真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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 本当に、申し訳ありません…!!仕事などで時間が取れず更新が大幅に遅れてしまいました。この場を借りてお詫び申し上げます…。そして今回の最新幕では私自身のこう書きたいと思った展開になると思います。

 
 なのでこう言う展開が好きではないという方は読んで下さらなくても結構ですので…。では、ようやく完成した最新幕をご覧ください…。

4/19 一部誤りがあったので修正しました…。


別離

 時間は愛紗が酒を厨房から取りに行き、張朔が待つ自室に戻って行った頃に遡る。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「痛てて……頭が痛くてしょうがないぜ。よりによってこんな時に見回りをする事になるなんてなぁ」

 

 

 そう愚痴を零すのは張朔の屋敷の警護を任じられている衛兵の一人だ。彼はこの日愛紗を妾に迎えられた事で喜びを露わにした張朔が開いた酒宴に参加していた。しかしそれが終わった後に誰が見回りをするかで数十人いる衛兵たちの間で揉めに揉めた末、くじ引きをした結果この兵士を含めた数人が不本意にも選ばれてしまい、残りの衛兵達はそのまま自室で鼾を掻きながら夢の中へ旅立ってしまったのである。

 

 

「ったく……あいつ絶対に細工か何かしてやがったなぁ?明日文句を言ってやる。それにしても…本当に綺麗だったよなぁ、あの関羽って奴」

 

 

 そう零した衛兵の脳裏には髪を下ろし、上質の絹を使って作られた衣装を纏った関羽の姿が浮かんでいた。

 

 

「張朔様が羨ましいにも程があるぜ……もう戻るか。こんな夜更けに、しかも県令の屋敷なんぞに忍び込むなんて鼠か猫ぐらいしか……」

 

 

 そう言って衛兵が詰め部屋に戻ろうと振り返ろうと………した途端、何やら違和感の様な物を感じて立ち止まった。

 

 

「…………?」

 

 

 そして衛兵が周囲を見回していると……彼がいる場所の近くは庭園となっており、その中の庭木の一つが風もないのに葉が揺れ動いているのである。しかもその動きは少し動いたかと思えば止まり、また動くというまるでこちらを誘っているかのような動きを見せていた。

 

 

「…………」

 

 

 これを見た衛兵は気を引き締めると槍を構え、少しずつその庭木に近づいた。そしてその庭木に槍を突き入れようとした瞬間……。

 

 

ーガサっ!ドフッ!!

 

 

「っ!?ぐぼっ……!」

 

 

 突然庭木の中から拳が飛び出して彼の腹に突き刺さり、衛兵はそのまま意識を失ってしまう。そうして前のめりに斃れようとするその体をその庭木の中から出て来た手が受け止めるとそのまま庭木の中に引きずり込んだ。それから暫くして……。

 

 

ーガサっ

 

 

「…………」

 

 

 その衛兵は何事も無かったかのように出て来た。だが、先ほどとはうって変わって言葉を発する事もなく、周囲をくまなく見回したかと思うとそのまま滑る様にして屋敷の方に向かった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「ぐおおお……んがあああ……」

 

 

 衛兵の詰所では見回りとして詰めていたもう一人の衛兵がいたのだが……よほど痛飲をしたのかすっかり眠りについていた。

 

 

「…………」

 

 

 そこに先程の衛兵が戻ってきたのだが、相方の衛兵が眠りについてるのを見て一息ついたかと思うとその衛兵に毛布をかぶせ、部屋を後にした。そうしてその衛兵は屋敷中を歩き回った末に、張朔の自室がある離れに向かっていたのだが……。

 

 

「おい、そこで何をしている?」

 

 

 その離れまであと少し、と言う所で後ろから声を掛けられた衛兵が顔を向けると………そこには衛兵が纏っている鎧よりも上質の甲冑を纏っている、如何にも上官と言うべき雰囲気を纏った男性が二人立っていたのである。恐らく張朔が私的に雇っている護衛なのだろう……。

 

 

「えっと………見回りって奴ですよ」

 

 

「ふむ、確かに衛兵達が見回りの順番の事で騒いでいたのは覚えているが……」

 

 

「だがこの先は張朔様が誰も近づけてはならぬと厳命されている。何故近づこうとした?」

 

 

 護衛の一人が記憶を探る様に呟く傍ら、もう一人の衛兵が厳しい口調でその衛兵を問い詰め始めた。

 

 

「……張朔様が妾に迎えたって言う関羽って女の尊顔、もう一度拝したかったんですよ。別に顔を見るぐらい罰は当たらないでしょう?」

 

 

 衛兵が照れくさそうに呟くと……護衛の二人は互いに顔を見合わせて、納得したような表情になって頷き合った。

 

 

「成程な……確かにあれは天女と見まごうばかりの美人だったからな。顔を覗き見たいと思うのも無理らしからぬと言う奴か」

 

 

「……良くわかった。だが一応決まりなのでな、合言葉を言ってもらう。『張譲』」

 

 

「『趙忠』」

 

 

 護衛の一人が十常侍の長であり劉宏から『我が父』と呼ばれている張譲の名を出した為、衛兵は同じく十常侍の一人で劉宏からは『我が母』と呼ばれている趙忠の名を出した。するとその護衛も安堵した様な表情を浮かべながら微笑んだ。

 

 

「……よし、衛兵の一人に間違いなさそうだ。一目見たらすぐに戻れよ」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 そう言うと護衛の二人はその場を後にしようと衛兵に背を向け、自分達がいた部屋でまた晩酌の続きでも……と思っていたのだが、護衛の一人はどうにも腑に落ちなかった。

 

 

「(……おかしい、何か気にかかる)おい、ちょっと待(ザクッ)っ……!?」

 

 

 だがその問いかけは口から放たれる事は無かった。何故なら先ほど別れたはずの衛兵が何時の間にやら自分達の間に滑り込んでおり、両手の掌を自分達の喉元に当てたと思った瞬間、何か鋭い刃と思われる物によって喉元を貫かれたのだから。そしてその衛兵が自分達の喉を貫いた直後、そのまま力任せに地面に叩き付けられたと思ったのを最後に、その護衛は永遠の眠りについた……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 喉元を貫かれて事切れた二人の護衛の亡骸……それを見て衛兵は首元に手を当てて生死を確認し、二人が死んでいる事を確認すると近くの厩舎に山積みされていた藁束の山の中に、二人の亡骸を投げ入れた。

 

 

「(……すまないな。下手に騒がれると拙いんだ、恨むなら追求しようとした自分達を恨んでくれ)」

 

 

 そう、この衛兵こそ壮也本人だった。彼は先ごろに張朔の屋敷にたどり着くとそのまま塀を登って屋敷内に忍び込むと庭園の中に植えられている庭木の中に潜り込んで音をだし、それに気づいた衛兵を気絶させてその鎧などを奪い、衛兵に変装していたのである。

 

 

「(けれど……まさか『アサシンブレード』も作れるとは思わなかった。確かにいろんな武器を作れるようになりたいとは言ったけれどなぁ…)」

 

 

 そう零しながら壮也は自らの両手に装備している革で作られた籠手……飛び出し式の小型の剣が篭手の内側の鞘に収納されている構造を持つ、壮也が自身に与えられた特典の一つである『あらゆる武具を作り出す技能』と言う能力がどれほどの物かを試す為に腕を振るった結果に生み出された、この世界には存在しない『アサシンブレード』を見ながら困惑をしていたが……やがて気を取り直すと張朔がいる離れに向かって行った。そして壮也は離れの前に到着した……。

 

 

「(…ここにいるのか愛紗?とにかく中に入らない事には……)【ガチャンッ!】っ!?」

 

 

 その時、離れの中から物を壊すような音が響き、同時に男女の喧騒の声が聞こえてきた。この為壮也は槍を手に離れの扉を開け放ち、中に踏み込んで行くと…。

 

 

「お、おおっ!?み、見回りの者か!?た、助かった……ろ、狼藉者ぞ!討ち取れい!!」

 

 

 上質の絹を使ったゆったりとした感じの服装を纏ったほっそりとした長身に紺色のおかっぱ風の髪型、そして神経質さを感じさせる痩せこけた顔立ちの男。即ち張朔が胸元を斬られたのか掌で抑えながら必死に立ち上がろうとするも酔っているのかなかなか立ち上がる事が出来ない姿と……。

 

 

「…軽挙をした報いが来たという事か。父上や母上の最期を貶した張朔を討てずに死ぬのは無念だが、他者の手で討たれる積りは無い……!私の最期、見届けるがいい!!」

 

 張朔の前で護り刀を手に突き殺そうと構えている少女……自身にとって掛け替えのない人と言える関羽…愛紗の姿があったのである。しかし愛紗は自身を張朔を助けに来た衛兵であると思ったのか、手にした護り刀を喉元に向けるとそのまま自身の喉を貫こうとしたのである。これを見て壮也は即座に動いていた。まず……。

 

 

ーどんっ!

 

 

「ふがっ!?」

 

 

 自身の後ろに隠れようとしていた張朔を壁に突き飛ばし、その直後に自身の喉を貫こうとしていた関羽に近づき、彼女が手にしていた護り刀の刀身を握り締めてその動きを止めた……!

 

 

「……簡単に死を選ばないでくれ。君は、人々を護る英雄になるんだろう?」

 

 

「えっ……?」

 

 

 壮也が彼女を安心させようと声をかけるも愛紗は呆けたような声を出した。それに壮也は苦笑せざるを得なかった。何せ顔を見せていなかったのだから…そう思い、手にしていた槍を投げ捨てると空いた手で被っていた兜を取り捨てる。

 

 

「……ごめん、待たせちゃったか?愛紗」

 

 

「そ、壮也…?」

 

 

 こうして、二人は再会を果たしたのである……。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

「そ、壮也……。どうしてここに?」

 

 

「それは……っ!ふんっ!」

 

 

 愛紗がどうして壮也がここにいるのかを問いかけ、壮也がそれに応えようとすると……突然壮也は徐に足元に落としていた槍を手に取ると、そのまま振り返りながら投げ付けた。放たれた槍は……。

 

 

ーどすっ!

 

 

「ひっ、ひぎいいいいいっ!?」

 

 

 開け放たれた扉から外へと逃げようとしていた張朔の左手の甲を貫いて見せた。途端に張朔は豚の様な悲鳴を上げ、必死にもがきながら逃れようとしていた……。

 

 

「逃げられるとは、思わない事だ」

 

 

「ひ、ひいい……っ!?」

 

 

 それに対し壮也が冷徹さを宿した声で張朔を脅しつけ、張朔もその声に肝を冷やした。そうして壮也は愛紗の方に振り返ると、安心させようと声をかけた。

 

 

「……君を助けに来た、それじゃダメかな?って、ありきたりすぎるか……」

 

 

「……っ!あ、当たり前だ!分かっているのか……!?県令の屋敷に忍び込むだけにあきたらずこの狼藉…。これでは、私は何の為にこの身を賭したのか!」

 

 

「けれど、愛紗も軽挙をしてただろう?最も……そうさせたのは、張朔だろうけどな」

 

 

 そう言って壮也は槍が手を貫いて壁に突き立ち、それを抜こうと必死になっている張朔に近づいた。張朔は自身に近づいてきた壮也を見て途端に震え上がると、必死に命乞いをし始めた。

 

 

「ひ、ひいいっ!?ま、待て!か、金ならば幾らでもある!好きなだけ持って行っても構わん!だ、だから見逃してくれ!?頼む!!」

 

 

「……金が欲しい訳じゃない」

 

 

「な、ならば仕官か!?わ、分かった!将軍としての地位を用意させる!だから……!」

 

 

「地位が欲しい訳でもない」

 

 

「……っ!わ、分かった!!そこの娘は解放するしこの地の民にも無体をしないと誓う!!だから頼む……こ、殺さないでくれええええ!???」

 

 

 必死に命乞いをする張朔を暫し冷徹さを込めた視線で見続けていたが、やがて彼に問いかけをし始めた。

 

 

「一つ聞きたい。何故関羽はお前に斬り懸かった?お前が何かした心当たりがあるんじゃないのか?」

 

 

「な、何をしたかだと!?……か、関羽の両親が死んだ時に儂が県令であったが軍を送らなかった事を話したり、関羽が軍を送らなかった事を問われて返答をした位だ!?『第一民の者達など町を捨ててとっとと避難しておればよかったのだ、故郷を護ろうなどと意気込んで向かわなければ死なずに済んだのではないのか?』と話したが……そ、それだけだ!!」

 

 

張朔がそう捲し立てるのを聞き終わり、壮也は深い溜息を一回した。そして……。

 

 

「そうか……それなら合点がいったよ。お前は斬り懸かられて当然の事をしたんだからな」

 

 

 そう呟いて壮也は腰に下げている布袋に手を突っ込むと、その中から自身が愛用しているのとは別の、装飾が施されていない鋭利で長大な刃を持った長柄の戦斧を取り出したのである。それはどう見てもその袋の物量関係を無視しているとしか言いようのないほどの得物だった。そして壮也は取り出したその戦斧の切っ先を張朔に向けた。

 

 

「ひっ……!?」

 

 

「そ、壮也……!?」

 

 

 その行動に張朔は顔をひきつらせ、愛紗は壮也の行動に戸惑いを隠せなかった。やがて壮也は静かな怒りを込めながら語りだした。

 

 

「……お前は、龍と言う生き物を知っているよな?そして龍の体には、逆鱗っていう鱗がある。本来龍は人を乗せて飛ぶ位温厚な一面を持つ生き物だ。けれどその鱗に触れれば最後、その相手を食い殺すらしい。人にもな……そうした触れちゃいけない逆鱗があるんだ。それに触れるって事は、その相手に殺されたって、文句は言えないんだよ……!!」

 

 

「ひ、ひいいいいっ!?ま、待て……!?」

 

 

 張朔は目の前に立つ青年、壮也が自身を殺そうとしている事を感じ取り、必死に命乞いをし始めるも……。

 

 

「恨むのなら………誰かの心を傷つける言葉を口走った、自分を恨む事だ。安心しろ………痛みを感じさせずに、殺してやる!!」

 

 

 そう言い放った壮也が上段に構えた大戦斧の鋭利な刃が張朔の頭蓋目掛けて振り下ろされていった…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 愛紗は目の前で起こった出来事---自身にとっての幼馴染であった徐来、壮也が自身の両親を貶した張朔を腰から下げていた布袋から取り出した、彼が愛用している大戦斧とは別の戦斧を以て、彼を一刀両断した---に何の反応も出来なかった。

 

 

 だがやがて、壮也は張朔が真っ二つに両断されて鮮血が床を染めていくのを見ながら戦斧を振るって血糊を払い、近くにあった仕切りの為の幕布を無造作に引き千切って刀身を拭いて布袋に収めると、呆然としたまま突っ立っていた愛紗に近づいて……彼女を優しく抱きしめた。

 

 

「あっ……」

 

 

「…辛かったよな、愛紗。自分の父上や、母上の事を貶されて……だからこそ、我慢ならなかったんだよな。本当は……自分の手で、仇を討ちたかったんだろう?それを横取りした事は、謝らせてくれ。そして…無事でよかった」

 

 

 そう言って、壮也は愛紗の頭を撫で始めた。それは親が子供に対してするような動作であり、普段であればいい歳を迎えている愛紗にとって不快な出来事だったかもしれない。だが……今の愛紗には、そうされる事が嬉しかった。

 

 

「……っ、壮也、壮也ぁ……!」

 

 

 そうして……愛紗は壮也の胸の中で泣き出した。それに対し、壮也も愛紗の頭を、彼女が泣き止むその時まで撫で続けた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 そして暫く泣き続けていた愛紗であったが、やがてひとしきり泣き終えたのか壮也から離れた。

 

 

「はは……しかし、これでお互いにお尋ね者になってしまうな。十常侍の頭目である張譲の親族を殺めてしまったんだから。だが、私は恐れようも無い。お前が傍にいるのだから」

 

 

 愛紗はそう言いながら涙を拭ったのだが…壮也の口から放たれた言葉に、思わず耳を疑った。

 

 

「……いや。罪を被るのは、俺一人で十分だ」

 

 

「え…?」

 

 

 その言葉に耳を疑い、固まってしまった愛紗に、壮也は再び近づいた。そして愛紗が持っている護り刀を、それを持つ手ごと握り締めると…そのまま自身の額を袈裟切りに切り裂いた。

 

 

「っ!?そ、壮也何を!?」

 

 

 愛紗は切り裂いた額から溢れ出る血を拭おうとしない壮也に対し混乱を隠せなかったが……壮也は愛紗に対してさらに言い放った。

 

 

「愛紗、俺はこの後騒ぎを起こす。俺はそれに気づいた衛兵達を蹴散らして姿を消す。その後に……愛紗はこう言うんだ。『自分が酒を持って戻って来た時、張朔様は戦斧を持っていた男に殺されていた。自分にも襲いかかったが護り刀で額を切り裂いて難を逃れた』ってな」

 

 

「……な、に?」

 

 

 愛紗は壮也の言っている言葉の意味が分からなかった。しかし壮也は構わず話し続ける。

 

 

「うまくいけば、罪を被るのは俺一人になる筈だ。だから君は『ふざけるな!!』……愛紗」

 

 

 愛紗の叫び声が響いた直後、彼女は壮也の胸元を叩き始めた。

 

 

「私に……お前に罪を被せるように言えと言うのか!?その様な不義をして逃れたいと、お前は私の事をそう思っているのか!?」

 

 

 そう吼えながら愛紗は壮也の胸を叩き続けていたが………やがてその勢いが弱まっていき、その声もか細い、悲しみを込めたものになっていった。

 

 

「やめろ……やめてくれ、壮也。罪を被るのなら……私も同じように被る!自分だけ罪を被る様な事を、しないでくれ……!お願いだ……私を置いて、遠くに行かないで。壮也ぁ……」

 

 

 そう懇願しだした愛紗の瞳からは、とめどなく涙が流れ続けているのに壮也は気づいていた。そしてとうとう胸元に顔を埋めて動きを止めた愛紗を、壮也は再び力強く抱きしめた。

 

 

「……っ、壮也?」

 

 

「愛紗……君の気持はとても嬉しく思う。けど君は…力無き人々を救う『英雄』になるんだろう?俺は出来得るなら、君にはお尋ね者にならないで欲しいんだ。今まで賊を倒してきて、今また人を殺めてきた俺が言うのも間違いだろうけど、君には綺麗なままで、英雄になってほしいと思ってる」

 

 

 壮也は生前において三国志の小説などを読んでいたからこそ分かっていた。今回の出来事で関羽は幽州に逃れ、そこで劉備と出会い、義兄弟の契りを結ぶのだろう。だが壮也は、愛紗にそんな道を歩んでほしいとは思わなかった。だからこそ……自分が罪を被ろうと決意したのである。自分勝手かもしれない……けど、それでも。

 

 

「愛紗……俺は、君を愛している。愛しているからこそ…君には咎人になって欲しくないんだ。偽善かもしれないし、独善かも知れない。けれど、これが俺の偽らざる本心だ。………すまない」

 

 

 そう言った直後、壮也は彼女の腹に拳を突き立てた。

 

 

「っ!?そう、や……」

 

 

 愛紗は不意を突かれる形で一撃を貰った事で意識が失われようとする中、愛する人の名を漏らしながら手を伸ばそうとして…そのまま昏倒した。そして崩れ落ちようとする彼女の体を壮也は抱きとめ、床に寝かせた。

 

 

「愛紗、君だけは……幸せになってくれ」

 

 

 壮也はそう呟くと意識を失った愛紗の額に口づけをすると……徐に立ち上がり、手にした戦斧で壁を……破壊した。

 

 

ードゴオオンっ!!

 

 

『な、何だっ!?』

 

 

『張朔様の部屋からだぞ!?』

 

 

 破壊した時に起こった轟音に、屋敷中が騒然となる。間もなくここに衛兵達が押し寄せて来る事だろう。そう察しつつ、壮也は一瞬だけ愛紗の方を振り向いて……。

 

 

「……さよなら」

 

 

 そう呟いてそのまま破壊した壁から外に飛び出す。そこにはすでに大勢の衛兵が槍の穂先をこちらに向けて構えていた。

 

 

「貴様何者だ!ここをどこだと思っている!」

 

 

「…陽県の県令たる張朔殿の屋敷、そうだろう?」

 

 

「わ、分かっていて貴様は『ちょ、張朔様!?』何っ!?」

 

 

 衛兵の驚愕に満ちた声が耳に入る。どうやら部屋に入った衛兵が惨状を見たのであろう。

 

 

「き、貴様……自分が何をしたか分かって『分かっているとも』っ!?」

 

 

 衛兵の問い掛けに、壮也は迷いなく答え始めた。

 

 

「俺は……俺が正しいと思う事をした。それはお前達から見れば独善であり、偽善なのだろう。だが…俺は後悔はしていない。さあ衛兵共、俺は今より逃げさせてもらう。だが……俺の前を阻んだり、後を追うのであれば命を捨てる積りで来るがいい。今の俺に、情けは無いと知れ…徐来芳明、参る!!」

 

 

 そう言い放ち、壮也は戦斧を構えると………猛然と衛兵達に向かって駆け出して行った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 やがて……愛紗が目を覚ました時、全ては終わった後だった。部屋には衛兵達が代わる代わる出入りして現場状況を調べており、張朔の亡骸はすでに運ばれていた。そして愛紗にも追求の手が伸び、屋敷の一室で事情聴取が行われたのだが…。

 

 

「関羽についてだが……これ以上の追及は難しいんじゃないのか?」

 

 

「何故だ!?あの場にいたのは張朔様以外ではこの者だけ。ならばこの者とて怪しいのだぞ!?」

 

 

「しかし事前に持ち物を調べたが持っていたのは護り刀一振りだけ……張朔様の亡骸は徐来芳明が持っていた戦斧によって両断されていたのだぞ?護り刀で頭蓋から両断できるとは思えぬし……刀身が血塗れになっていたのも徐来の額を切り裂いたからだと思うぞ?」

 

 

「だが関羽は徐来と友誼を交わしていたそうではないか!?ならば関係が無い訳では……」

 

 

「もしそうなら自分も関係していると言うだろうが。だが今の関羽を見ろ、俯いたままで何も言わぬではないか?」

 

 

 そう言って衛兵が屋敷にある牢屋に入っている関羽の方を見ると、確かに関羽は俯いたまま何も言葉を発しようとしていなかった。

 

 

「……そう、だな。致し方ないか…関雲長、お前を解放させてもらう」

 

 

 こうして関羽は牢から出され、屋敷から追い出されるようにして放逐されたのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 そして……愛紗は陽県の町に向かって歩き出したが、その足取りはおぼつかないとしか言えなかった。終始俯いたまま黙々と歩いていたが……。

 

 

ーガッ

 

 

「……っ!?」

 

 足元にあった石に躓いて前のめりにあって転んでしまったのである。しかし、愛紗はその状態から起き上がろうとしなかった。

 

 

「……うっ、うっ」

 

 

 愛紗は……咽び泣いていた。衛兵達から事情を聞かされていた時、『自身も張朔を殺そうとしていた』……そう言おうとしたのに何故か、ただ石像の様に押し黙っている事しか出来なかったのである。

 

 

「(私は……何て、弱いんだ。自分も同罪なのだと言えば済むだけだったのに、罪を被る事が怖くて言えなかった。壮也にだけ、罪を被せてしまった。私は、私は……!!)………うああ、うわあああああああああああああ!!!!!」

 

 

 そして愛紗は泣き始めた。自分に覚悟が無かった為に、大切な人だった壮也1人に罪を被せてしまった事に。闇夜の中、彼女の嗚咽の音が響いていた……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 そして、司隷と并州の州境。暁の光が照らしだそうとしている中、ここに自身の愛馬である黒風(ヘイフォン)に騎乗し、自身が愛用している大戦斧である『鋼廉武断(コウレンブダン)』を手にした徐来……壮也の姿があった。

 

 

「さて、行くか……黒風(ヘイフォン)?」

 

 

 ふと壮也が気付くと、黒風(ヘイフォン)が首をこちらに向けて気遣う様な視線を向けてきていた。

 

 

「……大丈夫だよ、覚悟はとうに決めていたからな。それに……愛紗とはまた会える気がするんだよ。生きていれば、いつかさ」

 

 

 そう呟きながら黒風(ヘイフォン)の頭を撫でていたが……後方から近付く馬蹄の音に手を止めた。間違いなく自身に対しての追手だろう。

 

 

「じゃあ、行こう黒風(ヘイフォン)。まだ見ぬ天地、まだ見ぬ世界へ向かって!」

 

 

 そう力強く言い放った壮也が手綱を強く打つと、黒風(ヘイフォン)も力強く嘶き、そのまま駆けだしたのである。

 

 

 それから間もなく、大陸中に手配書がばら撒かれる事になる。『この者、十常寺の一人たる張譲の親族を殺めたる大罪人なり。この者を捕えし者には千金を与える物なり。咎人の名は徐来芳明』……と。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 かくて壮也は咎人となる。それに対し黒髪の女傑は嘆き悲しむも意を決して前に進まんとし、獅子身中の虫たりうる男はこれを討たんと謀を巡らそうとするのだが……続きは次回のお楽しみ。




 如何だったでしょうか?今回の投稿では皆様方もいろいろと言いたい事があるかもしれませんが…こう言う展開もあっていいのでは、と思い描いた次第です。出来れば批判中傷は御遠慮のほどを。

 次回からはなるべく早く投稿したいとは思っていますが、期待しないで頂ければと思います。では…。
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