前も言ったと思いますが、この小説はご都合主義を第一として作っているのでそれがご不快だと思ったのであれば『戻る』をクリックするのをお勧めします。また、誤字などがあった場合のご指摘などは謹んで受けますが、作品自体を貶したいからと言う理由で感想を書くのであれば、上記にもある様に『戻る』をクリックしてもらいたいです。
長々と書いて申し訳ありません。では、本編をお楽しみくださいますよう…。
白馬将軍
中国は後漢王朝の時代……当時の中国は全国を冀・兗・青・并・徐・揚・荊・豫・涼・益・幽・朔方・交阯の13の州(最後の二つは郡)に分けて、主に太守を監察するために刺史の役職を設けていた。
その州の一つに幽州と言う土地がある。現在の河北省、遼寧省、北京市、天津市を中心とする地域に設置された州であり、そこにあった涿郡、勃海、代郡、上谷、漁陽、右北平、遼西、遼東、玄菟郡、楽浪郡、燕国の11郡国を管轄する地域であった。だがこの土地は漢王朝以前から侵攻を受けている土地でもあった。『五胡』と呼ばれる異民族が一つ『烏丸(これは三国志での呼び名であり、正式な名前は烏桓である)』と言う名の騎馬民族がそれである。
ここで『五胡』と呼ばれる人々の説明をしておくとしよう。この頃の中国は中原と呼ばれる中国の中心部を『漢民族』と呼ばれる人々が治め、王朝を築いているのだが、そうした漢民族の頭を悩ませていたのが中国の北方、幽州や并州、涼州と言った土地に現れては略奪を繰り返す騎馬民族……それが『五胡』と呼ばれる者達である。
またこの他にも益州の南方に勢力を持ち、古代中国で四方に居住していた異民族の総称である『四夷』の一つであり、諸葛亮と争った南蛮王・孟獲が率いた事で知られる『南蛮』や春秋戦国時代に会稽のあたりに存在した越国の末裔であり、主に孫呉を相手に暴れ回った『山越』と言った者達もいるがここでは割愛する。
五胡と呼ばれる民族は主に匈奴、鮮卑、羯、氐、羌の五つを差すのだが、烏丸は羯が匈奴の服属下にあった頃に匈奴から独立をして干戈を交える反面、略奪などを働いた。やがて烏桓は建武25年(西暦49年)に当時の大人である郝旦(かくたん)ら9000余人が部下を引き連れて漢の朝廷に拝謁し、これに漢王朝はその主だった指揮者を王や侯に封じた。
そして彼らを長城の内側に居住させ、遼東属国,遼西,右北平,漁陽,広陽,上谷,代郡,雁門,太原,朔方の諸郡に分けて住まわせ、同じ烏丸族の者たちを内地に移るよう招き寄せると彼らに衣食を給し、護烏丸校尉の官を置いてその統治と保護にあたらせたのである。こうした施策の結果、烏丸は漢のために塞外の偵察と警備の任にあたり、匈奴や鮮卑に攻撃を加えるようになった。
だが時が経つにつれて彼らは漢王朝の命に従わないようになり、後漢の末期にもなると遼西烏桓の大人である
ここ幽州もそうした烏桓や匈奴の騎馬民族が乱暴狼藉を働いており、これに漢王朝も当然黙っている訳ではなく鎮圧の兵を差し向ける事になるのだが……。
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「退くなあ!踏ん張れえええ!!」
幽州の土地より北に一里ほど行った、すでに匈奴や鮮卑、烏桓などの『五胡』の縄張りとも言える場所で一人の少女が白馬の上で声を張り上げていた。その紅色のポニーテールや白を基調にしている軽鎧は鮮血と土埃で薄汚れ、手にしている剣はところどころ刃毀れしているのだが……彼女の琥珀色の瞳からは衰える事を知らない闘志が迸っていた。だが、彼女の周囲には傷だらけとなった兵士達がおり、さらにその外側を騎乗した毛皮を基調にした装束を纏った戦士達がまるで少女達を翻弄し、嘲笑うかのように彼女たちの周囲を駆け回っていたのである……。
「で、ですが公孫瓚様!すでに我々は包囲されています!このままでは全滅は必定!!ここは撤退するべきです!!」
「駄目だ!!ここで私達が撤退したら、烏桓の連中は調子づいてまた略奪をしてくるんだぞ!!それを防ぐ為にも、ここで退いちゃならないんだ!!」
「し、しかしっ!?」
その瞬間、彼女の隣に馬を寄せて彼女に再度撤退を求めようとした副官と思われる男性は烏桓の戦士が放った騎射の一矢に喉を貫かれ、そのまま落馬した。
「こ、孔孟!!貴様ら、よくもおおおおお!!」
副官の死に怒りを覚えた少女は剣を振り上げながら突撃しようとするのを、他の副官らが必死に押し留めた。
「
「一時の怒りに呑まれては却って状況が悪化します!!ここは抑えてください!!」
「……っ!ちくしょおおおお!!退け、退けええええええ!!」
副官達の言葉に白蓮と言う名の少女は口惜しそうに天に向かって吼えると、兵士達に聞こえる様に大声で撤退を呼び掛けた………。
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そして撤退していく軍勢を追い縋ろうとする烏桓の戦士達の後方、小高い丘になっている場所に二人の人物が馬上の人となって戦場を眺めていた。
「あれ、あいつらもう逃げるの?ちょっち早過ぎじゃん?」
「……自分達が不利である上に、戦況を好転させられないと悟ったのでしょう。少なくとも現状を受け入れられずに突撃して全滅するより、よい判断だと思います」
薄緑色のセミロングの髪に黄緑がかった瞳をし、毛皮を基調にした戦装束を纏った少女が視線の先の光景を見ながらつまらなそうにつぶやくのを、黒のボブカットに橙色の瞳をし、同じく毛皮を基調にした戦装束を纏った少女が感心したように返答をした。
「つまんないじゃーん。せっかく暴れられっかなーって思ったのにさ」
「……
「
「あっ、待ってください姫様―!?……ああもう!!どうして姫様はこうもじゃじゃ馬なんですかぁ!!!」
だが清風と呼ばれた少女の制止を振り切り、閃華と呼ばれた少女は自身の騎馬の手綱を打つとそのまま追撃していく仲間達の元へと駈け出して行った………。そして後に残された清風と呼ばれた少女の悲痛な叫び声が、草原に虚しく響き渡ったのは言うまでもない。
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さて、彼女たちがいる場所から南側に下った漢の領土に接している荒地を、黒馬に騎乗し大戦斧を肩に乗せている一人の青年の姿があった。
「ここが幽州……漢帝国最北端にして、五胡の侵攻に曝されている土地か。こうして見ると、漢王朝の凋落が嫌と言うほどに分かってしまうな。国が腐敗していなかったのなら五胡の民がこうして狼藉をする事も無く、狼藉をしたとしても守備隊が整えられていたのなら撃退できたというのに………」
馬上にいる青年が荒れ果てた土地を見ながらそう呟いていると、彼の視線の先に砂塵が舞っているのが見える。恐らく国境守備隊が五胡に手酷くやられて撤退をしているのだろう……。
「……義を見てせざるは勇無きなり、か。俺も存外お人よしだよな、追われる身だってのに人を助けるんだからさ。行こうか、
青年がそう呟くと、彼を乗せている黒馬が彼を一瞥しながら嬉しそうに首を縦に振り、そのまま砂塵の方へ向かって駆け出した。
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公孫瓚、字は伯圭は自身の事を『凡庸』だと常々思っていた。幼き頃に盧植が開く学び舎で学問などに励み、恩師である盧植からは『政戦いずれにも穴の無い、現実的な考えの出来る人物』であると認められはしたのだが………その一方で同門である劉備の事をいつも羨ましいと思っていた。自分に比べて武も学も優れているとは言えなかった彼女だが、人を惹きつける『魅力』と言う物に溢れていた。
それに比べて自分はどうだろうか?確かに政にも、武にも欠けた所のないのは自分でもわかっていた。だがいずれにも欠けていないと言うのは裏を返せば『飛び抜けて優れた才能が無い』という事に他ならない。例えば『江東の虎』と称される『孫堅』の娘である『孫策』などは母親譲りの武勇を誇っているが、対する自分はそこまで武勇に優れてはいない。幽州と言う土地柄で生まれ育ったからか騎馬の技はそれなりに長けてはいたが、涼州に本拠を置く『馬騰』の娘である『馬超』に比べれば遥かに格下だ。
また政戦いずれにも優れているとなると頓丘県の県令となっている『曹操』などは自分など比べ物にならないほどに文武両道だ。そして同門の『劉備』には魅力と言う点で劣っている……そう思うと、公孫瓚は自分の『凡庸』さに失意しか抱けないでいた。
当然彼女とて何もしなかった訳ではない。いつも書物を読み耽ったり、武芸の修練などを欠かさずし続けはした。だがそれでもそうした彼女らに比べればずっと格下でしかなく、『努力では超えられない壁』に阻まれ続けている事を実感せざるを得ず、懊悩する日々を送っていた。その後私塾を卒業した彼女は幽州刺史を務める劉虞の元で働く様になっていたが、ある時烏桓の騎馬民族が略奪をしているという報告が入る。
異民族の狼藉は何としても防がねばならない、そう思った彼女は軍を招集しようとした劉虞の制止を振り切ると、自身の配下だけを率いて急行したのだが……現場に赴いた途端自分達を見た烏桓の騎兵は踵を返して逃げ出した。これに公孫瓚は当然逃がすまいと追撃を懸けたのだが、それこそ烏桓の巧妙な罠だった。追撃していく内に烏桓の領域に入ってしまった彼女の一団は待ち構えていた烏桓の戦士達に散々に討ち破られてしまったのである。
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そして現在、公孫瓚らは烏桓の戦士達の執拗な追撃を受けていた。あと少し逃げれば漢の領内に入れる……そう思っていた彼女に後方から嘲笑の声が響いた。
「ちょっとー!あたし達を討伐しに来たのにちょっとやられた位で逃げ帰る気なのー?漢の連中って臆病者ばっかなんだねー!」
……その言葉に公孫瓚は馬足を止めてしまう。そして振り返ると薄緑色のセミロングの髪に黄緑がかった瞳をし、毛皮を基調にした戦装束を纏った少女が烏桓の戦士達の先頭に進み出てきた。
「臆病者、だと……!?」
「だってそうじゃーん。あんた達閃華達を倒しに来たんでしょ?なのに一撃痛いの貰っただけで逃げるなんて、どう見ても臆病者じゃん。ん?あんた公孫瓚じゃん、あんたが率いてたんだ」
「そ、それがどうした!!」
「なら納得だよ、あんなにあっさりと撤退をしたのもさ。まああたし達相手に頑張った方じゃん?『凡将』なあんたにしちゃあさ」
「っ!私を……私を凡将って、呼ぶなあああああああああ!!!」
「は、伯圭様!!」
彼女の嘲笑にとうとう我慢できなくなった公孫瓚は副官の制止を振り切ると目の前にいる閃華と名乗った少女に猛然と斬り懸かった。これに彼女も腰に差していた盤刀と言う柳葉刀の先の部分を断ち落としたような刀身の刀を引き抜いて公孫瓚の剣を受け止める。そしてそれと同時に烏桓の戦士達と公孫瓚の配下達も再びぶつかり始める。そしてその中心で公孫瓚と閃華と名乗った少女は刀剣を討ち合っていたが、10合ほど討ち合った頃である……。
「っと、こりゃやばいかも。逃げるが勝ちーっと」
「なっ、待て!!」
そう言って馬首を返すとそのまま逃げだしたのである。これに公孫瓚は追撃しようとしたのだが、それこそ罠だった。
「(ニイッ!)ほいっと!」
―シュッ!ドスッ!
「うぐっ!?」
公孫瓚が追い縋ろうとした瞬間、少女は馬上で振り返りざまに騎射を放ったのである。そしてその矢を公孫瓚は躱す事が出来ず、矢は彼女の左肩に突き立ち彼女はそのまま落馬してしまった。先程の行動はこの為の布石だったのである。
「そんじゃ、覚悟ーっと!」
「くそっ!」
ーカキイイイン!
落馬した公孫瓚を見届けた少女はそのまま猛然と騎馬を走らせながら彼女に盤刀を振り下ろす。これに公孫瓚も自由の利く右腕に持っていた剣で弾いたのだが……その瞬間、彼女の剣は甲高い音を出して折れてしまったのである。そのまま閃華は公孫瓚の傍を離れたが、彼女の持っていた剣は根元から折れ配下の兵士達も疲弊しきっており、もはや絶体絶命と言ってよい状況にあった……!
「ちぇー、今ので仕留めようと思ったのに。けれどもう後が無いよね!んじゃ改めて、覚悟ーっと!」
「っ!」
ー私は、ここで死ぬのか?凡将と馬鹿にされて、その屈辱を晴らす事も出来ずに……。
そうして騎馬を駆って近づいてくる烏桓の少女を前に、彼女はただ茫然としているままだった。やがて閃華を乗せた馬があと少しで公孫瓚に迫ろうとした時……彼女達の間に『黒いナニカ』が落ちてきた。
「っ!?な、なになに!?」
「……っ!?」
砂埃が舞う中、少女は突然の出来事に右往左往し公孫瓚もまた驚きを隠しえなかった。やがて土埃が晴れると、そこには黒馬に跨り、大戦斧を手にした青年が公孫瓚を庇う様にして立っていた。
「お、お前は……?」
「通りすがりの、流浪の武人だよ。けれどちょっと、おせっかいを焼くのが好きだけどね」
青年は公孫瓚の方に顔を向けながら答えると、そのまま前方にいる馬上で盤刀を構える少女を見据えながら手にしている大戦斧を構えた。
「……あんた、ただ者じゃないね。何者?」
「さっきも言ったけど、通りすがりの流浪の武人さ。名乗るほどの者じゃない」
青年はそう答えるのだが、少女にしてみればそれは聊か不満だった。烏桓を含めた五胡の異民族は漢民族らに対して略奪などをして生計を立てる一方で認めた相手に対しては礼節を以て接する事をする。
特に有名なのが五胡の一つである『匈奴』であり、前漢の頃に名を遺す『蘇武』と言う人物も漢に忠節を尽くすその姿勢を当時の単于の弟が気に入って援助をしたり、前漢の武将で『飛将軍』の二つ名を以て讃えられた『李広』の孫にあたる『李陵』が匈奴に対して勇戦し、やむなく降伏した彼に対し当時の単于は匈奴の右校王の地位を彼に与えた事は非常に知られている。
話を戻すが、この様に烏桓を含める五胡の人々は自身が認めた相手には礼節を以て接する。だからこそ、少女にとって目の前にいる相手はそれこそ自分達にも引けを取らない相手だ。これほどの人物の名前ぐらいは知っておきたい……そう思った彼女は自身の名を名乗っていた。
「あたしは遼西烏桓の大人、
少女……楼班の名乗り声と問い掛けに、青年は茫然としていたがやがて軽く微笑むとそれに応えた。
「そう、だな。……名乗られたとあれば、こちらも名乗らなくちゃ非礼になるだろう。河東郡は陽県の生まれ、姓は徐、名は
青年が手綱を打つと、彼を乗せている黒馬はひときわ高く嘶くとそのまま楼班に向かって駆け出した。これに彼女を護る様にして近づいていた烏桓の兵士達が彼女に近づかせまいとばかりに猛然と襲いかかってきた。
「……せいっ!」-ブオンっ!
「ぐげっ!?」
「やっ!」-シュッ!
「おぶっ!?」
だが、これに対し徐寧は手にしていた大戦斧の刃先の部分ではなく、斧頭の平たい部分で烏桓の戦士達を思いっきり吹き飛ばしたり、石突の部分で突き飛ばしたりしたのである。間もなくすると十騎程で徐寧に襲いかかった烏桓の戦士達は一人残らず馬上から叩き落されていた……。
「……強いじゃん、あんた」
「称賛はありがたく受け取るよ。けれど、言いたい事があるんじゃないのかい?」
「なら聞くけど、どうして皆を殺さないのさ?あんたほどの腕なら皆の命を奪う事ぐらい楽勝でできるんじゃん?」
楼班が指摘したように、徐寧は烏桓の戦士達を
「そうだな……偏に『心を折る』ため、だな。確かに殺せば敵は減るけどその分他の相手が敵討ちとばかりに斬り懸かってくるだろう。けれど、死なない程度に痛めつけたのなら?人ってのは不思議な物でね、仲間が殺されたりすると仇を討ちたいと思うけど、痛めつけられて呻いている姿を見ると『自分はああなりたくない』って思う者なんだよ」
青年の言葉に楼班が振り向き、公孫瓚が眼前にいる烏桓の戦士達を見ると……確かに恐れを知らないはずの烏桓の戦士達が、落馬して呻いている仲間を見て顔を青ざめさせていたのである。これでは楼班が攻め懸かれと号令したとしても殆どの者が躊躇してしまうだろう。だが………次に徐寧が放った言葉に、楼班はおろか公孫瓚も耳を疑う事になった。
「それに……そうする事で犠牲を少なくも出来るし、一人でも多く故郷に帰る事が出来るだろう?それが理由、と言う所だな」
『…………はっ?』
彼がそう言った瞬間、二人の口からは呆気にとられたような声がこぼれ出た。
「腑に落ちない、と言う感じだな」
「ちょ、ちょっち待って!?あんたそれ本気で言ってんの!?」
「そうだぞお前!?本気で言ってるのならお前の正気を疑うぞ!!」
徐寧の問い掛けに楼班はおろか公孫瓚すら訳が分からないと言う様に追及を始めた。公孫瓚はそのまま自分の正しいと思って来た事を口にし始める。
「第一五胡の連中は漢に対して幾度も無く略奪を繰り返してきたんだ!!それでどれほどの人々が涙を流し、苦しんで来たと思っている!?そいつらは獣なんだ……情けをかけたってそいつらはそれに恩を感じる訳がない!!一人残らず殺す事が国を、民を護る為に必要な『そう言う考えは、好きじゃないな』な、何……?」
徐寧の言葉に公孫瓚が言葉を止めると、徐寧がこちらに首を向ける。そして徐寧は自分の考えを口にし始めた。
「確かに君の言う事も一理あるだろう。いや、それが当然だという事は百も承知だ。彼ら五胡の者達が漢の人々に対して略奪狼藉をしてきた事は周知の事実でもある……けれど、何で君は『彼らの事情』と言う物を考えない?敵だから殺しても構わないし、彼らの事情なんて考える必要すらないと思っているのなら……それは思考の停止でしかない」
「彼ら五胡の民だって、俺達漢の民と同じ『人間』なんだぞ?俺達と同じ様に喜び、怒り、泣き、笑える生き物なんだ。そして彼らも好きで略奪などをしたい訳じゃない………『生きる為』に略奪をしているという事を忘れてはならない。無論、彼らが略奪をしに来たのであれば民草を護る為に戦うのは当然の事だと思っているし、実際俺もそうしてきた。けれど彼らの事情を斟酌せず、ただ敵だからと言って殺す事しか考えないのなら、それは間違いであると俺は思う」
「…………」
公孫瓚は目の前の馬上にいる徐寧の言葉に思わず聞き入ってしまっていた。普通に考えれば徐寧の言葉は綺麗事でしかないだろう。彼らの事情などを考えても、だからと言って彼らを野放しにして良いという理由にはならない。だが……彼女は徐寧の言葉にも正しいと思う箇所があると思っていた。五胡の民もまた、自分達と同じ人間なのだという事にである。
思えば自分は劉虞に仕え、幽州の国境を侵そうとする五胡を相手に戦っている中に……彼らを『人間』だと思った事が一度でもあっただろうか?彼らの所業を目にしていく内に彼らを『血も涙も無い獣』だと決めつけて、殺しても構わないと思っていたのではないか?彼らにも帰る場所があり、彼らの帰りを待つ人とている。なのに自分達は彼らの事を一方的に殺しても構わないと決めつけていた………そう思うと、彼女の心には戸惑いの感情が芽生える様になっていた。
「け、けれど……それを言うならお前はあいつらと、五胡と話し合いでもして矛を収めろとか言いたいのか!?そんなの無理に決まってるだろう!?あいつらの行いで家を焼かれ、家族を奪われた人々の想いを斟酌しないのなら、そっちの方も悪いに決まってる!!」
公孫瓚がそう捲し立てると、徐寧は悲しそうな表情になりながら返答をした。
「ああ、そうだろうな。恨みや憎しみはそう簡単に消える物じゃない………俺は話し合いで物事が全て解決できるとは思っていないし、刃を交えてでしか解決できない事とてあるだろう。けれど恨みや憎しみを持ち続けても、それで何かが変わる訳じゃない。時には憎しみや恨みを、過去の蟠りを捨てて手を携えなければ、前に進む事が出来ない事だってある。話し合いで全てが解決できないかもしれないが、かといって話し合いと言う考えを頭ごなしに否定する事も間違いだと俺は思っている」
「っ……」
その言葉に、公孫瓚はとうとう黙り込んでしまった。そして徐寧の前にいる楼班はその言葉を聞いて溜息を一つついて返答をした。
「………あんたさ、それ本気で言ってんの?あたし達五胡の民と漢の民が蟠りを捨てて手を携える?それは詭弁でしかないじゃん。戦場じゃあ殺るか殺られるかが当たり前だってのに、そんな考えしてたら命がいくつあっても足りないよ?」
「ああ、少なくとも今は俺の言葉は詭弁でしかないだろうし、俺も戦場では命を奪う事が当然だとも思っている。けれど、このまま戦い続けて憎しみや恨みを増やすよりも………同じ人間同士なのだから、話し合いを考える事もまた選択肢の一つじゃないか?」
「……『姫様!』っ!
自身を呼ぶ声が響いた直後、黒のボブカットに橙色の瞳をし、同じく毛皮を基調にした戦装束を纏った少女が楼班の隣に並ぶようにして騎馬を進めてきた。
「見張りをしていた者からの連絡で劉虞率いる軍勢が向かっているそうです!ここは退き時かと思います!!」
「………そっか。分かった、皆退くよ!」
少女の報告に、自分達の旗色が悪くなった事を悟った楼班は戦士達に指揮を行うと、それに応えた戦士達が落馬して重傷を負った仲間を抱えて騎乗し、それを見届けた楼班はそのまま馬首を返して自分達の領域--烏桓の縄張りに向けて撤退をしていった………。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その撤退の最中、楼班は隣で騎馬を走らせる少女……清風に呼び掛けていた。
「ねえ清風、ううん
「っ!?……何ですか、姫様」
楼班が自分の事を真名ではなく、姓名で呼んだ事に驚きながらも彼女はその呼びかけに応えると、楼班は腑に落ちないという感じで語り始めた。
「あたし達烏桓と、漢の人間が和解して手を取り合って暮らせるようになるなんて、有り得ると思う?」
「それは………無理じゃないんですか?私達烏桓をはじめとした五胡は生きる為とは言え漢に対して略奪などを繰り返してきてるんですよ?漢の方は私達五胡に対して恨みや憎しみを以ていると思いますし、中原の人間は私達の事を蛮人として見下しているんです。そんな漢の人々と和解する事自体、無理難題だと思いますよ?姫様だってそれは分かっているじゃないですか。どうしてそんな事を……?」
「さっきあたし達を相手取った徐寧って奴が、そう言ってたの。……理想論だって分かってるんだけど、あいつはあたし達五胡の人間を『獣』じゃなくて、同じ『人間』だって言ってくれただけじゃなく、『同じ人間同士なら、和解を考える事だってできるんじゃないのか?』って、目に強い光を宿しながら言い切ったの。あんな風に強い光を宿す目の人間にあったのって初めて……また、あいつに会えるかな?」
「姫様……」
そう語る楼班の貌には異性に惹かれているような色が宿っているのを、蹋頓は見逃さなかった………。
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「助かった、のか……」
撤退をしていく烏桓の後姿を見ていた公孫瓚は、彼らの姿が荒野の彼方に去っていくのを見届けるとそのまま地べたに座り込んでいた。そうして暫く座っていたが、自身の元に黒馬から降りた青年が近づいてきた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。……おかげで助かったよ。ありがとう」
「いや、気にする事は無い。どうにも困った人を放っておけないお人よしな所が俺にはあるみたいでね」
青年が困った風な表情をしながら頬を指で掻いているのを見て、公孫瓚は思わず笑い出していた。
「ははっ、確かにな。……自己紹介がまだだったな。幽州刺史・劉虞の元で働いている公孫瓚、字は伯圭だ。改めて……助けてくれて感謝するよ、徐寧」
公孫瓚が名乗りながら立ち上がって右手を差し出すと、青年……徐寧も微笑みながら左手を差し出し、両者は握手を交わしたのである。
「河東郡陽県の出、徐寧だ。どういたしまして、かな?」
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公孫瓚の危機を助けた徐寧は、彼女の誘いを受けて幽州刺史の元を訪れる。そこで徐寧は公孫瓚の胸中にある悩みを聞かされる事になるのだが……続きは次回のお楽しみ。
ここまで読んで頂きありがとうございます…!
私自身、恋姫無双の二次小説などを読んでいて思ったのですが、白蓮って普通さんって程じゃないと思うんですよね。普通であるという事は文武のいずれにも優れているって事ですし、文武のいずれにも欠けた所が無いというのはある意味で才能があると思うんですよ。
まあ、ほかの恋姫の方が遥かに才能がある分霞んでしまうのはやむを得ないのでしょうが…では、次回もお待ちいただければと思います!!