転生したら魔王の娘だったんだが   作:エイ

1 / 1
転生

 死は、本当に唐突だった。

 

 

 両親と俺ら兄妹の四人で、他県にある母の実家へ帰省するべく車に乗っていた時のことだった。

 

 

 毎年交通事故で亡くなる数十名の内の四人に、俺らが選ばれたのだ。

 

 

 イヤホンを着けてスマホゲームに勤しんでいた俺がそれ気づけたのは単なる偶然だった。たまたま前を向いた時、前方から猛スピードで逆走してくる自動車が目に入った。

 

 気づいたところでどうしようもない。暴走車との正面衝突で俺らの乗る車は海へと投げ出された。両親はその衝撃で死に、俺ら兄妹は抱き合いながら溺死した。

 

 

 そんな人生だった。たったこれだけの字数で語れる死に様だった。

 

 

 そう、死んだ、はずだった。

 

 

「我が名は神龍アルターヴェル。魂のみの者よ、其方を特別に救ってやろう」

 

 

 な、なんなんだ……ここは……。

 

 

 全方位、どこを見ても真っ白な空間が無限に続いている。そしておそらく下だと思われる方向を見ると、数百メートルほどの巨体を持つ真っ赤な龍が鎖で雁字搦めにされながら寝そべっていた。

 

 大きすぎて全貌が見えないが、おそらく西洋の龍に近似されるカタチをしたその龍。その圧倒的プレッシャーに体が竦む。いや、それは正しい表現ではなかった。

 

 体が、なかった。動くのは視線のみで、体を知覚することができない。手足の感覚どころか全身の感覚はなく、360度視界は動くのに自らの体が映ることはない。

 

 その異常すぎる現状に、逆に一周回って冷静になった俺は思考する。

 

 

 これ、神様転生じゃね? と。

 

 

 死後、明らかな上位存在にこの真っ白な空間、ここまでのテンプレに見舞われて気付かないオタクはいないだろう。

 

 そこまで察した俺はチート特典くれたりなんか色々してくれそうなドラゴンにコンタクトを試みた。

 

 しかし声も出せないし、脳内で会話を試みても一向に伝わらない。

 

 そしてしばらくあれこれ試していると、何やら妙なことに気づいた。

 

 

 さっきこいつが語りかけてたの俺じゃない説濃厚では? 

 

 

 先ほどから上の界がどうのだのよくわからないことをずっと話している龍。そして決定的なのは「その質問には答えられない。汝のような小娘に理解できるものでもない」という言葉だった。何やら俺ではない誰かと会話しているようだ。

 

 え、つまり神様転生的なアレコレじゃない? 俺今どういう状況?? 

 

 下で何者かと会話をする龍を眺めていると、だんだんと視点が龍から遠ざかっていく。龍が寝そべっているのが地面だと仮定すると、どうやらゆっくりと上昇しているらしい。このままどこへ向かうのだろうか。

 

 自分ではどうしようもないが、もしかして永遠にこの何もない真っ白な空間で一人漂い続けるのだろうか。

 

 なんだそのバッドエンド、俺なんも悪いことしてないのに……。もう唯一助けてくれそうなドラゴン様に祈るしかない。

 

 

 助けて……誰でもいいから……。

 

 

 

『なんじゃ、また妙なものが紛れ込んでおるのぅ。クレモアのやつには説教じゃな。ほれ、出してやるから。二度と迷子になるんじゃないぞ?』

 

 

 

 突然、美しい女性の声が響き、何か柔らかいモノに包み込まれた。

 

 何が起こったのかもわからずあたふたするも、その心に反して体は動かない。そもそも体は存在しないが。

 

 

 ガラスの割れるような音が聞こえ、何故だかだんだんと意識が遠のいていく。体が何か温かいもので満たされていくような感覚と共に微睡んでいく。

 

 最後に、緑がかった金髪の美しい少女を視界に納め、意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、意識が浮上していく。何か、生暖かい物に包まれている。視界は真っ暗で何も見えない。

 

 体の動きが鈍い、思考もなんだか纏まらない。一体何が…………。

 

 

 何時間、何日、何ヶ月、どれほど長い時間だったか、それは覚えていない。とても長い時間、生温い液体の中を揺蕩っていたように思う。なんだか自我が希薄で、なにもかもどうでもいいことのように思われた。そんな何もない時間の中、ついに変化が訪れる。

 

 

 初めて、まともに体が動く感覚があった。それは自らの意思によるものではない。しかし、随分と久しぶりの感覚に意識がだんだんとはっきりしてくる。

 

 

 ふと、体を包んでいた液体が突然どこかへと流れだした。視界が光で埋め尽くされる。

 

 

 眩しい……!! 

 

 

 それは、意識を完全に覚醒させるには十分な刺激であった。しかしあまりの眩しさに全てがぼやけて、輪郭のはっきりしないシルエットしか見えない。

 

 

 

「※※※※※※※※※※※※※※※※」

 

「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※」

 

 

 複数の女性が何かを言いながら慌しく動いている。

 

 そして一人のおそらく男性であろうシルエットが近づいて来た。

 

 彼は俺を抱き上げると何処かへと歩いていく。思考が霞むせいでぼんやりと状況を眺めるだけで何も頭に入ってこない。

 

 一人の女性の前に行くと、どうやら僕を抱えたまましゃがんだ様子の男、いや、跪いているのかな? 

 

 

「※※※※※※※※※※」

 

『おやおや、これは……本当にこんなことがあるのじゃな。なんとも珍しいことじゃ。まぁよい、汝の行く末に幸多からんことを……王女殿下』

 

 

 それは、どこかで聞いたことのある声だった。そして何故か、その女性の言葉だけはっきりと意味を理解することができたのだった。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 一年が経ち、すっかりと元の思考と記憶を取り戻した俺は、ようやく現状をはっきりと認識できた。

 

 どうやらここは、龍がいた時点でわかっていたが俺のよく知る世界ではなく、剣と魔法系のテンプレ異世界のようだ。

 

 色々と俺の世話をしてくれる女性達、暫定侍女達。その姿は人間のものではなかった。

 

 その頭には大きなツノが二本生え、背中には黒い艶やかな鱗に覆われた翼が一対。そして硬質な尻尾を器用に使い掃除を行っている。他にも蝙蝠のような羽が生えてる女性やケモミミの生えた女性もいた。

 

 

 見事な異世界転生だ。ラノベを読み漁っていた俺は当然心が躍った。

 

 しかし一つだけ残念なこともある。

 

 どうやら、我が息子は共に転生してはくれなかったらしい。

 

 

 魔国ヴァンダルシア第二王女、シエラ・ヴァンダルシア、それが今生の俺だ。

 

 

 そう、転生は転生でも、TS転生だったのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。