何時の間にやらお気に入り件数が100を突破していました…!こんな私の作品をお気に入り登録してくださった読者の皆様には伏して御礼申し上げます。
まだまだ作品は始まったばかりで展開も遅いとは思いますが、首を長くしてお待ちいただければと思います。では、最新幕をご覧くださいますよう…!
それから時が経ち、期限となる3日目となった日。愛紗は長老たちが集まって会議している長老の屋敷に赴くと、張朔の元へ嫁ぐことを宣言した。当然長老はおろか町の人々らは彼女に翻意を促そうとするのだが……。
「長老、それに町の皆。皆の言う事も分からない訳ではない。だが…このまま張朔の要求を断ったとなれば、あの男はこの町にどの様な無理難題を吹っ掛けて来るか知れたものではない。……私は、私や兄上を迎えてくれたこの町を、そしてこの町に住む皆を大切に思っている。ならば私は、この町を護る為にこの身を捧げる覚悟だ」
…と言って、悲壮な決意を示す愛紗に長老を初めとした人々はとうとう折れざるを得ず、長老は張朔の元に愛紗が嫁ぐ事を人をやって報せる事になる。当然張朔は喜色満面と言うほどの笑みを浮かべ、傍から見ても分かるように喜びを露わにしたのは言うまでもない。
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月明かりが黒雲で覆われ、星光一つも見る事が出来ない闇夜の中で、壮也は蝋燭の僅かな光を頼りに書状を書いていた。
「『この様な手紙をお送りする事、お許しください。故あって俺は大切な人を護る為人倫に背く行いをいたします。この手紙が届いたのであればどうか俺と縁をお切りになってください。そうすれば禍根に巻き込まれぬと思いますので。どうかお体を労わってください』……こんな所、かな?」
そう呟いて壮也は書状を書き綴っていた筆を置いたが、その書状は『絶縁状』……壮也は自らの両親との縁を切る為の書状を記していたのである。
「…父上達、怒るだろうな。まあ、覚悟は出来てるけどね……」
そう寂しく呟いた壮也は書状を折り畳んで文机の上に置くと、家の中の整理整頓を行い始める。そして家の中の整理が終わると今度は家の傍にある鍛冶場に赴くとそこでも同じように整理整頓を行った。それが終わると壮也は家の傍にある庭に赴くと壁に掛けてあった麻で作られている布袋を手に取った。
「…こんな形で故郷を飛び出す事になる事になるとは思わなかったな」
壮也はそう呟かざるを得なかった。転生と言う形でこの世界に生まれ、そうして今日まで過ごしてきた壮也にとっていつかは訪れる郷土の別離がこの様な形で訪れるとは思いもよらなかった。まして今回の出立は
だが壮也はすでに覚悟を決めている。そして布袋を手にして少しばかり念じると……その途端、布袋は腰に下げても動く事に支障のないくらいに縮んでしまったのである。
「まさかいくらでも入って重さも変わらないだけじゃなく、念じるだけで大きさを自由自在に変える事も出来るなんて……太上老君殿、貴方には感謝の言葉しか思い浮かびませんよ」
そう言って壮也は感嘆のため息をつく。この布袋、実は壮也が転生する時に太上老君が餞別代りと言って壮也に授けた『道具袋』だった。壮也が物心ついた頃にいつしか家の壁に引っ掛けて置いてあったのだが、父親である徐岳らはそれが当然の如くに思い、何の追及もしなかった。恐らく太上老君が元からあったのだと思わせたのだろう……壮也はそう察するのと同時に感心せざるを得なかった。
因みにこの道具袋の中は最初こそ何も入っていなかったのだが、壮也が21歳を迎えた現在では、すでに壮也自身が手ずから作り出した数百種類もの武具が満載されていた。壮也が愛用している『
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やがて自らの大戦斧を手にした壮也はその足で長老の家を訪れた。二人は屋敷にある卓の上で向かい合って座り、話し始めた。
「来たか壮也……。その顔を見るに、腹を括ったという事かのぉ?」
「ええ、その積りで来ました。愛する人を救う為に、国に楯突く事を、咎人になる事を承知の上で」
「そうか……しかし軽挙に動こうとする愛紗を諌める事の多かったお前が軽挙に動こうとするとはな」
「……俺も自重するべきだとは思っていたんです。けれど…泣いていたんです。自分達を迎えてくれたこの町の人々を救う為に……けれども望まない相手と結ばれなければならない現実を選んだ事に、愛紗は泣いていた。俺は………あいつの泣く姿を見たくありません。俺の行動が……あいつをまた泣かせるのだとしても」
そう言葉を吐き出す壮也の脳裏には、壮也が渡した護り刀を胸に立ち去って行く時、目を潤ませていた愛紗の貌が浮かんでいた。
「ふぉっふぉっふぉ!確かにお前の行動は褒められたものではないのぉ?じゃが惚れた相手の為に命を賭ける………それはそれで好ましいと儂は思うぞ?それで、儂に何をしてほしいのだ?」
長老の問い掛けに対し、壮也は長老の前に出す様に卓上に書状を置いた。
「これは……徐岳に対しての手紙か。離縁状、と言う奴か?」
「今回俺がする事は俺自身の我儘による物。父上達が俺と離縁してくだされば追及は俺一人になりますから。それと…役人達が追及をしてきたのであればすでにこの町から放逐したと伝えてください。俺を放逐したと聞いたならば役人達もそれ以上責める事もしないと思いますし『壮也』っ!」
だが長老の重厚な言葉をかけてきた事に壮也は言葉を詰まらせる。そして長老は壮也から目を離さぬという感じで見つめながら言葉をかけた。
「お前が徐岳達やこの町の者達を巻き込まんとし、己一人で罪を被ろうとするその気概は認める。じゃがそれは余計なお世話と言う奴じゃ。儂はお前が物心ついた時からお前を鍛えてきた。儂にとってお前は我が子も同じじゃ……そんなお前に縁を切れと言われて承諾できると思うか?…どのくらい時間が掛かるかは分からぬじゃろうが、いつでもこの町に戻ってくるがよい。ここは……そなたの故郷なのだから」
「長老……、ありがとうございます」
己の我儘で罪を犯し、それによって町の人達にも迷惑がかかるというのに長老はその事を苦にも思わず、むしろ罪を犯そうとする己の心配をしてくれる長老に壮也は感謝の言葉を吐くより他無かった。そうして少しばかり話をした後、壮也は長老の屋敷を後にすると県令である張朔の屋敷に向かって馬を走らせた……。
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さて、その張朔の屋敷で張朔は幸せの絶頂に浸っていた。賄賂を得る事は出来なかったものの美しい黒髪と凛とした美貌を持った関羽と言う少女を妾として求めてから期限の3日目に彼女が訪れ、妾になる事を承諾したのである。当然張朔は天にも昇るくらいに嬉々としてこれを受け入れ、その夜屋敷では大規模な酒宴が開かれた。そしてそれが終わっても張朔は自室に戻ると関羽に酌をさせて酒の味を楽しみ続けていた…。
「ふふふ……やはりお前の様な美女を相手にさせての酒の味は格別よな。そうは思わぬか……」
「………はい」
「関羽、そう辛そうにするでない。安心しろ、お前が来て妾になるのだから儂も長老と交わした約定を破るつもりもない」
関羽の貌が陰っている事に気づいた張朔は自身が交わした約束を破るつもりはないと説明しているのだが……その貌には下心がありありと浮かんでいた。この男はたとえ自分を妾に迎えたとしてもまた陽県の住人に無理難題を仕掛けるのではないか……?関羽にはそう思えてならなかった。そう思っていた愛紗だったが…やがて張朔は自身に向かってある問い掛けをしてきた。
「そう言えば関羽よ……お前はこの土地の生まれではないそうだが、どこの土地の出なのだ?」
「……私は、解県で生まれ、そこで育ちました」
「っ!?そ、そうか…」
関羽の言葉に張朔は思わずばつの悪そうな感じになってすぐに発言を控えてしまった。それを見た関羽は以前から胸の内に抱いていた疑問をぶつけてみようと思い、張朔に問いかけ始めた。
「……私が故郷を離れたのは、解池で商いをする商人達の財貨を狙った賊の襲撃を受け、町を護ろうとして戦った両親が亡くなった為でした。張朔様……貴方は嘗て解県の県令を務めたと聞きます。貴方は…賊の襲撃について、何かを知っていたのでしょうか?」
「そ、それは……」
「…別に他意はありません。あの時の事を、少しでも知りたい……それだけなのですから」
関羽の言葉を聞いた張朔は一息溜息をついたかと思うと……途端に不機嫌そうな顔つきになって愚痴を零し始めた。
「……そ、そもそもは兄上が儂に賄賂を要求したのが始まりだったのだ。確かに儂は兄上に賄賂を贈らなかった事で河東郡の太守から解県の県令に左遷され、今またこの陽県の県令にされたのは分かってはいるが…当の兄上は漢の朝廷を掌握している権力者だぞ!?財貨など使い切れぬほどに媚び諂う者達から献上されていよう!?なのに兄上は儂にも賄賂を要求してきたのだ!『お前を太守に任じたのは僕の手回しがあってこそだ。ならば相応の礼をするのは当然だろう?』とほざいてだ!?」
「だから儂は突っぱねた!『兄上は飽きるほどに財貨を持っていよう!肉親の一人からも賄賂を取らずとも好かろうが!?』とな…そうしたら兄上の奴め、賊共を唆して解県に差し向けてきおったのよ。十や二十ではきかぬほどの大勢をだ!」
張朔がその時の事を半ば興奮気味に捲し立てると……関羽は震える声をしながらまた問いかけた。
「……それほどの賊を差し向けられたというのに、貴方は軍を向かわせてくれなかったのですか?」
関羽の言葉に対し、張朔は何と言う事は無い様に軽い口調で返答をしていた。
「馬鹿を言え?儂と繋がっていた商人達とてかなりの傭兵どもを抱え込んでおったのだ。儂が軍を差し向けずともその程度の賊など蹴散らす事ぐらいできよう?第一民の者達など町を捨ててとっとと避難しておればよかったのだ、故郷を護ろうなどと意気込んで向かわなければ死なずに済んだのではないのか?」
………今、張朔が放った言葉。それがどれほど救い様のない物か、その言葉が己の運命を決定づけるものであったか分かっていたのだろうか?いいや、断じて分かってはいないだろう。
張朔の言葉に対し、関羽は俯いたまま何も言わなかったが……やがて唐突に顔をあげると酒瓶を乗せていた盆を持って立ち上がった。
「………酒が無くなってしまったようです。取りに行ってまいりますので」
「おおそうか!何ゆっくりといくがよい、待っておるでな」
張朔の言葉に関羽は一礼するとそのまま部屋を後にした………。
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厨房に向かって酒を取りに行った帰り……関羽はその途中、庭園にある東屋の卓に酒瓶を乗せた盆を置くと、柱に頭を傾けた。そして……偲び泣き始めた。
「……っ、うっ、ううう………!」
その原因は分かってはいた。先程の張朔の言葉……それが許せないのだという事に。確かに先ほどの張朔の言葉もある意味では正しいのだろう。命が惜しいのならば必要最低限の物を持って町を離れればよかったのだから。だが……関羽の父母は、それを良しとしなかった。
……あの時の事を、関羽は今でも覚えている。賊が街に向かっているという報が街に流れ、多くの人々が着の身着のままに慌てふためいて町を離れようとする中、関羽は両親に事の次第を報せようと家に戻ると、そこでは自身の父母が簡素な鎧を纏っている最中だった。
「ち、父上……母上……?」
「おお、愛紗か。……間もなく関定もここに来る事になっている。愛紗、お前は関定と共に町を離れるのだ」
「っ!?だ、駄目です!幾ら父上達が昔名の知れた武芸者だからと言って荒くれ者ぞろいの賊を相手に持つとは思えません!……町は壊れても直す事は出来ましょう?ですが命は、亡くなったらそれまでなのです!父上、母上。一緒に逃げましょう………!命さえあれば、まだ……!?」
しかし関羽の言葉は自身の母親が自身を抱きしめる事で中断された。そうして母親は関羽の頭を撫でながら優しく語りかけた。
「……ええ、貴方の言うとおりでしょうね愛紗。今の私達に出来る事などないのかもしれない。一緒に逃げる事が賢い事なのかもしれない……けれどね。私達にとってこの町は故郷と言うだけじゃない、貴方と言う掛け替えのない娘である貴方と過ごしてきた日々が、この町には刻まれている。確かに町を焼かれたとしても命があれば立て直せるかもしれない。けれど思い出は壊れてしまったら二度と直す事は出来ないの………愚かなのかもしれない、馬鹿な事かもしれない。でも……私達はこの町を護る為に残る積りよ」
母親はそう言いながら愛紗の頭を撫で続けていると、家の扉が開かれ、黒のミドルヘアーの青年が入ってきた。
「叔父上、叔母上!関定が参りました!!ご無事ですか!?」
「……来たか。関定!愛紗を連れて行ってくれ!ここは間もなく戦禍に包まれる…早く行くがいい!!」
「は、はい!愛紗、行くぞ!!」
関羽の父親の言葉に鑑定は頷くと関羽を抱きかかえて外に出ようとする。それに対し関羽は必死に抵抗をしようとするのだが幼い少女の身では年上である関定の腕から逃れる事は出来ず……ただ父と母に手を伸ばす事しか出来なかった。
「兄上、待って……!?父上…母上ぇ――――――――!!!!」
「……愛紗、貴方だけは元気で」
関定に抱きかかえられて外に連れて行かれ、彼が乗ってきた馬に乗せられて町から離れようとしたが最後に見たのは……自身に対して微笑みを浮かべながら戦場に向かおうとする両親の姿だった。
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あの後……解県の町から離れた場所にある村に避難してきた愛紗達らはそこで一夜を過ごした後、賊の集団が商人たちが抱え込んでいる傭兵達によって何とか蹴散らされた事を聞かされた為故郷に戻る事になったのだが、そこで関羽らが見たのは……賊達と傭兵達による戦闘によって滅茶苦茶になった解県の街並み。そして関羽はその戦場跡に転がっている屍の山の中で、命を落とした自身の父親が同じく命を落とした母親を護る様に上から覆いかぶさっているのを見つけたのである……。
二人は……恐らく傭兵達と共に、自分達にとっての掛け替えのない『思い出』が籠ったこの町を護ろうと戦った。そして最後の時まで決して諦める事無く戦い、命を落としたのだろう。命を落とすと分かっていても…この町を護ろうと戦い抜いて命を落とした両親を、関羽は誰よりも誇らしく思った。誰よりも……。
「(だが張朔は、あの男は……そんな二人の在り方を侮辱した!!命を落とすのだと分かっていても、故郷を護ろうと戦い、死んだ二人の信念を穢したんだ!!)」
そう思うようになると、関羽の心中は憤りで覆い尽くされようとしていた。自重をせねばならない、軽挙はしてはならないと己に語りかけている≪もう一人の自分≫がいる事を関羽は察していた。だが察していても……関羽は己を止める事が出来なかった。自身の両親の事を侮辱したあの男だけは、絶対に許す事は出来ないと。そう思った関羽の脳裏には余所者であったにも拘らず自分達を迎え入れてくれた陽県の人々、そして……自分にとって掛け替えのない、初めて恋慕の情を持つようになっていた幼馴染の姿が脳裏に浮かんでおり暫し関羽は瞑目していたのだが……。
「…………済まない、壮也」
そう呟いた関羽は、再び酒瓶を乗せた盆を持って屋敷の離れに作られた張朔の自室に向かって行った。
「遅くなりました、張朔様……」
「おお戻ったか?随分と遅かったようだが……如何した?」
「……申し訳ありません。来たばかりでこの屋敷の事が分からなかったので」
「ふむそうか!何、気にしてはおらんぞ?さあ酌をしてくれい!」
そうして再び飲酒を楽しみ続けた張朔だったが……やがて酒瓶が空になった頃。
「ふうー……流石に呑み過ぎたな。そろそろ寝るとしよう」
そう言って張朔は横になろうと寝室に向かおうとしたところで……関羽は声をかけた。
「張朔様、少し宜しいでしょうか……?」
「むっ?関羽よ、一体何の……っ!?」
そうして関羽の方に振り向いた張朔の表情は驚愕に染め上げられていた。その視線の先では……立ち上がった関羽が懐から取り出した、壮也から渡された新緑色の柄の『護り刀』が鞘から抜き放たれ、鈍色に光り輝く刀身が張朔目掛けて襲い掛かっていたのである。
だがその狙いは外れてしまった。痛飲して酔っぱらっていた張朔が思わずよろけてしまった事で、首を薙ごうと刃を振るった関羽の一撃は、張朔の胸元を軽く斬り付けただけに留まってしまったのである。その胸元からは僅かながらに鮮血が滲み出してくる……。
「っ!?か、関羽!い、一体何のつもりだ!?」
張朔は浅く切り裂かれた胸元を抑えながら自身に対してこの様な凶行に及んできた関羽を詰問すると……関羽は顔を俯かせながらポツリポツリと語り始めた。
「……私にとって、死んだ両親は誰よりも立派だった。勝ち目などなく、残れば命を落とす事もあり得ていたのに、大切な故郷を護ろうとして戦いぬいて、そして死んだ。戦いに赴こうとする二人の姿を……私は今も忘れる事が無い」
そう、淡々と語り続けた関羽はやがて貌をあげると……その瞳には憤怒の色が強く、ありありと宿っていた。
「だが張朔。貴方は……いや、お前はあの時県令と言う地位にあり、賊の襲撃に対し県の部隊を派遣する事も出来たというのにそれをしなかっただけではなく……私の両親の信念を侮辱した!!死ぬと分かっていようと、故郷を護ろうと死地に赴き、最後の時まで戦い抜いた二人を貶したのだ!!私は……両親を敬愛する一人の娘として、お前を許す事は出来ない。…覚悟しろ!!!」
そう言い放つと関羽は手にした護り刀を張朔に突き付けると再び斬り懸かった。
「ひ、ひい!?だ、誰か!出会え出会ええええええ!?」
張朔は己に迫りくる凶刃に対し、体を動かしてこれを躱しながら部下を呼び出そうと声を張り上げるのだが……この直後、自身の失態を悟らざるを得なかった。何故なら先ほど関羽を妾に迎えた事により部下たちを集めて大規模な酒宴を行った。これにより殆どの部下が酔い潰れて自室に戻って眠りについていた。
また張朔の自室は大屋敷から離れた場所に造られており、多少の物音を出したとしても大屋敷には届かないばかりか関羽との時間を過ごしたかった張朔は見回りをする者達に『自室には近づくでないぞ』と命令を下していたのである。つまり……今張朔は完全に追い詰められている状況下にあった。ただ自身の後ろには外に出る唯一の出入り口へと通じており、張朔が関羽に背を向けて遮二無二外に出ればまだ活路はあったのだが……賄賂の事しか頭にない張朔にはその様な覚悟は持ち合わせていないばかりか、生憎痛飲して泥酔気分になっていた為足腰はフラフラであり、追いつかれる可能性は容易にあり得た。
一方の関羽も焦りを隠しきれなかった。自身の行動が軽挙である事を嫌と言うほど察している彼女は一刻も早く張朔を始末する必要性を強く感じ取っていたのである。『このまま張朔を逃がせば陽県の人々に迷惑がかかる。何としても誰にも悟られる事なく討ち取らなければ……!!』そう思い関羽は手にしている護り刀を強く握りしめて駆け寄ろうとしたのだが………。
ーバンッ!!
突如として外へと通じる扉が開け放たれた音が響いたかと思うと、部屋の中に槍を持ち、兜を深めに被っている所為か顔を伺う事は出来ない、黒を基調にした衛兵の甲冑を纏った
「お、おおっ!?み、見回りの者か!?た、助かった……ろ、狼藉者ぞ!討ち取れい!!」
張朔は突然背後から現れた闖入者に面食らいながらもそれが自身の部下だろうと気付くと安堵し……それと同時に関羽を討つように命じる。これに対し関羽は己の行動が失敗に終わった事を悟らざるを得なかった。
「…軽挙をした報いが来たという事か。父上や母上の最期を貶した張朔を討てずに死ぬのは無念だが、他者の手で討たれる積りは無い…!私の最期、見届けるがいい!!」
そう言い放った関羽は手にしていた護り刀を自身の喉に向け、そうして叫びながら貫こうと力を籠めようとして……『ふがっ!?』と言う悲鳴と共に張朔が壁に弾き飛ばされた直後、自身の前にいた衛兵が関羽が持っていた護り刀の刀身を握り締め、これを止めていたのである。
衛兵が刀身を握り締めた事でその掌から鮮血が滲み出し、床に赤の斑点を作っていくのを関羽は茫然と見ていたが……やがてその耳に聞き覚えのある声が響いてきた。
「……簡単に死を選ばないでくれ。君は、人々を護る英雄になるんだろう?」
「えっ……?」
その時、目の前に立ち、護り刀の刀身を握り締めて止めた衛兵の若者の口から放たれた言葉に、関羽は思わず呆けたような声を出していた。何故ならその声は……今この場にいる訳がない、聞き覚えのある相手の声だったから。そうすると呆けている関羽の前でその衛兵は槍を捨てると、自由になった片方の手で深めに被っていた兜をずり落とす。そうして現れたのは………。
ーズル…ガチャンッ
「……ごめん、待たせちゃったか?愛紗」
「そ、壮也……?」
自分にとって誰よりも心を通わせた幼馴染であり、背中を預け合った戦友。徐来芳明……壮也本人だったのである。
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再会を果たした壮也と愛紗。しかし壮也は愛する人を護る為、自らが罪を被る事を決めていた。それに対し愛紗はその行動を止めようとするのだが……続きは次回のお楽しみ。
如何だったでしょうか?とりあえず今回の投稿が今年最後になると思います。
来年からですが…仕事の都合で出張になるかもしれないとの事であり、更新が遅れるかもしれません。読者の皆様にはご迷惑をおかけするかもしれないという事をここで報告させていただきます…。
それでは、失礼いたします…!