キヴォトスの空は今日も青い 作:アリスはいいぞ
ブルアカで脳を灼かれたので投稿してみました。
解釈違いや設定齟齬を見つけたら、どしどし言ってください。
作者も解像度を上げたいので……
あと更新頻度は確実に遅いです。
第一話:勇気との邂逅
◇
「うへ~、おじさんにはつらいよ~」
悪態を付きながらも、誰よりも正確に狙撃をこなしていく。
──否、狙撃というよりは“奇襲”と評する方が適切であろう。
空の薬莢の数だけ用意されていた
「す、すごい……! これが界隈では有名な暁の──」
「次の射撃への移行に、まったく無駄がない……!」
ふぅ、と髪をかきあげ暁のホルスは……ホシノは振り返る。
「こんな感じでどうかな? 参考になったら嬉しいんだけれど」
──ことの発端はこうである。
ゲーム開発部に所属している勇者……もとい天童アリスから「光属性単体アタッカーのお手本を見てみたいです!」というお願いがあった。
そもそも、ゲーム開発部どころかミレニアムとの関わりもほとんどないホシノからすれば、連絡の来るはずがない相手。
何か裏があるのかもしれない、と疑いつつも──いや、疑っているからこそ一人で指定された場所……ゲーム開発部の部室へと向かう。
例え鬼が出てきたとしても、惨劇の余波を自分達の学校には出してやらない。
眠たげな表情の裏に強い警戒を張り付けながら、心を固める。
そうして飛び出してきたのは、鬼でも蛇でもなく……勇者であった。
「う、うわ~ん! アリスには無理です!」
指定された部屋に入ろうとした瞬間。
自動応答から成長した感情の豊かさ──そんな不思議な感覚を抱かせる声が響き、ドアが勢い良く開かれる。
事前に警戒していたが故に、開かれたドアに挟まれることもなく、飛び出してきた彼女を──アリスを確保する。
「おっと、危ないよ~」
床まで伸びた黒色の髪、そして抱き止めた時の感覚から尋常ではない、と判断した直感。それ故に一瞬だけ体が強張る。
もうひとつ驚いたのは、その娘の膂力の強さ。
抑えた時に一瞬だけ発生した抵抗。それが予想の何倍も強いものであった、ということ。
軽く受け止めた声の裏で、警戒と驚きを天秤の台の片方に乗せていく。
いざとなった時。その対処における優先順位を策定してしまう。
警戒、不信。
そういった類いの行動が“好まれない”ことはわかっている。
それでも、誰かがそれをしなければ──世界は悪辣に牙を向いてくる。それを身をもって知っている小鳥遊ホシノという人間は、“好まれない”を好まずに続けている。
或いは、既に好んでしまっているのかもしれない。
「パンパカパーン! 依頼クエストの達成を確認しました!」
それは抱き止められ、落ち着いた彼女から混じり気のない──羨ましいとすら思えてしまう純心さを感じたとしても、変わらない。
◇
ゲーム開発部の部室に入ったホシノ。
彼女を待ち受けていたのは陰謀渦巻く紅茶でも、交渉のテーブルでもない、整頓されていない雑然とした世界であった。
この様子だとこのゲーム開発部自体が主体で“何か”を企んでいるわけではないだろう、と少しだけ疑心の天秤から重りを外す。それでも完全に軽さを取り戻したわけではなく、少しだけ疑心の水平線が下がっただけ。
「え~と、それでお手本だっけ? おじさん、もう腰が動かなくてね~」
仮に何の企みも関係ないというのなら、受けてもいい──むしろ、受けてあげたいところではあるものの、背後が読みきれていない以上お気軽に受けるわけにはいかない。
……例えば。
一番あり得るのは、アビドスという学校の戦力調査である。ホシノの戦力を“お手本を見せてもらう”という名目で測定すれば、アビドスを攻め落とす為に必要な戦力というのは概算可能である。
他にも考え得るのは、こうして呼び出している間に
カイザーとの一件を経験した委員会の人達が、気軽に何かの“契約”を承諾するとは思っていないものの……ホシノという人間の思考回路は万が一をしきりに警告してくる。
「はい! 次回作のゲームは『迷宮探索型FPS』になりました!」
「そ、それで……モーションのサンプルが貰えたら……と、思いまして……」
警戒されているとは心にも思っていない……それどころか、悪意というものを知らないようにすら見える危うさを見せるアリスに、ほんの少しだけ眉をひそめる。
もう一人、声を震わせながら声をかけてくるのは花岡ユズ。
事前情報として部長ではあること。そして大人しい……内気な性格であるとは知っていたものの、同時にそれだけの人ではないともホシノは考える。
怯えてはいるものの、仲間を守ろうとする気持ち。いざという時に行動する胆力。
そういったものを持ち合わせていないようには見えない。
“嫌いな大人達”のように自己利益のみを追究する信用出来ない人達ではない。そんな予測を立てる。
この時点でホシノとしては、ゲーム開発部に対して一定以上の信用を寄せていた。
ちらりと部室の中を見回してみれば──使い古されたお揃いのマグカップに、四人の文字が書いてある企画書。
とてもじゃないが義務や仕事で付き合っているとは思えないような仲の良さを証明するような品物ばかり。
厳しめに見積もったとしても、仲間意識がないとは決していえない集団であると、他でもない部室が示している。
あるいはそれら全てが演技であり、ホシノの警戒心を下げる為の罠である可能性も考えるものの……トリニティの上層部でもないのだから、その可能性は低いと思い直す。
それでも、可能性自体を切り捨てたわけではないのだが。
その上で。
ゲーム開発部が信用出来るということと、依頼を受けていいかというのは別問題である、とも考えていた。
ゲーム開発部が何も考えていなかったとしても、その上のセミナーは? 合理の化身と名高いビックシスターは?
大きな学校の力というものを知っているホシノは、大きな学校の上層部までもが心優しいなどという夢物語を信じない。
現在のアビドスのような小さな学校と違い、大きな学校というのは上層部が大人数を取り纏める必要が出てくる。そうなれば必然的に組織が構成されることとなり──組織が上手く回る為には“仲間意識”なんて綺麗事だけでは立ち回らない。
利益を追究するような行動。他者を蹴落とすような行動。少数派を切り捨てる行動。そのようなものがついて回るのは当然だ、と思っているから。
そのような思考の上、やんわりと断ろうとして──
「そうだ! うちで最近作ったゲームをやってみてよ! ぜっったい面白いよ!」
「『リビルド・スクール・アドベンチャー』! 廃校寸前の学校を建て直していく、経営シミュレーションゲーム!」
「──へぇ……?」
何処となく誰かと重なる境遇のゲームに、黄色の目がほんの僅かに開かれる。