真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

24 / 43
 お待たせしました…最新幕投稿です。


勇士、窮虎を救い。窮虎、狩人を仕留めんとす。

 そうして戦端は開かれた。黄祖らが立て籠もる簡素な砦に猛然と襲い掛かる孫堅軍に黄祖軍の兵士達が必死に弓矢を放ち始めるのだが、さながら檻から解き放たれた猛虎と言うべきほどの勢いで突撃してくる孫堅軍には焼け石に水…と言う有様だった。

 

 

 何より、その先頭には孫堅軍の主である孫堅自ら剣を手に馬を駆けさせているのだ。主君に後れを取ってなるものか……まるで孫堅軍将兵にそんな思いが宿っているのか、将兵らは矢が肩に突き立っても恐れる事無く城壁に梯子を掛けたり、力自慢と思われる数人の兵士らが太い丸太を抱えながら城門にぶつかり、これを破ろうとしていた。

 

 

「おらあっ!もっと力を入れろ!!こんなちっぽけな砦なんて、とっとと叩き落とすぞ!!」

 

 

 孫堅の檄が飛ぶ度に将兵らの歓声が響き渡り、頑丈に作られている筈の城門も次第に鈍い音を出しながら軋み始めていた。それを程普は兵士達に指示を飛ばしながら、黄蓋は城壁から身を乗り出して矢を放とうとしていた兵士を自身の弓矢で射落しながら横目で見ていた。

 

 

「やれやれ、さすがは堅殿と言うべきか。こうも兵士達の戦意を引き上げてみせるとは」

 

 

「本当にね…正直、私達と戦っている黄祖軍の兵士達が気の毒に思えて来る位よあれ?」

 

 

「そうじゃな…おっと」

 

 

 程普の同情じみた言葉に黄蓋が相槌を打っていると、彼女の目に孫堅に向かって飛んでくる一本の矢が見えた。恐らく流れ矢と思われるそれは、そのまま猛然と飛んでいっており普通ならばその光景に慌てて主君を護ろうとするのだが、二人はまるで他人事の様に動こうとしなかった。

 

 

 だが一見薄情と思われるかもしれないが、二人は孫堅が流れ矢ごときで斃れる様な人物ではない事を知っていたのである。彼女であれば流れ矢を手にしている南海覇王で切り落とす事も容易いだろうし、何より彼女が手を出さずともその流れ矢は……。

 

 

 いつの間にか孫堅の傍まで馬を寄せていた真紅の軽鎧を纏っている祖茂…千冬が、手にしている二振りの刀身に火打石が付いているという特異な形状をしている大刀で切り落としていたのである。

 

 

「…大殿、ご無事で?」

 

 

「はっ!お前が出てこなくてもあんな流れ矢ごとき、オレが切り落としていたぜ?まあ、礼は言っておくぜ千冬。さて…そろそろだな」

 

 

 孫堅が呟いたのと同時に丸太を叩きつけていた城門がとうとう破壊され、雪崩れ込もうとする孫堅軍の兵士達とそれを阻もうとする黄祖軍の熾烈な戦闘が始まった。だが…やがて戦闘の経過を見守っていた孫堅の目に映った物があった。

 

 

 それは孫堅達が攻め込んでいた砦の門とは別の門から、副官と思われる文官の装束を纏った初老の男性と僅かな手勢を率いてどこかに行こうとしている…手に弓を持ち馬上の人となっている黄祖その人であった。

 

 

「見つけた…見つけたぞ黄祖おおおおおおおお!!!てめえどこに行こうとしてやがる!この期に及んで逃げようなんて、虫が良すぎるってものだぞ!!」

 

 

「くっ、相も変わらず獣じみた勘の良さだな孫堅め…!生憎これ以上貴様と戦うのは真っ平ごめんなのでな、ここで逃げさせてもらう!私の首が欲しいのならば来るがいい!」

 

 

 そう捨て台詞を吐いた黄祖は手勢を連れて戦場から離脱していく。それを見てただちに追撃しようと声を張り上げようとした孫堅に黄蓋らが静止を呼びかけた。

 

 

「大殿待ってください!黄祖の奴がこうもあっさりと逃げの一手を選ぶなんて何かがおかしいです!」

 

 

「左様ですぞ堅殿!ここは本陣におられる雪蓮様や真耶らに一報を入れるべきじゃ!」

 

 

 だが二人の諫言も孫堅は首を縦に振ろうとしなかった。

 

 

「駄目だ!ここであいつを逃がす事になればまたあいつに悩まされる事になる!将来の禍根、ここで絶たないでいつ絶つってんだ!?」

 

 

「大殿……」

 

 

「堅殿…」

 

 

 その悔しさの籠った言葉に程普と黄蓋が返す言葉もなく黙るのを見た孫堅は、もう一人の古参の臣に問いかけた。

 

 

「…千冬、お前も二人と同じ意見か?」

 

 

 だが…問いかけられた千冬は瞑目をしていたのだが、やがて予想を裏切る発言をした。

 

 

「……いいえ、大殿の決断も一理あるかと。ここで黄祖を逃がせば、奴は力を蓄え再び我らに牙をむくでしょう。しかし今の奴は僅かな小勢しかおらぬ敗軍の将……今こそ黄祖を完膚なきまでに討つべきだと私は思います」

 

 

「千冬!?お主何を言って…!」

 

 

「そうよ千冬!貴女だって黄祖の撤退をおかしいって思うでしょう!?もし罠だったら……『ならば私の身命を賭して救うだけの事』っ!?」

 

 

「粋怜、祭。私もお前達と同じ孫呉の臣、主君の窮地を己が命を以て救えるのならばこれに勝る喜びはない。……なに、むざむざ死ぬつもりはない。罠があるのであればこれを噛み破り、主君と共に戻ってくるさ」

 

 

 千冬の毅然とした宣言に祭と粋怜は言葉を喪い、逆に孫堅は痛快とばかりに満面の笑みを浮かべていた。

 

 

「は…ははははは!!!そうだ、そうだったな千冬!お前は昔からそうだった!オレが敵に向かって猛然と進もうとすれば祭や粋怜が諌めるのとは逆に、お前は黙してオレの傍に寄り添い共に死山血河を潜り抜けてきた!……主君である俺を、護る為にな」

 

 

 孫堅の言葉に、千冬は微笑みながら頷いた。

 

 

「それこそ臣の務めと思うが故に。では大殿、参りますか?」

 

 

「…ああ。行くぞ千冬、今こそあの黄祖を完膚なきまでに討ち倒す!祭、粋怜!お前らは城を制圧し、態勢を整えてから合流しろ!残りの者達はオレに続け!」

 

 

 そう咆哮した孫堅に彼女の手勢の将兵は一際大きな歓声を上げてこれに応えた。そして孫堅率いる100の軍勢は黄祖に追いつかんと駆け出し始めた…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それからほどなくして…孫堅らは黄祖率いる手勢が峴山と言う山のひそみに向かっていくのを補足し、続いて行ったのだが…突入したその場所は鬱蒼とした森を抜けた先、切り立った崖が左右に聳え立ちその間に道が走っているという光景になっていた。やがて唐突に千冬が孫堅の傍に馬を寄せて声をかけてきた。

 

 

「…大殿。この一帯からは罠の気配が感じ取れます。やはり…」

 

 

「はっ、考えている事は同じだったってこった。あいつもオレを殺したくてたまらなかったみたいだな…出てきな黄祖!」

 

 

 孫堅が呼びかけると、それに応える様に彼女達の視線の先に広がる暗闇に明かりがつき始める。それは一つだけだったかと思うと数が増えていき、やがて一軍程の規模に松明が煌々と照らされた。そして、松明を手にしている兵士達が二手に分かれたかと思うと、その奥から彼らを率いる人物が現れる。

 

 

 その人物こそ、孫堅にとって自分自身を幾度も無く付け狙い、そしてこの戦いにおいてお互いにけりをつけようと狙い続けた怨敵…荊州牧である劉表に仕える武将、黄祖であった。

 

 

「ふん…孫堅よ、随分と血気盛んな事だ。分かっているのか?貴様らはすでに危地にいると言うのに…」

 

 

「はっ、寝言は寝てから言いやがれ黄祖?オレを危地に誘い込んだぐらいでもう勝ったつもりかよ?随分と見通しが甘いこったな」

 

 

「…なら、これでも大言壮語がほざけるか!!」

 

 

 そう叫んだ黄祖が片手を振り上げた瞬間、孫堅らの後方から何か重い物を転がり落とした様な音と地響きが同時に響き渡る。その音を聞いた孫堅が率いていた手勢の兵士の一人が後方に駈け出して行ったが…程なくして駆け戻り千冬の前に畏まって報告をした。

 

 

「申し上げます…!我々の後方が落石によって塞がれました!我らは…退路を、喪った模様です」

 

 

「そうか…っ!大殿っ!!」

 

 

 悔しそうに顔を歪めている兵士の報告を受けて重々しく頷いた千冬だったが、突如として叫んで愛馬からとび上がると空中で手にしている双刀を振るい、孫堅に放たれた複数の矢を切り落とした。そうして地面に降り立った千冬が殺気を込めた視線で周囲を見回すと、彼女らの左右に聳え立つ崖の上に複数の人影が現れ、そしてそれらは何れも弓矢を引き絞って自分達に狙いを定めていたのである。

 

 

 それを見て黄祖の傍に現れた初老の男性…黄祖の腹心として行動していた蒯良が呵呵大笑して呼びかけた。

 

 

「はっはっは…!!孫堅よ、幾ら貴様が猛虎と称されるほどの勇を持とうとも……もはやここは貴様と言う虎を囲い込んだ檻も同じよ!!前もって潜ませておいた300の兵が放つ矢の雨と投石を以て…ここに屍を晒すがいい!!」

 

 

 しかし、呼びかけられた当人である孫堅はと言うと……何ともないと言うかのように欠伸をこいていた。そして副将である千冬もまた不敵な笑みを浮かべて馬上の人になっている。

 

 

「………舐められたものですな、大殿」

 

 

「全くだな…おい黄祖の副官の老いぼれ、てめえ()()()程度の罠でオレ達を追い詰めたと思ってんのか?だとしたらとんだ見当違いだぜ?」

 

 

「な、何ぃ…!?」

 

 

 孫堅の嘲笑に蒯良が怒りを見せるも、孫堅は構わず黄祖にも言葉を投げかけていた。

 

 

「はん、黄祖…てめえも詰めが甘くなったじゃねえか?まさかこのオレを、危地に誘い込んだ上に退路を断って矢の的にすればオレを討ち取れる…そう思ってんのか?オレと干戈を交え続けて来たくせに随分と見通しが甘いこったな?」

 

 

「ほお…?」

 

 

「……獣ってのは追い詰められりゃあ各上の獣すら噛み殺すんだぜ?それこそ鼠が猫を噛み殺すようにな…黄祖、てめえの前にいるのは『江東の虎』なんだ…つまり何が言いてえのかって言うとな、お前をぶっ殺した後に罠を噛み破って生還してやろうって事だ!!!」

 

 

 そう言い放った孫堅から凄まじい殺気と怒気が解き放たれる。それに黄祖の手勢は途端に気圧され後ずさってしまい、黄祖も顔を歪めて冷や汗を流した…。それとは反対に孫堅は配下に檄を飛ばす。

 

 

「いいかてめえら!!オレ達は今危地にいる!退路はすでになく、頭上からオレ達を射竦めようと黄祖の手勢が狙っていやがる!だが…それがどうしたってんだ!?今オレ達の目の前には敵の大将である黄祖がいる!ここであいつを仕留めちまえば、それで戦は俺たちの勝ちになる!!だから選べ!この場でただ奴らの的となってむざむざ殺されるか、それとも目の前にいる黄祖を殺しこの戦に勝つか!!」

 

 

 孫堅の檄は狭い谷間に響き渡る。その後暫しの静寂が流れたが……やがて孫堅の軍勢側からひときわ大きな歓声が轟き始め、同時に兵士達は手にしている武器を高々と掲げたのである。

 

 

「皆、大殿と共に()く覚悟は出来ているようです。大殿…否、炎蓮(イェンレン)様。我らに指示を」

 

 

「ああ…行くぞてめえら!!目指すはオレ達を追い詰めて勝ったつもりになっていやがる、勝ち誇った笑みを浮かべている黄祖!!脇目も振らず、矢が飛んで来ようと構わず突き進め!!全軍……突撃ぃ!!!」

 

 

 そう言い放ちながら馬上の人である孫堅…炎蓮が南海覇王を振り下ろすと共に馬を走らせると、同じく馬上の人であり双刀を構える千冬。そして孫堅に付き従っている手勢の者達は、馬上の人となっている者は馬を走らせ、徒士の者は其々に矛や朴刀、剣と楯を構えながら突貫し始める。

 

 

 これに対し黄祖の手勢は途端に腰砕けになってしまう。罠にかける事で圧倒的優位な状況に自分達は立っており、あとは罠にかかった孫堅とその手勢をゆっくりと料理するだけ……そう思っていたのに蓋を開けてみると、追い詰められている側にいるはずの孫堅()達は逆に猛々しく咆哮をしたかと思うと、追い詰めている側の黄祖(狩人)達を食い殺そうと襲い掛かってくるのだ!

 

 

 これで迎え撃とうと言うのははっきり言って酷としか言いようがないだろう。すでに勝ったと思っている黄祖の軍勢と、この状況を打破しなければ死が決まっておりそれを打破しようと遮二無二攻め懸かってくる孫堅の軍勢……二つの軍勢の違いは『決死の覚悟』があるかないか。その点でいえば孫堅の軍勢には『覚悟』があり、一方の高祖の軍勢には『覚悟』が無くなっていたのである。

 

 

「ちぃ…!狼狽えるな!!向かってくるのならば針鼠にしてくれる!!蒯良!!」

 

 

「ぎょ、御意!!呂公将軍、お頼み申す!!」

 

 

 舌打ちしながらも黄祖は部下を叱咤して迎撃を指示する一方で、黄祖の呼びかけに面食らいながらも答えた蒯良が、兵士が持っている松明をひったくってそれを円を描くように動かす。それを合図に崖の上にいる別働隊の者達が矢の雨を降らせ、孫堅達を全滅させる…!!

 

 

ーはずだった。

 

 

「………ああああああっ!?」

 

 

 その瞬間、崖の上から悲鳴と共に何かが転げ落ち、馬を走らせている孫堅の眼前に叩きつけられる。それを見て思わず孫堅は手綱を引いて馬を止めてみると、そこには高い所から落とされる事によって見るも無残な死にざまとなっている黄祖軍の兵士の亡骸が転がっていたのである。

 

 

 それを見て黄祖や蒯良はおろか、炎蓮や彼女に追いついた千冬らも目を疑う。その時崖の上の方がにわかに騒がしくなる。孫堅が崖の方に目をやると、彼女から見て左側の崖から幾人かの兵士が何かに弾かれるようにして吹き飛び、そのまま谷底…即ち自分達の方に堕ちて来るのだ。

 

 

「なっ…何が、起きている…!?」

 

 

 その光景に黄祖は自分の見ている物が信じられなかった。本来なら蒯良の合図が送られた時点で孫堅らに矢の雨が降り注ぎ、それにより因縁の相手である孫堅を討ち取れるはずだった。だが自分の目に映っているのは罠に追い詰めたにも拘らず自分目掛けて突き進んでくる孫堅とその軍勢……これはまだいいのだ。問題は彼らを射殺していくはずの自分の手勢が、二つある崖の一方側から次々と叩き落されていく事だ!それは自分と蒯良が練り上げた必勝の軍略が、何者かによって踏みにじられたという事に他ならなかった…。

 

 

 一方の孫堅も突如として自分達を射殺そうとしていた黄祖の手勢がぼろぼろと叩き落されていく光景に目を疑った。正直この様な展開は自分としては好都合と思っており、この窮地を脱する後押しをしてくれたと思う一方でいったい何者が…と言う疑問も抱いていた。

 

 

 まさか祭や粋怜が…と思ったがその考えは一笑に付した。そもそも退路を断たれた以上彼女たちが自分達に合流するには崖の方に回り込む…即ち遠回りをする必要があるのだが耳を澄ますと軍勢同士がぶつかり合って生まれる干戈の交わる音や咆哮が聞こえないのである。と言う事は、この番狂わせを起こしたのは自分の知る相手ではない…孫堅はうっすらと感じ取っていた。

 

 

 やがて、それを為したと思われる人影が姿を現した。それは黒い毛並みの駿馬に跨っている、ぼろぼろの外套と覆面を羽織った、手に大戦斧を握りしめた武将であり、その武将は眼下に広がる光景を睥睨していたが、やがて腹の底から解き放ったかのごとく、大音声を以て名乗りを上げた。

 

 

「我が名は徐寧!江東の虎と称される孫文台殿の戦ぶりを拝見せんと暫し見物していたが、かの御仁が斯様な奸計によって命を奪われんとするはあまりに不憫!故に、まことに勝手ながら……今よりこの徐芳明、孫文台殿に助太刀仕る!!」

 

 

 その一喝に両者は異なる反応をしていた。黄祖の方は敗軍の立ち位置にある筈の孫堅に対して堂々と加勢をすると宣言したその武将を呆然と眺め、一方の孫堅は意気軒昂であれど不利な状況に変わりない自分達に加勢すると宣言したその武将に不敵な笑みを浮かべて眺めた。だが、この大音声に憤りを見せた者がいた。徐寧がいる崖の向かい側にいる部隊を指揮していた呂公である。

 

 

「ぬ、抜かせ放浪者ごときが!!わが殿の宿願を邪魔した報い、受けて貰うぞ!!弓兵、あの浪人を射殺せ!!」

 

 

 そう言って呂公が手にした槍をその武将に向けながら命じるのと同時にその武将目掛けて矢が放たれていく。これにその武将は手にしている大戦斧を振り回して襲い掛かる矢を切り落としながら自身の愛馬を走らせる。そうして谷に沿う様にして暫し走らせていたが、やがて崖同士が最も狭まっている所を見つけると、その武将は猛然とそこへ馬を走らせ……。

 

 

黒風(ヘイフォン)!」

 

 

 武将が自身の愛馬の名前を叫ぶのと同時に、その黒馬は武将を乗せたまま……崖同士の狭まった、それでも橋はかかっておらず、人はおろか並みの馬でも飛び越えるのが難しい位に離れている箇所を跳躍し…そしてそのまま向かい側に着地して見せたのである!

 

 

 これには黄祖軍や孫堅軍は目を奪われた。周囲はすでに夜になっており辺り一帯が暗闇に包まれている中でその武将は躊躇もせず崖に向かって馬を走らせ…そして飛び越えてみせたのだ。それは並大抵の胆力のみならず、馬との強い信頼関係が出来ていなければ為し得ない事だろう。

 

 

 しかしその武将は息つく間もなく馬を走らせるとそのまま次の矢を放とうとしている黄祖軍に猛然と襲い掛かった。これに黄祖軍も戟や矛を手に突っ込んでくる武将を突き殺そうとするが次の瞬間、その武将はぶつかる直前で自身が乗ってきた黒馬から跳び上がったかと思った直後、手にしている大戦斧を振りかぶった状態から一気に地面に振り下ろす。

 

 

 それにより凄まじい轟音と共に地面が穿たれ、その周囲にいた兵士達はある者は手足が千切れ飛び、ある者は地面が穿たれた際に生まれた岩石などで頭を潰されたり胴体に穴が開いて息絶える事になる。だがこれはまだ幸運な方だろう…中には仲間の亡骸が吹っ飛んできて、それにぶつかった為に崖から落ちる者とていたのだ。そうした連中は例外なく、悲鳴を上げながら崖底に落ちていく事になる…。

 

 

「お、おのれぇ!!」

 

 

 次々と手勢が討たれていく光景に激昂したのか、呂公が手にしている槍をその武将に向かって突き出した。その穂先は武将の頭部に吸い込まれるようにして向かっていくが、その武将は頭部を僅かに後ろにそらす様に動かす事で穂先を躱すが、その際槍の刃が武将の顔を覆っている覆面を引き裂きその素顔を露わにした。

 

 

「なっ!?」

 

 

 その素顔を見た呂公は驚愕した。覆面の下から現れた素顔…それは三十路を超えた自分よりもはるかに年下だったからだ。年頃は17、8位だろうか?よもやこのような青年がここまでの戦いぶりを見せようとは…!?

 

 

 だがそれ以上の思考は働かなかった。呂公が驚愕に我を忘れている僅かな隙を突いたのか、青年は回転しながら大戦斧を薙ぎ払ってきたからだ。これに呂公は咄嗟に槍の柄で受け止めようと構えたのは年の功と言うべきなのだろうが…それは無駄な努力に終わった。

 

 

 青年が放った大戦斧の薙ぎ払い…それは呂公が防御に構えた槍の柄を容易く圧し折り、そのまま甲冑を纏った呂公の胴体を上下に両断し、泣き別れにして見せたのである。呂公は死ぬ間際、自分を討ち取ってみせた青年の姿を目に焼き付けながら……。

 

 

「……殿、面目ありませぬ」

 

 

 主君・黄祖への詫びの言葉を述べながら息絶えた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 呂公の死を間近で見た黄祖の手勢は途端に潰走し始める。それを得物である『鋼錬武断』を油断なく構えながら立っていた壮也であるが、完全に戦意を失って逃げ出していくのを確認して壮也は一息ついた。

 

 

「……どうやら、間に合ったようだな」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 なぜ壮也がこの場にいるのか?それは壮也が孫堅と黄祖の戦いを見物していた時まで遡る。三国志の歴史などを理解している壮也は、孫堅が黄祖との戦いで敗死するのも知っていた。

 

 

 そしてこの戦いにおいて黄祖は孫堅によって追い込まれており、この状況を打破するには孫堅自身を亡き者にするしかなくその方法も恐らく正史や演義に出て来るであろう『罠に誘い込んだ上で矢を浴びせかけるか、落石によって命を奪う』方法を取る…そう思った壮也はそれを阻止せんと黒風を走らせ、自分自身が感じ取った『嫌な気配』のする方角…即ち峴山の方に駆けつけたのである。

 

 

 もっとも駆けつけた時、すでに孫堅らは退路を塞がれ合図一つで針鼠にあいそうになっていたから流石に肝を冷やしたが…間一髪間に合い内心安堵していた。

 

 

「さて、孫堅殿の加勢には…いや、どうやら無用みたいだな?」

 

 

 そう呟きながら壮也が崖下を眺めると、その時には孫堅らが猛然と黄祖軍に襲い掛かっており、形勢は孫堅らに傾いていた。どうやら黄祖軍はこの罠に孫堅を誘い込んだ時点で勝ちを確信していたのだろうが、自分と言う存在とその活躍は計算外だったのだろう…。

 

 

「これで歴史を変えてしまった、と言う事なんだろうけど……後悔はないさ。俺は俺のやりたいようにやった、それだけの事だしな」

 

 

 壮也はそう呟きながら孫堅らの戦いを暫し見物する事になる……。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 壮也の活躍により窮地から救われた孫堅は長らく宿敵であった黄祖を討ち取ろうとする。しかし黄祖も只では討たれぬとばかりに最後の抵抗を行う…果たして最後に立っているのは?続きは次回の講釈で…。




オリジナル武将


『祖茂大栄』(容姿・性格はインフィニット・ストラトスの『織斑千冬』を参考にしました!)


 祭こと黄蓋や粋怜こと程普と同じく、炎蓮こと孫堅に仕える宿将の一人。寡黙かつ厳格な性格をした女傑であり、主君である炎蓮が死地に赴かんとするならばこれに追従し、自らの命を賭してでも主君を生還させようとする覚悟を常に秘めている。


 得物は火塵双刀(三國無双8においてDLCとして登場した孫堅の武器。刀身に火打石がついており、刀を擦るアクションで粉塵(浮遊する火球のようなもの)を撒き、突きや振りの衝撃で設置した粉塵を爆発させる)


 正史、演義などにおいて孫堅に仕えた宿老の一人。ただその最後においては、演義では反董卓連合に参加するも、華雄の奇襲を受け窮地に陥った主君を救う為、彼の頭巾を付けて身代わりとなって戦死したのに対し、正史では孫堅の頭巾を柱にかけた後、草むらに隠れて難を逃れたという事になっている。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。