最初に言っておきますが、この小説は『ご都合主義』の塊の様な物です。なのでこの先いろいろとそうしたご都合主義が出てくると思いますが、ただこの作品を貶したいが為にこの作品を読みたいのであれば『戻る』をクリックする事をお勧めします。どうかご了承のほどを願います。
では、ご覧下さい…。
洛陽………後漢王朝の創始者であり『光武帝』の諡をもって尊崇される『劉秀』が都として定めた都市であり、洛のサンズイが火徳を司る漢王朝から忌まれ、この頃は『雒陽』と呼ばれる事で知られている。漢王朝を象徴する都市である雒陽で権力を握っているのは皇室の劉氏ではなく、彼らを裏で操り権力を欲しいがままにしている宦官達だった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雒陽に一際大きく、そして豪奢な造りを施された屋敷がある。そこは漢王朝の皇帝を裏から操り自らの想いのままに政を動かす宦官たちの集団……『十常侍』の実質的な纏め役である『張譲』の屋敷だった。その屋敷の大広間では、昼間にも拘らず10人ほどの宦官らが集まり酒宴を行っていたのである。
「……またも我々の不正を嗅ぎ付けた官吏が動き回っているようですな。こそこそと隠れながらちょろちょろと動き回る、まるで鼠です」
「段珪殿も困っておいでですな……。まあ連中など我々が腰を据えてかかれば烏合の衆に違いないでしょう?陛下は我々の意のままになっておいでなのだ。幾ら連中が証拠を掴んで弾劾しようにもそれが通るとお思いかな?」
「郭勝殿の言う通りよ。だが念には念を入れるべきよな………すぐにそ奴らの身辺を探り、弱みを握るとしようぞ」
「夏惲殿、感謝する。それにしてもその官吏とやら、自分がどの様な存在を相手取ったのかも分からぬのだろうか?正義感と言う短慮で事を起こせばその結末も分かりきった物であろうに」
「そ奴、清流派の者達と誼を通じておったらしいな。全く………党錮の禁で連中を朝廷から追放に処しただけでは甘かったか」
「まあ連中など権力争いに敗れて隠棲せざるを得ない者達です。
「畢嵐殿の言う通りぞ!我々十常侍の栄華、清流派の者達如きに崩せはせぬわ!はっはっは!!」
酒席の中で宦官達が思い思いに語り、杯を手にして宴を楽しむ中………彼らの長と言うべき人物。銀のボブカットに紅色の瞳をし、少年を思わせる小柄な体格をした十常侍の首魁である『張譲』は傍から見ては分からないが、退屈していた。
「(やれやれ……どいつもこいつも目先の栄華に酔う事しかしないで。どうしてつまらないと思わないんだろうな?初めから勝ちが分かりきった遊戯なんて、続けていてもつまらないだけだろうに……)」
……もし張譲のこの言葉を余人が聞き及んだとしたら『何を贅沢な事を言うのだろう?』と耳を疑う事だろう。漢王朝を裏から操り、自らには栄華栄達が約束されている。なのにこれ以上に何を望むのか?
その答えは実に単純な物。張譲が今欲している物………それは『自身の心胆を寒からしめる、身の危険を感じさせる出来事』だった。確かに宦官として行動しだす様になった頃の張譲は栄華栄達を何よりの楽しみとし、それを奪おうとする者に容赦ない報復と破滅を齎してきた。
だが、宦官として栄華栄達を確立して年月が経つ様になると、その『満たされた日々』を退屈だと思う様になり、それを乱してくれる相手の存在を意識しだす様になった。こう見ると矛盾しているとしか言えないのだが、実際張譲はそれを強く求めていた。しかし、彼の欲求に反してその様な存在は現れる事が無かった。それは何故か?
その答えを張譲は分かっていた。自分達宦官の力があまりにも強くなりすぎたからだ。宦官の専横を嫌う官吏達が自分達を追い落とそうと謀を巡らしても、自分達宦官はそうした謀を嗅ぎ取る嗅覚が尋常ではない。そうして自分達が動いた途端、官吏達はたちどころに蜘蛛の子を散らす様にして四散してしまうのである。酷い時には誰かを主犯に仕立て上げて媚び諂う始末……正直に言うと張譲は鬱憤が溜まり続けていたのである。
「(つまらない……誰でもいいからこの退屈な日々を面白くしてくれない物かな?)」
張譲は表面上は他の十常侍達と共に杯を酌み交わしつつも、心中ではこの代わり映えしない日々を揺るがしてくれる存在を切望していたが、やがて彼らが酒宴を行っている広間に召使が飛び込んできた。
「ちょ、張譲様!!た、大変です!!」
「何だいそんなに取り乱して?とりあえず落ち着いてから話して貰えるかい?誰か、こいつに水を振る舞ってやれ」
張譲は給仕の人間に命じて杯に水を入れさせると、それを召使に差し出す。それを見た召使はひったくる様に杯を取ると水を流し込み、そうして暫くして落ち着いたのか一息つくと、彼に急報を伝えたのである。
「か、忝く存じます……張譲様、急報です!ちょ、張朔様が……!!」
・・・・・・・・・・・・・
その召使が張譲に伝えた急報……『弟君である張朔様が徐来と言う卑賤の者の手で弑され、下手人である徐来は官兵を蹴散らして逃亡した』事は他の十常侍達にとっても寝耳に水と言うべき出来事だった。漢帝国を牛耳り権勢をほしいままにしている十常侍の、その筆頭である張譲の一族を殺した……それは文字通り天に唾吐く事に等しい所業であったからである。
「な、何と言う事を……その徐来と言う男、徐岳と言う鍛冶師の倅と言うではないか!?下民の分際でこの様な事をしでかしたというのか!?」
「我々十常侍はこの国を牛耳り、権勢を我が物としているのだぞ!?その筆頭である張譲様の一族を殺めるだけでも、この国に居場所すらなくなる事など百も承知であろうに!?」
「こ、これはいかぬ。直ちに追跡隊を差し向けなければ……張譲様?」
だが、ここで十常侍の一人が張譲が何の言葉も発さないでいる事に気づいた。肉親が討たれた事に言葉を失ってしまったのだろうか?そう思って彼の方を見ると―――。
「………あはは、あっはははははははっ!!!」
初めこそ目を見開いたまま呆然としていた張譲だったが、やがて腹の底から声を出しているのではないか――と言えるくらいに笑い出したのである。それも呵々大笑と言う言葉通りの、痛快極まりないという感じで……!
これにはさしもの他の十常侍らも声を失った。自分の親族が殺されたと言うのにまるでそれを『嬉々として受け入れている』様に笑い始めたのである。確かに張朔は兄である張譲に対して賄賂を渋っていた事もあり、兄弟仲は良いとは言えなかったが、それでも肉親が殺されたというのに……そう思った十常侍の一人が恐る恐る問いかけた。
「ちょ、張譲様……宜しいでしょうか?」
「ははっ……ああ、すまない。何か聞きたい事でも?」
「恐れながら弟君が弑されたと言うのに何故その様に呵々大笑と為されたのですか?確かに張朔様は張譲様に対して賄賂を贈らなかった事も会って不仲だとは聞き及んでいますがいくら何でも……」
そう問いかけた十常侍の一人に対し、張譲はしばし考え込んでいたがやがて思い至った様に返答をした。
「ああそうか、確かに不謹慎だったかもしれないね……。まあ僕自身弟が殺された事には悲しいとは思っているし、こんな事をした徐来と言う奴を許せないと思っているさ。けれど……それ以上にこんな事が起きた事自体、僕にとっては心躍ってしょうがないんだよ」
「こ、心躍る出来事ですか!?」
宦官の一人が張譲の答えに面食らうのを横目に、張譲は自身の想いを主張しだした。
「君達も史記を読んだ事もあるのなら、その一つに『刺客列伝』と言う物だってあるのは知ってるだろう?彼らは下賤の生まれでありながら刺客となり、大それた事を為して後世に名を遺してみせた。僕はね、彼らの『受けた恩義を返す為に刺客になって報いようとする』と言う侠の精神以上に刺客と言う連中が暗殺と言う畏れ知らずな事を為そうとする事に感銘を受けているんだ」
張譲の言葉に呆然と立ち尽くしている十常侍らを尻目に、張譲はさらに語り続ける。
「僕はね……今の環境に退屈してるんだよ。栄華栄達を思いのままにするこの環境にね。絶対的強者となった僕達に昂然と刃向った清流派の連中は党錮の禁ですっかり雲隠れしてしまったし、彼らに通じて僕らを排斥しようとする連中も、僕らが腰を上げただけで蜘蛛の子を散らすように逃げ出す始末。正直、鬱憤が溜まり続けていたんだよ。けれど、そんな時にその徐来と言う男がやってくれたんだよ!今の鬱屈した現状をぶち壊してくれる大胆不敵な事を!!かの秦王朝が滅んだのも、その切欠は陳勝と言う農夫がおこした反乱だ」
「その陳勝はこう言ったそうだ。『王侯将相いずくんぞ種あらんや』……実に名言じゃないか。たかが農夫がおこした反乱が秦王朝と言う強大な国を揺るがし滅亡へと導いた!僕はそう言う相手が欲しかったんだよ……僕達十常侍と言う強大な存在、その心胆を寒からしめる相手をね!!……さて、長々と話してしまったがこれからどうしたらよいか、意見があるのならば聞こうかな?」
その張譲の言葉に他の十常侍達は漸く夢から覚めた様に体をびくつかせるとそのまま謀議を練り始める。やがてその一人である
「なれば張譲様、そ奴の肉親……父母である徐岳と朱寧、妹の徐晃を捕え人質としておびき寄せては?かの者、陽県では名の知られた孝行息子であり、悌の心に厚い人物だとか。己が父母、妹が捕えられたとあればそれを助けんとしてもおかしくは無いかと」
「ふん、一理あるね。けれど……召使、徐来について他に何か知っている事は?」
「そ、それがその徐来と言う男。凶行に走る前に自身の父母に対して離縁状を送ったと報告に入っています」
「だそうだ。つまり肉親を捕えたとしても彼が現れる可能性は低い……まして徐岳と朱寧の二人に娘である徐晃はあの曹操の元にいるらしいよ?」
「っ!あの糞女の元ですか……」
そう言って蹇碩は顔をしかめる。彼は嘗て自身の叔父を曹操によって殴り殺されていた(無論、その責は門の夜間通行の禁令を犯した彼の叔父にあるのだが)事があり、その復讐を計画していたがどれも頓挫してしまった為忌々しく思っていたのである。
「あの曹操の事だ。恐らく影武者やら何やら用意させて白を切る魂胆はあり得る。まして徐来の父・徐岳は曹操の祖父―――かの大長秋・曹騰と深い友誼を結んでいるとか。その彼を捕えようとすれば、間違いなく曹騰は動くこと請け合いだ。あのご老人は隠居したとはいえ未だに陛下が信頼をしているみたいだし、この案は賛成できないね」
「な、ならば各地の県令に通達を出して追討の兵を差し向けましょう!如何に勇士と言っても数の暴力の前には……」
「『大斧の勇士』と言う二つ名を持つ徐来を前にどれだけの兵をつぎ込むつもりだい?まして様々な武具の扱いに長けている彼を捕えるのなら、県令が抱える軍兵じゃ役不足。それともたった一人の罪人を捕まえるのに禁軍を差し向けるのかい?それは流石の僕達でも難しいと思うけどね……他に何か考えがあるなら聞くけど?」
そう問いかける張譲に対し、他の十常侍らは口をつむんでしまう。それを見た張譲は一息つくと提案を出した。
「無い様だね。……なら、この件は僕に一任してもらおうかな?」
『っ!???』
その何気ない言葉に他の十常侍らは戦慄してしまう。その様子を見た張譲は面白い事を思いついたような笑顔をし、他の者達に解散を命じるとそのまま自室に向かって行った。やがて彼の姿が大広間から消えるのと同時に、十常侍の一人が深い溜息をついた。
「張譲様が動かれるとは……あの徐来と言う男、楽には死ねぬだろうよ」
「ああ。あの方は狙った相手を一思いに殺す様な事はしない……真綿でじわじわと首を絞める様にじわじわと追い詰めていくのだ。見ている此方の方が震えが止まらなくなるほどに恐ろしい………!」
「哀れな事よ……それにしてもあの方の顔を見たか?まるで新しい玩具を得た童の様であったわ」
「う、うむ。あの方は老人の様な狡猾さと童の様な無邪気さと残酷さを持ち合わせておる。…………あの方だけは敵にしたくはないのお」
彼らはそう話しながらこれから起り得ると思われる惨劇に震えるより無かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
その夜、張譲は自室で一人物思いに耽っていた。蝋燭を差した燭台を傍らに立てている机には召使に持って来させた果実があり、時折それを食していたが……突然彼は手にした果実を自身の後ろにある自室の扉に向けて投げ付けた。果実は弧を描く様に空中を飛び、そのまま扉にぶつかろうとして……
まるで幽鬼のように突然姿を現した……そう思えるほどにその場に姿を見せて扉の前に立っていたのは、口元まで隠した黒いマフラーが特徴的な黒い装束を纏った小柄な少女だった。その貌からは感情と言う物が感じられず、人形と思ってしまっても遜色が無かった。彼女は掴み取った果実を皮を剥いて咀嚼し、それを平らげるとその真紅の瞳をこちらに向けながら問いかけた。
「……来たよ。獲物は何?」
「ああ、よく来てくれたね胡車児。仕事熱心なのは良い事だ……胡車児、今回君達に狙ってほしい獲物はかなり手強い物になるよ」
「生きが良いの……?」
「もちろん。君達でも苦戦が免れないほどのね……獲物の名は徐来芳明、彼を仕留めてほしい。ああ、簡単に殺さないで貰えないかな?じっくりと……腰を据えて料理してくれると嬉しいね」
「…………貴方の依頼は面倒なのばかり」
「おや、嫌かい?」
張譲がそう問いかけると……胡車児と呼ばれた少女は不敵な笑みを浮かべた。
「まさか………。報酬は?」
「いつもの様に用意させる。それじゃあ頼むよ」
張譲がそう言うと彼女は一礼をした直後、まるで影に吸い込まれるように音も無く姿を消した。
「……徐来芳明。君はこれからどんな事をして、僕を楽しませてくれるんだろうね?そう簡単に倒されないでくれよ」
そう言う張譲の声には、嬉々とした物が宿っていたのである……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
張譲が暗躍を始めてから3日後。陽県は暗い空気に包まれていた。徐来―――壮也が関羽―――愛紗を護る為に県令である張朔を弑し、さらに止めようとした官兵を蹴散らして逃亡した直後、県の役人達が訪れ壮也の行先などを問い詰めてきたのである。
しかし陽県の人々や長老らは全員が口裏を合わせて『知らない』の一点張りを貫いており、さしたる情報も得られなかった県の役人達は渋々と言った感じで立ち去った。だがその後に帰ってきた愛紗は帰ってくるとそのまま自宅に向かい、出迎えた兄である関定にも何も言葉を吐く事無く部屋に閉じ籠ってしまったのだ。それからと言うもの長老や関定は愛紗に呼び掛けを続けたのだが、彼女の返答は無かった……。
「……それでどうなのじゃ関定?愛紗の様子は」
「駄目です……あれから何度となく声を掛けても返答も無いばかりか、食事を作って部屋の前に置いても手を付けてないみたいで」
そして今日も愛紗は部屋に閉じ籠ったままでおり、食事にも手を付けてない。それを関定から聞いた長老は沈痛な表情をして溜息をついた。
「そうか……いや、そうに決まっておろうな。自分が被るべき罪を、かけがえの無い想い人に被らせてしまった事。そして自分がやったのだと名乗り出なかった事を悔やんでおるのじゃろうて」
「…………」
「関定、お主の気持ちも分からぬ訳ではない。じゃがこれは愛紗自身の問題じゃ、あ奴が何とかせねばならん」
長老は再び扉の前に立って声を掛けようとする関定を宥めると、そのまま愛紗がいる部屋の扉を見続けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして当の愛紗本人は……窓も閉め切り、光も入らない為に薄暗い部屋の中で蹲ったまま何をしようともしなかった。その黒髪も束ねないで手入れもしておらず、その眼には光が宿っておらず、ただ蹲ったまま虚空を眺めているだけで…。
「…………」
彼女は自分自身の弱さを悔やんでいた。あの時、自分もまた張朔に危害を加えた一人であったのに名乗り出ようともしなかったばかりか戦友でもあり、想い人でもあった壮也が罪を被ったのを止められなかった事に。やがて彼女の懐から何かが転げ落ちた。
「………?」
それに物言わぬ人形となっていた彼女は初めて反応を示し、視線を下に向けた。そこにあったのは、壮也が自身に渡してくれた護り刀だった。鞘から引き抜くと、現れた刃は人を斬ったにも拘らず、光が入らず薄暗い部屋の中でもその輝きは失われていなかった。
「…………っ」
しかし、愛紗はその護り刀を放り捨てた。何にも代え難い、愛しい人を傷つけてしまった刀など持ちたくない……そんな感情を込めて放り投げたのか、護り刀は2,3回ほど転がって部屋の隅に留まった。そうして再び物言わぬ人形の様に蹲ろうとしたが……やがて彼女の瞳に自身の得物である青竜偃月刀が入ってきた。亡くなった母が持っていた武具であり、自身も愛用してきた武具であるが……今の愛紗にはそれを手にしたいとも思えなくなっていた。
やがて愛紗は立ち上がったかと思うと、それも目の入らない所にしまい込んでおこうと手にしたが……。
ーこのままでいいのか?
「………っ!」
自身の脳裏に響いてきた声に、愛紗の手が止まる。いったい誰が……それは問うまでもないだろう。何故なら、この声は心の中の自分自身の物なのだから。
ーいくら武具をしまい込んで遠ざけ、部屋に閉じ籠っても現実が変わる事も無い。目を背けていて何になる?
もう一人の自分の声に、愛紗は悲しそうに呟いていた。
「なら……ならどうすればいい?私は、壮也を止められなかった。私を庇って咎人になったあいつを止める事の出来なかった私に、何が出来るというのだ……?」
ーああ……
「これ、から……?」
ーそうだ。お前は、何の為に武具を手に取った?何のために武技を磨き続けた?何の為に……お前は戦場に立ったのだ?
「っ……私は…」
もう一人の己の問い掛けに、愛紗は返す言葉も無く黙り込んだ。だがそれは少しの間であり、やがて貌を挙げた彼女の眼には、再び強い光が宿っていたのである………。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからが大変だった。部屋から出た途端、食事を持ってきた関定と鉢合わせたかと思うと関定は食事を放り出して自身を抱きしめ、オンオンと泣き出したのである。その後家を訪れた長老や町の人々に迷惑をかけた事への謝罪をすると、3日ぶりに食事に手を付けた。そして一週間後……。
―――陽県 長老宅
「来たか、愛紗」
「お久しぶりです、長老。それと……今日はお別れに参りました」
そう切り出した愛紗の姿はいつもの装束の上に灰色のマントを羽織った物になっており、屋敷の厩舎には自身の愛馬である
「そうか……しかし関定の奴がよくお前の旅立ちを了承した物じゃな?」
「一番大変でした………切り出した途端『行かないでくれ!?』の一辺倒だったもので。説得できたのはある意味で僥倖でしたよ」
「ほっほっほ、そうかそうか!……為すべき事を、決めたのじゃな?愛紗」
「はい………私は、幼い頃の私の様な人を増やさない為に、戦禍から人々を護る為に英雄になりたいと思っています。その為に、私は諸国を回って様々な事を学んでいきたい。そして………」
そう言って愛紗は懐から、壮也が自身に手渡してくれた護り刀を取り出す。そしてそれを愛おしく押し抱きながら、強い意志を込めて言葉を放った。
「私は……壮也と共に在りたい。私は、もう護られるだけの人間でありたくない。私も、壮也の事を護ってあげたい。だから、私は行きます。この天下のどこかにいる、彼の元に」
そう淀みなく言い切った愛紗に、長老は瞳を潤ませ何度も頷きながら嬉しそうに返答した。
「そうかそうか……そなたも漸く旅立つ時が来たのか。幼き頃のお前達の面倒を見てきた儂にしてみれば、感無量と言った所じゃよ。愛紗……この陽県はそなたにとっても故郷じゃ、いつでも帰ってくるがええ。欲を言えば、壮也と共に帰ってきてくれると嬉しいがな」
「……はい。そうなる様に、祈っていてください」
長老の茶目っ気の宿った言葉に、愛紗も微笑みながら頷いた。そして二人はそれから暫くの間談笑を続けた。
・・・・・・・・・・・・・
そして
「……待っていてくれ、壮也。私は、必ずお前を見つけてみせる。その時まで、お前も無事でいてくれ。……行こう、
そうして愛紗---関雲長もまた故郷を離れ、天下と言う大舞台に踏み込んで行った。戦友でもあり、想い人でもある壮也の元へ赴く為に。
・・・・・・・・・・・・・
張譲が刺客を壮也に放ち、愛紗も壮也の元へ行く為に旅立った頃、壮也は遥か北方の幽州に辿り着いていた。彼はそこで白馬を操って五胡の軍勢と刃を交える一人の女性と出会う事になるのだが……続きは次回のお楽しみ。
読んで頂きありがとうございます…!
今回の投稿では『小悪党の印象の強い張譲を如何に格好の良い悪党キャラにするか』と言うのが難しかったです…他の恋姫の二次小説などを見ると殆どが小悪党で構成されていたので。
さて次回は恋姫において『ハムの人』、『普通さん』と呼ばれる事の多いあのキャラを登場させようと思います。では…!