真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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 どうも皆様、お待たせして申し訳ありません。最新話、投稿いたします。

 昨今、コロナが流行していますが皆様方は対策はしっかり取っているでしょうか?とりあえず私もなるべく外には出ない様にしています。

 現在東京アラートが発動された様で改めて感染しない様に皆様も気を付けてくださいね?


猛虎生還

 孫堅と黄祖との戦いは終盤に向かいつつあった…。

 

 

 ここに至るまでに黄祖は、孫堅を討ち取る為に綿密な計画を練り上げ、確実に孫堅を誘き出す為に敗軍となって危地におびき寄せた。全ては自分が手に入れたいと恋焦がれてきた錦帆賊の頭目として名を馳せていた女傑・甘寧…彼女を奪い取った孫堅を討ち取る為に。だが結果は目も当てられない有様になっていた。

 

 

 確かに孫堅と僅かな手勢を危地に誘い込み、退路を断って伏せていた手勢を呼び出し弓矢で狙いを定める…そこまではうまくいっていたのだ。後は合図をして矢の雨や落石を降らせ、孫堅らを亡き者にするだけ…だがその後が計算外な展開だった。追い詰められたという現実を突き付けられたとしたら大抵の人間は心が折れ、戦う気概を無くしてしまう物だ。

 

 

 だが、孫堅は違った。彼女はあろう事か自分が率いてきた手勢に自分達は追い詰められ、死ぬしかないと言う事。そして自分を討って戦に勝つかを手勢に問いかけると将兵らはあろう事か心が折れるどころか、逆に奮い立ち孫堅の号令を受けて猛然と攻め懸かってきたのである。そして黄祖にとって最も許し難いのが、突如として崖上に現れ自身の手勢をたった一人で相手取り、腹心の一人だった呂公をも屠った結果自分が練り上げた計画を水泡に帰したあの武将の存在だった。

 

 

 あの武将さえいなければ…自分の宿願は成就していたというのに!!…黄祖は歯軋りをして憤激を露わにしていたが、状況はそれを許さなかった。今黄祖の眼前に映っているのは…。

 

 

「オラオラ退きやがれ!!死にたくないなら道を開けなぁ!!オレの目標は黄祖ただ一人!!雑兵共の相手なんざ時間の無駄だぁ!!」

 

 

 そう吠えながら南海覇王を右へ、左へ振るう度に血風を吹き散らし、死山血河を築きながらこちらに向かって駆け寄せてくる『江東の虎』、孫堅の姿と彼女に率いられた手勢の猛攻に曝される自分の手勢の姿だった…!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 一方、孫堅軍の方は…傍から見ても分かる様に圧倒的不利の状況を文字通り覆し、今や立場は逆転していた。嘗ては罠に掛かり追い詰められていたが、今や自分達は逆に罠にかけてきた相手を追い詰めているのだから…!

 

 

「大殿、生き生きとしておられますな!」

 

 

「当たり前だろうが千冬!正直、オレも今回ばかりはまずいと我ながららしくないと思っていたが……中々どうして、俺の運も捨てた物じゃねえって事だ!」

 

 

 そう言いながら嬉々として南海覇王を振るって必死に食い止めようとする黄祖軍の兵卒を切り捨てる孫堅に対し、腹心の千冬もまた自身の得物である双刀を風車の様に振るい、さながら生きた竜巻を思わせるほどの猛威を見せながら黄祖軍を蹴散らしていた。しかし、唐突に千冬は孫堅に問いかけていた。 

 

 

「しかしあの若武者……何者でしょうな?あれほどの堂々とした武者振り、只者ではないと思われますが…」

 

 

「さあな、オレも興味がわいているんだ。だが……悪い奴ではない、オレはそう思っているがな」

 

 

「…勘、ですかな?」

 

 

「まあそう言う事だ。それに、あの武辺ぶりもそうだが…オレはむしろ不利な状況にあったオレ達に加勢を申し出た気骨さが気に入ってるんだ。普通なら優勢な方について活躍して、恩賞を貰う方がずっと気軽に恩を売れるってのによ…まあ、加勢してくれたのには感謝してるけどな」

 

 

 そう言って戦場に立っているとは思えない様な、染み入る様な微笑みを浮かべる孫堅に苦笑しながら千冬も頷いていた。

 

 

「では、疾く戦を終わらせてあの若武者を招くと致しましょう。戦勝の宴はさぞ賑やかになると思われますぞ?」

 

 

「おう、そうだな!…さあ行くぞてめえら!!黄祖軍は虫の息だ、ここで一気にけりをつけるぞ!!」

 

 

 そう言って孫堅が再び将兵らに号令すると、将兵らもそれに応える様に歓声を上げながら猛然と黄祖軍に襲い掛かる。これに対し黄祖軍も武器を構えて迎撃しようとするのだが……すでに戦意は無きに等しかった。激や矛を手にしている兵士達は槍衾を組みはしたものの、その殆どが腰が引けており逆に猛然と攻め懸かった孫堅軍の将兵らが手にしている朴刀や剣、戟を振るいながら払いのけ、そのまま突っ込むのだ。

 

 

 そしてある孫堅軍の兵士は黄祖軍の兵士に馬乗りになって剣を突き立てたり、ある者は矛を突き出して貫く。中には勢い余って武器を取り落したにもかかわらず、とびかかって押し倒し、転がっていた石ころで黄祖軍の兵士の頭をかち割り命を奪う者もいれば朴刀で頭を刎ね飛ばす者達もいた。騎乗している者達は馬上から槍を突き出す、馬蹄で踏みつぶすなど…文字通り一方的な虐殺が繰り広げられていたのである。

 

 

 やがてその乱戦の渦中の中で、黄祖の腹心でありこの計画を練り上げた蒯良も最後の時を迎えていた。荒事に慣れていないにも拘らず刀を振るっていたのだが、やがて護衛の者達は悉く討ち取られ、自身も矛を手にした孫堅軍の兵士数人に襲い掛かられ、突き出された数本の矛に腹部を貫かれたのである。

 

 

「ぐっ…むぐっ!」

 

 

 複数の矛の穂先に胸を貫かれ、口からも鮮血が溢れ出るのを蒯良は感じ取り、同時に最後の瞬間が訪れるのだと悟った。そのとき彼の目に映ったのは、馬上から黄祖の護衛の兵士達を蹴散らし今まさに黄祖に止めを刺そうと剣を振り上げた孫堅の姿だった。

 

 

ー儂はもはやここで死ぬのだろう…だが、このまま犬死の様な最期を遂げるのだけは納得いかぬ。せめて…せめて一矢報いねば、死んでも死にきれぬ!!

 

 

 そう思った蒯良は震える手を動かしつつ、腰に下げていた矢筒から短弓と矢を一本取りだした。その行動を蒯良を矛で串刺しにした兵士達は首をかしげていたのだが、孫堅から離れた所で雑兵らを蹴散らしていた千冬の目には映っていた。

 

 

「…っ!?まずい!!」

 

 

 不意に嫌な予感を感じ取った千冬が、咄嗟に片手に握りしめていた双刀の一振りを震える手で矢を番え、弓を引き絞っている蒯良に向かって投げつけた。双刀の片割れは回転しながら蒯良に向かって飛んでいくのを彼はその目に焼き付けていたが、その貌には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

ーもう遅い!!

 

 

 そうして引き絞られた手が離され、矢が放たれたのと…千冬の投げつけた双刀の一振りが蒯良の頭蓋に深々と突き立ったのはほぼ同時だった。

 

 

「しまった……!炎蓮様!!」

 

 

 千冬が必死な形相で孫堅の真名を叫んだが…放たれた矢は狙い違わず、今まさに黄祖に止めを刺そうとしている孫堅目掛けて飛んで行っていた…!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 時間は蒯良が弓矢を放つ少し前に遡る。

 

 

「黄祖ぉ!!てめえの策はすでに敗れた!!ここがてめえの死に場所になるんだ、いい加減に観念しなぁ!!」

 

 

 そう吠えたてながら孫堅は南海覇王を振るいながら、当たるを幸い阻もうとする黄祖軍の兵卒達を薙ぎ払っていた。これに対し黄祖の将兵らも死に物狂いで孫堅を抑えようとするのだが…すでに死を覚悟した孫堅軍と、それを率いる孫堅を止めるにはあまりにも遅すぎた。

 

 

「つぅ…!!おのれ…おのれ孫堅!!まだ、まだ私は死ぬわけにはいかぬ!!」

 

 

「黄祖様をお守りしろ!!江東の虎を近づけるなぁ!!!」

 

 

 それでも黄祖は未だに闘志は衰えず、彼女の護衛達もまた折れてはいなかった。彼らは何れも剣や矛を手に孫堅を押し留めようとしており、それは実際に孫堅を僅かな間であるが足止めを成し遂げていたのである。

 

 

「はっ、中々に粘っているじゃねえか。このオレをここまで食い止めるとは根性だけは認めてやるよ…だが、それもここまでだ!!!」

 

 

 そう叫んだ孫堅が護衛の武将らを吹き飛ばし、黄祖に向かおうとして…咄嗟に顔を横に動かすと先ほどまで顔のあったところを、護衛の命を張った奮戦の影から放った黄祖の矢が通り過ぎていた。

 

 

「………くそ、くそおおおおおおっ!??」

 

 

 護衛達の命を懸けた足止めの甲斐なく、起死回生を狙った一矢すら外れた…それは黄祖に慟哭の悲鳴を上げさせるには十分すぎた。そうして無念の形相を浮かべながら叫ぶ黄祖の姿を目に焼き付けながら、孫堅は手にしている南海覇王を高々と振り上げる。

 

 

「黄祖…てめえとの戦はこれで終いだ。先にあの世で待って…っ!?」

 

 

 だが、その言葉は唐突に途切れる。彼女が手にしていた南海覇王に突如として衝撃が走ったかと思った直後、彼女の愛剣と言える南海覇王が………その手から弾き飛ばされていた。空中をくるくると回転しながら飛ばされた自身の愛剣を、信じられないという表情をしながら呆然とする孫堅と同じく黄祖も目の前の光景に目を疑っていた。

 

 

ーあの孫堅が自身の得物を弾き飛ばされた?

 

 

 黄祖が暫し目を奪われていたが、やがて彼女は孫堅が手にしていた南海覇王の刀身にぶつかり、弾き飛ばした一矢が飛んできた方に目を向ける。その先には自身の腹心であった蒯良が、複数の孫呉の兵士に矛で串刺しにされ頭部には孫堅の腹心が投げ付けたと思われる双刀の片割れが突き立っているという有様で、しかしその手には短弓がしっかりと握り締められており、先ほどの一矢が彼が命を賭して放ったというのが容易に推測できた。

 

 

「蒯良……すまぬ!お前の犠牲、無駄にはせぬぞ!!」

 

 

 そう言い放つと、黄祖は自身の得物である弓を手にし矢筒から矢を取り出す。幸か不幸か…彼女の腰に下げている矢筒には一本だけ矢が残っていた。それはまさにこの戦いで孫堅を討ち取りたいという黄祖の想いを、軍神が叶えてくれたのではないかと言える様な幸運だった。黄祖は神などを信じる様な人間ではなかったが、この時ばかりは神と呼べる物に感謝をしたくてたまらなかった…!

 

 

 そして黄祖は素早く矢を弓に番えると即座に狙いをつけて射放つ。対する孫堅は愛剣である南海覇王を弾かれて無防備になっており、馬から転げ落ちて躱そうとするだろうがその暇さえ与えまいという黄祖の一念が宿った一矢は狙い違わず孫堅の胸元目掛けて飛んでいく。

 

 

 その時、全ての動きはゆっくりと流れていた。孫堅は無手となった自分の胸元目掛けて黄祖の放った矢が向かってくるのを静かな目で眺めていた。その時孫堅にはなりふり構わず落馬して躱すという選択肢もあったのだが、黄祖の放った一矢はその時間すら与えぬほどの速さで自分に飛んで来ており、自分が死ぬというのが不思議と分かってしまった…。

 

 

ーちっ……まさかあの老いぼれ文官が最後の意地を見せたって訳か。オレも詰めが甘くなったもんだ……だがまあ、仕方ねえか。悪いな祭、粋怜、真耶、千冬、雷火。雪蓮や蓮華、小蓮を頼むぞ?

 

 

 脳裏に自身に古くから仕え、支えてくれた宿老や愛娘達を思い浮かべながら微笑んだ孫堅はそのまま自身に突き立つであろう矢の衝撃に備えて目を瞑ったが…………いつまでも痛みが来ない。

 

 

 一秒、二秒、三秒……だがそれでも矢の痛みが来ない為、目を見開くと彼女の眼前には矢を射放った態勢のまま顔を悔しそうに歪め、涙まで流している黄祖の姿があり、近くの地面には黄祖が放ったであろう起死回生の一矢となり得るはずの矢に、蒼く染められた矢羽の矢が突き立っていたのである。

 

 

 そして孫堅が矢の放たれたであろう方向…崖の上を見ると、崖っぷちに馬を寄せつつ馬上から弓を手に、矢を放った態勢でいる青年…自分達孫呉に加勢すると大音声で宣言した徐寧がいたのである。

 

 

「孫堅殿、江東の虎と称される貴方が戦場で丸腰とは情けなし!貴殿の愛剣には劣るだろうが、俺が鍛えし武具をお使いあれ!」

 

 

 そう言い放った徐寧は腰に下げている袋から一振りの刀を取り出すと、それを孫堅目掛けて投げ放つ。その刀は回転しながら孫堅目掛けて飛んでいくが、孫堅はこれをこともなげに受け取る。その瞬間、戦場に金属同士がぶつかった様な甲高い音が鳴り響く。

 

 

 そうして孫堅が受け取った刀を見ると…それは幅広で肉厚な刀身をし、峰の部分に幾つもの金の輪が取り付けられているという形状をした『九環刀』と言う刀剣であったのだが、孫堅は内心驚いていた。初めて手にしたというのにも拘らず、その刀は驚くほど手に馴染んでくるのだから。

 

 

「………はは、はっはっは!何だこの刀、初めて手にしたってのに妙にオレの手にしっくり来るじゃねえか!?…いいぜ、気に入った!有難く使わせてもらうぜ!!」

 

 

 そうカラカラと笑い飛ばし、孫堅は手にした九環刀を手に馬から降り立つと、そのまま猛然と斬り懸かっていく。これに黄祖も命を落とした護衛の兵士が使っていた剣を拾い上げ、真っ向からぶつかり合った。互いに鍔迫り合いをしながら、二人は言葉をぶつけ合う。

 

 

「おのれ孫堅…!!私の甘寧を奪った怨敵め…!!なのに何故、なぜお前を討ち取る事が出来ぬ!?策を練り、舞台を整え、後はお前を討ち取ればそれで終わりのはずだったというのに!!」

 

 

「さあな!オレがここで斃れる事を、天が望まなかったって事だろうよ!!さあ黄祖……いい加減決着(けり)をつけようぜ!?オレとお前の間で続いた、この戦いをよぉ!!」

 

 

「…いいだろう!私とて貴様との因縁をここで終わらせたいと思っていた!ここでお前の息の根を止めてくれる!!」

 

 

 そうして二人は互いに得物をぶつけ合う。その戦いは黄祖が使い慣れていない剣で戦っていたにも拘らず、白熱した戦いが続いていたが…やがて事態は急変する。

 

 

 二人が戦い始めてから30合ほど経った頃、それは訪れた。剣をぶつけ合った末に後ろに飛び退き、再び剣をぶつけた瞬間……九環刀の輪っかがぶつかり、甲高い音が響いた直後、黄祖の剣が甲高い音を立てて折れたのである。この好機を見逃す孫堅ではなく、即座に大上段に剣を振り上げ、即座に振り下ろした。

 

 

 これに対し黄祖は咄嗟に自分の左腕を上げて身構えたが…そんな行動は全くの無意味としか言いようが無く、孫堅が振り下ろした渾身の一太刀は、黄祖の左腕を切り落としていた。この時黄祖は片腕が斬り落とされた瞬間後ろに飛び退いた事で即死は免れていたが…もはや誰の目から見ても、決着はついているとしか言いようがないだろう。

 

 

 左腕から血が噴き出し、荒い息を吐いている黄祖に対し、孫堅は静かに語りかける。

 

 

「……終わりだ、黄祖。片腕を失った以上、俺に勝てるとは思っちゃいねえだろう?潔く観念しな」

 

 

「そうかも、知れん…!だがっ!!私はまだ戦う意思は折れてはいない!!片腕を失ったとしても、まだもう片方の腕はある!!剣を握れるのであれば…まだっ!!」

 

 

「そうかよ…なら、今度こそ終わらせてやる!!」

 

 

 そう言って再び九環刀を振り下ろそうと構えたのだが…それは振り下ろされなかった。何故なら孫堅と黄祖の間に黄祖の手勢の将兵が割り込んできたからである。

 

 

「なっ!?てめえらは…っ!」

 

 

「我ら黄祖様旗下の将兵!この場で命を落とそうとも、黄祖様まで死なせるわけにはいかぬ!!」

 

 

「急げ!黄祖様を連れて離脱せよ!!」

 

 

 将兵らはそれぞれに剣や槍を孫堅に向けつつ、一部の騎乗した将に主君を連れて離脱するように促す。だが黄祖にとってそれは断じて受け入れ難い物だった。

 

 

「き、貴様ら…私に逃げろと言うのか!!みすみす生き恥を曝せと…!」

 

 

「黄祖様、どうか堪えてください!!その命尽きるまで孫堅と戦い続けるのであれば、生き恥を曝そうとも生き続けるべきです!!名を惜しむよりも、命を惜しんでくだされ!!」

 

 

「………っ!!お前達の犠牲、忘れはせぬぞ!!」

 

 

 口惜しさからか唇を噛み千切らんばかりに歯を食いしばっていた黄祖であったが、やがて涙を流しながら馬に乗っていた将の一人に引っ張り上げられて騎乗し、そのまま僅かばかりの手勢と共に離脱し始めた。

 

 

「くそぉ…!!逃がしはしねえぞ黄祖っ!何としてもてめえを…!」

 

 

 一方の孫堅にとっても、黄祖の離脱は許容できない事だった。この戦いで何としても黄祖を討つと決めていた孫堅にしてみれば千載一遇の好機を見逃すわけにはいかない…!そう思い追撃しようとするのだが、そこに黄祖の手勢の大半が殿として立ちはだかったのである。

 

 

「者ども、ここが我らの死に場所ぞ!!例え我らがこの場で悉く討ち死にしたとしても、主君である黄祖様が生きながらえたのであればそれ即ち、我らの勝ちとなる!!奮えや者共!!」

 

 

 その殿の指揮を取っているであろう将軍がそう高らかに叫ぶと、殿の兵士達は歓声を上げて孫堅軍に襲い掛かって行った…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それから一刻程経った後、その場には黄祖軍の将兵の屍が山と積み重なっていた。あの後、殿となった黄祖の手勢は指揮を執っていた将軍の言葉通り、黄祖を落ち延びさせる為に死兵となって孫堅の手勢に甚大な被害を齎し、その後一人残らず討ち死にしたのである。

 

 

 一方の孫堅軍は…もはや疲労困憊となり、誰もが武器を放り投げると座り込んで荒い息を吐いていた。如何に勇猛で鳴る孫呉の兵たちとは言え、罠に掛けられた直後に生き残るために戦い続け、自分達の主である孫堅が黄祖を討ち取るかと思った直後、黄祖の手勢の大半が黄祖を逃す為に死兵となって襲い掛かられた事で痛撃を味わい、そこから死兵となった黄祖軍の殿を倒しきった途端、精も根も尽き果ててしまったのである。

 

 

 これでは追撃を指示しても、追いつく事すらできないだろう…歴戦を積み重ねてきた孫堅にはそれが嫌と言うほど分かってしまい、気が付くと拾い上げた南海覇王を苛立ち紛れに地面に叩き付け、突き立てていた。

 

 

「……畜生!!黄祖の野郎を逃しちまった…あと少しであいつを討ち取る事が出来たって言うのに!」

 

 

「大殿…」

 

 

 その無念さを隠そうとしない孫堅を、同じく無念さを滲ませる祖茂が沈痛そうに見ていたが…やがて孫堅はため息一つつくと気を取り直すように声を上げた。

 

 

「…仕方ねえか。戦はオレ達が勝った、そうだな千冬?」

 

 

「っ!…左様ですな大殿、黄祖もかなりの深手を負っていました。恐らくこれから先、戦場に出ても満足に働く事は出来ぬと思われます。何より…我等は黄祖の罠を噛み破り、生還を果たした。これが、何よりの戦果にはなり得ませぬか?炎蓮様…」

 

 

 そう千冬が温かい笑みを浮かべながら孫堅に問いかけると、孫堅もまた痛快そうな笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「ああ…てめえら!よくぞオレと共に戦い、死地を切り抜けた!!お前達とこうして生還の喜びを分かち合える事が出来て、心から嬉しく思う!!それじゃあ…本陣の奴らと合流するぞ!!そうしたら戦勝の宴と洒落込もうじゃねえか!!」

 

 

 孫堅が高らかに宣言すると、孫堅軍の将兵は疲れ切った体に鞭打って立ち上がると、手を振り上げて勝ち時を上げたのである。その声は、狭い谷底を揺らしどこまでも響き渡っていた…。孫堅はそんな将兵の勝ち時を眺めていたが、やがて自分達の方へ馬を走らせてくる相手がいるのを視認した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 壮也は孫堅が無事に生き残った事を確認すると、崖から回り込んで谷底におり、そのまま孫堅軍の方へ黒風を走らせる。一瞬孫堅軍に警戒する雰囲気が走ったが、やがて軍を割る様にして真紅の装束を纏った褐色の肌の女性が近づいてきた。それを見て壮也はすぐさま黒風から降りると、抵抗の意思が無いと証明するかのように大斧を地面に置いた。

 

 

「よお…てめえが徐寧か?」

 

 

「如何にも。察するに…貴殿が『江東の虎』と名高き孫文台殿とお見受けする」

 

 

「おう、オレが孫文台だ。さて………」

 

 

 孫堅はそう呟くと壮也に近づいて行き…徐に彼の肩に手を懸けた。

 

 

「助かったぜ!正直お前の助太刀が無かったら、オレはきっと黄祖の野郎に嬲り殺されていただろうよ!!そんでもって、オレの手勢もな。お前には感謝してもしきれない大恩が出来たって事だ!だが…恩を着せてはいさよならって訳じゃねえよな?生憎オレは受けた恩義はきっちり返すって決めてんだ。……戦勝の宴、顔を出してもらうぜ?」

 

 

「拒否権は…なさそうだな。元より、拒否するつもりもないけどさ。その提案、受けさせて頂こう。俺も、貴方の様な英雄と一献付き合いたいと思っていたので」

 

 

 壮也が苦笑しながらもその誘いを受けると、孫堅は満面の笑みを浮かべると将兵達に呼び掛けた。

 

 

「よっし!言質は取ったぜ!てめえら!!オレらの命の恩人が戦勝の宴に顔を出してくれるそうだ!!それじゃあこんな所で油を売ってる暇はねえ!!本軍に合流するぞぉ!!」

 

 

 孫堅の呼びかけに将兵らは歓声を以てこれに応える。やがて孫堅は馬上の人になったかと思うと、祖茂を連れて壮也に近づき言葉を放った。

 

 

「…てめえには改めて礼を言わせて貰う。命の恩人に報いる為、オレの真名を預ける。『炎蓮(イェンレン)』、この名をしっかり覚えておけよ徐寧?」

 

 

「…大殿のみならず、我らの命を救ってくれた事。宿老の一人として感謝させてほしい。私は姓は祖、名は茂、字は大栄。真名は『千冬(ちふゆ)』だ」

 

 

 二人が拱手をしながら自らの真名を明かした事を受けて、壮也もまた自身の真名を預ける事を決意した。彼は即座に拱手をして名乗りを上げた。

 

 

「貴方方の真名、しかと受け取らせて頂く。その返礼として、俺の真名も貴方方に預けます。『壮也』…どうぞ良しなに」

 

 

 こうして、本来ならば黄祖との戦いで悲運の最期を遂げるはずだった江東の虎・孫堅は、この場にはいない筈の人間である徐寧…壮也によって九死に一生を得る事になったのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 孫堅達の元に招かれ、暫し羽を休める事になった壮也。彼はそこで孫堅達の為に武具を進呈しようと決意するのだが、そこである問題に直面する事になる…続きは次回の講釈で。 

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