真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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 どうも…大変長らくお待たせしてしまいました。最新幕を送らせて頂きます。

 ここまで遅れてしまったのは偏に私の不注意による物です。仕事関係で出張をしていたのですが、その出張先で仕事をしていた際不注意で転倒し、それが原因で背骨の圧迫骨折と言う大事になってしまったのです。

 その為安静にした状態で出張先から帰還し、そのまま病院入院と言う流れになってしまい、退院した後もコルセットを装着した状態で安静にしていた為ここまで遅れてしまいました。

 自身の作品を待ってくださった読者の皆様には心からお詫び申し上げます…。ではどうぞ。


武具進呈と仁君到来

 幽州の州都・葪の城下町にある一軒の鍛冶屋。そこで壮也は一心不乱に鉄を打っていた。

 

 

 目の前の金床には熱せられた鋼が赤々と染まりながら置かれており、それに向けて壮也は手にしている金槌を振り下ろす。振り下ろす度に響く甲高い音はとても小気味よく、喧噪が響く町中にもよく響き渡った。そして暫く打ち続けるとその鋼を傍においている水を張った水桶の中に突っ込む。

 

 

 その瞬間、ジュワッ………と言う音と共に蒸気が起こり周囲に広がる。やがて水桶から取り出した鋼は先ほどまで真紅の色合いをしていたのが鈍色に変じていた。壮也は水桶から取り出したそれを見続けた後に砥石を置いてある場所に行って腰を下ろすとそれを研ぎ始めた。

 

 

 そうして研ぎ澄まされていった鋼は、やがて幅広の長剣の刀身を思わせる形に整えられていった。そして研ぎ終わったのかその刀身を自身の眼前まで持っていき真剣な表情で眺め続け……やがて満足そうにうなずいた。

 

 

「上々……と言っていいかな」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 事の始まりは一ヶ月前に遡る。葪の居城にある鍛錬場で壮也と白蓮は互いに武術の鍛錬に励んでいたのだが、その合間に行った休憩の時の事だった。

 

 

「武器を送りたいだって?私と藤乃に?」

 

 

 驚きを隠しえない、と言う表情と声を出した白蓮に壮也は力強く頷いた。

 

 

「ああ。追われる身である俺を身を挺して匿ってくれた藤乃や白蓮に対して、恩返しをしたいと常々思っていた。けれど流浪の身であった俺に金品なんて持っている訳も無し。あると言えば俺のこの武具を作り出す鍛冶の腕ぐらいな物、なら二人の為に武具を作ってお贈りしたいと思うのはおかしいだろうか?」

 

 

 そう言って自らの腕を叩く壮也に白蓮は嬉しく思いながらもこう返答をした。

 

 

「……いや、お前の気持ちはとてもうれしく思う。けれど何で藤乃にも送りたいと思うんだ?藤乃は刺史を務めてはいるけど文人肌の人物なんだ。文の方を得意としているし武の方も……まあそれなりと言えばそれなりだけどそこまで得意としている訳じゃない。それに藤乃は戦いでは基本的に本陣で待機をする方だから武具なんて必要ないんじゃないかと思うけどな」

 

 

 白蓮がそう問いかけるのに対し、壮也は首を横に振って自身の考えを話し始めた。

 

 

「ああ、確かに白蓮の考えは当然だろう。けれどこの世の中は『有り得ない事が有り得ない』のも当然でもある。幾ら本陣にいたとしても前線で戦っていた敵が前衛を突破して本陣に来ない保証があるか?間道とかを通って奇襲をしてこないという確証があるかい?物事において慎重に慎重を重ねて悪いという事はない。兵法においては『兵は神速を貴ぶ』とはあるが、同時に慎重さを持つ事もまた将として必要不可欠だと俺は思っている。そして……」

 

 

 そこで一旦言葉を切った壮也は背中に背負っている戦斧を手にしながら切り出した。

 

 

「戦場において武具とは自らの命を護る為に必要不可欠な物だ。軍師や文官には必要ないと言えばそれまでかも知れないが、だがもし護衛の兵がやられたとしたら?そこまでの状況下になっては容易な逃走は難しいだろうしまさか徒手空拳で迎え撃つ訳にもいくまい。なればこそ、己の身を護る為にも武具を送りたい……そう思ったのさ」

 

 

 そう自らの考えを口にした壮也に白蓮はすっかり感心しきっていた。確かに戦場において絶対と言う法則は存在しない……いかに万全の態勢を敷いて戦に臨んだとしても、戦場では何が起こるか分からない以上自らの護身の為に武具を持つべきだという彼の考えは的を射たものだったからである。

 

 

「そうだな……分かった、後で藤乃にも伝えておくよ。でも何を作るつもりなんだ?」

 

 

「それなんだが……明日俺が寄宿している鍛冶場に来てくれないか?そこで一通りの武具を二人に見せるから、それを見て決めてほしいんだ」

 

 

「よし、分かった」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 翌日、白蓮は藤乃を連れて壮也が寄宿している鍛冶場に足を運んでいた。

 

 

「でも壮也さんも私達に気を遣い過ぎです。自分を匿ってくれたと言うだけで私達の為に武具を作って下さるなんて……私は何も見返りが欲しくて匿った訳ではないのに」

 

 

「まあいいんじゃないのか?壮也も私達への恩返しがしたいと思ってるんだろうし、ここはご厚意に甘えてもいいと思う」

 

 

「……そうかもしれませんね。あっ、見えてきました。あの鍛冶屋ですね」

 

 

 藤乃が指差した先には一軒の鍛冶屋があり、その鍛冶場の外側に置いてある質素な長椅子に壮也は座っていた。その手には磨き上げられた刀身の長剣が握られており、日の光を受けて眩い輝きを放っていた。

 

 

「っ!白蓮、それに藤乃もよく来てくれた。仕事とかもあったろうにすまない」

 

 

「ふふ……お気になさらず。寧ろ壮也さんが武具を作って下さると聞いてどのような物を作って下さるのか、少し楽しみにしていたんですよ?」

 

 

「ああ、お前の父上である徐岳殿は『名器の作り手』って言う二つ名で都では知らぬ人がいないほどだって言うじゃないか。ならその息子のお前だって相当な腕前なんだろう?何を隠そう、私も期待していたんだよな」

 

 

「……そこまで言われるとこそばゆい、と言うか。とりあえず主だったものを地面に並べてあるからそれらを見て決めてほしい」

 

 

 そう言って壮也が鍛冶場の裏にある庭に二人を連れて行くと、その庭の地面に筵が敷かれておりその上に様々な武具が並べられていた。それらは白蓮にとっては馴染み深い剣や刀などの刀剣や槍や矛、戈や戟と言った長柄の武具。手斧や棍棒などの打撃武具のみならず、鉄扇や大型の籠手、そして楯と手槍が一体化したような物など様々な武具があったのである。

 

 

「……壮也、これみんなお前が作ったって言うのか?凄いとしか言えないんだが」

 

 

「まあ鍛冶の技を磨くのが楽しくて夢中で作っていたら気づいたらここまで貯まってしまったみたいでさ。それで何かこれはと思えた武具はあるかい?」

 

 

「とは言っても……こうもいっぱいあると却って目移りしちゃってしょうがないんだよなぁ。なあ藤乃……藤乃?」

 

 

 ふと返事をしてこない藤乃に気が付いた白蓮が彼女の方を向くと、藤乃は並べられていた武具の中にあった一振りの鉄扇を手にとってしげしげと眺めていた。やがてそれを広げたかと思うと、それを試しに振り始めた。初めはただ振るうだけと言う感じだったが……。

 

 

「…えいっ!」ーシャッ!

 

 

 やがてそれを前方に旋回させながら投擲するという行動もとったのである。そうして戻ってきた鉄扇を見事に受け止めてみせると大きく息をついていた。

 

 

「………ふうー『す、すごいな藤乃!?』えっ?」

 

 

「いやだってすごいとしか言いようがないぞ!?お前武の方はあまり得意じゃなかっただろう!?なのに初めて持ったはずの武具をそこまで扱えるって……」

 

 

 白蓮がそう捲し立てながら彼女を褒め称えると一方の藤乃も驚きを隠しえないという感じで手にしていた鉄扇を広げながらつぶやいていた。

 

 

「わ、私も驚いているんです。私自身武の方は自信が無いと分かっているのに、この鉄扇を持っていると自然と使い方が分かってしまうというか何と言うか………と、とにかく驚きを隠し得ません『それは多分、相性が良かったからだろうと思うけどな』相性、ですか……?」

 

 

 壮也の指摘に藤乃が疑問を投げかけると、壮也は自らが背中に背負っている戦斧を手にしながら頷いた。

 

 

「俺は思うんだよ。武具って言うのは使う人間の方が選ぶだけじゃなくて、物言わぬ武具の方も使い手を選ぶんじゃないかって。藤乃がその鉄扇を手にとって使いこなせたと言うなら、きっとそれはその鉄扇が藤乃を使い手として選んだという事なんだろうな」

 

 

「壮也さん……」

 

 

「それじゃあ、藤乃が扱いやすい様な鉄扇を作らせてもらうよ。白蓮はもう決めたのか?」

 

 

「あー……。決めたんだけど、な……」

 

 

 壮也の問い掛けに白蓮は言い淀む様な返答をした。それに壮也が首をかしげていると、白蓮が手にして持ってきたのは彼女自身が使い慣れている様な長剣と、柄が短く穂先が円錐状になっている鉾だった。

 

 

「いや、初めは使い慣れている事も考えて長剣にしようと思ったんだけどさ……何だかこの鉾が目に留まってさ。気になってしょうがなくて手に取っちゃったんだよ。はあ……優柔不断にも程があるよな。ところでこの鉾はなんて言うんだ?こんな形状をした鉾なんて見た事も無いんだけど」

 

 

「それは『錐鉾』って言う長柄の武具の一つさ。錐って言う言葉が入る様に文字通り『突き貫く』事に重点を置いた武具なんだ。地上で振り回す事も出来るけど、本来の用途は騎乗してからの吶喊だな。柄が短いのは下馬して地上で使用する事を考えた為で、突撃したままで構えているだけでも五胡の戦士が纏っている様な毛皮の鎧ぐらいなら平気で貫けるんだ。漢で見られる甲冑にも十分通用するけどな」

 

 

「そうなのか?それなら……でもなぁ」

 

 

 壮也の説明に白蓮は思わず耳を貸そうとしたが、腰に差していた自身の愛剣に目をやった後悩ましいという感じの表情になった。

 

 

「私はこの剣を手に鍛錬に明け暮れ、戦いに身を投じて来たんだ。壮也の言う事が正しいのならこの錐鉾と言うのはとても強いんだろうけど……だからと言って長年使い続けてきた剣からこの錐鉾に乗り換えるというのには抵抗があるんだよな」

 

 

 白蓮がそう呟くのを聞いた壮也は顎に指を当てて考え込んでいたが、やがてこう切り出した。

 

 

「……なら二つの武器を扱う修練をしてみたらどうだ?」

 

 

 この言葉に、白蓮は呆けた様な表情になり、呆けたような答えをした。

 

 

「な、なに?」

 

 

「何も一つしか武具を使ってはいけないという決まりとてないんだ。寧ろ扱える武具が多いというのはそれだけ選択肢が増えるという事にもなるしな」

 

 

「け、けれど勝手の違う武具を使いこなすのは相当な修練を要するぞ?」

 

 

「白蓮、お前は自身を凡将だって前も言ってただろうけど……俺には凡将という事は『文武、いずれにも欠ける事無く磨く事が出来る』と言う事になる、つまり武人としてはとても理想的だと思うんだ。そしてそれは武具の扱いにも言えるんだが、確かに一つの武具を極限まで磨き上げる事は武人として当然かもしれないが、それは裏を返せば『使った事の無い武具はまるっきり使えない』ともいえる事だ」

 

 

 そう言って壮也は並べられている武具の中から戟を手にして庭の真ん中まで移動すると、それを使った演武を行い始めた。薙ぎ、払い、斬り上げ、振り下ろす……壮也が行うその一つ一つの動作がいずれも磨き上げられているばかりか戟と言う、使い慣れている戦斧とは使い勝手の違う武具にも拘らずそれを十全に使いこなしている。それを白蓮や藤乃達は感じ取っていた。

 

 やがて一通りの演武を終えた壮也は戟を並べていた場所に戻してから二人の元へ戻ると白蓮に切り出した。

 

 

「今見せた様に、俺は自分が作った武器は全てを使いこなせるように修練を重ねてきた。……何でこんな事をするのかって顔をしているな?答えとしては至極単純な事さ。戦場で武器を取り落としたり、破壊された場合に可能な限り無手にならない為にね」

 

 

「無手にならない為……」

 

 

「だからこそ壮也さんは種類の違う武具を使いこなせるように鍛錬をしてきたというのですか?」

 

 

 白蓮が一つ一つ言葉を確かめる様に呟く一方で藤乃が確認をするようにして問いかけると、壮也も頷きながら答えた。

 

 

「ああ。無手で戦う鍛錬をしているのなら、無手での戦いに慣れている者ならまだしも殆どの武人と言うのは何かしら手に武具を持って戦う者だ。戦場では何が起こるかなんて分かった物じゃない、例えば……戦闘中に自分の武具を取り落としてしまったという事だって起こりえないとは限らないだろうし、相手の攻撃で武具が壊されたりすることだってあり得ない話じゃない」

 

 

「だからこそ、それ以外の……使った事の無い剣や刀と言った武具を使いこなせるようにする必要がある。相手の追撃を回避しながら武具を拾い、それで戦いを続行する為にね。さっきも言ったけど、平凡と言うのは武人としてはある意味で理想的だと俺は思ってる。ここまでの会話で言うのならば平凡という事は『使い勝手の違う武具を手にしていても、鍛練次第で使いこなせる』という事にもなると俺は思うんだ」

 

 

「使い勝手の違う武具を手にしても、使いこなせる……平凡って事はそれを可能にするとでも壮也は言いたいのか?」

 

 

「その通りだ。確かに白蓮の言う様に『一つの武器の扱いを極め抜く』という事は武人としては正しいかもしれない。けどそれは裏を返せば『それ以外の武具を手にしても十全に戦う事が出来ない』という事の証左でもある。逆に使い勝手の違う武具を使いこなす鍛錬をするという事は白蓮からすれば『器用貧乏』という事にもなるだろうけれど、それは裏を返せば『様々な選択肢を取れる事が可能になる』事にもなる」

 

 

「そう、なのか?」

 

 

 自分にとって忌むべき物と思っていた『凡庸』と言う物がまさかここまで賞賛されるとは流石の白蓮も予想だにせず戸惑いを隠せなかったが、壮也は構わず話し続ける。

 

 

「そうだろう?長柄の武具と言うのは必然的に一対多の戦いで複数を相手取れる武具でもあるし、刀剣を得物として使う相手に対しては剣の間合から離れた所から攻撃が出来る。剣の場合は振りの速さと手数の多さを武器にして戦えるだけじゃなく、小回りが利く事から長柄の武具を使う武人と戦う場合その懐に張り込むなんて事も可能だ。そしてこれらを使いこなして、二つの武具を状況に応じて取り替えながら戦ったらどうなるか?多分一つだけの武具を使いこなす武人にしてみればやりにくい相手と思うだろうね。何せ戦闘中に武具を持ち替えられちゃ間合や戦法とかがガラリと変わるんだから」

 

 

「それと武具を持ち替えて戦うという点で忘れちゃならないのが武具の持つ欠点を理解する事だ。刀剣の場合は間合が狭い事であり、錐鉾などの長柄の武具は間合と引き換えに振りの遅さが挙げられる。そして何より一つの武具を使いこなす武人にしても武具を持ち替える間隙を突く、なんて事をするだろうから。そこは鍛錬をし続ける必要があるけれど、白蓮なら俺は大丈夫だと思うんだ。己の非力を理解しつつも、努力を惜しまず鍛錬をし続けた君なら、さ」

 

 

 壮也の指摘に白蓮は黙して聞いていたが、やがて不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

 

「そうか……最後は何と言っても鍛錬か。いいさ、鍛練をするなんて私にとっては息をするようなものだ。ならとことん極めてやるさ。……壮也、じゃあお前に任せる。いい武具を作ってくれ」

 

 

「私のもお願いしますね」

 

 

 白蓮と藤乃が頭を下げると、壮也も拱手をしてこれに応えた。

 

 

「承知した。俺の全霊を以て二人の為の武具を作らせて頂こう」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そして一ヶ月後、壮也は自らの手で製作した武具を風呂敷に包んで刺史である藤乃の館へと参じた。

 

 

「白蓮、藤乃。待たせてすまなかった」

 

 

「壮也か!その様子だと……私達への武具が出来上がった、と見ていいのか?」

 

 

「す、少し緊張してしまいますね……『名器の作り手』と呼ばれた徐岳殿の息子である壮也さんの作った武具、果たしてどれほどの物なのか。では、みせて貰えないでしょうか?」

 

 

 藤乃の催促に、壮也は満足げに頷くと持ってきた三つの風呂敷を均等に並べ、そしてその封を解いた。そこから姿を見せたのは……青白い穂先に先端と中間部分、そして刀剣ほどの長さの柄にほど近い笠状の鍔には黄金の装飾が施された錐鉾と幅広の刀身を持ち、一切の装飾が施されていない質素な長剣。そして親骨(大外の骨組)を鉄製にし、その上から黄金の装飾で加工した鉄扇が置かれていたのである。

 

 

「錐鉾の銘は『聖槍舶来鋼(せいそうはくらいこう)』、長剣の銘は『護衛隊士(ごえいたいし)(ほまれ)』。そして鉄扇の銘は『天宮扇(てんきゅうせん)』と名付けてある。是非とも手に取って欲しい」

 

 

 壮也がそう言葉をかけると、その武具の出来栄えに目を奪われていた二人は思わず体をびくつかせたがやがてそれぞれ置かれた武具の前に近づくと、それらを手に取った。

 

 

「……ああ、とても素晴らしい出来だ。特に長剣は私が愛用していた剣と同じくらいの軽さじゃないか。それに錐鉾にしても程よい重さだよ」

 

 

 白蓮が長剣や錐鉾を持ち替えながらそれぞれの武具に満足する一方、藤乃は手に取った鉄扇を広げてみた。そこには蒼く染められた短冊を張った扇面があり、またその出来栄えに目を奪われた。

 

 

「まあ……!鉄扇とは思えぬほどに軽いです。それに装飾にしても華美過ぎず、無骨過ぎない。ありがとうございます壮也さん、これほどの武具を送ってくださった事、感謝に堪えません」

 

 

「いや、こちらも咎人である俺を危険であると承知で匿ってくれた二人への感謝を示したいと思っただけさ。鍛冶師として……二人にはその武具を大切に使ってほしい」

 

 

 壮也の言葉に、二人は力強く頷いた……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それから壮也は街中を巡りながら暫しの休息を過ごす一方で白蓮や藤乃らに進呈した武具の使い方を教授したり、白蓮の鍛錬の相手を務める日々を送る事になった。中でも白蓮の成長ぶりは目を瞠る物があり、見る見るうちに扱いの違う錐鉾を扱えるようになり、それを使用した場合壮也とも渡り合えるほどに成長したのである。

 

 

 また藤乃も政務を終えた傍らに白蓮と共に鍛錬に参加し続けた事で、鉄扇の扱いを会得する事が出来た。これに藤乃は文官肌の自分が武技を会得できた事を心から嬉しく思い、壮也に対して深く感謝を述べ続けた。そして二週間経った頃……壮也は薊の城門前で黒風(ヘイフォン)に跨っており、その傍には白蓮と藤乃らがいた。

 

 

「壮也、もう行ってしまうのか?このまま逗留し続けてくれてもいいんだぞ?」

 

 

「ええ、白蓮さんの言うとおりです。漢の宗室である私の力なら貴方をこのまま匿い続ける事だって出来るんです。なのにどうして旅立つなど……」

 

 

「藤乃、君の心配りを無碍にするのは俺だって気が退けるよ。けれど、俺はもっとこの中華の大地を巡り歩きたい。諸国にいる様々な人物と出会い、そんな彼らと交わりたい……そんな風に思ってるんだ。まあ、お尋ね者になっている自分が言える事じゃないけどさ。それにこれ以上この地に居続けていれば朝廷の追及が必ず二人に伸びてくるはず。それで迷惑をかけてしまう位なら、俺は君達の為に身を引くつもりだ。だから済まない、君の厚意を断る真似をしてしまって」

 

 

「……いいえ、壮也さんがそう決めたのであれば私からは何も言いません。でしたらこれを受け取ってください」

 

 

 そう言って藤乃が壮也に手渡したのは……金子の入った袋だった。

 

 

「これは……」

 

 

「些少ではありますが私財を切り詰めて作った金子です。何かしら物入りになるかもしれませんから、どうかお持ちください。そして出来得るのなら、またこの薊に赴いてくださる事を祈っています」

 

 

「壮也!お前の激励、私は決して忘れない。また会う時には、もっと強くなろうと思う。技量だけでなく、心も強くなる事を誓うよ!!」

 

 

「藤乃……ご厚意感謝する。そして白蓮、頑張ってくれ。今のお前ならきっと強くなれる、そう信じてるよ……行こう、黒風(ヘイフォン)!」

 

 

 二人に別れを告げた壮也は手綱を打つとまるで一陣の風の様に駆け去って行った。白蓮と藤乃は彼の後姿が見えなくなるまで門前に立って眺め続けたのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それから一週間ほど経った時の事である。いつもの様に藤乃と白蓮は共に執務作業を行っていると、一人の衛兵がある知らせを持ってきた。その衛兵は白蓮の前に傅いて発言をした。

 

 

「私に会いたい人がいるって?」

 

 

「はい。盧植殿の元で同門だった劉備と言う者らしいのですが……」

 

 

 だが衛兵はそこまで言うと、そのまま黙り込んでしまったのである。これに藤乃が怪訝な表情をしながら問いかけた。

 

 

「如何したのですか?白蓮さんの同門が来たというのに言葉を濁して……何かあったので?」

 

 

「それが…公孫瓚様の真名を知っている様なのですが、その……」

 

 

 そこまで言うとまた黙り込んでしまったのを見た藤乃は急に不快感を浮かべてしまった。藤乃自身、あまり他者に対して不快感を示す事は無い。寧ろ誰が相手であろうと、それが咎人であろうとも真摯に接しようとする人物なのだが、今回白蓮に会いに来た人物と言うのは会う前から不快感を覚えるような人物なのか……そう思ってしまうと益々不快感を覚え、顔をしかめる様になったのである。

 

 

 一方白蓮は見て分かるほどに不快感を露わにし出した藤乃を見て慌てて衛兵にその者達を謁見の前に連れてくるように命じて退出させると、藤乃を宥め始めた。

 

 

「お、落ち着いてくれ藤乃。あいつは……桃香はそこまで悪い奴じゃないんだ」

 

 

「そうですか?……白蓮さんがそう言うのであれば会ってはみますが」

 

 

 そうして機嫌を直した藤乃を連れて白蓮は謁見の間へと向かったのだが……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あっ!久しぶりだね、白白(パイパイ)ちゃん!!」

 

 

 謁見の間に足を踏み入れて最初に響いてきた言葉がこれである。この言葉に対し白蓮は引き攣った笑みを浮かべながらこれに応える一方で、藤乃はまたも不快感を露わにする。そんな彼女の想いに気づいていないのか桃色の長髪に空色の瞳を持つ、大らかな雰囲気を醸し出す顔立ちをした少女が笑顔を振りまきながら白蓮に近づいてきた。

 

 

 その後ろには赤の短髪に紫色の瞳、虎を思わせる髪留めをした小柄な少女と水色のミドルヘアーに紅色の瞳を持ち、飄々とした雰囲気を纏った少女。そして()()()()()と琥珀色の瞳を持つ、凛々しさを漂わせる風貌の少女が立っており、二人の出会いを眺めていた。

 

 

「よ、よお桃香(トウカ)。久しぶりだな……えっと、その」

 

 

「あれ?どうしたの白白ちゃん?何だか顔色悪いよ?具合でも『ちょっとよろしいでしょうか?』ふえっ?」

 

 

「私は幽州の刺史を務める劉虞と申します。劉備さん、貴方はここにいる伯圭さんと同じく廬植殿の元で学問に励んだと聞き及んでいますが……本当に貴女は彼女の同門なのですか?」

 

 

 藤乃の淡々とした言葉に桃香は戸惑いながらもこれに応えた。

 

 

「は、はい!私と白白ちゃんは風鈴先生の元で一緒に学問に励んだ学友なんですよ!?それがどうし『白蓮(パイレン)です』………えっ?」

 

 

「伯圭さんの真名は『白蓮(パイレン)』って言うんです。まさか、貴女ご学友の真名を間違えて覚えていたという事に気づかなかったんですか?」

 

 

 藤乃の痛烈な批判に謁見の間には気まずい空気が流れ始める。そしてその原因を生んだ少女は……。

 

 

「……え、えっと。あはは……」

 

 

 乾いた笑い声しか出なかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 その後談話室に移った彼女達だが、その直後桃香は白蓮に対し土下座をしかねないほどに頭を下げて謝罪し始めた。

 

 

「ごめんなさい白蓮ちゃん!!その、真名を間違えたまま覚えちゃって……」

 

 

「ああ別にいいって。……藤乃も機嫌を治してくれよ?桃香だって悪気があった訳じゃないんだからさ」

 

 

「『悪気があった訳じゃない』……ですって?白蓮さん、ここは怒って当然な所なんですよ!?そもそも真名を間違えて覚えるという時点で礼節と言う物が欠落している証です!!まして学問に励んでいる間に他の人が白蓮さんの事を呼ぶ時に彼女の真名が違うという事に気づいて然るべきでしょう!?なのにそれに気づく事無く間違ったまま覚え続けるなんて……はっきり言って人としてなっていません!!!」

 

 

 藤乃は湧き上がる怒りを抑える事もしないで白蓮の意見に返答をしていた。だがそれも当然だろう、何せこの世界における『真名』と言う物はその人間の本当の名前と言える代物だ。それを正しく覚えるのは相手に対して当然の礼儀であり、それを間違えて覚えるというのは相手に対してとんでもない無礼と言える行為なのだ。

 

 

 藤乃にとって白蓮は凡人である己自身を受け入れながらも、決して努力を惜しまない人物として好意を以て接する人物なのだ。そんな彼女と同門でありながら彼女の真名を間違え、尚且つその間違いを正さないできた桃香に対し、藤乃が嫌悪感を持ってしまうのも自明の理、と言う物なのだから。

 

 

「あうう……」

 

 

「お姉ちゃん、大丈夫なのだ……?」

 

 

「まあ、この場合は桃香殿の方が非は在ろうな。劉虞殿の非難も最もだろうよ」

 

 

 藤乃の畳み掛ける様にして起こる非難に対し、桃香は返す言葉も無く俯いてしまい、赤髪の少女はそんな彼女に対し必死に慰め、水色の髪の少女は自分が付いて来た少女の方に非があるとして眺めていたが、やがて黒髪の少女が劉虞の元に近づくと、拱手をしながら礼をして切り出した。

 

 

「恐れながら劉虞殿、宜しいでしょうか?」

 

 

「思いますけど白蓮さんは人が良すぎるんです!!ここは厳しく……あ、あら?貴女は……?」

 

 

「挨拶が遅れました、私はここにおられる桃香様の郎党の一人として行動している者。姓は関、名は羽、字は雲長と申します。劉虞殿、貴方の憤りは至極最もでしょう。現に桃香様は……あの様な天然な御仁ですから」

 

 

「「(えっ……?)」」

 

 

ーぐさっ!

 

 

「あうっ!?」

 

 

 関羽の名乗りに白蓮と藤乃らが内心で驚く一方、関羽の放った言葉が余りにも痛烈であった事から心に傷を受けた桃香の悲鳴をよそに、関羽はさらに続ける。

 

 

「ですが、桃香様に悪意があった訳ではありません。公孫瓚殿の真名を間違えた事にしても……そこの所をどうかご理解いただければと思っています。水に流してほしいとは言いませんが、どうか怒りを静めて頂ければ幸いです」

 

 

「ああ、分かっているよ。なあ藤乃、関羽もこう言ってるんだしそろそろ機嫌を治してくれよ、な?」

 

 

「そう、ですね。貴方の意見も最もでしょう……分かりました、ここで矛を治めましょう。ですが劉備さん?この様な事が二度と無い様に、よくよく肝に銘じておきなさいね?」

 

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 

 藤乃の許しが得た事に桃香は満面の笑みを浮かべながら頭を下げた。そして椅子に座るとそれぞれに自己紹介を始めた。

 

 

「あ、改めまして姓は劉、名は備、字は玄徳と申します!幽州は涿(たく)郡涿県、楼桑里の生まれです!それでこっちにいるのは義妹の……」

 

 

 そう言って劉備が彼女達の方に向いて声をかけると、赤髪の少女が元気よく声を上げた。

 

 

「鈴々は張飛って言うのだ!宜しくなのだー!!」

 

 

 そうして張飛……鈴々があいさつを終えると、その隣にいる水色の髪をした少女が拱手をして名乗りを始めた。

 

 

「お初にお目にかかる、劉虞殿。私は趙雲、字は子龍と申す者。流浪の武人として諸国を巡っていましたが、ここにおられる劉備殿の客将として暫し行動を共にする事になった次第です」

 

 

 張飛に続いて水色髪の少女、趙雲も自己紹介をすると最後に残った黒髪の少女……関羽が自己紹介を行った。

 

 

「改めまして、関雲長と申します。桃香様や鈴々、星共々、よろしくお願いいたします」

 

 

「こちらこそ宜しくお願いします。……関羽さん、こうしてお会いできた事を私達は嬉しく思っています」

 

 

「えっ……?」

 

 

 藤乃の言葉に関羽は戸惑うような声を出したが、その直後に掛けられた白蓮の言葉でその疑問は氷解した。

 

 

「お前なんだろう?()()が咎人になってまで護ろうとした人って言うのは」

 

 

 白蓮の言葉に関羽は先ほどまでの冷静さをかなぐり捨てて、白蓮に問いかけていた。

 

 

「っ!??壮也を……壮也を知っているんですか!?」

 

 

「知っているさ。暫くこの地に逗留していて、私達に武具を送ってくれたんだからさ」

 

 

 関羽の問い掛けに対し白蓮は腰に差していた自身の新たな愛剣となった『護衛隊士の誉』を鞘から引き抜くと、鍔の部分に近い刀身の峰を彼女に見せる様に差し出した。そこには十字を思わせる刻印が彫られているが、関羽はこの刻印を見た事があった。関羽は懐に仕舞っていた護り刀を取り出すとそれを鞘から引き抜く。

 

 

 その護り刀の持ち手に近い刀面にも、白蓮の愛剣と同じ様に十字の刻印が彫られていた。この刻印こそ、壮也が自ら作り出した武具に付ける目印である事を改めて認識した彼女はその場に崩れ落ちて落涙し始めた。

 

 

「そうか……壮也が、ここに来ていたんだな。壮也は、生きていたんだな……よかった。よかった……」

 

 

 自身の想い人がここに逗留していた……その事を知る事が出来た関羽は人目を憚らずに涙を流し、藤乃と白蓮はそんな彼女を慰めていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 壮也の消息を知る事が出来た関羽は藤乃らに道中の出来事を話し、劉備は自らの成し遂げたい理想を語るが藤乃はそんな彼女の理想の欠点を挙げて彼女を叱責する。一方幽州を離れた壮也は冀州の鉅鹿郡と言う土地に辿り着き、そこで様々な土地を巡り歩く旅芸人の姉妹と出会うのだが……続きは次回のお楽しみ。

 

 




 ここまで読んで頂きましてありがとうございます!とにかく更新速度を速めようとは思いますが、仕事などもあるので気長に待っていただけると嬉しいです…。今回登場させたオリジナル武具は次の通りです。

『護衛隊士の誉』・・・ドラック・オン・ドラグーン1に登場したロングソード。回復魔法を使用できる事から私としてはかなり扱いやすい武具の一つとして重用していました。

『聖槍舶来鋼』・・・戦国無双シリーズの三作目である『戦国無双2』から登場した『浅井長政』の使用武具。彼のストーリーはIF要素があって面白かったのが印象に残っています。

『天宮扇』・・・三國無双シリーズの一つである『真・三國無双6』から登場した武具系統の一つ『鉄扇』の三品目。攻撃力は低い物の攻撃速度が速いのが特徴。

 これからも多彩な武具が登場すると思うので後書きでそれらを紹介しようと思います。では、また。
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