では、どうぞご覧下さいますように…!
「もう~!!
「……すいません、烏桓の襲撃から民を護りたいと思って」
「謝って済む問題じゃないです!!貴方にもしもの事があったら、貴方が率いた兵士達がどうなっていたと思うんです!それに貴方の命は、貴方だけの物じゃないんです。貴方が死んだら、悲しむ人だっているんですからね?」
「はい……」
幽州の州都である『薊』にある居城、その大広間で公孫瓚を叱り付ける(ただその声には温和そうな雰囲気がとても強く感じられたが……)声が響く。彼女を叱り付けていたのは緑色の落ち着いた装束を纏い、薄紫色の流れるような長髪に翡翠色の瞳をした、闊達さが感じられる風貌を持つ女性だった。また、異性を惹きつけてしまうほど主張している体つきを持っていた……。
「……まあ、無事に戻ってきてくれたのならそれでいいです。ただ、これからは気を付けてくださいね?」
「ええ、分かっています……」
「ならいいです。……そちらにいる方が、白蓮さんを助けてくれた人ですか?」
やがて彼女は彼女の後ろで二人の会話を聞いていた青年・・・徐寧に目を向けた。
「ああ。彼がいなかったら、多分私は死んでいたと思う。彼は私にとって命の恩人だよ」
公孫瓚の紹介に、その女性は心底嬉しそうに笑みを浮かべると徐寧の前に行き、彼女の前で拱手をしながら頭を下げていた。
「貴方には感謝をしなければなりません。貴方がいなかったら、私は白蓮さんとこうして再会する事も出来なかったでしょうから……私は幽州刺史を務める者。姓は劉、名は虞、字は伯安と申します。この度は貴方に白蓮さんを助けて頂いた事、心からお礼申し上げます」
「いや、見て見ぬ振りが出来なかっただけの事。その様に感謝されると何やらこそばゆくなってしまうな」
「そんな事はありません。貴方の助けが無かったら白蓮さんの身が危うかったのですから……お礼に私の真名を貴方に捧げたいと思っています」
「っ!?宜しいので……?」
「恩義には報いる事を心掛けていますから。私の真名は『
「藤乃が真名を預けるのなら、私の真名も受け取ってくれるだろうか?私は『
公孫瓚と劉虞が自身の真名を明かしたのを聞いて、徐寧もまた自身の真名を明かした。
「司隷は河東郡、陽県の生まれ。姓は徐、名は寧、字は芳明。お二方の真名、確かにお受け取りしました。ならばこちらも真名を明かさねば非礼なれば、真名は『
徐寧の返答に、劉虞は心から嬉しいという感じで微笑み、公孫瓚も同様に喜んでいた。やがて劉虞は彼の姿をしげしげと眺め始めた。
「それにしても、壮也殿は流浪の士であると白蓮さんから聞いています。それで宜しければの話なのですが………私の元に仕官するつもりはありますか?貴方の武勇は並々ならぬ物だと伺っていますし、無論強制ではありません。どうでしょうか?」
「私も寧ろお前が同輩として共に仕えてくれるのなら、これほど心強い事は無いんだが……」
「……申し訳ないのだが、俺は諸国を巡って見聞を広める旅の最中なんだ。いずれは何処かの主君に仕えようとは思っているが、まだ一つ所に落ち着く予定はない。済まない……」
「そうですか……いえ、其方にも事情と言う物があるでしょうから気にしてはいません。その代わり、と言っては何ですが細やかな酒宴に招待したいのですが宜しいでしょうか?」
「酒宴、ですか?」
「ええ。私の元で働いている白蓮さんを助けてくれた貴方へのお礼と、交友を兼ねた酒宴です。如何でしょうか?」
劉虞の懇願に、徐寧は少しばかり考えていたが……やがて首を縦に振った。
「分かりました。喜んで相伴にあずからせて頂きます」
「っ!ありがとうございます!!皆さん、早速支度をしてくださいね!」
・・・・・・・・・・・・・・
そうして壮也は劉虞が司会を務めた酒宴に招かれ、そこで歓待を受ける事になった。その酒宴は華美さとはかけ離れた慎ましい物であったが、公孫瓚……白蓮を救ってくれた恩人を歓待しようという劉虞……藤乃の想いがひしひしと感じられる物だった。酒宴が終わった後、壮也は刺史の屋敷の一室を宛がわれそこで休息を取る事になった。
深夜、壮也は目を覚ました。屋敷の庭園に誰かが足を運んだのを察した為だ。壮也は寝台から降りて上着を羽織ると、部屋から出て庭園に向かった。外は月が薄雲に隠れておぼろげに地上を照らしている中、庭園に出ていたのは……。
「白蓮?」
「あっ、壮也か……」
寝間着を着ていた女性……白蓮が空に浮かぶ朧月を見上げていたのである。壮也は彼女の隣に立って共に夜空の月を眺めていたが、やがて白蓮が切り出してきた。
「……なあ壮也」
「何だ?」
壮也の返答に、白蓮は一瞬言いづらそうに躊躇ったが………やがて意を決して話しかけた。
「壮也は、強いな」
「俺が、強いって?」
「だってそうじゃないか。烏桓の戦士達は五胡と呼ばれる異民族の中でもかなりの強さを持っていて、匈奴の連中とも凌ぎを削り合ってる奴らだ。その戦士を殺さないで蹴散らせるなんて、相当な武人だって証明しているようなものだ」
「それは買いかぶりと言う物さ。俺はまだ修行中の身、自分でも未熟だって思う所がある」
壮也が白蓮にそう答えると、彼女は俯きながら言葉を漏らした。
「そんな事は無いさ。私から見れば、お前は十二分に武人として優れているよ。それに比べて、私はまるでいいところが無い」
「それこそお門違いだろう?苦戦していたとはいえ白蓮は手勢を率いて烏桓と亘り合っていたじゃないか。それは将軍としての力量があると見てもいいんじゃないのか?」
「だが、勝てなかったじゃないか………!」
壮也の指摘に白蓮はそう辛そうに言い放つと、そのまま畳み掛ける様に捲し立てた。
「私は……いつも自分の才能の無さに悩んでいた。恩師である
「今回もそうだ。烏桓の襲撃があったと聞いて民を護りたいと思って突出して、逆にあいつらに翻弄されて仲間を失った挙句、お前が助けてくれなかったら私は楼班に討たれていただろう。私は、凡将でしかないんだ。武も、文も……それに秀でた者達に劣る者、それが私なんだよ。我ながら、情けなくて涙が出てくる…」
白蓮はそう言って自らを貶す様な言葉を漏らして行くのを壮也は一言も口を挟まずに見守っていたが、やがて彼女が言い終わって俯いたのを見ると切り出した。
「平凡、か…………。俺には、君の方がよほどすごい力量を持っていると思うけれどな」
「っ!?な、何だって……?私が、凄い?」
「政戦いずれにも穴が無い……師である人がそう言うって事は、武勇と知略いずれにも優れているって事じゃないか。それは一国の君主にしてみれば一芸に秀でた武将よりも欲しいと思ってもしょうがないと俺は思っている」
そう言って壮也は自らを指差しながら彼女に話し始めた。
「現に俺は確かに武技の腕はそれなりだとは思ってる。けれど俺は軍略こそ学んではいるが軍勢を率いて戦った事は無いし、まして領主として土地を治めるなんて専門外にも等しい。けれど白蓮、君は武も文も……その両方をそつなく行えるってのは、俺から見ればとてつもなく凄い事だと思う」
「第一史書を紐解いてみろ。名将として名高い楽毅や李牧、常勝将軍と讃えられた白起や国士無双と讃えられた韓信は軍勢を率いて戦う事に長けていても、個の武勇に長けていたか?猛将として名を馳せた項羽や樊繪らは個の武勇に長けていても軍勢を率いて戦う事は出来たか?軍師として名を馳せた孫武や呉起、張良は神算鬼謀を編み出す事は出来ても為政者として国を富ませられたか?為政者として名高い管仲や蕭何らは政略に長けていても神算鬼謀を練る事が出来たか?……白蓮、君に足りないのは『自信』だ」
「じ、自信……?」
壮也の捲し立てるような言葉に白蓮が呆然としながら言葉を漏らすと、壮也はうなずきながら彼女の両肩に手を置いてさらに言葉を投げかけた。
「そうだ。どれほど人間に大きな才が眠っていて努力や勉学に励んだとしても、周りにいる優れた人間を見て自分を貶していては、それこそ人としても燻って行く事になる。『自分はこれだけの事が出来るんだ』……そう自信を持つ事。それがこれから君がすべきことだと俺は思う!」
そう言って白蓮を射抜く壮也の瞳は……この上も無く真っ直ぐだった。
「っ!ご、ごめん。つい熱くなってしまって体が動いてしまった。済まない」
「いや……お前にそう言われていると、何だかすっきりしたような気持になったよ。自分に自信を、か……ありがとう、壮也」
「……元気が出たようだな。よか『うふふ、とても心温まる感じでしたよ』えっ?」
「ふ、藤乃!?」
二人しかこの場にいないはずの場所に自分達以外の声が響いたため振り返ると、そこには寝間着姿の藤乃が立っていたのである。
「ごめんなさい。厠から帰ろうとした時に庭園から声が聞こえて来たので来てみたら余りにも心温まる光景が目に飛び込んできてしまったので、つい声を掛けちゃいました」
そう言いながら廊下から庭園に降りてきた劉虞が壮也達の元に近づいて行く。そして二人の元に着くと、壮也の方に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。白蓮さんの悩みを聞いてくれたのみならず、彼女を励ましてくれて」
「いや、あくまで他人の意見に過ぎないさ。自分が抱える悩みは抱えている自分自身が何とかしなきゃいけない事だしね」
「そんな事はありません。本当は白蓮さんの上司でもある私が為すべき筈だったんです。けれど私じゃ彼女の苦悩を和らげられなかったから、貴方には感謝してもしきれません。本当にありがとうございます徐寧さん……いいえ」
ー徐来さん。
その名が出た途端、その場は静寂に包まれた。壮也は瞠目して劉虞に顔を向け、白蓮も同様だった。
「ふ、藤乃………今、なんて言ったんだ?徐寧が、壮也が……『徐来』だって言うのか?国中にお尋ね者として指名手配されたあの?」
「ええ。酒宴を開く前に書簡整理をしていたら、中央から届けられた書簡の中にあったの。まさか貴方だったとは思わなかったけど……」
そう言いながら藤乃は手にしていた書簡を壮也に手渡す。壮也が受け取った書簡を広げて目を通すとそこには自身によく似せた似顔絵と『この者、十常寺の一人たる張譲の親族を殺めたる大罪人なり。この者を捕えし者には千金を与える物なり。咎人の名は徐来芳明』と言う文章が記されていたのである。
「やれやれ、十常侍の一族一人殺めただけで千金の懸賞金とは。朝廷の連中も随分と大盤振る舞いをした物だな」
「呑気に言ってる場合か!?……壮也、お前が徐寧と名前を偽っていた事はどうでもいい。どうあれお前は私の命の恩人なんだから。だが一体どんな罪を犯したというんだ!?お前は我欲で動く人間じゃない事は分かってる。どうして………咎人に落ちたって言うんだ?」
「……俺にしてみれば、この事を知った君達がどうしたいのかと言う所を知りたいな。藤乃、貴方は俺を捕えるのか?もしそうであれば俺とて易々と囚われる積りは無い、全力で『どうにも、貴方は私の事を誤解しているようですね』えっ?」
「私は確かに朝廷から幽州刺史として任じられました。朝廷に忠義を尽くすのは当然です。ですが私は後漢の東海恭王・
そう言って壮也に質問をする劉虞の瞳には一切の私心がなく、壮也の心中の苦しみを少しでも分かち合いたいという想いが溢れていた。両者の間には暫しの沈黙が流れたが、やがて壮也が根負けしたと言う様に溜息をついた。
「……藤乃さん、貴女は中々に物好きなお人だ。俺の様な咎人を匿うなんて事をしてもし密告などされたらご自身が危ないというのに。けれど、その言葉はとても嬉しく思います。……分かりました。聞くに堪えない話かもしれませんが、聞いてもらいたい」
・・・・・・・・・・・・・・・・
そうして壮也は話し始めた。自身がどうして咎人となったのか、その経緯を。故郷である陽県に新たに県令として訪れた張朔が、自身の想い人であった関羽の両親の死に関係していた事。そしてその張朔が関羽の身を欲した為彼女を救いたいという一心から罪を被る決意をし、それを実行に移した事……それらを壮也は全てを明るみにした。
「……じゃあ壮也、お前はその愛した人……関羽の為に自分から罪人としての汚名を被ったって言いたいのか?」
「そんな事があったのですね。ですが、愛する人を護る為に自ら汚名を被る……女性としては憧れてしまいますよ」
「止めてくれないか?どうあれ、俺の決断は彼女を泣かせてしまった事に他ならないんだから。……さて、とりあえず俺の事情は話したけど、これからどうするつもりだい?」
「どうするですか?そんなの決まってるじゃないですか。私、貴方の事が益々気に入っちゃいました。だから、貴方がここを去るという時まで匿い続けます。それが私の決めた事ですから……白蓮さんも協力してくれますね?」
「ああ、もちろんだ!」
「だそうですよ壮也さん。………暫くはここで羽を休めてもいいんじゃないでしょうか?」
藤乃の心のこもった問い掛けに、壮也は暫し瞑目したまま黙っていたが………やがて力強く頷いた。
「……では、暫し御厄介になります」
その時、夜空に浮かぶ月を覆う薄雲はいつの間にか掻き消え、淡く輝く月光が彼らを照らし出していた。
・・・・・・・・・・・・・・
時は劉虞らが壮也を匿う事を決め、彼女達の提案を壮也が受け入れた頃………烏桓の民が暮らす集落にあるひときわ大きな
「あーあ……分かってた事だけど父様に会いたくないなぁ」
「姫様はまだいい方じゃないですか!寧ろ私の方がお館様に雷落とされるのは確定済みなんですよ!?もう本当にどうしたらいいのか……」
「安心してよ、その時は私も庇ってあげるからさ」
そう話している内に二人はそのゲルの前に到着する。そして楼班が穹廬の入り口を開けると、その奥で胡坐をかいている男性が待ち構えていた。がっちりとした体つきをし、褐色の肌とは対照的な白狼の毛皮で作られた装束を纏った長い顎鬚を蓄えた壮年の男性は入ってきた楼班に彼女と同じ黄緑がかった瞳を向けると、おもむろに口を開いた。
「……ようやく帰って来たか。馬鹿娘が」
「ちょ、ちょっち待ってよ父さん!こうして無事に帰ってきたんだからそこは素直に喜んでもいいんじゃないの!?」
「何を言うか。お前は自分の立場がまるで分っておらん、お前はゆくゆくはこの遼西烏桓を率いねばならぬ大人になるのだぞ?にも拘らず血気に逸って前に出るなぞその心構えが出来ておらん証拠ぞ。だからこそお前にお目付けを任せたつもりなのだがな……清風」
そう言って楼班を叱責していた男性はその隣で立っている清風に視線を向けた。これに対し清風は慌てて膝を屈して畏まっていた。
「も、申し訳ありませんお館様………!!この度の不始末、如何なる処罰も覚悟の上です!!」
清風がそう言いながら地面に頭を下げるのを男性は黙したまま見続けていたが、やがて溜息を一つつくと彼女に聞こえる様に言い放った。
「……まあいい。こうして娘が無事に戻ってきただけでも良しとしよう。だが次からは気をつけよ」
「っ!は、はい!肝に銘じておきます
そう言って清風……蹋頓が感謝の言葉を述べながら再び頭を垂れた。そんな彼女の前で胡坐をかいているこの人物こそ遼西烏桓を束ねる大人である丘力居その人だった。
「しかし清風よ、お前達が戦ったのは幽州刺史の劉虞に仕えている公孫瓉が率いていた軍勢であろう?あれはそれほど戦上手であった覚えはないと言うのにこちら側の負傷者が多いとは……一体何があった?」
「はっ、それが……確かに当初こそ我らは幽州の国境近くで踏み込む構えを見せ、それを察知した公孫瓉をおびき寄せた後に打ち破ったのですが、追撃した時にその場に現れた流浪の武人によって痛撃を受けてしまったのです。その事は姫様がご説明してくださります」
「流浪の武人?……閃華、どう言う事か聞かせて貰おうか」
「うん分かった。あの後追撃した時に伯圭の奴を追いつめてさ、止めを刺そうとした時にあいつが現れたんだ。名前は……確か徐寧って言ってたっけ?そいつがとんでもなく強い奴でさ!烏桓の戦士達を手にしていた大戦斧で散々に打ち倒したんだよ!しかもさ……そいつ戦士達を
「何っ……!?」
閃華の説明に丘力居は思わず立ち上がりかけていた。烏桓を初めとした五胡の人間は何れも生まれた時から騎馬の技に磨きをかけ続けており、その技を以て中原の人々……すなわち漢民族に対して圧倒的とも言える強さを持っていた。そもそもこの時代の中国では後世での『騎兵』と言う物は五胡の人々を初めとした遊牧民族の軽騎兵がこれに当てはまり、中原では二頭から四頭立ての馬で牽引する戦車が騎兵の代わりと言えた。
しかし戦車は地形の影響を非常に受けやすく、またコストの問題もあった為次第に廃れていき遊牧民の軽騎兵による騎馬戦術の開発や定住文化圏への伝播、また品種改良による馬の大型化とそれによる重騎兵の登場などの影響を受けて騎兵に取って代られた。だがそれでも五胡の軽騎兵の強さはそうした重騎兵にも引けを取らないほどの精強さを誇っており、実際并州や雍州と言った土地では匈奴ら遊牧民族の戦士たちが猛威を振るう光景がしばしばあったのである。
そんな精強を以て知られる五胡の戦士と渡り合うだけでも大したものだというのに、その戦士達を殺す事無く蹴散らすなど……丘力居にはとても信じられなかった。
「本当だって父さん!嘘だって思うなら一緒に行った兵士達にも聞いてみればいいよ!みんな口を揃えて言うはずだからさ!」
「……そうだな、それにお前が嘘を言う訳も無し。清風、兵士達と共にしばらく休んでいろ」
「はい!では失礼いたしますお館様!」
そう言って蹋頓は一礼をして穹廬から出ていき、穹廬の中には楼班と丘力居だけが残された。二人は暫く黙っていたが、やがて丘力居の方から切り出した。
「閃華、何か言いたい事でもあるのだろう?親子二人だけしかおらぬのだから、思うままに言ってみよ」
「ねえ父さん。私達五胡の民と漢民族の民、手を取り合って暮らせるようになると思う……?」
「……それはまた随分と急だな。何故そんな事を聞くのだ?」
「徐寧の奴に聞いたんだ、どうしてそんなに強いのに仲間を殺さないんだって。そしたらそいつ答えたの。『そうする事で犠牲を少なくも出来るし、一人でも多く故郷に帰る事が出来るだろう?』って。その後公孫瓉の奴が殺したほうがいいって言ったらさ、『彼ら五胡の民だって、俺達漢の民と同じ『人間』なんだぞ?俺達と同じ様に喜び、怒り、泣き、笑える生き物なんだ』って答えてたんだよ。そんでもって……『恨みや憎しみを持ち続けても、それで何かが変わる訳じゃない。時には憎しみや恨みを、過去の蟠りを捨てて手を携えなければ、前に進む事が出来ない事だってある。話し合いで全てが解決できないかもしれないが、かといって話し合いと言う考えを頭ごなしに否定する事も間違いだと俺は思っている』って言ったんだ」
「…………」
「父さん……徐寧って馬鹿なのかな?それともそんな願いを本気で叶えたいと思っている奴なのかな?どっちなんだろう?」
楼班の問いかけに丘力居は瞑目して黙りこくっていたが……やがて眼を開くと楼班に諭すように答えた。
「……どうしようもない阿呆、ではあるだろうな。俺達はどう言い繕おうと生きる為に漢民族に対して略奪を重ねてきた。また漢民族も五胡に対して弾圧をしてきた背景とてある。両者の間には、埋めようも無い溝がある事はお前とて承知しておろう?」
「うん……」
「我ら五胡の者達が漢民族を見下し続けてきたのと同じように、漢民族の者達も我ら五胡の者達を憎み続けておる。その負の流れを今更断ち切って手を取り合う事など出来ようはずもあるまい。……話は終わったな?では行くがいい」
「……分かった」
そう答えると楼班も穹廬から出ていき、後には胡坐をかいたままの丘力居が残された。やがて丘力居は瞑目して考え込み始めた。
「(だが……その徐寧と言う男の言葉も最もかも知れん。このまま恨み憎しみを子孫らに受け継がせていったとしても何の益も無い。それどころか更なる報復を招きよせる事にもなる。ましてや徐寧と言う男は漢の人間でありながら我ら五胡の民をも同じ『人』であると言い切ってみせた。中原に住まう漢人でありながら何と聡明な男である事か……)」
そう思った丘力居は、いつしか微笑みを浮かべていた……。
「徐寧、か。……俺も一目でよいから会ってみたい物よ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
劉虞の提案を受けて葪にて暫しの休息を得る事になった壮也はその恩義を返さんと劉虞と公孫瓉に武具を作る事を決意する。一方壮也との再会を求めて旅立った愛紗は民草の苦しみを憂う少女と行動を共にしていた……続きは次回のお楽しみ。
オリジナル登場人物
劉虞・伯安 真名:
容姿:『戦極姫5 ~戦禍絶つ覇王の系譜~』の『相良義陽』をイメージしてみました。
作品設定:幽州刺史を務める女性。胸のサイズは桃香と同等。桃香と同じく理想主義な一面を見せる事はあるが現実の厳しさを直視する事も出来る。
また異民族に対しても礼を欠かさない対応を取る事から烏桓などの異民族からも好意的に接せられる。ただ異民族に対しての姿勢から白蓮とは口論をする事がある。武技は朱里や桂花達軍師キャラ以上白蓮以下。
史実では………中山靖王の末裔を名乗っていた劉備と違い後漢の東海恭王・劉彊(光武帝の長男)の正式な末裔。また曹操に仕えた劉曄は遠戚に当たる。幽州刺史に就任すると、異民族はその徳性に感化されて朝貢し、周辺を荒らすこともなくなって、住民はその統治を喜んだ。
反董卓連合が結成されると袁紹や韓馥は、劉虞が漢王室の年長の宗室ということで皇帝に擁立しようとしたが、劉虞はこれを拒絶した。その後公孫瓉と争うも破れて囚われの身となり、「皇帝になれるほどの人物なら、天から雨を降らせることができるであろう」と強引な要求をした。時は真夏の最中だったが、結局雨が降らなかったため処刑された。
だがこの事は公孫瓉の評判を落とす事になり、また公孫瓚の行為に反発した烏桓が造反を繰り返したことにより北方の情勢も悪化する事になった。
最後の部分にオリジナル人物の設定を乗せてみました。
次回はもう少し早めに投稿をしたいとは思いますが…どうかお待ちくださればと思います。では…!