。

 何とか稼働している事に歓喜しつつ、一番高い大きめのジュースを一本購入し、入口から取り出すや否や喉に注ぎ込む。

 

「あぁぁ……生き返る」

 

 天を仰ぐ彼女。もう長らく砂漠を歩き、何も飲んでいなかった。――その理由の八割は、電話のせいなのだが。

 背負った大きな荷物を、よいしょ、と背負い直し、ファウストはもう一口ジュースを注ぎ込む。

 

「あー、やば。癖になる」

 

 死にかけの身体に染みるジュースはこんなにも美味いのか、とファウストは半ば感動し、またやろうと決意する。

 

 ジュースをポケットに仕舞い、再び歩みを再開した。

 

 しゃり、しゃり、と聞き飽きた音にゲシュタルト崩壊を起こしていると、前方の砂がぼこぼこと浮き上がり始める。

 砂が舞い上がると、そこから複数の黒い人型ロボットが姿を現す。

 何かのサービスか――とも行かず、ロボットはすぐに発砲してきた。

 

 すかさず付近の遮蔽物に飛び込み、大きく息を吐く。

 

「ふざけるなよアビドス……!」

 

 手を広げ武器を生成しようとすると、ロボットの物とは違う発砲音が立て続けに聞こえ、やがて銃声がピタリと止んだ。

 

 

「お〜いそこの人〜、大丈夫〜?」

 

 のほほんとした声が聞こえ、遮蔽物からそろりと顔を覗かせる。

 

「いたいた! 平気?」

「お怪我はなさそうですね」

 

 そこに並んでいたのは、銃火器を持った女子高生たち。ピンク髪の小さい子、黒いツインテールの子、胸が張り裂けそうな子、銀髪獣耳の子。

 

(オアシス……!!)

 

 ファウストは心の中でガッツポーズをし、彼女らの元に近づいた。

 

「君たちがアビドス対策委員会?」

「おー、よく知ってるね。おじさんたちもあなたのこと知ってるよ」

「……おじ……?」

 

 ピンク髪の女の子は、青と緋の綺麗なオッドアイを細めて、ゆらゆら揺れながら言う。

 

「ん。武器売ってくれる人」

「先輩、言い方!」

 

 獣耳の子が指をさしながら言うのを、ツインテールが喝を入れる。

 

『あ! あなたがファウストさんですね! お待ちしていました!』

 

 ピンクの子の横に突然現れたホログラム。そこに、赤縁メガネを掛けた黒髪の女の子が映し出される。

 

(うわ……一番タイプ)

 

 しかも名前呼んでくれた。最高。

 

 ファウストは我に返り、彼女に返答を返す。

 

「き、君が奥空アヤネちゃんだね」

『すいません。こんな会い方で……先輩方、ファウストさんを学校に案内してあげてください』

「うへ〜、仕事増えたよ〜」

「先輩、言い方!」

 

 そんな個性豊かな子達と共に、ファウストは当初の目的であったアビドス高等学校を目指すことになった。

 

 ◇

 

 ホシノ、ノノミ、セリカ、シロコの案内があり、難なく学校に着くことができた。

 

「……ここが君たちの学校?」

「そうだよ〜」

 

 砂漠を背に佇む、小綺麗な校舎を見上げ、ファウストは懐かしさを覚える。

 廃校寸前と聞いていたが、校舎は意外にも綺麗なことに驚いていたものの、口に出したら撃ち殺されそうだからやめておいた。

 

「ささ、入って入って〜」

 

 ホシノに押され、校門を潜り抜ける。

 彼女の柔らかくて小さな手が、腰辺りにあてがわれた。

 

(ホシノちゃん指細ーい……も、もっと下触ってくれないかな……)

 

 ファウストは悶えながらも身を任せ、アビドスの校舎に足を踏み入れた。

 

 

 対策委員会の部屋に招かれ、他の皆には席を外してもらった。

 赤縁メガネのアヤネと二人きりになり、商談の準備を始める。

 

 とは言ったものの、ファウストは彼女に背を向けたまま動くことができずにいた。

 

(アヤネちゃん凄いいいニオイする……! JK特有のあまーい香り……それに瞳が純粋すぎる……見れない、見れないよ……!)

「あの……ファウストさん? 具合が悪かったりしますか……?」

 

 アヤネに触れられて、ファウストは飛び跳ねながら振り返った。

 

「ね、熱中症かな。大丈夫、少しクラクラするだけだから」

「本当ですか……?」

 

 ファウストは足をガクガクと震えさせながら、アヤネと向き合うようにして席につく。

 

「……えー、私の扱う武器が見たい……ってことだったよね」

「はい。アビドス自治区では近頃、ヘルメットを被った集団がまた暴れ始めていまして……その抑止力になる武器があれば、購入を検討させていただければと」

「……成る程」

 

 破茶滅茶な都市だ。抑制に銃火器が必要なヘルメットを被った集団など、百年生きても見ることなんてできないだろう。

 こんな可憐な女子高生達が、銃を持って戦っているところを想像すると――。

 

 

 正直興奮する。

 ましてや、彼女らに自分の武器を使ってもらえるなど幸福以外の何物でもない。

 

 

「どういった武器がいいかな」

「……? できるなら、アサルトライフルがいいです。うちには、それを専門とするのが二人もいますから」

 

 少し声音が鋭くなり、先程までのデレデレが無くなった、真面目なファウストを見て、アヤネは微かに身体を強張らせる。

 

(あぁ〜かわいいぃ……健気な子だなぁ)

 

 あくまで真面目なのは表情だけだが。

 

「その集団は、例えばどんな武装を?」

「基本的には歩兵ですが、戦車やヘリなども所有しているので、中々侮れなくて……」

「せ、戦車か」

 

 ファウストは暫く考えた後、手を握ったり、広げたり繰り返してから、掌をお腹の前辺りで大きく広げた。

 

 カタカタ震える彼女の荷物。上部の筒から銀色の粒子が放出され、掌の上で渦巻き、銃の形を作っていく。

 

 あっという間に形成されたアサルトライフルを、ファウストは難なくキャッチする。

 

 アヤネは声も出さず驚愕している様子だった。

 

(メガネズレてる……! かわいいぃ……)

 

 一方ファウストは、冷めた顔してこんな事ばかり考えている。

 

 

 形成された銃。くすんだ黄土の金属、一部が硬い木材で構成され、各所にまるで獣のような荒々しい装飾が施されている。

 特徴とも言えるのは、大きなマガジン。されどそんなマガジンを有していながらも、その銃は綺麗なフォルムを保っていた。

 

「これは『F35マルコシアス』。私の住んでる地域では、主に特殊部隊に配備されてるARだね」

「……随分と棘々していますね」

「こういう装飾なんだ」

 

 アヤネはその銃を、興味津々な様子で観察している。

 彼女が見やすいよう、何度か銃自体を回転させてやった。その度にアヤネは身体を捻り、動きに合わせていた。

 

(なんてことだ……胸元ぴっちり締めてる……)

 

 何度も試行錯誤しようと、ネクタイがある限り無駄だと気づき、ファウストは諦める。

 

「具体的には、どういった性能なのですか?」

「まず大きな特徴としては、弾丸。小銃用の徹甲弾を使用するんだ」

「て、徹甲弾をですか?」

 

 そこに驚くか、とファウストは思う。

 キヴォトスでは馴染みが無いのだろうか。

 

「キヴォトスの外の特殊部隊は、これを常に……? 一体どんな世界なんですか……」

 

 こっちの台詞です。

 

「でも、少し扱いにくいのでは?」

「そんな事は無いよ。実際、特殊部隊に数多く配備されているのは、その使いやすさからだ。使いやすくて、壊れにくい。火力も十分で、徹甲弾によって装甲車にも対応できる」

「なるほど……」

 

 ヘルメット集団という、戦車、ヘリを保有する敵を相手にするのなら、かなり有効に働くと思われる。ARを使わない生徒でも、マルコシアスなら使いこなせる筈である。この武器はそれだけ、使いやすさが売りだ。

 

「結構……高く売れそうですね」

「……?」

 

 ぼそり、とアヤネがそう呟き、ファウストは涼し気な顔を動転させる。

 「高そうですね」なら分かる。だがそこに「売れそう」という単語が入るだけで意味も文脈も大きく変わる。

 

「売る……?」

「あっ! いえいえ、そんなつもりでは……」

「転売はちょっと……お断りさせていただきたくて……」

「しません! しませんから!」

 

 アヤネは涙目になりながら弁明した。

 

「……私たちの学校は、莫大な借金を抱えていまして。毎日毎日、皆で知恵を寄せ合ってお金のことばかり考えているからか、日常でもそういうことを考えてしまうんです」

「そう……なんだ」

 

 ファウストは銃を机に置いてから、額をそこへ押し付けた。

 

「どうぞお好きに転売なさってください……」

「だ、大丈夫です! 顔を上げてください!」

 

 のろのろと顔を上げ、ファウストは罪悪感で表情を歪める。

 

(うぅ……真面目なアヤネちゃんを踏みにじるようなことを……あ、でもそれって中々興奮できるのでは……?)

 

 すぐに歪みは直った。

 

 

 色々あったが、マルコシアスを二丁購入するという形で、商談は成立した。

 借金を抱えているという話だったが、最近は金銭に余裕がでてきたらしく、自治区の安全を保つという名目でも武器の購入を考えたらしい。

 

「……後払い?」

「は、はい。手持ちには無いものでして……」

「あ、後払いか……なら、この口座に入れてくれるかな」

「なるべく早く!」

 

 アヤネは清廉潔白な笑みを浮かべ、そう言った。

 間違いない。この子は確実に払ってくれる。そう判断したファウストは、後払いのお願いを快く引き受けた。

 

 商談が終わり、一気に身体の力が抜ける。立て直すためにも、ぐぐっと大きな背伸びをしたが、頭の上から何かが抜けていき、一瞬意識が遠のく。

 くら、と身体が倒れそうになるも、慌てて駆け寄ってきたアヤネに抱きかかえられる。

 

「だ、大丈夫ですか!? やっぱり、どこか悪いんじゃ……」

「平気……平気。もう帰るから」

「まだ外は暑いです。もっと悪化してしまいますよ」

 

 砂漠を超えるのは一苦労だった。今思えば、あんな暑さは生まれてこの方体験したことがない。

 

「暗くなったら落ち着きますから、それまでどうか休んでいかれてください」

「なんかごめんね……」

 

(むむむむ、胸胸っ……胸当たってる……!! 意外に大きい……! 柔らかい……! この子着痩せするタイプ!?)

 

 アヤネの身体を借りて、部屋の隅にあるソファに腰を掛ける。

 またくらりと来て、今度こそ倒れてしまう。

 

 彼女の膝の上に。

 

 スカートから覗く魅惑の太ももが頬に当たり、その柔らかさ、温もりが直で感じられた。

 

「ごごご! ごめんアヤネちゃん! すぐ退くから!」

「い、いえ。大丈夫です。そのまま横になっていてください」

 

 少し恥ずかしそうに、アヤネは彼女を引き止める。

 

「ファウストさん、きっと頑張り屋さんですよね。こんなになるまで、お仕事されてますもの」

「そうかな……」

(あぁ、膝枕ってこんなに幸せだったかな……あの子にも今度してもらお)

 

 彼女から顔が見えないのをいいことに、ファウストは表情を思い切り崩していた。

 一生こうしてもらいたい気分であった。

 

 

 

 

 暗くなるまで、対策委員会の子達との時間を過ごし、ファウストはようやく帰路につく。

 D.U区まで繫がる地下鉄の乗車券売り場を訪れ、時代遅れだが券を買う。

 

「えぇと……小銭、小銭――」

 

 ファウストは財布を覗き込む。

 指で中を掻き分けていくうちに、その動きは徐々に早まっていく。

 

 やがて財布をひっくり返したが、中から一銭も零れ落ちてくることは無かった。

 

「ななな、なんで……!? ――あ」

 

 ポケットの膨らみに気づき、ファウストは全てを察する。

 

 飲みかけのジュースを震える手で握り、無人の券売機に差し出した。

 

「こ、これで勘弁してください……」

 

 遂には跪いてしまい、神に供物を献納するようにペットボトルを差し出し始める。

 

 

 

 キヴォトスのSNSで、ペットボトル献上女が泣きながらヒッチハイクする動画が大流行した。

 

 

「おー、これあの人じゃない?」

「ん。楽しそう」

 

「す、すぐにお金渡してあげればよかった……」

 

 もちろん、それはアビドスの生徒達の元にも届いていたのだった。

 

 

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